私の名前は
そして、かすが様愛です。
現在時刻20:45。
「相棒、ですか」
鳥乃先輩を寝室の階まで見送ってから、ロビーに戻るエレベーターの中、私はひとり呟きます。
先輩は、私の自暴自棄を知ってて手を出さなかった。先ほどの会話で、私は改めてこの事実を知らされました。
ゼウスちゃんが行方不明になってから、私は飲食を惜しんで壊れたレコードのようにネット回線から従妹の行方を捜してました。思考が心の奥底に沈んで、まともに判断力も残ってない中で機械的にやってたので、効率性が全くなく、情報が目の前に現れもきっと気づかずスルーしてしまうような、そんな状態での作業。
というのも、食事や睡眠で体を休めることに心身が拒絶を起こして、無駄でも作業し続けてないと自分を保てなかったんです。勿論、当時は無駄って事も気づきませんでしたけど。
そんな中、たまに、いえ、結構な頻度で考えが過ぎったんです。
鳥乃先輩に身も心を預ければ、少しは気が休まるんじゃないかって。――でも、先輩はしなかった。それをしたら最後、先輩に依存してしまい、姉を失ってからずっと自分を動かしてきた意志や覚悟が揺らいでしまうまで見抜いて。
代わりに、完治ではないかもしれないけど、”壊れたレコード”状態は抜け出した私に、先輩はいってくれた。
「良かった。先輩が、まだ私を必要としてくれて」
それなら、今度こそ失態を犯さないよう頑張らないと。
決意を新たにした丁度良いタイミングで、エレベーターはロビーのある1階に到着しました。
ロビーに戻った私が見たのは、身支度を終え、いまにも宿を出そうな様子の皆さんの姿でした。
「何があったのですか?」
私は小走りで合流しつつ訊ねると、
「早速動きがあったぜ」
と、シュウさんがいいます。アインスさんが続けて、
「先ほど近くで売店を経営している支部のメンバーから連絡があったんです。ハイキング場の山に何台もヘリが停まったらしい。その報告を受けて、別動隊の人が撮影してくれたのだけど。見てくれますか?」
と、言いながら指をパチンを鳴らす。すると、壁掛けのテレビから、1枚のフォト画像が表示されました。
上空から暗視カメラで撮影されたのしょうか? 推測するに夜の山道。ヘリからフィール・ハンターズの人たちが降り、各々がハングライダーの準備をしてる様子でした。
「ハイキング場の山というと、ミストランも0時過ぎ出現するという」
私が訊ねると、
「ああ。赤司さんに確認を取ったけど、この辺りにハイキング場の山は1つしか無いらしい。恐らく奴らは、この山から空を飛んで旅館を襲撃するつもりなのでしょう」
「もしくは地上と両方から」
「可能性は高いね。それをされると、同時に対処は難しくなるうえ、上空の部隊は鳥乃の客室に直接侵入してくる可能性もある」
「いまの内に山を制圧する事を提案します」
「ええ。そのつもりです」
アインスはいった。直後、外に出ていたらしい神簇さんが屋内に戻って、
「出発の準備はできたわ。藤稔さんが戻り次第、すぐに向かうわよ」
「ごめんなさい。すでに戻ってます」
私がいうと、神簇さんは少し心配そうに、
「もういいの? 鳥乃との話は済んだ?」
「はい。それよりも、急ぎましょう」
「分かったわ」
神簇さんは、続けて赤司さんに、
「赤司さん。鳥乃と徳光さんをお願い」
「はい。お嬢様もご無事で」
「神簇でいいわ」
「分かりました。琥珀先輩」
笑顔で、苗字どころかいきなり名前呼びに変える赤司さん。
「凄ぇな。あいつ」
とのシュウさんの呟きに、私は心の中で同意します。
「行きましょう」
神簇さんはいハングド・ハイウィンド双方に向かっていいました。
旅館の外に出ると、すでに自動車が一台と、Dホイールタイプのバイクが3台並んでました。神簇さんは自動車の運転席に移動します。
私たち5人は、神簇さんの運転する車で現地までやってきたのです。《封印の黄金櫃》でDホイールを異空間に収納した形で。
神簇さんが指示を下します。
「私とガルムは念のために駐車場を見つけて待機するわ。アインス・シュウ・藤稔はDホイールで突入、ミハマ支部のメンバーと協力して敵勢力を討伐。いいわね」
「分かりました」
アインスさんがいう間に、シュウさんが一足先にDホイールに跨ります。
「しかし驚いたよ」
アインスさんがいいました。
「まさか、藤稔さんがバイクの運転免許を持っていたなんて」
「いえ、無免許ですよ?」
私は苦笑いを浮かべながら、だけど不安を与えないよう努めて堂々といいます。
「え?」
って顔をするアインスさんに私は、
「召喚したモンスターに乗るのと同じ感覚で運転できるように、私用のオートパイロットシステムをプログラムしたんです。ですから、高速や国道を通ったら一発でアウトですね」
「それは逆に普通に免許出されるより驚きだよ」
アインスさんがいいます。さらにシュウさんが、
「しかも堂々と言いやがって。さっきの赤司も凄かったが、蓋開けたらお前も同じくらいやばいんじゃねえか」
「いえ、さすがに赤司さん程では」
と、私が否定と謙遜を兼ねた返事をしてると、ここで作戦会議が苦手でずっと黙ってたガルムさんが、
「うー。それなら私もキサラに作って貰えばよかった。突入側だったら思いっきり暴れられたのに」
と、悔しそうに言うので。
「ごめんなさい、でも私のプログラムはクリフォートあっての技術ですから、他の方の分は作れないんですよ」
「なら仕方ないわ」
ガクッとがっかりしながらガルムさんは諦めます。多分、戻ったら改めて作って貰おうと思ってたのでしょう。
「もしかしたら」
アインスさんがふと独り言を呟きます。
「鳥乃にとって、藤稔さんの存在はかつての赤司さんの位置にいるのかもしれないな」
「え?」
私はつい反応。アインスさんは口に出す気はなかったらしく、少しばつが悪そうに、
「いや。直感で何となく思っただけだよ。気にしないでくれ」
と、いってから。
「さて。無駄話はそこまでにしよう」
言ってから、アインスさんはDホイールに跨ります。
「分かりました」
私もDホイールに跨り、デッキの入ったデュエルディスクをセット。
《アポクリフォート・カーネル》と連動し、Dホイールは私のフィールによる脳波コントロールの制御下におかれます。
「状況開始」
神簇さんの声と同時に、私たちは山に向かってDホイールを走らせました。
現在時刻21:30。
実際に現場で殲滅作戦を行うと、最低1名はフィールを温存しろなんて不可能だと思い知りました。
「これでフィナーレです。《ヴァレルロード・ドラゴン》で直接攻撃」
「手札を1枚捨てて《剣闘獣ヘラクレイノス》の効果。テメェのミラーフォースは無効。これで終わりだァァァッ!」
「《アポクリフォート・カーネル》の効果。相手モンスター1体のコントロールを奪います。そして、ごめんなさい。カーネルで直接攻撃」
私たち3人のエースがそれぞれ直接攻撃を決め、相手のライフが0になります。直後、私たちの下に広がってた地縛神の模様が収縮を始め、相手の肉体と一緒に消滅していきます。
「畜生。また護れなかった」
シュウさんが悔しげに呟きます。
結論から先にいうと、相手は私たちの予想を遥かに上回る形で積極的にデスデュエルを仕掛けてきました。移動で僅かにフィールを使ったとはいえ、作戦では私がデスデュエルの解除を担当するはずだったのですけど、ふたりはすでに3回、私も2回、強制デュエルに捕まって仕方なくデスデュエルをさせられました。
勿論、解除する余裕はなく、先ほどを含めてこれで8名の犠牲者が出たことになります。
現在、私たちはハイキング場の山の中。月の光が樹木に遮られ、Dゲイザーの暗視機能を頼りに互いを視認してる状況です。なので、近くならまだしも数メートル以上先になってくると、どれだけのフィール・ハンターズが私たちの周囲を囲んでるのかさえ分かりません。
「くそっ、次だ! 次のデュエルで片付けるぞ」
間髪入れず、私たちの前に3人に新たなフィール・ハンターズが並び、強制デュエルの赤外線を飛ばしてきます。
息つく暇もなく私たちは避け、同時にアインスさんが二丁の散弾銃からフィール込みの弾幕を撒き、3人のデュエルディスクを破壊。ですが、その隙に私たちは右・左・後ろ、各所から強制デュエルを仕掛けられ、再び地縛神の模様が私たちの足元に広がります。
「きりがないな」
アインスさんが、僅かに疲労を顔に出しながら、いいました。
実は、これでも奇襲は成功したんです。
暗闇を利用し物陰に隠れる事に成功した私たちは、フィール・ハンターズの人たちが部隊長と思われる人の下に集まった所を、アインスさんが散弾銃の弾幕を張り、デュエルディスクを1名除いて全て破壊。さらに、弾幕を防いだ部隊長の下にシュウさんがとびかかって、リアルファイトで討伐に成功。
昏倒した部隊長のデュエルディスクも破壊した後、全員気絶させた後に拘束。と、ここまでは順調だったのですけど、他にも部隊がいたのか、何割かが周辺警備で離れてたのか、想像を超える人数のフィール・ハンターズが後からぞろぞろとやってきて、いまに至ります。
私たちは、洗脳でデュエルさせられてるかもしれない人たちを相手に、ひとり、またひとりと、デスデュエルで葬るしかできませんでした。
一息ついた時には、時刻はもう22:05。
幸いにも相手は腕・フィール量共に大したことなく、私たち3人ともフィール残量ならまだ余裕があったものの、精神的には疲弊しきってました。
「とりあえず。後続がやってくる前に、私たちは一旦撤退しよう。現在までミハマ支部の顔が見られないのも気がかりだ」
アインスさんがいいました。
「確かにそうですね」
私はうなずきます。ミハマ支部が敵側に回ってるとは思いたくないですけど。
とはいえ、シュウさんは、
「やっぱフィール・ハンターズだったか、信用できねぇな」
「シュウ!」
アインスさんが注意するも、
「トップが信用できても下が裏切った可能性があるだろ」
私も、恐らくアインスさんも一度は脳裏に過ぎりつつ口にしなかったことを、シュウさんは言ってしまいます。
アインスさんは仕方なさそうに、
「勿論、その可能性も忘れていないさ。どちらにしても、私たち3人で作戦を続行するのは危険過ぎる。一旦、お嬢様の下に戻って作戦を立て直しましょう」
「倒れてる方々は?」
私が訊ねると、
「敵の部隊長だけ《ワーム・ホール》で旅館に送りましょう。全員を捕える時間は残念ながら」
と、アインスさん。
「分かりました」
私がうなずいた直後でした。
Dゲイザーの暗視で確認できない程の奥から強制デュエルの赤外線が飛んで、シュウさんのデュエルディスクが強制デュエルモードに移行したんです。
「シュウ!」
アインスさんの叫びに、
「大丈夫だ」
シュウさんは地面を指さし、いいます。
「あの模様が広がって無え。今回はデスデュエルじゃないらしい」
逆にいうと、今回シュウさんにデュエルを仕掛けてきたのは実力ある本当のフィール・ハンターズである可能性が高いのですけど。
「アタシにデュエルを仕掛けてきたやつは誰だ? 出てこい!」
シュウさんが叫びます。すると、それは静かに歩いてきました。
軍服を着て、某赤い彗星を思わせる仮面で顔を隠した、ひとりの少女の姿を。
髪も仮面に隠れてましたけど、私はすぐに分かりました。
「ゼウスちゃん!?」
まさか、こんな所で。こんな形で再会するなんて。しかし、ゼウスちゃんはどこか余裕がなさそうに、
「次はお前だ。沈んで貰うのだ」
って、私を無視して言いました。もしかしたら、私を認識してないのかもしれません。
「ゼウスちゃん!」
私は叫びます。
「ゼウスちゃんですよね? 私が分かりませんか? 木更です、ゼウスちゃん!」
「ハングド、そしてハイウィンドか」
どうやら私がハングドの構成員なのは認識してるみたいです。でも、やっぱり私の呼びかけに返事はなく、
「生かして帰すつもりはないのだ。お前たちには、奴ら同様ひとりでも多くここで消えて貰う」
「奴ら?」
シュウさんが訊ねます。そういえば、さっきもゼウスちゃんは「次は」って。
「ここに来る途中、ミハマ支部の奴らを何人かデュエルで殺してきたのだ」
「なっ」「なっ」「えっ」
驚く、シュウさん、アインスさん、そして私。
「マジで言ってるのかよ。おまえ」
シュウさんの問いに、ゼウスちゃんは、
「だが、何人か逃がしたのだ!」
って、怯えながらいいます。
「このままだと罰でまた電球なのだ! だから、私はお前たちを逃すわけにはいかないのだ。たとえハイウィンドでも、ハングドでも。……木更でも!」
私をちゃんと認識してる!?
そのうえで、ゼウスちゃんはいま、私を殺すって?
「ゼウスちゃん! どうして!」
あなたの身に一体何があったの? 私は続けて呼びかけようとしたけど、それより先に、
「上等だ」
シュウさんがいいました。
「あっちから姿を見せてくれたのなら好都合だ。テメェが何に怯えて人殺しに堕ちたのかは知らないが、この
そして、ゼウスちゃんに指をさし、
「スキルあり。スピードデュエルでいいな」
「構わないのだ」
ゼウスちゃんがいった所で、ルールが決定。
『デュエル!』
ふたりは同時に叫びました。
シュウ
LP4000
手札4
[][][]
[][][]
[]-[]
[][][]
[][][]
ヘルゼウス
LP4000
手札4
デュエルが始まると、ふたりの前にそれぞれソリッドビジョンによる名前とライフが表示されます。
その記載されたゼウスちゃんの名義を見て、シュウさんが、
「なんだよ。ヘルゼウスって」
「何でもないのだ。いまの私は神ではなく邪神。ゼウスではなくヘルゼウスなのだ」
ゼウスちゃんが自ら蔑むようにいいます。その声からはただの厨二病にはない、本当に暗い背景と心の悲鳴を感じました。
「それよりも、先攻は絶対正義! お前なのだ」
ゼウスちゃんがいうと、
「ああ。アタシのターン」
シュウさんはいって、最初の手札4枚を引いて、
「モンスターをセット。さらにカードを2枚セットしてターン終了だ」
と、手早くターンを終える。ターンはすぐゼウスちゃんのターンに。
「邪神のターンなのだ。ドロー」
ゼウスちゃんは、カードを引くと、
「1000ライフ払い、魔法カード《コズミック・サイクロン》! 伏せカードを1枚除外するのだ」
この《コズミック・サイクロン》は、ゼウスちゃんが以前から使ってた魔法カード。彼女はこのカードで相手の魔法・罠を除去しながら、ライフコストをスキルのトリガーとして能動的に使う戦術が得意だったはず。
早速、上空の暗闇が渦をつくると、シュウさんの伏せカードの1枚が光の霊魂へと姿を変え、螺旋を描きながら渦に飲み込まれます。
「チッ、その伏せカードは《ハンディキャップマッチ!》だ」
ヘルゼウス LP4000→3000
シュウさんは該当の伏せカードをディスクから引き抜き、除外ゾーンに置き直します。
ゼウスちゃんは続けて手札を1枚墓地に送って、
「手札から《サイバー・ダーク・クロー》を墓地に送って効果を発動。デッキから《サイバーダーク・インフィニティ》を手札に加えるのだ」
「えっ?」
サイバー・ダーク? 私はつい反応します。それは間違いなく、いままでのゼウスちゃんのデッキには入ってないカードだったから。
でも、鳥乃先輩から、私の記憶にないカードをゼウスちゃんが使ったという報告は上がってるので、もしかしてサイバー・ダークがそれなのでしょうか?
「魔法カード《サイバーダーク・インフィニティ》を発動なのだ」
続けてゼウスちゃんは、先ほどサーチしたカードを使用。
「このカードは、手札・デッキ・フィールドから融合素材モンスターを墓地に送り、ドラゴン族のサイバー・ダークを融合召喚するカードなのだ」
ドラゴン族!? 私は、さらに反応します。
「邪神はデッキから《比翼レンリン》と《カイトロイド》を融合するのだ。プログラム起動、神ダウングレード。双頭の鳥竜よ、機巧の翼に身を堕とし、黒き罪星を潜り進め! 融合召喚! 邪神に従え、ユニオンモンスター《鎧刻竜-サイバー・ダーク・ドラゴン・ノヴァ》!」
現れたのは、まさに情報にあった機械族かサイバース族と思われる黒くシャープな見た目のモンスター。攻撃力は2100です。
しかも、さっき地味にユニオンモンスターって。
「続けて邪神は《サイバー・ダーク・ホーン》を通常召喚なのだ!」
さらに、黒くシャープな見た目のモンスターがゼウスちゃんの場に出現。こちらは、どうやら機械族の模様。
「《サイバー・ダーク・ホーン》のモンスター効果。召喚に成功した場合、墓地からレベル3以下のドラゴン族をこのカードに装備。そして、このカードの元々の攻撃力は800だが、そこに装備したモンスターの攻撃力を加えるのだ。私は攻撃力1600《サイバー・ダーク・クロー》を装備。従って攻撃力は2400なのだ」
「なっ」
シュウさんが驚愕します。ソリティアを重ねて上級モンスターを出したならともかく、通常召喚で出てきた下級モンスターが2400って数値をさらっと出してきたのですから。
ですけど、驚くのはまだ早かったんです。
「さらに《鎧刻竜-サイバー・ダーク・ドラゴン・ノヴァ》のユニオン効果を発動。《サイバー・ダーク・ホーン》に装備! ユニオン状態のこのカードは、装備中、装備モンスターの効果によって装備されたカードとして扱うのだ。従って、ノヴァの攻撃力も《サイバー・ダーク・ホーン》の攻撃力に加算するのだ」
結果。
《サイバー・ダーク・ホーン》 攻撃力800→2400→4500
下級モンスターであるはずの《サイバー・ダーク・ホーン》が、《青眼の究極竜》と同じ攻撃力にまで到達。
「マジかよ、おい」
シュウさんが改めて反応する中、
「バトルである。《サイバー・ダーク・ホーン》でセットモンスターに攻撃なのだ! そして、ダーク・ホーンには貫通能力が備わってる。切れ味を味わうのだ!」
攻撃力4500で貫通!?
「んなもん、喰らってたまるかよ」
シュウさんは伏せカードを表向きにして、
「罠カード《和睦の使者》を発動。このターン、アタシのモンスターは戦闘では破壊されず、自分が受ける戦闘ダメージも0になる」
「だが攻撃は行ったのだ。《サイバー・ダーク・クロー》の効果。ダメージ計算時にEXデッキからモンスターを1体墓地に送るのだ。邪神は《サイバー・エンド・ドラゴン》を墓地に送るのだ」
いま墓地に送った《サイバー・エンド・ドラゴン》はゼウスちゃんがいままで切り札にしてたカードだったはず。それを墓地に?
とはいえ、シュウさんのダメージは0になって、セットモンスターの正体だった《剣闘獣ダリウス》は破壊されずフィールドに残ります。そして、剣闘獣が戦闘を行ったのですから、
「《剣闘獣ダリウス》の効果。このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時に、こいつをデッキに戻して効果発動。デッキから別の剣闘獣を特殊召喚するぜ。来い、《剣闘獣サジタリィ》!」
こうしてシュウさんの場に新たな剣闘獣が出現して、
「サジタリィのモンスター効果。手札から《剣闘獣ラクエル》を1枚捨てて、カードを2枚ドロー」
効果によって、シュウさんの手札が肥やされます。
「ターン終了なのだ」
ゼウスちゃんはいいました。
シュウ
LP4000
手札2
[][][]
[][《剣闘獣サジタリィ》][]
[]-[]
[][《サイバー・ダーク・ホーン》][]
[][《サイバー・ダーク・クロー(装備カード)》][《鎧刻竜-サイバー・ダーク・ドラゴン・ノヴァ(装備カード)》]
ヘルゼウス
LP3000
手札2
再び、シュウさんのターンが回ります。
「アタシのターン。ドロー」
シュウさんはカードを1枚引くと、
「自分フィールドに剣闘獣が存在する場合、こいつは手札から特殊召喚できる。来い《スレイブタイガー》!」
シュウさんは一匹の虎を場に出し、
「《スレイブタイガー》のモンスター効果。このカードをリリースし、さらに場の剣闘獣1体をデッキに戻す事で、デッキの剣闘獣1体を剣闘獣の効果扱いで特殊召喚。アタシはサジタリィをデッキに戻し、新たに《剣闘獣ムルミロ》を特殊召喚」
場の2体のモンスターが姿を消すと、新たに一匹の魚族モンスターが姿をみせます。
「剣闘獣の効果でムルミロを特殊召喚した時、フィールドの表側表示モンスター1体を破壊する。消えやがれ、《サイバー・ダーク・ホーン》!」
ムルミロが大きく口を開け、ゼウスちゃんのモンスターを飲み込もうとします。だけど、モンスターは咄嗟に装備中のサイバー・ダーク・ドラゴン・ノヴァを盾にして破壊を免れ、
「《鎧刻竜-サイバー・ダーク・ドラゴン・ノヴァ》のユニオン効果。装備モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードを破壊するのだ。そしてノヴァが墓地に送られたことで効果発動。デッキから《サイバー・ダーク・ホーン》《サイバー・ダーク・エッジ》《サイバー・ダーク・キール》をそれぞれ1枚まで墓地に送り、さらに《サイバーダーク・インパクト!》1枚を手札に加える。邪神はエッジとキールを1枚ずつ墓地に送って《サイバーダーク・インパクト!》を手札に加えるのだ」
一気に肥やされるゼウスちゃんの墓地。しかも、手札まで肥やされます。
「ムルミロで《サイバー・ダーク・ホーン》が倒せないのは読んでたぜ。なにせユニオンだしな」
シュウさんはいいます。
「だから、本命はこっちだ。手札から《剣闘獣ベストロウリィ》召喚。そしてアタシはベストロウリィとムルミロをデッキに戻す。いにしえに生きる猛禽の闘士よ!
ベストロウリィが召喚されたと思うと、すぐムルミロと一緒にデッキに戻って、出現したのは1体の鳥人型の剣闘獣。攻撃力は2400。
「ガイザレスのモンスター効果! こいつの特殊召喚成功時、フィールド上のカードを2枚まで破壊する。アタシが選択するのは《サイバー・ダーク・ホーン》そして《サイバー・ダーク・クロー》だ!」
これで、《サイバー・ダーク・クロー》にも身代わり効果があったとしても、場に残るのは攻撃力800になった《サイバー・ダーク・ホーン》。そこから攻撃が決まれば、けっして低くないダメージがゼウスちゃんに入るはず。
「ホーンとクローは墓地に送られるのだ」
だけど、《サイバー・ダーク・クロー》は効果破壊による身代わり能力はなかったみたいで、ゼウスちゃんのカードは2枚とも破壊されて墓地に送られます。
「よっしゃあ! ならバトルフェイズだ。《剣闘獣ガイザレス》でゼウスに直接攻撃」
「ヘルゼウスなのだ」
「そこ拘るのかよ」
えー? って顔をシュウさんは見せてから、
「分かったよ。ヘルゼウスに直接攻撃だ」
勢いを削がれた状態でゼウスちゃんに攻撃宣言。しかし、ガイザレスの放った竜巻は突然浮かび上がった可愛らしいハングライダー型のモンスターが盾になって通りません。
ゼウスちゃんは、墓地からカードを1枚抜き取って言いました。
「墓地の《カイトロイド》を除外して効果発動なのだ。ガイザレスの直接攻撃で受ける私の戦闘ダメージを0にする」
「防御まで考えてのデッキ融合かよ。畜生」
シュウさんはいって、
「だが、戦闘は行ったぜ。バトルフェイズ終了時、《剣闘獣ガイザレス》をEXデッキに戻して効果発動。デッキから《剣闘獣サジタリィ》と《剣闘獣ダリウス》を特殊召喚。それぞれの効果発動だ。まずサジタリィで《剣闘獣ウェスパシアス》を捨てて2枚ドロー。続けてダリウスの効果でウェスパシアスを特殊召喚だ」
言いながら、シュウさんはカードを2枚ドローして、
「来たぜ。速攻魔法《団結する剣闘獣》発動。アタシの手札・フィールド・墓地の剣闘獣をデッキに戻し、新たな剣闘獣を召喚条件を無視してコンタクト融合する。アタシは場の《剣闘獣サジタリィ》と《剣闘獣ダリウス》そして墓地の《剣闘獣ラクエル》の3体をデッキに戻す。いにしえに生きる猛虎の闘士よ!
こうして、シュウさんの場には攻撃力3000の剣闘獣が出現。いままでを見るに、このカードはシュウさんのフェイバリットでエースのようです。
「ターン終了だ」
シュウさんはいいました。
シュウ
LP4000
手札1
[][][]
[《剣闘獣ウェスパシアス》][][]
[]-[《剣闘獣ヘラクレイノス(シュウ)》]
[][][]
[][][]
ヘルゼウス
LP3000
手札3
「私のターンなのだ。ドロー」
ゼウスちゃんがカードを引きます。直後、辺りの暗闇が再び渦を巻き、今度はシュウさんのヘラクレイノスとウェスパシアスを飲み込もうとします。
ゼウスちゃんはいいました。
「魔法カード《ブラック・ホール》を発動なのだ」
「なっ」
驚くシュウさん。あのカードは確か、フィールドのモンスターを全て破壊する魔法カード。いまでこそ無制限ですけど、かつては禁止カード入りした経験もある、デュエルモンスターズ界の最初期にありがちな雑に強い凶悪カードの1枚。これも、以前のゼウスちゃんのデッキには入ってないカードだったはず。
「ヘラクレイノスを出せて良かったぜ。手札の《コンタクト・オブ・ファイア》を捨ててヘラクレイノスのモンスター効果を発動。その魔法・罠の発動を無効にして破壊だ!」
でも、シュウさんはヘラクレイノスの効果を使い難なく《ブラック・ホール》を対処。
「どうだ」
シュウさんはいいます。
その刹那でした。上空から巨大な雷が落ち、シュウさんの2体のモンスターが焼き払われたのは。
ゼウスちゃんが、いいます。
「続けて魔法カード《サンダー・ボルト》なのだ」
あのカードは、歴代の元禁止カードの中でも最長の禁止期間を持つ、《ブラック・ホール》より更に雑に強い凶悪カード。
「《サンダー・ボルト》は相手フィールドのモンスターを全て破壊する魔法カードなのだ」
「嘘、だろ」
シュウさんが愕然とします。
そして、私も。
《ブラック・ホール》に《サンダー・ボルト》。こんなカードを使ってくるなんて。
「藤稔さん」
ここで、アインスさんがいいます。
「敵の部隊長の捕獲は完了したよ。ついでにデュエルの隙に何人か《ワーム・ホール》送りにできた」
「あっ」
そうでした。本来なら私もデュエルを見守るよりやるべき事があったのに。
「ごめんなさいアインスさん」
私が謝ると、
「別に構わないさ。デュエルが気になるのも当然だからね」
直後でした。
「捕獲だとっ」
ゼウスちゃんが反応します。
「しまったのだ。第三部隊の隊長がいないのだ。そのうえ倒れているデュエル兵士の数も減っている!? な、なんという失態なのだ。あ、あ、あ、うわああああああああああああ」
そして、まるで発狂するみたいに、激しく怯えだしたんです。
「お仕置きは嫌だ。お仕置きは嫌だ。お仕置きは嫌だ。電球、また電球なのだ。助けて、助けて助けて助けていやだあああああアアアアッ!!」
「ゼウスちゃん!」
たまらず私は駆けだします。でも、ゼウスちゃんはそんな私に拳銃で発砲。左足を撃たれた私は地面に転がります。
「ぁぁっ」
フィールの防壁は張ったものの、軽減しきれず、銃弾は生傷こそ残さなかったものの、込められたフィールダメージが貫通した場合と同じ痛みを私の足に残します。
私は痛みに呻きました。
「藤稔さん!」
駆け寄るアインスさん。
「魔法カード《治療の神 ディアン・ケト》を発動。大丈夫ですか?」
フィールの光が足を包み、鎮痛を施されたのが分かります。私はアインスさんの肩を借りて立ち上がり、
「ごめんなさい。何度も足を引っ張ってしまって」
「引っ張られたなんて一度も思ってませんよ」
アインスさんは、努めて微笑んでくれました。
一方、デュエルのほうは。
「せめてこの場の3人だけは始末するのだ! スキル発動、《輪廻独断》!」
ここでゼウスちゃんはスキルを使用します。
「このスキルは私のライフが3000以下になった後に1度だけ使用可能。デッキ外から永続罠《輪廻独断》を発動するのだ。このカードは発動時に種族を1つ選び、このカードが場に存在する限り、互いの墓地のカードを選んだ種族に変えるのである。神は、いや邪神はドラゴン族を選ぶのだ」
これで、シュウさんとゼウスちゃんの墓地のモンスターは全員ドラゴン族に。
「魔法カード《サイバーダーク・インパクト!》を発動! 墓地の《サイバー・ダーク・ホーン》《サイバー・ダーク・エッジ》《サイバー・ダーク・キール》の3体を融合素材としてデッキに戻し、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》を融合召喚するのだ!」
「さっきのノヴァの効果はその為か」
アインスさんがいいます。
「プログラム起動、神ダウングレード。3体の機巧よ、いまこそ合身し、永遠にして終焉を担う邪神なる竜に罪化するのだ! 融合召喚!
こうして場に出現したのは、ホーン・エッジ・キールの3体がまさに合体して黒くシャープな竜を形どったモンスター。その攻撃力は1000、ですけど。
「《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》のモンスター効果。このカードが特殊召喚に成功した場合、自分の墓地から機械族モンスター1体をこのカードに装備するのだ。しかも、この効果はホーン・エッジ・キールと違ってレベル制限はないのだ。私が墓地から装備するのは《サイバー・エンド・ドラゴン》なのだ!」
「おい。サイバー・エンドは機械族だろ?」
シュウさんがいいますけど、
「いま、邪神の墓地に眠る《サイバー・エンド・ドラゴン》は《輪廻独断》によってドラゴン族扱いなのだ!」
ゼウスちゃんの言葉に、
「あっ、そうじゃねえか」
と、シュウさんは気づかされます。その間に、《サイバー・エンド・ドラゴン》はサイバー・ダーク・ドラゴンに装備され、
「《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》は自身の効果で装備したモンスターの攻撃力および私の墓地のモンスターの数×100の合計だけ攻撃力を上げる。そして、いま装備した《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力は4000なのだ」
結果、
《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》 攻撃力1000→1200→5200
ゼウスちゃんのモンスターはついに攻撃力5000を超えてしまいます。
「シュウ!」
アインスさんが叫びます。けど、
「大丈夫だ。アインス」
シュウさんはいいます。楽観ではなく、努めて笑い飛ばした様子で、
「アタシのスキルを忘れたか? 発動条件は満たしている。つまり、アタシはこのターン1度だけならライフが0になる事は無ぇ」
そういえば、確かシュウさんのスキルは《根性》。
あのスキルはライフが4000以上で始まったターン、デュエル中1度だけライフが1未満にならなくなるスキルだったはず。
根性
スキル
(1):ライフポイントが4000以上で開始したターン、自分のライフポイントは1度だけ1未満にならない。このスキルはデュエル中に1度しか適用されない。
(遊戯王デュエルリンクスのエラッタにつき、MISSION21以前と効果が変更されています)
「それはどうかな? なのだ」
でも、ゼウスちゃんはいいました。
「さらに魔法カード《死者蘇生》を発動なのだ。墓地からユニオンモンスター《比翼レンリン》を蘇生し、サイバー・ダーク・ドラゴンに装備なのだ」
墓地から一見双頭の鳥獣とも取れるドラゴン族モンスターが特殊召喚され、サイバー・ダーク・ドラゴンに装備される。
「《比翼レンリン》を装備したモンスターの元々の攻撃力は1000になる。だが、サイバー・ダーク・ドラゴンの元々の攻撃力は最初から1000! 関係ないのだ」
「一体何を」
シュウが言った所を、
「バトルフェイズ! 《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》で絶対正義に直接攻撃なのだ!」
ゼウスちゃんが攻撃宣言。すると、サイバー・ダーク・ドラゴンの口にエネルギーが貯め込まれるのですけど、そこから感じるフィール量に私は、
「なんてフィール量」
と、痛みに耐えながら呟きます。
私の見立てでは、ゼウスちゃんから感じてたフィールは全快のときのシュウさんと大して違わない程度だったのに、まるで全フィールを攻撃に注ぎ込んだかのような威力をサイバー・ダーク・ドラゴンから感じます。
アインスさんが、
「気を付けて、シュウ! どうやら、相手は全フィールを注ぎ込んだ攻撃で、デュエルの勝敗を待たずして直接あなたを倒す気だ」
「分かってる」
言いながら、シュウさんが身構えます。
「喰らうのだ! フル・ダークネス・バースト!」
わざわざ攻撃名まで叫んで、ゼウスちゃんは真正面からフィールでリアル化したビームブレスをシュウさんに放ちます。相当な威力なのでしょう。攻撃の余波で私は突き飛ばされ、
「きゃあっ」
と、アインスさんの肩から離れ、地面に倒れます。
「うおおおおッ!」
シュウさんは、真正面からあの威力のビームを受けながら、フィールの防壁で必死に耐えます。
ガリガリと減っていくシュウさんのフィール。それが鳥乃先輩のダークドローくらいに消費された頃、やっと攻撃が止みました。
ビームが消え、中からプスプスと焼き焦げた音を出しながら、何とか二本の足で立ってる様子のシュウさん。そんな彼女を、先ほどまで殆ど地面に届いてなかった月の光が照らします。見ると、先ほどの衝撃で辺りの樹木がなぎ倒され、この一帯だけ山が開けてしまったのです。
そして、シュウさんのライフは。
シュウ LP4000→1
4000から1に。
「スキル《根性》を発動だ。この効果によって、アタシは1度だけライフが0にならないぜ」
シュウさんはいいます。でも、
「なら、連続攻撃で沈めるだけなのだ」
ゼウスちゃんはいいます。直後、アインスさんが、
「まさか!? あの時、意味不明に装備された《比翼レンリン》の効果というのは」
「正解なのだ。《比翼レンリン》を装備したモンスターは1度のバトルフェイズで2回攻撃を行えるのだ。《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の2回目の攻撃!」
再び、サイバー・ダーク・ドラゴンの口にエネルギーが貯め込まれます。しかも、フィール量は先ほどと同じ、いえ、それ以上。
「待てよ。さっきの攻撃にあれだけフィールを込めて、何でまだこんなで出力が出せるんだよ」
シュウさんが驚きいいます。けど、直後私は気づきました。
アインスさんが「攻撃に全フィールを注ぎ込んだ」って読む程の攻撃をしたに関わらず、思ったよりゼウスちゃんのフィールが消耗されてないことに。
「もしかして」
私はいいました。
「ゼウスちゃん。わざと、自分のフィールを調節して弱くみせたままデュエルしてたの? ド〇ゴンボールで、気をコントロールしてスカウターに表示される戦闘力を低くみせたみたいに」
返事の代わりにゼウスちゃんはいいます。
「天国でこのヘルゼウスのフィールを見誤ったことを後悔するのだ。フル・ダークネス・バースト第二打ッ!」
サイバー・ダーク・ドラゴンから再び、巨大なビームブレスが放たれました。
「あ、あ」
シュウさんは、すでにボロボロでフィールの防壁を作り損ねた模様。このままだと。
「シュウ!」
アインスさんが叫び、庇おうと駆けだしますが、間に合いそうにありません。私に至っては、駆けだそうにも、自力で立ち上がる事も難しい始末。
ビームブレスがシュウさんを飲み込む。その直前でした。
不意に誰かがシュウさんの前に現れ、その誰かごとビームはシュウさんを飲み込みました。
「うわっ」「きゃあ」
その余波で、私は更に遠くまで突き飛ばされます。しかも、さっきより威力が高いせいで、目も開けれられません。
「シュウ! シュウウウウウウッ!」
その中で聞こえるのは、アインスさんの嘆き叫ぶ声。
程なくして、余波は段々小さくなっていきます。目を開けた所、攻撃が終了しビームが段々薄くなっていくのが見えました。
そして、中から姿を現したのは3人の女性の姿。
ひとりは間違いなくシュウさんでした。彼女自身も何が起きたのか分からず、茫然としてるのが伺えます。
残りふたりは、そんな彼女を庇うように立って、二人掛かりでフィールの防壁を張りビームを何とか防ぎ切った。私にはそう映りました。
その内ひとりはメイド服を着た小中学生くらいの女の子。そして、もうひとりの特徴を私の脳が理解した所で。
(え?)
と、私は愕然します。
それは、ボブカットの髪型をした物静かな子でした。表情筋が少し乏しいのですけど、とても美人さん。歳は今年度15歳になる中学3年生。というのも、私は彼女をよく知ってました。
本来、この場には天と地がひっくり返ってもいるはずもない、私の大事な従妹のひとり。
「
私は叫び、アインスさんもほぼ同時に、
「
と、呼びます。
シュウ LP1→0
ソリッドビジョンがシュウの敗北を告げる中、
「皆様。ご無事でしたかー?」
辺りを照らすような、明るく天真爛漫な様子でヒロちゃんという方はいいました。冥弥ちゃんと並ぶと、まるで陰と陽。それでいて、横目はしっかりとゼウスちゃんに向けられ、見るに光学武器と思われる小型の機械を指と指の間に挟んで3本握ってます。
「た、助かったぜ。ヒロ助」
まだわずかに茫然としながらシュウさんがいうと、ヒロちゃんは、
「ヒロ助じゃありません。ヒロちゃんです」
「拘ってる場面じゃねーだろ」
以前から彼女との間でやってるやり取りなのでしょう。突っ込みを入れながらシュウさんは、やっと息をつき、茫然とした状態から抜け出します。
「で、隣の奴は一体」
シュウさんの言葉に、
「従妹です。私の」
と、私はいいました。
「私たちの中ではゼウスちゃんと一番仲良しだった子で、藤稔 冥弥といいます。でも、フィールは知ってても裏の世界には関わってなかったはず」
やっと足の痛みが引いてきたので、私は軽く紹介を済ませながら立ち上がり、
「冥弥ちゃん。どうしてここに」
「合流……しました」
冥弥ちゃんはいいます。
「どこに?」
いえ、流れから別動隊とは思いますけど。
ヒロちゃんという方がアインスさんやシュウさんの知り合いという事は、彼女はハイウィンドの関係者と推測できますし、そんな方と一緒なのですから、他に合流先は浮かびません。
「察して、欲しい」
冥弥ちゃんはいって、
「それよりも、いまは」
と、赤外線を飛ばして、ゼウスちゃんに強制デュエルを仕掛けます。
「な、冥弥!?」
驚くゼウスちゃん。
「本気なのか?」
「ここでゼウスを止めるのが、私の役目……です」
「地津の指示か」
ゼウスちゃんは、辛そうに俯き、いいます。
「私は、また大切な者を殺らなくてはいけないのか」
また。という事は、すでにゼウスちゃんは大切な人をひとり殺した後なのでしょう。多分、従姉の私よりずっと大切な誰かを。
「ゼウス。その時は……私を捕獲してください。ロストと、闇のフィールで駒になる以上。……殺すより、そのほうが利に、なります」
とんでもない事をいう冥弥ちゃん。でも、
「駄目なのだ!」
ゼウスちゃんは嘆きます。
「したくても、その許可は出てないのだ! 許可が出てたら、いまのデュエルだって殺す気満々の攻撃なんてしてないのだ!……邪神に現場の判断をする権利はないのだ。私は、大依さんの言う通りに行動しないと」
「大依さん?」
冥弥ちゃんの問いに、
「あっ」
びくっと体を震わせるゼウスちゃん。そして、怯えながら辺りを確認してから、
「無駄口は終わりなのだ」
と、ゼウスちゃんはいいます。
やっぱり、ゼウスちゃんの行方不明にはあの人が関わってたようです。無事に戻れたら、すぐに報告しないと。あと、地津ちゃんにも伝えたほうが良さそうですね。ハングドとしては違反行為になりますけど。
「皆様」
ヒロちゃんがいいました。
「彼女の足止めは私と冥弥さんで行いますから。シュウ様と藤稔様は直ちに安全圏に帰投、アインス様は一時お嬢様の下に合流をお願いします」
「あ、あれをお前たちふたりに任せろってのか?」
実際にデュエルして、実力を思い知ったシュウさんが言いますけど、
「分かりました」
アインスさんがいいます。
「おい!」
シュウさんが叫ぶ中、ヒロちゃんは続けて、
「あ、ですけどその前に、周りのフィール・ハンターズは全員回収しちゃってください。りん様が近くの集会場を手配してくれたそうで、医務、洗脳解除、尋問それぞれの人員が待機しています」
なおミハマ支部への疑いは、合流前にゼウスちゃんが殲滅してしまったという事実によって解決してます。
「分かりました」
私は率先してうなずき、倒れている他のフィール・ハンターズの下に向かいます。
そこをアインスさんが、
「藤稔さん。無茶をなさらず」
「大丈夫です。もう、痛みは治まりましたから。それにフィールもまだ余裕がありますし、私も任務続行で神簇さんの下に合流します」
私が努めて微笑むと、
「分かりました」
アインスさんはすまなそうに、
「本当なら無理するなと言いたい所ですが、いまは猫の手も借りたい状況です。力を貸してください」
「はい」
私はいいました。
冥弥
LP4000
手札4
[][][]
[][][]
[]-[]
[][][]
[][][]
ヘルゼウス
LP4000
手札4
そんなやり取りの間に、デュエルが始まりました。
しかし、ふたりが最初の手札を4枚引いて直後、
「え?」「は?」「なにを!?」
私、シュウさん、アインスさんはそれぞれ驚き、反応します。
何故なら、冥弥ちゃんは先攻の確保、そして最初の手札に保有していたフィールを一気に全部注ぎ込んで、デュエル開始早々フィールを全損してしまったのですから。
「なにをする気なのだ、冥弥」
ゼウスちゃんが訊ねた所、冥弥ちゃんは、
「さっき、言った通りです。……足止めです」
といって、
「私の先攻。私は……フィールド魔法カード《アンデットワールド》を発動します。フィールド・墓地のモンスターは……全てアンデット族になります。そして……私とゼウスは、アンデット族モンスターしかアドバンス召喚できなくなりました」
冥弥ちゃんのデッキは、この場にいないハイウィンドのシルフィさんとはまた違った、この《アンデットワールド》を使ったタイプのアンデットデッキ。
続けて、冥弥ちゃんは手札をディスクに置いて、
「《終末の騎士》を通常召喚。……《アンデットワールド》の効果で、このモンスターはフィールド・墓地でアンデット族になります。そして……召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した《終末の騎士》は、デッキから闇属性モンスターを墓地に送ります。……私は、《ゾンビキャリア》を墓地に、送ります」
さらに、冥弥ちゃんは手札を1枚今度はデッキの一番上に置きます。
「《ゾンビキャリア》の効果。……手札を1枚、デッキの一番上に戻して特殊召喚します」
これで、冥弥ちゃんの場には2体のモンスター。さらに《ゾンビキャリア》はチューナーです。
「レベル4《終末の騎士》に、レベル2《ゾンビキャリア》をチューニング。口上自粛。シンクロ召喚。……きて、レベル6《アンデット・チャージ・ウォリアー》」
こうして召喚されたのは、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》がアンデット化したモンスター。攻撃力も元のモンスターと同じ2000です。
「《アンデット・チャージ・ウォリアー》のモンスター効果。……このカードがシンクロ召喚に成功した時、デッキからカードを1枚ドロー。この効果は、フィールドに《アンデットワールド》が存在する場合のみ処理される代わりに、1ターンの回数制限は、ない」
冥弥ちゃんは先ほど《ゾンビキャリア》でデッキトップに戻したカードをドローします。すると、
「ドローした《ディメンション・イニシャライズ》の効果。……このカードは、カードの効果によってデッキから手札に加わった時……エンドフェイズまで相手に公開し続ける事で発動可能。私は、この効果で除外されてる私のモンスターを、全て墓地に戻す。……その後、フィールド・墓地に存在するモンスターを可能な限りエクストラデッキに戻します」
結果、S召喚したばかりの《アンデット・チャージ・ウォリアー》はEXデッキに戻り、代わりに除外された《ゾンビキャリア》が墓地に戻ります。
「冥弥? 一体、何をするつもりなのだ?」
訊ねるゼウスちゃん。ですけど、冥弥ちゃんは止まらず、
「《アンデット・チャージ・ウォリアー》がフィールドを離れた場合、自分・相手の墓地から素材モンスター1体を蘇生できます。私は墓地から《終末の騎士》を蘇生、効果は使わない」
再びアンデット化した《終末の騎士》がフィールドに舞い戻ると、冥弥ちゃんは公開していた《ディメンション・イニシャライズ》をデッキトップに戻し、いいました。
「手札を1枚デッキの一番上に戻し、墓地の《ゾンビキャリア》を蘇生。……レベル4《終末の騎士》に、レベル2《ゾンビキャリア》をチューニング。口上自粛。シンクロ召喚。……きて、レベル6《アンデット・チャージ・ウォリアー》。効果でドローします。そして、ドローした《ディメンション・イニシャライズ》の効果を発動」
ここでアインスさんが、
「まさか、無限ループか!?」
「無限ループだって?」
シュウさんが訊ねます。続けて私も、
「でも、この無限ループだと単純に繰り返し同じプレイングを続けるだけです。それではゼウスちゃんに勝利することは」
「いや。それが目的なのだろう」
アインスさんはいいました。
「どういうことですか?」
私が訊ねると、
「まさに“繰り返し同じプレイングを続ける”事が目的なんだ。高速でプレイングを続ける事でタイムアウトまでの時間を限界まで引き伸ばす。その間、デュエルを請けてしまった相手はこの場を離れ戦線に戻る事はできない」
そんなアインスさんの解説に、ゼウスちゃんは「あ」となって、
「冥弥! まさか、デュエルで足止めとはそういう事なのか?」
「墓地に戻した《ゾンビキャリア》を……シンクロ召か……ドローした《ディメンション・イニシャライズ》の効果を……」
冥弥ちゃんは、ゼウスちゃんの問いには応じず、ただただ同じプレイングを繰り返す。返事をする時間さえないのが分かります。
「恐らく彼女は最低でも0:10過ぎ、まだ2時間も先の鳥乃とミストランのデュエルまで、このプレイングを続けるつもりだろう。……かの漫画の
今日は不思議とジャンプ漫画を例に挙げることが多い気がします。
「だから言いましたよー。その位の時間は確保できる予定ですって」
ヒロちゃんがいいました。隣で冥弥ちゃんも、プレイングを続けながら首だけ一回縦に振ります。
「助かります。おふたりとも」
アインスさんが言った直後でした。私たちの会話の隙をついて、ゼウスちゃんが串に挿した秋刀魚の造形をしたビームサーベルを抜刀。冥弥ちゃんに襲い掛かりますけど、ヒロちゃんが指の間に挟んだ光学武器から同じくビームの刀身を出してゼウスちゃんの一撃を受け止めます。どうやら、ビームクナイだったみたいです。そんな物が存在する事に私としては衝撃ですけど。
さらにヒロちゃんは、もう片方の腕から巻物を出すと、それが機関銃に形を変え、
「近代忍法! 火遁・魔震丸の術!」
なんか変な事を言いながら、機関銃をゼウスちゃん向けて乱射。ゼウスちゃんはフィールの防壁でダメージを防ぐも、銃弾の衝撃で最初の位置まで押し戻されます。
その間に、私たちは敵勢力を一か所に集め、再び発動した《ワーム・ホール》で全員の隔離に成功。最後に、フィールを全損してるシュウさんが自分のDホイールと一緒にゲートを潜って帰投した事で、私たちのここでの仕事は一旦終了します。
「ヒロちゃん。ふたりをどうかお願いします」
アインスさんはヒロちゃんに伝え、私も、
「冥弥ちゃん。どうか、死なないで」
言い残してから、この場をふたりに任せてDホイールで山を下ります。
その、途中でした。
山を下った辺りの位置から、紫色の光で宙に模様が描かれだしたのは。あれって確か。
「地縛神の模様!?」
私が驚いて口にすると、さらにアインスさんが、
「しかも鳥乃の地縛神の模様とも、今日散々見てきたフィール・ハンターズのそれとも違う。まだ誰も情報を持ってない、3人目の地縛神の所有者が現れ、召喚したらしい」
そう口にする間に、模様の下から出現したのは一つ目の巨大な地縛神のモンスター。
「急ぎましょう。神簇さんかガルムちゃんのどちらかが、新たな所有者とデスデュエルをしているのかもしれません」
アインスさんの言葉に私は、
「分かりました」
と、応えて、少し怖かったですけどDホイールのアクセルを踏み、全速力で向かいます。
道中、2・3回事故しかけました。
●今回のオリカ
サイバーダーク・インフィニティ
通常魔法
(1):自分の手札・デッキ・フィールドから、ドラゴン族の「サイバー・ダーク」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、
その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。
(2):「サイバーダーク・インパクト!」の効果が発動した時に、墓地のこのカードを除外して発動できる。
自分はその「サイバーダーク・インパクト!」の効果で他の「サイバー・ダーク」融合モンスターを融合召喚できる。
その場合、デッキに戻すモンスターは「サイバー・ダーク」融合モンスターカードによって決められた「サイバー・ダーク・ホーン」「サイバー・ダーク・エッジ」「サイバー・ダーク・キール」を含む融合素材モンスターとなる。
鎧刻竜-サイバー・ダーク・ドラゴン・ノヴァ
融合・ユニオン・効果モンスター
星5/闇属性/ドラゴン族/攻2100/守1600
ドラゴン族モンスター+機械族モンスター
(1):1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●自分フィールドの表側表示の「サイバー・ダーク」モンスター1体を対象とし、このカードを装備カード扱いとしてそのモンスターに装備する。
装備モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する。
●装備されているこのカードを特殊召喚する。
(2):「サイバー・ダーク」モンスターに装備されたこのカードは、装備モンスターの効果によって装備されたモンスターとして扱う。
(3):このカードが墓地に送られた場合に発動できる。「サイバー・ダーク・ホーン」「サイバー・ダーク・エッジ」「サイバー・ダーク・キール」をそれぞれ1体まで手札・デッキから墓地へ送り、「サイバーダーク・インパクト!」1枚をデッキから手札に加える。
輪廻独断
スキル
(1):自分のライフポイントが3000以下になった後に1度だけ使用できる。デッキ外から「輪廻独断」を発動する。
輪廻独断
永続罠
(1):発動時に1種類の種族を宣言する。このカードがフィールド上に存在する限り、
お互いの墓地に存在する全てのモンスターを宣言した種族として扱う。
(遊戯王デュエルモンスターズGX)
コンタクト・オブ・ファイア
速攻魔法
(1):手札・デッキ・墓地から炎属性モンスター1体を選択し、リンクモンスターのリンク先に表側守備表示で特殊召喚する。
この効果によって特殊召喚されたモンスターの効果は無効化され、ターン終了時にデッキに戻る。
(2):墓地のこのカードを除外して発動する。
自分のフィールドから、融合モンスターカードによって決められた素材モンスターをデッキに戻し、
その炎属性・融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚、もしくは召喚条件を無視して特殊召喚する。
根性
スキル
(1):ライフポイントが4000以上で開始したターン、自分のライフポイントは1度だけ1未満にならない。このスキルはデュエル中に1度しか適用されない。
ディメンション・イニシャライズ
通常罠
(1):このカードがカードの効果によって自分のデッキから手札に加わった場合、手札のこのカードを相手に見せて発動できる。
除外されている自分のモンスターを全て墓地に戻す。その後、自分フィールド・墓地に存在するモンスターを可能な限りEXデッキに戻す。
この効果を使用した場合、エンドフェイズまで手札のこのカードを公開する。
(2):以下の効果から1つを選択して発動できる。
●ゲームから除外されているモンスター1体を選び、持ち主の墓地に戻す。
●フィールド・墓地に存在するモンスター1体を選び、持ち主のEXデッキに戻す。
アンデット・チャージ・ウォリアー
シンクロ・効果モンスター
星6/風属性/アンデット族/攻2000/守1300
「ゾンビキャリア」+チューナー以外のアンデット族モンスター1体以上
(1):このカードがS召喚に成功した時に発動できる。
フィールドに「アンデットワールド」が存在する場合、自分はデッキから1枚ドローする。
(2):S召喚したこのカードがフィールドを離れた場合、このカードのS素材に使用したアンデット族モンスター1体を自分・相手の墓地から特殊召喚できる。