Wrap up the lord of knight 作:影斗朔
「ほら、ボーっとその場に突っ立ってないで、早く中に入りなさい」
茶髪の騎士のその一言で、ライトたちははっと我に返った。
「失礼します」「・・・失礼する」
二人は一礼して、専属騎士達の後から玉座の間へと入った。
「おっ、来たか。あれからどうなったのかと思ったが、無事だったみたいだな」
玉座の右隣に立つ騎士のような容姿をした者がライトたちに声を掛けた。
左腕と右足だけ形が異なっている見たことのない鎧を身に着けている人物は、よくよく見るとカッパーで出会ったあいつだった。
「無事ゴーレムを止めることが出来たんだな、ブロウ。手足の形が変わっているから、お前だと一瞬わからなかったよ」
「おうよ。ま、何がともあれあんたらのおかげだ。感謝するぞライト、バリュー」
「・・・当たり前のことをしたまでだ。褒められるようなことではない」
「あんたは相変わらず愛想がねーよな」
ふん、と鼻息を立てるが、満更でもない表情でブロウは二人へと不敵な笑みを浮かべる。
「レプリカ様、連れてこいと言われていたこの礼節を知らない不届きな二人組を連れて参りました」
「二人とも怪我の治りや体力の回復に問題なさそうです」
「それは良かった。少しぐらい長話できそうだね」
始めから長話をする気しかなかったような事を言いながら、レプリカはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「ああそれから、二人は休憩に戻っていいよ。護衛はブロウに頼んでいるから」
その言葉を聞いた茶髪の騎士は驚愕で目を見開く。
「・・・はぁ!?ブロウに任せているんですか!?それなら―――」
「それなら何も心配いらないですね。ほら、行くぞ」
「ちょっと―――!?分かった!分かったから引っ張らないでってば!!」
茶髪の騎士は銀髪の騎士から首根っこを引っ掴まれ、なすすべなくその場から退場する。
ブロウは茶髪の騎士が引きずられていくその様子をニヤニヤと笑いながら見ていた。・・・何かしらの恨みでも持っていたのだろうか?
そしてその様子を見ていた二人は・・・。
「・・・」
「・・・」
「いやあ、彼女は見ての通り口は悪いんだけど、実は心配性でお節介なところがあってね。私の顔に免じて許してほしい」
まるで我儘を言う子供に対するかのような光景に唖然として、一言も発することができなかった。
(いや・・・、見たことがあるぞ?誰かさんの性格とそっくりだ。だから同族嫌悪のようにあれほど口うるさく言い合いをしていたのか・・・?)
「ライト、また私に対して失礼なことを考えていただろ?」
「いや、別に?」
何も考えていないと言わんばかりに、ライトは真顔に戻る。
「さて、早速だが本題に入るよ。ブロウも少しの間静かにね」
レプリカのその一言で、その場が急に凍り付いたかのように静まり返る。
やはりレプリカ・クラッドレインは常人ではないとライトは再確認した。
戦闘技術や国を興す力は、はっきり言ってしまえば先人から学び、努力することで必然的に身につくものである。
しかし、威圧力や言動はその限りではない。
それら『形容しがたい権能』はそれ相応の才、又はそれ相応の何かを成しえたことによって得た才がある者にしか発することのできない力である。それを持ち合わせる目の前の枢機者はそれほどまでの人格者であった。
「このたびはカッパーとハーツで起こりそうになった未曽有の危機を、わたしの騎士であるブロウと共に脱してくれて礼を言わせてもらおう。勿論、報酬も相応のものを用意させてもらっている」
謝礼言葉のテンプレート。どういった場合でもそうだが、これらは相手からの印象を良くするための前座に過ぎない。それはたとえ王だとしても変わらないだろう。
「また、これは提案なんだが―――」
やはりと言うべきか、レプリカは感謝の言葉を二人に告げるだけではなかった。
そして、その口から放たれる言葉を想定することは、そう難しくなかった。
「君たち、
「「・・・」」
一言も発言しようとしない二人が困惑していると思ったのか、レプリカは矢継ぎ早に言葉を続ける。
「勿論ただでとは言わない。給与は弾むし、居住地もいいものを用意できる。武器も新しいものに取り換えよう。他にも要望があったら叶えられそうなものは叶えさせてもらう。どうだ、これ以上にない提案だと思うが」
「いえ、お断りします」
「・・・同じく、断る。」
当たり前のように二人は即断った。
レプリカは驚いたのか、パチパチと瞼を閉じたり開いたりする。
ふうむ・・・と、そのまま言葉を濁らせるが、ふとその言葉を発した。
「
「・・・そうだろうとは」「思っていましたよ」
決して知られている可能性を否定していたわけではないが、核心を突かれた二人は静かに剣の柄に手を伸ばす。
「別に脅している訳じゃなくてさ、純粋に疑問に思っただけだから、そう身構えないでほしいな」
レプリカは今にも切りかかりそうな二人へと笑いかけながら、敵意はないと言わんばかりに両腕を開いて見せる。
しかし、その瞳は決して笑っていなかった。
「いやさ、本当に気になっているんだけど、君たちがどういった理由で死亡された扱いとなっているのかや、なぜ旅をしているのかはこの際どうでもいいとして、この旅で君たちが得られるものって何かな?例え、誰かの忘れ物を返しに行く旅だろうが、忘れていた物を取りにいく旅だろうが、その旅の中で何も得られないのならば、極端な言い方ではあるが無意味で無価値ではないんじゃない?」
「そんな事は・・・!」
「・・・言いたいことはそれだけか?」
抜刀したバリューを見てブロウは慌ててレプリカの前へと立ち塞がる。
「ちょっと待てバリュー!お前が主様を敵に回すつもりなら俺はお前を止めなくちゃならねぇ。それは流石に嫌だぜ!?」
「ブロウの言う通りだ。落ち着けバリュー。俺たちはここで問題を起こして旅を止めるわけにはいかない」
バリューが少し怯んだ隙にライトはがっしりと剣を握っていた手首を握りしめる。
バリューはライトの手を振りほどこうとするも、ライトの手のひらに収まり切れない程太い手甲であるにもかかわらず、固定された手首はピクリとも動かせなかった。
「・・・わかった」
その言葉を聞いたライトは握りしめていたバリューの手首から手を放す。
二人の剣幕に押されたバリューは腑に落ちない様子ではあったが、渋々壁剣を背負い直した。
「・・・先程の事は流石に言いすぎたよ。そこまで重要な旅なら止めるわけにはいかないね。それならば、旅が終わってから我が国の騎士となるのはどうかな」
確かに、旅が終わったらライトたちは正式に騎士ではなくなる。
旅を終えた二人には職がない。
城に居続けることもできないだろうし、もしかしたら国に留まる事も不可能かもしれない。
「・・・それでも」
「それでも、俺たちは・・・、
理由として成り立たない言い訳のような宣言。
ただの我儘で、聞きようによっては「絶対にお前の国の騎士になってたまるものか」とも聞き取れてしまう発言。
それでもレプリカは何かを感じたのだろうか。
二人をじっと見つめていた夕陽の瞳が僅かに揺らいだかと思うと、そのままふぅと息を吐きだす。
「・・・そうかあ。じゃあ仕方がない、諦めるよ。でも、気が変わったらいつでも待っているからね」
そう言ってレプリカ、まるで二人を慈しむかのように見つめていた。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・よし!」
辺りが重たい静寂に包まれる中、レプリカは唐突に立ち上がった。
「さて、どうせならここから質問コーナーといこう。このわたし、レプリカ・クラッドレインについて知りたいことがあったら何でも聞いていいよー」
先ほどまでの緊迫した雰囲気をさておいて急に気の抜けた声を出す。
「ええと・・・?」「・・・んん?」
「あ、急にどうしたのかって言いたいんでしょ。わかるよ、うん」
困惑する二人をよそ目に何故だかレプリカは楽しそうな口調で語り始める。
「いやさ、形式上だったとしてもわたしは言いたいことを言ったし、聞きたいことは聞いたじゃない?そして、それなりに君たちに嫌な思いをさせてしまったでしょ?それなら、わたしも同じような目に合うべきだと思うんだよ。うん。だから、君たちがわたしに対して問いただしたいことがあったら、文句を言いたかったら言えるような機会を与えるべきだと思ってね」
「そのための『質問コーナー』ですか・・・」
「そういうことだよ!」
レプリカはビシッ!と効果音が出そうな勢いでライトの方へ指を刺す。
それを見ていたブロウは頭を抱えていた。
目の前にいる枢機者の急なテンションの上がりようと雰囲気の変わりように二人は目を回していたが、何も質問しないのは失礼に値するとライトは口を開いた。
「それではお言葉に甘えて・・・、貴女はどのような人物なのですか?」
「ライト君、だっけ?いきなり答えにくい質問してくるよね・・・」
レプリカは立ったまま大げさに項垂れてみせる。
と、思いきやこめかみをトントンと指で叩き、考え込み始めた。
「そうだなぁ・・・、正直なところ、わたしは国王というよりかは、いくつか伝説も作っちゃったし
(え?伝説・・・?)
(ん?勇者・・・?)
「・・・『勇者』ですか?『英雄』ではなく?」
レプリカの言葉に耳を疑い、思考が止まりかける二人であったが、ライトがどうにか言葉を捻り出し、バリューはそれが聞きたかったと言いたげに頷く。
「実は、随分と前に家出をしてね」
「・・・家出、か」
今まであまり口を開いていなかったバリューが急に口を開く。
「どうかした?」
「いや、何でもない。続けてくれ」
どうやらただ反芻しただけのようだ。
少し慌てた様子で右手のひらをレプリカに見せる。
「そう?じゃあ続けるよ。・・・その際にわたしは様々な場所で数々の活躍をしたんだ。『
先ほど畏怖の目で見られていたはずだったのだが、いつの間にか向けられていた目線が白々しいものとなっていて、レプリカはほんの少しばかりたじろぐ。
「なぜ家出しようと?」
「なに、家出の理由は下らないものでね。親と大喧嘩して家を飛び出したんだ。その後、わたしの両親は流行り病に倒れてそのまま返らぬ人となった。だから帰ってきた途端、兄弟たちから散々怒られたよ。結局、一人でこの城を管理することを条件に、一応許してもらったんだけれどね」
その言葉を聞いて二人の顔はさらに訝しげになっていった。
「ほ、本当だって。君たちの主たちも名前ぐらいは聞いたことがあるはずだよ。たぶん・・・」
余りにも荒唐無稽な話を聞いたせいか、二人が想像していた枢機者のイメージが段々と崩れていく。
「いや・・・、人づてに聞くならまだ尊敬できるんだが、主様の口から直接言われちまうと流石にちょっと・・・。あと、家族を大切にしないのもな・・・」
それはブロウも同じだったらしく、少しばかり玉座から身を離すほどに引いていた。
「いやいや、人に心配かけることに至っては君も人のことを言えないんじゃないかな。そうだろう、
「・・・おい。そうやってオレを呼ぶな」
突如、ブロウは顔を顰め、恨んでいるかの形相をするなど、主に対する態度とは思えない行動をとり始める。
「え、何だいブロウちゃん?」
「だから・・・!
どうやら語尾が気に食わないらしく、レプリカに食って掛かるような勢いで怒鳴り散らした。
「つれないなぁ、主を心配させたのにそんな言いぐさはないんじゃないかな?」
「うっ・・・!」
かと思いきや、レプリカに文句を言われると一瞬にしてその勢いがなくなっていく。
「おまけに、帰って来たと思ったら手足が蒸気機関になっているし・・・。聞いた限りでは、見知らぬ二人組と一人で戦って、助けが入らなかったら死んでいたかも知れなかったらしいってね」
「そ、それは・・・!」
「悲しいなぁ・・・、わたしはブロウちゃんの命の恩人なのに、全然信頼されてなかったんだねぇ・・・」
めそめそと泣き真似を始めるレプリカに、焦ってオロオロとしだすブロウ。
ライトたちはそれを呆れたような目で見ていた。
「・・・あー!もう、分かったよ!悪かったって!お詫びに何でもしてやるから!」
「「あっ」」
何でもするって言っちゃダメだろと二人は思うが、口に出すのが少し遅れた。
「ん?今何でもするって言ったよね?」
「お、おう。何でもしてやるよ!」
レプリカはしめたとばかりにいたずらっ子のような満面の笑みを浮かべる。
それを見たライトたちは、何故かわからないが無意識に身震いした。
「じゃあ、今週の抱き枕はブロウにしようかな」
「だだだ、抱き枕!?な、なんだそれ!?」
抱き枕と言われた途端、ブロウの顔が熟れたトマトのように真っ赤になり、狼狽え始める。
「抱き枕は抱き枕さ。近頃寒くなってきたから、どうにも人肌恋しくなってきてしまってね」
レプリカはまるで大好きな人形を抱きしめるかのような表情で、愛おしげに自らの体を抱く。
「だ、だったら、あいつらでもいいじゃねーか!オレである必要はないだろ!」
「彼女らは今夜に遠征に行くんだ。しかも、どちらも一週間で帰ってこれるかわからないんだよね」
「なんだよそれ!?聞いてねえぞ!」
「だって、ブロウちゃんいなかったじゃん」
「うっ・・・!」
レプリカがブロウへと手を伸ばす。ブロウはその手から逃れようと必死な形相で体を動かそうとするが、蛇に睨まれた蛙のようにその場から動けなくなっていた。
そういえば、蛇に見つかった蛙が動かない理由は、一説によれば視力があまりない蛇をやり過ごすためだとも言われているんだったな。と、目の前で繰り広げられている弱肉強食のような光景を見て、ライトはどうでもいいことを思い出した。
「なあ!お前らからもなんか言ってくれよ!」
ブロウはこのままではマズいと悟ったのか、ライトたちに助けを求め始めた。
・・・すでに抱き付かれているので、時すでに遅しという感じではあるが。
「騎士は主の命に従わなければならないだろ?」
「・・・これは私たちの問題ではないからな。口をはさむ理由がない」
すでにがっちりと捕まえられているブロウへ、二人は辛辣な言葉を返す。
「はぁ!?そんなこと言うなら!バリュー!お前の秘密をばらすぞ!」
「いや、素性がばれているんだから、秘密なんてないようなものだろ」
「え?」
「え?」
「・・・は?」
まるで想定してなかったかのように府抜けた言葉を出して固まるブロウとバリューを見て、思わずライトの表情も固まる。
「そうそう。バリューちゃんがブロウちゃんと同じ
「はあああああああああ!?」
一瞬、騒がしくなっていた場が静まり返るが、ブロウの叫び声を皮切りに、また場が五月蠅くなり始めた。
「嘘だろ!なんでオレが女だって知ってんだよ!?」
「え?・・・え!?ブロウが女の子!?そうなの!?」
「・・・いや、寧ろ男だと思う方が俺にはわからない」
驚きでつい素が出てしまっているバリューへとライトは呆れがちに返事をする。
確かに見た目で性別を判断するのは難しい。ブロウのようなガキだったら尚更分かり辛い。
だが、顔を見る限りどちらの性別だと問われれば間違いなく女と答えるような容姿をしている。
そして、女、子供、老人で構成されている深部へと自由に出入りできるということを考慮すれば、大体女だろうなと察しが付くものである。
ライトに至ってはこれが二度目なのだから、もはや性別を誤魔化されても見破れないことなどなかった。
・・・とは言え初対面の人物ならば、ブロウの性別がわからなくてもおかしくはない。しかし、レプリカはどうやら出会った時から女であることを知っているようだった。
「・・・なぜ、貴女はブロウが女だとわかったのですか?貴女は深部がどのようになっているのか、どのような人が住まうかを知らないのでは?」
「ふふん。万民の目を誤魔化そうとも、わたしの目は誤魔化せないよ。なにせ、私にはクラッドレインの血が流れているからね!どんな格好をしていても女性かどうかわかるのさ!」
自慢げに語るレプリカは相変わらずブロウを抱きしめたままだった。
ブロウはどうにか脱出しようともがいているが、もがけばもがくほど抱きしめる力が強くなっているように見える。
「まるで、女性ならいかなる場合でも見逃さない家系とでもいいそうな謳い文句ですね・・・」
ライトが発した呟きを見逃さず、レプリカはすぐさま反論する。
「女性を見逃さない家系?そんなことはないさ。クラッドレイン家の男だったらきっと男性を見逃さないだろうね」
「・・・ん?それは―――」
先ほどまでの話に一切入ってこなかったバリューがはっと顔を上げる。
「察しがついたみたいだね。そう、我が家は元々から同性愛者の家系なんだ。同性を見抜く程度のこと、出来て当然じゃないかな?まあ、国を建てている以上、血を絶やす訳にはいかないので、我ら一家が親友といえる異性と子を成すことを妥協していたが、わたしたちが真に愛していたのは同姓なんだよ」
玉座はまたしても静寂に包まれる。しかし、今度はなかなか静寂が破られることは無かった。
ブロウはレプリカの胸に顔を埋めピクリとも動かない。・・・窒息したのではなかろうか?
バリューは相変わらず無言を貫き通していたが、おそらくなんと言えばいいのかわからず内心あたふたしているのだろう。
ライトはもはや言うべき言葉がなくなってしまったのか閉口して、誰かが言葉を発するまで待機していた。
そのタイミングでふとライトは思い出した。城内では殆ど人に会っていなかったが、確かに皆女性だったことを。
「・・・満足したか?」
静寂を破ったのはまたもブロウだった。
どうやら暴れても振りほどけなかったので反抗することを諦めていたのだろう。
「うん。少し満足したよ」
「これで少しかよ・・・」
満足げに玉座に座り込むレプリカに対し、ブロウは今にも倒れそうな憔悴しきった表情をしていた。
「貴女はもしかして、この城に務めさせている者全て女性限定にしているんですか?」
ライトが問いかけると、レプリカは満面の笑みで返事を返す。
「そうだよ。ここがわたしの理想郷!給仕も騎士も全員女性!明日は誰と夜を共にするか考えるだけで・・・ぐふふふ・・・!」
「なんであの時、オレはこんなやつの下についてしまったんだ・・・」
どうにか解放されたブロウだったが、女性が出すような声とは思えない下品な笑い声をあげるレプリカを見て、ついに参ってしまったのか床に座り込んでしまった。
「ただ・・・」
ほんの少しだけレプリカの表情が曇る。
「見ての通り、ここはユリの花園というわけなんだけれど、そこに虫が湧いたら誰だって嫌だろう?本当はこの城に男は入れたくなかったんだよね・・・」
「それなら、今すぐ退城させていただきますが・・・?」
むっときたライトはつい口調を荒くしてレプリカへと提案する。
「いやいや、この国の恩人にそんな無礼なことをするわけにはいかないよ。それにライト君はここの者へと欲情していなさそうだから、特別に許可してあげよう」
「流石に貴女から欲情うんぬんを言われたくないですね・・・」
どんな相手にも臨機応変に対応することはライトの得意分野の一つなのだが、流石に枢機者相手だと困難なのか、それとも人格的に苦手なのか、言葉に力がなくなり口数もだんだんと少なくなっていた。
「さて・・・、もう質問コーナーはいいかな。この調子だと聞いている君たちが草臥れてしまいそうだ」
すでに疲労感が押し寄せていると言いたそうである三人をさておいて、レプリカは相変わらずいたずらっ子のような笑みを浮かべたままだった。
「そうだ、『草臥れて』で思い出したよ」
どこやったかな?と呟きながら、レプリカは玉座の裏に回り込む。
「・・・?何やってんだ?」
「この辺りに隠していたものがあってね・・・あった!」
訝しむブロウをさておいて玉座と床の間へと手を伸ばしていたレプリカは、目的のものを見つけたようで勢いよく手を引き抜き、ライトの前へと移動する。
「これをライト君にあげよう、型は古いがまだ十分機能する
形見と聞き、ライトはしり込みする。
「大切なものなんですよね?流石にそれは・・・」
「『草臥れ、壊れかけた代物ほど、進歩への足掛かりとなりうる、価値ある素晴らしい物だ』っていうのが初代の謳い文句でね。君たちの旅に役立てば、こいつも本望だろうさ」
レプリカへと遠慮がちな態度をとっていたライトはあっという間に左腕を手に取られ、その手に枢銃を握らされた。
「次立ち寄った時にでも返してくれたらいいよ。何なら返してくれなくてもいいんだけれどね?」
そういってにっこりと微笑むレプリカに、ライトは何も言い返せず俯く。
「まあまあそう硬くならないで、こちらとしてはこれから先使うか分からなかったものをただ預けただけなんだから」
「・・・わかりました。必ず返しに来ます」
「そう?じゃあ、その時にはわたしも所帯を持っているかもしれないし、子供がいたらそいつに渡すことにしようかな」
ライトたちが入ってきた扉へと目を向けたレプリカは何処か嬉しそうな表情をしていた。
「物はいつか壊れて失われるだろう。いざという時の助けにもならないだろう。それでも、それがあったことは無意味ではない。未来を形作るための重要な足掛けとなる。―――初代はきっと物を誰よりも大切にしていて、そこにたどり着いたのだろうね」
レプリカが眼差しを向けていた方向へと、ライトたちも目を向ける。
入ってくるときには気づかなかったが、扉の両隣には二つの肖像画が掛かっていた。
そしてそのうちの一つを見て、二人の口からあっ・・・、と声が出る。
一つはレプリカ・クラッドレイン本人の肖像画。
もう一つは顎髭を蓄え、優しそうな笑みを浮かべる老人。
二人は老人を知っている。顔の半分が蒸気機関と化していたが、肖像画に描かれている人物は紛れもなく、ブロウの手足に蒸気機関をくっつけたあの融合師の老人だった。
「ん!?初代のことを知っているのか?」
「いえ、知っている人と顔が似ていたので・・・」
「ふうむ、そっくりさんの出現ねぇ・・・。全く・・・、姿を消した初代クラッドレインは自らの足跡は殆ど残さないにも関わらず、問題しか残さなくて実に厄介だなあ」
参ったものだと言いたそうな顔で首を竦めるが、まんざらでもないのかその顔には笑みがあった。
「・・・おい、そろそろ会議があるんじゃなかったか?」
「おや、もうそんな時間か。名残惜しいけれど、そろそろお開きにしようかな」
座り込んでいたブロウはいつの間にか立ち上がっており、その手には似つかわしくない書類の束が握られていた。
「・・・しかし、ブロウがしっかり専属騎士として働いている姿を見ても未だに信じられない」
「ふん、オレだってやるときはやるんだよ」
得意げになっているブロウを、レプリカは慈しみがこもった目で見つめていたが、当の本人は全く気付いていなさそうだった。
「君たちはこれからどこへ行くのかな?」
「任務なのでそれは言えませんが、ここから東南方面へ向かいますね」
うんうんと頷きながら聞いていたレプリカは、南東と聞いてはたと動きを止める。
「ん?それなら、大陸間を渡る船が必要だろう?」
「・・・確かにそうだが」
南東へ向かおうとすると、どのような経路を取ろうが泳いで渡るにはあまりにも大きすぎる大海へとぶつかってしまう。
そのため、ライトたちは海岸線を歩き回り、大陸間にある大海を横断する船がある港町を目指す必要があった。
それを聞いたレプリカはニヤリと笑う。
「よし、その船、わたしが手配させてもらうよ」
「・・・俺たちのためだけにいいんですか?」
「未曽有の危機から国を救ってくれた恩さ。それに、君たちに手配するのはうちがスポンサーである客船の一室だけで、別に船そのものを手配する訳ではないのさ。・・・それとも、余計なお世話だったかな?」
ニヤニヤと笑うレプリカにライトは訝しげな視線を送っていたが、バリューはあまり気にしていないようで・・・。
「・・・いや、助かる。ありがたく足として使わせてもらう」
と言ってあっさりと提案を受け入れた。
・・・だが、何故か分からないがレプリカは少しばかり納得のいかない表情をしていた。
「・・・ねぇバリューちゃん」
「・・・ちゃんと言われるような年齢ではないが?」
「いい加減その話し方止めたら?せっかくの可愛らしい声が台無しだよ?」
「かわっ!?・・・い、いや、私はこのままでいい!」
「えー?そう?」
「・・・バリュー?」
「だ、大丈夫だ、何の問題もない!」
女の子扱いされることにまるで慣れていないかのような慌てっぷりに、ライトも困惑を隠せなかった。
火種であるレプリカはその様子を、面白いものを見たかのようにニヤニヤと顔を緩ませていた。
「―――そういえば・・・」
玉座を出ようと扉に手をかけたライトは、聞き忘れていたことを思い出した。
「最後に一ついいですか?」
「何かな?わたしに答えられることだったら何でも答えてあげるよ。・・・あ、でもスリーサイズは流石に―――」
「いえ、それはどうでもいいです」
「どうでもいいって初めて言われた・・・」
まるで打ちのめされたかのように大袈裟なリアクションを取るレプリカを無視して、ライトは問いかける。
「・・・
態勢を元に戻したレプリカの目がすっと細くなった気がした。
「ライト君にかい?」
「はい」
レプリカがライトの質問の返事をするため口を開く。
その時間はとても短いはずなのに、ライトにはとても長くまるで焦らされているのではないかと思うほどに、長く、長く感じた。
「いいや、君とわたしは初対面だ。今までに一度たりとも会った覚えは少なくともわたしには無いよ」
「そう・・・ですか・・・」
ライトは肩を落として落ち込んだわけではなかったが、レプリカから見るとそれ相応に落ち込んでいるかのように見えた。
「むしろ、ライト君はわたしに会った覚えがあったり?」
「わかりませんが・・・、おぼろげながらその瞳を見たことがある気がするんです」
「うーん、ごめんけどわかんないな。ちょっと記憶を探ってみようかな」
むむむ・・・と唸り声をあげて考えこもうとするレプリカを、ライトは慌てて制止する。
「いえ、覚えがないということは会ったことがないということなのだと思います。変な質問してすみませんでした」
平謝りするライトに対し、レプリカは声を掛ける。
「いやいや、別に構わないよ。それよりも、渡した銃を返すためじゃなくていいから、たまにはこの国に来てよ。国王としてしっかりともてなしてあげるからさ」
「絶対来いよ!今度は負けねぇからな!」
手を振るレプリカとブロウへと二人は一礼して、静かに玉座の部屋を離れた。
「ようやく自由の身になったな・・・」
ライトたちは疲れ切ったような顔で繁華街を歩いていた。
―――この国に来てから様々なことがあった。
バリューが買ったばかりの蒸気機関を壊し、そのせいで捕まってカッパーの深部に置き去りにされたかと思ったら、すぐに助けられて歓迎を受けることになったり、深部から出るとブロウから急に襲われ、誤解を解いたとたんに、ブロウの手足を奪った悪魔と戦うこととなり、どうにか倒した後は勝手に動き出したゴーレムを止めるため精霊の力を借りて意識を失うし、目を覚ませばハーツの病院内ですぐさま枢機者へと会いに行かなければならなくなり、今の今まで長い会話を続けていたのだ。
・・・これがひと月以内で起こった出来事だと誰が信じるだろうか。きっとどんなに信じやすい人であろうとも、到底信じてもらえないだろう。
「そういえば、何で私が狙われているって分かったのかまだ聞いてないんだけど?」
ブロウに襲われた時のことをバリューはふと思い出し、ライトに問いかけた。
「ああそれなら、特に理由はない」
「え」
「強いて言えばあの場所は開けていたから狙撃されやすい事と、俺を狙うよりはバリューを狙った方が鎧を貫通する威力の銃を持っていると敵に見せつけることもできるから、ぐらいだな」
疲れているから喋りかけないでほしいと言いたそうな表情でライトが返事をするが、バリューは腑に落ちないらしい。
「それ、絶対嘘だ」
「嘘は言ってないぞ?」
「そうじゃなくて、絶対何か隠してるでしょ!」
語気が荒くなってきたバリューをライトは慌てて宥めるが、捻くれたバリューを宥めるのはなかなかに骨の折れる作業だった。
実はバリューは直感でライトが隠し事をしていると言ったのだが、それは正解である。
ライトは隠していた。
これらの情報からライトは『深部には銃を扱う用心棒がいて、今は出払っている。だが、俺たちが深部から出るタイミングで用心棒に見つかった場合、間違いなく開けたあの土地を通るタイミングでバリューを狙撃するだろう』と推測していた。
だが、その全ての理由を言うには多大なる時間、そして、自らの全てを話さなければならない必要性があった。それをライトは良しとしない。
ライトは自分の事を話すことが殆ど無い。それは、自分のような下らない生物の事を話すだけ無駄だと結論付けてのことだった。
また、相手のことを理解する価値が自分には無いとライトは錯覚している。だから、バリューがエルフだと知っても、
そして、これからもライトは自分の事を話すことはないし、バリューの事を自分から知ろうとすることはない。
永遠に。
「何も隠してない。本当だ」
嘘を吐くのが苦手だと言ったのも嘘だ。
ライトの人生、その殆どが嘘で塗り固められた偽りのものである。
偽りでできた人生なのだから、偽り続けることに慣れているし、罪悪感を感じることも一切ない。
・・・だが、何故か主とレイジ、そしてバリューに嘘を吐くときは、まるで心が締め付けられるほど苦しくて辛かった。
「・・・わかった」
そう言ってバリューは黙り込んだ。
きっとわかってなどいないだろう。
毎回何かあったらはぐらかされて、嘘を吐かれて、ライトへと言いようがない不安や疑心感を抱いてもおかしくはないのに、バリューはそういった様子を一切見せない。
―――ライトはバリューのそんな部分に救われ、それに縋り付いていた。
「人生で三番目ぐらいに大変だったよ・・・」
「・・・奇遇だな、俺もちょうどそれぐらいだ」
ライトを気遣ってくれたのか、はたまた空気が悪くなることを嫌ったのか、バリューが話しかけ、ライトはありがたくそれに乗っかることにした。
「それにしても・・・」
ブロウを含めて三人の専属騎士を持ち、非常に頭が回る切れ者であるにもかかわらず、その頭の中はまるでピンク色に染まっているかのような―――。
枢機者、レプリカ・クラッドレインは二人の想像を遥かに超えた人物で、そんな人を一言で表すならば、決して『勇者』などではなくて・・・。
「変な人だったな・・・」
「うん、変な人だった・・・」
『変な人』。これ一択だった。
「そういえば、どうして女として扱われてあんなに焦っていたんだ?バレているんだから別にいいだろ」
「いや、良くないからね!?」
「どう良くないんだよ?」
「そ、それは・・・」
無論、バリューにも人に言えない秘密がある。だが、そのベクトルはライトとは真逆と言ってもいいだろう。
そもそもバリューは人に流されやすいタイプに見られがちだがそんなことはなく、流されているように見せかけているが、その芯がぶれることは決してない。それは『不屈』というよりは『不動』というべきではあるが、バリューはそれらを一色単に考えている部分がある。
要するに単純で純粋なのだが、自らに・・・『不屈』の称号に恥じないようにと、強情ともとれる自尊心を持ちあわせているのだ。
ライトは決してこの事を理解できないだろうとバリューは思う。
だからバリューはライトに自らの秘密を話さない。
―――話したところで何かが変わるわけではないのだから。
「そう!あの後船だけじゃなくて、謝礼金も貰えたんだし、服以外にも色々と買い物してからこの町を出てもいいよね」
バリューはどうしても話したくないため話題を逸らすが、それはむしろライトの怒りに触れるものだった。
「それは却下だ」
「え!何で!?」
「お前、あれを忘れたとは言わせないからな?」
そう、ライトの脳裏に浮かんだのは暴走した蒸気機関と牢屋の中だった。
「あ、あれは不慮の事故だし・・・」
「おい、視線を逸らすな。俺の服を買って、一日体の様子を見てから直ぐにこの国を出るぞ」
「ええーー!」
如何にも不服そうなバリューの声が辺りに響き渡った。
・・・こうしてまた、歪な繫がりを持つ二人は旅を続ける。
終わりの先が決して見えることのない、自らの滅亡へと向かう旅を。
「いいのかよ、色々と贔屓にしていたみてぇだけど」
「そりゃあ、ブロウちゃんの恩人だしね。・・・それに、こちらとしても聞きたいことは聞けたし」
会議が終わり玉座へと戻る途中で、ブロウは先程聞くことができなかった質問をレプリカへと投げかけていた。
「―――騎士になれって言ったときは誰にでも声を掛けているのかと思ったが・・・、あれは
「あれ、ブロウちゃんが把握できていたなんて、驚きだなあ」
レプリカはわざとらしい口調で答えるが、その表情は本心で驚いているかのように見えた。
「・・・そうだよ、あれは二人を試していたんだ。中途半端な答え方だったけど一応合格にしてあげたんだ。もしこの場で断ることがなかったら期待外れってものだよ。それこそ私の手で葬っていたかもねぇ」
物騒な回答が返って来てブロウの顔が思わず引きつる。
「そいつは笑えねぇ冗談だな」
「冗談じゃないさ、本気だったよ。・・・それにしても、試していたってどうしてわかったのかい?」
レプリカがそう問いかけると、何を思ったかブロウはぷいと顔を背けた。
そしてそのままぼそぼそと話し始める。
「―――善意か悪意かを把握しないと生きていけねー場所に住んでたからな。それに、オレに言ったときは『この国の騎士として』なんて言ってなかったじゃねぇか」
「・・・覚えていたんだ」
「・・・そりゃあ、人生が変わった出来事だしな。忘れる方が凄ぇよ」
恥ずかしさを隠すためかブロウは吐き捨てるようにぼそっと言った。
「・・・うん、やっぱりブロウを選んで正解だった!」
「うわっ!抱き着くな!離せ!」
レプリカは感激のあまり、またもやブロウに抱き着く。
流石に移動中だからか、玉座にいた時よりも締め付けは緩かった。
「さてさて、彼らの旅路はどうなるのか。楽しみだなあ」
そう言ってレプリカは抱き着いたままいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「あんたがその笑顔をする時って大体碌な事考えてねぇんだよなぁ・・・。そして離れろよ」
少しばかり不機嫌になるブロウを無視してレプリカは鼻歌交じりで歩く。
「はて?そうかなあ?・・・それよりもその手足外せるんだよね?」
「?ああ、外せるし外し方を教えてもらったから外せるけど」
そういえば、あのあとじじいはどこに行ったのだろうとブロウは考えるが、その考えを遮断するかのようにレプリカがブロウの耳元へ口を寄せる。
「・・・今夜、抱き枕にする時邪魔になるから外してきてね」
「あれ冗談じゃなかったのかよ!?抱き枕になんかぜってーにならねぇからな!」
「えー、じゃあ手足有りの攻めでいいからさー?」
「抱き枕に攻めとかねーからな!?」
二人の言い争いはそのまま一時間程過ぎ、最終的にブロウが折れることとなった。
数時間後。
枢機者レプリカ・クラッドレインは自室の机で資料の整理をしていた。
「むふふふふ・・・。はっ!いかんいかん・・・」
否、妄想の世界へとのめり込んでいた。
そんなレプリカの耳に、窓を叩く音が聞こえてくる。
「お、帰ってきたか!」
慌てて音がする窓を開くと、そこにいたのは一羽の鳩だった。
何の変哲も無いただの鳩にしか見えないが、その足には金属の輪で出来ているタグと結びつけられた手紙があった。
「うん、手紙が返って来るだけ上々だ。無視されたら堪ったもんじゃないよ」
よしよしいい子だ今晩の飯は好物のもろこしを入れておいてやるからなと、伝書鳩へと語りかけながら鳥かごに戻したのち、レプリカは鳩の足に括りつけられていた手紙を手に取る。
「さて、なんて返事かなあ?」
鼻歌交じりに椅子に腰かけ、丸まっていた手紙を開いた。
【そちらの事情など知った事か。これ以上余計な口出しをするようであれば、容赦はしない。】
そこに書かれていたのは、大国の騎士からの警告だった。
「くぅっ・・・!」
淡泊で必要最低限の連絡しか書かれていない手紙。
しかし、それだけの文章なのに、背筋に怖気が走り、息が苦しくなるような錯覚を覚える。
「・・・ふう。なるほど、あの男らしい。簡潔で最低限、且つそれだけの文章であっても他人を威圧できるとはね」
静かに瞳を閉じ、胸に手を当て、大きく深呼吸する。
「だが、そう簡単に止められるかな?」
閉じた瞳をゆっくりと開く。その瞳は紫光を帯びて、怪しげに揺らめいた。
「なにせ心までは、何者にも染めることは出来ないからね」
不気味ともとれるその微笑と彼女の計略を知るものは、この場に誰もいなかった。
「・・何じゃ、何かと思えばあの時の話か」
ブロウの話を聞き終わった老人は退屈だったかのように不機嫌な声を出す。
ブロウの手足の調整を終えて老人はまた別の作業をしていた。
「じじいがいなかった時のことも話しただろ!?」
「あやつらが強いことなどゴーレムを止めたところだけでも十分わかっとったわ!」
「実際に止めたのはオレじゃねぇか!」
「その武器を作ったのはわしじゃろうが!」
「うっ・・・!」
「全く・・・、それだけならまけられないぞ?」
ゴーレムを倒したあの後、ブロウは老人に「何があっても自分の事を誰にも言うな」と口止めされていた。
老人はその代わりに、手足の修理や改修、新品の交換をいつでも受け付けると約束したのだが・・・。
「誰も料金を取らんとは言ってない」
とのことだった。勿論、ブロウは専属騎士だからそれなりに給料は入る。しかし、それだけじゃ足りないほどの料金を払わなければ、手足のメンテナンスすらままならない。
仕方がないからと老人は、ブロウが面白い話を持って来たらまけてやると言ったので、ブロウはこうして面白い話を聞かせていたのだった。
「ちょっ!?・・・いや!まだ話は終わってねぇって!」
「何じゃ、まだ続くのか」
呆れた顔で老人はブロウを一瞥し、また作業を始める。
「あいつら・・・ライトとバリューが国から出る前に、また会ったんだ」
老人の手がピタリと止まった。
「・・・ほう、それは少し興味があるわい」
「だろ!?あいつらが玉座に来た次の日、オレはまたカッパーの巡回に行ってたんだけど・・・」
「今から国を出るのか?」
新品の服を着たライトと、相変わらず鎧姿のバリューはまるでブロウを待っていたかのように、初めて出会った深部付近の広場で立ち止まっていた。
「ああ、待っていたぞブロウ」
「ちょっと来るのが遅くない?」
口調は見た目とは逆にライトはいつも通り、バリューは高い声でブロウに返事を返す。
「待ってた・・・?何か用があったか?」
来るかどうかわからないのにこの場所でずっと二人が待っていたことをブロウは不審に思う。
「ああ、言い忘れていたことがあったんだ」
「枢機者様とおじいさん、あとブロウに」
「・・・オレに?」
ブロウは想定もしてなかったのか、自分で自分を指さした。
「とりあえずブロウへの話は後で、だ。枢機者様に伝えて欲しいことがある」
「後かよ。ま、いいけど。で、伝えてほしいことって?」
「私たちの身分、『十忠』であることは他の誰にも話さないでほしいの」
「俺たちは訳あって身分を隠して旅をしなければならないんだ」
枢機者の口から二人の身分がばれてしまったら、ライトたちだけでなく、ライトたちの主にも危害が及ぶ。
そのための口封じだった。
「なんだ、それくらいなら任せろ」
ブロウは玉座で話し辛そうにしていた二人を思い出し、快く承諾した。
「ありがとう。次におじいさん。あの人が来なかったら、少なくとも私たちにゴーレムを止めることは出来なかったから、その感謝を伝えてほしいの」
「それと
戦闘の後意識を失った二人は、老人に再度会う前に病院へと運ばれている。
その際伝えられなかった感謝の言葉を代わりに伝えてほしいとのことだった。
「そりゃあいいけど・・・」
ブロウも疑問に思っていたあのことを聞くため口を再度開く。
「やっぱ初代クラッドレインなのか?あのじじい」
「恐らくな、きっと随分と前から融合技術を持っていて、自分の心臓と蒸気機関を合体させたんだろう」
「そうか・・・」
その時、ブロウは自分の方へと微弱ながら風が吹いた気がした。
(ん?この感じ―――)
ブロウは初めてレプリカに会った時、レプリカから何かを感じたことを思い出す。
原因は圧力。ブロウはレプリカの、『王の意向』の威圧力を初めて会った時から感じ取っていた。
そしてそれは今、ブロウへと向き合う二人から発せられていた。
「最後にブロウ、二つだけ言わせてもらうぞ」
そう言った二人の表情は、ブロウが見たことが無い程に真剣だった。
「
「
二人が発した言葉は勢いがあり、ブロウは呑まれるような感覚を覚える。
それはまるで、目の前にいる二人が今まで経験してきたことのすべてを否定するかのような・・・。
「それってどういう―――」
「悪いが後は自分で考えてくれ」
「用意してくれた船の便に間に合わせるためにも、私たち急がなきゃいけないから」
そう言った二人の後ろから吹き飛ばされそうな強風が吹き荒れる。
「おいっ・・・!?」
思わずのけぞったブロウが体勢を戻した頃にはもう、二人の姿はどこにもなかった。
「・・・そうか、彼らはそんなことを言っておったか」
老人は作業台から手を降ろし、後ろに座っていたブロウの方へと向きなおる。
「・・・まあ、それを聞けただけで今回はまけてやるわい」
そういって溜息を吐いた後、老人はムッとした表情を崩して優しげに微笑んだ。
「・・・やっぱ似てんな」
「何か言ったか?」
「別に!じゃあ、行ってくるぜ!!」
「張り切りすぎてヘマをするんじゃないぞ!」
「わかってるってーの!」
そう言うが早いかブロウは足から蒸気を噴射して、勢いよく外へと飛び出した。
「しゃぁっ!今日も一丁働いてやるか!」
気合を入れるにはやっぱり大声で叫ぶのが一番だ。
気合も入ったことだし、今日も一仕事やってやるさ。
そんなことを思いながら、今日の対象を探すため眼下の世界に目を向けた。
確かにオレは誰から見ても騎士であるとは思えないようないでたちだ。
だが、そんなことは関係ねぇ。
オレはオレの意思を貫き通す。
悪党を懲らしめ、弱い者たちを守り、このカッパーを変える。
そう、そのためにこれからも『十忠』を続けていってやる。
それがオレの信念だ。
お疲れ様です。左之亜里須です。
いつものように拙い部分が多々あったかと思いますが、ここまで読んでくださってありがとうございます。
さて、随分と時間が経ってしまいましたが、これにて漸く『信念の話』は幕引きとなります。
主人公であるライトやバリュー、『信念』の十忠でまだ年若いブロウ、敵であるアリとゾウ、名もなきゴーレム、枢機者レプリカといった様々な人物たちの信念と意志を感じ取ることができたのならば、これ以上の幸福に勝るものはありません。
ここで少しばかり物語について説明させていただきます。
本作には『十忠』の定義(二作目に商人が語ります)というものが出てくるのですが、それらが題名に出てきた場合、物語の本筋の話となります。
それらではない題名が出てきた場合、読み飛ばしても構いませんが、全作品に伏線を張ったり、過去の話を少し盛り込んだりするかもしれないので、全作品読んでいただけたらより一層楽しんでもらえると思います。
以上説明でした。
読者様にとっての『信念』とは何でしょうか?
その答えとなるようなものがこの物語で見つけられたら幸いです。
次回作もまた見て頂いたら嬉しいです。
それでは、より良い日々を・・・。
前回6千文字に対し、今回3倍となる1.8万文字に・・・。
文章量を平均化できるよう努めます・・・。