GATE:Modern Warfare   作:ゼミル
<< 前の話 次の話 >>

25 / 79
話が進まなかった結果がこのタイトルナンバーだよ!

・今回の内容はMWシリーズに関する独自解釈が含まれます。


10.99:Concourse/伊丹耀司と嘉納太郎

 

 

 

<11:37>

 伊丹耀司

 新宿御苑

 

 

 

 

 

 

 紫煙が冬の空気に溶けていく。

 

 煙と共に伊丹の脳裏には戦場と戦友の記憶が蘇り、それらもまた吐き出した葉巻の煙に併せてゆっくりと薄れていった。

 

 伊丹が吸う葉巻の趣味と吸い方は海外で戦場を転々としている合間に覚えたものだ。戦場と戦場を移動する合間のほんのわずかな余暇、老兵とモヒカン頭の戦友と並んで葉巻を吹かしたあのひと時を過ごしたのは、今からほんの1年前の出来事である。しかし伊丹には、それがもう何十年も前の出来事のように思えるのであった。

 

 新宿御苑と外部とを隔てる門の1つ、入り口近くに設けられた公衆便所や自販機などが置かれた休憩用スペースの喫煙所である。冬の平日に昨今禁煙条例にタバコ税が厳しくなっているご時世もあってか、喫煙所には伊丹だけしかいない。

 

 安っぽいスーツにロングコート姿の三十路男性が1人寂しくタバコ―正確には葉巻―を吹かしている姿は、伊丹自身の覇気の無さも相まって、傍から見れば外回りにくたびれてタバコ休憩という名のサボりにひたっているサラリーマン以外の何者でもない。

 

 だが実際にはくたびれたサラリーマン風の男は今日本で最も話題になっている自衛隊員であり、また上着の下には小型化されたアサルトライフルをぶら下げ、拳銃や手榴弾に大量の予備弾薬で完全武装しているのである。

 

 そんな日本らしからぬ重装備を携えた危険人物が冬の新宿御苑に何の用かといえば、なんて事はない、人と待ち合わせしており、相手が来るのを待っているだけの話であった。

 

 現在の伊丹は主にマスコミと各国諜報機関と超国家主義派残党にとっての有名人である。そして待ち合わせの相手も日本ではそれなりに名が売れている人物でもあったので、どうせ会うなら人気のない場所の方が向いていた。

 

 その点現在の新宿御苑は季節柄草木が枯れ落ちて見通し易くなっており、また大量の枯葉も積もっているのでマスコミやら不届き者やらが伊丹に近づこうとすれば否応なしに枯葉を踏み砕く音が生じてしまう状況であるのも好都合だった。万が一の事態になっても御苑を囲む柵程度簡単に乗り越えられる。

 

 待ち合わせの場所と時刻に先んじてやってきた伊丹は、ゆっくりと葉巻の煙を口の中に溜めては吐いてを繰り返しては、手持ち無沙汰気に手の中でライターを弄ぶ。

 

 彼が持つライターにはスペードを背景に髑髏と1対の翼を貫く剣という意匠―TF141のロゴマーク―があしらわれ、更にその表面を何本かの傷が獣の爪痕のように刻まれていた。

 

 このロゴが刻まれたライターは片手で足りてしまう程の数しか存在しない、唯一無二も同然の存在だった。

 

 同じ意匠のライターを手にする権利を所有していた者は伊丹を含む4人を除き、全員死んでいる。大半は墓すら建てられる事無く、司令官に裏切られて殺された無念を抱きながら彼らの死体はアフガニスタンかグルジア-ロシア間の国境地帯で朽ち果てたのだ。

 

 そういえば特地では、戦場で倒れていく兵士の魂魄がエムロイの元へ召される際、神官であり亜神であるロゥリィの肉体を通していくのだという。

 

 そのような特性を持つのであれば、イタコのように死んだ人物の魂を逆に呼び寄せて現世の人間と意思疎通を交わす、なんて真似も行える可能性もあるのではないだろうか。

 

 ならばもし、もし地球でも同じ事が出来るのであれば、死んでいった戦友達の無念の言葉を聞き届ける事も、彼らの分までシェパードとマカロフへ復讐を遂げてみせたのだと直接伝える事も可能なのではないか――

 

 そこまで脳裏に浮かんだ夢想を伊丹は首を振って消し去る。

 

 傷だらけのオイルライターは別れ際に老兵から譲られた代物で、これまで老兵が辿ってきた戦場の歴史を象徴するかのような年代物なのだが、これまた元の持ち主のように頑丈で頼もしい。自衛隊に復帰してからも、伊丹はこれをお守り代わりに懐に忍ばせ続けている。

 

 

(でも葉巻って本当はオイルライターじゃなくてガスライターを使った方が良いらしいけど、爺さんって吸い方とかは気にしないタイプだったのかねぇ)

 

 

 などと思い返しながら、ライターをカッチャカッチャと手慰みに鳴らす伊丹である。

 

 しょっちゅう吸いさしをポイ捨てしていたのもを踏まえると、あの老兵はルールとマナーを順守する愛煙家からは程遠かったと言わざるを得ない。そもそもそのような愛煙家が銃弾や手榴弾どころか人の命もあっさりと消費されていく戦場に身を置こうとするとは到底思えなかったが……

 

 疑問に思えば即パソコンかスマホを使ってネットの海から情報を探る今時のオタクらしく、一時期葉巻の吸い方なんぞを調べたりもしたので、正しいやり方そのものは知っていたりする。

 

 しかし伊丹は特に覚える必要のない礼儀作法なんぞはほったらかしにしてしまう主義だし、そもそも彼も彼で葉巻の銘柄だの正しい火の着け方だの吸い口のカットの仕方だのといった、昨今肩身の狭い愛煙家界隈でしか通用しないようなルールなんか知ったこっちゃないのであった。

 

 彼が葉巻を吸うのは一種の儀式であり、今はもういない戦友らと共有した思い出の1つだからである。

 

 老兵と彼の元部下が好んだ葉巻は、鼻を刺す硝煙よりもまろやかで甘い味がした。

 

 

 

 

 

 

 

 待ち人が伊丹の下に現れたのは葉巻を半分以上吸い終わった頃であった。

 

 葉巻の燃焼時間は1本当たり30分から1時間と、燃え尽きるまではかなり長くかかる。まあ指定した時間より早く来たのは伊丹の方なので相手には特に責任はない。吸いさしを設置された灰皿に放り込むと伊丹はベンチから立ち上がり、さりげなく周辺に不審な気配がないか警戒しつつ相手に近づく。

 

 

「おう久しぶりだな」

 

「『銀座事件』の後の病院以来――になりますかね」

 

 

 嘉納太郎・内閣防衛大臣兼務特地問題対策大臣と伊丹は固い握手を交わした。

 

 彼はついさっきまで伊丹が陣取っていた喫煙スペースを見やり、次いで鼻をひくつかせると片方の眉を持ち上げて尋ねる。

 

 

「何だ伊丹、お前さん喫煙者だったのか」

 

「吸い始めたのは最近ですけどね。前回会った時は入院中で病室は禁煙でしたから」

 

 

 そんな会話を交わしながら、2人は遊歩道に従って御苑の奥へと進み始める。

 

 

「SPを連れてこないで良かったんですか? 何かあっても知りませんよ」

 

「大丈夫、一応不測の事態に備えて彼ら(SP)にはこの公園の周囲でスタンバってもらってるさ。それに何より、今はこうして最強のボディガードがついているわけだしな」

 

「いやいや、アテにされても困りますよ。ってかむしろそのボディガードの方が標的にされてる状況なわけでして……」

 

 

 疲れたような溜息を吐きながら伊丹がそうぼやくと、嘉納の顔が罪悪感で歪んだ。

 

 

「すまねぇな、あんな事になっちまって。まさかまがりなりにも国会議員が国会中継の場で、ああも考えなしに国家機密をぶちまける馬鹿をやらかすとはこっちも思いもよらなかったんだ」

 

「いやぁアレは嘉納さんは悪くないでしょ。そういえばあの写真、間違いなく例のおばさん議員が自力で入手したとは思えないんですけど、出所とかは判明したんですか?」

 

「一応あの後に写真を公開した幸原議員と持ち込んだ秘書を公安と内閣情報調査室が秘密裏に尋問したんだが、幸原議員は秘書に責任を押し付けて、その秘書は秘書で『参考人招致の最中に幸原議員の支持者を名乗る人物から呼び出されて情報を渡されただけ』って主張の一点張りよ。

 とりあえず情報を渡した人物の似顔絵を元に議事堂内の職員や監視カメラを洗ってみたが、どちらも手掛かりはなし。こりゃ国会の警備状況を見直してもらわんといかんな」

 

「あの議員さんの事だから、どうせ『あくまで責任は情報を隠蔽していた与党のせいだ!』とかなんとか言い張ってたりしてるんじゃありません?」

 

「よく分かったな。どうもあの手合いは考えなしな上に、やらかした責任を人に押し付けたがる連中ばかりで困るぜ」

 

 

 嘉納も同じように、どころか伊丹以上に大きく重たい溜息を吐き出しながら、オールバックに整えられた髪を苛立たしげにかき乱した。

 

 

「出回った情報のせいで今やこの国の国政そのものが大混乱してる有様だ。野党やその支持母体に市民団体どころか、与党内からも本位首相の対抗派閥を中心に突き上げを食らってるし、海外からも主にアメさんと中共が盛大に抗議してきてる。

 つっても表立って文句をつけてきてるのは大陸の連中だけで、アメリカの方は日米の最重要機密が野党議員に暴露された事に対しての文句をホットライン経由で言ってきてるだけだから、表面上は静かなもんだ。1番大人しいのはロシアだがこいつらはむしろ静か過ぎて不気味なぐらいだ。

 ま、そもそもの原因であるタスクフォース141とやらも元は米軍のお偉方肝いりで設立された合同部隊だからな、下手に機密流出に文句をつけて自分達にもスキャンダルが飛び火するなんて展開は御免なんだろ」

 

 

 ここで嘉納は一旦言葉を区切り、追加でもう1度溜息を吐いてから愚痴を重ねた。

 

 

「いっその事アメリカさんも当事者の1人なんだから隠蔽工作に協力して欲しいところなんだが、今のホワイトハウスの主はどうにも冷たいお人でな。その手の情報工作が得意なラングレーだのペンタゴンだのが戦争前ほどの力を取り戻せていないせいもあるんだろうが、どーにも俺達だけじゃあ火消しの手が足りてない。もうしばらくは漏れちまった情報の始末で右往左往せにゃならんだろう」

 

 

 ロシア軍による北米大陸侵攻時、電撃的奇襲によって真っ先に被害を受けたのがCIA本部(ラングレー)国防総省(ペンタゴン)、ホワイトハウスなど主要政府機関が集まるバージニア州ならびにワシントンD.C.だ(ちなみにエドワード・スノーデンによって情報収集活動の内情を暴露され、創作ではCIAと似たり寄ったりな扱いをされがちな情報機関である国家安全保障局(NSA)もワシントン近郊の陸軍基地内に存在する)。

 

 アメリカという国の中枢が他国の軍隊に直接踏み荒らされたとあって、施設の被害もさる事ながら人的被害も甚大であった。そこに加えてEMP(電磁パルス)により広範囲に渡るインフラ壊滅も重なったとあって、ワシントン周辺に本部を置いていた各機関は(また施設近郊在住の職員と家族の住宅も)ほぼ1からの再建を余儀なくされている。

 

 組織の再建とは、施設や設備だけを準備し直すだけで済むものではない。長年の活動の間に溜め込んできた情報、ノウハウ、人脈……それら全てが完璧に引き継ぐか、もしくは代わりとなる存在を調達しなければならないのだ。

 

 数十年間の活動によって収集してきた膨大な自他国問わぬ機密情報は、紙媒体は空から降り注ぐ爆弾によって燃やされ、電子媒体はEMPによってただのゴミ屑と化した。

 

 世界の裏側を長年見てきたベテラン工作員の脳裏に刻まれたあらゆる媒体にも残せぬ封印された歴史の記憶や、若き天才分析官が考え出した画期的なアイディアは、歩兵かあるいは戦闘車両の機銃からばら撒かれた銃弾によって分け隔てなく永遠に失われる事となった。

 

 ディレル大統領はかつて補佐官らを前に『今の我々には何もかもが足りていない』と語った。それは文字通りの意味であった。

 

 ロシア軍侵攻によってアメリカが被った数々の損失の中で最も甚大だったのは、世界最大の覇権国家たる象徴であった軍事力ではない。

 

 軍事力という名の剣を振るう先を見つけ出す為の目、祖国に仇為す敵の存在をいち早く察知する為の耳、得た情報を統括し分析、悪しき企みを見抜く為の脳……それが情報機関という組織の存在理由である。

 

 今のアメリカの情報機関は目と耳と脳が急激に退化した状態にあった。もしくは不慮の大事故によってまっさらな新品に総取っ替えされた、とも表現できる。

 

 新たな目と耳が馴染んで使い物になるまで長い時間が必要であり、正しい情報を得られたとしても今度は情報を受け取った脳が正解を導き出すまでにこれまでよりも長い時間が必要となるであろう。あるいはとんでもなく出鱈目な間違いを犯してしまうという可能性も否定できない。

 

 とどのつまり結局は嘉納が言った通り、流出したTF141時代の伊丹の情報への隠蔽工作に関してアメリカの援護射撃は期待できそうにない、という事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「色々と大変そうでご愁傷さまです」

 

「おいおい、お前こそ渦中の人物なんだからもう少し俺達を手伝ってくれたって良いんだぜ?」

 

「いやぁ、こっちはこっちで与えられた仕事がありますから」

 

 

 伊丹もまた後頭部を掻きながら軽い口調で告げると、嘉納の表情が今度は真面目なものへと変化する。

 

 そもそも本来の伊丹の使命は特地からやってきた賓客の護衛である。嘉納は防衛省も深く関与している一大スキャンダルに苦悩する防衛大臣から、『門』に絡むあらゆる問題の対処を受け持つ特地問題対策大臣へと己の意識を切り替えた。

 

 

「お客さんの様子はどうだ?」

 

「ピニャ殿下が寝不足で酷い顔になっていた以外は皆元気にしてますよ。今は顔が売れてる組(3人娘)売れてない組(ピニャとボーゼス)に分かれて一旦別行動を取ってますが、この後合流する予定になってます」

 

「ホテルから逃げ出して行方をくらましたのは良い判断だ……が、その後がいけねぇ。まさか公安警察官をスタンガンでノックアウトしちまうどころか、防衛省の目と鼻の先で派手にドンパチやらかすのはちょいとばかりやり過ぎだったんじゃないか?」

 

 

 市ヶ谷会館での大虐殺は隠蔽工作が施され『緊急車両同士が多発事故を引き起こしてしまい、積んでいた救急活動用の酸素ボンベの爆発で多数の死者が発生した』というカバーストーリーに基づき処理が行われた。

 

 可能であれば人死にの発生自体なかった事にしたかったのが本音であるが、生憎爆発音を聞きつけた本物の緊急車両がさっさと駆けつけてしまい、救急隊員を筆頭に目撃者が多数発生。緘口令を敷くにも限界があったので、隠蔽工作を担当した公安警察も死者の存在までは隠蔽せず『事故による死者』という偽装に止めたのだった。

 

 

「あれは正当防衛ですよ。救急隊員や消防隊員に化けた武装した男達に襲われたんですから、こちらとしても必死で抵抗しなきゃいけなかったわけでして、いちいち相手の事なんて気遣う余裕なんてなかったんですって。いわゆる不可抗力ってヤツですよ。

 あ、でも駒門さんの事については『荒っぽい真似してすみませんでした』って伝えておいてもらえませんか? 勘ですけど駒門さん本人は情報リークについて一切関わってない、むしろあの人も被害者だったみたいですから」

 

「ハッ、自動小銃だの手榴弾だのまで使っといて不可抗力たぁ笑えるぜ。だが謝罪については承った。御望み通り伝えておいてやるよ」

 

 

 当然の事だといわんばかりに伊丹が堂々と言い放つものだから、これには嘉納も面食らうばかりである。

 

 ところで今のやり取り、普段の伊丹であれば「えー何の事を言っているのか自分にはさっぱり分からないんですが(棒)」なんてしらばっくれたりするところである。しかし昨夜の拉致部隊殲滅に関しては伊丹はそうしなかった。現場で一部始終を目撃した駒門から事の顛末を聞いているに違いなかったからだ。

 

 

「だが何でもかんでもお前さん任せじゃこちらの立つ瀬もないんでな。そろそろこちらも本腰を入れて悪戯小僧どもに大人の怖さを見せつけてやるとするさ。手間をかけさせるが当初の予定通り、今夜は例の場所に来賓を連れてきてくれ」

 

「態勢は大丈夫なんです? 賓客狙い以外にもマスコミとか余計な連中が目を光らせてますけど」

 

「なぁに、ハナっからお前さんの原隊のSFGp(特殊作戦群)って言ったか? その連中を護衛に配置するのは決定してたからな。予定にない部隊や車両を急遽動かそうとしてれば勘の良い連中に気付かれてただろうが、小規模な歩兵部隊を予定通り配置する程度ならどうとでもなるさ」

 

 

 嘉納の方は伊丹を安心させようとしたのだろう、意識して男臭い笑顔を浮かべながら明るい声で語った。

 

 特殊作戦群の精強さは元々所属していただけに身を以って理解している伊丹である。それでも彼の胸中には一抹の不安が過ぎってしまい、ついついこんな質問をしてしまう。

 

 

「普通科以外の支援要請はどうなってるんです? 山の中だと地上の機甲部隊は展開が難しいから……近くの駐屯地からすぐにヘリ部隊による増援か、あるいは上空からの近接航空支援を受けられる態勢は手配できませんかね?」

 

「おいおいそりゃあいくらなんでもやり過ぎ――とはお前さんは思っていないようだな」

 

 

 至極大真面目な顔であった。TF141時代は米軍の後ろ盾があったおかげで潜水艦から戦闘ヘリ、果ては戦闘機と無人機による支援爆撃まで要請すれば即受けられた経験を持つ伊丹である。

 

 だが手厚い支援を受けていても、伊丹が加わった作戦ではあまりに敵の反撃が苛烈なせいで仲間に犠牲が出るのは珍しくなかったのだ。かつての仲間達を同じ憂き目に遭わせたくなかった。

 

 

「お願いです嘉納さん。爆撃機や砲兵隊までを連れてこいとは言いません。せめて上空から支援射撃が可能なヘリの即時投入だけでもできるよう、手を回してくれませんか」

 

「……生の現代戦を散々潜り抜けてきた自衛隊最強の兵士からの要請だ。やれるだけやってみよう」

 

「ありがとうございます」

 

 

 その時、嘉納の懐で振動音。携帯を耳に当てて「俺だ」と告げる。

 

 電話先からの話を聞く間に、大臣閣下の顔色が次第に変化していった。心当たりが全くない物事に関する質問をされた時のような、「何じゃそりゃ?」と言いたげな疑問の表情である。

 

 

「あー、伊丹よ。大木戸門の方にお前さんの仕事仲間みたいな感じの男が何やら物々しい感じの車に乗って1人だけで待ち構えてるそうなんだが、お前さんの知り合いか?」

 

「頭に帽子かバンダナを被っててスマイリーマークみたいなワッペンが付いてるんだったら俺の知り合いです。閣下の次に待ち合わせしてまして」

 

「そうか……おう、聞こえてるか。こっちで確認が取れた。どうやら伊丹の次の待ち合わせ相手らしい……そう、そうだ。元の配置に戻って構わんぞ。こっちもそろそろ公園から出るから車を回しといてくれ」

 

 

 伊丹と嘉納は、御苑の中央部に存在する池のそばを通り敷地内を横断するルートを経て、専用駐車場が隣接する大木戸門まで辿り着いた。

 

 駐車場の入り口までやってきたところで嘉納は振り返り、背筋を正して政治家としての顔を改めて伊丹へと向けた。

 

 

「特地問題対策大臣兼務防衛大臣として、改めて伊丹二等陸尉へ命じる。当初の予定に従い、特地からの賓客を箱根の山海楼閣へ案内せよ。

 また命令に対しての妨害、ならびに賓客への危害を加えかねない不明勢力が出現した場合は一般市民へ被害が及ばない範疇に限り、ありとあらゆる手段を用いて排除して構わない旨をここに許可する」

 

「はっ、了解しました」

 

 

 

 

 伊丹もまた背筋を正し、挙手を含む軍隊式ではない方の最敬礼でもって、公園の外へと出ていく嘉納の背中が見えなくなるまで頭を下げ続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『私は軍人であり、最高司令官の命令に従う』 ――エルヴィン・ロンメル

 

 

 




WW3後のMW世界で最大の被害は軍・政府・情報機関の人材の枯渇だと思います(軍部の指揮中枢や情報機関・精鋭部隊の本部を直接叩かれた為)


批評・感想随時募集中です。

・5/14:誤字修正


※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。