間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。   作:@ぽちタマ@

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番外編
オレンジペコは知っている


 大洗との練習試合のあと、ダージリン様は西住さんたちに手紙とティーセットを贈ることに決めたようです。

 

 たしかに彼女たちは私たちを何度も驚かせてくれました。

 一時期はこちらが優勢だったはずなのに、気がつけばこちらの車両が次々とやられ、そして最終的には一対一での対決。

 結果で言えばこちらの勝利でしたが、あれはどちらに勝利が転んでもおかしくなかったと思います。

 

 だからダージリン様は、大洗のみなさん、特に西住さんと八幡さんを好敵手と認め、その証としてティーセットを贈ろうとしているようなんですが……なんだか様子がおかしいような?

 

 いえ、おかしいというのは少し語弊があるかもしれませんが、少なからずいつものダージリン様ではないような気がします。

 どのような窮地にも決して動じることなく対応し、勝利のためには僚車を盾とすることも辞さない非情さも併せ持つ優秀な指揮官であるはずの彼女が。今はどことなく、楽しそうに手紙を書いている様子は、普段なら滅多に見られないような光景です。

 

「ダージリン様、どうかなさったのですか?」

 

「どうしたのペコさん?」

 

「いえ、なにやら楽しそうに手紙を書いてらっしゃるご様子だったので、少し気になりまして」

 

「楽しそうに?」

 

「えぇ」

 

 どうやら、ダージリン様は気づいていなかったようで、私に指摘されて初めて気づいたようです。

 

「ふふっ♪たしかに楽しみなのかもしれませんね。彼がどんな反応をするのか」

 

 なにやらよからぬことを企んでいるご様子。まるでその顔はいたずらっ子のように悪い顔になっています。これはほかの生徒には見せられませんね。

 

 ダージリン様が先程おっしゃった「彼」とは、比企谷 八幡さんのことで間違いないでしょう。

 

 今、聖グロリアーナでは彼のことで話題がもちきりになってしまっています。それもそのはず、あのダージリン様が殿方とお茶会をしていたり親密そうに話していたりなどすれば、お嬢様学校といえどやはりそこは女子高生、こういう話題にはやはり敏感なのです。

 

 その話題の中心にいるのがダージリン様ということもあり、噂は瞬く間に広がっていきました。

 

 当の本人はまったく気にしていようなのですが、なぜかそのとばっちりが私の方に……。

 

 いえ、たしかに私はいつもダージリン様と共に行動はしていますが、その……カッコよかっただとか、性格はどうだとか、私に聞かれても困ってしまいます。

 

 だってそれは私の感想であって、ダージリン様の感想ではないのですから、おいそれと言えるはずがありません。

 

 え?私の意見でいい?いえ、そこは黙秘させていただきます。

 

「ダージリン様、あまり八幡さんをからかってはいけませんよ?」

 

「えぇ、大丈夫よ」

 

 本当に大丈夫なんでしょうか?不安です。

 

 

 そして数日がたち、戦車道全国大会の抽選会があった日。

 

 どうやらダージリン様宛に八幡さんから手紙の返事が来たようで、私はその手紙をダージリン様に届けるように言われたので届けに行きました。

 

「ダージリン様、八幡さんからの手紙です」

 

「彼から?」

 

 そして私から手紙を受け取り、ダージリン様はその手紙を読んだのですが、なにやらダージリン様の動きが止まり心なしか顔が赤くなっているような?

 

「ど、どうしましょう?」

 

 いつものダージリン様とは思えない狼狽えよう、あわあわとしている様子は初めて見ました。

 

「ど、どうなさったんですか!?」

 

「こ、これを」

 

 ダージリン様に見せられたのは彼の手紙。書いてあった内容はシンプルに。

 

『月が綺麗ですね』

 

 と、書いてあり。ピキっと、私の中で何かが崩れる音がしました。

 

「ダージリン様?」

 

「ぺ、ペコさん?なぜか纏っているオーラがおかしくってよ?」

 

 おかしい?いえいえ私はなにもおかしくはないですよ?それよりも。

 

「どういうことか説明をしてもらっても?」

 

「え、えぇ、この前手紙を送ったのを覚えてるかしら?」

 

「あの手紙ですか?」

 

「あれにちょっとしたいたずらで、彼にラブレターを……」

 

「ラ、ラブレター!?いたずらにしてはやりすぎですよダージリン様!」

 

 それで彼から返ってきた手紙がこの返事だと……、へぇー。そうですか。そうなんですか。八幡さんはダージリン様みたいな人が好みだと。ま、まぁ?私には関係はないです。関係はないですけど。

 

 ダージリン様はダージリン様で少し狼狽えすぎなような、意外とそういうことには初心なんでしょうか?

 

「ど、どうしましょう?ペコさん」

 

「知りません」

 

「え?」

 

「自分で蒔いた種なんですから自分でなんとかしてください」

 

「ぺ、ペコさん!?」

 

 もう私は知りません、あとは二人でどうにかしてください。

 

「それよりもダージリン様、先程から携帯が光ってますよ?」

 

「携帯が?こんな時に誰かしら…………ふふ、ふふふ」

 

 あ、あれ?ダージリン様の様子が?

 

「やってくれますわね八幡さん」

 

 先程の狼狽えようはどこにいったのか、今やどこ吹く風。とりあえず相手は八幡さんのようですが、それにしては反応がおかしいような。

 

「どうかなさったんですか?」

 

「これを見てちょうだい」

 

 ダージリン様の画面にはメールで。

 

『冗談なんで気にしないでください』

 

 と、書いてあった。

 

 たぶんこれは、この手紙のことを言っているのでしょう。これまた手の込んだことを、ダージリン様もダージリン様ですけど、八幡さんも八幡さんのような……。

 

 とりあえずはよかったです。……ん?よかった?なんで私は今、ホッとしたんでしょう?

 

「次に彼に会ったときが楽しみね」

 

「ダージリン様、もうやめときましょう。たぶんあの人には勝てないと思いますよ?」

 

 これはわりと本気で言ってるのですが、どうやらダージリン様はあきらめる様子はなく。

 

「なにを言ってるのペコさん、このままでは終われませんわ!」

 

 ダージリン様は八幡さんが相手となると、人が変わったように子供っぽくなる。

 

 たぶん、このことを知っているのは聖グロリアーナで私だけなんでしょうけど、ほかの人には見せられませんわね。

 

 このあと、ダージリン様はプラウダ高校でのお茶会で八幡さんと再会してボロボロにされるのですが、さすがはダージリン様と言うべきか、ただでは帰ってきませんでした。

 

 彼がこの聖グロリアーナに来るように話をつけてきたと言っていましたけど、それはそれで大丈夫なんでしょうか?

 だってここ女子校ですよ?ダージリン様はどうするつもりなのでしょうか?まさか女装でもさせたりとか……、男の人にこう言ってはいけないんでしょうが、意外と似合いそうですね。女装。

 

 

 


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