りっく☆じあ~す 中央混成連隊、前進す!   作:土居内司令官(陸自ヲタ)

39 / 77
38話 束の間

 土居内は目覚めた。見覚えのある天井、締め切ったカーテンの隙間から朝日が差し込んでくる。そして自分が裸であることに気付いた。

 

「…………?」

 

 土居内は上半身を起こした。掛け布団がかかっているが、掛け布団が変に盛り上がっている。めくって正体を確認した。

 

「あ、おはようございます、司令官」

 

 市ヶ谷だった。しかも裸だった。

 

 

 

「ようやく記憶が戻ってきた。酔った勢いで市ヶ谷を……」

 

「いえ、酔わしたのは私ですから……」

 

 土居内は額を押さえる。市ヶ谷は掛け布団を手繰り寄せて体を隠した。

 

「あの、恥ずかしいので着替えさせてください……」

 

「ああ……」

 

 

 

 土居内と市ヶ谷は服を着た。そして司令官室のソファに並んで座った。

 

「……で、いいのか?」

 

「はい?」

 

「その……体を重ねた事は」

 

「だから、私の自業自得ですって。それより……」

 

「ん?」

 

「私なんかと付き合ってもよろしいのですか?」

 

「規則的な意味で?」

 

「いえ、この連隊にはもっと若い隊員がいるのに、私のような20代半ばと……」

 

「いいんだよ。お前と一緒にいたいんだ」

 

「司令官……」

 

「それで、返事は?」

 

「……もう言ってますのに……」

 

「いや、はっきりと聴きたいというか……」

 

「……私のような不束者ですが、よろしくお願いします」

 

 その途端、土居内は市ヶ谷を抱き締めた。

 

 

 

「はぁ……」

 

「富山士長、溜め息なんてどうしました?」

 

 新発田駐屯地・食堂で、富山が溜め息をついていた。新発田が向かいの椅子に座る。

 

「いや、何というか……」

 

「ああ、失恋ですね」

 

「ぶっ殺すぞ!?」

 

 富山が左手でテーブルを叩く。そして右肩を押さえた。

 

「……っ!」

 

「大丈夫ですか?」

 

「まだ傷に響く……とにかく、失恋じゃねぇ!」

 

 すると、1人の女が後ろから富山の肩を掴んだ。

 

「本当、素直じゃないねぇ。それを失恋と言わずに何と言う?」

 

「霧本さん!?」

 

 富山が驚いた。それは霧本だった。

 

 

 

「いやぁ、こんな所までありがてぇ」

 

「いやいや、これが儂の仕事じゃからな」

 

 栃木県奥地、辺境の村に1台のトラックが止まっていた。そして露出過多な女がトラックの積み荷を村人達に渡していく。

 

「マグマ軍も、ここまで医薬品を運んできてくれないからな、本当に助かってます」

 

「じゃから、これが儂の仕事じゃと言っておるだろ? 困っている人を助けるのが自衛官の使命じゃ」

 

 その女には、ネコ耳とネコ尻尾が付いていた。傍らには64式小銃。

 

 

 

「おい、こんな山奥に自衛隊がいるのか?」

 

「はっ、女が1人、トラックで物資を運び込んでいます。もしかしたら、レジスタンスかも――」

 

「分かっている!」

 

「ははぁ、申し訳ありません」

 

「よし、お前の隊が先行しろ」

 

「はっ!」

 

 

 

 女のネコ耳がピクンと動き、振り返る。左手は本能的に64式小銃を探している。

 

「どうかしましたか?」

 

「皆伏せるのじゃ!」

 

 直後、銃声が轟いた。次々と村人達が銃弾で倒れていく。

 

 女は伏せた状態で64式小銃のセレクターを「安全」から「連射」へと回し、グリップを握る。そして発砲した。

 

 

 

〔お疲れ様だな、土居内〕

 

「ええ」

 

〔損害は大した事無いのか? 1人負傷とあるが〕

 

「大丈夫です。本人はピンピンしていますよ」

 

〔そうか、それとおめでとう〕

 

「はい?」

 

〔プロポーズして成功したんだろ? 式はいつだ? ちゃんと俺も招待しろよ?〕

 

「いや、『結婚を前提に』交際を申し込んだだけで、まだ式は……というより、何処から聞いたんです?」

 

〔本人が自慢して来たぜ~、『この度司令官と結婚する事になりました』ってな〕

 

「あいつ……とにかく、そういう事なので」

 

 土居内は司令官室で、津田沼陸将補と電話していた。

 

〔ま、上手くやることだ。間違ってもブルーム(浮気)するなよ?〕

 

「しませんよ」

 

〔お前、連隊ではMMK(モテモテで困っている)らしいからな、しやすい環境じゃねぇか〕

 

「だから! というより、誰です、そんなのを言ったのは?」

 

〔市ヶ谷3尉のレポートに書いてあるぜ? お前、全隊員にクリープ(夜這い)しておきながら、一番のナイスボディに手出してなかったのか?〕

 

「陸将補、そのレポートを即刻破棄してください。虚偽の申告がなされています」

 

〔冗談だ。『隊員に対し鼻を伸ばす事はあるが、手を出さない。ましてやハンドポンプすらしていない。これは司令官室のゴミ箱を検証し判明している。しかし、モーニングスタンはするので病気では無さそうである……』とあるぞ、土居内1尉〕

 

「本当にそう書かれているのですか?」

 

〔他にもあんな事こんな事書いてあるぜ?〕

 

「今すぐ私の所に送ってください。というより、何で愛……いや、市ヶ谷がそんな物を書いて陸将補に送ったんです?」

 

〔本人に訊け! と言いたい所だが、俺がそう要求した〕

 

「何ですって!?」

 

〔いや、お前が隊員に対し不適切な関係を結ばないよう、市ヶ谷3尉に監視を極秘で命じた。結果がこれだ、きっとヤンデレかストーカーになるぜ。ま、問題が発生する前に解決して良かったが〕

 

「冗談じゃありませんよ……」

 

〔まあ、頑張れ。それと、必要ならいい精神科医と外科医と弁護士を紹介してやる。オーバー&アウト〕

 

 電話が切れた。

 

 

 

 コノエや歩兵、2號や72號(ウラール)、80號(ベレーザ)、大宮は修理工場の一角でピロシキを食べていた。

 

「何してるんです?」

 

 そこへ市ヶ谷がやってきた。

 

「間食」

 

「労働の合間の食事」

 

 順に大宮とコノエが答えた。

 

「本当、マグマ軍ってピロシキ好きですねぇ……」

 

「日本人が米を義務的に食っているのと同じだ。好き嫌いを考えず食っているが、いざしばらく食っていないと調子が狂う、そんな感じだ」

 

 コノエが最後の一口を放り込む。そして立ち上がり、市ヶ谷を向く。

 

「あの男と番になったのは本当か?」

 

「いや、その……なる予定というか……」

 

 市ヶ谷は赤面した。

 

「だったら早めになるんだな。あの男は絶えず狙われている、マグマ軍にも、そして仲間にも」

 

「……どういう事です?」

 

「マグマ軍 日本中部軍団は中央混成連隊を壊滅させようと考えている。その一つが指揮官の抹殺だ。だが、この前あの男が戦車ごと落っこちても戦力に変わりなかった。可能性は減ったが、『指揮官の排除』が無くなった訳ではない。そして、奴は味方に好まれ過ぎている。この前のスカッド・ハントの際、習志野という女が言い寄っていた。奴は断っていたが、その内――」

 

「止めてください!」

 

 市ヶ谷が怒鳴った。

 

「佳樹――いえ、司令官はそんな人ではありません!」

 

「何を根拠に? 現に霧本という女は、奴に捨てられたではないか。だからお前と番になる約束をした」

 

「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!」

 

 そこへ、土居内がやってきた。

 

「どうした市ヶ谷!」

 

 市ヶ谷は土居内の姿を見、駆け寄った。

 

 土居内は市ヶ谷を抱き締めつつ、コノエを睨む。

 

「おいコノエ、お前は何を目的にしているんだ」

 

「分かりきったことを。自衛隊を崩壊させるためだ」

 

「嘘を言え。スパイが自らの立場を明かすか?」

 

「だが、本心だ」

 

 土居内は何も言わなかった。

 

 

 

「分かるよぉ、告白したのに振られるなんて、ショック以外の何物でもないよね」

 

 霧本は語る。

 

「でも、いつまでもくよくよしてたら駄目。反省の時間は長ければ長い程非生産的だからね?」

 

「だから、失恋じゃね――」

 

「顔にそう書いてある。さっさと諦めるか、もしくは力ずくで奪うか」

 

「はっ!?」

 

 霧本の一言に、富山と新発田は驚く。

 

「諦め切れないなら、ヤンデレになるのも一つの手さ。あまりお勧めしないけど。じゃね」

 

 霧本が去っていく。富山と新発田は、開いた口が閉まらなかった。

 

 

 

 女は戦っていた。64式小銃のボルトがホールドオープンになり、弾倉を交換、チャージングハンドルを引いて再び発砲する。

 

 村人達もAK47自動小銃を持ち出してきて応戦するが、「自衛官と素人の村人達VSマグマ軍と自警団」では結果が目に見えていた。

 

「ぐぁ!」

 

「あんた!」

 

 男の胸が撃ち抜かれ、妻らしき女がAK47自動小銃を投げ出して駆け寄る。

 

「俺はいいから……逃げろ……」

 

「捨てられる訳あるか! 生きてよ! ねぇ!」

 

 ネコ耳の女は64式小銃を撃ち続ける。そして再び弾切れ、しかしマグマ軍歩兵は近くにいる。女はホルスターからカスタマイズされた9mm拳銃を引き抜き撃った。

 

 

 

 格納庫には、大量の兵器が保管されている。74式戦車(改)、10式戦車、90式戦車、T-72戦車、T-80戦車、BMP-2歩兵戦闘車、89式装甲戦闘車、軽装甲機動車、96式装輪装甲車、高機動車、73式小型トラック(パジェロ)、FH-70 155mm榴弾砲、99式155mm自走榴弾砲、87式自走高射機関砲、CH-47JA輸送ヘリ、UH-1J汎用ヘリ(改)、UH-60JA汎用ヘリ、OH-1偵察ヘリ、OH-6D偵察ヘリ、AH-1S攻撃ヘリ(改)、AH-1S攻撃ヘリ、AH-64D戦闘ヘリがずらりと並ぶ。

 

「結構増えたわね」

 

「そうですね」

 

 ナナヨンとヒトマルが会話する。すると、警報が鳴り響いた。

 

〈中央混成連隊の全隊員、直ちに完全武装で車両庫に集合、繰り返す、直ちに完全武装で車両庫に集合せよ〉

 

 2人は武器庫へ駆けた。

 

 

 

 数分後、関越自動車道――

 

「緊急事態だ。陸自の無人偵察ヘリ(FFRS)がマグマ軍歩兵の大量の集団を見つけた。恐らく、まだ解放して間もない群馬を人海戦術で奪取するつもりだろう。既にいくつかの普通科連隊と施設科部隊が展開しているが、数が足りないらしい。よって即応部隊である俺達にお鉢が回ってきた。施設科部隊が構築した塹壕に入り、マグマ軍を迎え撃つ。以上だ」

 

 高機動車の助手席で、土居内が無線機に向かってそう言った。運転席には市ヶ谷。

 

 中央混成連隊の車列は関越自動車道を南下する。上空にはヘリコプターの編隊がいて、車列をエスコートしている。

 

 

 

「中央混成連隊の土居内だ」

 

「待ってたぞ、とにかく塹壕は既に作ってある。俺達は後方へ一旦引く!」

 

 伊勢崎市に到着し、中央混成連隊は施設科中隊と入れ替わり、塹壕へ入る。戦車や装甲車は武装を隠さない程度に隠れ、隊員達は小銃や機関銃を手に籠もる。

 

「敵の斥候でしょうか?」

 

 89式小銃を抱え、蛸壺に籠もる市ヶ谷が訊く。同じ蛸壺に入り、89式小銃の二脚を広げて構える土居内が、遠くに見えるマグマ軍歩兵を見て答えた。

 

「だろうな。OH-1(葵と柚子が搭乗)によると、敵の本隊はまだらしい」

 

 

 

 ナナヨンは、74式戦車(改)の砲塔の中で、120mmの砲弾を抱えていた。74式戦車(改)は、わざわざ新120mm滑腔戦車砲に交換され、新たな砲弾を搭載した。

 

 

 

 日が暮れ始め、やがて共産主義者達の足音が聞こえ始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。