Wrap up the lord of knight   作:影斗朔

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大事なことは勝ち負けだけじゃないんだ。



ステータスの話

「―――ねぇ、ライト」

 

だだっ広い草原に立っていた巨大だがシャープに洗練された鎧から、その見た目からは想像もつかないほど高い声が聞こえた。

草原を揺らす風にかき消されてしまいそうなほど、小さく発せられたその言葉は、すぐ隣でしゃがんでいる人物の耳に届く。

別に背丈が低いわけではないのだが、それほど身長が高いわけでもないその男性は、鎧の膝元まで伸びていた草に頭まで隠れてしまっていた。

 

「ん? どうした、バリュー」

 

鎧へと返事を返す青年・・・ライトは、下を向いて何かを見ていた視界を前に戻しながら、ゆっくりと立ち上がった。

 

「いや、さ・・・。誰だって、得意な事、不得意な事があるってことぐらいわかってる。わかってはいるよ・・・? でも・・・」

「・・・まあ、言いたいことは分かる」

 

二人が佇んでいる地図にも載っていない名も無き草原は、国一つ分はあるだろうか、見渡す限り永遠に続いているように見える。

地図にすら乗っていない理由として考えられるのは、二人が進んできた道のりだ。

毒の瘴気が発生している沼地を超え、雷雨に暴風が吹き荒れる崖地を踏破し、爆発的な可燃性を持つスライムである、フレアバブルが溢れかえった洞窟を抜けた先にこの光景が広がっていたのだ。

明らかに測量士が通れるような道ではない・・・まあ測量士でなくとも、熟練の冒険者やトレジャーハンターでも根を上げる程の旅路と言えそうではあるが。

それに、この草原には大型の獣やモンスター、それに人が暮らしている形跡が見当たらない。

少なくとも、見渡す限り地平線まで草原しかなさそうなので、近くに人里がある場所でないことは確かだった。

 

そんな前人未踏の秘境にどうして二人がいるのか、旅に慣れている職種を生業としている人々よりも先に、たった二人でここまで辿り着いたのか・・・。

それを可能にしたのは、バリューの精霊術やライトの記憶力と計算力の賜物と言えるだろう。

それに、たとえ精霊が居ない土地であっても、いざとなればバリューの鎧の中に住まわせているという鋼の精霊から力を借りることで、多少の無茶は許容することができている。

そんな他者にはない大きなアドバンテージを持っている二人だからこそ、前人未到の土地を踏破したのだ。

だが、二人のアドバンテージ・・・精霊術と記憶、計算力は一体どういったものなのか・・・。

 

 

そもそも精霊術とは、超自然的生命体の一種である精霊から借りた力を自在に操ることを指すことで、他の術系統とは一線を画したものとなっている。

・・・が、そもそも、殆どの生命は、自然界の法則を超えたものである超自然的生命体を認識することができない。

認識できるのは、同じ超自然的生命体。もしくは高位種と呼ばれる生物や一部の才能ある人間などの高知能生物だけ。

例外として超自然的生命体が自ら姿を晒す場合もあるが、それはごくまれである。

バリューは、精霊の愛し子と呼ばれるエルフの高位種、ハイ・エルフの女性なので、精霊術を扱うことができるのだ。

・・・とはいえ、「ちょっと違うかな・・・」と本人は言っていたが、どの辺りが違うのか、その方面の知識を持っていないライトにはわからない。

精霊から力を借りる、といっても術と言われている以上、要所によって使い方は勿論変わってくる。

 

一つ目は精霊自身に力を使ってもらうこと。

精霊は一部地域で『自然の権化』と呼ばれる通り、自然現象の殆どを操ることができる。・・・大抵は暇つぶし程度に使う程度だが。

なので、精霊自身に天候の変化を頼むことも、精霊術の一つと言える。

 

二つ目は精霊の力を借りること。

精霊術の本質的な使い方と言えば、おおよその事がこれを指す。

生命の誕生や成長を促す大地の精霊から生命力を借りる『大地の祝福』や、バリューの鎧に住まう鋼の精霊から硬化の力を借りる『硬化即体』が二つ目に当たる。

 

三つ目は精霊の力を使うこと。

二つ目と同じように感じるかもしれないが、この“使う”というのは大前提として精霊の力を何かに宿し、その宿ったものを術者が操るといったものである。

『精霊宿し』とも呼ばれるそれは、俗に言う属性付与と同じで、精霊が元から持っている力を、術者が問答無用で振るうことが可能だ。

だが、制約も存在する。

魔術を凌駕する程の自然の力を扱うことになるのだから、当然精霊が宿った物には相当の負荷が掛かる。

頑丈な剣であっても数回振るうことで限界を迎え、木っ端微塵になるだろう。

人体に宿してしまったものなら相当なものになる。

声明に宿った場合、剣といった物のように木っ端微塵になることはないが、宿主へ相当の肉体的、精神的負担を強いられる。・・・要するに力を使うたびに体力を持っていかれるのだ。

なので、いくら高位種のハイ・エルフでさえも好き好んでやる者はいない。

 

 

一方、ライトの記憶力、計算力だが、人間としては異常だと言わざるを得ないものだった。

一年前の夕飯の献立や、千ページを超える聖書すらも暗記できる記憶力。

そして相手のどの部位を付けば的確なダメージを与えられるか、戦闘時でも常に脳内でシミュレーションし続けるほどの計算能力。

並の人間をたやすく凌駕するライトの頭脳を超える持つ生物がいるのなら、それはもはや別世界からやって来たんじゃないかとバリューは思っている。

・・・ただし、余分なことを考えたりして空回りするなど、必ずしも正しい答えを出すことが出来るわけではない。

そして、頭ではわかっていても体は思った通りに動いてくれないことも多いらしく、これはバリューに愚痴るほどの深刻な悩みの種だった。

ちなみに、人間を凌駕する知識の持ち主というのは、世間知らずなバリューがそう決めつけているだけであるので、信憑性なんてものはない。

 

それにしても、どうしてそれほどの記憶力、計算力を持っているのか・・・。

バリューが何度問いかけても、ライトは()()()()()の一点張りだった。

 

ライト曰く、物心ついた時から記憶力、計算力がよかったらしい。

そのせいか学ぶことが好きになり、図書館や資料館に行きかうことが多く、そのせいで一部の友人たちから“歩く百科事典”と揶揄されていたそうだ。

かといって勉強ばかりではなく、友人たちと街を駆け回るのも好きだったので、そのうち呼び名は“歩く百科事典”から、“跳ね回る百科事典”に変わっていた。

働かないといけなくなったので、働き口を探していたらなぜか騎士にスカウトされたそうで、それまで剣術を使ったことは一度もない。

 

・・・といったことを毎回言っていたが、バリューはそれを信じていない。

ライトが嘘をつくのが下手くそなことは当然の事実であり、それ以上に今のライトを見る限り、どれも真実を語っているとは思えなかった。

―――だからこそ、バリューは深く追及しない。

誰だって知られたくないことはある・・・自分だってその一人なんだから、と。

 

 

とはいえ、そんな超常的と言わざるを得ない能力で、険しい道を幾度となく踏破してきた二人だったが、未だ、目的地よりも出発地点の方が近い位置にいる。

しかし、急ぎの旅路とは言え、つい先ほどまで厳しい環境を通行していたことにより疲れが溜まっていた為、この草原でひと時の休息を取っているところだった。

 

「俺はどう考えても切り崩しにいく戦い方のほうが得意だ」

「私は堅実にいく方が得意だよ。・・・っていうか、それくらい付けられた二つ名でわかるでしょ」

「それはそうだ」

「・・・でも、得意なことだけじゃダメなんだよね。旅をするってことは」

「ああ。どちらかが動けなくなったら、どちらかがその代わりをしないといけない。・・・そう考えると、旅人と騎士は正反対の存在と言えなくもないかもな」

「―――確かに、そうかもしれないね」

 

人間だけに限らず、生物はそれぞれ得意なことと苦手なことがある。

現にライトとバリューの得手、不得手は正反対と言える程に違う。

だからこそ、お互いの欠点を補うような行動や、戦闘の立ち回りを変化させたりするのだが・・・。

稀ではあるが、二人の役割が被る場合があった。

それも、タッグを組んでから結構な経験を積んできたにも関わらず、である。

 

「・・・そうだな。これ以上にいい機会はないだろうから、この際、それぞれの役割についてもう一度話し合っておくことにするか」

「うん。そうじゃないと後が怖いもんね」

 

この話し合いは決して戦うためだけの相談じゃない。

食糧調達、炊事、睡眠、交渉、物の扱いに管理、順応能力などなど・・・。

環境や状況、お互いの状態に応じて臨機応変に立ち回る必要がある。

それはいくら記憶力や計算力があるライトや、精霊術を持っているバリューですら例外ではない。

むしろ、そういった油断が命取りになる可能性だって十分にあるのだから。

 

また、お互い無意識に隠してしまっていたこともある。それらを把握するだけでも、様々な場面でまた違った行動を起こせるのではないか・・・。

それに、互いの苦手を知ることで未然に防げることも多い。

それこそ、やむをえず戦闘を行わないといけない際に役立つことになるだろう。

 

この旅の途中、二人は幾度となく危険な目に遭ってきた。下手したら、旅を続けることが困難になるどころか、死にかけることだって多々あった。

前例としては、数えられるだけでも両手の指を足した数を超える。特に薬物の件は最も悪い例といえるだろう。

 

得意分野と苦手分野。どのような立ち回りが一番戦いやすく、一番敵を無力化させやすいか。また、体に負担をかけてでも戦わないといけない場合はどうするか・・・。

これらは二人が可及的速やかに解決すべき問題の一つだった。

 




大変お久しぶりです。左之亜里須です。
なんだかんだで結構久しぶりの投稿となり申し訳ないです・・・。(´;ω;`)

今回の話は題名の通り、ステータスの話です。
二人の得意、不得意や、ちょっとした過去に触れていく話となっています。

また、ちょっとばかり書き溜めたので、この話は三日に一度の更新となっています。
(次はどうなるか分かりません(;´・ω・))

ステータス・・・持ち合わせている技術。
持っている者と持っていない者。
それだけで全てを決められるのでしょうか。

・・・読者様はどう思いますでしょうか?

その答えがこの物語で見つけられたら幸いです。


次回作もまた見て頂いたら嬉しいです。

それでは、より良い日々を・・・。







前の話からもう半年も経ってしまっていたのですね・・・。
そのうち信念も書き直す予定ですので、気長に待っていただけたら嬉しいです・・・。
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