___始まりは些細な事だった。
心がガキからいっぱしに大人と語りたい子供へと成長し、日々を過ごす。初恋、失恋や社会に出る勉強、学校生活、変わらない毎日に退屈して反抗してみたりする。
友達との夜歩き、馬鹿話。誰だって一度はやっていることだ、間違いない。
その日もそうだった。夜11時まで複数人としゃべり歩き、ゲームセンターで馬鹿みたいにはしゃいで帰路に就いた。
___思えばその時点から少しずつ何かが狂っていったんだと思う。
「・・・もう12時か・・・」
自転車を漕ぎながら誰に話しかけることもなく一人ごちる。今日は学校のテストがあってさらにむしゃくしゃした分帰るのがいつもより二回りほど遅くなった。
生半可な気分で進学校に進んだため周りからは期待されるが所詮まぐれ当たりで入学したのだ、落ちこぼれるのは自明の理であった。当然両親からは叱咤され、一人の時間を減らされる。このところはとくに風当たりが強く、遅く帰る日々が続いていた。
「連絡が入ってないな・・・こりゃ閉め出されたかな?」
夜風を楽しむもすぐに自宅へと到着。愛車(三年間しか搭乗せず)をガレージに入れ激怒する親の顔を思い浮かべ、諦め半分苦笑いしつつドアノブを捻ると
__カチャ・・・
「開いてるのかよ・・・ただいま」
玄関からリビングまでは少し離れている。声が響くも返事はなかった。
「あらら、無視?こりゃ本格的にキレちゃってるかな」
__ガララッ。
「ただいま・・・ってえ・・・?」
まず鼻を突いたのはツンとした鉄の濃厚な・・・血の臭い。
目が合った父親の体は干からびたように横たわり。目を移した母親は・・・
___ごぎゅり
血で汚れどす黒く変色したコートを着た2mはあろうかという男に首を跳ね飛ばされた状態で体から流れ出る血をのまれていた。のみほされていた。
「ひ・・・っ」
大声が出ない。恐怖のあまり喉が一瞬で干上がる。汗が大量に放出され、足がすくむ。
「ン・・・」
大男がこちらを向いた。
その顔はまるでゾンビのように真っ白く不健康な肌、粘り付いた視線を含む赤い瞳。
そしてたった今のみほした血で鮮血に染まっている口・・・顎。
「アア・・・息子ガイタノカ・・・代行者カト身構エタゾ・・・マアコンナニハヤイハズガナイカ」
虫が鳴いたような不快な声色。
「ナカナカウマカッタゾ・・・ニンゲンニシテハ上物ダ。モウハラハイッパイダガ・・・マアイイ。デザートダ」
ゆっくりとこちらに歩いてくる大男。脳が最大に警告を鳴らし、脂汗が止まらない。
「うっ・・・あっぁ!!!」
完全に腰が抜けているかと思ったが死を感じてリミッターが外れているのか、今までにない速度でリビングを飛び出した。
思考する暇などなく、家の奥へ逃げ込んだ。・・・いや、逃げ込もうとした。
___がつん
一瞬で接近していた化物に首をつかまれ廊下の壁へ叩き付けられた。
認識する暇もなかった。目の奥で火花が散り、意識が朦朧とする。
(あ。ダメだな、これ・・・)
死の間際、血走った顔を脳内に刻みながら思った事は、
(最期に見たものがおっさんは、嫌だ、なぁ・・・)
____がぶり。
ここで一人、ニンゲンが死んだ。
ここから凍結された物語が動き出す。
始まり始まり。