Wrap up the lord of knight 作:影斗朔
・・・参った。
そう言ったのは、果たしてどちらだっただろうか。
それを知る者はこの場にただ二人。
どちらも自分が勝ったとは一言も言わず、ただ広大な草原に体、武器、鎧、全てを投げ出し、酸素と休息を求める体を休めていた。
否、勝敗など彼らにとっては些細なことなのだろう。
満身創痍であろう二人の顔には、なぜか笑みが浮かんでいた。
「―――そういえば、今回は、「そこまで」って、言ってくれる人が、居なかったね・・・」
「―――そりゃあ、俺たち、二人だけしか、居ない、からな・・・」
ゼェゼェ・・・はぁはぁ・・・と深呼吸をしながら、二人は日が傾き始めていた空を仰ぎ見る。
鳥が一羽も飛んでいないからか、空は途轍もなく広く、空虚さが感じられた。
「それにしても、そんな戦い方、出来るなんて・・・聞いてないぞ・・・」
「ライトだって、あんな、避けようがない技を、使えるとか・・・全然知らなかったし・・・」
「それは、置いておくとして、とりあえず、本題に戻るぞ・・・」
そう言いながら立ち上がったライトは、ついさっきまでバリューが使っていた剣を拾い上げ、バリューの方向へ振り返った。
しかし、バリューは起き上がることなく、ライトからふいっと顔を逸らす。
「・・・おい、バリュー?」
「な、何?」
「・・・まさか、当初の目的を忘れたんじゃないだろうな?」
「な、ナンノコトカナー」
「・・・・・・はぁ」
「ち、ちょっと! 急に剣を振り下ろさないでよ!」
「おいおい、何のための手合いか忘れたようだから、もう一度やり直そうとしているだけだぞ?」
「思い出した! 思い出したからストップ!!」
再度顔に向けて剣を振り下ろされそうになったので、慌てて制止の声を上げるバリューだったが、未だ体を大地へと投げ出しているままだった。
ライトの方も剣を振り下ろしはしていたものの、それは先ほどの手合いよりも全く力がこもっておらず、ただ剣の重みに任せて腕の力を抜いているように見えた。
そんな立ち上がる気力や剣を振る筋力すら無くなってしまうほど、先ほどまで熾烈な手合いをしていた二人だったが、もし全盛期の状態で何の出し惜しみもせず力をぶつけ合っていたならば、それこそ、死闘と化していたことだろう。
だが、今の二人にそんなことをしている余裕なんてない。
もっと重要なことの為に手合いをしていただけなのだから。
「まず、俺から言わせてもらうぞ」
「うん」
バリューの前に座ったライトはゆっくりと語り始める。
対するバリューは漸く寝ころんだ状態から座る状態まで持ち直し、ライトと向き合いながら鎧の手入れをしている。
草を潰したことと流した汗のせいで、その鎧は所々緑色に染まり、苦い薬草のような強い匂いを発していた。
「バリュー、お前は相変わらず反撃戦法ばかり取っているな」
「うん。それが私の取り柄だし」
「正直に言うが、そればかりだと敵によっては一方的にやられるだけじゃないか?」
「そんな時はちゃんと戦い方を変えるって」
「砲撃されたとき、俺が砲台を壊していなかったら今頃どうなっていただろうな?」
「うっ! それは言い返せない・・・」
反撃戦法・・・所謂カウンターアタックは、相手の攻撃を防ぐ、もしくはその攻撃を利用して攻撃を行う戦法だ。
通常の戦闘で見かけることは殆どないが、相手の攻撃を利用できる点を考慮すると、対人戦闘では優秀な分類に入る。
重装備だが反射的行動力があるバリューと最も相性がいい戦略と言っても過言ではないだろう。
にもかかわらず、通常の戦闘で殆ど見かけることが無いのは、その戦法が使う人を選ぶからだろう。
反撃戦法の欠点として、相手の攻撃を捌き切れずにもらってしまうと、カウンターを仕掛ける側が大きなダメージをもらってしまうこと。また、常にカウンター狙いをすると相手の攻撃を待つ消極的な状況になり、遠距離攻撃や対多人数戦では不利になる場合が多いことが挙げられる。
明らかに欠点が多すぎるせいか、この戦法使う人は滅多にいない。
だからこそ、その戦法でうまく戦えるバリューはある意味強いと言える。
・・・尤も、適切に使うことができたら、の話ではあるが。
「それと、その装備だと、反撃戦法や攻撃無視戦法をしてくるだろうと思われてもおかしくない。あの時の戦いでも、俺は最初からその二つのうち、どちらかを用いて戦うだろうと踏んでいたしな」
「あ、そうか。だからあの時は一撃離脱ばっかりやってたんだ・・・」
反撃戦法が相手に有効打を与えるには、相手のリズムを崩す必要がある。
だからライトは、リズム、パターンを逐次変更しながらバリューへと攻撃を加えていたが、その手を取ったせいでライト自身も有効打が入れられず、結果的に長期戦となってしまった。
「それに、いくら頑丈な鎧を着ていて鋼の精霊もいるとしても、敵の攻撃をあえて受け止める必要はないだろ」
「・・・それは、そうだけどさ」
「ヘイトを稼いだり盾役になる事を悪いとは言わない。現に、そのおかげで助けられている部分もある」
「それなら別にいいでしょ?」
「いいや、よくない。今は俺たち二人だけしかいないんだ。俺が怪我を手当てすることは出来るが、医療器具が揃っていたとしても医者には程遠い。それに、バリューはいつも無理ばかりする」
「でも、そのおかげで意表を突いた攻撃ができるし・・・」
「あれは俺だから引っかかっただけだ。恒常的に見ていないと不意打ちにすらならないぞ」
「ちぇー」
「・・・だがまあ、相変わらず粘り強さと咄嗟の反応はいいから、俺みたいに立ち回ることもできそうだけどな」
「うーん・・・。じゃあ少し頑張ってみる」
鎧にこびり付いた汚れを拭き取り終えたバリューは、納得をした表情をしながら手入れし終わった部位を体に装着し始める。
ライトは何をするでもなくその様子を見ていた。
「他にはある?」
「まあ、分かり切っている事ならある」
「一応聞いとこうかな」
「俺が知っている限りだが、誰かを守りながら戦うことが出来るヤツの中では、今でもバリューがダントツだ」
「やったぜ! ・・・それで?」
「誰かを守るとき俺は役に立てない。だから、その時はお前に任せる」
「わかった! 私に任せなさい!」
バリューはふふんと笑みを浮かべ、ガッツポーズを取っていた右腕で胸元を叩く。
既に兜以外装着していたため、ついさっきまで辺りに聞こえていた金属音が響いた。
そんな自慢げな態度をしていたバリューだが、ライトの話が終わったことに気づいたようで、手の位置を膝元に戻して問いかける。
「そういえば、ライトの戦法は破砕戦法って言うんだったね。正直、言われるまで知らなかったよ」
「それはそうだ。俺が独学で編み出した戦法だからな」
「あ、そうなんだ。どうりで見覚えがないと思ったんだよ」
実は武器や防具を破壊して敵を倒す手段は、遥か昔から存在している。
鉄で作られた鎧が出回り始めたころ、その対策として作られたレイピアと同時期に、原初の武装破壊武器であるハルバードや、レイピアを対策するために生まれたソードブレイカーという櫛状の峰をもった短剣などがそれらに当たる。
だが、それを使うわけではなく、ライトはその行為を戦法へと変換した。それが破砕戦法だった。
「そういえば、ライトって急な行動に弱いよね。あの時の体当たりだったり、さっきのあれに反応できなかったりしたし」
「・・・まあ、そうだな」
「何その顔」
バリューがそう言ってしまうほど、ライトは変な顔・・・困惑したような目つきで唇を噛んでいた。
「いや、わかってはいるんだ。だけど、考えながら戦っているせいか、想定外の動きをされると一から考えなおさないといけなくなって困る」
「咄嗟に避けるとか、剣で受け止めるとかしないの?」
「あまり隙を晒したくない・・・とは流石に言えないか。結局やられているわけだから。それと剣で受け止めたいのは山々だが、この剣だとただ受け止めるのには不向きなんだ。だから敵の剣を滑らせて柄で折るか、そもそも攻撃をされないように動くことが一番良いんだけどな」
そう言いながらライトは足の上に置いていた剣の剣身を撫でる。
ライトの瞳のような黒く鈍い輝きを放つその剣は、激戦をくぐり抜けてきたとは思えないほど、傷跡が見受けられなかった。
「あ、それでずっと私の鎧ばかり狙ってたんだ」
「ああ。それにバリューの剣ぐらいの大きさがあるものだと、流石に一発で壊すことは出来ないからっていう理由もある」
「なるほどね」
「改善策を上げるとしたら、どうする?」
「そうねぇ・・・ライトも反撃戦法をやってみたら? 割に合う、合わないはさておいて、やってみたらなにか考え付くかも」
「どうだろう・・・まあ、考えておくことにするか」
その他に手癖や体勢、体の動きなどといった技術面を数分にわたって二人は話し尽くす。
二人の火照った体は、この頃にはもう夕風によってだいぶ冷やされていた。
今晩は。左之亜里須です。
安心してください! 今回はちゃんとボリュームあります!(三千文字程度)
結局、二人の勝負の行方はわからないまま、話し合うことになりました。
それは、二人にとって雌雄を決することが重要ではなく、それを行うことで見えてくるものがあるからこその手合いだったからです。
・・・ですが、どうやら戦闘以外にも話し合う必要がありそうなようです。
次回もまた見て頂いたら嬉しいです。
それでは、より良い日々を・・・。
この話もあと二、三話で終わります。
現在、信念の修正中ですのでまた投稿期間が開くと思います。
ご了承ください。<m(_ _)m>