りっく☆じあ~す 中央混成連隊、前進す! 作:土居内司令官(陸自ヲタ)
市ヶ谷は、高校生の頃交際していた事があった。
それなりに上手くいき、友達からも羨ましがられるような交際だった。
しかし、そんな関係はすぐに壊れた。
「愛、どうしてさせてくれないんだ」
「だって、心の準備が……」
「いつもいつもそう言って、もう何度目だよ?」
「いざとなると、怖くなって……」
すると、彼氏は市ヶ谷を押し倒した。
「もう今日は止めねぇぞ。お前の身体をいつまでも放っておけねえんだよ」
「い、嫌ぁ……」
市ヶ谷から涙が溢れる。
「何が嫌だ! おれはずっと我慢してきたんだ!」
彼氏が市ヶ谷の制服のスカートを脱がし、胸を鷲掴みにする。
「やだやだ! 止めてぇ!」
「止めねぇつってんだろ!」
余りの恐怖に、市ヶ谷は彼氏の股間を蹴り上げた。
彼氏は悶絶する。
「愛、てめぇ……」
市ヶ谷は逃げ出した。
「なるほど、市ヶ谷さんは無理矢理されそうになったんだ」
「未遂でも刑罰の対象だからなぁ」
「私も似た事されたような」
「お前、合意しただろう?」
「最終的にはね。でもいきなり押し倒されたら、ねぇ? それに『優しくする』って言ったのに、結局激しくするし」
「それは謝る。てか、謝っただろ!?」
「足りない。初めて奪った責任取れ」
そんな会話が聞こえてくる。市ヶ谷が目を開くと、見慣れない天井だった。首を回して見ると、自分がダブルベッドで寝ているのが分かった。
起き上がる。目に違和感を感じ、こすると大量の目脂が取れた。
「どれだけ泣いたんだろう、私……」
そして気付く、自分が下着姿であることに。
「……!?」
見れば、ベッド脇の小さいテーブルの上に、自分の制服が畳んで置いてあった。高校のではなく、陸上自衛隊の女性自衛官用夏服であった。
着替えようと立ち上がるが、よろけて倒れてしまった。
隣の寝室から大きな音が響いて、土居内と霧本は驚く。
「何だ?」
土居内が扉を開けると、そこには床に倒れて上半身を起こす市ヶ谷がいた。その姿勢により、下着姿である事も手伝って、ただでさえ大きな胸がさらに強調されていた。
2人は固まり、土居内は、まるで手榴弾を投げられたように司令官室へと飛んだ。床にダイブして伏せ、頭を守る。
霧本は呆気に取られた。
「何してんの?」
「……習慣、職業癖」
市ヶ谷は慌てて制服を着る。
「どうして、私は寝ていたんですか?」
その後、着替え終わった市ヶ谷はソファに座り、隣に座った霧本とデスクの土居内に訊いた。
「あなたが、高校時代のトラウマを話している時に倒れたの。泣き疲れたんじゃない?」
霧本は言う。土居内は9mm拳銃を分解している。
「無理に言わせてごめんなさいね。思い出したくなかっただろうに……」
「いえ、いつかは言わなければなりませんし……」
すると、土居内は9mm拳銃の銃身をスライドに差し込みながら質問する。
「で、その元彼がストーカーになったから自衛官になったのか?」
「司令官は何でもお見通しですね……ええ、そのために防大に入ったんです」
「全寮制で警備も厳しく、学費も掛からない、その上就職先も限られているが接触は難しい……逃げるには最適な大学校だ、学力があれば」
土居内は9mm拳銃のスライドを引いて分解清掃を終える。
「防大には、そんな理由の人がいたんだ」
霧本は言う。すると、土居内が答える。
「市ヶ谷の理由は極めて特殊だが、防大入る奴が全員自衛官を目指す訳じゃない。実際毎年何人かは一般に就職するし」
霧本が口を開いた。
「じゃ、何であんたは自衛官になったの?」
「前に新潟出身って言ったろ?」
「聞いてない」
「とにかく、俺は中学の時まで新潟にいた。で、新潟県中越地震で被災した」
霧本は言葉を失う。
「怪我したの?」
「掠り傷ぐらいだ。でも家が倒壊しそうになって、避難した。その時自衛隊の世話になったんだ」
新潟県のある体育館にて――
「本当助かりました。ありがとうございます」
土居内の父親が礼を言う。そこには戦闘糧食1型を配る陸自隊員がいた。
隊員は一瞬はにかむと、こう言った。
「いえ、我々自衛隊が活躍出来るのは、皮肉にも災害や戦争が起きた時だけですから」
その言葉に、体育館にいた者は言葉を失う。
「自衛隊が活躍するという事は、悲劇が起きているという事ですから」
「では、どうして自衛隊員に?」
土居内の父親が訊く。
「そうですね、やはり『命を懸けても日本国民を守りたい』ですかね。模範的ですが、人が死んで悲しむ所は見たくないんです」
その陸自隊員は、暗い顔をして話す。
土居内は、その陸自隊員の言葉を忘れる事は無かった。
「それで自衛官になったんだ」
霧本と市ヶ谷は何も言えなかった。土居内は続ける。
「何と言われようと、自衛官になりたかった。例え銃で人を殺す仕事だろうと、一般市民を守る事に違いない。でも、災害はどうしようもない。熊本の時は、見つけてももう亡くなっている事が多くてな、あれほどの無力感はもう苦痛だ」
霧本は口を開いた。
「佳樹、あんたは私が何て言っても自衛官になるつもりだったのに、私は身勝手にも……」
「気にすんな。もう10年も前だ」
そして土居内は言う。
「市ヶ谷、お前は俺の大切な部下だ。何かつらい事があれば相談しろ。俺には無理だとしても、隊の仲間や霧本を頼れ」
「……はい」
「仲間っつうのはそういうもんだ」
翌朝、中央混成連隊は出撃した。場所は新潟県北部の村上市、そこに駐留するマグマ軍の自動車化狙撃大隊(歩兵大隊)への襲撃が今回の任務だった。
「半装填良し!」
舗装路上に作った簡易迫撃砲陣地に設置した2門のL16 81mm迫撃砲に、久居と豊川が砲弾を入れようとする。
「ってぇ!」
鯖江が指示し、久居と豊川は砲弾から手を離す。すると砲弾は、砲身の中を滑り落ち、撃針に当たって発射される。
「弾ちゃーく、今!」
迫撃砲弾が炸裂する。マグマ軍のトラックやBTR-80装輪装甲車が爆ぜ、歩兵が吹き飛ぶ。
「初弾、命中! 第2射、修正無し、効力射、って!」
観測班として、マグマ軍拠点の近くまで移動した土居内が、双眼鏡を手に無線機に叫ぶ。
ヒュルルル――
「弾ちゃーく、今!」
ドッカーン!
第2射も命中する。土居内は新たな指示を出す。
「迫撃砲、撃ち方止め! 小隊突撃、前へ!」
74式戦車が動き出し、81mm迫撃砲を分解して搭載した高機動車が続く。そしてスーパーマーケットの屋上駐車場からAH-1Sが離陸する。
ビルの屋上で弾着を見守っていた土居内は、双眼鏡をポーチに仕舞い、ロープを手すりに結び付ける。次に腰に付けたM2スライダーにロープを通し、革手袋を身に着ける。側に置いたスコープ付89式小銃を背負う。
「司令官、手伝おうか?」
M4 A1自動小銃を手にした習志野が話し掛ける。
「いや、充分だ。しっかし、」
土居内は下を見る。遥か下に74式戦車や高機動車が見える。
「やっぱ高いなぁ」
ここは20階建てのビルだった。
「ロープ足りるか? これからロープを落とすから見ててくれ」
〔了解です〕
無線機越しに久居が応える。土居内は、端を手すりに結び付けたロープをビルの下に落とす。
〔大丈夫です!〕
「分かった、まず俺から降りる」
土居内はロープを握り締め、屋上の縁に足を掛ける。そして落ちた。
右手でロープを保持し、左手でM2スライダーにブレーキを掛ける。
そして着地した。素早くM2スライダーを外し、屋上の習志野にサインを送る。
習志野は、土居内の半分の時間で降りてきた。
「司令官、やはりラペリング技術が落ちたか?」
「言うな。元空挺レンジャーとはいえ、しばらく第1普通科連隊にいたんだ」
その言い訳に、全員が冷たい視線を送る。
「とにかく前進だ! 小隊、我に続け!」
土居内は74式戦車に乗り、指示を出す。
中央混成連隊は残りのマグマ軍を叩きに向かった。