神崎蘭子のマネージャーは通訳?   作:スレ主

26 / 33
勢いって怖いっす……


26話

side凛

 

「お……おう、神崎おはよ」

「………わ、煩わしい太陽」

 

ふいっと顔をお互い背ける。

 

「えっ、何この甘酸っぱい空気」

「喧嘩……ではなさそうですよね?」

「……まぁ無理もないか」

 

流石にあの現場を見てたのは私だけだからあの2人が正常じゃない理由は分かるけど……

 

「というからんらんの足首の捻挫どうだったの?」

「全治2週間で安静にしろだとさ」

「我は問題ないぞ」

「一応仕事はキャンセルは入れてないけどモデルとかは厳しいだろうな」

「我に不可能などないっ!!」

 

ジトッと彼女を見るマネージャーと見つめ返す蘭子。

 

またフイっとお互い顔を背ける。

………蘭子、右手で唇を抑えちゃだめだから、勘のいいアイドルとかは気付くって。

 

「……右手、バレちゃうから駄目」

「はぅっ」

 

小声で注意しても蘭子は肌が白いから赤くなるのは隠せない。

 

未央あたりが「ほほーん、これは何か事件の匂いですねぇー」と言ってるけど……うーん未央の口の固さは微妙だからなぁ……

 

というか一番意外だったのは。

 

「……普段のポーカーフェイスはどうしたの?」

「……なんか感触とか色々思い出すから無理っぽいっス」

「ふーん……ふーーん」

「な、なんで怒ってるんですか?」

「別に」

 

別に怒ってないし、普通だし。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は新しいPVの打ち合わせです」

「コンセプトはどんな感じですか?」

「魔王の花嫁ということです、衣装案はこのような形です」

「おおっ!!!!」

 

武内さんの衣装案を見て、ものすごい勢いで食いつく。

 

「ふむ、魔王の花嫁は可憐ではなく魔性の方がいい」

 

ちらっと武内さんはこちらを見るので

 

「この衣装はちょっと可愛いに寄りすぎてるので少しセクシーで気品のある感じの方がコンセプト的にいいそうです」

「なるほど……」

 

流れるようにメモを取る。

 

「そして契りを交わすのならば深淵ではなく葡萄染の方が良いだろう」

「色のコンセプトも黒じゃなくて紫の方がさっき言ってたコンセプトに近づけると」

「そうですか……」

「そして天界とは対の形をとるのが良いだろう、光のある所に闇があり、闇がある所に光あり、そう宿命の呪文は花嫁から告げるなど」

「なるべく普通の結婚式とは逆の形をとりたいみたいです」

「それならば一応セリフがあるんですが」

 

武内さんが仮のセリフを見せてくるので神崎に渡す。

 

「『闇の宿命……!呪われし魔力の導きでこの身が現世より失われないようもっと…………きつくわたしをだきしめて…………この身体が闇に飲まれ…やがて偽りの契りを結んでしまうのなら…せめてその前に…貴方との思い出を胸に眠りたい……さ、さいごの口づけを……くだしぃ』」

 

思わずジトっと見てしまう、今度は逸らさない。

……いやだってねぇ?

 

「だってだって、こういうのは恥ずかしいからぁー」

「いやだって結婚式だし」

「うう……ちょっと練習させて」

 

は?なにこいつ可愛いんだけど……?

 

「とりあえず衣装の案は意見として出します、それでセリフの方は……要練習ということでお願いしていいですか?」

「はい、怪我の関係で俺も付きっ切りになるんで」

「それではお願いします」

 

お互いに頭を下げて仕事に戻る。

 

「く、口づけを……くだしぃ……」

 

チラチラとこちらを見るな……色々思い出すから。

 

 

 

 

 

2週間後

 

足を怪我してから2週間が経ち、PVの衣装も出来上がって後は撮影だけなんだけど……

 

「最後のセリフがどうしても上手く行かねーな」

「だってだってー」

 

ジトッと見上げる蘭子……思わず顔を背ける。

 

「俺が悪いみたいな目はやめろ馬鹿」

「……わるいもん」

「うっ、あのなぁ」

「はじめてだったもん」

 

上目遣いでぷくっと頬を膨らませる。

ここまでくると逆に開き直ってきたか。

 

「……じゃあどうすればいいんだよ、俺はもう謝ることしか出来ないし、何をすればいいか分からん、蘭子は俺に何をして欲しいんだよ」

「うっ、それは」

 

そう結局は蘭子の問題なのだ。

俺にはどうすることも出来ない。

 

「……練習手伝って」

「セリフの?」

「イメージが付かないから私の感情が出てきちゃうの、だからちゃんと魔王の花嫁の役になりきる為に手伝って」

 

……むぅ、一理ある。

よーするに自分が多感だから抱きしめて欲しいとか、キスをしてくれとか言うと、頭の中こんがらがる。

 

なら、役になりきればそれは神崎蘭子ではなく名もなきただの魔王の花嫁になる……と

 

「分かった、セリフからちゃんとイメージしよう」

 

大事なのは役作りだ。

 

「多分ね、この結婚は正式なものじゃない」

「そだな、じゃなきゃ『最後の口づけ』とは言わないな」

「駆け落ちとかじゃなくて、この花嫁さんは別の人と結婚をするじゃないのかな?」

「『偽りの契りを結ぶ』つまり本意ではない結婚ってやつだな」

「でもコンセプト魔王の花嫁……魔王の花嫁が本意ではないってことなのかな?」

「それは大した皮肉だな、だけどこれで繋がるな、本来好きな人がいるが政略結婚か何かで魔王の花嫁になったと」

「だけど『貴方』との思い出が欲しいから、最後の口づけが欲しい」

 

……なんというか

 

「この花嫁さん悲しいね……」

「まぁ、時代背景やらなにやらは知らんけど、今だって自由恋愛だけじゃないのは確かだぜ………まぁ今のでイメージは掴めただろ?」

「うん、大丈夫」

 

少し悲しそうな顔をしたが何か覚悟を決めた目だ。

 

「俺はなにをしてればいいの?」

「私が和也に言うから立ってて」

 

つまりイメージアップの為の『貴方』役ね。

 

「闇の宿命……呪われし魔力の導きでこの身が現世より失わないようもっと……きつく私を抱きしめて?」

 

普段の蘭子のように勢いのあるセリフではなく、『貴方』にお願いをするように優しく言葉を紡ぎ、両手を広げる。

 

中々セリフを言わないのだが……もしかしてこれちゃんとやらないといけないのか。

 

何だかんだ俺と蘭子の付き合いは長い。

だけどそれでも彼女の甘い香りには慣れる気がしない。

見た目通り、細く折れそうな身体だから優しく抱きしめるが、彼女は納得出来ないのかまだセリフを続けない。

 

こっちも覚悟を決めてしっかりと抱きしめる。

 

「んぅ……あ」

 

蘭子は少し声を漏らすが、彼女もこちらを強く抱きしめる。

……先程とは違うモロに感じる神崎の体温と心音。

 

「この身体が闇に飲まれ…やがて偽りの契りを結んでしまうのなら…せめてその前に貴方との思い出を胸に眠りたい」

 

少し身体を離して顔を上げる。

悲しそうな顔をしている。

本当にこれが最後のような……

 

「……最後の口づけをください」

 

この目を見てはいけない、見ると呑まれる。

だけど彼女は目をそらすことを許さない。

 

目が合う、彼女の両手が胸の服を引っ張り、踵伸ばす。

 

相対的に俺は屈んで、彼女は伸びる。

 

口と口との距離はゼロになる。

 

彼女は柔らかい唇を確かめるように、優しくキスをして離れる。

 

「……もっと」

 

そう言うと今度は啄むように、舐めるようにと続けて唇を合わせる。

 

唇を合わせるたびに、自分の力は抜けていき、彼女の手は力が強くなる。

 

そして彼女の舌が口内の中に入ると、少し力が入るが、それ以上に彼女が抑えこもうとする。

 

そのままお互い何分舌を絡めたか分からないが、多分お互いがこれ以上は歯止めがかからないと思い、ゆっくり離れる。

 

「………キスしちゃったね」

「そう……だな」

「和也……私ね、和也のこと好きなの」

 

思いが溢れるように彼女は言う。

 

「私ね、人付き合いは得意じゃないの、だからカッコいい言葉を使って誤魔化してたの、

でもね、カッコいい言葉を分かってくれる人はいなくて余計に私は人付き合いが出来なくなっちゃった。

前の学校はそれが原因で転校しちゃったし。

……東京の学校に来ても前と同じ1人ぼっちになると思ってた。

けどね、和也が分かってくれたんだよ?

カッコいい言葉の意味を私の言いたいことを分かってくれたの。すっごく嬉しかった。

和也は色んな人に私とお喋りできるようにしてくれた。人付き合いは苦手だけどね、したくない訳じゃないからね……すっごく楽しかったの、それでアイドルのスカウトされて、和也も一緒に来てくれて、そこでもみんなに私とお喋りできるようにして……すっごくすっごく嬉しかった」

 

しっかりとこちらを見て彼女ははっきり言う。

 

「好きです、私は和也のことが大好きです」

「蘭子、でも」

「うん、分かってる、アイドルだから、みんなのアイドルだから、だからね付き合って欲しいとは言わない……でもね?いつか?アイドルをやめる時ね……私を貰ってくれませんか?」

「……その時まで俺のことが好きだったらな」

 

つい、茶化すような言い方をしてしまった。

……感じ悪いな俺。

 

「うん、ずっと好きだよ」

 

だけどそんなことよりもはっきりと好意を伝える彼女の笑顔は今までの中で一番綺麗だった。

 

 

 





エンダァァァァァァァ!!!!!!!



はい、嘘ですまだ続きます。

ぶっちゃけ全く予想外で何故こうなったのか作者が一番謎です。

作者は基本的に会話を自然にするのを意識して書いてるんですよ、だから会話が不自然だったりすると基本的に投稿が遅れたりします。
あと脳内で「こういうオチにしよう」って無理矢理決めると会話が方向性が決まって書きたいことが書けなくなる現象が起きるんでこれまた投稿が遅れます……投稿が遅れちゃうんです←大事だから
かといって会話を意識しすぎると、ワンシーンしか出てこなくて超短文しか出来ないとか……

まぁ、何が言いたいかと言うと、今回はなんかするする書いていって作者的にこれが一番「自然」でした。

……おっかしいなー、予定ではちゃんと主人公が自分の恋心に気づいて告る予定だったんですけど、蘭子の想いの方が強すぎてなんか…………こうなってしまった!!!!

全部蘭子が可愛いのがいけない。

とりあえずもうちっとだけ続きます、なんとなく終わりが近づくのが作者的にも感じてきてます。

それではここまで読んでくださいありがとうございます。
感想、評価等よろしくお願いします!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。