俺の中に何かが流れ込んでくる。不思議と嫌ではない。そうだ、これは…
俺はゆっくりと目を開けると目の前にはメイルが居た。俺の手に触れているところを見ると魔力が枯渇した俺に、魔力を補給してくれていたようだ。
「ワタル!無理はしないと約束したはずですよ!」
メイルが泣きながら俺を叱る。良かった、三人とも無事だったようだ。…あれ?もう一人知らない少女が佇んでいる。
「そこの子は?」
俺が尋ねるとサリアが答える。
「私達が聞きたい。いつの間にかワタルのそばに居て、話しかけても何も言わないんだ」
背の低い女の子が無表情で立っているので俺は話しかけようとしたが
「主様」
逆に話しかけられた。というか俺に話しかけたんだろうか。
「主様って…俺?」
少女は首を縦に振る。
「緊急時で相手の戦力も不明のため限界まで魔力を使わせて頂きました。ご気分は如何でしょうか」
魔力を使った?この子が?俺の?疑問だらけだ。ひとつずつ聞いていこう。
「俺の方はまだ少しぼーっとするけど大丈夫そうだ。君は一体、誰だ?」
「私はマスターに仕える風の精霊、エイラです」
「俺に仕える?なんで?」
俺とは初めて会ったはずなんだが…
「主様は禁書庫に封印されていた私の封を解き、先程、主様との契約を結んだためです」
「あっ」
エイラにそう言われ、全てが繋がった。勝手に入って読んでしまった本、助けてくれれば何でもすると言った俺の言葉。そうか、あの時俺に力を貸してくれてくれたのは…
「お前だったんだな、エイラ」
「はい、契約を結んだ以上、主様とは一心同体。主様の望むことであれば私は尽力させて頂きます」
俺達の話し合いを聞いていた三人は意味がわからないと言った様子だ。当然だ、全て俺の中で勝手に起こったことなのだから。
「あれ、もう魔力が一杯になってしまいましたよ」
話をしながらも魔力補給を続けていてくれたメイルが声を上げる。
「どうかしたのか?」
「以前、ワタルに魔力を補給したときはもっと魔力の最大量が多かったはずですよ」
そう言われても俺にはわからない。だが代わりにエイラが口を開く。
「主様との契約の際、私が顕現するために主様の魔力の一部をお借りしています。おおよそになりますが現在、主様の魔力の三分の一程度を私が使わせて頂いております」
「マジで…?」
エイラは黙って首を縦に振る。あの時は時間がなかったから詳しい話を聞かずに了解してしまったが実はこれすげー燃費悪いんじゃないか?だが時既に遅しだ。
「まあ、何にせよ助かったよ。ありがとな、エイラ」
俺はエイラに手を差し出したが、エイラは固まったまま動かない。
「そのようなお気遣いは無用です。私と主様とは互助の関係で…」
エイラは講釈を垂れていたが俺は手を伸ばし、エイラの手を握る。
「そんな固いこと言うなよ。要するに俺達は仲間なんだろ?」
「そのような気安い関係では…私と主様はお互いの利害が一致しただけで…」
俺の言葉にエイラが顔を逸らしながら答える。どうやら少し気難しいようだ。
「わかったわかった、今はそういうことにしとくよ」
そう言って俺はエイラから手を放す。
「これ以上、話がなければ失礼致します」
「え、どこに…」
俺が聞く間もなくエイラはその場から煙のように消えてしまう。俺を含め全員が驚く。
『姿を顕現し続けるのは魔力を消費します。必要がある時以外は主様の中に居させて頂きます』
エイラは俺に話しかけてくれたようだが、他の三人には聞こえていないようだ。
「普段は姿消しとくってさ」
「初めてみたが精霊というのは不思議な生き物だな」
「本当ですよ、本で読んだことはありましたが、まさか実在するとは思いませんでしたよ」
「精霊ぐらいで大げさな…」
レアはあまり興味なさ気だ。レアの態度的に精霊より女神のほうが偉いんだろうか。
その後、俺達は山をあとにした。クエストが達成できなかったこと、そして予想外の敵がいたことを早くギルドに報告しなくては。
「なあ、あの人狼のことなんだけどさ、二人は何か知ってるか?」
ギルドへ帰る道中、俺はサリアとメイルに聞いてみた。
「見たところウェアウルフのようでしたが詳しくはわかりませんよ」
「私もだ、だがあれほどの敵がこんな街の近くまでいることは明らかに異常だ」
二人とも知らないか、じゃあ…
「レア、ちょっと調べてくれるか?」
レアは面倒そうな顔をしながらも本を開いてくれる。
「あのモンスターはウェアウルフで間違いありませんが、毛が黒かったところを見ると変種のようですね。それにウェアウルフの生息地はもっと離れたところです。今回、黒いウェアウルフと出会ったのは偶然に偶然が重なったもののようですね」
偶然、出会ったとはいえ、俺の知らないところにあんな化物がいたなんて…、そして、まだ俺の知らないもっと凶悪なモンスターだっているはずだ。
「世界は広いな、今回はエイラに教えてもらった魔法でなんとか…」
そう言いかけて俺は思い出した。
「そういや、あの時の魔法って?」
「あっ、それ私も気になってましたよ」
メイルが食いついてきた。そりゃ同じ魔法使いだし気になるよな。
「あの時の魔法は『
エイラが姿を現し、説明してくれる。
「精霊魔法…聞いたことがありませんよ」
「精霊魔法は精霊と契約を結んだ者にしか扱うことはできません。知らずとも当然かと思われます」
「あの時撃った精霊魔法さ。すごかったけどすごい魔力使ったよな」
「致し方ないことです。精霊魔法は元々消費魔力が高いのに加え、主様の魔力はもちろん、主様から魔力を借りている精霊の魔力も使うので、普通の魔法の二倍の魔力を必要とします」
「通りで…それでも三発が限界ってのは情けないよなぁ」
「これから魔法の鍛錬もしていけばきっともっと上手く扱えるようになりますよ」
メイルは笑顔で俺を励ましてくれた。狩人の修行と魔法の鍛錬を同時にしていくのは正直、キツイがそれが仲間を守るために必要だと言うならやるしかない。