Wrap up the lord of knight 作:影斗朔
降り続ける雪の中、寸胴な鉄塊は自らについて問いていた。
わたしは一体何者だろう。
廃塊のゴーレム。
他人から与えられた命。
存在理由は主の命のみ。
それなのに何故だろうか?
わたしには意思がある。
わたしは思考できる。
そして、心がある。
その心から何者かが叫んでいるのだ。
何と言えばいいのか分からないが、急かされているような気がする。
・・・国の中心へ行こう。
きっと、望みが全て叶う。
と心の底で何者かが叫ぶのだ。
主はもう居ない。
私の存在理由もない。
けれども、心が叫んでいるのだ。
何故か、その叫び声を止めてあげたかった。
だから私はただ前へ、前へと進もう。
そして鉄塊は再度立ち上がった。
誰からの命を受けず、自らの意思で・・・。
城へゆっくりと歩み始めた。
*
「そういや、あんたら『十忠』なんだよな?どうして旅をしてんだ?」
降り続けている雪を廃墟の中から見つつ、ブロウは尋ねた。
「『十忠』と言っても、元、が付くけどな」
返事に応じたライトは、バリューから『大地の祝福』を受け、傷を癒している。
切り傷はある程度塞がっているが、ゴーレムからの攻撃で、体内に相当のダメージを受けているため、まだ治癒する必要があった。
「元・・・?ってことは、剥奪されたか何かか?」
「どちらかと言ったら、私たちは自ら返還?したようなものかな」
今度は隣にいたバリューが返事を返す。
先ほどまで、鎧の調子を確かめる為、鎧を全て脱いでいたが、確認が済むや否や、また鎧を装着していた。
(常に鎧を装着してないといけない病にでも罹ってんのか・・・?)
その様子をチラチラ見ていたブロウは疑問に思いながら話を続ける。
「・・・?つまり、今は騎士ですらなく、ただの浮浪人って感じか?」
「・・・まあ、そう思ってくれてもいいが、俺たちの存在は秘匿してくれ」
「なんでだよ?」
「私たちは死んだことにされているから」
「・・・その割には声高に自分のことをアピールしてなかったか?」
「・・・ああ、昔の癖でな」
「相手を威圧させるためにも、何かあったら口走るようにしていたんだけど・・・」
ブロウは呆れがちに二人を見回す。
「・・・『十忠』って変な奴しかいないのか?」
「他の『十忠』に会ったことが無いから、性格云々に関しては何とも言えないが、宣言は覚えておいて損はないぞ」
「使わないって思っていてもいずれか使う時が来るからね・・・」
「それ、本当か・・・?」
(もしかしたら、オレもいつか、ああいった宣言を言う時が来るのか?)
ブツブツと独り言を呟きながら、ブロウは頭を何度も捻っていた。
「おい、雪が降りやんだらどうするんだ?」
「あん?決まってんだろ、このことを報告しにホームの城まで・・・。いや、暗部が無事かどうか確認してぇな・・・。じじいの死体もちゃんと墓に入れて弔ってやりてぇし・・・」
「報告って、私たちも付いて行かないといけない?」
「たりめーだろ!お前らが暴れまわったんだし、奴らのこともわかってそうだから、居なくなられたら困んだよ!」
「まあ、それは仕方がないとして、結局どうするんだ?」
「そうだな・・・。じゃあ、まずは暗部が無事か確認しに行くか。丁度雪も弱まってきたことだしな」
ブロウが怪我の治癒を終えた二人から外へと目を移すと、雪で少し白くなった地面と粉雪がまばらに降る程度だった。
「そういや、あんたらに壊されたせいでめっちゃ歩きにくいんだぞ!どうしてくれんだよ!ったく・・・!」
暗雲立ち込める空を見上げつつ、文句を吐きながら、ブロウは外へ足を踏み出した。
――轟音。
大地が大きく揺れ、悲鳴のような金属音が断続的に辺り一帯に響き渡った。
「な、なんだよ一体!?」
「っ!今のは!!」
「ちょっ!?揺れてんのに上へ上る奴がいるか!」
心当たりがありそうなライトが瓦礫を伝い、上へと上り、バリューも巨大な鎧をまとっているにもかかわらず、駆け上がるようにその後へと続いた。
「ああああああ!くそ!この命知らずどもが!」
それを見ていたブロウも、その場に居ても何もできないと悟り、二人の後に続き、棒のようになってしまった足を酷使しながらもゆっくりと登り始めた。
「やはりあいつか・・・!」
「あの・・・人みたいなやつ?」
「あれは、悪魔と戦った時に作られたゴーレムだ。主が死んだ以上、動くことはないはずだと過信していた・・・!」
「つまり、どういうこと?」
「あのゴーレムには、恐らく魂が宿ってる。ああいった、人の形を模した無機物には稀に魂が宿ることがあるんだ。先ほどの揺れや音はその影響で起きたものだろうな。宿った魂が無害ならいいんだが、大体は有害なのが・・・」
「はあ、はあ。お、置いていくなよ!」
ライトが話している途中でブロウが息を切らせつつもどうにか追いついた。
「あれがさっきの原因か?」
「ああ、俺がゾディアックと共に相手していたゴーレムだ」
「・・・なあ、そいつ、移動してないか?」
「え、嘘!?私の目でも動いているか見えないんだけど!?」
「おいブロウ!あいつはどこへ向かってる!」
「・・・マジかよ!?」
「ねえ!どこへ行ってるの!?」
「・・・まさか、ホームか?」
「っ!それって、まずいんじゃ・・・!」
「まずいどころじゃねぇ!中心街だとカッパーの十倍を超える人種がいるんだぞ!それに主様の城もある!もし壊されでもしたら、国そのものが無くなるかもしれねぇ!」
「それじゃ、早くどうにかしないと・・・!」
ふと、思い出したかのような表情をした後、ブロウの顔は段々と強張っていく。
「そりゃあ、どうにかしてぇけどさぁ・・・!あんたらが俺の足壊してから、移動すらままならねぇんだぞ!」
「何!?またその話!?散々暴れてたくせに、私たちのせいっていうの!?」
「そうだよ!元はと言えば、お前ら」
ぎゃあぎゃあと罵りあっている二人を無視して考え込んでいたライトは、溜息を吐いたのち、二人の方へと向き合う。
「なあ、バリュー。どうにか俺をあいつのところまで・・・」
「嫌」
「嫌とか言っている場合じゃないだろ!」
「まだ回復しきってないのにあんなところまで飛ばして、一人で戦うなんて無謀すぎる!」
「だからって・・・!」
「大丈夫!それよりも、あのゴーレムを止めるいい手段があるから!」
そう言って、バリューはライトに耳打ちする。
それは、精霊術師であるバリューにしか出来ず、それ以外の選択肢を選ぶよりかは、比較的成功率が高い手段。
「・・・わかった、それで頼む」
少し考えたのち、落ち着きを取り戻したのか、ライトはバリューの意見を呑んだ。
しかし、その様子をブロウは黙ってみてなかった。
「おい、ちょっと待て!あんたらあれを止めるってのか!」
「ああ、あれが作られた原因は俺にあるしな」
「それに、私たちが止めなきゃ、多くの犠牲者が出るかもしれないでしょ?」
「そうだとして、その怪我で行かなくてもいいだろうが!」
「「じゃあ、誰があの怪物の動きを止める?」」
二人の視線にブロウは一瞬怯むが、そのまま、言葉を続ける。
「ここには俺と同じぐらい戦闘技術に優れている奴がゴロゴロいる!そいつらがきっと・・・!」
「それは無いな」
「は?なんでわかんだよ!」
「俺たちが戦っているときに、なぜそいつらは出てこなかった?」
「そんなの、関わりたくないからに決まっているだろ!」
「じゃあ、なんで私たちと関わりたくないと思っていたの?」
「自分たちの利益にならないからだろ!」
「ああそうだ。利益よりも不利益になりそうなことしかないからな」
「不利益・・・?そうか・・・!」
あの二人組は欠けた体の代わりとなるものを探しつつ、虐殺を繰り返していた。
虐殺の噂を聞いた者は、よっぽどの命知らずでない限り、彼らに関わりたがらないだろう。
そして、自らの実力に自信があった実力者でさえも、彼らに敵わず、返り討ちにされていたことを、ブロウは思い出した。
「自分の命を懸けるほどの利益が無いから、あいつらはさっきからこの件に関わってこないのか!」
「誰だって、自分の命は大切なものだしね」
「そうか・・・!そういうことなら、ゴーレムに至っては、寧ろ、奴らにとって大喜びの代物だってことか!」
ライト達が罰としてカッパーへ更迭されたように、罪を犯してカッパーへ更迭された者は少なくない。
当たり前だが、そういった者たちは中央を憎んでおり、いつか滅ぼしたいと思っている者も多々いるだろう。
「オレたちがゴーレムを止めようとすると邪魔しに来るかもしれねぇ・・・!」
「まあ、十中八九邪魔しに来るだろうな」
「だから、邪魔されないようなやり方で止めるしかない」
目の前にいる二人組は、すでに戦闘態勢に入っていた。
「――どうしてだ」
見た目は殆ど治っているが、体内は未だ万全の状態ではないはずである。
だが、引くような素振りは一切見受けられなかった。
先ほどの戦いでも、ブロウから受けた傷を引きずった状態での戦闘だったにも関わらず、二人は一度も撤退しなかった。
ブロウにはそれが分からなかった。
「・・・どうして、あんたらは故郷でもない国の為に戦えるんだ?」
「どうして・・・か」
「私達にも明確な目的は無いけど」
口を濁らせつつも、二人ははっきりと告げる。
「自分の本心に、常に忠実でいたいからだ」
「何があろうと、絶対に諦めたくないからかな」
「・・・そうか」
『十忠』の本懐、それは心の持ちようなのだろう。
『誠実』のライトは何に対しても誠実であろうとしている。
『不屈』のバリューはどのような障害であっても諦めようとはしない。
それなら、『信念』であるブロウは・・・?