Wrap up the lord of knight   作:影斗朔

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信念の話(下)Ⅶ

「うっ・・・んん・・・?」

「・・・気が付かれましたか」

久々に見るような気がする白で塗りつぶされたかのような部屋に、ほとんど寝たことがないような白いベッド、そして視界の片隅からライトを覗き込む白衣の女性・・・。

「ここは・・・?」

頭が回っていたらすぐに気付くであろうこの場所についてライトは尋ねた。

「ここはハーツ中央病院、枢軸城の一部にある病院です。あなた方はあの事件から約一日ほど眠っていたんですよ」

そういえば・・・とライトは少しずつ思い出し始めた。

『炎熱』と戦って和解したこと、悪魔と戦って辛くも勝利を収めたこと、そしてゴーレムを食い止めようと体力を使い果たしたこと・・・。

(そうだ・・・!バリューは!?)

「・・・随分と遅い時間に起きたな、ライト」

慌てて辺りを見渡そうとしたライトの右側から、探そうとしていた人物の声が聞こえた。

「・・・そう言うお前はもう鎧を着ているのか、バリュー」

ライトは隣のベッドに座っていた鎧へと呆れたように言葉を返す。

喋り方から察するに、看護師であろう声をかけてきた女性が部屋に入る前に意識を取り戻したのだろう。見た目を隠すために慌ててすぐ近くにあった鎧を着たのではなかろうか?

(・・・手当を受けている時点で姿を見られていると思うんだけどな)

「・・・ライト、今失礼なことを考えていなかったか?」

「いいや、別に考えてないぞ」

「調子がよさそうで何よりです」

ふふふと笑い看護師は二人の様子を見守っていた。

「この様子でしたら体に不具合があるなどの心配はなさそうですね」

「不具合、ですか?」

「ええ、こちらに運ばれてきたとき、お二人とも凄い大怪我をしていたように見受けられたのですが、よくよく検査させていただいたら、不思議なことに傷の大半が治癒されていたので驚きました」

(傷が癒えていた・・・?)

ライトはバリューに訝しげな視線を向けるが、バリューは心外だとでも言いそうなほどに首を振る。

そんな中、看護師は先ほどのような快活さとは打って変わり、少し縮こまった様子でおずおずと二人に向けて口を開いた。

「あの・・・、疲れがあまり取れていないと思いますし、看護師として大変言い出しにくいのですが・・・、枢機者様がお二方とぜひ会いたいとご所望なさっています。あの方は大変忙しい方なので・・・、今から玉座へと向かう準備をお願いします」

質問ではなく切願であるという事は、この看護師はこの国の長である枢機者から、絶対に玉座へと連れてくるように言われているのだろう。

大儀を請け負ったことによる緊張か、少し声が上ずり、震えていた。

「荷物をまとめ終わりましたら声をおかけください。上層部までご案内します」

そう二人に告げた後、看護師の女性はそそくさと病室から出ていった。

 

「・・・どうしようか?」

「どうするも何も、行くしかないだろ。出来れば行きたくないが、避けて通れる道ではなさそうだからな」

「そうだよね・・・」

面倒事は一度関わってしまった事ならまだしも、基本的に避けるに越したことはない。

こんなことをしている間にもあっという間に時間は過ぎていく。

それに、ただでさえこの国に滞在している時間は長い。

枢機者に会いに行くといったことよりもあの人の家族に早くロケットを届けないといけないのだ。

幸いにも助けに来てくれた人がついでに拾ってくれたのであろう、ライトの鎧以外はこの場にあった。

「よし、行くぞ」

言うが早いか、ライトはベッドから降りてスリッパを履き、近くにあった硬剣を引っ掴んで外へと出ようとする。

「ちょっと待って」

しかしバリューは座ったまま、物言いたげにライトのほうを見つめていた。

「・・・どうした?」

「・・・その格好で行くの?」

病院服姿のライトを見てバリューは呆れた声を出した。

「他の衣服がない以上仕方がないだろ」

「そうだけどさぁ・・・」

(みっともないとかそういった羞恥心が欠けているのかなぁ・・・)

明らかに不格好なその姿にバリューはうーんと唸る。

「城を出てから買うさ、とにかく行くぞ」

「あ!待ってってば!」

先に行こうとする不格好な相方を追うため、バリューも壁剣を背負って急ぎ足で扉へ向かった。

 

「この扉から向こうが城内となっております。大丈夫だとは思いますが、もし何かあったらいけないので、私の後を一列でついてくるようお願いします」

看護師はそう言った後、扉へと手を伸ばす。

二人がいた病室から少し歩いた先にはもう、きらびやかな装飾がされている城内への扉があった。

「・・・これは、凄いな」

思わずバリューが声を出してしまうのも頷けるような光景がそこにはあった。

巨大な空間の壁面には蒸気機関がズラリと立ち並び、それぞれの蒸気機関から出てきている管は縦横無尽に這いまわり絡みつくように折り重なっていた。

「ここはハーツの気温、湿度を管理しているボイラー室のうちの一つとなっています。・・・と言っても点検以外では、ただの通路として使われていることが多いですね」

そう言って看護師が指さした先には少しばかり日の光のようなものが見えた。

「ここは螺旋階段と繋がっているだけなので、少し退屈かもしれませんが、あの辺りまで歩かないといけません」

「本当に通路みたいな感じですね・・・」

先程看護師が指さした所が階段なのだろう。確かに、周りの風景に飽きる程度には遠い道のりになりそうである。

 

しかし、その心配は杞憂で終わった。看護師が結構な話し上手で、この国の事や次に近い国の話、城の事や勤めている騎士の事で話をしているうちに、階段から漏れる日の光が大分近くなっていたのだ。

「ここから先は階段が続きますので、お辛いとは思いますが四階層ほど―――」

カツンカツンと何者かが階段から降りてくる音が聞こえると同時に看護師の声と歩みが止まる。

何事かと一列になってついてきた二人は看護師の後ろから顔を覗かせると、階段から降りてきたのは鎧に身を包んだ二人の女性だった。

一人は肩元までウェーブのかかったセミロングの茶髪と、あらゆるものを見透かす水晶のような碧い瞳で革製の鎧を纏っており、もう一人は腰まで伸びている銀色のロングヘアに、雲のように揺れ動いて見える灰色の瞳で立派な装飾がびっしりと施されている鋼鉄製の鎧を纏っていた。

「せ、()()()()様、どうしてこちらに・・・?」

((()()()()・・・!?))

二人は表情こそ変えなかったが、驚愕で体が思わず動きそうになった。

基本的に十忠に選ばれた者はそれほどの実力から専属騎士として採用されることが多いが、確かに、ブロウはそういった立ち位置には就きたがらないだろうし、似合うかと言われたら正直似合わない。

だとしても、専属を任される騎士は相当の実力者でなければならないことは事実である。

つまり、ライト達の目の前にいる二人は少なくともブロウ並みかそれ以上の実力者である可能性が高いのだ。

「ここからはわたしたちが案内しよう」

「で、ですが・・・」

「気にすることなんて別にないから。あなたはもう持ち場に戻っていいわよ」

「は、はい!」

看護師は恭しくお辞儀をした後、心なしか速足で院内へと戻っていった。

「こっちよ、ついてきなさい」

茶髪の騎士が先導するように歩き始めた。

「では、いきますか」

その様子を見て銀髪の騎士は二人のすぐ傍で歩幅を合わせる。

(これって・・・)

(・・・完全に警戒されているな)

玉座までの案内が城勤めの騎士ということは変な動きをしたら即座に拘束するという圧力を掛けているのと同意義であり、素性が知れない相手に対して正しい判断である。また、この城の最高戦力と思われる専属騎士をライトとバリューに割いているということは、ゴーレムを倒した手腕があるということを考慮してのことであり、おそらくブロウと戦闘したことやその後に連戦で悪魔と戦った事も調査済みなのだろう。

二人は決して国を栄えさせる手腕を舐めていたわけではないが、この城の主レプリカ・クラッドレインは間違いなく王と呼べるべき頭脳を持つ計略家だと確信した。

 

だだっ広い円筒の空間にそれぞれ音が違う足音だけが響き渡る。

四人の騎士たちは会話もないまま黙々と長い螺旋階段を上り続けていた。

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・()()()()

誰一人口を開こうとしない中、ライトの隣にいる銀髪の騎士が不意に言葉を発した。

「君たちがしっかりとわたしと同じ歩みで階段を上れているようで、本当によかったよ」

「・・・馬鹿にしているんですか?」

おかしなことを口にした銀髪の騎士をライトは軽く睨むが、騎士は微笑みを絶やさない。

「睨みも利かせられているしこれなら怪我の治りは順調かな?・・・いや、術式が誤っていて、利きが悪かったりしたらどうしようかと心配でね。先ほどの言葉は聞かなかったことにしてほしい」

その言葉で、ライトはすぐ隣にいる騎士が自分たちを治癒し、病院まで運んだ人物だと察した。

「なるほど、怪我の治りがやけに早いと言われたので何事なのかと思ったのですが、貴女のおかげだったのですね。ありがとうございます」

「・・・あんたは魔術師なのか?」

鎧をまとった状態のバリューは専属騎士に対しても、相変わらずぶっきらぼうな口調のままだった。

「うーん、まあ、そんな感じかな。あなたは?」

「・・・見たらわかるだろう?」

「あんたは生まれつき口が悪いわけ?助けてもらったのに何その口調?」

バリューのあまりにも失礼な口調に苛立ちを感じたのだろう、静かではあるが圧倒されるような怒気が篭った声が、前から聞こえてきた。

「この国の恩人に喧嘩口調で話しかける方も大概だと思うけれどね」

後ろを一切見ること無く、ずんずんと登っていく茶髪の騎士を見ながら銀髪の騎士は苦笑する。

「そんなことないわよ。礼節を弁えていない人にはこれくらい普通じゃない」

「・・・全くその通りです。おいバリュー、いい加減敬語を使うとか敬意を示すような態度をとれるようになれよ」

「・・・」

「いやいや、人の個性を否定するのは良くないさ。彼には彼なりのルールか何かがあるのだろうし、ね」

ライトとバリューはお互いに顔を背け、無言になる。その後継が険悪のようだと思ったのか、銀髪の騎士はバリューのフォローに回っていた。

実際のところ、こういった小言の応酬は日常茶飯事なので、特に仲違いしたというわけではない。ただ、少しだけライトはバリューの変わらない様子に呆れ、バリューはライトからの小言に拗ねてむくれていた。

「まあ、注意しているあんたも大概だけれど」

先ほどから茶髪の騎士はこちらを一切振り向かないので、誰に向けて言っているのかいまいちピンと来なかったライトは、少ししてから漸く自分に宛てられた言葉だと理解する。

「・・・俺、ですか?」

「あんた以外誰がいるわけ?あんたも猫被ったようなその態度やめたら?しゃべり声を聞くだけで寒気がするんだけど」

「・・・そういう貴様の驕っている態度は、到底騎士とは言えないな。声を聴きたくないのなら、黙って耳栓をするだけでいいだろ」

(ん、珍しいな。バリューが口喧嘩を吹っ掛けるなんて・・・)

こちらにも飛び火してきたかといったような感じで苦笑いを浮かべていたライトは、隣にいたバリューが珍しく、悪口を言われて怒っていることに驚き真顔になる。

「は?言ってくれるじゃないの・・・!」

「・・・そもそも、人の顔も見らずに言いたいことだけ好き放題言うなど、一方的で押しつけがましいにも程がある」

茶髪の騎士の足が止まった。

「調子に乗らないでくれる?」

「・・・自分の身分が偉いからと、驕っていたのは貴様のほうではないか?」

気づけば茶髪の騎士はバリューと隣り合って怒号を交わしており、代わりに銀髪の騎士が先導のために前方へと出ていた。

・・・どうやら、精神的には銀髪の騎士の方が秀でているようで、クククと笑いながらゆっくりと階段を登っていく。

(納得いかない・・・、どうしてこうなるんだ・・・)

ライトは今にも頭を抱えそうなげんなりとした表情で階段を登っていたが、それに気づく者はこの場にいそうになかった。

 

目的の階にたどり着いたのか、銀髪の騎士は扉の前で立ち止まる。

「申し訳ないがここから先は静かにして欲しい。主様はどれだけ五月蠅い客人でも歓迎するのだけれど、堅物な大臣たちは何をするかわかったものじゃないんでね」

その言葉が発せられたと同時に、辺りが急に冷気に包まれたかのように冷たくなった。

「・・・知っているわよ、そのくらい」

「・・・わかった」

銀髪の騎士から発せられる冷ややかなオーラに当てられたのか、先ほどまで口喧嘩していた二人は急に黙り込んだ。

(黙らせることができるなら最初からやって欲しかったものだ・・・)

「それだと面白くないだろう?」

「・・・少なくともあの会話に面白みを感じなかったですよ?」

「おっと、それはすまなかったな」

思考を読まれたことにライトは驚きそうになるが、目の前にいる銀髪の騎士は魔術師だということを思い出し、簡単な思考の透視ならできるのだろうと、目の前でまたクククと笑う銀髪の騎士の事を解釈した。

 

「さて、いい加減開くよ」

そう言い終わらないうちに、銀髪の騎士は扉を開いた。

上層階はボイラー室とは打って変わり、きらびやか且つ豪華で、まさに城内の王室付近だとわかりやすい装飾の壁や柱があった。

そして、圧倒されるほど、一際目立つ大きな扉が廊下の最奥に聳え立っていた。

「あれが・・・」

「・・・王室か」

「うん、察しが付いただろうけれど、この扉の先が玉座になっている。中でレプリカ様が君たちの到着を待っているよ」

静かに歩いていた専属騎士たちは大扉の少し手前で立ち止まった。

後に続いていた二人もそれにつられて立ち止まる。

「くれぐれも失礼が無いようにしてよね。変な行動をしたら即、首を落とすから」

「そんな緊張させるようなことを言うんじゃないさ。なに、君たちはカッパーの救世主でもあるわけだ、レプリカ様が邪険に扱うことはきっと無いよ」

出会った時と変わらぬ表情のまま、専属騎士の二人はライトたちから大扉の方へと向き直る。

そして、中にいる者に客の到着を告げる事無く、扉をゆっくりと押し開いた。

その途端、ライトとバリューは思わず身構えてしまうほど、自分たちに向けて吹きすさむ逆風を感じた。

 

―――否、()()()()()

二人が風のように感じたのは、玉座に腰かけている人物の佇まいだった。

荒々しく燃え盛るかのような紅蓮に染まった散切り頭に、少しばかり切れ長で夕陽を湛えたかのような瞳。その右目は瞳と同色の眼帯で覆われていた。牡丹のような深紅のドレスは引き締まった体のラインを浮き彫りにし、優雅で若々しく少しばかり筋肉がついた肉体を強調し、まるで大地を力強く駆ける獣のように思わせる。

そして、風格。百戦錬磨の強者と言われても不思議ではないその眼光や存在感は、まるで砥がれたばかりの刃を思わせる程、鋭利さと切れ味を持ち合わせていた。

 

ライトとバリューはどちらも目の前にいる専属騎士と同様に、国王に従えていた経験がある。

しかし、彼らは知らなかった、彼らの主たちは決して彼らの前で『王の威光』を見せなかったということを。

そして、『王の威光』を存分に剝き出した人物が、自分たちの目からどのように映るかを。

二人から見た玉座に座っている彼女は、まさに未知の領域、時間どころではなく空間が違う存在で、そこにある絶対的な格差を感じることが精一杯だった。

 

そんな二人の様子を見てからか、椅子に座る女性は笑みを浮かべる。

その女性こそが、たった一人で国を最高まで発展させた、世界でも類を見ない特異性を持つ一国の主。

 

枢機者、レプリカ・クラッドレインその人だった。




おはようございます(明朝)。左之亜里須です。

いつものように拙い部分が多々あったかと思いますが、ここまで読んでくださってありがとうございます。

さて、二人は無事ゴーレムを倒すものの、今回は枢機者から直々に呼ばれてしまう回でした。

自分よりも目上の人から呼ばれて断るわけにはいきません。
勿論、断らねばならない理由があるのならば例外ですが、それ以外でのお断りは失礼ですよね。
一番やってはいけないのは連絡なしで無視することです。
何があったとしても、報連相は絶対大事!

次回は少し時間がかかりますが、この物語(信念の話)の終章です。
それぞれが、それぞれの意志と思惑でぶつかり合ったこの話もいよいよ終わりとなります。

読者様はどのような信念がありますか?
その信念を貫くためにはどのようなことをしていますか?
もし、信念がないという方、信念を貫く方法を探している方は、その答えとなるようなものがこの物語で見つけられたら幸いです。

次回作もまた見て頂いたら嬉しいです。


それでは、より良い日々を・・・。








一部分没にしたことで文章が少し少なめです。
長い文章が好きな方には申し訳ないです・・・。
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