幸福と不幸は女神様次第!?   作:ほるほるん

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人の形をした魂の容れ物【挿絵】

 「いや~今日も疲れたな~」

 

 既に夕日が沈みかけ、夕焼けに染まった街道を俺は歩いていた。

 

 「早く歩いて下さい。お腹が空きました」

 

 「割りと元気だなお前…」

 

 俺が前衛でレアは後衛でしかも補助の役割なので必然、俺の方が仕事が多くなる。仕方のないこととはいえ、こう余裕があるのを見せつけられると思う所はある。若干、重い足を動かしながら屋敷へと着いた俺は玄関の扉を開く。

 

 「ただいま…あれ、どうしたんだ?」

 

 そこにはエレナが居た。玄関で誰かを待っていたという様子だ。

 

 「ワタル…おかえりなさい。いえ…使用人の方が帰って来たのかと思ったので…」

 

 「使用人…をわざわざエレナが出迎えてるのか?」

 

 エレナは首を横に振る。

 

 「今朝から出かけた使用人の方がまだ戻って来ていないんです」

 

 「今朝から!?もう夕方だぞ?」

 

 「はい…そうなんです。様子を見に行った他の方もまだ…」

 

 それはいくら何でもおかしいだろう。道中で何かあったとは考えにくい。恐らくは行った先で何かが起きたんだ。

 

 「それで、その人達はどこへ?」

 

 「以前に使っていたお屋敷です…今は誰も住んでいません。そこへ家具を取りに行ってもらったのですが…」

 

 「なるほどな…場所を教えてくれ。俺が行って来る」

 

正直、クエストを終えて疲労は溜まっているが困っている人、それもエレナなら放っておけるわけがない。

 

 「ごめんなさい…他に頼れる方が居ないので無理を言ってしまって…」

 

 エレナは俯き、頭を下げる。

 

 「そんな顔するなって、きっとみんな無事だよ。俺に任せてくれ」

 

 そして俺は隣に居るレアの方へ顔を向ける。

 

 「よし、じゃあレアも…」

 

 そこには誰も居なかった。

 

 「レア様でしたら先にお部屋へ行かれたようですが…」

 

 あの野郎いつの間に…

 

 

 「何を先に飯食ってんだこら!」

 

 「え?長くなりそうだったので…夕食が冷めますし」

 

 料理を口に運びながら平然と答える。

 

 「エレナが困ってるだろ!一緒に来てくれよ」

 

 「大方、誰も住んでいない屋敷に何かが棲み着いたんでしょう。それならあなた一人でも大丈夫ですよ。私は疲れたのであなたに任せます。あなたが帰って来なかったら助けに行ってあげるので安心して下さい」

 

 レアが、時間外労働をしてくれるなんて考える方が間違ってた。

 

 「本当に俺に何かあったら来てくれるんだな?」

 

 「…はい」

 

 答えるまでに間があったのは気にしないでおこう。俺は仕方なく、一人で旧屋敷へ行くことにした。

 

 玄関でエレナに見送られ、俺は屋敷を後にする。悲しげな表情で見送る彼女の期待を裏切りたくない。俺は足早に歩を進めた。

 

 旧屋敷は街の外、少し離れたところにあるらしく、借りた地図を見ながら俺は街道を歩いて行く。その途中

 

 「ワタル…?どうしたんだ、装備も付けたままで」

 

 そう言いながら自分も装備を付けたまま露店を見て回っているのはサリアだ。ギルドで解散したあと、そのまま買い物に寄ったという様子だ。

 

 「説明する時間がないんだけどちょっと人助けにな」

 

 「こんな時間に?一人でか?」

 

 黙って首を縦に振る。

 

 「ふむ…それなら私も手伝おう。人手は多い方が良いだろう?」

 

 「俺…サリアがそう言ってくれるって分かってて『人助けに行く』って言ったよ。ごめん」

 

 「謝る必要は無い。私が好きでやっていることだ。メイルはどうする?声を掛けるか?」

 

 「…やめといた方が良いと思う」

 

 「…?」

 

 俺の言葉の意味が分からず首を傾げるサリア。だが現地に着いてその意味を理解することになる。

 

 

 「なるほどな…」

 

 旧屋敷という名前の通り今は人が住んでいないその建物は廃屋と呼ぶ程ではないが傷み、建物の中も外も境界が無いかのように暗闇に覆われていた。正直、俺ですらこんな時間にこの中に入りたいとは思わない。怖がりなメイルを連れて来なかったのは賢明な判断だろう。

 

 俺は旧屋敷に入る前に、横にある小さな倉庫の扉を開け、蝋燭の刺さった金属のカンテラを取り出し、サリアにも一つ渡す。明かりがなければ何も見えないと予想し、出発前にエレナに明かりの場所を聞いておいた。

 

 それに火を燈し、辺りを照らしながら俺達は耳障りな音を立てて軋む玄関の扉を開け、旧屋敷へと足を踏み入れた。

 

 「人の気配はしないな」

 

 「あぁ…でもここに向かった使用人がどこかに居るはずだ」

 

 蝋燭の火では照らせる範囲はあまり広くはない。周囲に気を配り、慎重に進んで行く。

 

 しばらく耳を澄ましながら歩いていた俺達だったが、聞こえてくるのは木造の廊下の軋む音だけ。この静寂が逆に不気味だ。

 

 廊下を順通りに歩いていくと玄関に戻ってくる。結局、一階では何も見つけることは出来なかった。

 

 「特に変わった所は無かったが…本当に使用人はここに来たのか?」

 

 「そのはずなんだけどな…」

 

 俺は念のため、借りた地図を取り出し、もう一度眺め

 

 「ワタル!伏せろ!」

 

 突然サリアに頭を抑えられ、俺は身を屈めた。目の前でサリアも腰を落としている。

 

 頭上を何かが通り、そばにあった壁で音がした。よく見るとそれは小さなナイフのような物で、深く壁に突き刺さっている。俺を狙ったのか…?

 

 「誰だ!」

 

 階段の方を見上げたが明かりが届かない距離では相手を視認することは出来ず、階段を駆け上がる足音だけが聞こえてきた。その音には雑音が混ざっていた。金属の擦れるような音…装備で身を固めているのか?

 

 俺達は音を追って階段を上っていく。だが二階に着いた時には辺りは静寂に包まれており、対象を見失ってしまった。

 

 代わりに微かに聞こえて来たのは人の声のようなもの。話し声ではない…呻いているような声だ。その方向へゆっくりと近付いて行く。

 

 「気を付けよう、罠かもしれない」

 

 廊下を進んで行くと声は近づいていった。一つの部屋の前で足を止める。どうやらこの部屋からしているようだ。

 

 静かに扉を開けると声はますます鮮明になる。明かりを掲げると相手には見覚えがあった。屋敷の使用人の一人だ。

 

 「あ…あぁ…助けに来て下さったのですか…?」

 

 両足から血を流しながら蹲り、怯えた目で俺達を見上げる。

 

 「そうだ、もう大丈夫。他の人達は?」

 

 「分かりません…突然、奴に襲われて…逃げ惑ううちに散り散りに…」

 

 「奴…?それってどんな…」

 

 「…!後ろ!」

 

 使用人の声より先に俺は後ろを振り向いていた。短剣を抜き、そいつの剣を受け止める。

 

 「そう何度も奇襲されると思ってんのか」

 

 俺が短剣を振り払うと、相手はその場から飛び退く。

 

 「…」

 

 全身を甲冑で包んだ相手は、黙ってその場でゆらゆらと体と揺する。その度に金属の擦れる音が耳に障る。

 

 「気配を消すのは上手いみたいだけどもう少し音にも気を付けるべきだったな。どうする?二対一だぞ」

 

 と、俺が言ったからではないだろうが、暗闇の奥からさらに三人、同様に甲冑を来た敵が現れた。

 

 「チッ……サリア、右の二人は任せていいか?」

 

 「あぁ、問題ない」

 

 静かに大剣を構えたサリアが頼もし過ぎる。一人で来なくて本当に良かった。

 

 俺達は同時に敵へと駆けると、応戦するように剣を振った敵の攻撃を躱す。それ程早くはない。これなら十分避けられる。

 

 だが念の為、しばらく回避に専念する。だがそれを見ていておかしいことに気が付いた。

 

 それは相手が縦か横にしか剣を振らず、フェイントをかける様子もなく愚直に剣を振り続けていることだ。素人と呼ぶのも憚られるほどの単純な動き。何なんだこいつら…?

 

 「あんまり人を…舐めんな!」

 

 俺は短剣で剣を弾き、そのまま相手の懐に飛び込み、兜を蹴り上げた。

 

 「いっ!?」

 

 遠くで兜が床に落ちる音が響く。俺の目の前には頭をなくした相手が立っていた。兜が、ではなく頭ごとだ。それでも相手は剣を振り、俺はその場から下がる。

 

 「まさかこいつら…」

 

 同じことにサリアも気付いていたようで、俺と目を結んだあと頷いた。

 

 「遠慮はいらないようだな」

 

 俺が一歩大きく下がるとサリアが四人の敵を前に立ち、大剣を構え、横に大きく振り切った。

 

 耳障りな金属音と共に相手は胴の部分から真っ二つに砕かれた。良かった、当たってくれて。人間相手なら大怪我をさせてしまうのでとても出来ないことだが今回は問題ない。なぜなら中に人などいないからだ。

 

 「あっ…えっ…?」

 

 俺達の戦いを見ていた使用人が信じられないといったように目を見開く。

 

 「こいつらは操られてた鎧だ。どこかに操っていた奴がいるはずだ」

 

 俺達は使用人へ簡単な手当てをした後、二階を見て回ったが誰も見つからなかった。さらに上か…?

 

 周囲に警戒しながら三階へと進むと、部屋は一つしか無かった。大きな扉の前に俺達は立ち、ゆっくりと扉を開ける。

 

 そこは他の部屋とは違い、広く、そして疎らに置かれた蝋燭に火が灯っていた。その奥には人形…?大小様々な人形が置かれており、まるで意思を持ってこちらを見ているかのような不気味さを感じる。動物を形どった物から人を形どった物まで多種多様だ。その中にはまるで本物かのように精巧に作られている物もある。例えばあの人形なんて…

 

 

【挿絵表示】

 

 

 「貴方達…」

 

 「うわっ!?」

 

 まさかしゃべるとは思っていなかった俺は心臓が飛び出るかと思った。

 

 「貴方達も私の居場所に踏み入った」

 

 少女(?)は座ったまま静かにこちらを見つめている。背はそれ程高くはない。人間なのか…?

 

 「待ってくれ、俺達はお前に何かしに来たわけじゃ…」

 

 「消えて」

 

 相手が手を前に出すと、部屋の左右の壁に飾られていた剣が宙に浮き、向きを変えてこちらに真っ直ぐ飛んで来る。

 

 俺が体を屈めると頭上で金属音が響いた。

 

 「仕方ない…サリア、あいつを止めるぞ!」

 

 「ああ!」

 

 俺達は並んで少女へと駆ける。二対一が卑怯なんて言っていられない。俺はタイミングを合わせるために僅かに目線をサリアの方へと移し

 

 目に写ったのはサリアの姿ではなく、無機質に光る鉄の塊だった。それを剣だと理解する前に俺は体を捩った。

 

 風を切る音が目の前を通り過ぎる。僅かに剣先が頬に触れたらしく一粒の血が床へと落ちた。

 

 「サリア…!?」

 

 「ぐっ…剣が勝手に…!」

 

 両腕に力を込めて、ガタガタと揺れる大剣を押さえつけるサリア。まさかあいつに動かされてるのか…?

 

 瞬間、嫌な予感がした。まずい、と思う前に手に持っていた短剣が意思を持ったかのように手から離れる。

 

 「サリア、危ない!」

 

 真っ直ぐに飛んで行った短剣にサリアが気が付くと、大剣を放してその場から飛び退く。

 

 どうにか回避は間に合ったようだが押さえを失った大剣は、こちらを見下ろすようにゆらゆらと宙に浮く。

 

 俺達を取り囲むように他の剣も周りを浮遊する。同時に来られたら避けきれないかもしれない…

 

 俺は両手を前に出す。相手のことが分からない以上手荒な真似はしたくなかったし、元とはいえエレナの住んでいた屋敷を壊したく無かったが仲間に危害を加えるなら容赦しねえ。

 

 「『風精霊魔法』」

 

 「っ…!」

 

 俺が魔法を唱えていると察した少女は甲冑ごと、盾を自分の前に置く。

 

 「『精霊龍の顎』」

 

 だがそんな物で防がれるほど脆弱な魔法じゃない。鎧を弾き飛ばし、勢いを弱めることなく精霊龍は少女の目の前で顎を開く。

 

 …?なぜか彼女は避ける仕草を見せない。このまま飲み込まれれば無事では済まないのに?代わりに、呟くように口を動かす。精霊魔法の轟音の中で不思議とその声だけは聞き取ることが出来た。

 

 「ごめんなさい…エレナ」

 

 「っ!?」

 

 俺は無理矢理、手を振り払うように横へ動かすと精霊龍は僅かに逸れ、彼女のそばにあった人形達を飲み込み、屋敷の壁を突き破り、外へと飛び出した。

 

 少女は助かったことに胸を撫で下ろしたりする様子も無く、静かに俺を見つめていた。そして、彼女によって操られていた物は全て地面へと力なく落下した。

 

 「…どうして止めを刺さなかったの?」

 

 「お前、今、なんて言ったんだ?」

 

 「エレナ…その名前だけは覚えてる。私は待ってなくちゃいけない」

 

 「どういうことだ…?なんでエレナのことを知ってるんだ」

 

 「分からない…分かるのは約束したということだけ」

 

 ゆっくりと彼女に歩み寄った俺を少女は見上げる。瞬き一つせずに俺の目を見つめる彼女の言葉に嘘があるようには見えなかった。

 

 「ふむ…どこか動きに違和感があると思っていたがやはりか」

 

 「サリア?」

 

 「彼女は人間ではない。人形に魂が宿った存在だ」

 

 「…!そうなのか?」

 

 少女は静かに頷く。

 

 「いつからかも覚えていない。でも私を大事にしてくれた人は覚えてる。それがエレナ」

 

 段々と話が見えてきた。けど分からないこともある。

 

 「お前とエレナの関係は分かった。けどどうして人を襲う?」

 

 「この屋敷にあるのは全てエレナが使っていた物…それに勝手に触れるのは許せないから」

 

 静かにだが怒りを湛えて言った。それを見て俺は溜息をついた。

 

 「あのなぁ…お前誤解してるよ。今日ここに物を取りに来た人達はエレナに頼まれて来たんだぞ?」

 

 「…!いや…でも…信用出来ない」

 

 「じゃあどうすりゃいいんだ?エレナに来てもらえって言うのかよ」

 

 俺は本気で言ったわけではなかったが、彼女はピクリと反応すると何度も首を縦に振る。意外と分かりやすい奴だ。俺は小さく笑うと

 

 「分かった分かった、お前がそう言うなら頼んでみる。だからお前も、もう人を襲わないって約束出来るか?」

 

 しばらく俺の目を見つめた後、彼女は静かに頷いた。

 

 

 その後、俺達は三階の大広間の隣に捕まっていた使用人達を見つけた。手当てを終えて、足に怪我を負った使用人で肩を貸し、屋敷へと戻るため立ち上がる。

 

 「それじゃエレナに話を伝えておくよ、お前は…あ、そういえば名前は?」

 

 「無い。けどエレナが付けてくれた名前はニーナ」

 

 「エレナが自分で付けた名前なら忘れてるわけないな。じゃあニーナ、大人しく待っててくれよ」

 

 「うん。でも…エレナが嫌だと言ったら無理に頼まなくていい…」

 

 少し俯き気味に言う。

 

 「分かってないな…エレナのことを全然分かってない。来るに決まってるよ、安心して待ってな」

 

 俺が笑顔で言うとニーナは嬉しそうに目を輝かせた後、何かに気が付いたように目を細めた。

 

 「…なんだか貴方の方がエレナを良く知っているみたいで気に入らない…」

 

 「そこは素直に喜んどけよ」

 

 俺は彼女の嫉妬が籠った言葉に思わず苦笑いした。

 

 

 後日、事の顛末をエレナに伝えると、案の定、彼女は自分のせいで使用人に迷惑を掛けてしまったと申し訳なさそうに頭を下げた。こうなることが分かっていたからあまり伝えたく無かったが、今回ばかりは無関係じゃないしな。

 

 旧屋敷でニーナが待っていることを知ると「会いに行く」、ではなく「会いに行かせて欲しい」、と言いこれまた申し訳なさそうに俺に頼んできた。ほんとにそのうち気疲れで倒れるんじゃないかと心配になった。

 

 再び旧屋敷を訪れたのは日の昇っている時間、晴天に恵まれた日だった。明るい日差しの中で見た旧屋敷は古いながらも綺麗な建物だった。…俺が精霊魔法でぶち開けた大穴がなければもっと綺麗だったんだろうが…。

 

 以前住んでいたということもあり、慣れた様子で屋敷の中を歩いて行くエレナ。三階の扉を開けると人形の山にエレナは近付き、どれがニーナか伝える前に彼女は手を伸ばし、静かに微笑む。

 

 「ただいま、ニーナ」

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