空母「エイブラハム・リンカーン」にて
空母に着艦した俺達はかつて奴隷解放を成し遂げた偉人の名を持った空母の甲板からこれから戦場となる場所を見つめた。そこは天気が快晴であるにもかかわらず黒い靄のようなものがかかっている。
「あれが全部ヤクなんですか?」
岬は心配そうな声を上げる。それもそうだろう。今から俺達はあの中へと突っ込むからだ。そんな時に米パイロットが声をかけてきた。
「そこの日本のお二人さん。ブリーフィングルームに集合だそうだ」
「分かった。教えてくれてありがとう」
「いいってことよ。じゃあな」
手を振って別れた後に岬に向き直った。
「それじゃあ、行こうか」
一方、こっちでは二人の「スカイ」が話をしていた。
「ねぇ、ねぇ!!あなたがファントム?」
「・・・・・」
アバランチが明るく接しながら黒髪の少女に話しかけている。そうファントムである。
「はぁ、あなたはもしかして・・・」
「あ!やっと話してくれた!名前はね。アバランチって呼ぶんだ。よろしくね」
「よろしく」
明るく返すアバランチとは対照にファントムはどこか冷たげな感じだった。
「うん?」
ファントムはどこからか視線を感じた気がした。しかし見渡しても誰もいない。
「気のせいか」
彼女の今の問題はアバランチだ。彼女はアバランチを適当にあしらいながら空母の艦内に入った。
「こちら02。発見した。指示を」
見ている黒い影に気付かず。
ブリーフィングルームにて
ブリーフィングルームに最後のパイロットが集まったところで米軍の少佐が説明に入った。
「みんな集まったな。それではオペレーション カウンターアタックの説明に入る」
皆が緊張の面持ちになる。
「今回の作戦には我が軍を中心としたヤク打撃作戦だ。そして民空も特例として戦力に組み込んでいる。仲良くしてくれよ」
それを言うと俺達の視線が更に強くなり、俺のストレスもマッハだ。
「それでは本題に入るが今回の作戦は三つのフェイズに分かれている」
画面に地図が映る。
「フェイズ1は民空、アメリカ軍、フランス軍のスカイ部隊の航空支援でヤクの航空戦力を削いだ後に航空部隊と上陸部隊が海岸線に上陸する。偵察によれば多数の機銃陣地、トーチカ、ヤクの陸上タイプが配備されているようだ。スカイ航空部隊はヤク航空戦力を排除出来た場合は航空部隊と合流し、上陸部隊の支援を行ってくれ」
地図が変わった。
「フェイズ1が終了した後は補給を受けて、フェイズ2は市街地戦だ。ここの地形は入り組んでおり、航空部隊の支援が行えないうえに敵の奇襲を受けやすい。その為、市街地解放の先陣をきるのは特殊部隊だ。特殊部隊の作戦行動が終わるまでは航空部隊、地上部隊共に進軍してくる敵増援を叩く。そしてフェイズ3、これが一番重要だ」
再び、地図が変わる。
「フェイズ2で解放できた市街地を通り、一気にイタリア首都まで進軍する。激しい抵抗が予想されるが諸君らならそれを退けられるだろう。首都まで着いたら一気に偵察衛星がとらえた敵中枢体を攻撃する」
「地図に映っている大きな点をバンと叩いた。
「作戦説明は以上だ。何か質問は?」
少佐は部屋全体を見渡し、頷くと
「いないようだな。諸君らの活躍を期待している」
敬礼をした。
作戦開始時刻5分前にて
「何?先発隊が先に出たって?」
F/A-18Fの操縦席で飲み物を飲んでいると岬がそのことを話してくれた。
「そうみたいです。どうやらスカイを連れずにいったみたいで返ってきたのはほんの十人ぐらいだったそうです」
「そうなるな」
むしろなぜスカイを連れずにいったのか気になるところだ。大方、どこかの部隊が勲章欲しさに独断専行したんだろう。
「起こってしまったものは仕方がない。俺達は俺達の任務をこなすだけだ」
「そうですね」
その会話が終わると兵士が「時間だ」と叫んだ。既に何機かは空に上がっている。
「時間みたいだ。今回は支援になってしまうが気をつけてな」
「はい。空井さんの分まで頑張ります」
そういうと「ファントム!」と彼女といっしょに自分の機体に帰っていった。自分も飲み物を飲み終えてキャノピーを閉める。
「アバランチ、いいか?」
「OK、いつでもいいよ」
確認を取り、機体を起動させる。振動がここからでも伝わってくる。エレベーターの位置まで来て、少し待つとガクンという衝撃と共にエレベーターが動き出す。ここで軽く呼吸を整える。エレベーターが上まで完全に上がるとクルーの指示に従ってカタパルトまで移動する。
「ここまでいっぱいとはな」
さすがに混雑しすぎだった。空井が定位置まで着く前に何機かのスーパーホーネットが飛び交っていった。そのあとも息を吐く暇もなく、ひたすら空へクルーは上げ続けている。
カタパルトの位置まで来ると機クルーによる最終確認ののちに体をカタパルトシャトルに固定させた。左には岬のF-4Gがいる。そして後方の甲板が起き上がる。ジェット噴流対策のための防護装置だ。クルーが離れていく、いよいよ離陸だ。
カタパルトオフィサーが腰を落とし、腕を前に上げる。ゴーサインだ。
「っ!」
蒸気圧で加速された機体が一気に前に出る。空母の甲板が見えなくなるまでほんの少しの時間も必要なかった。後方からはF-4Gがついてきている。どうやら無事に出来たみたいだ。
『こちらビッグアイだ。そちらの民空聞こえるか』
「感度良好だ」
『そうか。私はビッグアイ。君たちの管制を今からする。よろしく頼む』
「こちらこそ。ビッグアイ」
AWACSとの軽い自己紹介を終えた。
『セイバー、まずは東側の味方部隊と合流してくれ』
「了解した」
東へと進路を向けた、既に戦闘は始まったらしく爆炎がここからでも見えた。
「こちらセイバーだ。東側の味方部隊聞こえるか?」
すると雲を突き抜けて、F/A-18E/Fの編隊が姿を現した。
『よろしく民空さん』
『頼んだぜ。期待している』
パイロット達が編隊を組みながら声をかけてくれる。
『ダル1、ダル2私語は慎め』
そしてすぐに来るAWACSの叱責。早いな。伊達にAWACSに乗っている訳じゃないようだ。
『君たちの任務はもうわかっているはずだ。ダル隊は味方地上部隊の掩護をしろ』
「了解した。行くぞ岬」
『はい』
目の前にヤクの集団が現れた。数は五。
「エンゲージ」
「エンゲージ!」
一気に距離が縮まり、ヘッドオン。
「FOX2!」
一応備えておいた一番のミサイルを切り離す。一気に両方の距離が縮まり、相手が回避行動をしたが遅かった。機体とミサイルが接触し、バラバラに砕けちった。
「まずは一機!」
「Greit!」
アバランチが喜ぶがすぐに敵機が向かってくる。機体を素早く旋回させる。機体がさっきあったところに敵の銃弾が通る。
「電子支援機がやることじゃないぞ!」
思わず愚痴る。ECMを持っている分、機体重量が増える。焦っているとふいに後ろで爆発が起きた。
『遅れました!』
岬のF-4Gだった。後ろからも他の部隊がヤクを追っ払ってくれている。
『こちら航空部隊!電子支援を求む!このままじゃ蜂の巣だ!』
米軍のパイロットの通信が入った。どうやらかなりやばそうだった。
「やるぞ。アバランチ」
「OK、準備はできてるよ!」
確認を取り、ECMを起動させる。これをただの電子支援ポッドと侮ってはいけない。スカイが電子支援を任せることで通常よりも格段に電子支援の範囲が広くなり、妨害が強くなる。案の定敵は電子支援を喰らってミサイルの機動が落ちていた。
『電子支援機が来てくれた!』
『各隊、立て直しを図り、攻撃を再開しろ』
どうやら味方部隊は助かったようだ。
「アバランチ、次の敵は?」
「再び、20機以上が来ている。このままだと地上部隊に5分後に接触するよ」
その情報をAWACSに送り、僚機であるF-4Gを見る。ふとある事を思い出す。
作戦開始 一日前 「アメリカ」艦長室にて
「どうしたんだ。こんな時間に?」
「ごめんなさいね。実は岬ちゃんの事なんだけどね・・・・」
「?どうしたんだ。トラブルでも起こしたか?」
空井は岬がトラブルを起こすはずが無いと不思議に思った。普段、整備員などの船員と仲良く出来ている。トラブルなど起こるはずがないのだ。柊は頭を横に振った。
「違うわ。これを見て」
柊は持っていた書類を空井が見えるように広げた。
「これは岬がこの航空団に来る時に民空本部から送られてきた彼女の書類だよな」
「そうよ。彼女がどんな人物かは分かっているよね」
「ああ。確かどこかの金持ちのお嬢様だろ。最初は冗談だと思ったよ」
岬は日本で有名な企業の社長の娘だそうだ。どうしてそんな子が戦闘機一つでこの世界に踏み込んだかはあまり聞いていない。
「あなたも気になってはいたでしょう?彼女の正体が何なのか」
返事は必要なかった。黙って聞き続ける。
「あの子とファントムには悪いけど少しだけ調べさせてもらったわ。あの子の機体は今まで見てきたどのF-4Gの機体とも違う。スカイ機も含めてね。ガンポッドなどの装備が積まれているカスタム機よ」
ガンポッドについては彼女が来たときから分かっていたがまだあったようだ。
「そしてもう一つ。彼女の他にこの作戦の参加メンバーもきな臭い」
「どういうことだ?」
更にもう二つ書類を見せる。それをしばらく見渡すとあっ、と空井は声を上げた。
「そうなぜか軍属に入っていないものが巧妙に隠されているわ。書類面や兵士は騙せたようだけど私の目に入ったのが運の尽きね」
妙に誇らしげな顔をしているが黙っていることにした。あまり変な事を言うとぶっとばされるからだ。
「本題に戻すわよ。今回の作戦はきな臭いわ。岬ちゃんには悪いけど彼女とファントムそして怪しい人物にはくれぐれも気をつけて」
「ああ、分かった」
口では言ったがやはり納得いかないまま、空井は艦長室を出た。
『セイバー?セイバー、応答してください』
岬の声にはっ、となった。思考の渦に飲まれていたようだ。
「すまない。で、どうしたんだ」
『いえ、これから味方地上部隊の支援に向かおうと思って』
少し機体を斜めに傾けてみると戦闘がさっきよりも激化していた。この地域のヤクは航空部隊の活躍とアバランチの電子支援でどうにか保っているようだ。
「了解した。こちらは受け持っておく。好きなだけ暴れて来い」
『はい!』
『了解した』
ファントムの機体が一気に降下していく。そして手近な敵地上部隊を見つけると自身の機体に取り付けてあった無誘導爆弾を切り離し、地上が一瞬で火の海になる。
「うわ・・・けっこうエグいなこれ」
「アバランチにも爆弾もらえたらできるもん!!」
アバランチがそれを見て、悔しそうな声を出す。やめろ、俺を殺すような視線は何だ。視線は。
「わ、分かった。あとでLAGM(無誘導爆弾)を頼んでいてやる」
「やった!!」
喜ぶ声を聴きながら、自分の財布がまた軽くなるのと無誘導爆弾ではなく、対艦ミサイルが手に入ったらこの作戦に何の需要も無いのでとりあえず責任者を絞め殺そうと思う。
『こちらビッグアイ。話の途中ですまないが敵が二機ホバークラフトに接近中だ。残弾は大丈夫か?』
残弾を横目で確認する。大丈夫、あと2発はある。
「了解した。任せろ」
『すまない』
まったく、電子支援機のホーネットを使わないといけない程、戦力がキツいのか。文句が言いたくなってくる。
「聞いたな。行くぞアバランチ」
「OK!どんどん落とすよ!」
やっぱりどこかで雰囲気が似ていると思ったら、こいつアンタレスに似ているな。そう思っているとホバークラフトに向かっている機体が見えた。ヤクだ。
「FOX2!」
二発のミサイルを撃つ。一機には避けられ、もう一機は被弾し、速力が目に見えて落ちているところに機銃を浴びせて撃墜した。
「後ろ!!」
アバランチが警告すると同時にミサイルアラート。
「フレア!」
後ろで赤い閃光が生まれる。ヤクが撃ったミサイルはそれに惑わされて爆発する。ヤクはミサイルは効果が薄いと思ったのか機関砲で撃ってくる。それを巧みにかわす。機首を海面に向ける。ヤクもピタリとついてくる。
「ここっ!」
Gを体に感じながら、機首を上げる。ヤクは急激な機動についてこれず、更に海水を一気に被ったためにバランスを崩して海面に激突する。
『こちらダル1。セイバー、危なかったぞ!』
あ、さっき何かに横切った思ったら、ダル1のスーパーホーネットだったのか。
「すまない。許してくれ」
すると『いいよ。別に』と通信を切った。
(そういえば柊は・・・・)
アメリカとイギリス側何とか戦線を維持できているが他の戦線はどうなのだろう。
『セイバー、まもなくヘリが来る。支援を頼む』
「了解」
まずは身内から助けなくてはいけない。空井は海岸の空へと飛んで行った。