Wrap up the lord of knight   作:影斗朔

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ステータスの話⑾

「・・・そろそろいいか」

「・・・ですぞ」

「・・・ですな」

 

先ほどまで手合いをしていた場所から、地平線に当たる位置まで二人の姿が遠ざかったのを見計らい、気絶したふりをしていた三人はゆっくりと立ち上がった。

 

「ふぅ。どうにかバレなかったな」

「いやぁ、どうでしょう。男の方は感づいていた気がしますな」

「いえ、あれは絶対気づいております。我々が何者なのか気づいたから逃げたと思われますぞ」

「いやいや、それはないだろう。俺達は既に滅んでいるんだから」

 

三人はこの場所に居つく守護者だ。

正確に言えば、この場所の守護者として蘇らせられた生きる屍(リヴィングデッド)である。

 

見渡す限り膝元まで伸びている草しかない、国一つ分はあるのではないかと思うほどの広い草原。

・・・それもそのはず。ここは元々、一つの国があった場所で、とある種族が住まう土地だったのだから。

 

それは少し昔・・・二人の国が対立状態になる前の話。

三人はライト達へと告げた通り王国の王とその大臣、そして王に従える専属騎士である。

彼らは当時、四元素使い(エレメンタリスト)と呼ばれる一族だった。

魔術、幻術、呪術・・・巷に溢れる多種多様な術の中でも、四元素は異色と呼ばれていた術の一つである。

その性質によりありとあらゆるものを形成できる・・・所謂、錬金術の元祖といったものだった。

 

・・・だからこそ、四元素使い(エレメンタリスト)達はその命を狙われたのかもしれない。

彼らはどこからともなく現れた軍勢によって壊滅的被害を受けた。

突然の襲撃によって国民たちの殆どがなすすべもなく殺されていき、賊の手はとうとう王室まで及んだ。

戦乱のさなか必死に抵抗していた国王と大臣、専属騎士だったが、多種多様な種族でまとめ上げられた強靭な軍隊を前になすすべもなく、玉座にて致命傷を受け、そのまま捨て置かれていた。

―――だが、そんな死にぞこないの三人へと手が差し伸べられる。

 

「・・・何者、ですかな」

「おや、まだ生きていたのかい。随分と頑丈だね。そうだなぁ・・・アンダークと呼んでくれたらいいよ」

 

アンダークと名乗った女性は、心底驚いたような声で大臣へ語りかける。

彼女の姿は、黒い包帯のような一枚の布で局部と顔の右半分を隠しているといった、戦場には似つかわしくない姿だった。

だが、意識を失いかけている彼らがその姿をしっかりと確認することは出来ない。

 

「・・・謂れのない、悪態は・・・もう結構、ですぞ」

「ああ、さっきの。あれは悪態なんかじゃない、健闘をたたえているんだ。我々にここまで打撃を与えたのはあなたたちが初めてだからね」

 

腰に手を当て騎士を覗き込みながら、アンダークは優しく語り掛ける。

その表情は凡そ敵に向けるようなものではなく、まるで愛しい我が子を見つめているかのようだった。

 

「・・・目的は、なんだ? こんな屍に、話しかける・・・理由は?」

「あら意外、襲った理由について聞いてくるかと思ったのだけど」

「・・・それは、皆目、ついている。は、早く、言わないと・・・死、ぬぞ」

「それもそうね」

 

国王の言葉を聞いて、アンダークは姿勢と表情を正した。

そして、死にぞこないの三人組に要件をはっきりと告げる。

 

「ここをわたしの新しい安息地としたいんだけど、出かけている間に荒らされたりしたら嫌だから、生きる屍としてこの地の守護者になってくれないかな?」

「「「・・・はい?」」」

「もう少し詳しく、且つ端的に話そうか。わたしは所謂精霊のような者だ。だが今のわたしには、とある理由で安息地が無い。そこで、今にも滅亡寸前な者たちが住まうこの土地を、新たな安息地としようとしている。・・・理解したかな?」

 

アンダークの問いかけに対して、帰って来たのは長い沈黙。

先ほどまで首を上げる力が残っていた三人は、もはや声を出すことすら厳しい状況になっていた。

それでも、彼らが生きているとわかっているかのように、アンダークは三人の返事を待ち続けていた。

 

「・・・お」

「お?」

「お断り、です、な」

「・・・そうかい。なら、安らかにお休み」

 

憎々しげな笑みを浮かべたまま事切れた大臣へアンダークが息を吹きかけると、大臣の死体はまるで水のように形が崩れ、石造りの床に染み込み跡形もなく消えた。

 

「騎士さんは?」

「・・・語る、必要は、ない、です、ぞ」

「・・・そっか」

 

声も態度も・・・おそらく表情も、その一切を何一つ変えることなく事切れた騎士の兜を、アンダークは優しく撫でる。

その手が離れる頃には、騎士の姿は灰のように細かい粒子となって辺りへ散らばり、風に流されて何処かへと消えた。

 

「・・・相変わらず、ば、バカだな」

「きっと、あなたも彼らと同じよね」

 

アンダークはそう語りかけながら、視界から王が消えるように、右手包んだで左手を眼前へと持ってくる。

そして、小さな生き物を捕まえるかのように手で籠を作って・・・。

 

「・・・ククク」

「―――何か、おかしなことでも?」

「・・・いや、普通は、そう、だろうなと、お、思った、だけさ」

 

腑に落ちないような顔でアンダークが問いかけると、不敵な笑みを浮かべ、頭を上げた王は語る。

今しがたまで尽きかけていたその命に、最後の力を注ぐように。

 

「俺はその話に乗らせてもらう」

「・・・意外ね。二人は断ったのに貴方は残るなんて」

「いいや、二人も道連れだ」

「・・・・・・へぇ、案外意地が悪いのね」

「よく言われていたよ。それに・・・()()()()()()()()()()()()()だろう?」

「―――」

 

アンダークはしばらく返事を返すことができなかった。

それは、きっと言葉でも文字でも・・・そして表情でも表すことができない感情。

そんな感じたこともない感覚に戸惑いながらも、アンダークは笑う。

やり切ったと言わんばかりの表情で燃え尽きた、目の前の生き物は彼女の想像を超える言葉を吐いてくれた。

アンダークが差し出した手は、碌なものではない。

きっと彼女が飽きるまで、使いつぶされることだろう。

・・・それでも、その手を利用できる機会がきっと訪れるだろうと、王は誘いに乗ったのだ。

だから、彼女は畏敬を示し、王の耳元でささやいた。

 

「ならば、君たちは今からわたしの守護者だ。しかと聞き遂げよ―――」

 

その言葉の後に続けた術を聞いた者は居ない。

―――何故なら王たち四元素使い(エレメンタリスト)はこの瞬間、滅亡したのだから。

 

こうしてアンダークの謎の技によって、生きる屍(リヴィングデッド)と化した彼らが目を覚ますと、そこはもう国があった場所だと言うことすらできなかった。

石材で作られた道も、木の温もりを感じられた家々も、立派な砦や国の象徴であった四元素の城ですら、一切の痕跡すらも無くし、ただの草原と化していたのだから。

 

・・・結局、彼らはアンダークと再会することなくこの草原の中、長い月日を過ごしていくこととなる。

幾度の季節が変わり、幾度の時代が過ぎ―――そして、現在・・・自滅したふりをして二人を見送る場面に至ったのだ。

 

そんな彼らの話題となるのは勿論―――。

 

「それにしても、人間に会うなんていつ以来だ? 生前でも数度しかなかったぞ。いやぁ、やはり話に乗っていて正解だった!」

「だからと言って道化を演じる必要なんてなかったですぞ! 久しぶりの戦いを楽しませてもらってもいいでしょうに!」

「おぬしは浅はかなのだな。あの場で戦っても利益なんてないというのに」

「あ?」

「あ?」

「まあまあ、言い合いはそこまでだ。珍しいものも見れたのだから、いい事にしようじゃないか。な?」

 

険悪になりつつある騎士と大臣を宥めながら、王は話題を転換しようとしていた。

 

「それは先程の喧嘩・・・もとい手合いの事ですかな」

「ああ、あれは凄かった。二本の腕であそこまで戦えるのは正直に感嘆するよ」

「そんな事はないですぞ。王は彼らの事を買い被りすぎでしょう」

「おや、そうかい」

「あれほど悩みのある剣筋で、一体何を切ろうとしているのかさっぱりわからん。老婆心ながら、彼らに剣術というものを教えてやりたいと思いましたぞ。・・・じじいですがね」

「確かに、何か悩みがあるような感じではあったな。それも人生の根底深くまで侵食しているほどのものだと思える」

 

二人が王たちの目の前で行っていたあれこれはとても異質なものだったが、きっと人間の世界であっても異質なものではないかと王は考える。

まるで不安定な足場で二人三脚をしているかのような、そんなアンバランスさがどこからか滲み出しているように思えたのだ。

 

―――いつの間にか羽虫のはばたきのような音が聞こえてきた。

 

「悩みといえば、話し合いもだいぶ違和感があるものでしたな」

「ほう・・・というと?」

「いえ、相手の顔色ばかりうかがっている言葉を投げ合ってばかりでおかしなものだと。最近の若者はあんなよそよそしいものなのですかな? いえ、聞いていてイライラしてきましてな。全く、わしの若い頃は―――」

「お前さんの若いころもあんな感じだったぞ」

「は?」

「は?」

「言い合いするなって言ったばかりなのに・・・いい年して子供のような喧嘩をする方がよっぽどだと思うけどなぁ」

 

最終的に言い合いを始めた二人を見て溜息を吐く王だった。

そんな王の様子を見た家臣の二人は、突如言い争いを止めて王に向き直る。

 

―――はばたきの音は段々とこちらへと近づいているようだった。

 

「いえいえ、それは違いますぞ」

「ええ、それは間違いですな」

「・・・どうしてだ?」

「確かに場所によってはこのような喧嘩が稚拙に見えることもありますな」

「しかし、ここには我々三人しか居りませぬ。各々がやりたいようにやっても良いはずですぞ」

「・・・言われてみれば、一理ある」

「それでは・・・」

「思う存分・・・」

「・・・ご自由にどうぞ」

 

結局、なんだかんだで言い争いをしたかった言い訳じゃないかと言いたそうな表情をしながらも、王は家臣の口喧嘩を見て見ぬふりで聞き流すことにした。

 

―――その耳には、家臣の怒鳴り声に混じる形で羽音がどんどん近づいてきているように聞こえていた。

 

「おーい、喧嘩を止めろとは言わないが、一度中断してくれ。()をどうにかしなきゃいけないからな」

「え、相手するのですかな?」

「別に無視していいと思いますぞ?」

「・・・お前らなぁ」

「そもそもですが、()()は我々を狙っていると言うよりも、彼らの後をつけているように思えますな」

「正直なところ、隠れていた方が、この場にも我々にも危害が多少で済みそうに思えますぞ?」

「いいや、駄目だ」

 

どうやら二人は()()を無視する予定だったようだが、王はそれを拒む。

 

「そうも言っていられない事情がある。なにせあれは通るだけで死を齎す。勿論、この草原も例外じゃないだろうさ。ライト君が言っていたように、その場から動けない草以外の生命は既に居なくなっているわけだし」

「・・・守護者という名の下っ端は苦労しますな」

「・・・こんなことなら騎士の頃に戻りたいですぞ」

「そうも言ってはいられないさ。俺たちの足元に眠る同志たちをこれ以上苦しめたくはないだろう? 時にはその為に存在を賭ける必要もある・・・とにかく、いくぞ!」

「「御意。我が体は主人の為に!!」」

 

最終的に二人は折れ、先に立ち上がっていた王の前に立ち上がる。

草を踏み潰し轟音を上げる巨大な()()は、おおよそ三人の力で止めきれるものだとは思えない。

それでも三人は立ち塞がった。

それは契約を守るためにではなく、一度失ってしまった故郷を二度と失わないようにする反抗の意志だった。

 

 

―――彼らがどうなったのか、それを語る必要はないだろう。

彼らがそれに打ち勝ったのか、それとも()()が彼らを打ち滅ぼしたのか・・・。

その結果がどうあれ、誰であっても結末に是非を問えるものではない。

何者も存在しないこの場所で、緩やかな幸せを願っている彼ら・・・いつの日か命は朽ち果てるという事を身を以て経験した三人が、逃げも隠れもせずこの草原を守る為だけに戦った。

 

 

ただ、それだけの話なのだから。




今晩は。左之亜里須です。
この回でステータスの話はおしまいとなります。

タイトルとしてステータスの話と書きましたが、実は正式名称ではありません。
正確なタイトルは『ステータスとそれに伴う勝敗の話』。
なので戦闘や、それに近い描写が多い話となりました。

ステータス・・・個人能力は、その名の通り誰しもが持ち、同一なものなんて存在しないものです。
優劣や好き嫌い、理解できるものと理解できないもの。
各々がもつそれを肯定することはいいことですが、否定することはよろしくありません。
人には人の能力、個性、感性があるのです。
それを否定する人は、自分の能力、個性、感性を否定しているのと何ら変わらないと私は思っています。

そして、優劣こそ存在しても、それに伴った勝敗なんて存在しません。
これがあるから勝ち、それがあるから負け・・・なんて、一体誰が決めるのでしょうか?

『結果こそがすべて』なんて言葉がありますが、私は『その結果を得る為の努力と反省こそがすべて』だと思っています。
得られた結果に喜ぶだけでは、その場限りの高揚感に浸るだけ。
それは、ほんの一時的にしか自分を満たせないのです。

結果が得られた要因とそれからどうするか考えることによって、多くの事を学ぶことができ、また次の機会に生かすことができる。
それは結果の正誤に関係なく、己を成長させてくれる。
私はそう思っています。

読者様はどう思うでしょうか?
この作品を読んで少しでも考えていただけたら幸いです。

次回もまた見て頂いたら嬉しいです。

それでは、より良い日々を・・・。









彼ら三人の話もいつか書いてみてもいいかもしれませんね。
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