りっく☆じあ~す 中央混成連隊、前進す! 作:土居内司令官(陸自ヲタ)
牢獄の扉が開かれた。
「起きろ、地上人」
近衛兵がそう言う。そして、服が投げ入れられた。
「とっとと着替えろ。書記長様を待たせる訳には行かないんだ」
近衛兵がそう言った。ベッドから起き上がった市ヶ谷が、侮蔑の視線で近衛兵を睨む。
しかし、近衛兵はさして気分を害したようで無く、牢獄を出て行った。
とりあえず、2人は投げ入れられた服を着る。まるで病衣のような、簡素な服だった。
0300、まだ夜明け前。
太平洋に展開した、アメリカの原子力空母〈ジェラルド=R=フォード〉の甲板から、F/A-18F スーパーホーネットが電磁カタパルトで射出される。
そして、海上自衛隊のヘリ搭載護衛艦〈いずも〉〈かが〉からAH-64D戦闘ヘリやMi-28戦闘ヘリが発艦する。
決戦開始は近かった。
土居内と市ヶ谷は、近衛兵と歩兵に連れられて奥へ行く。地下通路内は電灯で照らされ、炭坑を彷彿させる作りだった。
途中で部隊が何度か変わり、その度に近衛兵の割合が増える。自棄に入り組んだ通路を何度も曲がって下り、遂に連行部隊が近衛兵だけになった。
「第100近衛小隊です」
〔入れ入れ〕
巨大な扉の前で近衛兵がインターホンを押し、そう名乗った。インターホンから、あの赤髪の女性の声がした。
近衛兵が扉を開け、2人はそこへ放り込まれた。
「やぁ、土居内1尉と市ヶ谷3尉。そう堅くなるな」
ここだけやたら明るい部屋の、真ん中に置かれた高級そうな机に、あの赤髪の女性が座っていた。土居内は部屋を見渡し、扉はさっきの1箇所だけだと判断した。
「まあまあ、怖い顔をするな。こいつらに椅子を」
「ダー」
近衛兵が椅子を2つ持ってきて、2人を座らせる。こっちは安っぽかった。
赤髪の女性は葉巻の両端を切り落とし、マッチで火をつけた。
「地下空間でも、たまに風が吹くから火つけづらいんだよね。地上よりはマシだけど。お2人は煙草は?」
「吸った事は無いね」
「私もです」
「そ。人生損してるね、私から見れば」
赤髪の女性は紫煙を吐き出す。天井付近の換気扇がそれを吸い込むが、換気扇の周りには煤汚れがだいぶこびり付いている。
土居内の視線に気付いたのか、赤髪の女性は葉巻で灰皿を叩きながら言った。
「見ての通りヘビースモーカーでね。前はメビウスとかだったけど、地下にいるとどうもこればっかりなんだ」
「そんなのはどーでもいい。何で人間のあんたがここにいる」
すると、いきなり土居内を近衛兵がAN94自動小銃のストック(銃床)で殴った。
「佳樹さん!」
「地上人、もう1回書記長様に無礼な事を言ってみろ。私がお前を――」
「やめろ、ラースタチカ」
赤髪の女性が近衛兵を止める。近衛兵は敬礼し、土居内から離れた。
「近衛諸君。例え彼らがどんな事を言っても何もするな」
「しかし――」
「命令だ。ただし、彼らが勝手に立ち上がったら、遠慮するな」
『ダー』
土居内は、それに構わず滴り落ちる血を拭く。そして、赤髪の女性に向かっていった。
「どうして人間のあんたがここにいる」
「言葉に気を付けろ。最も、今日までの命だが。いいだろう、教えて差し上げよう」
「書記長様!」
「いいんだ。久々に人間と会話するんだから」
そして、赤髪の女性は土居内と唇を重ねる。
「あなた何を!」
市ヶ谷が暴れるが、近衛兵が市ヶ谷を椅子に押し付ける。赤髪の女性は、土居内の唇を離し、市ヶ谷に向かって言う。
「自衛官カップルか。結婚はあの世で行え」
そして、赤髪の女性は机に座った。
「改めましてだが、私の名前は山佐 夏音、地上ではマグマ軍とか地底特殊甲種害獣とか呼ばれている組織の、共産書記長を務めている。事実上のマグマ軍ボスだ」
それは、3年前だった。就職出来ず、大学の奨学金も返せず、両親は離婚し、数少なかった味方の妹が交通事故で他界し、この世に絶望した女がいた。
彼女は自らの命を絶とうと、テントと七輪と練炭を積めたバッグを背負い、富士の樹海に踏み入った。コンパス片手に奥へ進み、他人の来ない場所までやってきた。そして、いざ死のうとテントを広げた所、すぐ近くの洞窟から何かが聞こえた。
彼女は、既に先客がいたかと、最初は気にしなかった。しかし、その音はずっと続いている。エアコンのモーター音のような、虫の羽音のようなそれは、明らかに人間ではなかった。
遂に彼女は好奇心に負け、洞窟に入った。暗い洞窟の中、彼女は何の灯りも持たずに入っていき、そして捕らえられた。
気付いたら、彼女は地下に運ばれていた。アルコールランプが照らす空間は広く、どこまで広がっているか分からない。
すると、そこへ何かがやってきた。それは、一見女性のようだったが、昆虫のような腕が4本あり、さらには巨大な目が1つだけしか無く、人間で無い事だけは分かった。
そして彼女は、あの洞窟は自殺した時の幻影で、こいつは天使か悪魔の使いだろうと判断した。とても天使とは思えないので、消去法で悪魔の使いと勝手に断定した。
彼女はそんな事を言っていると、そいつは口を開いた。
「間違っている。いや、悪魔の使いなのは確かだが、お前は死んでいない」
「……は?」
「我々は長らく地底で暮らし、そして地上へ帰る予定だ。人間という生物が我が物顔で使う地上を奪い返す」
そしてそいつは彼女に、そのために協力をしろと言った。彼女は事情を聞き、彼らが作った兵器は、極東ロシア軍にことごとく負け続けていた事、彼らはメスだけでコロニーを形成する事、太古の昔に存在していた大陸で暮らしていて、その大陸と共に地下に潜った事、その一部が地下で生き残り、今のように進化した事、彼女の目の前にいるのは、人間の言葉が話せる突然変異種である事を知った。そして彼女は、こんな事を言ってみた。
「だったら、人間の兵器をコピーしてみたら?」
彼女の言った事は、そのコロニー内で広く伝わった。
まず最初に、人間の兵器をよく知る必要があった。そこで、近くにあった東富士演習場 富士教導団から兵器を盗み出し、そしてそれを遠隔操作出来るようにした。しかし、その種には向いていないらしく、上手くいかなかった。
そこで彼女は、人間の身体で試験したらと提案した。すぐにその種はそれを実行するために、数多くの女性を拉致し(男もほぼ同数拉致したものの、下っ端達が深い意味で食べ尽くしてしまった)、そして実験は上手くいった。が、一部は記憶を取り戻してしまい脱走。その全てを再び捕らえたものの、陸上自衛隊によって奪われてしまった。
彼女の功績は称えられ、コロニーの名誉族長となったが、泥沼の戦況を打破出来ずにいる。
「これが、あなた達の言うマグマ軍の成り立ちさ」
赤髪の女性はそう言い、煙を深く吸い込んだ。土居内は間髪入れずに口を開いた。
「なるほど、つまりあんたは文字通りの『悪魔様』という訳か」
すぐに近衛兵が殴りかかる。が、赤髪の女性が制止させた。
「人間から見れば、確かに『悪魔』だろうね。だが、この種からは『英雄』と見なされているし、地球の歴史からしてみれば、人間という害虫を駆除した益虫だ」
「そんな、他人事のように!」
市ヶ谷が叫ぶ。が、赤髪の女性はニヤリと笑った。
「そうだよ、他人事だよ。人類は一度滅ぶべきだ。残念ながらそうならないけど。結局何を言おうと一番かわいいのは自分の命なんだ。だから核戦争は起きなかった。核戦争が起きれば、人類共々無理心中は必須だからね。ここまで自己中な生物は他にいないよ! 他の生物は子孫を残すために努力してんのに、人類は一体何をしている訳? 『少子高齢化対策』? 『IT革命』? 笑わせんなよ。こんな自己中な生物が生きている価値があんのか? 『陸上自衛隊の精鋭』さんよぉ!」
赤髪の女性が土居内を見下す。しかし、土居内は何も言わない。
「優秀な部下が、君達の事を調べてくれたよ。土居内 佳樹、28歳。新潟県生まれで、新潟中越地震をきっかけに神奈川県に転校、普通の成績で県立高校を出て防衛大学校へ。陸上自衛隊 初等幹部教育課程で何故か北海道の第71戦車連隊の小隊長、その時の上官の脅しで幹部レンジャー教育課程へ飛ばされ修了、その後くじ運の無さで第1空挺団の小隊長、イラクPKOで駆け付け警護を独断で行って空挺徽章剥奪と3等陸尉への降格、しかし才能を惜しまれ第1普通科連隊に回されて今に至る……資料ではここまでだが、戦中特別編成の中央混成連隊指揮官だとか。そして市ヶ谷 愛、26歳。都内生まれの都内育ち。都内の名門女学校を卒業するも、親の経済状況から都内の一般高校へ。そしていきなり防衛大学校に飛び入り入学し、情報分析能力を買われて陸上自衛隊の情報通信大隊へ配属、しかし上官をセクハラ容疑で訴えて恨まれ、防衛省 中央情報隊に左遷させられる……で、どういう経緯か、陸上自衛隊の実戦部隊・中央混成連隊の副官か。大層な経歴だよ、小説みたいだ。そんな2人が惹かれ合って交際と
は……この戦いで命を落とした自衛官が泣くよ?」
赤髪の女性がそう言った。が、2人は何も言わない。
「最後に絶望する顔を見たかったけどねぇ」
「……それだったらゼファストポリを見せるだろう」
「あっはっはっ! 名前を知っているとは! 裏切り者から聞いたのかな? まあ、あれは修理中だ。陸上自衛隊やら多国籍軍の総攻撃でスクラップ寸前だったんだ」
そして、赤髪の女性は近衛兵に顎で指示した。
「グッバイ、地上人。多分これが最後の会話だろうね」
そして土居内と市ヶ谷は別室へ連れられた。
2人は壁の前に立たされる。周りには、AN94自動小銃を構える歩兵達の姿。
「佳樹さん」
「何だ?」
「あの世で、また会いましょう」
「ああ、生まれ変わって一緒に暮らそう」
AN94自動小銃の引き金を引く力が強くなる。