「なあ、ちょっと城の外を散歩してきてもいいか?」
「駄目だ」
まだ朝食まで時間のあった俺は、少しその辺を散歩してこようと思い、たまたまアイヴィスとクライスに出会ったので、外出の旨を伝えたがクライスに突っぱねられた。
「貴様の護衛も私の任に含まれている。目の届かない場所に行かれては困る」
たしかにクライスの言い分もわかるが、ずっと城に居るので気分転換がしたい。どうするかな、俺が考えていると
「クライス、あなたがワタルに付いていてさしあげればよろしいですわ」
「アイヴィス様!私が離れてはアイヴィス様にもしものことが…」
アイヴィスの言葉にクライスがすぐさま言い返す。
「じゃあさ、三人で行こうぜ。それなら問題ないだろ?案内してくれよ」
「もちろんですわ、お任せ下さいまし」
「いや、しかし…」
クライスは乗り気ではないようだが、アイヴィスには逆らえず、不服そうな顔をしながらも首を縦に振ってくれた。
「そういや初めて会った時も城の外だったよな?」
「ええ、あの時は服を見ていましたの。使用人に買いに行かせてもよかったのですけれど、たまには私も城の外に出たいですもの」
まさに今の俺と同じ気持ちだ。だからこうして一緒に来てくれたんだろう。俺がアイヴィスの方に顔を向けながら歩いていると
「おっと、悪い」
一人の少女とぶつかり…、あれ?前もこんなことあったような。俺は思わずポケットの中を確認してしまう。
「貴様は…!」
クライスが目を細め、その少女を睨む。見覚えのあるその姿は、ルトラだ。手に持っているのは…鞄か?
「まだこの街で悪事を働いていたのか、今度は見逃すわけにはいかない」
クライスが剣を抜きながらルトラに近寄る。
「ちげーよ!これ見ろよこれ!」
そう言ってルトラは鞄の中身を見せる。中には…手紙?
「配達の仕事をしてんだよ、文句あっかよ」
ルトラは腕を組みながら言い放つ。
「おう、そうなのか。ちゃんと働いてるんだな、偉いぞルトラ。母ちゃんはもう大丈夫か?」
俺はルトラの頭を撫でながらそう言う。
「別に偉くねーよ!人の頭、撫でんな!」
ルトラは顔を赤くして俺から離れる。褒められることに慣れていないんだろうか。
「母ちゃんは前より良くなった。あの時にお前に借りたものは今はまだ返せないけど、借りた物は絶対返すから待ってろよな」
「あの時の金か?別に返さなくたっていいのに」
「それもだけど、その……私を助けてくれたことも…」
先程までハキハキとしゃべっていたのに急に声が小さくなる。俺は聞き取れず首を傾げた。
「っ…!いいから待ってろっての!私は仕事中だからもう行くぞ、じゃあな!」
「おう、またな」
そう言ってルトラは走っていった。よかった、ちゃんと話をわかってくれる子で。
「今の方とはどういう関係ですの?」
「そっか、アイヴィスはあの時いなかったのか。ちょっと一悶着あって、お金貸してあげたんだよ」
「そうでしたの、では特別な関係ではないんですのね」
アイヴィスは一人で納得しているが俺にはアイヴィスの考えていることがわからなかった。
「まったく、人の良いことだ」
前にルトラを助けた時にメイルから言われたことと同じことをクライスに言われ、俺は苦笑いしてしまった。
その後、「あまり遠くまで行くと間に合わなくなる」とクライス言われ、俺達は散歩を切り上げ、城へと戻り、朝食を取った。
俺達が食事を終えて食堂から出ると城の中が騒がしい、何かあったのだろうか。俺は使用人の一人に声をかけ聞いてみた。どうやら国王様が帰ってきたらしい。俺達は城の入り口へと移動した。
「おお、目が覚めたのか。無事でなによりだ」
ちょうど到着し、城へ入ろうとしていた国王が俺に声をかける。
「いや~、迷惑かけちゃったみたいですみません」
「まぁ、詳しい話は中でしよう。来てもらえるかな」
そう言われ、俺達は玉座の間へ移動する。
「まずは君にはお礼を言いたい。私の娘を助けてくれたことに感謝する」
玉座に腰掛けた国王が開口一番、俺に感謝を伝えてくる。
「ははっ、結局最後はクライスに助けてもらったんすけどね」
「謙遜することはない。君にはお礼がしたい、望むものがあれば言ってみてくれたまえ」
うーん、正直、全然考えてなかった。俺が悩んでいるとレアに耳打ちされる。
「あっ、女神と対話するアイテムって知らないっすか?」
レアに言われた通りに聞いてみる。が国王は少し考えたあと、首を横に振る。
「すまない、聞いたことがないな」
ダメ元だったがやはり駄目か。かと言って他に欲しいものもないんだが…
「今は思いつかないんで、保留ってことにしてもらってもいいっすか?」
「欲のないことだ。君がそういうのならそうしよう。また思いついたら言ってくれたまえ」
国王は笑いながらそう言ってくれた。
「ところで、君はこのあとどうするつもりかね?」
「特に予定は、まぁアルスター城に戻ろうと思ってるっす」
どういう意図で聞いたのだろう。城に長居されると迷惑とかそういう意味だろうか。
「それならちょうどよかった。私も次の国務でアルスター帝国に用事があってね。良かったら一緒にどうだい?」
「マジすか!?助かるっす」
凄く助かる。歩いてあの山超えるのしんどかったからな。馬車にでも乗せてもらえばすぐに着くだろう。
そうして俺達は、国王との話を終え、部屋から出た。さて、アルスター城に戻る準備をしなくては。俺は三人に用意をするよう伝え、それぞれの部屋に戻った。
俺は自分の荷物をまとめ、ベッドに横になった。短い間だったが居心地の良い城だった。アイヴィス、クライスと別れると思うと少し寂しいが、今生の別れというわけではない、またどこかで会うこともあるだろう。俺がそんなことを考えていると準備を終えた三人が声をかけてくれた。俺は体を起こし、城の入り口へと向かう。
城の入り口には大きな馬車、国王と警備兵らしき人が数人、そして…アイヴィスとクライスもいる。
「二人とも悪いな、見送りに来てもらって」
俺が二人にそう言うと、二人は顔を見合わせ、もう一度こちらを向き
「何を言ってるんですの?私達もご一緒しますわ」
「え?」
俺は国王に顔を向ける。
「ははは…アイヴィスがどうしても付いて行きたいと言うのでね。普段はこんなことは言わないんだが、どういう風の吹き回しやら」
国王が苦笑いしながら答える。
「アイヴィス様が行くのであれば当然、私も同行する」
クライスもアイヴィスを止める様子はない。
「これからも一緒ですわね、ワタル」
俺は予想外のことに思わず笑ってしまった。付いてくるのは危険だとかそんなことは分かった上で付いて来てくれると言っているんだろう。俺は嬉しかった、どうやらこの二人と別れることになるのはまだ先になりそうだ。