Wrap up the lord of knight   作:影斗朔

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信念の話(下)Ⅳ

「さっき()()って言っていたのはこういうことか・・・」

「そうそう。これなら瓦礫とか気にせずに移動できるからね」

建造物の上を滑るように高速で駆けるバリューの手足からは、強力な冷気を噴き出されており、空気中の水分を凍結させて即席の滑り台を作っていた。

これにより、足が無い三人は蒸気砲を作るための廃材を持って滑り台を滑り、ほぼバリューと同じ速度でその後に続くことで、足場の悪い地面を気にすることなくゴーレムの元へと向かうことができる。

なお、即席で作られた滑り台だから当たり前なのだが、四人が通り過ぎた少し後に滑り台は壊れてしまい、速度を少しでも落としてしまうと、最後尾の人物は地面へと叩きつけられることになるので、速度を落とすことは出来なかった。

・・・ちなみに、最後尾はブロウである。

「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!!はええええええぇぇぇぇぇぇ!!うぉおおおおおおおおお!!後ろおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「全く、五月蝿いやつじゃのう・・・」

大騒ぎするブロウを後ろ目で見つつ、飄々とした口ぶりで老人が悪態を吐くが、その顔は心なしか強張っていた。

「それで、属性付与されたのはいいが、どのように使うんだ?」

先ほどまで三人に弄られていたライトが問いかける。

「うーん・・・。説明しにくいんだけど・・・、ライトの場合は水だから、流れとかを意識したらうまくいくと思う」

「流れ・・・か」

バリューから説明されるも、いまいちピンと来てないのか、ライトは手を組み思考し始めた。

 

「・・・はい、着いたよ」

五分程度で、ゴーレムから一番近い、平坦な屋上がある建物へと到達した。

滑り台から降りたライトは後ろが詰まらないよう、移動しつつ伸びをする。

「なかなかに快適な移動方法だった・・・っておい、お前ら大丈夫か?」

「はあ、はあ。もう、無理。疲れた・・・」

バリューは両手両足を投げ出して仰向けに倒れこんでいた。

力を使いながら、建造物の上を走り、ゴーレムの後を追い続けていたことで、疲労が相当溜まったのだろう。鎧越しからでも分かるぐらいに、大きく深呼吸していた。

また、使った氷の量が見た目に反映されるのか、鎧の氷は二割ほど解け落ちていた。

「老体にはちと辛いぞ、あの滑り台は・・・」

老人も、壊れた蒸気機関を杖代わりにして、よろよろとライトに近づく。

・・・だが、ブロウの姿がどこにも見えなかった。

「あいつ、まさか落ち・・・!?」

「今はあやつのことをほっといてやりんしゃい」

老人は酷く悲しげな表情を浮かべる。

「ですが・・・!?」

「さっき口を押えて裏の方へと行きよってな・・・」

「あっ・・・」

ライトは漸く察した。

滑り台の移動で快適だと感じていたのが自分だけだったということに。

 

少し時間を置くと、青白い顔をしたブロウが戻って来た。

だがまだ喋れそうな状態ではないなと思い、ライトは声を掛けようとして、止めた。

「・・・とにかく、わしはブロウと蒸気砲を作っとくから、お前さんらはなるべく早くゴーレムの足止めを頼むぞ!」

「分かりました、任せてください。いくぞ、バリ・・・」

ブロウが振り返るも、未だバリューは仰向けのままだった。

「はあ、はあ。ゴーレムを、止める、一番の、方法って?」

「・・・そりゃあ、足さえ壊せば手が無いあいつが移動することは出来なくなるだろうな」

「壊せ、なかったら?」

「そうだな・・・、その時は氷漬けにでもしてくれ」

「りょーかい。じゃあ、先に足へ、攻撃しといて。私は、ちょっと、休憩」

「あいよ」

(俺たちの足になってくれたんだ、今、無理をさせるわけにもいかないしな)

仕方がないと思いつつ、ライトは屋上から瓦礫を伝い、地上へと降りた。

 

地上はゴーレムが歩いた跡がまるで轍のようにくっきりと残り、踏みつけたであろう潰れた蒸気機関から熱が発せられていた。

そして、ライトがいる場所から二十メートルも無い所で、ゴーレムが慎重に歩みを進めていた。

「くっ・・・!」

ゴーレムが一歩、歩みを進めるだけで蒸気による熱暴風がライトの立つ場所にまで吹き荒れる。

「くそ、蒸気が邪魔だな。さっきまで全く動いていなかったのに、今になって機関が再始動しているのか・・・。これじゃ、近づきたくても近づけない・・・!」

ゴーレムの両腕を落とす時には何の問題もなかったのだが、いつの間にか、ゴーレムの体を構築している、壊れているはずの全身の蒸気機関から絶え間なく蒸気が噴出していた。

(ここまで熱風が来るのなら、ブロウから食らったあの蒸気よりも、数倍以上の高温を発しているんだろうな)

ライトへの邪魔が入らないのは、この熱暴風のせいだろう。

だが、近づいたら大火傷では済まないだけでなく、蒸気のせいでゴーレムの足元が見辛いのは、ライトにとって大きな誤算だった。

近づけないのなら、剣で足を叩く事が出来ない。

剣が使えないのだから、勿論、足を壊すなんて到底不可能だ。

それなら、どうすべきか・・・。

やけに湿った硬剣を見てライトはふと思う。

(水の属性付与を上手く利用できれば、いけるか・・・?)

考えているだけじゃ埒が明かないと、ライトはとりあえず行動を再開する。

蒸気熱にやられないよう、慎重にゴーレムの足へと迫る。

ゴーレムに近づけば近づくほど、熱風が強烈になっていく。

しかし、足を止めるわけにはいかない。

 

『ライトの場合は水だから、流れとかを意識したらうまくいくと思う』

 

「流れ、か」

バリューから言われたことを思い出しつつ、限界距離まで接近、水の流れを意識しつつ、湿った硬剣をゴーレムの足元へと振るう。

切っ先から発生した水がまるで鞭のようにしなやかに動き、ゴーレムの足を浅く切りつけた。

「・・・なるほど、こういった使い方でいいのか」

(そして、属性付与で持っていかれる体力量も大体把握した・・・が、やはり、結構スタミナが持っていかれるな・・・)

足がふらつき、剣を握る腕が少し緩むが、どうにかその場に踏みとどまり、強張った体から余分な力を抜く。

熱量が増し、ゴーレムの足が浮いたその場所から一時撤退、再び同じ足が地面へと着くポイントへいち早く向かう。

(剣を振る力は関係なさそうだから、流れさえ意識すれば・・・!)

二回目は先ほどよりも強く意識しつつも、体力を温存するように剣を軽く振るう。

水の鞭は大きさを増し、先ほどよりも深く足を切りつけた。

「・・・よし、この調子でいってみるか」

幾度も力の調整をしながらも、ゴーレムの足元へ向かって切りつけては、離脱、切りつけては、離脱を繰り返す。

だが、これでは動きを止めるどころか、転倒させる事すらできなさそうであった。

水をまとわせて切りつけることを続けるうちに、水の鞭は、水による一閃と言えるぐらいには安定した威力を発揮できるようになっていた。

それなのに、ゴーレムは一向に倒れるどころか、バランスを崩すことすらない。

水閃を一部蒸発させている程に高温な蒸気ではあるが、それだけにしては壊れない方がおかしい・・・。

「そうか、こいつ、自動修復して、いやがるな・・・!」

正確に言ったら自動修復ではなく、合体や吸収と言った方が正しいのだろう。

恐らくゴーレムはそれら廃棄物を吸収することで、傷の修復・体表の強化を行っている。

ゴーレムの通行道にある瓦礫や壊れた蒸気機関が、ゴーレムが通り過ぎた後に轍ができるほど、やけに少なくなっていたのはそれが原因だった。

水鞭が水閃になったことで、手ごたえが分かりやすくなった半面、切りつける度に固くなっていく感覚に襲われる。

そして最早、切っているというよりは、叩いているといった感じになるまで、ゴーレムの体表は硬質化していた。

そして、ライトの体力も随分と消耗していた。

なにせ、足を一回切りつけるための動作が大きいことや、熱が発生している場所での長時間の活動、扱ったことが無い属性付与の操作確認など並行してを行っていたのだ。

このままの状態を続けていれば、ライトの体力が底尽きるまでそう長くない。

「くそ・・・、どうする・・・?」

「・・・待たせてごめん!もう大丈夫!」

意識が薄れかけていたのか、その場に棒立ちしていたライトが気づいた時には、すぐ隣でバリューが立っていた。

「やっぱり、水じゃ厳しい感じ?」

「・・・ああ。水を纏わせた剣で斬っては見たが、ガリガリと削ってもすぐに修復されて埒が明かない。かといって、あんなに硬い装甲を一撃で砕くのは、砲弾か爆弾でも使わないと流石に無理だ」

「そう・・・、じゃあ、私の出番ね」

バリューは、剣の柄を両手で持ち、静かに大地へと突き刺した。

 

『凍り付け』

 

まるで別人が言ったかのような、絶対零度の声色で発せられた言葉と共に、大量の冷気が大剣から噴き出した。

冷気は周囲の水分を瞬時に凍らせていき、あっという間にゴーレムの足元へとたどり着いた。

歩みを進めていたゴーレムの足が少しずつ凍り始め、徐々に動きが鈍くなっていく。

「・・・なるほど、あんな巨体を氷漬けにできる程の力を出すこともできるのか」

数十秒も経たぬうちにゴーレムから、付近の建物に至るまで、全てが凍りついた。

「ど、どう?これが・・・」

「いや、無理に喋らなくていいからな?」

大規模な力を使ったバリューは、疲労で再び仰向けにぶっ倒れていた。

「こりゃあ、属性付与を少し甘く見ていたな」

凍り付いた広域と、ピクリとも動かない凍り付けられたゴーレムを見てライトは一息つき、草臥れた笑みを浮かべる。

「そう、でしょ?これで、動きを、止められたし、案外、私一人でも、どうにか、できたかな?」

「無理に喋らないでいいって・・・っ!」

「・・・ライト?」

ライトは何を思ったか急にゴーレムの方へと振り返った。

その顔からは先ほどの笑みが消え、代わりに苦虫を噛み潰したような表情が浮かんでいた。

「・・・いや、そんなことはなさそうだ」

「え?」

 

――ミシリ

 

小さいが確かに罅が入ったかのような音が聞こえたかと思えば、ゴーレムの体中央辺りから蒸気が噴出し始めた。

「や、ヤバい感じ・・・?」

「ヤバい感じだな・・・」

次第に罅が入る音は大きくなっていき、できた罅から蒸気が次々と噴出し始める。

ひときわ大きな音がした瞬間、凍結させたゴーレムの全身から大量の蒸気が巻き上がった。

罅から発生した蒸気によって氷は数秒も持たずに溶け落ちていき、ゴーレムは再度その歩みを進め始めた。

「えぇ・・・、嘘、でしょ・・・?残ってる力、殆ど、使ったん、だよ・・・?」

「こいつ、さっきよりも熱量を増しているのか・・・!」

内部がどのようになっているのか分からないが、恐らく、体表から噴き出す蒸気以上に高温なのだろう。

そして、先ほどの水閃の表面をかろうじて蒸発させる程度だった蒸気は、氷を瞬く間に溶かしてしまうほどに熱量を増していた。

練成氷すら即座に溶かし、水閃すら体内に届かない時点で、最早、ライトたちが持てる手段は半分以上潰されてしまっていた。

「私、もう、殆ど、氷を使えない、んだけどっ・・・!」

荒い息で文句を言うバリューの声に聴く耳を持たず、ゴーレムは歩みを進める。

バリューの鎧を包んでいた氷は、ゴーレムを凍らせる際に殆ど使ってしまったのだろう、その八割以上が解け落ちていた。

となると、氷を扱うことはあまり出来ないと考えねばならない。

「くそっ!こうなったらどうするべきだ・・・!考えろ・・・!」

重厚な鉄の塊を、水と、ほんの少しの氷で止める方法・・・。

・・・()()()()()()

「・・・これならどうにかいけるか」

「なに・・・?いい案が、浮かんだ・・・?」

「ああ」

ゴーレムは重厚な鉄の塊で、高温の蒸気を発しているせいで近づけないし、触れることは一切できない。

だが、それは生身でという話であり、そこらに転がっている壊れた蒸気機関や瓦礫、建物は蒸気熱に晒されたところでどうということはない。

そして、重厚な鉄の塊だからこそ、あのゴーレムには致命的な弱点があった。

 

「奴の自重で関節を自壊させる」

高温の蒸気を発する鉄塊のゴーレム、弱点はその重さだ。

 

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