Wrap up the lord of knight   作:影斗朔

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信念の話(上)

オレは他人から見たら強欲で、我儘で、器が小さく、騎士であることがおかしいと思われているらしい

それは間違っちゃいねぇ

乱雑に跳ね回っている灰色の髪に切れ長なオレンジの瞳

不健康そうな白い肌

同僚からもう少しどうにかならないのかと言われるほど、騎士としては致命的である不愛想な表情

馬鹿野郎で、欲しいものがあったらどうにかして手に入れようとする欲張りだし、気にいらないことがあったらすぐにキレる

それがオレの基本ステータス

 

そんななりなのに、なぜ騎士になれたのか?

そんなの知らねぇよ、むしろオレが聞きたい

騎士であることに一番の疑問を持っているのは、何を隠そうこのオレだ

オレが自慢できることなんて射撃の腕と、喧嘩して負けた例がないことぐらいだ

それでも我が主様はオレの志を買ったらしい

オレの志なんて、誰しもが持つであろう、譲れないモノであるだろうに、本当に変わったヤツだ

 

・・・変わったヤツと言ったら、主様の側近である二人の騎士・・・現在のオレの同僚がまず最初に思い浮かぶ

あいつらはいつもべたべた引っ付いているところしか見たことが無い

だが、大変優れた騎士らしく、オレがマジで襲い掛かっても、まだ、全く歯が立たないだろうと主様が言っていた

そして、奇しくもオレの正体を見破り、戦いによって打ち負かされ、オレの意志を再確認させてくれやがったあの二人

オレが言うのもあれだが、あいつらは結構変な装備をしていた

だが、あいつらがいなかったら今頃オレはどうなっていたかわからねぇ

 

・・・そうだな、今日はあいつらの話をするか

「おいじじい、今日はなかなか面白い話をしてやるよ、だから今から話すやつらに勝てるぐらいに銃とこいつを整備してくれよ!」

 

 

                       ・

 

 

「・・・ここは蒸し暑いな」

「まぁ、仕方がないさ。何せ世界を代表する蒸気機関の国だ。これが普通なんだろ」

(きっとゴツイ鎧のせいで中はもっと暑いんだろうな)

額に汗をにじませながらライトはそう思う

心なしか隣を歩く巨大甲冑、バリューの足取りが重く見えた

 

先ほどライトが言っていた通り、ここは蒸気機関の国クラッドレイン・ホームである

実はこの国、他の国とは違う部分が多々ある

 

一つ目は蒸気機関の国と呼ばれる所以でもある、その国の造りである

そもそも、この付近の環境は雨が少なく、雲もほとんど出ない為、乾燥している場所が多い

さらにこの国は北の方に位置しているため比較的寒い

そのため、人々は湿度と熱を常日頃に求めていた

そんな時、ある画期的なアイディアが出される

それが、蒸気機関だった

蒸気は人々が求める湿度と熱を与えてくれると同時に、様々な役に立つ代物であった

また、北国であること、雨が少ないこと、湿度がほとんどないことという環境が整っていたことが幸いし、鉄などの貴金属が風化しづらいことが追い風となった

こうして、様々な蒸気機関が作られ、今では技術がもっとも発達した国とも呼ばれるようになった

 

二つ目は国の造りである

クラッドレインは他の大きな国でよく見られるように、場所によって区画分けされているのではなく、五つの国が合併したような造りとなっていた

その原因は、様々な蒸気機関が作られるうちに、他国からの移住者が自国民よりも大幅に増えたことが大きい

多種多様な国の人物が集まることにより、必然的に争い事が多くなる

そのため、それを解決する手段のひとつとして、移住者の住んでいた地方ごとに国を定義し、そこに居住させているのだ

 

 

ライト達がいるクラッドレイン・ホームは国の西側にあり、入口にあたる部分である

ここでは比較的旅人たちが多く、南国出身の人々たちが暮らしている

人口密度も高いため、いろいろな意味で最も熱い場所である

 

国の北はクラッドレイン・ワークスと呼ばれ、様々な蒸気機関を作り出している職人たちの工場地帯を主とした職人たちの国である

また、国のはずれには西方系の人々が暮らしている

ホームと比べると寒い気候だが、それでも常日頃に工場地帯の蒸気機関が動いているため、ある程度の快適さがある

 

国の東はクラッドレイン・マグネと呼ばれる鉱物資源を掘削、加工する採掘地帯である

採掘地帯に面していない西の地区は、東方系の人々の住まいとなっており、比較的暖かい

しかし、採掘所は北や西よりも寒く、環境もそこまでよくない

新たな資源を見つけ出したものには、中央国から多大な義援金と報酬を受け取れるため、ロマンを追い求める人たちで溢れている

 

南にある国、クラッドレイン・カッパーはほとんどの人がその名を出すことすら無い見捨てられた国

風化した金属が乱雑に積み上げられたような建物に、ほとんど機能していない蒸気機関、雨や雪が降る最悪な気候に、他のどの地域よりも低い気温が特徴で、咎人や罪人、無法者によっぽどの物好きしか立ち寄らない草臥れた場所である

 

そして、中央にあたるクラッドレイン・ハーツ

クラッドレインにもともと住んでいた北方の者は、ほぼ全員ここに居住している

その中心部には枢機者が住まう巨大な蒸気機関城が聳え立ち、その城から、人々が快適に暮らせるよう調整された蒸気が常に放出されている

また、交通機関も発達しており、機関車や蒸気人形など、人々の暮らしに大いに貢献しているものが沢山ある、まさに『蒸気機質な楽園』と呼ぶにふさわしい場所である

しかし、立ち入りが厳しく制限されており、ハーツに住む者か、枢機者に許可をもらった者しか出入りできない

 

 

このような他の国とは異なった環境で、この国が栄えることができたのは、この国の枢機者であるクラッドレイン一家の努力があったからこそである

クラッドレイン一家は、国を一から作り直した

様々な壁にぶつかりつつも、持ち前の知恵とカリスマ性で人々の信頼を得て、ここまで巨大な国を作り上げたのだ

 

そのクラッドレイン一家も今では老いによりほとんどの人々が亡くなっており、残った子孫にあたる者達もほぼ全員が、様々な理由で旅に出てしまっていた

残された一人、レプリカ・クラッドレインはまだ二十代半ばであったが、初代クラッドレイン一家の血を根強く引き継いでおり、自分一人だけでもこの国をさらに大きくしていこうとするほどの野心家であった

観光業や五国同一給金制、蒸気機関のさらなる応用法などを考え付き、それをすぐさま実行していく

それだけではない、レプリカはそれらを全て成功させるまで諦めないという努力家であり、それをこなすことができる才能を持ち合わせていた

こうして、今、未来に不安が残るものの、レプリカの野心によって、国は最も栄えている状況にあるのだ

 

 

「・・・レプリカ・クラッドレインは同じ性別の者として、他国民ではあるが誇りに思う」

「え、そうだったのか」

ライトはレプリカを男だと思っていたらしく驚いていたが、レプリカは女である

国の有権者は大半が男性である点、この国では枢機者が女性である部分も他の国にしては珍しい事案だったりする

 

さて、金もほとんど持たないライト達がなぜこんな観光地に来たのかというと、地形の問題があったからだ

 

クラッドレインは山脈に囲われている土地である

特に南西部分に至っては道が整備されておらず、冒険者たちから危険視されている原生生物が多く住まう険しい所であった

ライト達が目指す場所はここより少し南下しなければならず、整備されていない危険生物が住まう山をわざわざ通ることだけは避けたかった

そのため、少し遠回りになるが、クラッドレイン国内から南へと抜けるという妥協案をとることになった

南は無法地帯となっているらしいが、ライト達にとって、戦闘になったら原生生物の方が恐ろしい存在であるため、しぶしぶこの道を選んだのだ

 

だが、国を通るにしても問題があった

実はこの国には『十忠』の一人であろう人物がいるとライトは確信していた

(他の国でこの国よりも熱量がある国はないはずだ、ということは、炎を扱う者でない限り、恐らく『炎熱のガルーダ』と呼ばれる人物がこの国にいる、杞憂だったらいいが、そうでない確率の方が高い以上、あまり目立った行動をして相手の目に留まるわけにはいかない・・・!)

 

そう、世間的に『十忠』のうち、死んだはずである二人、誠実と不屈が生きていると悟られてしまうと、わざわざライト達の身を案じて偽りの情報を提出した主たちに迷惑がかかる

他の『十忠』がライト達の存在を把握しているかもしれないのだ

自分達の身の振り方をわきまえるよう、早々に相方に伝えるため、ライトは一旦思考するのを止め、バリューに声をかける

 

「思っていたより広いな・・・とりあえず今晩の宿を探すぞバ・・・っておい」

バリューはいつの間にか離れた屋台で蒸気機関の小物にじっくりと見入っていた

その目の前にいた商人はあれこれバリューに説明しているらしく、時折バリューが頷く

(こりゃあ駄目だ・・・バリューはああいった状態になると絶対に買うまで離れたがらないからなあ・・・)

ライトはその場でガックリとうなだれつつ、相方をとにかくこの誘惑だらけの市場から連れ出し、目立った行動をとらせないようにするため、商人の元へと向かった

 

 

その頃、カッパー北区域では・・・

 

 

「へへっ、今日も一儲けしたぜ・・・!」

とある男が金貨袋を見てほくそ笑む

男は旅人や無知な住民を「ハーツへとたどり着ける裏道を知っている」と騙し、南口へと案内するとともに武器を突き付け拘束し、金を奪う極悪人であった

だが、カッパーではそれが日常的な風景であり、行き過ぎた奴らは臓器売買や殺人家業すらやっているのだ

そんな彼らが手に入れた金の大半は酒、煙草、風俗にドラッグへと消える

被害者は自らが多大な被害を受けることとなっても、その無念を晴らすことが一切できない

と、いうのも、カッパーは何が起きても自己責任で対処しなければならないという掟が作られてしまっているのだ

騙されて侵入されたら最後、己の全てをむしり取られて炉端へ捨てられる覚悟をしないといけない場所、それがクラッドレインの暗部とも呼ばれるカッパーの全てだった

「今日はカナちゃんにしようかなぁ・・・ぐへへぇ・・・」

男はどうやら風俗に通っているらしい、顔がだらしなくニヤけている

この時、男がもっと注意深く行動していたならば、きっと風俗で楽しめていたのだろうが、それは儚い夢とかした

 

突如、男の右足に風穴があいた

 

「ぐっ⁉ぐああああああああ‼」

大声をあげてその場にうずくまる男に人が集まる

それは心配して駆けつけたわけではなく、男の収穫物を奪う者や男の臓器を奪う者、そして、男の命を奪う者達だった

「く、来るな・・・!」

必死の抵抗も空しく、悲痛な叫び声をあげながら男は引きづられていった

 

 

「ノルマ達成っと、いやー今回も楽勝だった」

大型ライフルから手を放し、ふぅ、と一息つく

あれぐらいのヤツなんてオレの足元にも及ばねぇ

だぁーっ!と声をあげて仰向けに倒れる

それにしてもここはいつも曇ってて心機臭ぇな、たまには晴れてくれてもいいんだけどなぁ・・・

と、誰に言うわけでもないが愚痴ってみる

 

オレは枢機者、レプリカ・クラッドレインに従える騎士である

・・・といっても、正直騎士と呼べるのか分からねぇんだがな

 

元々、オレの生まれは知らねぇが、気付いたらここ、カッパーに捨てられていた捨て子だった

この狂っている環境で生きていくため、必然的に様々な知恵と戦闘技術を覚えた、特に銃器の扱いが得意で、それを使って盗みや脅しに使ったりした

だが、銃で人を殺すことはしなかった、死体の事後処理が面倒だったことや、恨みを買われるわけにもいかなかったためだ

 

そんなある日、オレは仕事に失敗し、その仕事を寄越してきた野郎共から半殺しの目に遭っていた

その時現れたのが枢機者レプリカ・クラッドレインとそのお供である二人の騎士だった、あいつらはオレを襲っていた野郎共をいとも容易く一蹴し、オレを救い出した

そして、ボロボロのオレに枢機者は近づき、じろじろと体を見渡した後こう告げた

 

「うん、合格だよ灰髪君、君はわたしの元で三人目の専属騎士になってもらおう」

 

「・・・はぁ?」

「貴様・・・!この方を誰だと・・・!」

「まあまあ、落ち着け」

オレの態度が気にいらなかったのか、長い茶髪の騎士が罵声を浴びせるが、白髪の騎士がそれをあやし、二人の行動を無視して枢機者は言葉を連ねる

てか、灰髪君ってなんだよ、オレの髪の事かよ

 

「君にはこの二人に負けない実力と志を持ってる、それだけで十分な理由となりえるのさ」

その言葉の真意が何だったのか、今でも分からねぇ

 

「そう言えば名前を聞いてなかったね、灰髪君」

「・・・ブロウ、ブロウ・ガルディンだ」

「ブロウか、カッコイイ名前じゃないか、ではこれから頼むよ、ブロウ」

 

こうして、オレは反対する暇なく騎士となった

出生地不明、出身地がスラム、騎士とは呼べないような自分勝手な思考と、銃撃が得意で基本は遠距離という戦い方で、明らかに騎士とは呼べそうもないが、それでも騎士として配属させられたのだから仕方がねぇだろ?

 

そんなオレの仕事は単純明快、カッパーの行き過ぎた犯罪行為を粛正することだ

無法地帯であるカッパーだが、そんな場所にだって暗黙の了解がある

それを破る者や、他国民を巻き込む者には、どのような手段を用いても構わないから必ず粛正すること、それがオレの任だ

ターゲットの行動を調べ、先回りし、遠距離の高所で狙撃することでターゲットを行動不能にする、そしたらたいていターゲットに恨みを持つ誰かしらが連れ去ってくれるから、正直、超楽な仕事だ

最近はカッパーでナイフによる大量殺戮が度々発生しており、ピリピリと張り詰めた空気が漂っているため少し動きづらい

てか、大量殺戮したやつ誰だよ!めんどくせぇマネしやがって!出てきたらさっさとぶっ殺してやる!

 

とはいえ、護衛も騎士の仕事の一つであるから、護衛戦闘も学ばなくてはならず、毎日のようにお供の騎士二人と手合わせをして一方的にやられる

茶髪はオレの事をまだまだ実力不足と罵るが、白髪はオレの事を飲み込みが速くてできるヤツと褒める、別にどちらも嫌ではないが、どちらかにしてほしいものだっての

 

そうしているうちに俺に二つ名が付いていた

蒸気機関を用いた高性能の自作銃を扱い、高所からの狙いすました一撃で確実に相手を仕留める、そういったところから来たらしい

「あ、そう、それのことだけど、二つ名付けたし、どうせならと思って『十忠』のメンバーに登録しちゃった、てへぺろ」

「てへぺろ、じゃねぇ!『十忠』ってなんだよ!てか、二つ名付けたのアンタか!」

まあまあ、そう怒らなくてもいいじゃん、名誉だよ名誉!

と主様は言ってはいたが、名誉なんてオレは興味ねーし・・・

結局、またもや主様によって勝手に二つ名『炎熱のガルーダ』を名乗ることとなった

 

 

そうして、今に至るような感じだ

まあ、二つ名をつけられようが、今までの任務、ノルマは変わらないっつー事が拍子抜けではあったが楽でいいや

 

それで、だ・・・

 

「・・・アンタら何者だ?」

「おや、気付いていましたか」

たりめーだろ、この場所で、酒が飲めるぐらいの年まで生き残ってんだぜ?

頭の中で相手に愚痴っていたら、瓦礫の陰から二人の男が出てきた

 

一人は赤いスーツ姿で眼鏡をかけている男性

もう一人は右目に眼帯を、右手に携えた松葉杖を支えにしている、体の全てが半分欠けた、前髪の長い男性だった

見た感じ戦いに向いてなさそうだが、人は見た目じゃ判断できねぇし、一応近距離戦闘用の銃剣を出せるようにしとくか・・・

 

「わたくし共は旅人でして、彼の欠けた体の代用になりそうなモノを探して旅をしているのですよ、今の所いい代用品に巡り合えず、困り果てている状態でして・・・」

「・・・」

スーツの男はやけに饒舌だったが、半欠け男はさっきから全く喋らない

気味の悪い奴らだ

「・・・へー、それで、たまたまこの建物の屋上に寄り、銃を構えているオレを見つけ、わざわざ観察していたのか?」

「・・・これは驚いた、やはりここの人たちは中々骨がある人たちが多いみたいですね」

「・・・?どういう意味だ?」

「いえいえ、お気になさらず」

 

「・・・あれ、欲しい」

急に欠け男がオレを指さした

 

「・・・はぁ?オレは物じゃねぇぞ!」

「いやぁ急にすみませんね・・・」

 

やはりうさん臭ぇな、この辺りじゃ見たことない奴らだし、こいつら、もしや・・・

 

 

「漸く、彼が欲しいと言ってくれたので、代用品を頂くことができますよ」

 

 

・・・っ!

赤スーツの右手から、保護色となっていた真っ赤なナイフが伸びた

急いで回避行動をとったお陰で、ギリギリ左肩口を掠める程度で済んだが、今のは明らかにオレの左腕を切断しようとしていた

「くそ!アンタら、やっぱり大量殺戮の・・・!」

「ええそうですよ、わたくし共にとって非常に邪魔な方々でしたし、強者を呼び寄せる餌となってもらいました」

「だから、代用になりそうな者を探していたんだな!」

「ええ、その通りでございますよ『炎熱のガルーダ』さん」

「・・・ちっ!身元まで知ってやがったか!」

「それはそうですよ、産地が分からない低品質な物よりも、高級産地の新鮮な物の方が誰だっていいでしょう?」

「人の体を物扱いしやがって・・・!」

「どうせ今から彼の所有物になるので、いいでしょう?」

涼しい顔でオレにナイフを振るいつつ、赤スーツは語る

恐らくこいつらは最初から俺を狙ってここに来やがったな!

明らかに欠け男が持っていない部位を狙ってやがる・・・!

だが、これは好都合だ・・・!

 

「・・・だが、まあいい!この国の暗黙の了解を、大量殺戮という形で破ったアンタらをオレの手で粛正させてもらうぜ!」

赤スーツの動きはまるで蛇のようにしなやかで、相手を追い詰めることに対しては満点と言える動きをしていた

しかし、攻めに特化しすぎている

だったら・・・!

 

赤スーツの足を払う

 

「!」

 

獲物を狙う強者は弱者が反撃するとは微塵にも思わねぇよな!

だから、体勢を崩されたら守りがほぼ無い!

銃剣を取り出し、スーツの胸に突き立て引き金を引く

 

 

ズドン‼

 

 

辺りに硝煙と血の匂いが充満する

骨と肉を散らばせながら、胸に風穴を開けてスーツの男は倒れた

 

「・・・さて、欠け男、次はアンタだ、鉛玉と死をプレゼントしてやるよ!」

返り血を浴びつつも、欠け男に不敵な笑みを浮かべてやる

明らかに戦えないであろう見た目だが、用心に越したことはないし、そもそも、平穏を破ったものに望みなど与えられていいものではない

オレは勝ちを確信して引き金を引いた

 

 

だが、勝ちを確信するにはまだ早かった

 

 

「・・・要らない」

 

 

欠け男はそう呟いただけだった

それだけで、弾丸は欠け男に当たる前に弾かれた

 

 

「なっ・・・⁉」

平然とその場に佇み、欠け男は誇らしげな目でオレを見る

「何者だ、お前・・・!」

 

 

再度弾丸を数発撃ちこむも、全て欠け男に届く前に弾かれていく

欠け男は笑みを顔に張り付け、そのまま少しずつ俺に近づいてきた

「くそっ!銃弾が効かないなら、直接剣で・・・!」

「・・・それも要らない」

銃剣を突き立てたが、あっけなく弾かれた

 

「・・・おしまい?」

 

「残 念 で し た ぁ !」

 

オレがここで最初に学んだ事は逃走すること、そして、体術だ

完全に油断しきっている欠け男へ放った渾身の回し蹴りは体の芯を捉え、欠け男を遠くへと吹き飛ばす

そして、スーツのナイフを拾い上げて駈け出す

 

この時、オレは逃げておくべきだった、だが、オレのプライドがそれを許さなかった

それが仇となった

 

欠け男に馬乗りになって勝ちを確信したオレはそのままナイフを突き立て・・・

 

 

「・・・うん、左腕を頂くよ」

 

 

何が起こったのか分からなかった

ただ、欠け男がそう言った途端何かが起きて、オレは遠くへと吹き飛ばされた

 

 

左腕を無理矢理引きちぎられて

 

 

「う、ぐあああああ!くそおおっ!」

痛い!痛い!何だこれは!

そして、倒れたまま痛みに呻くオレは信じられないものを見る

 

 

「お、お前っ・・・!その腕!」

「うん、ありがたく頂戴しました」

 

 

欠け男に左腕が生えていた

・・・いや、オレから奪ったんだろう

なぜか、たどたどしかった喋りも先ほどよりスムーズになっていた

「やっぱり両手があるのはいいね、足と目も欲しいけど、それはわがままだし、同じ物じゃつまらないもんね」

動きを確認するように動かしている左腕を見ながら、欠け男がオレに向けて言う

ふざけんな・・・ふざけんなよ・・・!

 

「オレの、腕を、返せ・・・!」

「・・・凄いね、腕をなくしてもまだ戦う意思を持っているなんて、正直ビックリだよ」

立ち上がったオレを見て心底驚いているようだが、その顔には余裕の表情があった

まあそうだろうな、敵が片腕しかなかったらオレだってその表情をしてただろうさ、現にさっきまでその表情だったからな

だが、誰も銃が一つしかないとは言ってない

オレは早撃ちもできる

最近になって手に入れた技だが、精度は高い

 

「・・・じゃあ、死ね」

 

隠し持っていた銃を瞬時に向け、引き金を引いた

避ける暇も喋る暇もない完璧なタイミング

 

 

それすらもあっけなく無駄になった

真紅のナイフが銃弾をはじいたのだ

 

 

「・・・いやいや、お待たせしてすみませんね」

「ば、馬鹿な!」

 

そう、胸に風穴を開けたまま、死んだはずのスーツが邪魔をしたのだ

 

「起きるのが遅いよ、ゾウ」

「これは失敬、死んだふりをするのに慣れていないものでして・・・、それにしてもお見事左腕を手に入れたのですね、アント」

赤スーツはゾウ、欠け男はアントという名らしい

・・・くそ、出血のせいか、うまく頭が働かねぇ

一体、どうなってやがる・・・

 

「うーん、どうせだし、歩きにくいから右足も頂くよ」

 

 

右足が引きちぎられた

 

 

「がああああああああああああっ‼」

痛みが体を再度襲い、その場に崩れ落ちる

くそ・・・痛みのせいでうまく息ができねぇ・・・

 

「いやぁ、無様ですねぇ、滑稽ですねぇ」

「それでもまだ生きてるからしぶといよね、お陰で本当に強い手足が手に入ったけど」

「はあ、はあっ!く、そ・・・」

もはや動くこともうまくしゃべることもできない

まるで先ほどとは立場が逆だ

 

「先ほどの恨みがありますので、散々いたぶったのち、殺しても構いませんよね?」

「うん、いいよ」

「では、さっそく・・・」

「ちく、しょう・・・」

 

真紅のナイフでじわりじわりと痛めつけられながら、朦朧となりつつある意識でつまらなさげに思う

あぁ、これがオレの終わりか・・・

下らない人生だった

結局、騎士になっても何もいいことが無かった

得たかった幸せを一切感じなかった

・・・だがまあ、終わるものに未練を残した所で碌なことが無い

オレは諦めて死に身を委ねた

 

 

薄れゆく意識の中、誰かに抱えられたような気がした・・・

 

 

 

そして、一夜が明けた昼頃・・・

 

 

「・・・バリュー、俺に言っておくことはないか?」

「・・・済まない、こんなことになるとは私も思わなかったんだ。私のことは好きにしてくれ」

「そんな事が出来たら、とっくの昔にお前の元から逃げ出してるさ」

「ライト・・・」

 

 

ライト達は、法律違反の悪人として捕まっていた

 

なりゆきは単純明快である

暑さに耐えきれなくなったバリューは、商人に、暑さを和らげるものはないか聞いたところ、とある蒸気機関を進められた

それは、熱を冷気に、冷気を熱に変えられる優れものらしく、バリューはすぐに食いついた

ライトはどうにか購入を諦めさせるように説得するも、バリューの購買欲の前にあえなく失敗、少ない貯金を使って購入する

そもそも、その大きな鎧を脱げば全く問題がないのだが、どうしても他人に素顔を見られたくないらしく、一人ぼっちか二人きりの時以外は一切脱ごうとしないのが謎である

購入した後、さっそくバリューはその蒸気機関を起動させる

 

ここで、前もって言っておこう、バリューは人工的な技術の扱いが非常に荒い、元々森暮らしであったことから、原始的な技術ぐらいしかうまく扱えないのだ

そして、ライトはそのことを知らなかった、つい最近までバリューの正体が分からなかったから当然であったのだが、バリューが蒸気機関を扱うことに不安があったので、この時点でライトが蒸気機関を起動させるべきだったのだ

そして、商人も人が悪く、その蒸気機関は本来、室内で使う物だった

 

結果は当たり前の事態になった

蒸気機関は周囲の大量な熱に反応、それによって異常冷却を行おうとするも、冷気を作り出す動きが蒸気機関に熱暴走を誘発させ、一時的に周囲を超高温状態にした

死者は出なかったものの、熱によって意識を失う者が多発、蒸気機関を起動させたバリューはもちろん、すぐ隣にいたライトもその高温で一瞬にして意識を失う

そして、気が付いたら牢獄の中であった

 

こうして、現在に至る

 

「いや、正直、バリューがそこまで差し迫った状態だとは思わなかったんだ・・・。気付いてやれなかった俺の責任だ・・・」

「そんなことはない!私がもう少し我慢をできていれば・・・」

「はいはい、過去の事を悔いてもしょうがないでしょ?さっさと罪を認めようねー」

「「(・・・ちっ)すみませんでした・・・」」

正直、二人が今できる事と言ったら、無知な旅人を装って・・・いや、実際無知が引き起こした事故なのだけれども、憲兵たちに許しを請うことだけだった

だからこうして情状酌量を狙ったみたいだが、あえなく失敗したようだ

 

「まあ、我々も鬼ではない、永久国外追放はしないが、三日間カッパーに滞在してもらうことにしよう」

周囲の憲兵から笑いが起きた

 

「え?いいんですか?」

「え?いいのか?」

 

どうやらまあまあ重い刑らしいが、二人の目的地はそこであるため何の問題もない

しかし、そんなことを言ってしまったため、憲兵は勘違いする

「・・・きさまら、あそこの出身だったか!刑を訂正する!一週間の留置の後、拘束具を装着してカッパー深部で釈放とする!もちろん、永久国外追放付きだ!」

「ち、ちょっと、俺たちは旅人だって言ってるじゃ・・・」

「旅人を装ったカッパーからのテロリストだろうが!二度とその汚らしい口で弁解しようと思うな!二言はないぞ!」

 

こうして、二人はさらに勘違いされ、一週間たった後に、拘束具を取り付けられつつも、カッパーの深部と呼ばれる危険地帯に置いて行かれることとなった

そしてなぜか武器は回収されなかった、大体の理由は分からなくはないが・・・

「・・・ねえ、ライト」

「どうした?」

「旅ってこんなに大変なんだね」

「安心しろ、俺もここまで大変だとは思ってなかった」

 

二人は毎回不遇な目に遭ってる気がしてきた

 

 

 

二人の刑が重くなった頃・・・

 

「・・・おう、死にかけた気分はどうだい、騎士さんよ」

「・・・ここ、は?」

「ここか?ワシの秘密基地じゃよ」

「ひ、みつ・・・?」

「さて、今日のおしゃべりはここまでじゃ、はよ寝ろ」

 

・・・

・・・・・・?

・・・・・・・・・オレは、生きてる・・・のか?

 

「・・・ん」

「・・・おう、起きたか、一日で意識をしっかり取り戻せた奴は初めて見たぞ」

「・・・ここは?」

「年寄りかおぬしは・・・ここはワシの秘密・・・」

「詳しい場所を教えろって言って・・・っ!」

跳ね起きようと、左腕を・・・つけなかった

代わりに痛みが体を襲う

「まあ落ち着け、ここはおぬしが務めているハーツ付近にある、ギリギリ、カッパー区域の地下施設じゃ、因みにわしが作った」

「・・・あれから何があった?」

「二人組の男に嬲られていた死にかけのおぬしを、蒸気機関を用いてどうにか助けてここまで逃げてきただけじゃよ、これもわしが作った」

そう言って自慢げに手に持っているボールのようなものと、やけに重そうなブーツを見せびらかし、ニヤリと笑うじじい

・・・うぜぇ

 

 

「それと、今おぬしの傷口を塞いでいるのもわしの発明品じゃよ」

 

 

そう言えば・・・と思い、腕と足を見る

やはりそこにはあるはずの左腕と右足が無く、代わりに鉄板のような物が取り付けられていた

「・・・ちくしょう・・・次会ったらただじゃ・・・」

 

・・・あれ?

体に力が入らねぇ・・・

それどころか、やけに寒い・・・

上手く呼吸もできない・・・

そういや、じじいは傷口を塞いだとしか言ってねぇな・・・

 

なんだ・・・結局死ぬのか・・・

 

「・・・そろそろ生命活動が限界の状態じゃろうな、だが、そんなおぬしに、一つ提案がある」

「・・・提案?」

「わしはとある技術の持ち主じゃ、詳しくは言えんが、おぬしの命を救うこともできなくはない」

なんだよ、それ・・・

それじゃ、さっさと救ってくれてもいいだろうが・・・!

「さっさと救えとでも言いたそうな顔だが、その度に、わしは毎回、術を施す相手に問いかけているんじゃよ」

「問、かけ・・・?」

「一つ、この術を施す相手は死んだほうがましだと思うほどの苦痛を受ける、実際、苦痛に耐えきれず自殺した者もいる」

「・・・」

「二つ、術を施した相手は生物とは言いにくい存在となる、これはわしの口からは言えん」

「・・・?」

「そして、成功するかは五分五分の確立じゃ、失敗したらもちろん死が訪れる」

じじいから訳の分からん問いかけをされるが、知ったことか

そもそも、やったところで無駄な術である、オレはもう生きることを諦めた

 

・・・だが、なんだ?

このもやもやとした感情は・・・?

そして、先ほどのおどけた表情とは打って変わって、覚悟の表情をしているじじいにオレは疑問を覚えた

 

「・・・どうして、オレを、助けようと、した?」

「そんなもん決まっとるじゃろ?おぬしがこの地の出身なのは知っとる、そして、生きることを諦める顔をするような人生を過ごしていたんじゃろ?そんなつまらん人生しか歩んどらん若者を、わしは見殺しにしたくないんじゃよ」

何かを決断したような、そんなじじいの声

オレは・・・

 

・・・そうか、このもやもや感情は、オレの我儘か

死ぬ前に、あいつらに一矢・・・いや、オレの手足を奪ったことを、死んだ方がましだと思うほどに後悔させてやる・・・!

 

不意に笑みが口元に浮かんだ

 

「・・・いいぜ、賭けて、みよう、じゃねぇか!その、術に!」

「言ったのう!言ったからには最後まで耐えてみせい!見事成功したら何でもやってやるぞ!」

「・・・言ったな!覚えとけよ、じじい!」

 

 

こうして、オレは生まれ変わった

主の命を守る騎士(ナイト)から、復讐の怨嗟に燃える殺戮者(ジェノサイダー)に

 

 

                        ・

 

 

「なんじゃ、出会った頃の話と、知り合った二人組の話か」

「まぁそうせかすなよ、ここからが本番だってーの」

「しかし、術を施してやったのに考えていたことは復讐か?救ってやったのにつまらんことしか考えとらんのう・・・」

「うっせぇ!若気の至りだ、若気の至り!」

「言葉の意味を分かっていっておるのか・・・?まあいい、その続きとやらが面白いのであろう?今のままじゃ、銃の整備しかやってやらんぞ?」

オレをちらりと左目で見るも、興味なさそうに銃の整備へと没頭する

そんなじじいに、オレは意味深な感じで告げてやる

 

「あぁ、こっからが本番だぜ・・・!」

 

 

左儀腕の蒸気機関が溜息をつくかのように、蒸気を噴き出した

 

 




ご無沙汰しています、左之亜里須です。

相変わらず拙い部分が多々あったかと思いますが、ここまで読んでくださってありがとうございます。

今回は二部構成予定で書いています。(三部になる可能性もあります(-_-;))

自分が嫌なことをされたら、他人に嫌なことをする。
誰だって復讐心を持つと思います。

しかし、その復讐によって得られるものは何でしょうか?

相手の困った顔を見て優越感に浸れる?
ストレスがスカッと解消する?

それは、自分が得たかった幸せとなりえるのか?

読者様はどう考えられますか?
その答えがこの物語で見つけられたら幸いです。


次回作もまた見て頂いたら嬉しいです。


それでは、より良い日々を・・・







更新大分遅れてしまって申し訳ない・・・
少しリアルが忙し(ry
また、出したはいいものの完結しないという・・・ね・・・
申し訳ないです(´;ω;`)
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