Wrap up the lord of knight 作:影斗朔
閲覧する際はご注意ください。
(それにしても不思議な人たちだったな・・・)
旅商人であるスパイスは最後に会った二人組をふと思い出す。
皮革製の鎧を着た青年と、巨大な甲冑に身を包んでいる人物、旅をするにはやけに軽装備で、戦いに向いてなさそうな武器をそれぞれ持っていた。
(彼らとの出会いは運が良かったとも、悪かったとも取れるな・・・)
スパイスは微睡む視界の中、彼らとの経緯をまた振り返っていく・・・。
それは、一言で表すとするなら、まさに絶体絶命の状態だった。
わたしの目の前にいるのは巨大な昆虫種。それも大百足類白毒目に属する、ハクタクと呼ばれる危険生物である。その体長はゆうに六メートルを超え、白濁色の甲殻は並みの刃を全く通さない。巨大昆虫専門の狩人でさえ碌に抗うこともできず、あっけなく屠殺されるほどの化け物だった。
ただ、ハクタクは目の前にいる一匹だけ。それだけならばまだ、品物や荷物を捨てて荷車を軽くし、全力で逃げるという手段をとっていたのだが、そういうわけにもいかない状態だった。
有り金をどうにかやりくりして手に入れた頑丈な馬車は、黄土色の大地に横転し、中身が散らばっている。健脚が自慢の馬たちはハクタクに恐怖し、その場から動くことすらできていない。
更に災難は続く。帰路に急ぐ事を優先し、渓谷の多い高地を通っていため、足場は最悪で、倒れた馬車のすぐ後ろには大きな渓谷が口を覗かせていた。
いつもはこうなることを恐れて、どれほど時間が掛かろうとも遠回りする道を選んでいた。
しかし、伝書鳩が運んできた手紙によると、妻が産気づいたらしい。それを聞いて落ち着いていられる夫がいるだろうか。
・・・少なくともわたしは無理だった。
居ても立っても居られなくなり、前に滞在していた町での忠告に耳を貸さず、最短距離で街に返れる道、黄土色の大地が広がるこの渓谷の道を選んだ。
―――その結果がこれだ。
「・・・ついてないよな、全く」
ハクタクはその場でゆらゆらと頭部を動かし、わたしと馬と荷台を見比べ、どれから先に手を付けようかと悩んでいるように見えた。
「くそっ・・・! わたしはこんな所で死ぬわけにはいかないんだ!」
無謀だと判っていたが、逃げる事もできず、護身用の片手剣を引き抜く。
聖人の加護が宿るとされている短刀で、邪なるものを払うものだと聞いてはいるけれど、目の前の虫に効き目があるかと言われたら少々怪しいものだ。
「・・・来い!」
ハクタクは、とりあえず自分に抗おうとしている愚かな人間から喰らうことに決めたようで、頭部を向けて襲い掛かろうと姿勢を動かす。
だが、その動きは急に止まり―――。
直後、ハクタクが体を丸め、悶え苦しみ始めた。
「な、何が起こった・・・?」
「―――すみません、もう少し馬車の方へ寄ってもらえますか?」
「わっ!」
突然、降ってわいたかのように隣に人がいた。
皮革製の簡素な鎧に、見たこともない歪な形の剣。リュックサックなどは担いでおらず、頭には防具も何もなく黒いツンツンと尖って見える黒髪が晒されている。
そんな不思議な格好をした若い青年が、こちらを見て静かに笑んでいた。
「大丈夫です、あとは相棒がとどめを刺してくれますよ」
「え・・・?」
青年がそう言うと共に、ハクタクの裏から獣のような声が聞こえてきて・・・。
ハクタクの巨体が
「・・・えぇ!?」
宙に舞ったハクタクは馬車の上を軽く過ぎ去り、渓谷へと落下していった。
「おー、やっぱり凄いな。少なくとも俺には一生出来ないだろうなぁ」
「え? ど、どうなって・・・? 助かった・・・?」
「・・・無事みたいだな」
混乱するわたしに追い打ちをかけるかのように、ハクタクが先ほどまでいた場所からもう一人、人物が現れた。
全身を包む巨大な甲冑に、それに見劣りしないほど巨大な剣、鈍重そうなその見た目の割に重さを感じさせないような動きを見せる人物。
この時、獣のような声はその人物が発した掛け声だと漸く気付いた。
信じることはできないけれど、そうでないと説明がつかない。
「ま、まさか、あのハクタクを一人で吹き飛ばしたのかい!?」
「・・・まあ、ライトが体の一部を潰し、引きちぎってくれたお陰で重心が狙いやすかったんでな」
「・・・は?」
曰く、彼らはわたしが襲われそうになる直前で、その状況に気付いたらしい。
このままではあの馬車はハクタクに襲われ、全て喰われてしまうだろうと思った彼らはすぐさま行動に移した。
青年・・・ライト君がハクタクに気付かれないように近づき、体の一部にダメージを与える。体を丸めて悶え苦しみだすハクタクが、突如自分へと攻撃した者たちに、反撃行動をおこす前にすかさず、巨大な甲冑の人物・・・バリュー君が、丸まったハクタクの体の重心を狙い、思いっきり剣をふるって弾き飛ばす。
・・・という明らかに人間業とは思えない所業を、彼らはやってのけたのだ。
「・・・でも、ハクタクは百足だよ? たとえ渓谷へ叩き落したとしても、すぐに這い上がってきそうなものなのだけど」
「その辺は大丈夫ですよ。ハクタクが悶え苦しみ出した時、ついでに触手も引っこ抜いてきましたから」
そういってライト君が掲げた左手には、まだピクピクと動く触手が握られていた。
「ヒッ!」
「・・・ひぃっ!」
驚いてつい、声が出てしまった。
でも、どこからか可愛らしい声が聞こえたような・・・。気のせいかな?
「・・・ま、まあ、上出来だな」
「だろ?」
「それにしても・・・、君たちは一体・・・?」
「ただの通りすがりの旅人ですよ」
どのようにハクタクを倒すか、彼らも悩んだらしい。
最初は地形を壊し、ハクタクだけを突き落とそうと最初は考えていたらしいけど、そんな手間をかける猶予がなさそうだったので、直接攻撃を叩き込むことにしたという。
地形を壊そうという発想が、まず最初に思い浮かぶなんて・・・本当に彼らはいったい・・・?
とりあえず、ハクタクをどうするかという目下の問題は、二人のおかげで解決した。
―――でも、荷車は二人がいても無理だ。
なにせ大人十人掛かりでも、倒れた馬車を起き上げるのに一苦労する。
ハクタクを吹き飛ばしたバリュー君でも、さすがに・・・。
そうやって考え込み始めたわたしは、後ろで何が起こっていたか見てなかった。
「おーい、商人さん、馬車は特に壊れてなさそうだし、馬も落ち着きをとりもどしてきたみたいだから、少ししたら出発しても大丈夫ですよ」
「そ、そうか・・・。って、嘘だろ・・・!? いつの間に・・・!」
後ろを振り向いたわたしは、再度驚かされた。
勢いよく倒された馬車は、ある程度の傷はあるものの、特に異常は見当たらない。
しかし、中にある荷物も含めれば相当の重量があるそれを、足場が悪い位置で音も立てずに引き起こし、まるで襲われる前のような状態に戻しているとなると、もはや人間業だと思えなくなる。
「・・・もう、驚きすぎて言葉が出ないよ」
ははは・・・。と、思わず乾いた笑いが口から零れた。
どうやら彼らはここから更に東にある国を目指して旅をしているらしかった。
わたしは二人へ頼み倒し、どうにか故郷へたどり着くまで、彼らに護衛をしてもらえることとなった。
もちろん、彼らには報酬を与える予定だったし、彼らの目的地・・・は話してくれなかったため、目的地の近くまで送るつもりでもあった。
しかし、彼らはそれを拒み、最小限のお金と、広域が把握できる地図さえ貰えたらそれで十分だと言ってくれた
まさに、渡りに船。わたしはまだ、神様から見放されていないと思ってしまう程の幸運だった。
(急だったけれど、この人を助けられてよかった)
荷車の中へ先に入っていくバリューと話している、四十程の見た目をした男性を見ながらライトは思う。
二人が前日に寄った国では、彼のような男性の惨い死体を見たこともあり、少しばかり心が荒んでいたのだ。
さらに、話を聞いたところによると、スパイスは産気づいた妻の元へ急いで帰る途中だったらしい。
―――帰りを待つ家族がいる人、家族を心から愛している人をライトはこれ以上失いたくはなかった。
荷車の中はライトが思っていたよりも広く、ほんのりと甘い香りが漂っていた。どうやら果実か植物の類を運んでいたようで、先ほど横転したときにいくつか袋から出てしまったらしい。
この甘い匂いにつられて昆虫種がやってきているとスパイスは思っていたのだが、ライト曰く、ここらの蟲は音や振動を感知して襲って来るようだった。
それを聞いてスパイスは急いで帰りつきたいというジレンマを抑えつつ、ゆっくりと進むという選択を取る。
しかし、広大で植物すらほとんど生えていない高地は、視界を遮るものがなく音もよく響くので昆虫種の生物が馬車を見つけるのはそう難しくなく、何度も馬車は襲われる羽目になった。
・・・のだが、ライトとバリューは疲れを感じさせない動きで、蟲たちを次々と撃退していく。
撃退数が二ケタを超え、流石に疲れが出たのか馬車の壁に寄りかかった二人へ、手綱を持つスパイスは、後ろを振り返りつつ声をかけた。
「これで十二体目だよ・・・! 本当に君たちは凄いな!」
「いや・・・、流石に疲労困憊ですよ・・・」
疲れを滲ませた表情でライトが答えた。
だが、バリューは俯いたまま返事をしない。
「・・・バリュー君はやけに静かだけど、大丈夫かい?」
「あぁ、バリューは今そこで瞑想して、体を落ち着かせています」
「そうだったのか。頼んだわたしが言うのは何だが、無理はしなくていいからね。初めはそんな装備で大丈夫かと思ったもんだが・・・」
「・・・大丈夫だ、問題ない」
「おいバリュー、いい加減に敬語を使えよ」
「はは、ライト君、わたしに気を使わなくていいよ。装備の件もわたしのただの杞憂みたいだし、本当に助けられてばかりだしね」
ところで・・・と、スパイスは一息置いて話し始める。
「君たちまるで『十忠』の方みたいな強さだね」
「『十忠』、ですか?」
「あれ、知らない?」
「・・・ああ、聞いたことが無いな。その『十忠』とは一体何者なんだ?」
「『十忠』を知らないなんて、君たちは凄い遠くから旅をしてきたんだな・・・。それじゃあ、『十忠』について簡単に教えてあげるよ」
『十忠』・・・それは元々、騎士の行動規範である十戒を、一般人にも分かりやすくするための制度だった。
騎士の十戒とは、騎士が守り倣うべき十の心得である。
その十の心得のそれぞれを一番に守っている者を『十忠』とし、最高位の騎士に引き上げるのだ。
そして彼らが一番に守る心得、それらが十戒であると多くの人に伝える事で、社会規範の手本を世に知らしめる。
それが『十忠』の元になる『十忠制度』だった。
だが、それには度重なる問題が有ったという。
どの騎士が最も十戒に忠実なのかを把握するのは、騎士達を統括し、多くの騎士を派遣してきた騎士連合ですら不可能だったということ。
ましてや、それぞれの心得を一番に守る者が他の騎士より弱くては話にならない。
そこで騎士連合は、騎士の中でも強者に当たる者、卓越した能力を持つ者に『十忠』の位を授けるという手段をとる。
そのために世界中の領主へと、従えている騎士の中で最も強い者を挙げてもらった結果、見事に十人、しかも十戒それぞれの心得を守る者達が挙げられた。
これにより騎士連合は喜び勇んで、彼らを『十忠』にすると宣言したのだ。
しかし宣言した直後、問題は発生する。
彼らが何者なのか、騎士連合内に知る者が一人もいないのだ。
何者なのかわからない者を『十忠』にしたなど、騎士連合の沽券や信頼にかかわる大問題である。
それでも、騎士連合は『十忠』に何者がいるのか、把握することは容易でなかった。
勿論、彼らの主である者たちは、彼らがどのような人格者なのか知っている。
けれどもそれを教えてしまうことは、他国に・・・いや、世界中に自分の戦力を明かしてしまうのと何ら変わりない。
なにせ騎士連合は、世界各国に騎士を派遣している巨大組織なのだから。
騎士連合は幾度も交渉を行ったが、その努力が報われることはなく・・・。
最終的に、個人情報が存在しない『十忠』を、騎士連合は抱えることになった。
騎士連合の苦難は続く。
彼らは強者ゆえの性なのか全員が通り名持ちであり、本名が一切分からないこと。
通り名があるからそんなことは無いとは思われるが、本当に実力がある者なのか。
一度招集をかけたとしてもすぐに集まるのか。そもそもこの大陸だけでなく、遥か彼方・・・秘境の民が紛れている可能性すらある。
そもそも『十忠』として定めた者が、一人を除いて騎士連合から派遣された者ではないことが、大きな原因の一つでもあった。
そして、他の『十忠』を調査するにしても、この広い世界で、強大な権力者に対してどのようにして確かめろというのだろうか。
よくよく考えれば対策はいくらでもあり、解決方法にもいくつかあった。
だが、騎士連合はここ最近における様々なトラブルによって内部情勢が乱れきっていたせいか、そのような考えに思い至らなかった。
挙句の果てに派遣した騎士の一人、騎士連合から派遣していた唯一の『十忠』が主を殺害したという噂まで流れてきていた。
『十忠制度』は、騎士連合にとって、自らの首を吊る行為でしかなかった。
その結果、沽券や信頼だけでなく、名誉や名声すら失墜した騎士連合は、人々の手によってすぐさま解体されることとなった。
しかし、騎士連合が解体された直後、「連合がやろうとしていたことは、決して間違いではなかった。我々が騎士である以上、十戒を担う者を尊敬し、見習わなければならない」と、多くの騎士達に影響を及ぼすことになる。
よって皮肉にも『十忠』は、騎士連合が解体された後になって、彼らが思い描く「多くの人に騎士の十戒を伝える」こととなった。
のちに、『十忠制度』は『十忠』へと短縮化され、全ての騎士が見習うべき存在として敬意を表するようになった。
・・・のだが。
結局のところ、『十忠』に何者がいるのかわからないまま、心得とそれを誇る者の二つ名だけが騎士達の話題として歩くようになった。
「そんなことがあったんですね」
「・・・変な制度だな。騎士達だけでなく、わざわざ一般人に騎士の心得を広めようとするなど」
「そうだね。でも、そのころの騎士連合は、派遣する騎士の不足があって困っていたみたいだから、このような誇り高き騎士が居るんだとアピールして、人員を募集したのかもしれないね。ああそう、その『十忠』の二つ名も知っているよ。
『戦闘技術』を誇る『騎士王ドラン』
『勇気』を誇る『夢幻のレリス』
『正直、高潔』を誇る『流麗のダスト』
『誠実』を誇る『破道のディジー』
『寛大、気前の良さ』を誇る『悠鯨のハンス』
『信念』を誇る『炎熱のガルーダ』
『礼儀、親切、信心』を誇る『聖人アクス』
『統率、崇高、清貧』を誇る『将軍ミナガ』
『弱者の保護』を誇る『魔王ライン』
『不屈』を誇る『城砦のハルトマン』
この十人さ。もちろん本名も分からないし、見た目を詳しく覚えている者は誰もいないと言われているんだ。まあ、わたしも分からないんだけどね」
「なるほど・・・。先ほどから思っていたのですが、記憶力が凄いですね」
「いやぁ、ただの商人の性だよ。褒められるほどでもないさ」
「バリュー、お前もあの記憶力を見習って・・・。ってあれ?」
「・・・」
バリューは先ほどの戦闘で疲れ切ったのか、スパイスの話を聞いているうちに舟をこぎ始めていた。
「やけに変なタイミングで寝始めたなこいつ・・・」
「まあまあ、ライト君も疲れているだろう。少し寝てもいいんだよ?」
「いえ、日暮れの時間帯には中間地点へ着きそうですし、護衛が寝ていては本末転倒です。対象を守ってこその護衛ですし、問題ないですよ」
「そうかい? それなら、なるべく早く中間地点に着かなないとね」
スパイスは再度、心配そうにライトの顔を覗き込むが、ライトは前を指さして大丈夫ですと伝える。
そして日が傾き始めた頃、馬車は遂に中間地点へたどり着いた。
中間地点として選んだのは、この高地では比較的低い所にある、木々が繁茂している場所。
ここなら巨大昆虫種が馬車の音や振動を感知できない。
馬を急かせば二時間ほどでこの高地を抜けられなくはなかったが、一刻も経たずに日が沈みそうであり、皆疲労が溜まっていた。
そのため、今夜はここで野営することになり、スパイスたちは夕飯の準備に取り掛かろうとしていたのだが・・・。
*
着いて間もなく、ライト君とバリュー君が喧嘩を始めた。
きっかけも原因もライト君のせいなんだけど、本人は一切そんなことを気にしていないようだから質が悪い。
事のきっかけはわたしが夕食を作る準備を始めた事からだった。
「夕食を作るのなら、俺が作りますよ」と、ライト君が言ってきたから、夕食ぐらいはわたしが作ると断った。
護衛をしてくれたのに夕飯を作らせるわけにはいかないし、きっと二人とも疲れている。だから、夕食が出来上がるまで二人をゆっくりと寝させておこうと、そう思っていたのに・・・。
「それなら周囲の警戒をします」と言って、ライト君は着いてなお寝たままのバリュー君を叩き起こした。
―――心地よく寝ていた人がいきなり叩き起こされたら、誰だって怒る。
「・・・人が折角ぐっすりと寝ていたのに、叩き起こすとはいい度胸だな! 今日こそ、その失礼な態度を改めてもらうぞ・・・!」
「それをどの口が言うんだ、いつも失礼な態度を取っているのはお前だろ。さっさと見回りに行くぞ」
お互い一歩も譲らず睨み合っている様子を、威圧感が凄いなぁと遠目から見ていたけれど、ふと気になったことがあった。
口喧嘩はしているが、それほど険悪な感じではないみたいなのはある程度分かる。
毎日のように些細なことで意見の食い違いが発生することは、馬車の中でライト君から聞いている。どちらの言い分が正しかろうが、間違っていようが、最終的にはどちらかが折れるそうだ。
「・・・分かった。確かに、今まで寝ていた私が決めることではないな」
「そうだろ? とにかく行くぞ」
―――こんな感じで。
けれども・・・いや、だからこそ、その疑問が思い浮かんだのだけど・・・。
彼らは、どうして二人で旅をしているのだろうか・・・?
近いところを移動するだけなら、わたしのように一人で旅をしていても・・・ましてや二人でもおかしくはない。
でも遠出するならそれこそ複数人・・・多くてもいけないが、少なくとも四人以上で行動した方が一人一人の負担も少ないはず。
寝食や戦闘、見張りといった様々なところで二人だけだと負担が大きい。けれど、複数人で役割を分担したらどれほど楽だろうか。
今のような口喧嘩だってそうだ。奇数人だったらどちらかが折れることもなく、多数決で成否を決められる。大人数だったら話し合いで決めることも十分に可能だ。
それなのに、たった二人で旅をするなんて、相当なもの好きか何か理由があって二人でいるに違いない。
助けてくれた人達にこんな事を考えるのは、失礼極まりないんだけど・・・。会ってばかりの時に思った通り、あの二人は少し変だと思い始めていた。
夕飯の準備が整い、久方ぶりの食事にありついたその時に、わたしは思い切って聞いてみた。二人が旅をしているその理由がどうしても知りたくて、興味を抑えることができなかった。
「俺たちは最初、それはもう、水と油ぐらいにお互い反発していましたね」
「え? そうなのかい?」
「はい、何というか、最初は敵同士だったんですよ」
「敵・・・? 君たち二人が・・・!? そうは見えないけれど・・・」
「いやぁ、お恥ずかしい限りなのですが、俺たちがいた国も、近年まで戦争をしていたあの国と同じような感じでして、そこで敵国の兵士として剣を交えたんです。そこに俺の友人ともいえる人がやって来て、その人はどうやら相手の兵士とも仲がいいらしくて仲介に入られたんですよ。それが、俺たちの出会いでしたね」
「へぇ・・・。もう少し詳しく聞いてもいいかい?」
「いいですよ。全部は話せませんが・・・」
「なに、全部聞くほど野暮じゃないさ」
持っていたフォークを置いたライト君は、わたしに体を向けて語りはじめる。
二人の知り合いが説得するも、全く耳を貸さない二人に呆れた当人は、彼らの王達から既に停戦するよう言われていることを二人に語ったそうだ。
そして二人は、彼らの王とその知り合いが開いていた密会で、戦争の真犯人は隣国だと知らされる。そして、隣国の企みを阻止し、戦争を終わらせるため、無理矢理タッグを組まされたらしい。
最初は犬猿の仲という言葉すら軽々しく聞こえる程に二人の仲は険悪で、隙あらばすぐにでも、二度と歩けない体にしてやろうと思っていたそうだ。
それでも足を引っ張りつつも任務をこなし、喧嘩をしたら知り合いに仲介され、二人で活動している時間がだんだんと増えていく事によって、次第に助け合うようになっていく。
そんな時、事件が起こった、二人の知り合いが濡れ衣を着せられ、彼の国と二人の国の全てが彼の敵となってしまった。
知り合いを助けるため、二人は決死の覚悟で戦いの場に駆り出て、知り合いを必死に守ろうとした。
・・・しかし、三国相手にたった二人では分が悪かった。
結局、知り合いの濡れ衣を証明する前に、二人と知り合いは洞窟へと追い込まれ・・・。
最期には、二人の目の前で知り合いは自らその命を絶ったそうだ。
その瞬間、二人は自分たちの存在意義を失った。
まるで幼馴染の友のように、いつも二人のことを思ってくれていた人に目の前で死なれたのだ。二人にとってこれ以上の衝撃はなかった。
だから、彼らは全てを捨てた。
何もかもを捨てて、ここまで逃げ延びてきたのだ。
「―――これが、俺が話せることの全てです。今は・・・、そうですね、自分探しの旅をしているような感じでしょうか」
「・・・そうだったのか。ご友人を目の前で失ったならさぞ辛かっただろう。済まないね、辛い話をさせてしまって・・・」
「あまりお気になさらないで下さい。漸く俺たちも彼の死に慣れてきたところです」
「・・・そうだ、気にすることはない。最初の頃は思い出すたびに心が掻き毟られるようで、食事すら碌にとることができなかったが、今はそれほどでもない」
さっきまで会話に入ってきていなかった、バリュー君が口を開いた。
鎧を脱がずに、兜の口元だけを上げて、食べ物を放り込んでいるように見えるけれど・・・食事し辛くないのかな?
一向に鎧を脱がないから、何か理由があるんだろうけれど・・・。
いちいち口を出したら怒られそうだから止めておくことにしよう。
それにしても、話し続けていたせいか喉が渇いたな・・・。
そう思ってコップを手にしたときにふと気付いた。
「ライト君、全然食べてないじゃないか・・・。大丈夫かい?」
「・・・ちょっと食欲がないですね。バリューが恨めしく見えます」
ライト君の皿についでいた食べ物は、一口も手を付けられていなかった。
対するバリュー君は、わたしがライト君と話している間に黙々と食事をしていたのだろうけど、皿の上についでいた食べ物がすでになくなっていた。
「・・・食べれる時に食べておいた方がいいぞ、ライト。食べないなら私が貰う」
そう言うが早いか目にも止まらぬ速さで皿ごとひったくったバリュー君は、がつがつと口に放り込む。お行儀が悪いなぁ・・・。
いや、それよりも―――。
「それはライト君の・・・」
「いいんですよ。きっと疲れからの食欲不振だと思うので、今夜の分は翌朝にいただきます」
「そう、かい? でも・・・」
「・・・ご馳走様。うまかった」
そうこうしているうちに、ライト君のお皿に乗っていた食べ物は、全てバリュー君に食べつくされてしまっていた。
野営の基本は安全性である。・・・とは、誰の言葉だっただろうか。
睡眠をとっている間、あらゆる生物は無防備だ。
この木々の密集地帯には大型の蟲は出ないけれど、他の何かが出てきて人間に危害を加える可能性はある。
そのため、彼らより野営経験豊富であったわたしは二人へと、安全確保の罠などを仕掛ける手伝いをしてもらっていた。
そんな時、バリュー君がお腹を抑えて、木々の隙間へよろよろと進んで行くのが見えた。
「あれ、バリュー君は?」
「・・・少しの間離れる。だそうです」
「何かあったのかな・・・?」
「ただの食べ過ぎです」
「えぇ・・・。やけに苦しそうだったけれど・・・?」
「食べ過ぎた罰が当たったんじゃないですかね」
「あちゃあ・・・」
まあ、あんな食べ方をしていたんだ。お腹を壊しても仕方がない。
結局、ライト君と二人で罠張りの続きをすることにした。
・・・のだけれど、全ての作業が終わっても、バリュー君は戻ってこなかった。
「流石におかしいですね・・・。すみませんが少し様子を見てきます。スパイスさんは馬車から離れないでください」
「わ、わかった」
心配した表情をしたまま、ライト君は先ほどバリュー君が消えていった木々の隙間へと走っていった。
先ほどまでわたし一人ではなく、ライト君やバリュー君を含めた三人だったから、すごく安心して夕食も作れたし罠もしっかり張れた。
きっとそのせいだろう。二人がいなくなると途端に不安になって臆病風に吹かれる。静かな森ほど怖いものはない。どこで何が息を潜めて私に襲い掛かろうとしているか分かったものじゃない。
辺りを見回すけれど、暗くなった木々の中に何がいるか分かるはずもなく、わたしの心の中に少しずつ恐怖心が膨れ上がっていく・・・。
「―――――――――――――!!」
「ひっ!!」
女性の断末魔のような獣の声が聞こえた。
ここから離れているけれど、いつこちらに来るかわからない。
冷や汗がダラダラと背中を伝い、手足はガタガタと震えだす。
ダメだ・・・、もう―――。
・・・そうだ! こういう時は家族の写真を見るのが一番だ・・・!
懐に手を入れ、郵便鳥から受け取った手紙と写真を取り出す。
お腹が膨らんだ妻の写真と、ぐっすりと眠っている息子の寝顔の写真、手紙には妻の筆跡でわたしの身を案じつつ、早い帰宅を待ち望んでいる旨が書き込まれている。
・・・少しずつ落ち着いてきた。
そうだ。こんな時で死ぬわけにはいかないんだ。
愛する妻や息子、まだ見ぬ赤子がわが家でわたしの帰りを待っている。
だから、何としても・・・どんな手を使ってでも、わたしはわが家に帰るんだ。
そう、改めて決心した。
・・・だけど、運命の女神様は皮肉屋だ。
不安が安心に変化した途端、その安心を翻すかのように絶望が押し寄せて、暗い暗い絶望の波に飲み込まれる。
それは、わたしが一番知っていたはずなのに・・・。
わたしの命運はここで遂に尽きることとなった。
「・・・嫌な予感ほど、当たってほしいと思わないものはありませんね」
いつの間にかライトはスパイスの元へと戻ってきていた。
その顔は暗く、瞳は泥水のように濁って見えた。
「え・・・? まさか!」
「バリューは
「そんな・・・。あんなに強いのに致死傷を負わされるなんて、一体どんな化け物が・・・」
おろおろとするスパイスにライトは声を再度かける。
「何者かに襲われたわけではないですよ、原因は他にあります」
「・・・え? 襲われたわけじゃないのですか? 致死傷に至りそうな怪我を負ったのですよね?」
「バリューは怪我を負ったわけではないです」
「怪我、じゃない?」
「ええ。そもそも、ああ見えてもバリューは
「・・・繊細?」
「はい。だから、影響を受けやすいし、その影響から脱しやすいわけで・・・」
「ち、ちょっと待ってくれ!」
ライトが何を話しているのか分からなくなってきたスパイスは、まだ話し続けていたその言葉を途中で遮った。
「それと、バリュー君が致死しかけたことと何の関係が・・・」
「回りくどい言い方になってしまいましたね。・・・結論から言うと、バリューは毒に侵されていました」
「毒・・・ですか。なるほど、確かに怪我ではないですね。昼間の蟲から受けた毒でしょうか?」
「いいえ」
ライトは下げていた顔を上げ、スパイスを見つめた。
「あなたが朝方に寄った町で・・・この馬車で売っていた
唐突に薬物売りと言われ、スパイスはたじろぐ。
だが、すぐにライトへ視線を戻し、まるで何事もなかったかのように微笑んだ。
「・・・わたしは様々な国に行き、様々な人を相手にしたけれど、君たちのような人たちには会ったことはないよ。先ほどまでわたしの心配をしてくれていたのに、どうして手のひらを反すような真似をするんだい?」
「単に事実を言っているだけだ。シラを切り通すつもりなら、その四肢を砕いてやろうか?」
返事を返すその顔に先ほどの笑みはない。
言葉の勢いそのままに、ライトは剣の柄へと手を伸ばした。
「わたしとしては、薬物売りだという理由を言ってくれるのなら、正直に認めてもいいのだけどね」
「・・・わかった」
抜刀できる姿勢を維持したまま、ライトは一つずつ語り始める。
「・・・一つ目。馬車の中に甘い香りが漂っていたこと」
「果物や植物の香りでは? わたしはそのような物を専門に扱って・・・」
「俺たちが全ての戦闘を終えても、甘い匂いは消えることなく残っていた。ただの果物ならそこまで匂いが残る物など存在しないし、荷台の中に果物らしきものが乗っているようにも見えなかった」
スパイスが言いかけた話を遮り、ライトは言葉を続ける。
「二つ目。蟲が異様なほど
「・・・? わたし達を狙ったわけじゃない、と?」
「そうだ。蟲達は俺たちではなく馬車・・・正確には荷台ばかりを狙って襲い掛かってきていた。・・・だが、それには決定的な理由がある」
「決定的な理由か。馬車の中に食料があると思ったのではないのかい?」
その言葉にライトは首を振って返事を返す。
「ここらの蟲は音や振動を感知して狩りを行う。横倒しになった馬車もそうだが、俺たちがハクタク以降に戦った蟲も荷台の方へと吸い寄せられているようだった」
スパイスは最初に襲われたときの事を思い出していた。
確かにあの時、蟲が狙っていたのは馬でもスパイスでもなく、その後ろに倒れていた荷台だった。
「それなら、尚更荷台の食べ物だと・・・」
「原因は恐らく集合フェロモン、蟲が発する独特なにおいのような物だ。・・・薬物の中には昆虫種の内臓を含んでいるものもあるらしいな?」
スパイスはその言葉に口を閉じた。
だが、ライトの話はまだ終わらない。
「三つ目、俺とバリューの体に起こった異変だ」
「・・・食欲不振と腹痛のことかな?」
「それも一つではあるけれど、他にも明確なものがある」
「明確なもの・・・? これといった不調なんて合ったのかい? それどころか、君たちは獅子奮迅の如くといった言葉が合うぐらいに活躍して・・・」
「それだ。普通の人間は、あんな巨大な蟲を討伐することなんて到底できない。専門の狩人ですら討伐は大変だろうし、俺達だって普通はあれほど撃退することなんてできないはずだった。でも、そうならなかった」
ライトは自らの体と剣を軽く見渡し、再度スパイスの方へ向く。
「十二体も蟲を撃退できた理由。それは薬物による疲労感の消失、体の軽量感、視野の向上、筋力の上昇・・・等だろうな。どれも一時的な物だが、強力な効き目がある。その代わり副作用も強めだ。食欲不振や、意識の混濁、五感の遅鈍化、思考に歯止めが利かなくなり、体が痙攣する。重症になると、幻聴、幻覚、意識の消失、皮膚や内臓への極度のダメージを負い、場合によって死にも至るどころか、痛みと快楽に溺れて狂い死ぬ。・・・実に恐ろしい代物だ、生み出した者は地獄に落ちるべきだな」
「・・・仮にそうだとしよう。でも、薬物はいつ、どのタイミングで君たちの体の中に入ったんだい? わたしが君たちに薬を盛る暇など無かったと思うけれど」
「それは、恐らくあなたは俺たちに、意図的に薬物を盛ったわけではないからだ」
そう言うと、ライトは懐から小さな麻袋を取り出す。
スパイスはそれを見た瞬間、彼から目を離したことを心底後悔した。
「さっき、荷台から一つ拝借させてもらっている。嗅がないように細心の注意を払って中身を見たら、黄土色の粉が入っていた。そして、この麻袋の近くに同じような形で破れた麻袋があるのにも気が付いた。・・・これらで、俺たちが中毒症状に陥った原因も把握できる」
ライトは足元に目を向ける。
まばらに草が生えているその大地の色は・・・。
「この高地の土の色は黄土色。そして、この薬の色も黄土色。さらに、荷台の中は結構暗いから粉末が風に乗って飛んでも把握できない。見えたとしても高地の砂埃だと勘違いしてしまうだろうな」
「・・・」
そう、ハクタクに襲われて荷台を倒されたあの時、スパイスが薬を入れていた袋のいくつかが破けて、中身が辺りに散乱していた。
ライトが言う通り、この土地の砂と薬物の色はほぼ同色で、匂い以外で薬物か砂か判断するには不可能に近い程だった。
―――だから、ライト達は気づかずに吸ってしまった。
「これは返す。俺たちが持っていても仕方がない物だ」
「わっ!」
返すと言ってライトは袋を投げた。
スパイスはそれに慌てながら、握りしめないよう優しく袋をキャッチする。
「今のだってそうだ。中身がどうでもいい物だったなら、わざわざそんな行動を取らないだろう? その行動は中身がよっぽど大切なものか、よっぽど危険なものかのどちらかでしか取らない行為だ」
「それは・・・」
「これ以上、シラを切り通すのは無理だと思うが。どうする?」
「・・・やっぱり、悪はいつか滅びるって言葉は正しいのかなぁ」
スパイスはそう呟いて空を見上げる。
・・・その瞳に、天上で光り輝く星々は映る事がなかった。
「きっと隠し通せると思っていたんだけどね。まさか、君たちが薬物の中毒症状に陥ることになるなんて思わなかったよ・・・。本当に済まなかった・・・」
ライトの方へ向き直ったスパイスは、頭を深々と下げたのち、こうなった経緯をぽつぽつと語り始めた。
スパイスの家は、他の家庭と比べても貧乏な方だった。
それでも、妻と共働きし、どうにか家計をやりくりすることで、細々ながらも確かな幸せを感じる程度の暮らしができていた。
だが、その幸せも長くは続かなかった。
現勢力に反旗を翻した新勢力が暴動を起こし、それがきっかけとなって内乱が始まったのである。
様々な資源が暴徒の鎮圧、現勢力の粛清という名目で使われ始め、工場で働いていた人手も戦争の為に減らされていく。それによって自然と物価が上昇、貧困に悩まされる人々が続出していた。
勿論、スパイスの家も例外ではなかった。
元々野菜や果実を売り歩いていたスパイスは、仕入れ先の野菜や果物が、内乱の為に手に入れることが困難になっていることを知る。
それでも、どうにかある程度の数を手に入れて売り歩こうとしたが、国の税関にその情報が知らされ、全て没収されてしまった。
国民の大多数が内乱によって飢え、疲れていた。
そして、とうとう戦っている者達以外にも死者が出始める。
飢餓による栄養失調で死ぬものや、絶望し自害する者が現れだしたのだ。
そして、最悪の事態は重なっていく。
この時、すでにスパイスの妻は妊娠していて、まだ歩くこともできないほど幼い娘もいた。
せめて妻に栄養のあるものを与えたい・・・。
愛する息子を飢餓などで死なせたくない・・・。
その一心でがむしゃらに働いた。
そしてある日、給料がいい仕事に入れるようになった。
その仕事は・・・所謂、人体実験の類だった。
なるほど、確かに現勢力は非人道的だと言っていた、新勢力の若者の言葉はあらがち間違ったものではない。
こんな非人道的行為を推奨していたのだから。
スパイスは彼らと共に、多くの人を殺した。
それも、この国民だけではない。どこかの国から連れてこられた奴隷や、社会的に抹殺された人、多くの罪を犯した罪人達もいた。
殺し続ける罪悪感や、凄惨な現場を幾度となく見ることによる嫌悪感によって、多くの人がそう長くないうちに、人体実験される側に入れ替わっていた。
だが、スパイスはそうならなかった。
彼はもう壊れていたのだ。
家族の為だったら何だってする。家族を守るためならどんな手を使っても生き残る。
それ以外の事なんて、彼にとって特にどうだってよかった。
そんな日々を繰り返して一年ほど経ったある日、幹部まで役職を上り詰めていたスパイスは、金銭に代わる報酬として疲れに効くという黄土色の薬を貰う。
きっと、いつまでも居座り、順当に上り詰めている彼を陥れる目的で・・・いや、死んでもらうために渡したのであろう。
それは、スパイスが今売り歩いている薬物『黒糖』だった。
疲れに効く薬が薬物だと思い至るのは、そう難しくなかった。
スパイスは長い間商人をしてきたのだ、人の悪意なんてすぐに把握できるし、異様に甘い香りがするその薬に違和感を抱くのも早かった。
貰った当日、危険な薬だと感じたスパイスは、目の前に転がっていた死体へ全て振りかけて、その場を去る。
翌日、死体を見てみると案の定、死体を喰らっていたネズミの一部は酔っているかのように辺りをうろうろとしており、他は異様な死体となって辺りに転がっていた。
それをみてスパイスは閃いた。
この薬物を使えば、現状を打開できるかもしれないと。
実は、戦争が起きたことによる影響は、決して悪いことだけではない。
元々富裕層だった人々は、彼らの下にいる家来やその家来たちが作った農作物、自らが管理している資材を提供することで、さらに裕福になっていた。
商人歴が長いスパイスにとって、彼らを薬物の虜にするのは差ほど難しくなかった。
初めはただ横流しするだけだが、隙をついて相手の飲み物に少量の『黒糖』を注ぐ。
それを繰り返すことで、商売相手を薬物無しでは生きられない体にするのだ。
こうしてスパイスは、昼は仕事をこなし、夜は『黒糖』を富裕層へ売りさばく売人となり、一部界隈では『黒糖』売人と呼ばれるようになる。
そうしているうちに、仕事の上司達が突如、薬物中毒によって一斉に死亡した。
・・・いや、正確にはスパイスが分量を計算しつつ、感づかれないように少しずつ上司達に薬物を盛っていたのだ。
スパイスはこうして、人体実験施設を壊滅させ、上司達が貯蔵していた大量の『黒糖』を手に入れる。
そして、それを売ることで生計を少しずつ立て直していった。
・・・だが、そうしているうちにいくつもの問題が出始める。
スパイスの暮らしている町で、『黒糖』の虜になりそうな富裕層の数が殆どなくなってきていた。
そして『黒糖』の強さを舐めていたスパイスは、手足のしびれや食欲不振から、いつからか自分が薬物中毒に陥っていることに気付き始めた。
このままではお金を稼ぐことができない。そうしたら、わたしを失った家族はどうなってしまうのか・・・。
家族にも薬物による悪影響が出るかもしれない。それどころか、わたしが薬物売りだと辺りに知れ渡ったら、家族に一生の負担を与えてしまう・・・。
そう考えたスパイスは、ある手段を考えつく。
近場ではもう殆どの裕福層に売り渡した。ならば、次はもう少し遠くで『黒糖』を売ればいい。
妻に購入したカメラを持たせたスパイスは、買ったばかりの馬車に乗り、遠くの町へと向かった。
近くの町に行かなかった理由は、薬物を扱っている自分が家族と会う時間を短くするためだった。
勿論、家族に会う時間が短くなるのは辛い。だが、もし家族に薬物のことを知られたら、薬物を誤って口に含んでしまったら・・・。
そう考えるだけで、自分がやっている事がとても悍ましく感じる。
だからといって、家族を養うために仕事を止めるわけにはいかなかった。
こうして、遠くへ遠くへと向かううちに、他国まで行くこととなったのだ。
「そして、昨日が他国で初めて商売をした日だった・・・」
スパイスは荷台に腰かけたのち、静かに目を閉じる。
その姿はまるで懺悔しているようだった。
だが、彼を睨むライトの顔色は一切変わらない。
「これだけは信じてほしい。君たちを巻き込むつもりは一切なかったんだ!」
「・・・あのバカの前でそう言っていたら、きっと俺は、あなたを非難することすらできないだろうな。―――あいつは、誰に対しても優しすぎる」
苛立ちを隠さずに、ライトはそう吐き捨てた。
「・・・そんなに、バリュー君の容体は悪いのかい?」
「俺は毒に対する反応が遅かったから、今になって少し辛い程度で済んでいる。けれどバリューは、荷台に入って直ぐに症状が出ている。ここに着いた時点でも相当に苦痛を受けていた筈だ」
「そんな・・・! それだったら―――!」
「そうだ! あなたが作った料理の中にも『黒糖』は付着していたはず! それを一人で二人分あいつは食べたんだ・・・!!」
「あ、ああ・・・」
その言葉を聞くだけで、スパイスには察しがついた。
バリューが頑なに鎧を脱ごうとしなかった理由。
それは、中毒に罹(かか)っている姿を隠していたからではないのか・・・と。
「繊細でバカなあいつは、あなたが薬物商だって事を俺に隠していた。自分が死にそうになるぐらいに毒を呑んだ癖に、まだ、あなたのことを庇おうとしていた!」
「どうして・・・、そこまでして―――」
わたしを庇ったのだろうか。と続くだろう言葉は途中で途切れ、代わりにその瞳から一粒の雫が零れ落ちた。
「ああ、そうか・・・。『黒糖』が引き起こす薬物中毒について、詳しい症状を知っていたみたいだけど、バリュー君を診断して知ったんだね」
「いいや、あなたが薬物を売った商人に聞いたんだ。正確に言うなら
数奇な事に、ライト達もスパイスが寄った国に滞在していて、スパイスが出国するタイミングで同じように二人も出発しようとしていたところだった。
そんな時、スパイスが『黒糖』を売った商人が二人に声を掛けた。
彼はライト達が富裕層の人間と踏んで、『黒糖』を売りにかかったのだろう。
しかし、バリューが瞬時に商人を跳ね除け、麻袋の中にある『黒糖』に気付く。
それは一体何なのか。どのような効力があり、どのような危険性があるか分からなかったライトは、バリューの制止を断って、拘束していた商人に『黒糖』を全て用いた。
だから、商人がどのような死に方をしたのか、ライトは全て覚えていた。
「そんな・・・! まるで、悪魔の所業じゃないか!」
「あなたがそれを言うのか? 俺たちは商人を処分する方法に、商人が用いようとした物を利用しただけだ」
再度睨みつけようと顔を強張らせるライトだったが、表情を変えることなく涙を流しているスパイスの表情を見ていると、どうしても睨みつける気にはなれなかった。
その代わりに、何とも言えない悲しげな表情を浮かべる。
「・・・どうしても、薬物売りにならざるを得なかったんですか?」
「わたしたち家族が安心して幸せに暮らしていくには、これしか方法が思いつかなかったんだ。・・・止めても無駄だよ。わたしは自分がどうなっても構わないんだ。だって、いつでもわたしの心は、命は家族の為にあるのだから」
「―――ッ!」
そうだ、彼がやったことは決して許されざる事じゃない。
だが、彼がやってきたことは愉快犯的行為などではなく、家族を思っての事だった。
それを間違っていると否定出来るだろうか?
許容できない悪だと断罪できるだろうか?
少なくとも、ライトにそれは出来ない。
―――それを決める権利なんて、ライトには存在しないのだから。
わたしの信念は揺るがない物だと悟ったのか、ライト君はわたしへと向けていた視線を外した。
「・・・残念です」
そのまま一瞥もすることなく、後ろを振り返る。
「俺達があなたを護衛できるのはここまでです。念のために目的地を言わなくてよかった。あなたにその場所を毒されるわけにはいかない」
そう言うとライト君は、バリュー君がいるであろう木々の隙間へと消えていった。
彼らを騙すようなまねをし、バリュー君を瀕死に至らしめ、彼らの目的地にも商売の手を広げようかと一瞬でも思ってしまったわたしの自業自得だ。
彼らに命を救われたのに、彼らの命を奪いかけることになるとは、これっぽっちも思わなかった・・・。いや、これはわたしの盲目さが招いた悲劇でしかない。
もしかしたら、わたしが知らないだけで、家族にも被害が及んでいるかも・・・。
うん、決めた。故郷へと帰ったらわたしが持っているもの全てを売り払おう。
そして姿を消すんだ。
家族の幸せではなくて、妻と娘、新しく生まれてくる子供の為に・・・。
翌朝、わたしは荷車の中にあった『黒糖』をその場に全て埋めようとした。
「・・・駄目だ。これはまだ使える」
しかし、それを躊躇して、結局荷車の中に戻す。
そして、馬車を飛ばして帰路についた。
荷車の中に充満していた『黒糖』は全て取り除き、疲れが残っているだろう愛馬に鞭打ちながら、全速力で台地を駆けていく。
追いかけてくる蟲なんてどうでもいい。
ずっと走っていたら、きっと諦めてくれる。
とにかく早く帰りたかった。
妻と、娘、新しく家族になった赤ん坊の顔が見たかった。
それにしても、汗が止まらない・・・。喉も乾いてきた。
荷台に載せておいた水筒の水を口に含んで―――
「・・・ん?」
気付けばわたしは空を見上げていた。
あれ・・・荷車に屋根はなかったかな?
辺りを見渡そうとして立ち上が・・・れなかった。
手足の先端はやけに短くなり、真っ赤に染まっていた。
おかしいなぁ・・・、こんなに手足って短いものだったかな?
近くには馬らしきものが転がってはいたけれど、それは馬とはいえなかった。
赤と茶色が混ざり合っている、白っぽいものが転がり出てきた。
やっぱり、あれは馬じゃないな。
・・・ん? わたしは馬に乗ってきたのか?
黒い影が目の前を覆った。
硬そうな体でたくさんの足が生えている。
―――蟲だ。
「あ、うあ・・・」
蟲は怖い!
わたしを食べるつもりだ!!
・・・いや、違う。
確か・・・。
こ、こ・・・
―――なんだ、全然怖くないじゃないか。
むしろ、嬉しそうに私を見てくれて・・・。
そうか。
馬がいなくなったから、代わりに家まで送ってくれるんだね。
助かるよ。
蟲がわたしを咥えた。
夥しい赤が地面を染めていく。
蟲のよだれかな?
下はんしんに、いわ感がはしった。
でも、すぐにおさまった。
ありがとう、ようやくいえにかえれるんだね・・・。
(それにしても不思議な人たちだったな・・・)
最期に会った二人組をふと思い出した。
皮革製の鎧を着た青年と、巨大な甲冑に身を包んでいる人物。旅をするにはやけに軽装備で、戦いに向いてなさそうな武器をそれぞれ持っていた。
(彼らとの出会いは運が良かったとも、悪かったとも取れるな・・・)
こうして、スパイスは微睡む視界の中、蟲に咀嚼されながら、彼らとの経緯をまた振り返っていく・・・。
「はあ・・・、はあ・・・っ」
乱雑に脱ぎ捨てられた鎧と大剣から少し離れた所、木々の中でも大きめの木に寄りかかっていたバリューは、激痛に呻き、荒く息を吐いていた。
薄い金の髪は日に焼けたように、所々茶色に変色している。
また薄着から出ている素肌や顔は病的なほど白く染まり、『黒糖』と同じような黄土色の斑点が点々と現れていた。薄着の下はよく見えないが、おそらく露出している部分とさほど変わりないだろう。
さらに、口元には吐血した跡があり、治りかけの大きな傷や、兜で削れたと思われる耳の頭からも絶えず血が流れていた。
「しっかりしろ・・・、バリュー・・・!」
辛そうな声でライトは声をかけ続ける。
全身から力が抜けているようなバリューの姿は、目を背けたくなる程にとても痛々しく、ライトが見つけた時よりも症状が悪化しているように見えた。
「・・・だ、だい、じょう、ぶ。そんな、顔、似合わ、ない、よ」
今にも泣きだしそうな表情をするライトへ、息も絶え絶えにバリューは告げる。
スパイスへ契約破棄を告げに行った後、戻ってきたライトは商人に薬物を摂取させた時と同じ表情をしていた。
あの時、苦痛によってのたうっていた商人を見ていたライトの顔は、まるで何も見ていないかのような無表情をしていた。
だが、バリューにはそれが、悲しみや苦しみから来ているもののような気がしてならない。
本当はそんな顔をさせたくはなかったのだけれど・・・。
(私は今こんな状況で済んでいるけれど、もしライトがあのまま食事をしていたら、きっと中毒死しているから・・・)
だからこそ、バリューが全て摂取しなければならなかった。
『黒糖』の恐ろしさ、それは粘着力と蟲のフェロモンにある。
『黒糖』はその一粒一粒が、生物の体表にこびり付くとなかなか離れない強力な粘着力を持っている。そのため、一度付着してしまうと吸収されるまでその場に留まり続けるのだ。
そして、蟲のフェロモンというものは、種によって少し異なる所があるが、それだけでも十分薬物になりえる代物である場合が多い。しかも、それが『黒糖』の主成分となっている。
スパイスも商人も、そしてスパイスに報酬として与えたという上司も、きっと効力が強めな薬物としか思っていなかったのだろう。
だが・・・、『黒糖』は薬物などと言った生温いものではない。
一度風上から散布すれば、風下のありとあらゆる生物の体に付着し、死に至るまで永久に体を蝕む毒物。
―――そう、『黒糖』は一種の生物兵器だった。
(人の体に入ってしまったら、量にもよるだろうけれど、即死する可能性だって普通にあり得る。そんなものをライトに食べさせるわけにはいかない。・・・毒物に
バリューは痛みに顔をしかめつつ、息を大きく吸った。
「・・・驚いて、大きな声とか、出さないでね」
「・・・? わかった」
余計なことを一つも言わずに黙り込んだライトを見て、バリューの口元が思わずほころぶ。
静かにバリューの様子を見守るライトの顔には、もう先ほどまでの暗さは抜けきっていた。
(やっぱり、少し仏頂面でいる方がライトらしいや)
バリューはそう思いながら、小さく呟いた。
「―――『身体浄化』」
ついさっきまで掠れて途切れ途切れだったバリューの声は、それまで辛そうだった様子を感じさせない声色で、呟きとは思えないほど力強い声が辺りに凛と響き渡る。
まるで、見えない何かに語り掛けるように・・・。
「・・・!」
無意識のうちに声を掛けそうになったライトは、その光景を見て反射的にその口を閉じる。
―――それほどまでに、変化はすぐ訪れた。
声を発して一秒も経たぬうちに、バリューの体が若草色の光に包まれた。
光の中の体は、蒼白になっていた肌が段々と色を取り戻しているように見える。
それだけではなく、体表に現れていた黄土色の斑点が、地面や寄りかかっている木へと吸い寄せられていた。
「ふぅ・・・。少し、落ち着いたかな」
「・・・これは?」
若草色の光が段々と消えていく状況を見ながら、恐る恐るライトは尋ねる。
「ここらにいた精霊に『黒糖』、だっけ? それを分解してもらっているんだ。ついでに、生命力や治癒力も少し頂いているって感じかな」
落ち着いた様子で話すバリューは、調子が良くなってきているのか、段々と声に力強さが戻ってきていた。
安心して気を抜いたライトは、ふと気付く。
バリューが「精霊に『黒糖』を分解してもらっている」と言っていたが、精霊は人間の願いを叶えてくれるような存在ではない。
彼らは人間以上に、気ままで身勝手で気まぐれだ。
そんな彼らが願いを叶えてあげる存在と言ったらただ一種。
『精霊の落とし子』、『森の管理者』とも呼ばれる亜人の上位種・・・。
「バリュー、お前ハイエルフだったのか・・・!」
「あー・・・うん、ハイエルフとはちょっと違うかな。でも、これは気付かなかったでしょ? 耳を人間と同じような形に整形してもらったからね」
「・・・ちょっと違う?」
「うん。でも、説明が長くなるからまた今度ね」
何故か気まずそうにバリューは言う。
確かに耳の先からは血が流れていたが、整形後の古傷だったとは、ライトは思ってもみなかった。
「ここの精霊は臆病者みたいだから、静かじゃないと出てきてくれないみたい」
「だから大きな声を出すなと言ったんだな。だが―――」
「わかってる。私はエルフだから毒にある程度の耐性があるけれど、『黒糖』の毒素を甘く見すぎた。心配かけてごめん・・・」
「・・・これからは、本当に無理をするなよ」
「・・・うん。精霊でも『黒糖』の分解には時間が掛かるみたい。だから、その間はごめんけど―――」
「ああ、まかせとけ」
「・・・ありがと」
そう言ってバリューはゆっくりと目を瞑る。
その、今にも命つきそうな顔にライトはきっと不安を抱いていた。
だが、その不安を陰に隠すように、バリューから背を向ける。
彼女から無事に毒素が抜けさることを信じて。
・・・そんな二人を若草色の光が優しく照らしていた。
バリューの体内から毒素が無くなったのは、日が昇るほどになってからだった。
その後、ライトの体に入っていた毒素も分解する頃には、もう日が真上から二人を照らす位になっていた。
「まだ疲れとか残っているけど、そろそろ行こう。流石にうまくは動けないけど、近くの町・・・スパイスさんの町になるのかな・・・? そこにいけば、少なくとも原生生物に襲われる心配はないから」
脱ぎ捨てた鎧を纏いながらバリューは言う。
「ああ。・・・いや、ちょっと待ってくれ」
同じく脱いでいた鎧を着ていたライトは、何かを見つけたのか、その場から駆け出した。
スパイスが馬車を停めていた場所には、轍が残されているだけ・・・いや、轍のすぐ近く、石を重しにして束ねられている複数枚の紙が置かれていた。
「・・・畜生」
「ライト? どうかした・・・?」
「貴方にしてほしかったのは、こんなことじゃないのに・・・!」
紙を手に取ったライトは、書いてあった内容に表情を歪ませる。
そう、その紙はスパイスが二人に残していた置手紙。
そこに書かれていたのは、ライトが最も望んでいなかった答えだった。
『君たちが滞在していた町の方へ『黒糖』を撒きつつ逃げることにする、それが君たちに私ができる最大の罪滅ぼしだ』
それは、スパイスが彼らに宛てた謝罪の文。そして、別紙には家族に宛てた遺書が書かれていた。
・・・泣きながら書いたのだろう、所々文字が歪み、線が滲んでいた。
「・・・結局、俺はどうするべきだったんだろうな」
ライトは謝罪の文を握りつぶし、俯く。
昨夜のように、自分たちの旅の安全を確保する為、スパイスからすぐにでも離れるべきだったのか・・・。
それとも『黒糖』の危険性を説き、すぐに捨てさせて、このような自殺行為を止めさせるべきだったのか・・・。
あの時・・・『黒糖』を二人に売ろうとしていた商人を相手した時もそうだ。
『黒糖』を商人に用いなかったら一体どうなっていただろう。
商人がどのような死に様をしたのか、ライトは最初から最後まで覚えている。
だが、それを見ていた自分が何をしていたのか。そして、商人がただの死体となった後、自分は何をしていたのか。
そのことを・・・、ライトはいまいち覚えていない。
靄がかかった思考が晴れてきたころに見えたのは、臓器を辺りにばら撒いた商人の変わり果てた姿と、倒れこみそうになっていたライトの体を支えていたバリューだった。
その場では『黒糖』を流通させる前に、商人に使ったことは正しかったんだと、どうにか自分に言い聞かせる事しかできなかった。
「―――それでも、だからこそ、こうした今があるんじゃないかな・・・」
バリューはその質問に、そう答えるしかなかった。
苦しみ喘ぐライトに、家族を愛するスパイスに、どうしても自分の事を打ち明けられなかった彼女にも、その答えを知る由がなかったのだ。
自分たちの足となり、優しく声をかけ心配してくれた、家族思いの商人を・・・自分たちと同じように戦争によって人生を狂わされた人を。
見捨てないという選択肢はなかったのか、過ちを正すという選択肢はなかったのか。
苦悩し
誰かを守るということの曖昧さに、一抹の不安を抱きながら。
こんにちは、左之亜里須です。
相変わらず拙い部分が多々あったかと思いますが、ここまで読んでくださってありがとうございます。(今回も文章が結構長いです)
今回の御話で二人の過去や、この世界についてのことが少しわかってもらえたらうれしいです。
いつの時代も争い事によって、生活や人生を大きく狂わされた人がたくさんいます。
それは、たとえどのような世界だったとしても、同じではないかと思っています。
自分は誰かの為に努力しても、それが相手の為になっているのか、他人に迷惑をかけていないのか・・・。
そして、自分にとっての正義は本当に正義と呼べるものなのか。
読者様はどう思いますでしょうか?
その答えがこの物語で見つけられたら幸いです。
次回作もまた見て頂いたら嬉しいです。
それでは、より良い日々を・・・。
17/11/22に加筆修正しました。
自分でも読んでいて読みづらい文章を書いてしまっていたので、読者様には大変申し訳なく思いました・・・。m(_ _ ;)m