間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。 作:@ぽちタマ@
休みが終わり俺は学校に来たのだが、なんか思った以上にすごいことになっていた。
でかでかと垂れ幕に祝、戦車道全国大会一回戦突破とアドバルーンで書かれている。
これ絶対に生徒会の仕業だろうな。これまた随分と派手に告知するもんだ。
これはあれか? 戦車道をやるやつを増やす為なのかもな。それだとわざわざこんな目立つようなことをしてるのにも納得がいく。いやまぁ会長さんの趣味かもしれんが……。
学校に行くやつらが全員これを見ているから効果はあるんだろうが、問題は人がそれで戦車道に来るかどうかだな。割と人員と戦車の補充が急務だからな。だが人が増えたとしても肝心の戦車がないと始まらんし。
「わぁ、戦車道の人たち一回戦勝ったんだ。すごいね比企谷くん!」
おい誰だ比企谷くんというやつは。あんなかわいい男子に話しかけられてしかととか随分と根性が捻くれてんるんじゃないか?
というかあれ? 男子? 男子だよな、あいつ? 正直男子の制服を着てる今でも疑ってしまうレベルである。男装してますと言われれば百人中百人が騙されること間違いなし。
「もう比企谷くん!」
「うぉっ!」
いきなり俺のカバンが引っ張られた。というか比企谷くんて俺か。男子? に知り合いなんていないからな普通にスルーしてたわ。
というかなんで俺のこと知ってるんだ? 知り合いでもないだろうし。
「えっとすまん、誰だ? 覚えてないんだが」
「え……」
するとその男子は長年の親友が自分のことを忘れてしまったかのようにショックを受けるような顔をした。
いや、俺に親友なんていないから適当に言ってるだけだけど、たぶんニュアンスはあってるはずだ。あとその悲しそうな顔はやめてくれ、俺の罪悪感がマッハで最高潮になったんだが。
その男子は俺の発言ではめげずに自己紹介をしてきた。
「え、えっと戸塚 彩加です。一応比企谷くんとは同じクラスなんだよ? よろしくね!」
まじで男子とは思えない輝くような笑顔を戸塚は俺に向けてきた。
そして俺は不思議な感覚に駆られる。
嘘なにこの気持ち、これが男じゃなかったら速攻告白してフラれるところだった……。フラれちゃうのかよ。
「そ、そうだったのか、すまん戸塚」
「ううん、気にしないで。それよりさっきのことだけど」
「戦車道のことか?」
「うん、初出場で一回戦突破できるなんてすごいよね!」
「……そうだな」
相手の無線を傍受してその隙に倒したとかいったら戸塚のやつが悲しみそうだしなんも言わんどこ。
「それにくらべてうちのテニス部は弱いんだ……。それこそ三年生が引退したらもっと弱くなると思う……」
「じゃあどうしたいんだ、戸塚は?」
「できればみんなと練習して一緒に強くなれたらいいんだけど」
「それができなくて困ってる感じか」
「僕がもっと上手かったらみんな練習に来てくれるのかな?」
それはどうだろうな。実際問題戸塚がテニスが上達したとして今まで来なかったやつらが来るかは別問題だろ。下手すると自分たちへのあてつけともとりかねんし、どうしたもんか?
「なんか愚痴を聞いてもらっちゃったみたいでごめんね、比企谷くん」
「気にしなくていいぞ。さっきの俺のこともあるし、むしろこういうことを一度も経験したことがないからな」
「そうなの?」
「あぁ、友達とかいたことはなくてな……」
「じゃあ僕たちは今から友達だね! ……えっと、ダメかな?」
ダメじゃないよ! むしろバッチこいまであるが。その上目遣いはやめてくださいお願いします。超かわいいから。あと頬染めるな、頬を。
「……いいぞ別に」
「ホント!? うれしいな!」
天使だ、天使がここにいる。もう俺人生勝ち組じゃないのか? え? 言い過ぎ?
まさか俺に友達ができるとはな……。大丈夫? 俺死なないかな? なんかもう一生分の運を使い果たした気がするんだが。
そして俺たちはそのまま教室へと向かった。
それより戸塚の悩みをどうにかできないもんか、そんなことを考えていたらいつの間にか昼休みになった。まぁいつものボッチプレイスで飯でも食いながら考えるか。
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はぁ、やっぱり一人はいいな。静かだし、話し相手もいないかから会話の話題も探さなくていいし、変な気を使う必要もない。最近なにかといろいろあったが、やっぱり俺は俺だな。こんなことを考えてしまうんだから生粋のボッチ思考である。
俺の考えは、基本外には出ない、家でダラダラする、出かけるにしても絶対人が多いようなところは行かない、働かない、などなど。もう自分で言うのもなんだがホントに集団行動に向いてないとつくづく実感する。
あ、戸塚の時は別な。戸塚の時はスイッチが切り替わるから問題ない。
今日みたいな日がずっと続けばいいんだがな、と思っていたのだが、どうやら神様は俺と同様に相当捻くれているらしい。
「あれ? ヒッキーじゃん、こんなところでなにしてるの?」
願った瞬間これですか。まったくもって捻くれてるよな、この世界の神様は。
「見てわかるだろ、飯食ってんだよ」
「え? 一人で?」
おいなんだ、その可哀想なものを見る目は。
「別に昼飯を大勢で食う必要はないだろ。というかお前はこんなところでなにやってんだよ」
「ゆ・い・が・は・ま!」
近い近い、顔が近いから! 距離感近すぎだから! こいつ絶対何人かの男子を勘違いさせてるだろ。そしてその全員が玉砕されてるんだろうな、憐れ男子諸君。
俺は訓練されたボッチだからこの程度では勘違いなどしない、決して由比ヶ浜にドキドキなどしないのである。
イヤホントダヨ? ハチマン、ウソツカナイ。
というか俺がお前って言うたびにこれしてくるつもりなのか? 勘弁してくれ、そうなるぐらいならこれからはちゃんと呼ぶしかないのか。……めんどくさい。
「……わかったから離れろよ、近いから」
「え? あ……ご、ごめん!」
由比ヶ浜は一気に俺から離れる。
そう一気に離れられるとそれはそれで傷つくな。いや、めんどくさいとか言わないでくれ、今自分でも思ったから。
「で、由比ヶ浜、お前はこんなところでなにしてんだよ?」
「ゆきのんとゲームをしてその罰ゲーム」
罰ゲーム、罰ゲームねぇ。
「そうですか、俺と話すことが罰ゲームといいたいんだな由比ヶ浜」
というかさりげなく俺の隣に座るんじゃない! 昔の俺だったらこれだけで勘違いして告白してそれでフラれるまでがテンプレートだな。まさに様式美ってやつだ。
「ち、違うから! 負けた人がジュース買ってくるってだけだし!」
そういやここの自販機、奉仕部から一番近かったな。まじかよ、俺のやすらぎのベストプレイスが壊滅の危機なんですけど。
「……なんか雪ノ下がそんなことするなんて意外だな」
「やっぱそう思うよね。ゆきのん最初はしぶってたんだけど、私が負けるの怖いのって聞いたら一瞬だったよ」
雪ノ下さんまじちょろすぎるだろ、由比ヶ浜にいいようにされるとか。いや由比ヶ浜がそれだけ雪ノ下のことをわかってるって意味でもあるんだろうが。というかなんだかんだで雪ノ下は由比ヶ浜に甘いような気がする。
そこまでこいつらの関係を見てきたわけじゃないが、明らかに俺なんかの対応の時と比べて由比ヶ浜の時の雪ノ下は棘がないように思える。
「なんか今までみんなでこの罰ゲームやってきたけど、初めて楽しいって思えたかも」
「みんなねぇ……」
「む、なんか感じ悪いよ、ヒッキー」
「これがデフォルトだから、生憎俺にはみんなって言葉にほとんど縁がなくてな。そんな言葉使えた試しがないってだけだよ」
そう、最近までは戦車道を始め出して俺は本当の意味でのみんなに自分が含まれてるような錯覚に陥っているがあくまで錯覚でしかない。
前に武部が言ってた「みんな比企谷のこと信じているから!」という言葉、やっぱり俺はどこか他人事にしか聞こえなかった。
武部たちが信用できなんじゃない、こんな俺があいつらに信用されていると思っていても、どこかでそれを否定する自分もまたいるのだ。
「俺は内輪ノリがわかんないんだよ」
「そうは言うけどヒッキー、ゆきのんと話しているとき結構内輪ノリ多いじゃん。私入れないなーってときがあるし」
「雪ノ下のあれは不可抗力だ」
俺たちは顔をあわせれば互いに言い合いをしているが、あれは雪ノ下のほうからいつも一方的にくるので俺は自己防衛しているにすぎない。
「どういうこと?」
「人の力ではどうにもできない事態という意味だ。難しい言葉使ってごめんな?」
「なっ、違うし! 言葉の意味がわかんなかったわけじゃないから!」
どうも疑わしいな、入部届をひらがなで書いた件もあるしな。
「馬鹿にし過ぎだし! 私だってちゃんと入試を受けて大洗に入ったんだからね!」
割とそこが一番の謎だったりする。
というか由比ヶ浜、いつまで俺をポカポカ殴り続けるんだ。痛くはないがそろそろやめてもらえませんかね?
「ねぇ、入試って言えばヒッキーさ、入学式のこと覚えてる?」
攻撃がやんだかと思えばいきなりなんだ?
「入学式な。俺当日に交通事故に遭ったからなんとも言えん」
「じ、事故? それってさ、犬を助けたりしたの?」
「ん? いやまぁそうなんだが、由比ヶ浜なんでそんなこと……」
あの事故は俺が入学式の日に浮かれて朝早く学校に登校してるから知ってる奴なんていないと思うんだが。
「ご、ごめんなさい!」
いきなり由比ヶ浜が謝りだす。俺にはなんのことだかさっぱりわかんないんだが、どういうことだ?
「由比ヶ浜、なんで謝ってるんだ?」
「……私の話を聞いてくれる、ヒッキー?」
由比ヶ浜の話をまとめるとこうだ。
一年前の大洗学園の入学式の日、朝早く犬の散歩に出かけていたら犬が急に走り出した。だが、由比ヶ浜がリードをきちんと持ってなかったせいでそのまま道路に飛び出してしまったらしい。
そしてその犬が道路に飛び出したせいで車に引かれそうになったのを自分と同じ大洗の制服を着た男子が助けてくれたのだと。
いやまぁ、その犬を助けるために飛び出した馬鹿は俺なんだったわけで。そのおかげで俺は全治三か月、新学期の最初を病院ですごした。
話がそれたな。
由比ヶ浜はそのことを気にしていたらしく一回うちにも来ているそうだ。ちなみに小町からはそんな話は聞いてない。はぁ……絶対あいつ忘れてるんだろうな。
「それでさっき謝ったと」
「う、うん……。ホントはもっと早く謝りたかったんだけど、踏ん切りがつかなくて……ううん言い訳だねこれは」
「別にそこまで気にせんでもいいだろ、あの犬は無事だったのか?」
「え? ……う、うん。今も元気だよ」
「ならそれで話は終わりだな。早く戻らないと雪ノ下に何言われるかわからんぞ?」
「ひ、ヒッキーは怒ってないの?」
「は? なんで?」
「な、なんでって……」
「いいか由比ヶ浜? たしかにリードをちゃんと握ってなかったのはお前だが、車が来てるのに自転車で勝手に突っ込んだのは俺だぞ? 誰の所為でもないしもし責任があるとしたらそれは突っ込んだ本人である俺だけだろ」
別に俺は犬の飼い主が由比ヶ浜だから助けたわけじゃない、助けた犬の飼い主が偶々由比ヶ浜だったというだけだ。
「お互いに不幸な事故にでもあったと思っとけばいいだろ、だから気にすんな」
「で、でも……」
それでも由比ヶ浜は引き下がらない、なにが彼女をそこまで突き動かすかがわからない。
「なにがしたいんだよ由比ヶ浜。俺に謝るってことならさっき終わっただろ?」
「……わ、私は……それで終わりにしたくない…!」
由比ヶ浜は弱弱しくされど力強いなにかを秘めた言葉を紡ぐ。なんでさっきから必死になってるかと思えばそういうことか。
「あのな、由比ヶ浜。なんか勘違いしてるだろお前」
「へ?」
「俺がさっきから言ってるのは事故のことであって、今後の話は一切してないからな」
「じゃ、じゃあこれからもヒッキーに話しかけてもいいの?」
恐る恐る由比ヶ浜は俺にそんなことを聞いてくる。
「今までと一緒でいいだろ別に」
「そ、そうなんだ……。てっきり私……」
「俺ともう関わんなって言われてると思ったのか?」
「だ、だって、ヒッキーすぐに話し終わらせようとするし、もう私と話したくないのかと思って……」
俺ってそんなに構うんじゃねーオーラでも出してたんだろうか? いや無意識のうちに出してそうだな。
「まぁとりあえず、今までとなんも変わらずってことでいいだろ?」
「ねぇヒッキー、変わっちゃダメなのかな?」
それはなんのことに対して言ったのか俺にはわからなかったが、とりあえず言えることは。
「なんのことかは知らんが、それはお前の好きにしたらいいだろ別に」
そんなことを俺に聞くこと自体間違ってるだろ。
「そ、そうだよね。私頑張る!」
どうやら由比ヶ浜はなにかを決意したようだ。
「なにを頑張るかは知らんがそろそろ昼休み終わるぞ、由比ヶ浜」
「え? うそ!? ヒッキーなんでもっと早くいってくれなかったの!?」
「いやいや、俺はさっきから言ってただろうが」
「あわわわ、ゆ、ゆきんのに怒られる!」
そう言って由比ヶ浜は急いで奉仕部へと帰っていった。
ん? あぁ奉仕部か、そういえばそれがあったな。
とりあえず放課後部室に行って雪ノ下に話してみるか戸塚のことを。
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そして俺は奉仕部に来たのだが、そこには知らない女性がいた。
見た感じ、俺とたいして年齢が離れてるようには見えないから大学生くらいだろうか?
「ありゃ? 君は誰かな? ここって奉仕部だからその関係者?」
「まず人に尋ねるときは自分からじゃないですかね?」
……しまった。いつもの雪ノ下のときの調子で返してしまった。が、特段相手は気にした様子もなく。
「ふーん、まぁそれもそうだね。私は雪ノ下 陽乃、気軽に陽乃さんとでも呼んでくれていいよ?」
雪ノ下? ってことは雪ノ下の姉ちゃんかなにかか?
とりあえずあまり話したくないな。たぶんこの人は相当ヤバイ。俺の勘がそう言ってる
「そうですか、俺は比企谷 八幡っていいます」
「比企谷……? へぇー、君がそうなんだ」
雪ノ下さんの目付きが変わる。
「じゃあちょっとお姉さんの暇潰しに付き合ってよ、比企谷くん」
「いや、めんどくさいんでお断りします」
「ならここで君に襲われたって言ってもいい? みんなはどっちの方を信じてくれるかな?」
みんな? みんなって誰だろう? たぶんこの人にとってのみんなはこの学校の全員。俺にとってのみんなは誰もいない。やだこれ勝ち目がないんですけど。
というかなにこの人? 相当にえげつないんだが、この人雪ノ下なんて比にならないくらいやばい。
あとそれを実行されると俺が絶対に負けるので絶対にやらないでくださいよ? フリじゃないからね!?
「……わかりました。で? なにをすればいいんですか?」
「うんうん、素直な子は好きだよお姉ちゃんは」
脅しといてよく言うよ。
「いや、別に好かれようとか思ってないんで」
むしろこの人に好かれたからなんか人生が終わりそうだし遠慮したいまである。
「ふぅーん。ま、いいや。じゃあ私が出す問題に答えてくれる?」
「問題、ですか?」
「そ、じゃあいくよ。君は二人乗りの小さなボートに乗っていて目の前には君の大事な人が二人溺れています。そのボートには三人も乗れないので助けるならどっちかを選ばないといけません」
あれか、よくある究極の選択みたいなもんか?
「比企谷くん、君はどっちを助けるのかな? ちなみにこの二人は雪乃ちゃんとガハマちゃんね」
ふむ。
「とりあえずその人員の選択には悪意を感じるんですけど……」
「気のせいじゃないかな? で、どっちを助けるの?」
いや、悪意しかないですよね?
「聞いときたいんですけど、船には二人までしか乗らないんですよね?」
「そうだよ、三人は絶対に無理だから」
なら簡単だな。
「じゃあ自分がボートを降りてその二人を助けますかね、それなら二人とも助かるでしょ?」
俺はどや顔で雪ノ下さんに言ったのだが。
「ぷっ、あっはははは、あはは、あっはははは! お腹痛い! ど、どや顔! あははは!」
ちょ、ちょっと笑い過ぎでしょ!?
結局雪ノ下さんはかれこれ三分くらい笑ってた。
「あー笑った笑った。久しぶりにこんなに笑ったよ」
「……それはどうも」
「不貞腐れない不貞腐れない。これでも褒めてるんだよ?」
正直なんで俺はどや顔でいったんだろうか? もうあれですよ、穴があったら入りたい。
「いやー、静ちゃんが気に入るわけだね。納得納得」
静ちゃん? たしか平塚先生の下の名前がそんな感じだったか?
「平塚先生とは知り合いなんですか?」
「うん? あぁ私ここの卒業生だからね、静ちゃんから比企谷くんのことはいろいろ聞いてるよ?」
平塚先生、できればこの人に俺のことを話さないでほしかった。おかげでなんでかしらんが目を付けられてるし。
「……そうですか」
「それでちょっと気になったから私も君のことをそれなりに調べさせてもらったんだけど……」
「は?」
俺のことを?
そしてさっきとうってかわり雪ノ下さんの雰囲気が変わる。
「はっきり言っていい? 君は相当に異常だと思うんだけど、なにか間違ってるかな?」
さっきまでのフレンドリーさとは違い、すごく感情の無い声で雪ノ下さんは俺にそう言ってくる。
猫を被ってるとは思っていたがまさかここまでとはな。
「どこまで俺のことを調べたかは知りませんけど、間違っていないですよ別に」
「ありゃ? 否定しないの?」
「しませんよ、だって……」
自分が間違っていることなんてもう前から気づいている。男のくせに戦車に乗りたがっていたんだ。親や周りの人間から異常だと思われてるのだって知ってた。
この世界では男が戦車に乗るのはおかしい。だから俺は間違っているのだろう
だが俺はそれでも間違い続ける、あの日見たボコのように無理だとわかっていても、何度だって俺はあきらめないと誓ったんだ。今更他人に指摘されたぐらいであきらめるぐらいならもうとっくの昔にあきらめている。
「自分が間違ってるなんて最初から知ってますからね」
「……そう。やっぱり君はおもしろいね」
雪ノ下さんは俺の答えに納得したのか。
「じゃあ今日はもう帰るとするよ。雪乃ちゃんのことをよろしくね?」
と言ってそのまま奉仕部を出ていった。
結局なにしに来たんだ、あの人は?
ーーー
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そしてMAXコーヒー飲みながら待っていたら、雪ノ下が奉仕部に来た。
「………」
「………」
そう、来たのはいいんだが、何故か会話が発生していない。いつもなら雪ノ下が俺になにかいうと思うんだが、どうなってんだ?
俺がこの前奉仕部に来たのがクッキー作ったあの日だから、日が経ってると言えば経ってるが、雪ノ下はそんなことであの毒舌を控えるとは思わないんだがな。
「……その、この前は……」
やっとしゃべったかと思えば、ぼそぼそ言ってて聞こえなかった。なんだ? 今日は調子でも悪いのか?
「あ? なんだって? 聞こえんぞ雪ノ下」
俺はちょっとわかりやすく雪ノ下を煽った。これで雪ノ下もやりやすいだろう。
「こ、この前は、その……あ、ありがとう……」
は? なんか雪ノ下から、想像もしないような言葉が飛んできたんだが。
「いや、すまん。なんのことかさっぱりなんだが?」
「この前のクッキーのことよ? もう忘れたの? 忘却谷くん」
はや! 復活するのはやくないか? なんかしおらしいと思ったらすぐこれかよ。いや、正直さっきまでの雪ノ下はなんか違和感があったから別にいいんだが。
「クッキーっていってもな、あれは由比ヶ浜が自分で作ってたから俺がお礼を言われる意味がわからん」
「そっちじゃないわ。由比ヶ浜さんから聞いたのよ、あの時、由比ヶ浜さんに私を追わせるために片づけを一人でしてくれたんでしょ?」
あぁ、そのことか。
「それなら別に気にすんな、どうせクッキーを作ろうと思ってたからな。それなら由比ヶ浜がいてもたいして意味ないし、お前の様子もおかしかったしで合理的に考えただけだ」
「そう……」
「そういえば今日は遅かったな、なんかあったのか?」
「え? えぇ、ちょっと平塚先生に捕まってしまって……」
「そうか、それより依頼だ」
「依頼? あなたが?」
「いや厳密には俺じゃないんだが……」
俺は戸塚のことを雪ノ下に説明する。
「……あなたがそんなにやる気を出すなんて珍しいわね、雹でも降るのかしら?」
「いやそこは普通に雪でいいだろ、なんでわざわざ言い換えた」
「だってそれぐらいじゃ珍しくともなんともないじゃない」
そういうことね。たしかに言いたいことはわからんくもない。
「いや、人に頼られたのが初めてでな。まぁ自分でもらしくない行動してるってのはわかってる」
「……そうでもないんじゃないかしら」
なんか雪ノ下言った気がするが、それは奉仕部にやってきた由比ヶ浜にかき消された。
「やっはろ~、今日は依頼人を連れてきたよ!」
「あれ、比企谷くん? どうしてここに?」
そういや俺が奉仕部だって言ってなかったな。
「いや、俺はここの部員なんだよ、一応」
「で、戸塚 彩加くんだったかしら? ある程度の事情はそこの彼から聞いているわ」
「そうなの?」
戸塚が俺に確認を取ってきたので頷く。
「いいでしょう、依頼を受けるわ。あなたの技術向上を助ければいいのよね?」
「あ、はい。僕が上手くなればみんな一緒に頑張ってくれる……と思う」
「で、どうやんだ?」
「大丈夫、簡単なことよ?」
簡単ときたか、それは誰を水準にいってるのかがわかってる時点でもう簡単ではないことは明白だ。嫌な予感しかしない。
と、思っていたのだが、雪ノ下が戸塚にさせていることは案外普通だった。筋トレから始まり、ランニング、素振りでのフォーム確認、とにかく戸塚を基礎からしっかり教えるつもりのようだ。
てっきり雪ノ下のことだから死ぬまで練習とかいってスパルタに走ると思ったんだが、どうやら俺の読みははずれたらしい。これなら戸塚も大丈夫そうだし、俺は戦車道にでもいくとするか。
「じゃあ、お前ら頑張れよ、俺は戦車道のほうに行くわ」
「あ、そうだ、一回戦勝ったんでしょヒッキー、おめでとう!」
「まだ一回戦だけどな、まぁ、なんだ、その、頑張ってくるわ」
「戦車道、頑張ってね比企谷くん!」
「おう! ありがとう戸塚! 俺めっちゃ頑張ってくる!」
「ちょ、ヒッキー! 私の時と反応が違い過ぎるでしょ!」
さて、なんのことだろうか? わからんな。
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「一回戦に勝ったからといって気を抜いてはいかん! 次も絶対に勝ちぬくのだ! いいな? 腰抜けども!」
「「「はい!」」」
「頑張りまーす」
「勝って兜の緒を締めよ、だぁー!」
「「「おォー!」」」
「えいえいおー!」
なんか戦車道のやつらのやる気がやばい。え? なにこのテンション、正直ついていけない……。これが若さか。え? ちがう?
「みんなすごいですね」
「うん!」
西住と五十鈴がそんなことをいってるが、やる気がありすぎないか? まさか俺だけなんだろうか? このテンションについていけてないのは。
とりあえず戦車のことをどうするかは練習が終わってから会長にいろいろ聞くか、今はなんか聞けそうな雰囲気でもないしな。
さて、二回戦に向けて俺もやれることはやっていきますかね。