日曜日
「ちょい早めに来てよかったわ、東京の駅は本当に迷路だな」
本来なら30分前に着く予定だったが、駅で15分近く迷子になり待ち合わせ場所には結局10分前に着いた。
「確かこの辺だけど……」
都会特有の人混みは嫌々していたが、その場所は明らかに違っていた。
彼女はベンチに腰をかけ本を読んでいるだけなのにそれだけで絵になっている。
周りの人もその場所の空気に触れたせいか、近づこうとはしない。
「………っと見惚れてる場合じゃねぇな」
初めて会った時のように一瞬惚けてしまったが待たせるのも申し訳ないと思い急いで向かおうとしたら
「おねーさん待ち合わせ?暇してるならカフェで一杯どう?」
ナンパ目的か男性が彼女に近づく、すぐに不味いと感じて彼女の方に向かうが彼女は顔を上げ………
「ククク、我はこの場所で我が盟友を待っている、残念だが貴殿の提案には乗ることは出来ない」
「えっ?あっ、はい」
さっきまでお淑やかな令嬢という雰囲気だったが、急に変な喋り方をしたら流石にナンパする人も一瞬躊躇するだろう。その一瞬を見逃さず………
「神崎待たせたな」
「フッ、来たか我が盟友よ」
「待ったか?」
「まだ約束の刻ではないし、我が少し早くに降臨しただけだ」
ナンパした人も俺が来たことによって流石に無理だと感じてどこかへ行ってしまった。
「あとは藤井さんだけか?」
「ん?我が盟友よ、今日は私たちだけだぞ?」
「えっ?藤井さんは?」
「連絡が行ってないのか?」
首を傾げる姿はとても可愛らしいが、惚ける訳もいかないのでスマホを確認する。
「そーいや、昨日クラスの男子からアホみたい通知が来たから通知切ってたんだよ」
『テメェー今どこにいる?』『蘭子ちゃんとイチャコラしてたら殺す』『私服の写真を見せてください』『羨ましすぎて殺意が止まらないのだが』『店に張り込んでるけど、この店じゃない?』『まぁとりあえず写真を撮れ、そして俺に見せろ』とクラスの男子からの魂の叫びが400近くのあり、その通知欄の中に藤井さんの通知を見つける。
『ごべん、風邪引いた』
『這いずってでも行きたいけど、お母さんに止められた』
『だから明日は二人で楽しんで来て』
『あとお願いがあるんだけど、多分蘭子ちゃんはかなり着せ替えをすると思うからその度に写真を撮って私に見せてください』
『生で見れないのは残念だけどせめて写真だけわー』
しかもその後、既読がついてないせいかちょくちょく『写真を撮ってください』『お願いしますなんでもしますから』『蘭子ちゃんの写真を〜』とちょくちょく送ってきている。
やってることがクラスの男子と大して変わらないってどうよ?
「彼女の連絡は見つけたか?」
「うんあった、あー、それと神崎ちょっと写真を撮っていいか?」
「それは何故だ?」
「藤井さんせっかく神崎の私服を楽しみにしてたのに風邪で見れないのは可哀相だしせめて写真で送ろうかと」
「なるほど、ではその魂を封じ込める器で我が魂を封じ込めてみよっ!!」
バッと決めポーズをして、それもとても可愛らしいがまぁとりあえず写真は撮る。
「うまく封じ込められたか?」
彼女は自分がちゃんとかっこよく写ってるか確認しようとスマホ確認しようと画面を見ようとする時、素早く内カメラに変更覗き込んだ所を写真を撮る。
「………何故今のも封じ込める必要がある?」
「キリッとした顔もいいけど自然にしてる時も必要かなと思って」
「むー、これでは我が魔力の衣が写らないではないかっ!!」
「多分藤井さんは喜ぶと思うよ」
「………そう言うなら是非もない、それより先ほどの封じ込めた物を」
彼女はさっきの決めポーズを見ると小声で「………もう少し手の位置を曲げたほうがいいのかな?」と普通の言葉を使っているが突っ込まないことにした。
「他にも色々写真は撮るし、そろそろ行く?」
「うむ、我が新たな漆黒な衣を求めて参るぞっ!」
「はいはい仰せのままに」
なんかいつもよりテンションが高い気がするが楽しみにしてるということだろう。
「いらっしゃいませ………ってもしかして蘭子ちゃんですかっ!?」
「む、何処かで会ったことあったか?」
「とと、すいませんいきなり大声出しちゃって、でも蘭子ち………神崎さんはゴスロリの服屋で働いてる人ならほとんど知ってますよ」
「へー、やっぱりその界隈では有名なんですか?」
モデル業を少しやっていたという話は聞いているけど
「雑誌に突如現れたゴスロリ正統派を着こなす美少女、出た回数は少なかったですけど王道にして正道を突っ走った数少ない正統派ゴスロリモデルでしたからね」
「なんですかその正統派ゴスロリって?」
「ゴスロリにも色々ありますけど、例えば今日の蘭子ちゃんは黒基調の正統派ですけど、白しか着ない白派とか黒だけしか認めない黒派、他にもゴシックよりもロリータを強めにした黒ロリ派とか白ロリ派とか、一般の人でも着れるよう擬態派とか様々ですね」
「へー、なんか色々あるんですね……っといいぞ服見ても」
店員に話しかけられて中々服を見れなくてそわそわしていたので声をかけると店内の方へ足早に行ってしまった。
「あはは、すいませんつい興奮しちゃって………あの彼氏さんですか?」
「いえ、通訳です」
「通訳?蘭子ちゃんって日本人ですよね?」
「まぁ、話してみれば分かりますよ」
服を何着か持ってこちらに来ると………
「我が身を映す鏡の世界は何処に?」
「はい?」
「試着室はどこですか?ですね」
「あっ、えっと試着室は向こうになります」
「あと神崎、試着したら一回見せろよ、藤井さんに写真送らなきゃいけないから」
「む、分かった」
足早に試着室に向かう姿はおもちゃを与えられた子供みたいだな。俺も子供だけど。
「通訳って意味分かりました?」
「………私もそれなりに濃いキャラの人相手したことありますけど、当然のように使う人は初めてですね」
「まぁ、可愛いから許されますよ」
「そうですね………って、お客さん随分と学生らしくない台詞ですね」
「これでもまだ中学二年生ですけどね」
「えっ!?まだ中学生でした?
神崎さんと一緒に歩いてるとコスプレに目覚めた彼女に連れ回された高校生男子って感じですよ」
「まぁ、よく達観してるなーとは言われますけど、高校生に見えるのは彼女が中学離れした大人びた雰囲気につられたからだと思いますよ」
「あはは、彼女はスタイルがすっごいから余計に大人ぽく見えますからね、さっき持ってた服、腰回りが結構キツめのやつばっかりでしたし」
「中世ヨーロッパのドレスが発祥ですからね、スタイル良くないと中々着れそうなイメージが……」
「そうなんですよ、私も管理しないと中々大変で」
「でも可愛いですからね、ゴスロリ」
「そうなんですよっ!!あのお嬢様気分になれるのはゴスロリとウェディングドレスと和服くらいですねっ!!」
「意外と守備範囲広いっすね、まぁ可愛いければ許される世の常ですから」
「まるでブサイクには人権がない言い方ですね」
「そうですよ、ブサイクには人権はありません、身をもって分かりました」
店員さんは少し目をパチクリして。
「そんなこと言わないでくださいよー、私そしたら人権がないじゃないですかー」
「いやいや店員さんは可愛いじゃないですか、よく声とか掛けられそうですし」
「もう、こんなおばさん褒めても何も出ませんからねー」
「そんなことありませんって」
などと結構盛り上がっていると試着室から神崎が出てきた。
先ほどまでは黒を基調にした正統派(?)らしいが今回は白を基調とした、フリル少なめのゴスロリを選んだ。
先ほどは幼さも少し混ざっていた感じだったが今回は幼さよりも大人びた感じが中々破壊力抜群だな。
「これからは灼熱の日々が続くため黒の衣では負担が大きいので色々と試しているのだが」
「…………っと、白なら黒より涼しいからな、中々いいんじゃないか?」
「そ、そうか、それでは我が魂を封じ込める器を」
「っと、そうだなうんじゃ撮るぞー」
そう言うと先ほどとは違うポーズを決める。
「いいぞー」
と、言いつつカメラの連写機能を使い、ポーズをやめてジト目を向けるところまで撮り終えた。
「だから何故、そんなに封じ込める必要がある?」
「写真は沢山あった方がいいだろ?」
「むぅ」
その後も何着か服を選び、神崎がコレだと思った服を買っていった。
「ありがとうございましたー」
それなりに多い荷物を持って店の外にでる
「やっぱり値段は結構張るもんだな、この後の昼飯どーする?」
声を掛けたが返答はない。
財布の中身を真剣な表情で見ながら「完全に予算オーバー」「………足りるかな?」「なんとか……でも足りなかったらどうしよう」と悩んでる様子。
「あー、昼飯奢るから好きなところを選んでいいぞ」
「いいのっ!?………こほん、我が盟友の手を煩わせる訳にいかん」
想像以上に財布事情がよろしくないのか思いっきり素の返事をしたことに笑いそうになった。
「さっきの買い物で予想以上に買い込んだんだろ?」
「うぅ、しかし」
「それとも昼抜きで行くか?流石にそれは辛いだろ?」
「………うん」
「だから、奢ってやるから適当になんか好きなもん頼もうぜ、俺も腹減っちまってよ」
「………ラーメン食べたい」
「………えー、その格好で行くのか?」
「新たなる我が魔力の衣に世界を欺く衣もあるから問題無かろう。………それに我だけではあの門を潜ることは難しい」
「分かった分かった、ラーメンでいいんだな?着替える為にさっきの店に戻るぞ」
「うむっ」
さっきの店で一度着替えてからラーメン屋の前にくる。
「やっぱり昼時だから結構人が多いな、………入る前に一応聞いておくが頼むメニューは決めてあるか?」
「特に定めてはいないが?」
「そうか、とりあえず醤油にしとけ」
「うむ、我が盟友に采配は任せる」
店に入ると「らしゃいませー」と威勢のいい声が上がり、神崎は一瞬ビクッと震える。
少し待ってから券売機で食券を買い、カウンター席に神崎を座らせる。
店員さんが来てからすぐさま
「彼女は油少なめ、味薄めで、俺は特に無しで」
「はい、ありがとうございましたー」
神崎は少しこちらを見て
「何故私のは油少なめで味薄めなのだ?」
「基本、東京の家系ラーメンは味が濃いめな訳、この前、地元のノリでギタギタでって頼んだらとてつもない油の量が出てきたから東京では2度とギタギタでは頼まないと決心した」
「ギタギタ?」
「油の量が多めってこと」
なんかいつもと逆の風景に少し吹き出しそうになったが、神崎もそのことに気がつきお互い軽く笑ってしまった。
「はい、醤油油少なめ味薄めと普通の醤油です」
「少なめの方はこっちです」
「ごゆっくりどうぞー」
「おぉ、コレがラーメン」
「なんだ初めてか?」
「カップ麺は食べたことあるぞ」
「段違いに美味いから」
「そうか、頂きます」
「頂きます」
俺は特に何も考えずに食べているが、神崎の方はどうやらそういう訳ではなさそうだ。
一瞬固まったが、思い出したように動きだし麺を食べ始める。
食べてる間は無言で食事を続けて気がついたら店を出るまで無言だった。
「どうだった?」
「このような美味なるものを私は食していなかったことに絶望を覚える」
「まぁこれから頼めばいいさ」
そう言ったらクイクイと裾を引っ張られる。
「その時は我が盟友も一緒だぞ」
この時の彼女の顔は忘れられないくらい可愛い顔だったことは覚えてる。
なんか3話め多いね
とりあえずここから先はなんも書いてないので失踪しても気にしないでください。
でも書くと思います。