FGOで学園恋愛ゲーム   作:トマトルテ
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14話:部屋

 

 それはエドモンの家にて、男友達で遊んでいた時だった。

 

「海にでも行かないか?」

 

 そう言って、夏の定番行事をエドモンが提案してきた。

 

「海ですか? いいですね」

「俺も構わない。それで日にちは?」

「それは、この日でどうだ?」

 

 特に予定もないのか、天草とジークフリートはすぐに頷く。

 そして、日にちを詰めていく段階に入る。

 

「その日ならボクもいけるよー」

「余も問題はない。して、モードレッドとぐだ男は行けるのか?」

 

 最終確認をするためにラーマが、俺とモードレッドに尋ねてくる。

 俺としては是非とも行きたいのだが……チラリとモードレッドを見る。

 

「オ、オレはその日に用事があってな。お前らだけで楽しんで来いよ」

 

 努めて気にしていないように振舞いながら、彼女は行けないと言う。

 本当はみんなと一緒に遊びたいという寂しさを隠しながら。

 

「そうか、用事ならば仕方がないな。それで、ぐだ男お主は?」

 

 ラーマの問いかけに一瞬だけ考えるが、すぐに口を開く。

 

『ごめん、その日は俺も用事があるんだ』

 

 モードレッドだけを一人にしたくはない。

 一人ぼっちはとても辛いことだから。

 まあ、傍迷惑かもしれないけど。

 

「分かった。では、余達だけで楽しんでくるとしよう」

「そうか、なら詳しいことは参加者だけに送るか。後日、連絡をする。今日はお開きにするか」

 

 エドモンの言葉にガヤガヤと話しながら立ち上がる俺達。

 その中でモードレッドだけは、何とも言えぬ顔で俺を見つめてきていた。

 恐らくは俺が嘘をついたのではないかと疑っているのだろう。

 それを証明するように他の友人が居なくなったところで、彼女が尋ねてくる。

 

「おい、お前……なんで嘘ついたんだよ」

『何のこと?』

「とぼけんなよ。俺の直感はごまかせねーよ」

『さあ、本当に用事があるのかもしれないよ?』

 

 咎めるような言葉に俺はとぼけて返す。

 視線が鋭くなるが、俺は涼し気に笑いながら微笑むだけだ。

 

「たく……じゃあ、別のこと聞くぞ」

『どうぞ、俺に答えられることなら何でも』

「海に行く日にオレん家に来れるか?」

 

 予想外の言葉に目を大きく見開いてしまう。

 

『……その日は用事があるんじゃないの?』

「質問には質問で返すなって習っただろ。用事なら午前中に終わるかも(・・・・・)しれねーし」

『そっか……じゃあ、俺の用事も午前中に終わるかも(・・・・・)しれない』

 

 ほんのりと頬を染めながら返事をする。

 モードレッドの頬も、ほんのりと染まっているのが良く見える。

 

「待ってるからな。……ちゃんと来てくれよな」

『なるべく待たせないようにするよ』

 

 勿論、二人とも用事なんてない。

 でもそれは言わない。まるで、男女の秘め事の約束のようにしとやかに結ぶ。

 互いの意地というものを守るために。

 

「じゃ、じゃあな。オレの家はこっちだから」

『うん、またね』

 

 少し恥じ入るように小さく手を振り、モードレッドは背を向ける。

 夕日に染まるその背中は、一人の魅力的な女の子にしか見えないのだった。

 

 

 

 

 

『ここがモードレッドの家か……』

 

 約束の日、首を大きく上に曲げて家の全様を眺める。

 その姿はまさに威風堂々。一目で豪邸だと分かる作りで見る者を圧倒する。

 軽く咳ばらいをし、インターホンに指をかける。

 と、そこで。

 

「お待ちなさい。まずはアルコール消毒液で手を洗いなさい」

『あ、はい。ナイチンゲール先生』

 

 玄関先に置いてあったアルコール消毒液で手を洗う羽目になる。

 流石はナイチンゲール先生だ。家に入る前から先制パンチをくらわしてくる。

 

「それから家に入ったら、うがいをするように」

『分かりました』

「モードレッドを呼んでくるので案内はあの子にさせます」

 

 先生は手を洗うのを見届けると、俺を家の中に入れてモードレッドを呼びに行く。

 埃一つない手入れの行き届いた中の様子をしげしげと眺めていると、ドタドタと走る音が聞こえてくる。

 

「おおっ! よく来たな。早速オレの部屋に―――」

「モードレッド?」

「―――行く前にうがいしないとな。洗面所はこっちだ」

 

 先生に人睨みされただけで、あっさりと自分の主張を曲げるモードレッド。

 母は強しというが、この家でのヒエラルキーでは直接的なトップなのだろう。

 

『いつもこんな感じなの?』

 

 洗面所へと案内される途中で小声で尋ねる。

 

「ああ。手洗いうがいは絶対だな。

 オレもコーラでちゃんとうがいしてんだけどなぁ。なんでか怒られんだよ」

 

 渡された清潔なコップでうがいをする俺の横でモードレッドがひとり愚痴る。

 コーラでうがいが効果があるのか、ないのかは俺には分からないので黙って頷いておくだけにする。

 

「よし、終わったな。じゃあ、オレの部屋に行くぜ」

『分かった』

 

 一言返事を返し、どこかウキウキとした様子のモードレッドの後ろについていく。

 その中で俺は気づかれないように深呼吸を一つ行う。

 端的に言って緊張しているのだ。でも、仕方がないだろう。

 

 だって女の子の部屋なんだ。男友達として接してはいるが、間違いなく女子高生、JKなのだ。

 思春期真っ盛りの男子高校生である俺が意識しないはずもない。

 どんな匂いがするのだろうとか、下着とか見えたりしないかなとか考えている。

 

「ついたぞ。……まあ、散らかってるけどくつろいで行けよ」

『お邪魔します』

 

 丁寧にあいさつをして部屋に入る。

 部屋に入っての第一印象は簡素だなというものだった。

 寝るためのベッドに、テレビ、乱雑に散らばった少年漫画。

 そして机の上に大切に飾られた家族写真。

 他にも細々としたものはあるが、全体としてシンプルな部屋だ。

 

「そ、そんなにジロジロ見るなよ。……照れくさいだろ」

『ごめん。意外って言ったら悪いけど、もっとごちゃごちゃしてるかと思ってた』

「そうか? まあ、軽く掃除はしたけどよ」

 

 そう言って、モードレッドは適当に座れと座布団を投げてくる。

 片手でそれをキャッチし、座ってあぐらをかく。

 

「…………」

『…………』

 

 何を話せばいいのかわからずに、甘酸っぱい沈黙が流れる。

 

「な、なんかしゃべれよ」

『そう言われても……』

 

 お互いにどうすればいいのか分からずに話題の提供を求める。

 これが男部屋であれば、適当に何かを引っ張り出して話のネタにするのだが、女の子の部屋では失礼だろう。

 

「そうだ! この前借りてきたDVDがあんだった。えーと……」

 

 DVDの存在を思い出したらしいモードレッドが、四つん這いになりDVDレコーダーをいじる。

 別に彼女はスカートを履いているわけではない。デニムの短パンだ。

 だが、四つん這いで強調されたお尻と、ムッチリとした太ももが強烈な刺激を放つ。

 思わず、後ろから襲い掛かりたいという劣情が湧き上がってくるが何とか抑え込む。

 

「よーし、あった。ん、なんでよそ向いてんだ?」

『何でもないよ』

 

 目に毒な光景から目を逸らしていた俺の方を、不思議そうに見てくるが察してほしい。

 というか、もう少し女性として注意してくれないだろうか。

 いくら性別を隠しているとはいえ……俺の理性が。

 

「ま、いいか。一先ず、これでも見ようぜ」

『なんてタイトルなの?』

「えーと、“王の名は”だな」

 

 そこはかとなくパクリの匂いがするが、一先ず見てみないことには分からない。

 黙って映画が始まるのを待つ。

 

 

 ある日、日本への留学生であるアルトリア・ペンドラゴンは不思議な夢を見る。

 それは自身が5世紀後半のブリテンで王位につくというものだった。

 不思議な夢に疑問を抱きながらも、ホームステイ先の赤毛の少年と日々を過ごしていた。

 しかし、その後も不思議な夢は続き、どういうわけか身に覚えのないことが起き始めていく。

 

【シロウ、私のプリンが冷蔵庫に見当たらないのですが】

 

【何言ってるんだ、セイバー。昨日食べてたじゃないか?

 何だかいつもよりも感動して食べていた気がするけど】

 

【……私が?】

 

 食べた覚えのないプリンの消失。

 そして、いつもよりも固い態度を取っていたという記憶にない行動。

 奇妙な現象に首を傾げながらも生活を続けていくうちに、夢がどんどんと鮮明になっていくことに気づく。

 

【毎度、蛮族退治の夢ばかりなので同じ夢だと思っていましたが、全部違う夢だったのですね。

 しかも、回数が重なるにつれて敵が増えていくとは。ブリテンは大丈夫ですかね?】

 

 夢の先の自分、アーサー王は周囲の反応からして完璧な王だった。

 なので自分も完璧にこなそうとしていた結果、いつの間にか情が移ってしまった。

 それと何故か、アーサー王は自分よりスタイルが良いのに男扱いらしい。

 いくら臣下に美形が多いとはいえこれはないだろうと思うが、夢のことなのでさほど気にせずに過ごしていく。

 

【セイバー、最近なにか悩み事でもあるのか?】

 

【どうしたのですか、シロウ。藪から棒に】

 

【いや、最近たまに思いつめた表情をするようになったし。

 知ってる道なのに、分からないって聞いてきたりするからさ】

 

【………いえ、シロウの思い過ごしでしょう】

 

 しかし、日々の違和感はどんどんと大きくなっていく。

 自分でない自分の可能性。

 二重人格にでもなってしまったのかと思うが、それ以上にあの夢のことが気になる。

 そこで、彼女は思い切ってある行動に出ることにした。

 

【夢の先で手紙を書いてきましょう。

 私の仮説が正しければ、あちらも何かしらの行動を起こすでしょうし】

 

 自分の身上と名前を記し、手紙としてアーサー王に持たせておく。

 そうすれば、自分が夢から起きた後には。

 

【……やはりそうですか】

 

 アーサー王からも手紙が来ているはずだ。

 予想通りに枕元に几帳面に折りたたまれていた手紙を開き内容を確認する。

 明らかに自分の書いた内容ではない。それを見て彼女は確信した。

 

【どうやら―――私達は入れ替わっているようですね】

 

 5世紀後半のアーサー王と21世紀のアルトリアは夢の中で入れ替わっていたのだ。

 

 

 

 

 

「滅ぶと分かっていても救おうと足掻いた父上。

 確定した未来を知っても笑顔で進んだアーサー王……くそ、涙が止まらねえぜ!」

 

 号泣しながら語るモードレッド。

 確かに未来から来たアルトリアが滅びの運命に抗おうと必死になる姿は、涙なしには見れない。

 逆にアーサー王は未来で全ての結末を知っても、迷うことなくあるべき時代に戻ったシーンも感動ものだった。

 

「【あなたの笑顔に続くのなら、きっと私の人生に間違いはないのでしょうから】とか

 ……アーサー王マジパネエ!」

 

 事実を知り、何とかできないかと尋ねるシロウへのセリフは鳥肌がたった。

 本当は一緒に居たいのに、芽生えた恋心を押し隠して気丈に振舞った騎士王。

 

 全ては水泡のように消え行くものだ。誰の記憶にも残らない。

 だとしても、それが誰かの笑顔につながるのならばそこに意味はある。

 それが未来に来たアーサー王が得た答えだった。

 

「クライマックスで隕石にエクスカリバーをぶっぱするのは燃えたぜ!」

 

 5世紀のマーリンの星詠みにより予言された、21世紀のイギリスへの巨大隕石の落下。

 その運命を覆すために現代に戻ったアルトリアは、イギリスに帰り湖の乙女から剣を授かる。

 そして、祖国の破滅を回避すべく、迫りくる巨大な隕石に向かいエクスカリバーを放つ。

 だが、ただの女子高生であるアルトリアには破壊しきる力が足りなかった。

 

「ちくしょう…! あそこで親子かめはめ波みたいにエクスカリバーとかカッコよすぎだろ!」

 

 そこにアヴァロンからの眠りを終え、霊体として現れたアーサー王が背中を押したのだ。

 ブリテンが危機に陥れば、アヴァロンでの眠りを覚まし、再び蘇るという伝説の通りに。

 

「ラストに名前を聞かれた父上が、一言“キングアーサー”って言って去るのはやばかったぜ」

 

 もういない。しかし、確かにそこに居た偉大なる王の名前。

 アーサー王の意志は今もなお息づいているというメッセージで映画は終わった。

 久しぶりに映画を見たがこれは間違いなく200億は行く。間違いない。

 

『ホントに感動したね。……それと、ちょっとトイレ行きたいんだけど場所教えてくれない?』

「ん、ああ、案内するからちょっと待ってろ」

 

 ずびずびとティッシュで鼻をかみ、ゴミ箱に捨てて立ち上がるモードレッド。

 そのまま二人で部屋から出ていき、トイレに向かっていく。

 

「ほう、これは珍しいな。愚息が友人を招くとは」

「あ、父上!」

『あ、お邪魔してます』

 

 そこで、ランサー・アルトリア・オルタさんとばったり出くわす。

 何故か馬に乗っているのは、家がやたらと広いからだろうか?

 

「どうだ、愚息はそなたにとって良き友人か?」

『はい、それは勿論』

「なんだよ、こっぱずかしいこと言うなよ」

 

 関係性について尋ねられ、素直に答えるとモードレッドに小突かれる。

 でも、二ヘラと頬が緩んでいる辺り嬉しくはあるのだろう。

 

「フ、そうか。私の跡を継いで(・・・)超えるなどと言っている馬鹿者だが、よろしく頼むぞ」

「バカじゃねーよ! オレは絶対に父上の跡を継いで超えるからな!」

「……まったく、自分の心すら理解できぬか」

 

 自分の跡を継ぐという言葉に渋い表情を見せるランサー・アルトリア・オルタさん。

 一体そこにどういう意味と感情が込められているかは俺には分からない。

 分からないが、二人の関係が複雑であることだけは分かる。

 

「まあいい。それで、お前はこの男をどう思っているのだ?」

「おう、良い友達だぜ!」

「なるほど、それだけか?」

「そ、それだけってなんだよ? 確かに他の奴らとはちょっと違う……かもしれないけどさ」

 

 モードレッドは横目で俺を見ながら、ほんのり顔を赤くする。

 その様子にランサー・アルトリア・オルタさんは、愉快そうに笑う。

 

「そうか、そうか。これは面白いことになりそうだな」

『面白いこと…?』

「せっかくの二人きりだ、押し倒してみたらどうだ?」

『なっ!?』

 

 からかうように告げられた言葉に声が裏返る。

 この人は俺がモードレッドの性別を知っていることを、理解したうえでからかっているのだ。

 まるで、一緒にいる間に必死で押し殺していた劣情を煽るように。

 

「フフフ、ではな。くつろいでいくがいい」

 

 不敵な笑みを残して歩き去るランサー・アルトリア・オルタさん。

 その背中を見つめながら、俺とモードレッドは無言で立ち尽くす。

 思春期の男女があんな事を言われて意識しないはずがない。

 映画によって解れていた緊張が再び訪れる。

 

「な、なぁ……」

 

 その空気を壊すためにモードレッドが口を開く。

 

「俺達ずっと友達だよな?」

 

 どこか不安そうな瞳。

 すぐ傍に居るのに消えてしまいそうな儚さを湛えた表情。

 それを見るのが嫌だから即答してしまった。

 

『勿論。ずっと友達だ』

「ハハ…! そうだよな。うん、そうだよな!」

 

 パッと顔を輝かせる彼女の姿に、少しの罪悪感を覚える。

 でも、しょうがないだろう。言えるわけがない。

 心の奥底では彼女を異性として意識しているだなんて。

 

「そうだな、友達だからな。よっし! 今度サーフィンに連れて行ってやるよ」

 

 性別を隠してでも頑張っている彼女に言えるはずがないだろ。

 





さて、次回はサーフィンです。
因みにアルトリアさんは銀幕のスターです(真顔)



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