Wrap up the lord of knight   作:影斗朔

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信念の話(下)Ⅲ

 

後方から嫌な視線を感じた気がした。

 

だからといってわたしは振り返らない。

どうせ金属質なこの体に、五感を感じ取るすべはない。

振り返ったところで、わたしを見つめる者たちが何者かを知ることもできない。

 

それなのに、なぜだろうか?

こんなにも、心から溢れんばかりの熱が吐き出されるのは・・・。

どこからともなくふつふつと湧き出す、荒々しい衝動は・・・。

 

心の叫び声はどんどん大きくなる。

その声は急かしているだけではなく、怨嗟を吐き出し、熱を増していく。

 

急いで国の中心に行かないと、奴らに邪魔をされてしまう!

奴らは全てを奪っていった、許すことなんてできない!

早く!早く!早く!早く!早く!早く!!

憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!!

そうわたしへと苦痛を迸らせるように叫ぶ。

 

わたしはどうするべきなのだろう。

急く心に従って、早く国の中心に行くべきか。

憎む心に従って、許せない奴らを倒すべきか。

 

・・・進もう。

わたしには邪魔者を排除する腕がない。

だけど、目的地へと進むための足はある。

 

たとえ、何者かに邪魔をされたとしても、歩みを止めてなるものか。

 

 

 

鉄塊は歩みを止めない。

瓦礫や建造物を砕きながら。

それらを自らの糧にしながら。

 

 

国の中心をただ、ひたすらに目指す。

 

 

                    *

 

 

「それで、ゴーレムの所までどうやって行くんだよ?ここに足はねぇぞ?」

「大丈夫、()()()いくから」

「・・・は?」

「まあ、見ていたら分かるって」

目を白黒させているブロウを見向きもせず、バリューは目を閉じ、前へと両手を伸ばす。

「貴女たちの住まう国が、今、未曽有の危機に晒されています。どうか、力を貸してください」

「・・・?何やって、むぐっ!?」

「(静かにせい!集中しているのが見て分からんか!)」

バリューへと声を掛けようとしたブロウは、老人に口を塞がれ叱咤される。

「・・・」

口を塞がれジタバタしているブロウを見向きもせず、ライトは黙ってバリューの行動を見ていた。

「・・・っ!」

何かを感じたのか、バリューは前へと伸ばしていた両手をゆっくりと下ろし、静かに目を開く。

両手を下ろすと、先ほどまで何もなかった場所に何者かが立っていた。

「・・・来てくれましたか」

そこにいたのは、二人の女性。

一人は純白の和装を身にまとい、扇子を口元に当てているアルビノの女性。

一人はシースルーの上着を着ている、全身が透明に近い水色の体色をしている女性。

両者とも、この世のものとは思えない、息を呑むほどの美貌の持ち主だった。

「あら、結構若いのね。呼び出しなんてしてくるから、結構お歳を召していると思っていたのだけれど、見当はずれだったみたいね」

「それで・・・、わたしたちはあなたたちに何をすればいいの・・・?」

アルビノの女性は強気な振る舞いであったが、水色の女性は臆病な言動であり、見た目の色と違ってえらく対照的な性格である二人だった。

「あのゴーレムを止めるため、この国を守るために、私と横の彼へ属性付与をお願いします」

バリューがゴーレムへと指をさす・・・が・・・。

「・・・どれよ?」

「あれです」

「どれだろう・・・。全然見えない・・・」

二人の女性はきょろきょろと辺りを見渡したり、目を細めたりしていたが、少しして無言で振り返った。

どうやらゴーレムの姿を見つけられなかったようである。

「と、とにかく、あたしたちを呼び出す理由としては属性付与ぐらいよね。武器にしちゃえばいいんでしょ?」

そう問いかけるアルビノの女性へ、バリューは兜を外して答える。

 

「いえ、肉体に直接お願いします」

 

「正気なの・・・!?精霊の属性付与を生身に使うなんて・・・、力を使うたびに体力をごっそり持っていかれるのと同じなんだよ・・・!?」

バリューが発した言葉に水色の女性は驚き、困惑する。

彼女が言う通り、精霊の属性付与は、魔術師の属性付与とは比べられないほどの絶大な力を得られる。

しかし、代わりに属性付与を行った物が属性を扱う時、疲労が大きく溜まるのだ。

そのため、武器や防具に付与させるとすぐに壊れやすくなり、肉体に付与させると急な倦怠感や脱力感に襲われる。

しかし、生身の肉体に付与させた場合、その肉体を持つ者が属性を武器や防具へと自在に移すことができる。

そして何よりも、この場合、武器や防具には疲労が溜まらない。

それを見越したうえで、バリューは肉体へ属性付与を頼んだのだ。

「私達は結構体力に自信があるからその点は大丈夫です。あのゴーレムを止めるにはこの手段しか無いんです」

渋る水色の女性へとバリューは言葉を続ける。

(結構体力がある・・・?んなわけない。あいつらはこれで三連戦目だ、体力なんてもう残り僅かしかないだろ・・・!?)

ブロウはそんな疑問を口にしたかったが、未だ老人に口を塞がれていて、話すことは出来なかった。

「・・・まあ、あたしたちを呼び出せるぐらいの実力者だし、それが一番いいというなら止めやしないさ」

「あ、ありがとうございます!」

やれやれと白い女性は首を竦め、目の前で頭を下げるバリューを見つめる。

「交渉は成立したみたいだな」

先ほどから一言も喋らず、無言でバリューと女性二人のやり取りを見つめていたライトが漸く口を開いた。

「勝手に話が決まっちゃったけど・・・、君の方はそれでいいの・・・?」

「はい。元はと言えば俺が原因である部分もあるから、何の問題もありませんよ」

水色の女性は心配そうにライトを見つめていたが、当の本人は至って普通の事のように彼女へと返答する。

「あたしは呼び出したあんたへ、こいつはあんたの隣のやつに属性付与すればいいだろ?」

「はい、お願いします」

「あいよ」

「いきますね・・・」

アルビノの女性はバリューの額に、水色の女性はライトの額に触れた。

その途端、彼女らの姿はまるで靄が掛かったかのように薄くぼやけていき、ゆっくりと姿が消えていった。

「・・・もういいかの?」

「はい、大丈夫ですよ」

兜を被り直し、バリューは後ろを振り向く。

老人の手が緩み、ブロウの口の拘束が漸く無くなった。

「ぶはっ!じじい!力強すぎだって―の!てか、さっきまでいたやつら誰だよ?」

「精霊だって言ってただろ?色や地域的に、呼び出したのは氷と水の精だと思うぞ」

「正解。もうそろそろ属性付与が()()と思うけどね」

バリューがそう言うや否や、頭上を立ち込めていた暗雲から霙が一斉に降り出した。

大量の霙は次第に雨と雹に分裂していき、それぞれが一か所へと集まりだす。

そして、雹と雨に分裂した霙は、そのまま二人の頭上へと降り注いだ。

バリューは雹に触れた途端、その箇所が凍り付く。

「あっ・・・」

そして、ライトはバケツをひっくり返したような雨に打たれた。

 

霙が降りやんだ頃には、上空の暗雲が消え去り、この地方では珍しい、太陽が顔を覗かせた。

一方地上のライトとバリューは・・・。

 

「・・・おいバリュー、これで 本 当 に いいんだよな?」

「だ、大丈夫だって!ちゃんと属性付与されているから!」

水浸しのライトが氷漬けになっているバリューへとあたっていた。

だが、バリューの言う通り、二人にはきちんと属性が付与されていた。

凍り付いたはずのバリューはしっかりと体を動かせているし、ライトの方も分かり辛いが、体を水でコーティングされている・・・ように見える。

「そんな睨まなくてもいいじゃん!それに・・・」

「なあじじい、こういう時って・・・あれだ、あの言葉を使うんだよな?」

「そうじゃな、まさに身を以て表しとるな」

三人は一拍置いて・・・。

「「「よっ!水も滴るいい男!」」」」

「やかましいぞお前ら!俺のように水浸しにしてやろうか!?」

 

 

「・・・何か、嫌な予感がするんだけど」

この国ではまず起こるはずがない気象である晴天の空を見上げ、茶髪の騎士が白髪の騎士にぼやく。

「そうだな・・・、確かに変ではあるけれども、今のところ何も感知していないし、杞憂ではないのか?」

白髪の騎士は、辛口だが心配性な相方に軽口を返し、愛読書である風刺小説のページを捲った。

 

ここはクラッドレイン・ホーム、その中心に位置する枢機者の城の上層、玉座から少し離れた仮眠・休憩室である。

ブロウの先輩にあたる二人組の騎士は、現在、休憩時間に入っており、休憩室でしばしの休息をとっていた。

茶髪の騎士はやることが無いのか、外を眺めながら白髪の騎士へずっと小言を呟き、小説を読んでいた白髪の騎士は、茶髪の騎士の小言に空返事をしていた。

「だって、雲が一瞬で消えたんだって!幻か何かを見た気分だわ!」

「おいおい、君が幻を見たっていうのは相当な・・・」

「・・・?どうかした?」

ちらりと窓の外を見た白髪の騎士が急に黙り込んだ。

そのまま本に栞を挟み、茶髪の騎士がいる窓へと近づく。

「ち、ちょっと・・・?」

「なんだ、あれは・・・?」

「・・・え?」

白髪の騎士の呟きに茶髪の騎士は再度、窓の外を食い入るように見つめる。

違和感を見逃さないように凝らされた空のように青い瞳は『それ』を漸く視界にとらえる。

「・・・()()ね?」

騎士とは到底言えそうにない見た目や言動の持ち主で、出来がよろしいとは言えない新入りの故郷であり、姿を消した場所であるクラッドレイン・カッパー。そのホーム寄りの位置に『それ』はいつの間にか存在していた。

暗雲によって一時姿が見えなかった『それ』は、常に蒸気を発生させているのか、陽炎を周囲に揺らめかせていた。

『それ』は、カッパーのどの建物よりも高く・・・かといって、建造物にしては歪な形でバランスも悪そうであった。

それに・・・

「あれって、こっちに近づいてきている・・・?」

 

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