やっぱり、アノス様は格好いいですよね。自分の執筆スキルではあの方や他のキャラクターの喋り方をきちんとトレースできているかは分かりませんが、それでも良い方はどうぞ。
まだ読んだことのない方は「小説家になろう」でネット連載やっているので、そちらでもよければ追ってみてください。文庫版と多少の違いはありますけど、大きな違いはないと思いますので。
それでは、本編どうぞー!
とある草原にその男は立っていた。その男は誰を待つでもなく、その場に立ち尽くしていた。何の目的があるのか、何の考えがあるのか。傍から見たとしても、皆目見当つかない事だろう。
しかし、暫くすると草原に地響きが響き渡る。最早、立っていることも難しいほどの揺れを受けても、その男は何の影響も受けていなかった。そんな物、何の意味もないと言わんばかりに。そして、地面が爆発するのと同時にとある存在がその場に現れた――――それはまさしく幻想の頂点たる竜だ。
「ハァ……」
その男がため息交じりに視線を向ける。その視線を受けた竜たちは――――
総ての魔族たちの頂点たる魔王こと『暴虐の魔王』アノス・ヴォルディゴードが統べる都市【ディルヘイド】では、大変な騒ぎが起こっていた。とある草原に複数種の竜が集まっている。しかも、ただの竜ではなく古竜や異竜の群れだ。その群れがディルヘイドに向かえば、大きな被害を生むことだろう。
さらに都合の悪いことに、魔眼で現地の様子を見ようとした者たちが皆意識を失った事だろう。幸い、ただ気絶しているだけのようだが、こちら側からの干渉の一切を遮断している何者かがいる事は間違いない。その者がそれだけの竜を支配しているとなれば、相当な実力を有しているのは間違いないだろう。
「アノス様、いかがいたしましょう」
「メルへイス、その竜どもはその場から動いていないのか?」
「はい。その草原からは一切動いておりません。まるで、何かを待っているかのように」
「待っている?何を待っていると思う?」
「分かりません。しかしながら、こちらからの行動は総て迎撃されていますがあちら側からの行動がありません。あれだけの数の竜です。我らが魔王様やシン殿であれば難なく対処可能ではありましょうが、我々だけでは被害が出る可能性があります。
我々に敵対する気があるのならば、その軍勢をこちらに向けてくればいい。しかし、それをしてこないという事は」
「その場でしなければならない何かしらがあるか、それとも敵対する気がないか」
「そのように愚考します」
「なるほどな。エクエスを倒し、世界を新たに創りなおしたばかりだというのに忙しいものだな」
「申し訳ございません」
「謝る必要はない。そちらは俺と配下たちで解決してやる。メルへイス以下魔皇たちはディルヘイドの守りを万全なものとせよ。いざとなれば、魔王城の地下を解放し避難せよ」
「はっ、かしこまりました」
その言葉と共に、アノスは仲間であり配下でもある【ミーシャ・ネクロン】・【サーシャ・ネクロン】・【レイ・グランズドリィ】・【ミサ・イデアローグ】と共に草原を訪れた。『
ただの魔族ではそれだけで気を失ってもおかしくはないほどの圧。しかも、それが魔力によるものではなく、ただひたすら単純に。
「なるほどな。確かに、これだけ力の差があるのなら撃退されたとしてもおかしくはないだろうな」
「ちょっと、これ本当に大丈夫なの?」
「何を心配している?サーシャ。俺の配下なのだ。胸を張っていれば良い」
「そうは言うけど……今までの神の比じゃないくらいの力を感じるんだけど?」
「確かに。これはエクエスに匹敵するか、それ以上の力を感じるね」
「それ、大分まずいんじゃないですか?」
「大丈夫?」
「なに、今のお前たちがいれば問題あるまい。それに相手も敵対する気がある訳ではないようだからな」
アノス達が視線を向けた先には、頭を地面にひれ伏させている竜たちの頭をなでる男の姿があった。背中越しではあるが、鮮烈なまでの紅を感じさせる髪色。遍く竜を従えるその姿からは、まさしく竜たちの頂点たる竜の王者たる力を感じずにはいられなかった。
近づきつつあるアノスたちの気配に、頭に触れていた手を放して横に振るう。すると、彼の影が広がる。その行動に警戒心を強める一行だったが、その影は周りにいた竜たちを覆う範囲でとどまった。しかし、次の瞬間には竜たちは影の中に沈み込んでいった。
竜たちはその行動に一切抵抗せず、ただ唯々諾々と従っている。古竜・異竜問わず、総ての竜が影に呑みこまれて姿を消した。男のその有り様はまさしく王のようで、しかし同時に絶対的な神性を身体から漂わせていた。
「はじめまして、この世界の子らよ」
「俺は【暴虐の魔王】アノス・ヴォルディゴード。お前の名は何という?」
「俺の名か……そうだな、アルフとでも呼んでくれ。本当の名前は別にあるが、この世界では発音できないからな」
「ほう……この世界、か?」
「ああ。君も気づいているのではないかな?この世界の外にも世界は存在する。詳しい事は外の世界の住人に聞くがいい。俺はその枠組みにも収まらぬ故な」
「では、お前はどういう存在なのか聞かせてもらえるか?」
「その前に。この世界はもしや最近、創造を行ったか?」
「確かに行った」
「なるほどな。その余波、という訳か。ああ、悪いな。こちらだけで納得してしまって。さて、俺がどういう存在か、か……」
「答えられないのかい?」
「そんな事はないとも。ただどの世界の理屈から言っても荒唐無稽故な。理解してくれるかどうか、という心配がないわけではない――――が、まぁ良いだろう」
男――――アルフは本当に些細な事だと言わんばかりに口にする。それがどれだけ大きな事だとしても、否大きな事だからこそ気にもせずに口にする。理解など越えた領域にある答えを口にする。
「この身は覇道神格。お前たちのいる世界を大海の一滴とするなら、俺は大海そのものを統べる神。遍く夢幻を果てなく守り、愛し続ける神。それこそが俺だ」
「神ですって?」
「そうだとも。破壊の神の成り代わりよ。とはいっても、俺は本体の分霊のようなものだ。だから、お前たちの前でこうして会話することが出来ているというわけだ」
「本来は言葉を交わすこともできないと?」
「それはもちろん。俺はいわば概念に近い代物だ。会話などすることはできないのは寧ろ当然と言うべきだろう?神とは元来、そういう物なのだからな」
「どういう事、ですか?」
「神とは祈る相手。頼る相手でもなければ、交わる相手でもなく、触れ合う相手でもない。君たちはそばに神がいるから分かりにくいかもしれんがな」
「私はあなたの事を知らない」
「それはそうだろう。俺は君の親ではない。であれば、俺の事を知らずとも無理のない事だ。俺はいわば、君のご先祖様みたいなものだからな。まぁ、この世界より外に出れば、もしかすれば俺の事を知る神もいるかもしれん。俺の事を話す事かどうかは知らんがね」
そういうアルフは肩をすくめる。あまりにも気安く、神域にいる神々のような頑なさは感じさせない。振り撒かれている力を除けば普通の人間と称した方が良いのではないかと感じさせるほどに、その男は神らしくないと感じていた。
「神らしくない、か……まぁ、無理もなかろう。俺はお前たちの知る神々のように、秩序に縛られている訳ではないのだからな」
「神とは秩序を体現する者なのではないか?」
「そういう言い方をするのであれば、俺は夢幻の神。いわば、可能性を体現する神だ。だからこそ、総ての根源、総ての秩序は俺に端を発するものだ。だからこそ、俺は秩序に縛られていないという訳だ」
「可能性の、神……だったら」
「うん?」
「どうして、この世界の不幸を見逃し続けてきたんですか?」
「ふむ……」
「あなたなら、この世界の不幸を、いろんな神々や人々が行ってきた行動を、エクエスという神が齎した絶望を覆すことが出来たんじゃないんですか?そうすれば、これまで犠牲になってきた人たちは救われたんじゃないんですか?」
「何故?」
「え?」
「何故、俺がそこまでしなければならない?俺は言ったはずだ。神とは祈る相手だと。遍く困難や不幸、絶望に抗うのはその世界に生きる者たちだ。力があるのだから、それを何とかしろというのは不遜な言い草だと思わないか?犠牲になった者たち、己の命を賭して大切なものを守った者たち。それらの者たちへの侮辱になるとは考えんのか?」
「それは……でも」
「先も言ったが、俺は可能性の神。あくまでもお前たちの道行きに様々な可能性を齎すだけの神。問おう、精霊と魔族の間に生まれた偽の魔王。何故、俺に総てを救うべきだなどとのたまう?」
「あなたが本当に可能性の神だというのなら、この世界に安寧を齎す事も可能だったはずだ。可能性云々というなら、その未来を導いてほしかったと思うのは間違いなのかな?」
「言っただろう?聖剣に選ばれた勇者。俺は可能性の神だと。様々な未来への可能性を進む権利を与える者であって、最善の未来へ導く存在ではないのだ。最善の未来は、お前たち自身の手で切り開くものだ。知りもせん他人から齎された未来に、いったいどれほどの価値があるというのか」
未来は己の手で切り開くしかない。それはアルフ自身の経験から悟っている事だ。誰かが何かをしてくれる、目の前の困難を斬り裂いて自分を助けてくれる英雄の存在など、期待する方が間違っている。総て、己自身の、或いは隣人と共に踏破するしかないのだ。
力があるのだから救えなどと言うのは、己や隣人に対する不信でしかない。信頼するのは構わないし、信用しても何も言いはしない。しかし、まったく関係のない相手にどうにかしろなどと、口にすることは恥知らずの所業でしかない。
「お前たちはこの世界の絶望に耐えてきた。そして力を尽くして、絶望を齎してきたエクエスを打倒し、絆をもってこの世界を創造した。ならば、その結果を誇れ。それを覆しうる存在が現れた程度で、自分たちのなした行いを否定するようなことを口にするな」
「随分熱がこもっているな。何か思う事でもあるのか?」
「それはそうだろう。俺は俺の世界で生きる者たちの想いを愛している。ならば、その世界で生きる者たちが己のなしたことを否定すれば怒るだろうよ。そうでなくとも、俺の想いとも相反することを口にされればそれは怒るだろう」
「お前の想いと相反する?」
「そうだ。人はより良い未来を望むものだ。それが世界にとっての害であるのなら、いや、世界などという大きなスケールでなくとも。たった一人、愛する誰かのために立つこともできる。様々な可能性を、様々な未来を作り出すことが出来る。それが絶望であれ、希望であれ、真摯に未来を想って生きるその姿のなんと美しい事か。
俺はそういう物を見ていたい。誰かの介入などもっての外だ。自らの未来は自らの意志によって切り開くしかない。【暴虐の魔王】アノス・ヴォルディゴードよ。お前はそうやって未来を紡いできたのではないのか?」
「随分と語るではないか。そこまで世界には関わろうとしなかった者が何故、今更ここに来たのだ?」
「理由というほどの事はない。この新しく創造された世界に興味の湧いた本体が、分霊として俺を送り込んだに過ぎない。純粋な興味だろう。ついでではあるが、この世界に残された害悪になる事しか出来ない竜たちを回収するためにきたというのもあるがな。……まぁ、強いて言えばもう一つあるがな」
「竜たちを、何故?」
「他者の根源を食らう事しかできない竜たちはこの世界では害悪にしかなれない。彼らも生きたいだけだろうに、共存することが出来ないのなら離してやるべきだ。そうでなくとも、俺は赤い龍の帝王。遍く竜種の頂点に立つ存在である。同種を庇護することの何が疑問か?」
「赤い龍の帝王?お前は可能性の神なのだろう?」
「それがどうした。その二つが両立しないとでも?俺は可能性を、夢幻を司る覇道神格であり、同時に遍く竜種の頂点に君臨する赤き龍の帝王でもある。ただ、それだけの事だろう」
『まだるっこしいなぁ、赤龍帝!グダグダしすぎなんじゃねぇのか!?』
「ふんっ!」
アルフがそう言った瞬間、影が開きそこから巨人型の龍が現れた。戦闘かと思ったアノスたちだったが、アルフが振り返りざまにその龍を殴り飛ばした。明らかに人体比がおかしなことになっているが、そんな事は欠片も気にしていない様子のアルフが頭を下げた。
「すまんな、ヴォルディゴード。どうもうちの戦闘狂いがお前たちのオーラに触発されて出てきてしまったようだ。すぐに沈めてくるから、ちょっと待っていてくれ」
「いや、構わん。ここで待っているから、好きにしてくれ」
「感謝する、ヴォルディゴード。なに、そう手間はとらせんから暫し待ってくれ」
そう言うと、アルフは即座に身を翻し吹き飛ばした龍のところまで移動していた。断続的に響き渡る衝撃と殴打音がその攻撃の壮絶さを物語っていた。その光景を目にしながら、レイはアノスに視線を向けた。
「アノス、彼の事はどう思う?」
「この世界に対する害意はないだろう。少なくとも、エクエスのように絶望をふりまこうなどとは考えていないだろう。その必要もないだろうがな。あれだけの力を持っているのなら、そんな事をせずともぶつかり合えるだろうがな」
アノスですら、アルフの実力を測り損ねていた。それが彼が分霊だからなのか、この世界の存在ではないからなのかは分からない。しかし、この世界における真なる神であったエクエスを打倒してみせたアノス・ヴォルディゴードをして、測りきれない実力。
それがどれほどの事か、論ずるまでもない事だろう。先ほど、アルフの影から現れ現在そのアルフの手でボコボコにされている竜にしても、言語を理解するだけの知能がある時点でこの世界の竜とは一線を画す存在といえるだろう。そして、それを一切の手出しすら許さずに圧倒するアルフもまた。
「さて、待たせたな」
「なに、気にはしておらぬ。それよりも、聞きたいことがある」
「ふむ、何かな?」
「お前は先ほど言っていたな。この世界に来た目的は、新しく創造されたこの世界への興味と竜たちの回収だと」
「そうだな。それがどうかしたか?」
「その後に、もう一つ理由があると言っていただろう?その理由を聞かせてもらいたいな」
「なに、大したことではないよ。先も言ったが、本体がこの世界に興味を持ったから俺は来た。本来、この世界を統べるべきである神を打倒し、新しく創造されたこの世界。エクエスはこの世界を象徴する神だった。しかし、それを打倒した不適合者……まぁ、興味が湧くわな?」
「この世界が興味があったのではないのか?」
「今更、世界の創造などにどれだけの意味があるというのか。そんなもの、俺が片手間に起こせる奇跡と何も変わらん。分かるか?そんな事象には欠片も興味は分かんのだよ。別世界より流れたその根源。世界のありようを変えてのける、その有り様に本体は興味を抱いたのだ」
「ほう……つまり?」
「俺の目的はお前を測る事だよ、アノス・ヴォルディゴード。なに、気にするな。今の俺がエクエス同程度の力しかないし、この世界へ何か影響を及ぼすこともない。覗いているであろう俺の本体も、お前の力が見たいだけでこの世界に同行したいわけではないからな」
「なるほど。神らしい言い草だな」
「それは当然だろう。なにせ、俺は神なのだから。他の者たちも参加しても良いぞ。俺の本体が気になっているのは、あくまでもヴォルディゴードの力だが他の者たちの力も是非見せてもらいたい。俺に見せてくれよ、お前たちの愛と絆をな?」
その言葉と共に、アルフから膨大な量の魔力があふれかえる。文字通り、大河といっても遜色ないほどの濁流に、しかし膝を屈する者は誰もいなかった。誰しもが傲岸不遜と言わんばかりの笑みを浮かべる。そんな物は慣れっこだと言わんばかりに、彼女らはその神に立ち向かう。
「分かりやすいじゃない。戦って分からせればいいんでしょ?」
「頑張る」
「この世界の危機、という訳じゃないんだろうけど。全力を尽くさせてもらうよ」
「私も頑張ります!」
「どうだ?我が臣下たちは」
「素晴らしい。俺も信頼する者たちはいるが、お前とお前の臣下たちの間にある絆もまた美しい。だから、どうか――――お前は俺を失望させないでくれ、ヴォルディゴード。お前たちの間にある絆に劣らぬ美麗な景色を、俺に見せてくれ」
「良いだろう。ならば、存分に楽しむがいい。その代わりに、お前も俺を興じさせよ!」
「良いとも。せめて、お前が力を揮う場ぐらいは用意してやろう。存分に楽しめ、滅びの王ヴォルディゴードの末裔よ――――!」
開戦の狼煙は上がった。ここに、誰にも語られることのなき神話の戦いが始まる。誰の記憶にも残らぬその戦いを、夢幻とその眷属たちは楽しげに見守るのだった。