Wrap up the lord of knight   作:影斗朔

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ステータスの話⑷

「うーん・・・。こっちで合っている・・・はず」

 

暗がりの中、視界をさまよわせながらその人物は呟く。

それは、森の中にいると異様だと感じてしまうほど立派な鎧だった。

銀鋼(シルヴァーナ)で作られているその甲冑は、幾度となく磨かれてきたのだろう、白金かと見間違えるほどの白い光沢を持ち、厚い雲に覆われている今ですらその輝きを隠しきれず、鎧に当たって弾けるキラキラとした雨粒の光を反射し、辺りをほんのり照らしている。

 

胴体は、鍛えられた男性の肉体を流線型に整えなおし、“戦士の三主位”と呼ばれる部位(胸郭、上腕、大腿)が大きく波打ち、その波から生まれた小さな波が他の部位に発生しているような形状。

頭部には、竜・・・それも“大陸の守護者”という名を冠した『三嶺竜』の一体、ティフォーネになぞらえた兜が威圧感を醸し出していた。

バランスを調整するため、荘厳な大顎は半分以下に潰されているのだが、少しでも実物を意識しようとしたのか、大顎を模した箇所はそれぞれ開閉でき、上顎を開くと目元が、下顎を開くと口元が露出するようになっている。

 

そんな趣向が凝られた鎧だからだろう、一瞥しただけならば、ただ見た目が洒落ている程度の代物だと決めつけてしまう者の方が多い。

・・・そして、そのように勘違いした者たちは、かの者と対峙し痛い目に遭うことでようやくその鎧の本質を知る。

 

多くの人が知る銀鋼(シルヴァーナ)の特徴は、白金には劣るが強力な耐食性と、白金を超える硬度と耐衝撃性を持っていること。光沢は白金より鈍い輝きをしていて、白金の倍近くの重量がある・・・といったところだろう。

このようによく白金と比べられるほど、似ている箇所が多い鉱物である。

・・・だからこそ、銀鋼(シルヴァーナ)だけが持つ、世にも珍しい特徴が目立たない。

 

それは、氷に匹敵するほど摩擦力が()()()()()ということ。

どれほど鋭利な刃物や大口径の弾丸であろうが、強力な耐衝撃性と材質のなだらかさによって受け流されてしまう。

そして、摩擦力の無さによって、鎧同士が擦れることや、それによって動くことができないといった制限を緩和できるのだ。

強靭で強固なだけでなくしなやかさや機動力を併せ持つといった、まさに最高峰の鎧と呼べる代物である。

勿論、弱点といえる部分もいくつか存在するが、鎧の主はそれをものともしない力量を持っていた。

 

そして、傍から見るだけでもおかしな武器、背の左側に斜め掛けされた板のような大剣。

板に丸い穴をあけてそこに柄を取り付けただけという質素な造りをした剣は、鎧と同様に銀鋼(シルヴァーナ)で作られているが、剣戟を受け止めるためか、それとも所有者の扱いが良くないのか・・・、他の者が持つ剣と比べると傷や凹凸がはっきりと目立つ鈍らな剣であった。

 

―――むしろ、あえてそのように見せているのかもしれない。

使い込まれている武器は所有者の歴史を顕著に示す。ぱっと見ただけでボロボロと呼べるその剣は、担いでいる者が幾たびの戦場をくぐり抜けてきた歴戦の勇士だと判断させるにふさわしく、その雄大さを際立たせるものといえる。

 

・・・が、そんな威風堂々とした装いであるにもかかわらず、中から聞こえてきた声は、その見た目を明らかに裏切る不安そうな女性の声だった。

おまけにその動きも、戦場に似使わぬ不安気な足取りという、何とも不釣り合いなものだった。

誰かの鎧を追い剥ぎしたのではないかと思われても仕方がない様子だが、親しき者にとってはいつも通りの光景でしかない。

なにせ、()()こそがこの鎧の所有者である『城塞のハルトマン』こと、『不屈』のバリュー・ヴァルハルトなのだから。

そんな『十忠』の一人がこんな森奥で何をやっているのかというと・・・。

 

「あれ!? ここ、前に通った場所と同じだ!」

 

現在進行中で道に迷っていた。

予め言っておくと、別段彼女は方向音痴な訳でも、空間把握能力が無い訳でもない。

それなのに、なぜ道に迷っているのかというと・・・。

 

「前以外全然見えないし、天気はどんどん悪くなっていくし・・・早く帰りたいなぁ・・・」

 

そう、昼間なのに曇天のせいで非常に暗い森の中、振り続ける雨と視野を狭めている兜のせいで、彼女の視界は通常の半分以下となっていた。

さらに、この森は同一種の樹木のみが生えている極めて珍しい場所なのだが、そのせいで逆に現在位置を把握することすら難儀である。

行きたい場所に行くだけでも困難を極める森の中、指定された場所に行くという変な指令が出た以上、その場へとどうにか向かわねばいけないのだが・・・。

 

「あっ、まただ・・・。また同じ場所だ・・・」

 

再三告げるが、彼女は普段道に迷うようなドジをしない。

空間把握能力において国中を探しても自分以上のポテンシャルを持つ者はいないと自負しているほどであるし、森は彼女が最も得意としている場所でもある。

戦場で兜の上顎を持ち上げるわけにもいかず・・・はたまた、奥の手を使うにしても誰の目があるか分かったものじゃないこの場所で、そうやすやすと発動していいものではない。

 

「・・・でも、敵がいるここで話し合うなんて切羽詰まっているみたいだし、帰るわけにはいかないよね」

 

垂れていた首を上げ、彼女は再度歩き出す。

その頭の中に、先ほど応急処置をした三人の兵士の姿がよぎる。

横たわり呻いていた彼らは皆、作戦通り別々の場所に待機していた。

森の中個々に散らばり、動くものは敵だと判断して行動する、通称『蜘蛛の巣作戦』でフェルメア軍の動きは制限されているはずだった。

にもかかわらず、敵の発見には至っていない。それどころか、戦線の薄い部分を担っていた彼らがやられている以上、突破されている節すら見受けられる。

 

・・・しかし、それにしては少し不可解な部分があった。

一つは彼らが戦闘したであろうその場所に、足跡は立った二つしか存在しなかったこと。

うち一つが戦う際に動いた自らのものだとすると、フェルメア軍の一員とサシで戦ったことになる。

それならまだわからなくもない。一度散らばり森を抜けた後に陣形や装備を整え直すという戦略を取ったということになるのだから。

 

だが、それ以外に至っては、まったくと言っていいほど把握できない。

特に不可解だったのは、彼らのやられ方だった。普通に考えると、味方陣営から何の報告も出回ってない状態ということは、フォンテリア軍員は敵と遭遇していないか、はたまた敵と遭遇し殺されてしまったかの二択だ。

だが、彼女が処置を施した三人は殺されているのではなく、ただ意識を奪われているだけだった。

 

・・・いや、ただ意識を奪われているだけという言い方は間違えている。

正確に言えば皆一様に、鈍器のようなもので膝を砕かれていた。

その激痛で意識が飛んだのだろうが、それならば何故、とどめを刺さないのか。

大体、やすやすと膝を砕くことができる鈍器使いならば、頭部を狙った方が効果的であり、何よりも一瞬にしてけりをつけられるだろう。にもかかわらず膝を狙うのには、何かしらの理由があるのか・・・。

 

(とりあえず、今はあの場所に向かわないと。もし、あの人に何かあったら・・・)

 

居ても立っても居られなくなった彼女は、ついに力の一端を使うことにした。

短絡的なのは彼女の悪い癖だが、その直感的な判断力は多くの場面で彼女の助けとなっている。

今回もそうであることを願い、親愛する人の無事を祈りながら彼女が地に両手をつくと、淡く小さな緑の光がふわりと浮かび上がり、道を示すかのようにゆっくりと進み始めた。

 

「すぐに向かいます。それまでどうかご無事で・・・!」

 

目的地で待ち続けているだろうかの人へ告げるように呟くと、見た目に寄らぬ速さで彼女は暗がりへと駆けだした。




今晩は。左之亜里須です。
ここ最近忙しくて投稿できていませんでした。
申し訳ないです・・・。(;´・ω・)

本編では、バリューが道に迷いながら何処かへと向かおうとしています。
ライトの時もそうでしたが、自分の味方に加担する訳でもなく、単独で行動する彼女は、一体どのような使命で森をうろついているのでしょう・・・。


次回もまた見て頂いたら嬉しいです。

それでは、より良い日々を・・・。









つい最近予約投降の事を知るという凡ミス・・・。
なので、次からはちゃんと三日後の夕方に投稿できると思います。
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