りっく☆じあ~す 中央混成連隊、前進す!   作:土居内司令官(陸自ヲタ)

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13話 記憶

 市ヶ谷は、高校生の頃交際していた事があった。

 

 それなりに上手くいき、友達からも羨ましがられるような交際だった。

 

 しかし、そんな関係はすぐに壊れた。

 

「愛、どうしてさせてくれないんだ」

 

「だって、心の準備が……」

 

「いつもいつもそう言って、もう何度目だよ?」

 

「いざとなると、怖くなって……」

 

 すると、彼氏は市ヶ谷を押し倒した。

 

「もう今日は止めねぇぞ。お前の身体をいつまでも放っておけねえんだよ」

 

「い、嫌ぁ……」

 

 市ヶ谷から涙が溢れる。

 

「何が嫌だ! おれはずっと我慢してきたんだ!」

 

 彼氏が市ヶ谷の制服のスカートを脱がし、胸を鷲掴みにする。

 

「やだやだ! 止めてぇ!」

 

「止めねぇつってんだろ!」

 

 余りの恐怖に、市ヶ谷は彼氏の股間を蹴り上げた。

 

 彼氏は悶絶する。

 

「愛、てめぇ……」

 

 市ヶ谷は逃げ出した。

 

 

 

「なるほど、市ヶ谷さんは無理矢理されそうになったんだ」

 

「未遂でも刑罰の対象だからなぁ」

 

「私も似た事されたような」

 

「お前、合意しただろう?」

 

「最終的にはね。でもいきなり押し倒されたら、ねぇ? それに『優しくする』って言ったのに、結局激しくするし」

 

「それは謝る。てか、謝っただろ!?」

 

「足りない。初めて奪った責任取れ」

 

 そんな会話が聞こえてくる。市ヶ谷が目を開くと、見慣れない天井だった。首を回して見ると、自分がダブルベッドで寝ているのが分かった。

 

 起き上がる。目に違和感を感じ、こすると大量の目脂が取れた。

 

「どれだけ泣いたんだろう、私……」

 

 そして気付く、自分が下着姿であることに。

 

「……!?」

 

 見れば、ベッド脇の小さいテーブルの上に、自分の制服が畳んで置いてあった。高校のではなく、陸上自衛隊の女性自衛官用夏服であった。

 

 着替えようと立ち上がるが、よろけて倒れてしまった。

 

 

 

 隣の寝室から大きな音が響いて、土居内と霧本は驚く。

 

「何だ?」

 

 土居内が扉を開けると、そこには床に倒れて上半身を起こす市ヶ谷がいた。その姿勢により、下着姿である事も手伝って、ただでさえ大きな胸がさらに強調されていた。

 

 2人は固まり、土居内は、まるで手榴弾を投げられたように司令官室へと飛んだ。床にダイブして伏せ、頭を守る。

 

 霧本は呆気に取られた。

 

「何してんの?」

 

「……習慣、職業癖」

 

 市ヶ谷は慌てて制服を着る。

 

 

 

「どうして、私は寝ていたんですか?」

 

 その後、着替え終わった市ヶ谷はソファに座り、隣に座った霧本とデスクの土居内に訊いた。

 

「あなたが、高校時代のトラウマを話している時に倒れたの。泣き疲れたんじゃない?」

 

 霧本は言う。土居内は9mm拳銃を分解している。

 

「無理に言わせてごめんなさいね。思い出したくなかっただろうに……」

 

「いえ、いつかは言わなければなりませんし……」

 

 すると、土居内は9mm拳銃の銃身をスライドに差し込みながら質問する。

 

「で、その元彼がストーカーになったから自衛官になったのか?」

 

「司令官は何でもお見通しですね……ええ、そのために防大に入ったんです」

 

「全寮制で警備も厳しく、学費も掛からない、その上就職先も限られているが接触は難しい……逃げるには最適な大学校だ、学力があれば」

 

 土居内は9mm拳銃のスライドを引いて分解清掃を終える。

 

「防大には、そんな理由の人がいたんだ」

 

 霧本は言う。すると、土居内が答える。

 

「市ヶ谷の理由は極めて特殊だが、防大入る奴が全員自衛官を目指す訳じゃない。実際毎年何人かは一般に就職するし」

 

 霧本が口を開いた。

 

「じゃ、何であんたは自衛官になったの?」

 

「前に新潟出身って言ったろ?」

 

「聞いてない」

 

「とにかく、俺は中学の時まで新潟にいた。で、新潟県中越地震で被災した」

 

 霧本は言葉を失う。

 

「怪我したの?」

 

「掠り傷ぐらいだ。でも家が倒壊しそうになって、避難した。その時自衛隊の世話になったんだ」

 

 

 

 新潟県のある体育館にて――

 

「本当助かりました。ありがとうございます」

 

 土居内の父親が礼を言う。そこには戦闘糧食1型を配る陸自隊員がいた。

 

 隊員は一瞬はにかむと、こう言った。

 

「いえ、我々自衛隊が活躍出来るのは、皮肉にも災害や戦争が起きた時だけですから」

 

 その言葉に、体育館にいた者は言葉を失う。

 

「自衛隊が活躍するという事は、悲劇が起きているという事ですから」

 

「では、どうして自衛隊員に?」

 

 土居内の父親が訊く。

 

「そうですね、やはり『命を懸けても日本国民を守りたい』ですかね。模範的ですが、人が死んで悲しむ所は見たくないんです」

 

 その陸自隊員は、暗い顔をして話す。

 

 土居内は、その陸自隊員の言葉を忘れる事は無かった。

 

 

 

「それで自衛官になったんだ」

 

 霧本と市ヶ谷は何も言えなかった。土居内は続ける。

 

「何と言われようと、自衛官になりたかった。例え銃で人を殺す仕事だろうと、一般市民を守る事に違いない。でも、災害はどうしようもない。熊本の時は、見つけてももう亡くなっている事が多くてな、あれほどの無力感はもう苦痛だ」

 

 霧本は口を開いた。

 

「佳樹、あんたは私が何て言っても自衛官になるつもりだったのに、私は身勝手にも……」

 

「気にすんな。もう10年も前だ」

 

 そして土居内は言う。

 

「市ヶ谷、お前は俺の大切な部下だ。何かつらい事があれば相談しろ。俺には無理だとしても、隊の仲間や霧本を頼れ」

 

「……はい」

 

「仲間っつうのはそういうもんだ」

 

 

 

 翌朝、中央混成連隊は出撃した。場所は新潟県北部の村上市、そこに駐留するマグマ軍の自動車化狙撃大隊(歩兵大隊)への襲撃が今回の任務だった。

 

「半装填良し!」

 

 舗装路上に作った簡易迫撃砲陣地に設置した2門のL16 81mm迫撃砲に、久居と豊川が砲弾を入れようとする。

 

「ってぇ!」

 

 鯖江が指示し、久居と豊川は砲弾から手を離す。すると砲弾は、砲身の中を滑り落ち、撃針に当たって発射される。

 

 

 

「弾ちゃーく、今!」

 

 迫撃砲弾が炸裂する。マグマ軍のトラックやBTR-80装輪装甲車が爆ぜ、歩兵が吹き飛ぶ。

 

「初弾、命中! 第2射、修正無し、効力射、って!」

 

 観測班として、マグマ軍拠点の近くまで移動した土居内が、双眼鏡を手に無線機に叫ぶ。

 

 ヒュルルル――

 

「弾ちゃーく、今!」

 

 ドッカーン!

 

 第2射も命中する。土居内は新たな指示を出す。

 

「迫撃砲、撃ち方止め! 小隊突撃、前へ!」

 

 

 

 74式戦車が動き出し、81mm迫撃砲を分解して搭載した高機動車が続く。そしてスーパーマーケットの屋上駐車場からAH-1Sが離陸する。

 

 ビルの屋上で弾着を見守っていた土居内は、双眼鏡をポーチに仕舞い、ロープを手すりに結び付ける。次に腰に付けたM2スライダーにロープを通し、革手袋を身に着ける。側に置いたスコープ付89式小銃を背負う。

 

「司令官、手伝おうか?」

 

 M4 A1自動小銃を手にした習志野が話し掛ける。

 

「いや、充分だ。しっかし、」

 

 土居内は下を見る。遥か下に74式戦車や高機動車が見える。

 

「やっぱ高いなぁ」

 

 ここは20階建てのビルだった。

 

「ロープ足りるか? これからロープを落とすから見ててくれ」

 

〔了解です〕

 

 無線機越しに久居が応える。土居内は、端を手すりに結び付けたロープをビルの下に落とす。

 

〔大丈夫です!〕

 

「分かった、まず俺から降りる」

 

 土居内はロープを握り締め、屋上の縁に足を掛ける。そして落ちた。

 

 右手でロープを保持し、左手でM2スライダーにブレーキを掛ける。

 

 そして着地した。素早くM2スライダーを外し、屋上の習志野にサインを送る。

 

 習志野は、土居内の半分の時間で降りてきた。

 

「司令官、やはりラペリング技術が落ちたか?」

 

「言うな。元空挺レンジャーとはいえ、しばらく第1普通科連隊にいたんだ」

 

 その言い訳に、全員が冷たい視線を送る。

 

「とにかく前進だ! 小隊、我に続け!」

 

 土居内は74式戦車に乗り、指示を出す。

 

 中央混成連隊は残りのマグマ軍を叩きに向かった。

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