主(マスター)は絡繰仕掛けの魔術師 作:理想の人形師
この話は Act:5 目覚めの後の来訪者
のリメイクとなります。
「………すたー………だよ……」
ん……?
聞き覚えがある、と言うより、ついさっき聞いた声が俺の耳の中に入る。男の子にしては少し高い感じで、女の子からしたら少し低い感じの、中性的な声が響く。
まぁ、誰かなんてすぐに想像がつく。
だって…
「マスター、起きて。もうお昼だよ。」
俺のドールだもの。隣には契約した蒼星石が居た。
自分が契約した相手の声を覚えていなかったらそれこそ一大事だ。取り敢えず、自分の体を起こす。蒼星石はしっかりしててくれたから俺は普通に目覚められた。……いや、普通とはいえないかもしれない。と言うより、ついさっきのはどうやら夢だったようだ。
あまりにも不思議すぎる夢だったが…
いや、夢だったのかどうかすらも…
「ん……ああ……」
「大丈夫?マスター、何かにうなされていたみたいだけれど…」
「…大丈夫、ちょっとした悪夢を見てただけだ」
不思議…と言えば不思議で、現実味があるといえばあるのかもしれない夢だった。あの光景は、どこか見たことがあって、どこか懐かしいのに、記憶の中になかった…
そんな可笑しくて悪ふざけが過ぎているような夢であって。一体、これは偶然なのか…いや、今はそれを考えても、分かるはずがない。今は夢の中ではなく現実だ。
流石に非日常が続きすぎて、夢と現実の区別がわからなくなってるような気がする。
……俺としたことが、少し情けない。
「本当に大丈夫?凄く苦しそうな顔をしていたよ…」
「…悪い、心配かけさせちまったな…本当に大丈夫だ。」
本当に心配かけるべきなのは、俺の方なんじゃないのか…?彼女には辛いことがこれから降りかかるというのに、俺が心配かけさせてしまって良いのか?本来であれば、彼女に気を使ってやるべきなのに、それが出来ない俺にイライラする。彼女の心はわかっているはずなのに、その行動を自分から起こすということをしていない。そのことを知っていながら、行動を起こさないなんて言うのは一番質が悪いと知っているのに…
「…マスター?」
「…本当はお前に気を使ってやらなきゃいけないのにな……ごめん…俺、そういうことを自分から出来てなくてさ」
気づけば俺の手は蒼星石の頭の上にあって、彼女の頭を撫でていた。彼女の心配を解く為と自分に言い聞かせてはいるが、その本当の意味はただ自分の心を鎮めたいだけなのだろうが…これで彼女の辛さが少しでも和らいでくれたら。そんな感情もある。
「マスター…他人の心の支えになろうとしてくれてる…だから、僕が優しいと思えるんだね…だからかな、その大きな手に撫でられていると、安心するような気がするよ……」
「…そりゃ、良かったよ。でも…いや、何でもない。」
「?」
優しい、か…
本当に優しい人は、きっともっと気を使ってやることが出来るはずだった。本当に苦しい人が誰か分かって、その人に本当に尽くす。それが俺の考える『優しい人』のあり方だ。
俺はまだ、何かが足りていないのかもな…
「…あ、忘れてた……昼ご飯、まだ食べてなかったな。」
「ああ…確かに、そうだったね」
蒼星石は苦笑しながら、肯定する。
何だろう、こんなに真面目に考えていても日常の平和さには敵わないんだなってなんとなく思う。
何事もない日常。それが一番だと改めて実感させられる。蒼星石はベッドから降りていって、ちょっと言う。
「マスター、僕に何か出来ることはないかい?」
「んー……じゃあ、飯作るの手伝ってくれないかな…ほら、俺1人だと時間掛かってな」
「うん、分かったよ」
また平和な空気に戻った。いつもの日常のような空気が。やっぱりこういう空気の方が、落ち着いていられるなと改めて自覚させられた……はずだったのだが。
「………ん?」
ちらっと窓を見ると、得体の知れない謎の飛行物体なようなものが飛んできている。方向を見定めるが……
確実に、家の方向へと飛んできている。明らかに。
「……なんだありゃ」
「うん?どうかしたの、マスター?」
蒼星石は気づいていないようだ。
俺はよく目を凝らして見てみる。
すると分かったことがある……
茶色の、アンティークの鞄…?
そう、俺はようやく気づいた。
あれは蒼星石が入っていた鞄と全くもって同じものだったのだ。それがなぜこっちに飛んできているのか全くわからないが、風を通すために窓を開けていた。このままだと家の中に突撃してくるだろうな…
「……蒼星石、少し中入ってな」
「え?それってどういうこと?」
「いや……何かが飛んでくる」
一応何かという言葉で形容しておくが、確実にあれはローゼンメイデンの鞄としか思い様がない。寝床だけじゃなくて移動手段としても使えるのか、あれは……
そう心の中で思ってる間にもう近くまで飛んできた。思い切り家の中に突撃してきた鞄を受け止め、丁寧に床に置く。
……うん、家の中に被害はない。
少し何かが吹き飛んだ気がするがきっと気のせいだ。
「……行儀の悪い鞄だな、全く」
鞄が独りでに動くことなどありえない。
つまり、この中には…ローゼンメイデンの誰かが入って動かしているのだろう。全く、誰なんだ…こんなにダイナミックに入ってくる鞄の中身は。
「なんですか!急に掴まれて置かれてビックリしたですぅ!」
「うん……って、えっ?……翠星石!?」
「……え?……え?」
……今、翠星石と言ったか?
…難聴なんだろうか?
…いやいや、あるはずが無い…
まさか、紹介された姉なんて事は……
「マスター、彼女が僕の言ってた双子の姉、翠星石だよ」
……お前の姉はまともな部屋の入り方も知らないのだろうか…なんて言うのは流石に意地悪かなと思った…のだが。
「ま、マスタぁ…?お前、蒼星石のマスターなのですかぁ!?」
「いや、そうだけどよ……いきなり何か敵意剥き出しじゃないか?」
どっからどう見ても喧嘩腰のような言い方だな…敬語のような感じで話している割には。俺に向けての第一声がアレだなんて信じられないな…蒼星石の姉として見るならば。
「お前、蒼星石に変なことしたんじゃねーだろうなですぅ!」
「してない…と言うか、人の家に勝手に上がり込んでおいて家の主への第一声がそれって…元々の時代ではマナーも頭に入れられなかったか?」
「こ、この人間…ちょっと頭にきたですぅ!」
人の家に勝手に上がり込んだ挙句こう言われたら流石に反論もするだろう…しかも頭にきたって……ため息をつくしかない。
「やめてよ翠星石!確かにマスターの言い方は少し棘があるかもだけど言ってる事は正しいよ。」
「むむむ……」
「それに、マスターもマスターだよ!あんな言い方したら普通はどんな人でも怒るよ。」
「……悪い、流石にハナから敵意剥き出しだったもんだからこっちも荒っぽい言い方になっちまった………悪かったな。」
取り敢えず、頭をクールダウンさせてから翠星石に謝る。…俺の言ってることでまた少し火を付けそうな気がしたが、気づかないことを祈る。どうも俺はこいつは苦手なようだ。
「わ、私も悪かったですぅ…」
「…二人共、落ち着いた?」
取り敢えず、俺の方は頭が冷えて落ち着きはしたが、向こうはまだ落ち着いてなさそうだな…
…それにしても、全く持って正反対の姉妹だ。
妹は接しやすいのに、姉は結構棘がある奴で…
と言うより、よく考えたら普通だったら逆の方な気がするがここに関しては突っ込んではいけないな。
「……ああ。で、ここに来た理由はなんだ?」
「なんで銀髪人間が話を進めてるですか!私は蒼星石に用があるんですぅ!」
「そんな事言っておきながら、ちゃっかり自分で言ってるじゃないかよ」
「えっ……あっ、や、やっちまったですぅ!」
こいつは何だかんだで言ってくれるパターンのヤツなんだな… 悪態っていうかなんというか、口が悪い割には案外抜けてるというかなんというか…
「…で、どうして僕に用があったんだい?」
「それは……少し相談があったですよ。」
「相談?」
口を挟んだらまたなんか言われそうなので近くのソファーに座って聞いているんだが、何かの相談をしているようだ。あまり深刻なものではない事を祈るが…
「……私は、巻いた人間から逃げてきたですよ。」
「……!」
俺は思わずビクリとなってしまった。
今回の話は翠星石が来る話の予定だったのですが、本当のメインは次回になりそうです。
今回はどちらかというと目覚めた後の話、という感じでした。
『他人の心の支えになろうとしてくれてる…だから、僕が優しいと思えるんだね』