Wrap up the lord of knight 作:影斗朔
ここに戻ってくるのがやけに久し振りに感じる
「まだ、一週間も経っとらんのに、もう行くのか」
とじじいから言われたが、知ったこっちゃねぇな
オレは早くあいつらを見つけて手足の復讐をしなけりゃいけないんでね
術後、オレは比較的早く意識を取り戻し、新しい手足に驚いたものの、問題なく動くことが分かってすぐさま地上へと戻ろうとした
だが、左腕と右足の蒸気機関に体がついていかず、馴染むまで七日ほどかかった
じじいがオレの体に術を施すとは言っていたが、まさか、手足の代わりに蒸気機関を引っ付ける術だとは流石に考えていなかった
術というよりかは、じじいから俺専用の義腕義足を貰ったと言った方が正しく感じるが、手足の切断面にあたる部分は、金属の板が引っ付いた状態から、完全に機械化されているような感じになっていたことから、明らかに義腕義足として扱う物ではない蒸気機関を、無理矢理体に引っ付けている感じなのだろう
左腕はやけにデカくて、バランスが取り辛ぇし、右足は重くて動かしにくい
また、常に熱い蒸気を体に浴びるのは流石に堪えにくいものであったが、それに見合う操作性と兵装は満足し足りない程だった
(じじいには感謝してるが、オレを長い間匿い続けるわけにもいかねぇだろうし、奴らを野放しにしておくわけにもいかねぇからな。オレがいなかった間、深部がどうなっていたかも気になる。どうにか新しい手足にも馴染めたことだし、少し、飛ばしてみっか・・・!)
右足に力を溜めた
すると、右足から噴き出していた蒸気が徐々に足内へと留まっていく
感覚的にだが、徐々に足の中へ熱が溜まっていくのが分かる
そして、ある程度溜まったところで、足から蒸気を一気に噴出する
こうすることで、高速で移動、ある程度の高度まで跳躍するほどの勢いが得られるのだ
深部へと向かうため、跳躍を繰り返しているうちに、ふと思う
今のオレは人間を捨てちまってんだろうな
鈍色に染まった巨大な左腕と、強靭な右足、そのどちらとも、僅かな隙間から絶え間なく蒸気を噴き出している
顔は復讐の怒りに身を任せ、憤怒の形相を浮かべている
傍から見たら、まるで、物語に現れる悪魔の様だ
・・・いや、生まれ変わったあの時から少ししか経っていないから、今のオレはただの小悪魔か
そんじゃ、オレの欲望を叶えていくと、そのうち大悪魔にでもなるんだろう
そうなったら、いつかは正義のヒーローにオレは倒される
その前に、オレにこんな運命を背負わせた神様を、ガツンと一発殴り飛ばしてやりてぇものだ
自然と笑みが浮かんだ
そうだ、それでいい、オレに正義など似合わねぇ
オレはオレがやりたいようにやってやる・・・!
(・・・深部付近まで来たが、特に変わった様子はなさそうだな)
辺りを見回ったが、これといった変化はない
そう思い、北方へと向きを変え
そこで気付いた
(誰だ、あいつら・・・)
見たことが無い二人組が、深部南方向から出てきた
奇しくも、オレを襲った人数と一致するため、アイツらを思い出し、歯軋りする
目の前にいる奴らもここに住まう奴らとは違い変な格好だった
一人は巨大な甲冑に身を包み巨大な剣を持ち合わせており、もう一人は鎧を纏っているのかどうかすら怪しい薄着で変な形の剣を持っていた
変な旅人にも思えるが、本能的に、奴らは危険だと体が警鐘を鳴らす
そもそも、旅人ならこんな辺境に・・・ましてや、深部に行こうとは思わない
(・・・まさか、あいつらの仲間か?)
十分あり得る話だった
体が欠けているアントを守る人物が一人だと、ゾウと名乗ったバケモノですら守り切れない可能性がある
しかし、四人だったらどうだ?
どこからであろうが、アントがここまで無傷でやってこれる可能性があるじゃねぇか
どちらにしろ、深部へと侵入し、のうのうと脱出しているということは、中の環境を荒らされた可能性が高い
(生かして帰すわけにはいかねぇ・・・!ここで情報を引き出し、始末してやる!)
建物の屋上に着地し、背中に背負っていた折畳式蒸気機関狙撃銃を構えた
狙いは、至近距離では敵うかわからんあの鎧の頭蓋
一人は即死しようが構わない
どうせ一人が生きてさえいれば、そいつから情報を引き出せる
そもそも、生きて返す気は無ぇしな
鎧の頭蓋へと標準を合わせ、悦びに身を震わせた
「さあ、復讐の始まりだ・・・!」
・
「やれやれ、せっかちなやつじゃのう」
一言も告げずにその場を去ったブロウへ、老人は小言を零す
(久々に術を使ったが、腕が鈍ってなかったようで助かったわい)
皺だらけだが筋肉の失われていない腕をさすり、鍛冶場へと戻ろうとしたその足は、数歩も歩かずその場に止まった
「・・・確かに、急いで逃げ出すことは得策だったようじゃな」
「いえいえ、きっと彼は貴方を巻き込みたくなかったのでしょう。左腕と右足を理解しがたい力で取られ、ボコボコにされた相手から」
「ここがバレるとは思わなかったがのう。これも老いのせいかねぇ・・・」
「おじいさんの逃走劇は凄かったよ、最初はどこ行ったか分からなかったもん。でも国から出れそうになかったし、国中調べてあとは地下と深部ぐらいだけだったからね」
鍛冶場の前には眼帯の少年と紅いスーツの男が立っていた
どうやらブロウを追っているうちに、この場所をついに嗅ぎつけたようだ
「貴方には借りがありますからね。ここで返させていただきます」
「おや、わしは貸しを作った覚えはないぞ?・・・この歳だからボケが始まっているのかもしれんがの」
「そういえば!おじいさん、その瞳綺麗だね。老いを感じないほど鋭く光って見えるよ」
「そんなことを言われたのは初めてじゃな。・・・ふむ、今わしは非常に機嫌がいいから、お前さんたちがここに勝手に入ったことを見逃してやってもよいぞ」
「そんなことはどうでもいいよ。さっき出てったやつを救ったことも許してあげる。・・・その瞳を僕にくれたらね」
「・・・なんじゃ、最初からその気じゃったか。ならば、おぬしらをあやつの元へ行かせるわけにはいかんのう」
「話が通じないですね。アント、貰ったら先を急ぎますよ」
「はーい」
アントがそう返事をするとともに
その影から無数の手が老人へと瞬時に伸びた
・
「やれやれ、とんでもない目に遭った」
「・・・全くだ。おかげで、ただでさえ先を急ぐ旅であるのに、無駄に時間をかけてしまった」
ライト達は深部に二日間留まることとなり、計九日間の拘束の末、漸く自由の身となれたところであった
「・・・ところでライト、気付いているか?」
「ああ、後ろから殺気がする。距離は少しずつ離れているようだが、今にも襲い掛かりそうな感じ・・・」
(この感じ・・・そうか!)
咄嗟にライトは後ろを振り返る
もちろんそこには誰もいない
しかし、『それ』には気付いた
「・・・っ!させるか!」
剣の鍔を抱えるように持ち、バリューの頭めがけ飛来する銃弾を
鋩で受け止めた
「え?な、何⁉何が起きたの?」
「狙撃だ!建物の陰に隠れるぞ!」
「・・・!銃弾を鋩で受け止めただと⁉そんな馬鹿な・・・!」
あり得ねぇ・・・どんな技術だよ!
だが、実際に防がれ、鎧の奴は無傷だ
想定外の動きに、弾薬の装填を忘れるほどだった
アイツらは追撃を恐れ、近くの建物の陰に隠れたようだ・・・
(だが甘い!今のオレにはこれがある!)
随分前から熱を溜めこんでいた左腕を、アイツらが隠れた建物に突き出す
「建物ごと消し飛べ!」
左腕に圧縮した空気の砲弾が、掌底から射出するなり建物を吹き飛ばした
ビリビリと空気が震え、轟音が辺りに鳴り響く
蒸気機関の左儀腕から大量の蒸気が発生し、辺りを熱気が多い尽くした
『圧力弾』の威力は建物を倒壊させ、大地に穴を穿つほど絶大である
反面、右義足を大地に固定しようが仰け反るほどに反動は大きく、打ち出した直後はオーバーヒートにより、大量の熱を放出し冷却が完了するまで、再装填どころか動かすことすらままならない
蒸気で呼吸がままならず、息が荒くなる
(だが、そんなことはどうだっていい・・・!)
それよりも、あの二人組だ
建物は崩壊したが、奴らの姿は見えなかった
「銃弾を受け止められても、流石にこれは耐えきれねぇだろ・・・!」
「・・・とでも向こうは思っているんだろうな」
「急すぎてビックリしたけど、ギリギリ間に合ってよかった・・・」
二人は生きていた
気圧弾が射出され、建物に直撃した時、咄嗟にバリューが鋼の精霊術『硬化即体』を発動し、自らの鎧と剣を盾に衝撃と建物の破片を防いだのだった
「だが、やつはここに俺たちの死体があるかどうか確認しに来るだろうな。あんな口径の銃で人の頭を狙撃する時点で、殺す気満々だっただろうし」
「そう、それ!いつ私が狙われているって分かったの⁉」
「深部から出た時から・・・って、その話は後だ、来るぞ・・・!」
(暗部から出てきたあの二人組は、明らかに普通の人間じゃねぇ)
奴らの死を確認するため、蒸気機関の義足から圧縮した蒸気を噴出させ、瓦礫の山へと跳躍しつつ考える
(あの憎き二人組ではなさそうだが、銃弾を鋩で受け止めるなどと言った芸当ができる奴は、この国にいるはずがねぇし、オレの位置が瞬時に把握できるなどという、脅威的な力を持ち合わせていやがる)
(暗部でどのようなことがあったか知りたいのは山々だが、憎きアイツらのようにこの国を自己利益の為にかき乱そうとする奴らをオレは許せねぇ)
(・・・だが、何だ?この感情は・・・?)
(復讐とは違う、別の何か・・・)
(じじいから術を受ける前の、あの時に近い・・・)
(・・・いや、今はそんなことはどうだっていい!)
「・・・やはり生きてやがったか」
瓦礫の上に到着すると、一か所だけ瓦礫がほとんど飛び散っていない箇所があった
そこで二人組が平然とした出で立ちでオレを見ていた
「なぜ俺たちを狙う?」
「答える必要がねぇな」
「・・・私達としては、狙われる筋が見当たらなく、困惑している次第だが」
「知るか」
奴らの声に耳を貸す必要はねぇ
相手は二人だ、話など聞いていたら不意を突かれる可能性がある
(あの戦いの二の舞には絶対になってやらねぇ・・・、遠距離が駄目なら、近距離で潰す・・・!)
右足の義足に熱を溜めた
儀腕の人物は瞬時に間合いを詰めてきた
どうやら右足も義足らしく、そこから蒸気が噴き出しているのが見えた
「・・・くっ!」
狙いは比較的鈍重なバリュー
巨剣でどうにか左儀腕の猛撃を防いでいるが、反撃への隙が無い
どうやら反撃される前に巨大な左儀腕で叩き潰すつもりのようだ
しかし、ライトはそれを黙って見ているだけではない
「見えた‼」
「・・・っ⁉こいつ!」
左儀腕の一撃を硬剣で弾き、機動力の要である右足の脆い箇所を叩こうとするも、儀腕の人物は瞬時に足をずらし、その衝撃を和らげる
「・・・貰った!」
「・・・っ⁉させるか‼」
その間に、バリューは儀腕の人物へ巨剣の一撃を見舞おうとするも、左儀腕の手に掴まれ防がれる
だが、ライトはその間に儀腕の人物の後ろに回り込んでいた
「後ろが空いてるぞ」
「うぜぇ‼知ってんだよ‼火傷でもしてろ‼」
途端、右足から高温の蒸気が噴き出し、ライトの体を包み込んだ
「しまっ・・・⁉」
「・・・ライト!」
「他人の心配してる暇なんてねぇぞ!吹っ飛べ‼」
儀腕の人物はそう言うと共に、巨剣ごとバリューを投げ飛ばす
そしてそのまま左儀腕を前に突き出した
「・・・くそっ‼」
「終わりだ」
二発目の気圧弾がバリューの体を叩いた
「よし・・・!これなら、あの二人にも勝てる・・・!」
先ほどの戦闘で地に伏した二人組を見つつ、ブロウは確信した
中々に骨のある奴らだったが、片方は全身に火傷を負い、もう片方は気圧弾をもろに喰らっている
戦闘は不可能であろう
「さて、これで気兼ねなく深部へ行ける・・・」
「「・・・待てよ」」
(は・・・?)
と思う間もなくブロウは仰向けに押さえつけられていた
「お、お前ら!なぜ動ける⁉」
「この程度の火傷に勝る大けがを受けたことがあるからな、まだ動けるさ」
「・・・同じく、砲撃二撃受けた時よりか痛みはある、息もしづらいから、恐らくあばら骨をいくつか持ってかれたのだろう。だが、動けなくなるほどのものではない」
「何だよあんたら・・・バケモノか・・・!」
想定外の事態に混乱するブロウだが、気を持ち直し、反撃の為右義足に熱を溜める
・・・事が出来なかった
「悪いが、足はもう動かないぞ、関節部分と熱蓄積機関を壊したからな」
「・・・左腕も同じだ、私の剣で貫いている」
頭をあげると、左儀腕に剣を突き刺したままこちらを見下ろす鎧と、右義足の辺りでブロウが隠し持っていた銃器を手に抱えている黒髪の青年がいた
じじいから貰った蒸気機関は二人組によって使い物にならなくなってしまっていた
また右手は拘束されていなかったが、早撃ちをしようにも銃器を全て奪われてしまっているのでどうしようもない
つまり、完全に打つ手がなくなったのである
「・・・あー!くそっ!分かったよ!オレの負けだ‼」
敗北宣言と共にブロウは語りだす
外からやって来た謎の力を使う二人組に左腕と右足を奪われたこと
命落とす間際、とあるじじいに助けられ、手足に蒸気機関をくっつけられた状態で蘇られてもらい、復讐に燃えていたところに、暗部からの出入り口から見たこともない二人組が現れたこと
暗部の奴らの身に危険が及んだ可能性があり、ブロウを襲った二人組の仲間だった場合、逃がしておくわけにはいかなかったため狙撃したこと
「だから、お前らを行動できなくさせた後、暗部が無事かどうか見に行くつもりだったんだよ!」
儀腕の人物、ブロウは若干キレ気味でそう言うが・・・
「・・・そもそも、私達は深部に放り込まれたと言った方が正しい」
「・・・は?」
「言葉が足りないぞバリュー、捕まった後だろ」
「・・・何言ってんだ?」
「「これまでのいきさつだが?」」
「・・・主語がねぇだろ!さっぱり分かんねぇよ!」
主語が足りないということなので、仕方がなく最初から最後まで親切に説明した
・・・ライトが
蒸気機関の扱いで牢屋に入れられたところを話すと、ブロウは大爆笑してバリューに殴られていた
実は深部は危険地帯などではない
むしろ、若い女性や妊婦、子供、お年寄りが集まって作られた安全な集落である
ではなぜ、危険地帯と呼ばれているのかというと、危険な周囲から身を守るため、ほとんどの人から知られない出入口や、あらぬ噂話を立てることで身を守っていたのだ
ライトとバリューは拘束されて動けない状態だったが、暗部の子供たちに発見され、近くの人たちに拘束を解いてもらった
そればかりか、牢屋でひもじい食事しかもらってないだろうと、料理をごちそうされるまでであった
しかし、旅の目的上、長居するわけにもいかず、早々に外へ出たものの、ブロウに見つかって現在へと至る
ブロウが深部へ向かおうとした時、実は二人とも死んだふりをしてブロウを撒こうかと思っていたのだが、「深部へ向かう」と言っていたので、中にいる人に危害を加える気だろうと二人は思い、一瞬にしてブロウの戦闘能力を削いだのだった
「・・・つまり、どちらとも勘違いだったということか」
「そうみたいだな」
「そうみたいだな・・・じゃねぇ!オレの手足どうしてくれんだよ!」
「そもそも襲ってきたお前が言える筋はないと思うぞ・・・」
「・・・全くだ」
ブロウは体にほとんど傷を受けてはいないが、戦力となっていた蒸気機関を壊され、ライトは全身に火傷を、バリューはあばら骨数本を折られるほどの痛烈な打撲傷を体に受けていた
動けなくなるほどの怪我ではないが、戦闘を続行するには明らかに良くないコンディションであることは確かだった
だが、ブロウにはまだやることが残っている
「そういえば、アンタらは見てないんだよな」
「ああ、俺たちは会ってない」
「・・・深部の方も大丈夫だったぞ、特に何かがあったとは思わない」
「そうか・・・よかった・・・!」
ブロウは漸く緊張の糸を緩め・・・
「おやおや、何やら騒がしいと思ったら、こんな所にいましたか」
「いやー、凄い戦いだった!思わず見学しちゃったよ!」
「・・・アンタら!」
突如目の前に現れた人物にブロウは殺気立ち、声を荒げた
「・・・知り合いか?」
「怨敵だ・・・!」
「代用物の献上ありがとうございました、こう見えてもわたくし共、貴方様に感謝しておりますよ」
「すごく動かしやすいし、勝手がよくて助かっているよ」
「勝手に奪っておいてどの口が言いやがる!」
「あ、それと貴方のその手足を作られたご老体にも、感謝の言葉を申し上げておいてくださいませ」
「おかげさまで、僕の体がようやく全部埋まったよ」
そう言ったアントの右目には眼帯はなく、代わりに金色の眼が埋まっていた
「おい!てめぇら、まさか・・・!」
「ええ、彼のような素晴らしい瞳を持つ者はいらっしゃらなかったもので・・・」
「うん、貰ったよ、お陰で体が完璧にそろったどころか、今まで以上に力に満ち溢れているように感じるね。まあ、あの人面倒だったから」
「殺したけど」
そう、あの老人は彼らに見つかってしまった
きっと、ブロウを救って逃亡した報いとして目を奪うどころか、その命すら奪ったのであろう
「キサマらぁぁぁぁぁぁぁぁ‼よくも・・・よくも・・・‼」
「あなたも、もうじきそのご老体とお会いできるでしょう。深部の方々にも挨拶しなければならないですし・・・」
ゾウは口が裂けるように笑みを浮かべ、言葉を続ける
「だから・・・そこをどいてくださいませんかね?」
死にぞこないのブロウを守るかのように、立ちふさがる二人へ向けて
「・・・貴様らの目的は知らないが、生憎、他者の物を、命を強奪するような輩を野放しにするほど私は甘い人物ではない!」
「バリューに同じく。お前らが深部の平安を脅かすつもりならば、そんなことが出来なくなるまで、お前らの全てを壊しつくしてやる!」
「アンタら・・・!」
「もう代用品は要らないんだけどね・・・あ、でもスペアはあった方がいいよね」
「それは名案ですね、ですが、とりあえず武器や防具が欲しいものです」
「じゃあ、鎧の人、君の鎧を貰・・・」
アントが言葉を続ける前に、ライトの一閃がアントの喉元を狙いすましていた
ぐしゃり、と骨と筋が砕ける音が響き渡る
しかし、その一撃はゾウの左手によって防がれていた
ライトは表情を変えず、そのまま力ずくでアントの喉元を狙う
その様子を忌々しげに見つつアントは口を開いた
「君、邪魔。半径1キロ圏内には要らないから」
直後、ライトの姿が搔き消えた
「・・・⁉ライト・・・⁉」
「心配は無用ですよ、アントから一キロ圏外へ追い出されただけですから。・・・ですが、我々の邪魔をするので、わたくしが排除させてもらいます」
「ゾウ、行っていいよ、この体の力を確かめたいし、鎧の人は僕一人で十分だ」
「そうですか?それでは、久々に暴れさせてもらいましょうかね・・・!」
そう言った途端、ゾウの姿は紅く霞み、ぼやけるように消えていった
残されたアントとバリューは睨み合い、その様子をブロウが歯がゆそうに見守る
「・・・アント、と言ったな、貴様は他者から、自らの体の代用となる体の一部を奪っているんだな?」
「人聞きが悪いなぁ、そこに転がっている死にぞこないに手足を貰って、死にぞこないを助けた、いけ好かない老人に右目を貰っただけだよ、他にもいろいろな人からいろいろと貰ったけど、まるで悪者扱いするなんてひどい人だ」
「僕は自分がなくしたものを手に入れるため努力して、なんとか体の全てが元に戻ったんだよ?それなのに、そんな言い方されるなんて心外だよ」
「僕が悪いことをした?いいや、そんな事全くしてないよ、なくしたものをどうにかして取り戻そうと思うのは当然じゃないか、それとも、そう思うのは間違いだっていうのかい?」
欠けた体を満たしたからか、アントはやけに上機嫌で言葉をまくしたてる
ブロウはその言葉に対して、反論する事が出来なかった
現に、復讐と称して二人を痛めつけたのち、命を無為に奪おうとしていたのである
アントに言い返せる言葉を、ブロウは持ち合わせていなかった
バリューもアントの言葉に反論しない
むしろ、聞いているのかどうかすら怪しい
「・・・ねぇ、質問に答えたのに無視するの?」
「・・・ああ、済まない」
アントが文句ありげにそう訴えて、漸くバリューは重く閉ざしていた口を開いた
「非常に下らなくてウトウトしていた」
「・・・へぇ、そんなに殺されたいんだね」
アントは殺意をバリューに滲ませるが、対するバリューは平然とアントを見据える
「・・・しいて、先ほどの御託の返答をするとしたら、ガキ臭くて反吐が出そうになるな」
「おい!そんなこと言うと・・・!」
「・・・っ‼五月蠅い‼鎧を捨てろ‼」
ブロウがバリューに対し、忠告の言葉をかけようとするもその前に
容赦なく絶大な力がバリューに襲い掛かった
「・・・なるほど、アントって奴の能力はそういうことか」
見えない壁に手を触れつつ、一キロ圏外へと弾き飛ばされたライトが呟いた
「ほう、分かりますか。なかなかに頭が良いのですね」
朧げに紅い影が揺らめいたかと思えば、その影は形を整え始め、最終的に紅いスーツの男に姿が変わる
ライトによりへし折られたはずの左腕は、まるで何事もなかったかのように元の状態へと戻っていた
「大体は予想が出来ていたけどな、そして、ゾウ、あんたが何者なのかも確信した」
「それは、それは。大層なことで・・・。しかし、分かったところでわたくしを倒せるとでもお思いですか?」
「ああ、問題ない、あんたの相方であるアントもバリューと戦う時点で負けが確定しているしな」
「・・・言いますねぇ、そういう自信のある発言は嫌いじゃありませんよ、そういって徐々に絶望に染まっていく姿が、わたくしにとって僥倖でしてねぇ・・・!」
言葉を発するや否や、ゾウは防御、回避ができない距離まで近づき、ライトの右肩へナイフを薙いだ
そして両者は驚きのあまり絶句する
目の前で起きたことがまるで不可解な事象であるかのように
「・・・ば、馬鹿な・・・!どうして・・・!」
「・・・何を驚く必要がある、これが当たり前だ」
至極当然であるかのように目の前の人物は答えた
その人物は鎧を身にまとったままだった
「僕の『取捨選択』が効かないはずがない・・・!何かの間違いだ・・・!」
「・・・『取捨選択』か、確かに 対 策 が なければ、やられていただろうな」
『取捨選択』を弾かれ焦っているアントは、バリューの平然とした答え方に憤怒の形相を浮かべる
「対策、だとっ・・・⁉ふざけるな!僕のこの能力に対策なんてあるわけ・・・!」
「・・・その力、お前の力ではないだろう?」
「なっ・・・⁉この力は僕が手に入れた力だ!僕の力でないはずがないだろ‼」
「・・・いいや、その力は、お前が悪魔との契約によって手に入れた、悪魔の力だ」
「・・・っ!」
まるで絵空事を喋っているかのように聞こえたブロウは、バリューに問いかける
「悪魔だって⁉悪魔は物語の中でのみの存在じゃねえのか⁉」
「・・・悪魔は存在するぞ、ブロウ。現に、目の前の小僧が使っている技は明らかに人智を凌駕している。魔術ですら貧弱に感じるほどの圧倒的な力、そんな力を使えるのは、大悪魔か精霊またはドラゴン程度だ。」
悪魔はフィクションでの存在だと思っていたのだろう、ブロウは目を白黒させていた
「・・・貴様は悪魔の力を借りている。だからこそ、私の鎧に弾かれた」
「・・・退魔加工か!」
鎧に退魔の力を後から付与し、生成される退魔加工ならば、魔の力を凌ぐことは容易である
忌々しげにアントは唇を噛んだ
「だが、退魔は魔を退ける程度の力だ・・・!いつかは僕の力が届く・・・!」
「・・・残念だな、退魔加工ではない」
「・・・は?」
「・・・滅魔装甲だ」
「め、滅魔だと・・・!あり得ない・・・!滅魔の力は一部の上位精霊か竜しか持ち合わせないはず・・・!」
「・・・悪いが、私は精霊術士だ」
「馬鹿な・・・!嘘をつくな!精霊術など使える種族がこんな場所にいるわけ・・・お、お前まさか・・・!」
「・・・そのまさかだ、私は『十忠』が一人、『城砦のハルトマン』、貴様程度の矮小な力では、『城砦』の元となるこの鎧、砕くことはできないだろう」
「オレ以外の『十忠』・・・!」
(道理で強ぇえ訳だ!・・・てか、つまりもう一人も『十忠』か!)
ブロウは驚きで目を見開らきつつも、無謀にも勝負を挑んだ自分を恥じた
「嘘だ!そんなはずがあるわけがない!『城砦』と『破道』は少し前の大戦で死に至ったはずだ!」
「・・・その情報は嘘・・・っと、これは話してはいけなかったな、失敗した」
「嘘・・・嘘だと・・・!」
「・・・仕方がない、生きて返さなければ万々歳だな」
バリューが発したその言葉に、アントは怒りから一転、笑みを零した
「はは・・・僕の命を奪うのか?あんたら騎士はいつもそうだ!散々僕の物を奪ってきたくせに、僕の命さえも奪う気か!」
「もう何も失いたくない、だから僕はこの力を手に入れた!これ以上、僕の物を奪われてたまるか・・・!」
「僕の『取捨選択』が悪魔によって手に入れた力だと判っていて、その鎧は悪魔の力を弾くわけだ・・・要するに、その滅魔の鎧さえなければいいわけだ・・・!」
アントはブロウを指さした
「こいつの命は僕の物だ!僕ならいつでも命を奪える!死にぞこないの命がそんなに大事なら、その鎧、ここで脱ぎ捨てろ!」
「ちっ!おい『城砦』!オレの事は気にすんな!」
「・・・もとより心配などしていない」
「「・・・は?」」
バリューを除く両者から疑問の声が上がった
「おい・・・!何だその言い草は・・・!」
「・・・言葉の通りだ、今のお前は『取捨選択』の対象外になっている」
「はははははは!『取捨選択』の対象外?そんなものなんてあるもんか!君はそこの死にぞこないを守っていたんじゃなく、ただ、死にぞこないに自らの不甲斐なさを見せつけているだけだったんだね!」
「・・・好きに言ってろ、それとも、試してみるか?」
「やけに自信たっぷりだね、そこまで言うなら死にぞこないの命を貰うよ」
アントがそう口にすると、ブロウはバリューの後ろで苦しみだし、それに気づいたバリューが救命措置を施そうとするも、間に合うはずもなく、自分が無作為に発言した言葉が、いともたやすく実行されたことに絶望する
そのはずだった
「・・・ん?何にも起きねぇな?」
「・・・言ったはずだ、お前は『取捨選択』の対象外になっている」
その様子にアントは激昂する
「何だよ・・・何でだよ!何で何も起こらないんだ!」
「・・・言っただろう、対策をしていると」
「対策・・・」
「・・・『取捨選択』は他人の所有物を自由に取捨できる能力だ、しかし、万能というわけではない、何を取捨するか宣言せねばならす、対象は一人に限られ、所有者の体に触れている物しか取捨できない」
「そんな事、僕の力なんだから知ってるのは当たり前じゃないか!」
「所有者の体に触れている物しか取捨できない?それがなんだ!死にぞこないの義腕には君の剣が刺さっている、恐らくそれにも滅魔の力があるんだろう、けれど、義腕は死にぞこないの体の一部という判定にはならないはずだ!」
「・・・その通りだ、だが、貴様は勘違いをしている」
「勘違い・・・だと・・・!」
「・・・私も初見時ではただの義腕義足だと思っていた、だが、先の戦闘でブロウの腕や足がやけにスムーズに動いていたことや、熱蓄積機関を壊していようがある程度動かしていた足を見てはっきりと理解した、ブロウの蒸気機関は融合術によって、欠けた部位の代用となるように接着された代物だと」
「あの老人!融合術師だったのか・・・!」
「融合術師・・・?なんだそれ?」
融合術師・・・それは、癒着、接着、吸着することが不可能だと言われるものを、絶対に結合させる術を使う者達をそう呼ぶ
そんなことも知らないのかと、バリューはブロウを一瞥しつつ言葉を続ける
「・・・よって、ブロウの蒸気機関は彼の体の一部とされる、その体の一部に滅魔の力をもつ剣が刺さっているんだ、滅魔の力と常に接しているといっても過言ではない、だから言っただろう『取捨選択』の対象外だと」
「・・・だ、だが、君は鎧こそあるものの素手と何ら変わりない!多くの人から貰った部位で構成されたこの体なら、それでも十ぶっ・・・!」
アントが言葉を告げ終える前に、バリューはその顔を殴り飛ばした
「・・・今度はこちらが質問する番だ、質問に答えろ」
「な、なにを・・・ぐぶっ!」
蹴りが腹に入る
「・・・貴様は今までに何を奪われた?」
「い、命以外の全てだよ!」
「・・・そうか。五感も四肢も奪われていたんだな」
「そ・・・それは!」
「・・・次だ。奪われたものを取り戻すため、悪魔と契約し、力を貰ったのか?」
「取り返す?何を言っているんだか。僕から何もかもを奪おうとしたやつに、奪ったものを取り返す程度で許すと思って・・・」
言葉を続けようとしたアントへバリューは再度蹴りを叩き込んだ
アントはなすすべなくその場に倒れこみ、盛大に咽る
「・・・そうだったな、貴様はそういうやつだったな。聞くまでもなかった」
「な・・・何だよ、僕が一体何を・・・」
「・・・貴様は今まで、何人から何を奪った?」
「そんな事、覚えているわけないだろ!さっきから調子に乗りやがって・・・!」
地べたに這いつくばっていたアントは、突如立ち上がりつつバリューの死角へと移動する
「僕が他人の物理的な物しか奪えないと思ったら大間違いだ!」
そのままバリューの腹付近に手を触れる
瞬間、兜の口元から血が噴き出した
ぐらりとバリューの体勢が傾き、片膝と手を地面に付く
「・・・!鎧の奴!」
「あはははは‼東方の拳人から奪った、裏通しの威力はどうだ!」
「・・・なる・・・ほど、な」
「はは・・・は・・・?」
バリューが受けた内臓へのダメージは相当なものだった
しかし、鎧だけに頼るほど、彼女の、『城砦』の名は廃れたものではない
衝撃により傾いた態勢をゆっくりと元に戻した
「・・・確かに、凄まじい、力だ。だが、それは、貴様の、力では、ない」
「ひっ・・・!」
アント達は先ほどの戦闘を最初から最後まで見ていた
だからこそ、先ほど一撃を与えた相手が立ち上がって、こちらに向かってくることに恐怖を覚えていた
何せ、気圧弾を二発受け、裏通しを体の芯に当てられている
体内はボロボロであろう
そんな状態であろうが立ち上がり、こちらへと向かってくるのだ
倒れても絶対に立ち上がる、その『不屈』の精神に、アントは戦意を失いかけていた
「・・・貴様は、初めに、復讐のため、悪魔に、力を、貰った、のだろう」
「く、来るな・・・!」
「・・・だが、貴様は、その力に、溺れた」
「違うっ!僕はただ奪われたものを・・・!」
「・・・契約に、よって、体半分を、持って、いかれた、のだろうが、それは、貴様が、望んだ、結果だ!決して、何者かに、奪われた、わけでは、ない!」
「違う・・・!違う違う違う違う違う‼僕はただ、本来僕が手に入れるはずの物を・・・!」
「・・・都合の、いいこと、ばかり、だな。私は、貴様が、非常に、浅ましく、見える。貴様と、契約した、悪魔に、同情すら、覚える」
「僕が浅ましいだと⁉欲しいものを手に入れるのためには、どのような手を使ってもいいじゃないか!」
「・・・やはり、我儘な思考を、持て余す、ただの、ガキか」
アントの表情が憤怒に歪んだ
「我儘なガキだって・・・!言いたい放題言いやがって!もう一発喰らって死ね‼」
怒りに身を委ねたアントはバリューへと突っ込み、再度、鎧に触れようと手を伸ばす
「・・・だから貴様は愚か者なのだ」
その右手は鎧に触れると共に
捻り潰された
「ぎゃああああぁぁぁぁぁ‼」
「・・・自尊心が高い貴様の事だ、挑発すれば必ず乗ってくるだろうと思った。弱っているふりをすれば、油断も誘える。また、何度でも言わせてもらうが、どのような技を使おうが、それを知ってさえいれば対策は簡単にできる」
実は、先ほどまでのたどたどしかった喋り声は半分演技であった
裏通しを受け、片足と手を地面に付けた際、バリューは土の精霊術『大地の祝福』を発動しており、それによって、少しずつではあったが、体に受けたダメージを修復していた
「・・・貴様が得られる物は最早何もない。今の貴様は、一人の少年が復讐したがっていた、物奪いの騎士達と何も変わらない、貪欲な人間だ。だから・・・」
アントの喉へ手を伸ばす
「再度、失う恐怖を味わえ」
静かに喉に手を添えた
・ ・ ・
僕は何よりも幸せが欲しかった
僕は北国の貧しい家に生まれた
僕が二、三歳ぐらいの幼い頃、父親は稼ぎのため出兵して、戦場で命を落としていた
だから、家族とよべる人は、母親ただ一人だけだった
「幸せは誰かにあげるものよ」
それが母の口癖だった
母は貧しいながらも懸命に働き、僕を育ててくれた
それだけでなく、自分よりも貧しい人がいたら食事を恵んでいた
僕は母が大好きだったけど、母の、自分を優先しない性格はあまり好きじゃなかった
それでも、一緒の家で二人静かに暮らすことが僕にとっての全てだった
そんなある日、あの騎士達がやってきた
騎士達は税収を引き上げ、納付金が足りない家庭には、強制労働を強いていた
母は家の物を全て売って、納付金としていた
父との思い出の品や指輪ですら、僕を育てるため売ったのだ
しかし、それでもお金が足りなかった
お金が尽きた翌日、税収を仕切っていた騎士たちが、母を連れ去った
そして、その日から母は帰ってこなかった
その代わり、僕は学校に通えるようになった
三年ほどして、学校を退学させられた
お金が尽きたからだった
そして、学費を稼いでくれていた母親が死んだと把握せざるを得なかった
帰る家もなくなっていた僕は、母が死んだことによる喪失感に暮れ、町をただ歩いていた
そんな時、騎士達の話し声が聞こえた
「『幸せは誰かにあげるもの』とか言ってたあの女どうなった?」
「死んだよ。最期まで笑顔を絶やさない、気持ち悪い女だった」
間違いなく母親の事だった
その瞬間、僕は全てを失ったことを悟った
そして、全てを奪ったあいつらへ、今度は僕が全てを奪ってやると誓った
悪魔の力で
悪魔は二通りの手段で人間を手駒に取る
一つは幽霊のように、人間に憑依すること
上手くいけば完全に人格を乗っ取ることができるが、大概上手くいかず、追い払われたり消滅させられたりする
もう一つは人間と契約すること
悪魔は人間界ではっきりとした実体を持つ事が出来ず、力も契約者に半分ほど持っていかれる
しかし、契約に僅かな綻びがあれば、その隙を突き、人間の体にある程度順応した悪魔の力を利用して、契約者の体を触媒に、実体化する事が出来る
失ったものを全て取り返すために、僕は契約することにした
その後の事なんて、もうどうでもよかった
悪魔を召喚するのは簡単だった
召喚の為の触媒であるナイフと僕の血液で書いた召喚陣だけで済んだのだから
呼び出したその悪魔はゾウと名乗り、僕の名の改名と体半分を要求した
これ以上失うものはないと思っていたのに、さらに物を要求され、怒りで我を忘れそうになった僕にゾウは言葉を続けた
「これは対価交換ですよ。あなたが失うのはこれが最後です。これからは、あなたが全ての取捨を選択できるのです」
その言葉の通りだった
僕は『アント』という名を上書きされ、体の半分を失った
だけど、『取捨選択』を手に入れ、『取捨選択』を使わなくていい時が来るまで、ゾウは僕のそばについてきてくれることを約束してくれた
『取捨選択』を手に入れた後、すぐに騎士達に復讐した
騎士達が従えていた国そのものも潰した
凄く晴れ晴れとした気分だった
でも、何かが足りなかった
何かが、邪魔だった
だから、僕は五年ほどの月日をかけて旅をした
多くの人から物を奪った
要らないものは全て捨てた
それでも、心は満たされず、邪魔なものは残ったままだった
「ねえ、ゾウ」
「どうしましたか?」
「おかしいんだ、いくら物を手に入れても、満たされている気がしない。隣に君がいるのに、ずっと一人でいるように感じるんだ」
「まだまだあなたが奪われたものに及ばないからですよ」
「それだけじゃなくて、なにか邪魔なものがある気がするんだ。邪魔だと思う物は全て捨てたのに」
「邪魔なもの、ですか・・・。それは、搾取されていた思い出では?」
「そうかもしれない・・・。だけど、それは捨てきれない」
結局、欲しいものは分からず、邪魔なものは僕の原動力となる嫌な思い出だった
その二つの問題が解決したのはつい先ほど
『城砦』と対峙し、喉を潰されて漸く確信する事が出来た
奪うだけじゃ幸せになれないと
捨てるだけじゃ幸せになれないと
幾度となく奪っても欲は満たされることが無かった
この世で手に入れられるものは全て手に入れた
しかし、僕が欲しかったものは手に入れられなかった
僕が欲しかったのは、もはやこの世では手に入れる事が出来ないもの
それは親からの愛
幾度となく捨てても何かが邪魔で仕方がなかった
僕が持っていて邪魔で捨てられるものは全て捨てた
しかし、いくら捨てても残ったままだった
僕が捨てたかったものは、どうあがいても捨てられないもの
それは嫉妬心
十八に・・・大人になった僕は、漸くそれに気付く事が出来た
でも、もうなにもかも手遅れだった
僕は最期まで幸せを手に入れる事が出来なかった
・ ・ ・
「・・・幸せは誰かに与え、共有しあうものだ。その意味を、最期になってようやく理解できたようだな」
最期まで喉を守り続けたその四肢は、鎧内部へとダメージを与える技を反射する、鋼の精霊術『反射震系』によって捻り潰され、まるで走馬灯を見ているように、うわ言を漏らしていた喉も最終的には握り潰された
喉と四肢を潰されたことで、壮絶な痛みに襲われたはずなのだが、まるで眠るように息を引き取ったアントを見下ろしつつバリューは呟いた
そして、その一部始終をブロウは見ていた
対策をとっていたとはいえ、あのアントを倒しやがった・・・!
これが『十忠』と呼ばれる者の真の力なのか・・・!
てか、あいつ・・・!
「おい!大丈夫か!」
「・・・問題ない。・・・と言いたいところだが、少し無茶をしたな」
平然と話しているように見えるが、息は荒く、動きがぎこちない
やはり大怪我のダメージが残っているようだ
早く手当をした方がよさそうなんだが・・・
鎧のやつ・・・バリューと言ったか
奴はそんなことを気にせず、空を見上げ、何かを思いふけっているようだった
・ ・
「・・・どうした?刃を防がれたことに心底驚いているみたいだが、そんなに意外だったか?」
(あの一撃を顔色一つ変えずに弾いたことは正直感嘆するほどです)
しかし、目の前の青年にわざわざそのようなことを言う必要はないだろう
実体を持たないと言われている悪魔を相手に、ここまで平然としている人間を見るのは初めての体験だった
・・・ナイフの一撃が防がれるのは、『炎熱』以来、二回目だったが
「いやはや、わたくしの正体を知っているにもかかわらず、こうして戦っていることに驚いているのですよ、『誠実』さん」
「あぁ、俺の事も知っているのか。まあ、悪魔だしな。」
「しかし、驚きましたよ。触れられたら一時的に実体化しますが、本質的に実体を持たない悪魔に挑む愚か者だとは思ってもみなかったのでね」
「一時的に実体化しないことはないが、実体を持たない・・・か。正直信憑性に欠けるものだが」
「信憑性に欠ける、ですか。現に胸を貫かれ、左腕を折られております、しかし、こうして無傷になれますし、痛みもありませんが、それでも信憑性に欠けると?」
「ああ、明らかにおかしい部分があるからな。だが、今はそんな事よりも、お前に聞きたいことがある」
結構な速度で攻撃を加えているはずなのだが、それを冷静に、的確に弾くその腕前は感嘆するほどだった
(その状態で会話する姿は滑稽極まりないものですがね・・・)
「戦闘中に問答ですか?興が削がれません?」
「俺の疲れがピークに達するまでこのまま剣とナイフを打ち付けあうつもりだろ。そもそも、俺は戦いに興が乗るタイプじゃない」
(おや、気付いていましたか)
やはり普通の人間とは、どこか勝手が違いますね
「流石は『十忠』ってところですかね。いいですよ、何でもおっしゃってください」
「じゃあ遠慮なく・・・。お前はアントによって呼び出され、半身と引き換えに『取捨選択』を授けた悪魔だろ?」
「おや、知っているものかと思っていましたが」
「ただの再確認だ、気にするな。・・・次の質問だが、ここからが聞きたいことだ」
「・・・?」
「どうかしたか?」
「いいえ、何でもありませんよ。どうぞ、続けてください」
タイミングをずらしたり、重心をずらしたりしながら狙っているはずなのだが、『誠実』は、先ほどから全く疲弊せずについて来ていた
(・・・本当に人間かどうか疑わしいものです)
「お前は、アントに同情したわけでも、契約のためしぶしぶ力を貸してやったわけでも、ましてや遊ぶための道具として契約したわけでもないな?」
「どうでしょうね?そもそも、悪魔に同情するような者はいないと思いますが」
「まあ、そうなるな。だが、お前はどれとも違う」
「お前は、アントを利用して、人間を滅ぼそうとしたんじゃないか?」
「・・・あっはっはっは!わたくしが人間を滅ぼす?話が飛躍しすぎでしょう。何のためにですか?悪魔は人間にとっては害でしょうが、我々にとってはただの家畜のようなものですよ?」
「まあ聞け、はるか昔、人間は神々によって生み出されたんだよな?」
「そうですね。恐らくそうではないかと言われております」
「神々と戦っているのだからそれくらいの成否は分かりそうなものだが?」
「戦っているのは一部の大悪魔のみなので、わたくしは周知いたしておりませんよ」
「周知していない?いいや、そんなことはない。あんたの名前がその理由の一つだ」
「『ゾウ』・・・ですか?わたくしの『ゾウ』は、動物の方の・・・」
「憎悪の『憎』、憎しみが強い人間に引き寄せられる、約十三年前に誕生した、比較的新参の大悪魔『ゾディアック』、それがお前の名前だ」
(・・・やはり単純な名前だと、こういった明晰な頭脳をもつ人間にバレますね)
「お見事です!しかし、よくわたくしがゾディアックだとお分かりになりましたね」
「あの少年は、お前が『アント』という名に改名させたんだろ?組み合わせ的に『像と蟻』と思わせ、自分が大悪魔であることを隠すために。まあ、俺は昔、悪魔と取引しようと考えていた時期があったから、ゾディアックという名の悪魔を知っているんだがな。今では馬鹿馬鹿しい考えをしていたものだと思っている」
「左様でございましたか。しかし、それと神々との戦いに至っては話が別では?」
「いいや、しっかりと繋がっている。お前は、人間は家畜だ、と言っていたが、そんなことはない。むしろ、邪魔者だと思っているはずだ」
「聖人や宣教師、祓魔師(ふつまし)によって、取り付いた人間から剝がされるどころか、消滅させられそうになるからな」
「神々と対峙するに至って、戦力は多ければ多いほどいい。そこで、神々の恩恵を受けている人間から裏切り者を出し、神々の信頼を崩そうと考え付いた」
「しかし、神々はそれを見越して、魔を払う様々な力を人間に授けていた。聖人、宣教師、祓魔師がこれに当たる。それによって悪魔の数が徐々に減って来た」
「そこでだ、大悪魔であるお前がアントと契約を結んだ。契約は聖人などに耐性ができ、契約を結んだ人間も悪魔とみなされるが、一見すると普通の人間と全く見分けがつかない。聖人相手だと、普通の悪魔が契約しようと消滅させる力を持ち合わせるだろうが、大悪魔であるお前と、アントに与えた『取捨選択』によって、聖人ですら容易く倒せると踏んだんだろ?」
この男・・・何者だ?
なぜそこまで悪魔に詳しい?
悪魔と取引しようとしていた時期があった・・・?
いや、それだけではここまで知りえないはず・・・
まるで、最初から最後まで見られていたかのようだ・・・
「・・・予知能力か何かですか?」
「当たったみたいだな。ただの考察だ」
「素晴らしく明晰な頭脳の持ち主ですね」
(悪魔に逆らった絶望を植え付けるつもりだったが、どうやら、本気で殺しにかからないといけないようだ・・・!)
「では、そろそろ御仕舞いに・・・」
「その前に、信憑性に欠ける理由を話してやるよ」
そう言った途端、『誠実』は右手のナイフを狙ってきた
「・・・!」
「どうした?そのナイフがそんなに大事か?まるで」
「命 と 同 じ ぐ ら い に 大 切 そ う だ」
「・・・なぜだ」
「実体がないなら、なぜナイフを握れる?」
「・・・何故でしょうね?」
「誤魔化しても無駄だ。悪魔の召喚には触媒がいる。お前の場合、触媒となる物は拳銃かナイフだろ?」
「・・・」
「お前が実体を持たないのは、触媒となったナイフの中に実体があるからだ。まさか刃こぼれするかもしれないナイフの中に、本体があるとは思わないだろうからな」
ライトはゾディアックに剣を突き付ける
「つまり、お前のそのナイフを壊しさえすれば、アントの『取捨選択』とお前は消滅する」
「クックック・・・!実に秀才だな!・・・だが、そう簡単に壊せるかな!」
即座に後方へ飛びのきつつ、左手で指を弾く
この辺りは壊れ、動かなくなった蒸気機関が山ほどある
たとえ、力を半分分け与えていたとしても、それを動かし、魔物を生成するぐらいの力なら・・・
(まだ残っているぞ!愚かな人間よ‼)
その途端、周囲のガラクタが集まり、形を変え、人のような姿と化す
それは、即席とは言えども、大悪魔の力が宿った蒸気機関のゴーレムだった
「さあ!秀才な人間よ、吾を消滅させれるものならさせてみろ!」
わたしの紅く光るナイフと蒼く光る巨人の目が、焦りつつも笑みを浮かべる『誠実』の姿を照らした
(流石は大悪魔と言ったところか・・・)
いくら聡明なライトであろうが、流石に、大悪魔がゴーレムを生成するだけの力が残っているとは想定していなかった
しかし、運がいいことに、ゴーレムの体は、元々壊れていた蒸気機関を組み合わせただけの代物であるため、壊すことはさほど難しくないだろう
問題は紅いスーツの男、大悪魔ゾディアックである
先ほどのナイフ裁きを見るに、相手を的確に痛めつけるため、急所ではない部位を集中的に狙っていた
だが、ナイフが弱点であることを悟られたとたんに距離をとり、巨人を生成したことを見るに、相当な慎重派であることが分かる
ライトを追い詰めるなら、巨大なゴーレムを生成するよりも、ライトと同じぐらいの大きさである人型の兵士を生成した方が得策であるのだが、恐らく、すぐに壊される可能性を考慮して、行動不能にしにくい巨大なものを選んだのであろう
また、ゴーレムの巨大な体躯はゾディアックの体を隠し、ライトの注意をゴーレムの方へ向けることもできる
一対二ならまだしも、体躯が違う二体を相手にするのはライトでさえも非常に厄介なことであった
「どうした、来ないのか?ならば、こちらから行かせてもらうぞ!」
ライトが対策を立てる間もなく、ゴーレムはアームハンマーをライトへと振り下ろす
「ちっ、どうするべきか・・・」
「考えている暇を与えるとでも思ったか!」
その一撃を避けつつ対策を立てようと頭を回すが、ゴーレムの硬直時間を利用し、ゾディアックが瞬時に接近し、ライトへとナイフを振るう
先ほどまでとは違い、一撃が重く、急所を一点集中で狙ってきていた
不意を突き、反撃へ移ろうとするも、その間にゴーレムの硬直時間が終わり、再度即死級の一撃をライトへと振るう
それを回避したとしても、その一撃で建物は崩れ、瓦礫がライトの体を襲い、結局無傷では済まされない
さらに、回避した先にはゾディアックが待ち構えていた
(くそ・・・。このままじゃ不味いな・・・。あの戦い方は気が向かないが、今回はそうは言っていられないな・・・)
「どうした?その程度か?」
「畜生・・・!」
度重なる波状攻撃にライトの体力は限界に近付きつつあった
そして、遂に、ゴーレムの拳がライトの体を捉える
全身を強く打ち付けられ、ライトの体が空高く跳ね上げられた
ゾディアックはその様子を見てニヤリと笑う
「所詮は人間、この程度か。どれ、とどめはわたしが直々にさしてやろう」
吹き飛ばされたライトが着地するであろう地点に、ゾディアックは先回りした
だんだんとその姿が見えて・・・
「何だ、あれは?鎧・・・?」
落ちてきたのはライトが身に着けていた鎧だけだった
「・・・まさか!」
ゾディアックがゴーレムの方へ振り返った瞬間
ゴーレムの両腕が大地へと崩落した
ライトは賭けに出ていた
先ほどまではゴーレムの攻撃を回避していたが、それを回避すれば、間違いなくゾディアックが待ち構えている
それならば、ゾディアックの視界に入らない場所へと移動しなければならない
それはどこか・・・
結果から言えば、それは空だった
実は硬剣の柄頭にはある仕掛けが施されている
それは、糸
柄と柄頭を結ぶ、伸縮自在の糸である
ゴーレムの拳によって、あえて、跳ね上げられた時、ライトは意識を朦朧とさせながらも、その拳の凹凸に剣の鍔を引っ掛け、柄頭を手に握っていた
吹き飛ばされた威力が減衰する直前、ライトは鎧を後ろへと放り、自身は柄頭の糸を縮ませ、ゴーレムの拳まで戻っていた
ゾディアックは非常に周到な悪魔だ、自分が敵の死を確認しない限り、気を抜くことはない
だからこそ、ライトの落下地点に待ちかまえ、落下してきたところへとどめの一撃を見舞おうとするだろう
ライトはそれを見越していた
一対多が厳しいのであれば、一対一ができる状態に相手を誘い込み、倒しやすい方を先に倒す
ライトが戦闘によって身に着けた技術の一つだった
「・・・これで、力をほとんど使い果たしたお前と、傷だらけの俺の、一対一に戻ったな」
紅く揺らめく空間にライトは声をかける
その場所に現れたゾディアックは、溢れ出る憎悪を全身から放っていた
「アントが・・・やられた・・・?そんなことがある訳がない!あいつは多くの有力者から物を奪い、四十人分の力を持ち合わせていた!それが、たった一人によって倒されるだと・・・!」
「なんだ、そんなことか。言っただろ、バリューと戦う時点で、あいつには負けが確定していると」
「わたしの崇高な目的を邪魔されるとは・・・腹立たしい限りだ・・・!」
「どうする?降参するか?それとも、あのガキみたいにこの世から消えるか?」
「・・・だと?」
「人間風情が・・・!何を思いあがっている‼」
依然、意識が朦朧としていたライトはこの時二つミスを犯していた
一つはゴーレムを作ったことで、力がほとんど尽きていると勘違いしていたこと
もう一つは両腕を崩落させたことで、ゴーレムの動きを封じたと思い込んでいたことだった
ライトが事態に気付いた時にはもう、遅かった
ゴーレムの蹴りがライトを吹き飛ばし、遠方の建物に直撃した
ゴーレムはバランスを崩し、そのまま倒れ、動かなくなったが、蹴りの一撃は明らかにライトが耐えきれそうなものではなかった
怒りで荒い息を吐きつつ、ライトがいるであろう倒壊した建物を見やり、ゾディアックは忌々しげに呟く
「・・・死んだか?・・・いや、死んでいようが関係ない!アントが死んだ以上、わたしにはまだ半分以上力が残っている!その力でアントをこの世に呼び戻し、わたしたちを愚弄した罰を、愚かな人間共に刻み付けてやる・・・!」
痛みで悲鳴をあげるライトの姿を思い描いたのか、ゾディアックは口元を笑みで歪ませ、その時を噛み締めるためのように、ゆっくりと倒壊した建物へ歩いて行った
・ ・
「く、そ・・・。詰め、が、甘、かった、か・・・」
吹き飛ばされたライトは、瓦礫の中、どうにか意識を保ちつつも、痛みで体をほとんど動かせない状態だった
ナイフの切り傷にゴーレムの二撃をもろに喰らっているため、生きている方が奇跡ともいえるような状態ではあるが
そもそも、悪魔との戦闘経験が無かったライトが、ゾディアックとの戦闘することは想定ができない事態に陥る可能性があったため、合性が致命的に悪かった
バリューは滅魔装甲を纏っていたため、ゾディアックとの戦闘は優勢に働いたであろう
しかし、ライトがアントと戦っていたならば、ライトに勝ち目はない
対魔の力が皆無であるライトは『取捨選択』によって、達磨にされるのがオチである
ライトが先制でアントの喉を狙ったのは、アントの力を封じるためでもあり、少しでも勝率があると思われるゾディアックと戦うためでもあった
しかし、結果がこのありさまである
(本当、笑えないな・・・)
痛みを堪え、どうにかその場から移動しようとした時、足音が近づいてきた
(くそ・・・。動けない・・・)
痛みと上に覆い被さる瓦礫によってライトは身動きが取れない状態だった
ゆえに、逃げることも反撃することもできない
(・・・ここまでか)
少しずつ体にかかっていた負荷が軽くなっていく
ガラガラと音を立てていることから、瓦礫が取り除かれているようだ
ライトは死を覚悟しつつ、反撃の体勢を整え・・・
「・・・早くして!でないとライトが・・・!」
「うるせぇ!これでも全力でどかしてんだよ!そもそも、オレの左腕壊したのアンタだろうが!」
「・・・あー、ここまで、飛ばされて、いたか」
ライトが激突した建物はちょうどバリューたちが戦っていた付近だった
ゴーレムの蹴りはバリューたちのいる方向へと向いていた
そのままだったら見えない壁にぶつかり、即死していた所であったが、アントが倒されたことで、見えない壁が消え、それにぶつからなかったことは幸いだった
その代わり1キロほど蹴り飛ばされていることになったが・・・
ブロウの左儀腕が見えた、壊れかけのあれでよく瓦礫をどかせたものだ
「ライト・・・!大丈夫⁉しっかりして‼」
「・・・悪い。足止め、ぐらいしか・・・」
「喋らないで!とりあえず傷を塞がないと・・・」
「・・・アンタ、急に女っぽい口調になってるが、それ素か・・・?」
ブロウがバリューの中身に怪しみ始めているが、そんなことはいざ知らず、バリューは自分に掛けていた『大地の祝福』を、ライトへと効果を移す
「おい、バリュー・・・!お前も、怪我が・・・!」
「この程度で立ち止まっていられない。『祝福』をさっきまで使ってたから、私は大丈夫!」
「だが・・・」
食い下がろうとしたライトは、鎧の中から見える瞳に、声が続かなかった
鎧に付着した血痕を見るに、バリューの受けたダメージは相当の物だとすぐにわかる
だが、兜の隙間から見える、その有無を言わせぬ鋭い瞳に、ライトはいつも逆らう事が出来なかった
「あの悪魔が、こっちに向かってきてる。ライトは傷を癒すことに専念して。あいつは私達でどうにかする」
「・・・オレもか⁉」
「当たり前でしょ⁉手足奪った仇じゃない!」
「えぇ・・・」
バリューは嫌がるブロウを引きづって、ゴーレムが倒れている方角へと向かった
「では、お言葉に甘えて、少し、休ませてもらうか・・・」
こっそりと教えてもらったが、バリューは女らしい
俺よりも身長が高ぇし、重厚な鎧を着ていたから男にしか思えなかったが、そういえばオレの同僚騎士の二人組も女だったし、案外騎士には女が多いのか・・・?
てか、主様も女だし、あの城は女だらけなのか・・・
・・・主様も同僚騎士どもも、帰ってこないオレの事を怒ってんだろうな
「・・・ぼけっとするな、来たぞ」
「・・・わかってんよ」
相変わらず無傷の赤スーツがそこにいたが、明らかに消耗しているのが見て取れる
黒髪・・・ライトといったか
アイツはただ無駄にやられてきたわけではなさそうだな
「おや、もう片方は『炎熱』だったか。『誠実』はゴーレムに蹴り飛ばされようが、しぶとく生き残る奴だと思っていたが、存外、あっけなく死んだのだな」
「・・・残念だが、ライトはまだ生きている。流石に、怪我が酷いからその場に残して来たが」
「・・・言葉使い戻す必要あるか?」
無言で殴られた
痛てぇ
「・・・だから、貴様は私達がここで倒す」
「手足の恨み、晴らさせてもらうぜ!」
「そうか、そうか!やれるものならやってみろ!わたしに歯向かったことを死ぬまで後悔させてやろう!」
右足は動きが悪いし、左腕は今にも壊れそうだが、そんなことは関係ねぇ!
おれの手足を奪ったことが最大の悪手だったと思わせてやるよ!
(ライトがあそこまで追い詰められていることは、相当厄介な相手のはず。油断してしまったら、恐らく殺られる・・・!)
バリューは剣を握りなおし、ゾウを再度見やる
ライト曰く、ゾウは、大悪魔ゾディアックであり、人の肉体は自動修復するが、本体であるナイフを壊せば、ゾディアックは消滅するそうだ
よくよく見ると、ナイフに薄っすらと罅が入りかけている
おそらく、先ほどの戦闘で、ライトが破砕しようとして与えた傷だろう
だが、まだ破壊するには傷みが足りない
(ならば、その腕ごと切り捨てるのみ!)
バリューはあえて剣を大きく後ろに反らし、ゾディアックへと駈け出す
『滅魔装甲』のおかげである程度の耐性を持ち合わせているため、そう簡単に傷を負った体に攻撃は入らないことを考慮した、捨て身の一撃
それを見切ったかのように、軽く体を逸らして、ゾディアックはバリューの首筋へとナイフを振り下ろそうと逆手に持ち変える
そのわずかなスキをバリューは狙っていた
体の重心を一気に後ろに傾けつつ、左へと体を回す
後ろへ反らした剣は、バリューの剛力と重心移動によって、残像を残す速さと一帯の小さな蒸気機関を吹き飛ばす威力で、ゾディアックの右腕を切り上げ、上空へ吹き飛ばした
想定外の動きにゾディアックは怯むも、残った左腕に力を籠め、バリューの頭部へ掌打を打ち込む
(腕は落とした!後は頼んだよ、ブロウ!)
体勢を自ら崩していたバリューにはその一撃を防ぐ術はない
爆発音とともに、バリューは地面にのめりこむようなほどの一撃を叩き付けられた
そして、魔の力を封殺できる鎧でも、外側からの純粋な衝撃を受け止めきれない
兜の変形はないものの、その場で動かなくなった
「貰ったぁぁぁぁぁ!」
上空へ跳ね上がっていた腕を、ブロウは左腕で掴み取り、勢いよく握りつぶした
「どうだこの野郎!これでアンタは・・・!」
勝利宣言をしようとしたブロウはその光景に口を噤まざるを得なかった
「「「「これで、消滅する。とでも言いたかったか?」」」」
そこには
四体のゾディアックがブロウをみて嗤っていた
「なん・・・だよ・・・アンタ。死んだ・・・はずじゃ・・・!」
「腕を切り飛ばす程度の考えしか持ち合わせていなかったか」
「流石は人間だな」
「実に浅はかだ」
「自らの愚かさを呪って」
「「「「死ぬがいい」」」」
前後左右から、真紅の凶刃がブロウの体を引き裂きに襲い掛かった
「ひっ・・・!」
「「やらせるか・・・!」」
四方の凶刃はその場でピタリと動きを止め、四人のゾディアックが睨んだその先には
二人の血塗れの騎士が剣を構え、ブロウの盾となっていた
「あ、アンタら・・・!そこまでオレを守る必要なんて・・・!」
「ブロウ、別にお前を守っているわけじゃない。俺たちだけではこいつは倒せない。だから、お前がいなくなったら困るだけだ。それに、あの悪魔には用が残っている」
「・・・ブロウ、貴様は死ぬべきではない。貴様には帰り道がまだ残っている。私達にはそれがないだけの事。・・・まあ、私たちにもやらねばならないことはまだあるがな」
血塗れの二人組は静かに語る
失った過去を悔恨しているかのように
「見ていて虫唾が走るな」
四人のゾディアックは無表情で語る
「馴れ合いか何かは知らないが、所詮命短き人間ごときが何を言う」
「何が騎士だ。所詮何も守れず、奪うことしか出来ぬ癖に」
「全てを滅ぼされようと、必死に抗おうとするその目が悍ましい」
「キサマら人間どもの欲が汚らわしい」
不快感を催しているゾディアックを見て、ブロウはあることに思い至る
「・・・なあ、ゾウ。アンタがやっているのは、契約者であるアントがやろうとしていた復讐に違いないんじゃねぇか?」
「・・・何のことだ?」
「・・・なるほど、仇討ちとはまた、悪魔らしくない行動だな」
「仇討ちか・・・クックック・・・。キサマらはどうにかしてわたしを動揺させようと言葉を繋いでいるのだろう?それか本当にそのように見えているのかもしれないな」
「生憎、わたしは人間の死を悼む心など持ち合わせていないのでね」
「確かに、キサマらによってアントが殺されたのは、わたしの計画に穴が開く痛い代償である」
「だが、貴様らを殺し、再度力を蓄え、また新たな契約者を探せばいいものよ」
ゾディアックはブロウの言葉を聞き、滑稽だと嗤う
「・・・そうか、仇討ちか」
「相変わらず話を聞かぬ愚か者たちだ、わたしは・・・」
「お前がなぜ、この場に居座っているのか。それを漸く理解できた。お前は・・・」
「アントを愛していたんだな」
「・・・このわたしが?人間を?・・・下らん与太話だな」
「この場に留まっている理由は、俺たちを逃がしたら後々厄介になるからだと、さっきまで勘違いしていたが、それならば、力が半分ほどしかない状態で、『滅魔装甲』のバリューに衝撃波を当てる戦い方をするといった、大悪魔とは思えない、感情的な行動を行う筈がない。負ける可能性がある戦いに身を投じる、愚かな行為をな」
「負ける可能性がある戦い・・・?」
「人間風情が・・・!死にぞこないの癖にやけに偉そうだな!」
「確かに『滅魔装甲』は厄介な代物であることは確かだ」
「だがどうだ?それを纏う中身はボロボロの人間、そんな死にかけな奴にわたしが負けると?・・・片腹痛いわ!」
「お前が言っていることが真実だとしても、おかしな部分がある。俺がゴーレムの両腕を砕いた時だ。俺がお前の不意を突き、少しアントの事で煽っただけであの怒り様。まるで、愛する我が子を馬鹿にされたようだった」
「わたしの最高傑作だった!怒りは当然湧くに決まっているだろう!」
「・・・そういえば、アントが死ぬ間際にうわ言で言っていたが、祖国を滅ぼしたそうだな」
「ああそうだ!その力を見て、わたしはこいつを選んで正解だったと思ったさ!」
「・・・ではなぜ、国を滅ぼすほどの経験を積んでなお、経験不足だと見越し、アントの傍についていた?」
「それは・・・!暴走されたら困るからだ!」
「そういや、アントはいつだってオレの手足を奪えたはずだったな。じゃあ、なぜアンタがアントの欠けた部分に当たる部位を切断して、献上しようとしてたんだ?」
「・・・!それは・・・っ‼」
いつの間にか、ゾディアックは三人から距離をとり、分身が消え去っていた
「最初の目的は、さっきも言ったが人類の滅亡だった。だが、アントと共に行動し、共通の願いを持つことによって、次第に愛着が湧き、依存の関係へとなってしまった」
「違う!わたしは・・・最初から・・・‼」
「・・・どう違うんだ?貴様は最初からアントの意見を優先していた」
「そうだな、何かあったら、いつもアンタが先に動いていた。アントを守るかのように、過保護なほどにな」
「・・・っ!五月蠅い‼所詮はキサマらのただの妄想にすぎん!無駄な会話はここで仕舞いだ!」
苦悶の表情を浮かべ、喘ぎつつも、ゾディアックは左腕を前方へ突き出す
途端、先ほどの倍以上の数に分身する
しかし、三人には先ほどのように追い詰められた表情をしている者はだれ一人いなかった
「・・・残念だが、それはもう対策している」
「いくら増えようと、どれが本物かもう判っているぞ」
「要するに、全員ぶっ潰せばいいんだろ」
「人間風情が・・・!キサマらに、やられるほどわたしはやわではないぞ‼」
ゾディアックの紅い凶刃が、全方位から三人へと襲い掛かった
「・・・まずは止まってもらおうか」
「・・・っ!何だこの草は!」
バリューがそう告げると、まるで意思が宿ったかのように草木が伸び、分身していたゾディアック全員の足に絡みつき、動きを阻害する
鉄で舗装されていないカッパーの地面には、数は少ないが、力強く育った植物とそれに宿りし精霊がいた
そのおかげで緑の精霊術『萌ゆる縛芽』を発動できたのだ
「動かない的ほど、当てやすいものは無ぇな!」
動きが鈍くなったゾディアックの分身を、ブロウが的確に射貫いていく
どれが本物であってもいいように、右手のナイフも打ち抜くのを忘れない
元々、ブロウは近距離戦が不得意である
だからこそ、得意分野である銃撃を伸ばし続けていた
それが、早撃ちや的確な狙撃、相手との位置取りなどに生かされた
「くそ!」
あっという間に分身の姿は少なくなりつつあったが、ゾディアックもそれを補うように分身を大量に作り出していた
(精霊術も銃撃もいずれは尽きる!それまでしのぎ切れば・・・!)
「本体はお前だろ?分身の陰に隠れすぎていてバレバレだ」
「しまっ・・・!」
ゾディアックは後ろから聞こえたライトの声に動揺し、振り向きざまにナイフを振るう
そのナイフは運よく、避けきれなかったライトの右肩を深く裂いていた
「はっ!調子に乗った割には避けきれていないじゃないか!」
「本当に、そう思うか?」
ライトは静かに、斬られ、動きが鈍る右手で、肩を裂いたナイフを持つゾディアックの右腕を強く掴む
「ようやく、捕まえたぞ」
「まさか、きさま!」
ゾディアックが気付いた直後、ライトは肩に刺さったままのナイフへ
剣の柄底を叩きつけた
・ ・ ・
自らが悪魔であると自覚したのはいつだろうか
随分と昔のようにも感じるが、つい最近の事であるとも感じる
少なくとも、アントと出会う前までに大悪魔となっていたことから、中々の古参か力を持つ新人かのどちらかであろう
悪魔としての望み、神々の滅亡を成し遂げようとしたのはいつからだろうか
はっきりとしては思い出すことが出来ないが、生まれたばかりのわたしは、何かに対して激しい憤りを覚えていた
だからこそ、憎悪の悪魔となり、それ相応の力を得ることが出来たのだろう
・・・いつからだっただろうか
わたしがアントの事が愛おしく感じるようになったのは
初めて会ったときは怒りに燃える姿が自分の様で親近感が湧いたが、所詮はただのガキ、利用できるところまで利用しつくしてやろうと思っていた
わたしの指示で国まで滅ぼした時、こいつはさらに強い力を得られると思い、アントの旅路へと同行することにした
その予感は的中し、アントは様々な力を得つつ、わたしとの契約で奪われた半身を少しずつではあるが取り戻しつつあった
その姿を見て、なぜか誇らしく思った
わたしを超える大悪魔・・・いや、悪魔王、悪魔神へと昇華できる逸材だと本気で思った
そして、アントをその器を持つ者にするために、わたしはアントの望みを叶えることに勤しんだ
欲するものは全て与えた
邪魔なものは全て排除した
アントに不必要なことは何一つ残さなかった
それでも、アントは幸せそうではなかった
ずっと一人でいるように感じる
そう言われた時、なぜかこれまでに感じたことが無い絶望感が思考を埋め尽くした
アントはわたしよりも上へいってほしかった
幸せに満たされてほしかった
だが、わたしは力不足だった
最期の最期まで、彼に幸せを与えてやることが出来なかった
・ ・ ・
「・・・終わった、のか?」
「・・・ああ、ライトがやってくれた。・・・って、右肩!」
分身が全て消滅し、力を消耗した二人はゆっくりとライトの元へ向かっていたが、ライトが右肩に深い裂傷を負っているのを見るや否や、バリューは駈け出す
「そうか、お前は・・・」
「ライト!肩‼」
当の本人はそんなことはいざ知らず、地面に転がっている刃が根元から折れたナイフを見て呟いた
「すぐに手当てを・・・!」
「あ、バリュー。ゾディアックの正体が分かったぞ」
「あーもう‼それよりも傷が先決だから‼刃抜くからね‼」
「うぇ・・・痛そう・・・」
肩に刺さったままの刃をバリューは思いっきり引き抜き、血が噴き出す
見ていて痛々しい光景にブロウは顔を顰めるも、ライトは感覚が麻痺しているのか、表情がほとんど変わらなかった
「・・・はい、応急手当て完了。『大地の祝福』も使ったし、これで大丈夫のはず。さて、話を・・・」
「済まない、漸く正気に戻った。先にバリュー、君の頭の手当てからだ」
「・・・オレには何もないのかよ」
「「怪我してるようには見えないが?」」
「はいはい・・・」
バリューの兜を外し、割れていた額の手当てを終えると、ライトはその場に座り込んだ
「みな疲れているだろうし座って話そう。」
座った直後、待ちきれないかのようにブロウが口を開いた
「・・・で?ゾディアックの正体が分かったとか言ってたが、アイツは悪魔じゃねぇのか?」
「ああ、奴は第悪魔だ。その点は間違ってないぞ」
「じゃあ・・・前世ってこと?」
「そうだ。恐らくだがゾディアックは」
「アントの実父だ」
「・・・は?んなことあんのかよ」
「あり得なくは無い話だけど、そんな事は聞いたことない・・・」
疑問府が頭に浮かんでいる二人にライトは言葉を続ける
「バリュー、アントの父親はいつ亡くなった?」
「十三年前だけど・・・」
「ゾディアックが存在を確認されたのは十三年ほど前だ」
「あっ・・・!」
「そう、アントの父親の死亡時期と、ゾディアックの存在が確認された時期が同時期なんだ」
「けどよ、そんな事あり得なくないじゃねぇか。偶然の一致かもしれねぇぜ」
「いや、それだけじゃないんだ。俺がゾディアックと戦っていた時、一度だけ自身が冠する名前の表情、憎悪の表情をした時があるんだ」
「そしてその時、ちょうどアントの命が尽きた」
「・・・契約が切れたから、ゾディアックがそのことに気付いたって感じか」
「そうだ。普通、悪魔は人間を道具のようにしか見ない。だから、契約者が殺されたことによって、自分が冠している名前の表情を見せるとは思わない」
「そうか・・・あのスーツは息子を思っていたのか・・・」
ブロウは溜息を吐き、空を見上げる
空からはいつの間にか雪が降り始めていた
「・・・オレはここで捨て子として育った。だから、そういったことはよく分かんねぇ。・・・けど」
ブロウは静かに瞳を閉じ、再度口を開く
「少し、羨ましく思った。オレも、誰かに幸せを与えたい、誰かに幸せを貰いたいと・・・そう思った」
「・・・ブロウ、あなたは一人ではないでしょう?」
「ああ、お前は『十忠』だ。守るべき主がいるだろ、たまには、甘えてもいいんじゃないか?お前の出生を知っているなら尚更だぞ」
「は、恥ずかしいじゃねぇか!柄に合わねぇよ!・・・てか、雪が強くなって来たじゃねぇか、早く屋内に入ろうぜ!凍え死ぬとかオレは嫌だぜ!」
いそいそと顔を隠しながら建物へと駈け出すブロウを見て、二人は顔を見合わせ笑い出す
カッパーでほんの少し生き残っていた蒸気機関が、彼らの体をほんの少し温めているかように見えた
お疲れ様です、左之亜里須です。
いつものように拙い部分が多々あったかと思いますが、ここまで読んでくださってありがとうございます。
二部予定と言ったな、あれは嘘だ。(三部になってしまい、申し訳ないです(;´・ω・))
復讐の末路、それは他人から怨嗟を受け、復讐の復讐をされる可能性を生み出すだけなのではないかと筆者は思っています。
後悔によって得られたものは、自らを強くしますが、後悔するような行動をしてしまったことは、二度と消えてなくなりません。
今、自分が何をしたら最善の結果となるのか・・・
それは、誰にも分かりません。
しかし、他人の幸せを奪って、自らの幸せを満たす行為は、必ず自らの身も滅ぼすことになるのではないでしょうか?
読者様はどのように考えられますか?
その答えがこの物語で見つけられたら幸いです。
次回作もまた見て頂いたら嬉しいです。
それでは、より良い日々を・・・
今回、文字数がおよそ三万文字あります・・・
前回もなかなか長かったのに、今回は前回の倍・・・
そして、まだ中編・・・
短編とは一体・・・うごごごごごごg(ry