りっく☆じあ~す 中央混成連隊、前進す!   作:土居内司令官(陸自ヲタ)

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26話 休日仮装

 新発田駐屯地に、トレーラーや軽装甲機動車の車列が帰ってくる。既にヘリコプターは帰ってきていた。

 

「おかえりー、佳樹」

 

「すまん、今はそれどころじゃない」

 

 霧本の出迎えに、土居内はこう応えて弾薬庫に向かう。他の皆は、車両庫で銃火器のメンテナンスや車両の整備、洗浄を行っていた。

 

「ま、それもそうか」

 

 霧本は食堂に向かった。

 

 

 

 弾薬の返納、武器のメンテナンス、車両の洗浄が終わり、皆ゾンビのような足取りで食堂に向かう。そして慌てて口に運んだり、半分寝ながら食べたり、挙げ句の果てに大盛のご飯に顔を突っ込んで寝る奴も現れた。

 

「地獄絵図……」

 

 霧本が呟く。土居内は船を漕ぎながら漬け物を口に運ぶ。市ヶ谷は茶碗片手に寝ていた。

 

 

 

 やがて食い終わった連中は、自分の部屋へと向かう。土居内はふらふらと司令官室に向かい、ダブルベッドに倒れ込んだ。

 

 

 

 翌朝、土居内は目覚める。気付けば、何かが自分の身体に載っている。

 

「……何だ?」

 

 寝ぼけ眼をこすり、上半身を起こして見ると、市ヶ谷とナナヨンが土居内と添い寝をしていた。おまけに、二人は土居内のデリケートな部分を握っており――

 

「お前ら起きやがれ!」

 

 

 

 直後の司令官室――

 

「で、何で俺の部屋で、しかも俺のベッドで寝ていた?」

 

 詰問する土居内。フローリングの床に正座させられた市ヶ谷とナナヨンはうつむいている。

 

「……だって、疲れてたから……」

 

 ナナヨンが呟く。

 

「私は、ナナヨンさんに続いて……」

 

 市ヶ谷が続く。土居内は頭を掻き、口を開く。

 

「あのなぁ? ここは仮にも俺のプライベート空間だ。そう簡単に入られては困るんだ。分かったか?」

 

 土居内の問い掛けに、二人は頷いた。

 

「よろしい、今回は不問にする。出て行ってよし」

 

 二人は司令官室から出て行き、土居内はデスクのパソコンを起動する。

 

 すると、メールが届いていた。

 

「中央即応集団から……?」

 

 正確には、津田沼陸将補からだった。

 

 内容は、今日付けで配属になる隊員についての資料、そして新兵器の実戦テストについてだった。

 

「16式155mm誘導砲弾に試製135mm滑腔戦車砲、地上型AGM-119 ヘルファイア対戦車ミサイル、ブッシュマスター(輸送防護車)……キューロク(96式装輪装甲車)欲しいなぁ」

 

 土居内は腕を組む。新たな隊員についての資料をプリンターで印刷し、部屋の端にある給湯スペースでコーヒーを淹れる。

 

 そこへ、市ヶ谷がやってきた。

 

「司令官、先程は申し訳ありませんでした……」

 

「別にいいって。もう済んだ事だ」

 

 やがて印刷が終わり、土居内は紙の束をクリップで留める。コーヒーを啜り、口を開く。

 

「さて、朝飯を食いに行こう」

 

 

 

 食堂で朝食を摂った土居内達は、会議室に集まった。

 

「ということで、休みだが昨日の反省会兼その他業務連絡だ」

 

 土居内がマーカー片手に言う。ナナヨンが手を挙げる。

 

「反省会?」

 

「そうだ。俺は一つあるがな、なぁ? ヒトマル」

 

 ヒトマルはびくっとし、俯く。

 

「昨日の作戦では、我が隊は損失は無かったが、一人暴走してな」

 

「……」

 

 ヒトマルは黙っている。

 

「自分の防護力を過信し、敵陣へ突っ込んで集中放火を浴び、傷だらけで帰ってきた。確かに、74式は装甲が薄いし、99式は無いに等しいし、LAV(軽装甲機動車)も文字通りの軽装甲。俺達全員で敵陣に突っ込めば、誰かが死んだり大怪我をしたかもしれない。だがな、ああやって一人突っ走るのも危険なんだ。ヒトマル、その自覚はあるのか?」

 

「ごめんなさい……」

 

「今聞きたいのは謝罪では無く、あるのかないのかだ」

 

 土居内は冷たく言う。

 

「……あります」

 

「あ? 聞こえない、もう一度はっきり大きな声で言え」

 

「……あります!」

 

「よし、分かってるならそれでいい。他に何か無いか?」

 

 

 

 その後も反省会は続き、ほとんど出尽くした。

 

「反省会はこれで以上だ。何も無ければ業務連絡に移るぞ?」

 

 全員が頷いた。

 

「よし、まずは今日、何人か新たに配属される。勿論、全員女だ。あと、いくつか新たな兵器が運ばれてくる。そのテストは休み明けだな。業務連絡は以上だ、質問は?」

 

 すると、新発田が手を挙げた。

 

「あの、折角なら全員で仮装しませんか? 今日は31日ですし」

 

 

 

 土居内は悩んでいた。司令官室隣の寝室にあるクローゼットを開け、腕を組む。

 

「仮装か……」

 

 土居内も、とりあえずアニメは見ている。しかし、今までに見てきたアニメの中で、土居内がコスプレ出来るのは、かなり限られている。

 

「あれのコスプレやるか? でもいつもと変わらないんだよなぁ」

 

 土居内は今年見た異世界ファンタジーの主人公のコスプレを考えていた。服も小道具も揃っているからだ。しかし、問題があった。

 

「手元に64が無い……鯖江に借りるか」

 

 その主人公は64式小銃を使っていたが、今土居内の手元に64式小銃は無い。以前使った(補給基地強襲・市ヶ谷救出作戦にて)のは既に富山駐屯地の武器庫に返してしまった。

 

 迷彩服2型の袖をまくり(アニメでは迷彩服4型という架空の物だったが、漫画版は2型である)、防弾チョッキ2型を着る。そして88式鉄帽を被り、ホルスターを右太ももにぶら下げ――

 

「何してるんですか?」

 

 振り返ると、ナチスドイツ軍将校の格好をしたキューキューがいた。しっかりパンツスーツを穿いている。

 

「何って、『G●TE』の――」

 

「腕まくり以外いつもと一緒ですよ」

 

 土居内はうなだれた。

 

 

 

 やがて、新発田駐屯地に6輪のトラックが到着した。かつては73式大型トラック(新)と呼ばれていた車両だ。

 

 荷台から、数人の少女達が降りてくる。眼鏡を掛けた黒髪ロングの女子高生が、第1兵舎を見上げて呟く。

 

「ここが、唯一武器娘が実戦配備されている中混連の拠点――」

 

「何してるの。置いてくわよ」

 

「冷たっ! 私達幼馴染でしょ!?」

 

「こんなのと幼馴染なんて不幸だわ……」

 

「某扶桑型戦艦みたいに言わないでよ!」

 

 

 

「来たみたいですね」

 

「どんな人達だろう? 仲良く出来るかな?」

 

「私に訊くな」

 

 第1兵舎・休憩スペースで、市ヶ谷や久居、ナナヨンが話す。勿論、仮装して。

 

 そして、誰かが第1兵舎に入ってきた。市ヶ谷達は立ち上がって敬礼する。

 

「ようこそ、中央混成連隊へ!」

 

 勿論、新たに来た隊員は驚いた。自分達も自衛官らしくない格好だが、中央混成連隊はもっとらしくなかった。

 

 そこへ、土居内がやってくる。衣装を変え、スーツと黒マントという、云わばドラキュラの格好だった。

 

「俺は中央混成連隊指揮官の土居内3尉だ。今こんな格好なのは、まあハロウィンだからだ、気にするな」

 

 土居内が言う。勿論新たな隊員達は唖然としている。

 

「……第10師団 第35普通科連隊の守山 綾音3尉です。よろしくお願い致します」

 

 迷彩服2型を着た長い黒髪の女性自衛官が敬礼する。

 

「第10師団 第14普通科連隊から参りました、金沢 香林陸士長です! 普通にお願いします!」

 

「……普通って何だ?」

 

 栗色ショートの女子高生が敬礼した。

 

「第1師団 第1普通科連隊の練馬 結歌3曹よ! 趣味はアニメ鑑賞!」

 

「こら、相手は上官よ」

 

 先程の眼鏡を掛けた女子高生が敬礼する。横から浅葱色のポニーテールの女子高生がたしなめる。

 

「こいつが失礼を。朝霞 美月2曹、警務隊出身です」

 

「練馬……あっ! あの有名な『第1師団の闇』!?」

 

 土居内が何かを思い出した。市ヶ谷が尋ねる。

 

「闇?」

 

「練馬駐屯地で話題だったんだよ、『アニヲタ過ぎる女性自衛官』が。俺が第1普通科連隊にいたのはたった1ヵ月だったから、見たことは無かったが」

 

「アニヲタ……」

 

 市ヶ谷が呟く中、今度はピンクのショートヘア女子高生が敬礼する。

 

「第12旅団 第12ヘリコプター隊、相馬原 未咲1曹だ!」

 

「……どうして俺の所には無礼な奴が回ってくるんだ……」

 

 続いて黒髪のショートヘアで、どことなく座敷童っぽい感じの女子高生が敬礼する。

 

「第12旅団 第12後方支援隊の新町 かんな1等陸士です……」

 

「どことなく豊川っぽいな」

 

 最後に、赤髪ポニーテールが敬礼する。

 

「第1師団 第1特科隊から来ました、北富士 彩恵3曹です!」

 

 やっと新入隊員全員の紹介が終わった。土居内が言う。

 

「見ての通り、中央混成連隊は俺以外全員女、しかもほとんどが曹か士だ。隊員同士なら無礼講で構わない。あと、今はハロウィンだから全員おかしな格好だが、俺とこの、市ヶ谷3尉以外は普段から自衛官らしくない格好だから気にするな。質問は?」

 

 練馬が手を挙げる。

 

「武器娘はどこにいるんですか!?」

 

「武器娘?」

 

 土居内には聞き覚えが無かった。武器を持った女子の事かと思ったが、この場にいる土居内以外全員そうだ。

 

「『兵器の人格』とも呼ばれてますよ!」

 

 それを聞き、土居内はピンときた。

 

「ああ、『兵器の妖精』か」

 

「よ、妖精?」

 

「少なくとも、俺はそう呼んでいる。しかし、何でそれを知っているんだ?」

 

「え、既に官民問わず話題ですよ!」

 

「……何て事だ」

 

「で、何処にいるんですか!?」

 

 すると、ビキニ姿のナナヨンを指差した。

 

「こいつは74式戦車の妖精だ。てか、何でビキニ?」

 

「……仮装よ」

 

 土居内はつい見てしまう。実際の、ソ連戦車っぽい小柄な砲塔が特徴的な74式戦車同様、小さなバストを――

 

「司令官? あまり見ないでくれる? あと、後ほど車両庫に来てくれる?」

 

 照れているのか、紅潮したナナヨンが言った。

 

 すかさず、練馬がナナヨンの手を握り、話し掛ける。

 

「よろしくお願いします! 後で私の部屋に来てくれますか!? 是非とも同人誌を――」

 

 練馬の言葉が途切れた。見れば、朝霞が練馬の頬をつねりあげていた。

 

「どうもこいつが失礼を。後でみっちり言っときますんで」

 

 そう言って、朝霞は練馬を引っ張っていった。

 

 入れ替わりで豊川と鯖江、新発田が入ってきた。豊川は巫女服、鯖江はメイド、新発田は白い浴衣だった。

 

「久居士長カワイイー!」

 

 新発田が、和装メイドの久居に飛びついた。

 

「渚ちゃん、何で浴衣?」

 

「雪女です。寒いのは嫌ですけど、この格好気に入ってるんです」

 

 そんな中、土居内が豊川に質問する。

 

「何で巫女?」

 

「ボクの住んでた所の近くに、豊川稲荷っていう神社があって、昔から憧れてたんです。結局、中学と高校は陸上で、自衛隊に入ったんですけどね」

 

 すると、市ヶ谷が土居内の黒マントを引っ張った。

 

「司令官? 鼻の下伸ばしてないですよね?」

 

「伸ばしてねぇよ」

 

「さっきはナナヨンさんに伸ばしていた癖に」

 

「違うって! ハロウィンの仮装にビキニは無いだろうという意味で――」

 

「醜いです」

 

 その市ヶ谷の一言は、土居内の心に.45ACP弾を撃ち込んだ。

 

「いや市ヶ谷、聞いてくれよ……」

 

「つい先程も、豊川1士を見ていたじゃないですか」

 

「うぐっ」

 

「いいです、司令官の事を振り向かせてみせますから」

 

「え?」

 

「あっ」

 

 市ヶ谷の一言に、土居内は疑問を抱いた。そして市ヶ谷を見る。

 

 魔女をイメージしたと思われ、黒を基調にしてオレンジ色がワンポイントアクセントとして散りばめられたドレスと、黒くて高い帽子を身に着けている。胸元は大きく露出し、豊満な丘と深い谷がよく見えた。負い紐で背負った89式小銃は、作動不良を起こさない程度にデコられている(勿論弾倉は挿さってない)。

 

 土居内は深い谷間を見て、生唾を飲み込む。

 

「司令官!? あまり見ないでください~……」

 

 市ヶ谷が恥じて、両腕で隠した。そして、新発田達が冷やかす。

 

「司令官、変態~(新発田)」

 

「見損ないましたよ(久居)」

 

「司令官、そういう人だったんですね……(豊川)」

 

「待て! 何でそういう話になるんだ!?」

 

 土居内が叫ぶ。すると新発田が言う。

 

「思いっきり市ヶ谷さんの胸ガン見してましたじゃないですか」

 

「不可抗力だ! 酷いだろ!?」

 

「そういう風に生まれてしまった司令官が悪いんです」

 

「何だよ!? 性転換手術しろってか!?」

 

「少なくとも、男で無ければいいんです」

 

「なら、今ここで……」

 

 そう言って、豊川がナイフを取り出した。

 

「待て待て待てぇ! 暴力罪だぞ!? おい警務隊! こいつだ!」

 

 土居内が暴れる。が、久居と新発田が抑えつけ、豊川がナイフを握り直す。

 

 そこで、鯖江が仲介に入った。

 

「待った。司令官はまだ私達に危害を加えてない、せめて危害を加えそうになったら、でどうだ?」

 

「そうですね」

 

 ようやく豊川がナイフを閉まった。土居内は胸をなで下ろし、鯖江に耳打ちする。

 

「すまんな、鯖江」

 

「構わないよ。それと」

 

 鯖江の顔が土居内に近付く。

 

「司令官、割と多くに狙われているよ」

 

 そう言って鯖江が離れた。土居内はただ首を傾げるだけだった。

 

 

 

 その後もぞろぞろやってきて、新しい隊員に挨拶していく。

 

「エフエイチさん、何ですかその格好……」

 

「ほら、球場のビールの売り子よ。霧本さんに借りたんだけど、胸の辺りがきつくて……」

 

 そう言って、エフエイチはパッツパツの胸を持ち上げる。

 

(う、羨ましい)

 

(胸かぁ……ボクも欲しい)

 

 新発田と豊川が思う。

 

 一方、富山の所に人が集まっていた。

 

「アイドルの格好ですか!?」

 

「こんなの着るなんて、大胆ですね!」

 

 アイドルの格好をした富山は、赤面してうつむく。そして練馬がその衣装にはっとした。

 

「その格好……富山県の地下アイドルのですね!?」

 

「地下じゃねえ! ちゃんとイベントとかにも呼ばれた事はある!」

 

 富山が反論する。すると、制服姿の葵が一言。

 

「随分お詳しいですね、富山士長?」

 

「そ、それは……その……」

 

 そこへ、練馬が皆にスマートフォンの画面を見せた。

 

「見て見て! そのアイドルグループ、富山県のご当地イベントに出てたんだけど、その端っこに!」

 

 それは某赤い動画サイトだった。一時停止させられた画面の右端に、見覚えのある栗色ロングの少女がいた。

 

「これって……」

 

「まさか……」

 

 その場の全員が、互いの顔、そして富山を見る。

 

『富山士長は元アイドル!?』

 

 新発田駐屯地・第1兵舎内に木霊した。

 

 

 

 一方、土居内と市ヶ谷は休憩スペース端のベンチに、並んで座っていた。

 

「元気だなぁ、さすがJK」

 

 土居内が呟く。そして、市ヶ谷が土居内の方を見る。

 

「司令官。さっきの事、謝って欲しいのですが」

 

「ああ、セクハラまがいな事をしてすまなかった」

 

「セクハラまがいじゃなくて、セクハラそのものです。そういうのは、私だけにしてくださいよ?」

 

「ん?」

 

「あっ」

 

 市ヶ谷の顔が真っ赤になる。そして市ヶ谷は咳払いした。

 

「とにかく、気を付けてください。年頃の隊員が多いのですから」

 

「分かったよ」

 

「にしても、ドラキュラの格好とは――」

 

「似合わないか?」

 

「あ、いえいえ。何というか、定番だなっと」

 

「最初は『GA●E』の伊丹2尉にしようかと思ってたけど、普段と変わらないってキューキューに言われてな」

 

「……普段からはともかく、格好がそのまんまみたいな人はいますけどね」

 

「そうだな。目の前に3人程見えるよ」

 

 その3人とは、習志野、松本、大宮だった。習志野は映画『ブラック●ーク・ダウン』の米陸軍デルタフォース隊員の格好で、手にはM14自動小銃があった。

 

 松本は『緑のムック』の格好であった。先程練馬は「スタンバーイ、スタンバーイ」とからかい、松本と朝霞にぶん殴られていた。

 

 大宮は対NBC防護服とガスマスクだった。ひねりも何も無かった。

 

「カオスだな」

 

「ハロウィンですからね」

 

 

 

 ヒトマルは猫耳メイド服、キューマルは土居内に勧められたTシャツGパン、そして金髪のウィッグ、コブラは茜の格好、タイガーは水色のボディコン、スカイシューターはそのままだった。

 

「どうしてですか!? シューターさん!」

 

「……その呼び方止めろ。何でコスプレしなきゃならないの?」

 

「絶対カワイイと思います!」

 

「冗談じゃないわ。そんなに強要するなら、35mmで叩き落とすわ」

 

「……」

 

 スカイシューターは冷たかった。

 

 

 

 新発田駐屯地・修理工場 2階――

 

「入るぞ」

 

「いつまでこの私を閉じ込めるつもりだ? 後で後悔しても知らないぞ。いつかシベリアで木を数える人生にしてやる、って……その服は!?」

 

 簡素な野営ベッドと折り畳み式テーブルだけが置かれた部屋に、土居内が入る。部屋の主と化していた近衛兵が畏怖した。

 

「その黒装束、お前はKGBなのか!? 私をどうするつもりだ!? 貴様自身が私を捕らえたのに、それで処刑するなんて非道だ!」

 

 近衛兵がまくし立てる。土居内は両耳を塞ぎながら話し掛ける。

 

「何で地底生物が、とっくに解散した諜報機関を恐れるんだよ。とにかく、約束の1ヵ月までもうすぐだ、このまま自衛隊につくか、マグマ軍に帰るかを選べ。黙っているようなら、ヘリコプターで競合地域に投下する。最後の選択は競合地域で自由に生きるか、自衛隊に惨殺されるか、マグマ軍に保護されるか処刑されるかは自由だ。さぁ、どうする?」

 

 近衛兵は黙る。そして口を開いた。

 

「この場でお前を殺せば、自由になれる訳か」

 

「残念だが、廊下に完全武装の部下を4人待機させている。会話も筒抜けだ、何かしようものなら、部下がライフルとマシンピストルを乱射しながら突入してくるぞ」

 

「……脅しは通じないか」

 

「当たり前だ。お前、マグマ軍に帰りたくないのか?」

 

 土居内の問い掛けに、近衛兵は怒った。

 

「貴様! 何を根拠に!?」

 

 折り畳み式テーブルが宙を舞い、近衛兵は土居内に飛びかかった。そのまま押し倒し、4本の腕で土居内の首を絞める。

 

「司令官!」

 

 89式小銃を手にした市ヶ谷、M870散弾銃を持った習志野、9mm機関拳銃を持った富山が突入してくる。

 

「待てぇ!」

 

 土居内は最後の力を振り絞って叫ぶ。

 

 見れば、近衛兵の瞳に涙が溜まっていた。

 

「どうして……」

 

 近衛兵の瞳から涙が滴り落ちる。

 

「どうして、優しくしてくれるんだ……? あんた達から見れば! ただの虐殺者なのに! どうして!?」

 

 土居内は両腕で、近衛兵の4本の腕を握る。

 

「どうしてってなぁ、俺達は兵士じゃねぇんだよ、ただの待遇が悪い国家公務員だ。だから法律には従わないといけない。お前に名前があろうが無かろうが、兵士だ、だからジュネーヴ条約を遵守し、丁重に扱わなければならない。お前の国では違うのか?」

 

 近衛兵の腕から力が抜けた。

 

「ああそうだ。法律なんてない。負けて帰ってきた指揮官は銃殺刑、逃げた兵士は即射殺、捕虜は実験や榴弾砲の餌に使われ、占領地の住民は全て奴隷だ。もしここで軍に帰れば殺され、お前達に味方すれば全身を串刺しにされる。私には、選べない……」

 

 土居内は上半身を起こし、近衛兵の肩を掴んで語った。

 

「おかしいだろ。どうして俺達が負ける前提になってるんだよ?」

 

「お前達は、まだ知らないのだ……真のマグマ軍、いや幹部クラスを」

 

「例えどんなのが来ようと、俺達が負けるとは限らない。例え勝つ可能性が小数点以下でも、負けない可能性はそれ以上だし、あるのなら、俺達自衛隊は国民の生命と全体の福祉のために戦う。それが兵士と自衛官の違いだ。そして、勝つ事と負けない事は同じじゃない」

 

 近衛兵の目から涙がぽろぽろと流れる。

 

「お前達のような生命体は、初めて見る……」

 

「これが自衛隊だ。そして日本人だ。欧米やロシア、中国、朝鮮とは違うんだよ」

 

 そして、近衛兵は決断した。

 

「分かった、お前達自衛隊に協力しよう。私がいれば、百人力だ。感謝するんだな、地上人。いや、日本人」

 

「ホント、ツンデレな性格だな」

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