Wrap up the lord of knight 作:影斗朔
(オレには、何ができんだ・・・?)
ブロウには、何もない。
戦うための手足は二度も奪われた。
・・・正確に言えば、二回目は自業自得の結果なのだが。
ゴーレムを倒すための武力を、現状、持ち合わせていない。
また、ゴーレムへと近づく手段も無ければ、それらのデメリットを改善・超越できるような思考も持っていない。
だから、ブロウは何もできない。
・・・だが、本当にそうであろうか?
(何もできない・・・、んなわけがあるか!絶対、オレにだってやれることがあるはずだ・・・!)
『誠実』のように、偽らない心など持ち合わせていない。
『不屈』のように、何物にも屈しないことなど出来ない。
それでも、ブロウには『信念』がある。
(そうだ、オレもあの時大声で宣言してたじゃねーか)
幼いころに心に誓った決意を、あの日、自分が叫んだ誓いを久しぶりに思い出した。
それは、何も得られず、得る事を拒んだ自分が、それでも、これだけは持っていると抗ったもの。
(なんだ、この国で生きてきたのに、少し離れただけでこのザマか。笑えねぇな)
・・・きっと、なんだかんだで、昔を忘れたかったのだろう。
暗い路地、乱雑に積み上げられた廃材、身の凍えるような寒さ、錆びた鉄のにおい、怒号、悲鳴、嘲笑、暴言、悪意、怨嗟、復讐心、道端で無造作に転がっている死体死体死体死体死体・・・。
全部全部嫌だった。
早くこんな場所から逃げ出したかった。
残酷で理不尽で救いようがないこの国から出ていきたかった。
だから、ホームへと、枢機者の城へと住む場所が変わって、きっと浮かれていたのだろう。
厭世的だったあの頃のオレでも、国をよりよくしない枢機者への反発心を持っていた状態でも、ホームへの憧れは確かに心(そこ)にあった。
それが、自分を甘やかす、一番の原因となった。
あの世界へと戻りたくない。
今の幸せを噛み締めていたい。
そういった我儘な心が、昔のオレを否定し、心の奥底に仕舞い込んでいたのだろう。
あの頃に誓った決意と共に。
(・・・それじゃ、ダメだ)
今、この場に立っているオレは、ただ自分の弱さから目を逸らしていた。
あの世界でオレを救ってくれた、仄暗い世界で強く生きてきた深部の奴らを、無意識に愚弄していた。
なら、弱いオレに何ができる?
オレは誰の為に、何の為に戦う?
オレの心は、どうあるべきだ?
(・・・そんなの、一つしかねぇ)
ミシリと音を立てるぐらいに、両拳を強く、強く握りしめた。
*
「・・・ああああ!クソッタレ!あんたらに何を言おうが無駄だってわかった!もうオレは止めねぇぞ!」
先ほどまで、考え事に耽っていたブロウは、右手でガシガシと頭を掻きながら、投げやりな口調で二人へ告げた。
「・・・まぁ、なるべく生きて帰れるように戦うさ。俺たちにもまだやることがあるからな」
「心配してくれてありがとう。ヤバいと思ったらすぐ撤退するから、そんなに心配しなくていいよ」
嘘か本当か分からない返事を返し、二人はゴーレムへと視線を見やった。
「・・・その代わりオレも参加するからな、ゴーレム退治」
「「・・・は?」」
驚きの表情を浮かべつつ、再度二人が振り返った。
そこには、二人が知るブロウ・ガルディンは居なかった。
「どうせ、蒸気人形と同じで心臓部があんだろ?」
「あ、ああ。魂はゴーレムのコアに宿るが・・・」
「その、コアってやつは大体、体の中心にあるんだよな?」
「まぁ、そうだと思うけど・・・」
戸惑う二人を気にもせず、ブロウは言葉を続ける。
「あんたらはただ、ゴーレムを足止めしてくれたらいい。オレが、ゴーレムの心臓部を狙撃する。できりゃ、コアの場所に分かりやすい目印をつけてくれたらオレとしては大助かりだが・・・」
「ちょっと待て、狙撃するといったが、銃は俺が・・・」
「んなことは知ってるっつーの!」
確かにこの場にある銃は、先の戦いで弾丸を殆ど使い果たした蒸気拳銃だけであり、残りの銃器は全てライトに壊されてしまっている。
例え、奪われた銃器が一切壊されてなく、ブロウの手に戻って来たとしても、あんな巨大な鉄くずを打ち抜く威力がある物など一つも無かっただろう。
・・・だが、ゴーレムを倒す為の材料なら、ここにいくらでも転がっている。
「だから、ここにある廃材をかき集めて、一発撃ちきりの特製蒸気砲を作る。そいつで奴をぶち抜く」
奇想天外、荒唐無稽、破天荒で後先を考えていない言葉に、ライトは真顔になる。
「・・・簡単そうに言うな。お前の狙撃の腕は知っているが、即席で作った砲を使って一発で心臓部を射抜くなんてこと、到底出来そうに思えない」
「出来る出来ないの問題じゃねぇだろ!やるんだ!あんたらがさっき言ってた、いい方法ってのは何のことだかさっぱりだが、あんたらのその武器で、体内の中心にあるゴーレムのコアを壊すことは出来そうに思えねぇ!」
「・・・なるほど、つまり俺たちが考えなしに突っ込んでいると言いたいのか?」
意見を否定されたのが癪に障ったライトが、ブロウへと憎らしげに返事を返した。
「ちげーよ!馬鹿にしてる暇があったら、オレ一人だけでさっき言ったことを実行してるっつーの!」
ブロウは荒くなった口調を抑えるために一度言葉を区切り、ゆっくりと口を開く。
「オレが言いたいのは、あんたらの作戦にオレの作戦を引っ包めろってことだ。そっちの方があの鉄塊を止められる確率が高いだろ?」
ライトは少し目を閉じ、ブロウの言葉を反芻する。
「・・・なるほど、思うように動けないから、その場で狙撃する・・・か。だから、俺たちに足止めを頼むわけだな」
そう言う顔には先ほどまでの怒りは無く、代わりに微笑が浮かんでいた。
「・・・まあ、『今のオレにはこれぐらいしか出来ねぇが、何もしないのは恥だ!自分を許せねぇ!』っていうのが本心だろ?」
「いちいち余計なことを言うんじゃねぇよ!こっ恥ずかしくなるだろうが・・・!」
恥ずかしさでぼそぼそと小さくなる声をどうにか引き戻す。
(オレだって出来そこないなのは承知だが、『十忠』の一員だ。だったら・・・!)
もうどうにでもなれと、ブロウは声を張り上げた。
「とにかく、誰に何を言われようがもう気にしねぇ!オレはオレの『信念』を貫き通す!それが、『炎熱のガルーダ』の在り方だ!!」
「よくぞ言った!それでこそ、わしの手で生かした甲斐があるもんじゃ!」
ブロウの真後ろ、蒸気機関の瓦礫の陰から、ぬっと人影が現れた。
その人物は白髪に白髭を蓄え、金色の左目と金属質の右目で呆然としている三人を見つめつつ、ニヤリと笑う。
「じ、じじい!生きていたの、か・・・って、なんだその背中の煙突?」
感動の再開と言わんばかりに泣きかけていたブロウは、老人の背から生える煙突を見るや否や、涙を引っ込め、興味深げに観察し始める。
「ええい、いい事を言った割に細かいことを気にしすぎじゃ!そんな物今はどうだってよかろうが!」
しっしっと手を振りつつも、心なしかその顔は嬉しそうだった。
「ブロウよ、その心意気はいいが、お前さんの技術力じゃ、精々表面を削る程度の威力の物しか作れそうにないと思うがの?」
「つ、作ってみないとわからねぇだろ!」
焦り気味にブロウは告げるが、その目はそこらをうろうろと泳いでおり、体もふにゃふにゃと目に合わせるかのように揺れていた。
「・・・まあよい。わしが手伝ってやるわ。ちょいと済まんが、おぬしら、奴をなるべく長く足止めしといてくれんか?その間にわしは、ブロウの腕と廃材を使って蒸気砲を作るんでの」
「貴方がブロウの手足を作った、融合師の老人ですね。分かりました。俺たちに任せてください」
ライトは、先ほどの態度と打って変わり、如何にも誠実そうな態度で老人へと返事を返す。
「おい、ライト!さっきまでのオレとじじいで態度が全然違うじゃねーか!」
「そりゃあ、お前の製造力と融合師の製造力だったら、明らかに後者の方が期待できるからな」
「・・・後で一発殴らせろ!」
「断る」
不毛な言い争いにバリューは溜息を吐きつつ、老人に話しかけた。
「・・・貴方を信頼してお願いがあります。どうか、今から見ることは他言無用にしてもらえませんか?」
「あいわかった。派手に暴れていきんしゃい」
バリューは大きく頷き、ライトへと向き直る。
ライトの方もブロウを適当にいなし、バリューへと近づいた。
「・・・じゃあ、いくよ?」
「ああ、俺たちでゴーレムを止めるぞ!」
ライトの宣言と共に、四人は歩みを進めるゴーレムを睨む。
こうして、ゴーレム進行阻止作戦が静かに始まった。