ある日、俺達はクエストを終え、ギルドで今回のクエストを振り返っていた。
「今日はいい感じで火魔法が安定してたな」
「『今日は』とは何ですか。まったく失礼な話ですよ」
「ははっ、冗談だって」
「今回は私が空振りをしてばかりで迷惑をかけてしまったな」
「気にするなって、それを補うのがパーティってもんだろ」
もうこんな会話にも慣れてきた。俺とレアはともかく、サリアとメイルは火力がとても不安定だ。どちらかが不調な時もあればその逆も然りだ。必然、どちらかの活躍が際立つことになる。…両方とも不調の時もあるけどな。
「こう見えても私は火魔法の扱いは魔法使いの村の中でも得意な方だったのですよ」
「へー、見えないな」
「もう!失礼なことを言うと怒りますよ!」
椅子から立ち上がってプンプン怒り出すメイル。もちろん本気で言ってるわけじゃない。
ふと、ギルドの扉が開かれ、俺達の視線は一瞬、そちらに向けられた。入り口の扉が開けば視線が向くのは自然なことだ。俺はすぐにメイルの元に視線を戻したが、メイルは入り口に立っている人物を見つめたままだ。
「…どうしてこんなところに…」
メイルは絞り出すように呟くと、椅子に座り、帽子を深く被り直した。
「あの子がどうかしたのか?知り合いか?」
突然、身を隠すように顔を伏せたメイルを見て、声を掛けた。
「あ、いえ、その…」
目を泳がせて言葉を詰まらせるメイル。
「もしかしてと思ったけどやっぱりメイルじゃない。久しぶりね」
真っ直ぐに俺達のテーブルまで歩いてきた少女に突然、話し掛けられた。やはり、メイルの知り合いだったようだ。
「っ…あの…」
「なんで下向いたままなの?挨拶くらい返しなさいよ、ねぇ?」
「は、はい。お久しぶりです…よ」
「君は?」
積極的に会話をしたがらないメイルに変わって俺が尋ねる。
「初めまして、私はアロレーヌ。その子と…昔、一緒に魔法を習っていたの。あなた達は?」
「俺達は四人で一緒にパーティ組んでるんだ」
「へぇ、パーティねぇ…あのメイルが…」
俺達を順番に眺める彼女。
「…気まぐれで寄ってみただけだったけど面白いもの見つけちゃった」
小さく呟いた言葉を俺は聞き取ることが出来なかった。
「あのね?私、今日、初めてこの街に来たばかりで、全然分からないから案内してくれない?」
少女が俺の腕を掴んだ。というか顔が近い。
そして、メイルが驚いた顔をして何か言いたそうにしているのをチラリと見た。
「それは別にいいけど、顔見知りが居たほうがいいんじゃないか?なあ」
俺は遠回しにメイルの同行を提案する。しかし、メイルが口を開こうとした時
「メイル」
アロレーヌは少し目を細めてメイルの名前を呼ぶ。
「私、この人と二人で街を回りたいの。言いたいこと、分かる?」
メイルは一度、口をつぐみ、再び開く。
「…はいですよ。ワタル、お願いしますよ」
笑顔で答えるメイル。だがその笑顔はいつもと違って見えたのは俺の気のせいだろうか。
街を案内して欲しいと言われて、街の中を順番に歩いていた俺とアロレーヌだったが、俺の言葉に相槌を打つ彼女はどこか興味がないように見えた。代わりに聞かれたのはメイルのことばかりだった。普段の様子、パーティでの役割…やはり同じ村の出となると気になるのだろうか。
「メイルはさ、火魔法しか使えないし不器用だけど良い奴なんだ。だから俺も頼らせてもらってるよ」
「へぇ…あの子がねぇ…」
「アロレーヌはどの魔法が得意なんだ?」
「私は得意な魔法も苦手な魔法もないかな。満遍なく魔法を修めるのが私のやり方だから」
「へえ、見てみたいな」
「うーん、見せてあげてもいいんだけどどうしようかなぁ」
話をしていると街を一周し、ギルドへと戻って来た。俺達は、再びテーブルへと戻り、三人と合流する。
「案内、ありがとね。楽しかったわ」
「そう言ってくれると嬉しいよ。そういや君はどうしてこの街へ?」
「お父様の仕事の都合でちょっとね。しばらくこの街に居ることになると思うの。だから…」
アロレーヌが机越しに俺の顔を覗き込む。
「私をあなたのパーティに入れて欲しいな」
俺は思わぬ提案に驚いた。
「いや、別に俺のパーティってわけじゃないから勝手に決められないんだけど…どう?」
俺は三人に顔を向ける。
「私は別に構わない」
「私もどちらでも」
サリアとレアは二つ返事だ。
「その…パーティに魔法使いが二人になってしまいますよ…?」
メイルは少し暗い顔で答える。
「言われてみればそうだな。このパーティに魔法使い二人ってどうなんだ?」
「あまり見かけない編成だが有り得なくはない。やってみて決めてもいいんじゃないか?」
「そう…ですね。それでいいと思いますよ」
「そういうことなら問題ないな。それじゃ、宜しく」
「うん、宜しくね」
彼女は満面の笑みを浮かべると、仲間に一人ずつ握手をしていく。少し顔を逸して手を取るメイルへ、笑顔を向ける彼女。その二人を見て少し不安になったが、サリアとメイルが初めて会った時もこんな感じだった気もして、俺は何も言わなかった。
その日は既に日も沈みかけている時間だったので、明日から一緒にクエストに行くことになった。いつもならギルドで俺とレアは屋敷へと帰るのだが、今日はメイルと話したいことがあったのでメイルの宿まで一緒に帰ることにした。
「なあ、メイル」
俺は今日一日、どこか元気のないメイルに話しかける。いや、正確にはアロレーヌと出会ってからだ。
「もしかしてアロレーヌとパーティ組むの嫌だったか?」
「…そんなことはないですよ」
「そうか?でも苦手っぽいよな。昔に何かあったのか?」
「何か、という程でもありませんよ。ただ彼女は魔法の扱いが上手でしたし他の魔法使い仲間からも尊敬されていて、私とは全然違いましたよ」
こちらに顔を向けずに話す、メイルの表情は暗い。
「だから自分と比べてしまって勝手に落ち込んでいただけですよ」
「…それだけじゃないんじゃないか?」
「っ…何を言っているんですか。他に何もありませんよ?」
一瞬、顔を伏せたメイルだったが、すぐに顔を上げると笑顔で答える。
「それならいいんだけどさ。明日はメイルが魔法使いとして成長したってところを見せてやろうぜ」
「はい、任せてくださいよ。それではまた明日、ですよ」
ちょうど宿に着いたところでメイルは俺に手を振り、別れた。去り際のメイルが少し早足で歩いていたのが気になったが呼び止めることはせず黙って見送る。俺に言えない何かがあったことは確かだが自分から言いたくないことを無理に聞き出すことはしたくない。そのうち話してくれればいいんだが…