間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。   作:@ぽちタマ@

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やはり武部 沙織は料理が上手い

「んで、向こうの装甲はどんな感じ?」

 

「P40の前面はカバさんチームなら相手の有効距離の外から貫通可能です」

 

「心得た」

 

「んじゃあ、ぴよぴよの相手はカバさんチームだね」

 

「ぴよぴよ?」

 

「P40のことですか?」

 

「そうそう、ぴよぴよ」

 

 もっとなんか他に呼び名はなかったんだろうか? 呼んでて気が抜けるんだが。

 

「んじゃあ、ちょっと敵味方にわかれて練習してみよっか。ぴよぴよ役はどれがいい?」

 

「P40に比較的近いのはⅣ号ですね」

 

「じゃあ、あんこうがぴよぴよ、アヒルさんがカルロベローチェってことで」

 

「Ⅳ号と八九式を仮想敵として、模擬戦をやってみましょう」

 

「「「はい!」」」

 

 ということで、打倒アンツィオ高校に向けての大洗戦車道チームの練習が始まった。

 とりあえず俺は無線のスイッチを入れ、西住たちの練習状況をわかるようにしてから、いつも蝶野さんがいる高台へと向かう。

 別に蝶野さんに用事があるわけではなく、あそこの高台だと戦車の動きがよく見えるからな。ついでに言うと蝶野さんは今日はいない。

 あと俺が練習に参加しなくていいのとか聞かないでくれ。前にも言ったが、基本、俺の戦車は偵察しかできないのでこういう練習には参加しても足手まといにしかならない。

 もうちょっと俺が動かせるようになれば入っても大丈夫なんだがな。

 そうこうしていると、どうやら西住たちが動き出すようだ。

 

『どんな作戦で行きますか?』

 

『こちらに近づく車両をアヒルさんチームが邪魔します』

 

『射程に入ったら撃ってもいいんですよね?』

 

『はい』

 

『こっちは逃げるのか? 進むのか?』

 

『逃げます、隙があれば肉迫して、攻撃するのもありです』

 

『ではアヒルさん、こっち逃げるから妨害よろしく~』

 

 たぶんフラッグ車がP40になると睨んでのこういう感じにしたんだろうな。

 まぁ十中八九フラッグ車はP40だと思う。今日、安斎の浮かれようを見てきたからな。

 あと、ペパロニに聞いたら普通に教えてくれたのは安斎のやつには言わないどこう。うん。

 

『わかりました!』

 

『全開妨害走行! 機銃準備!』

 

『はい!』

 

 西住の指示を受け八九式が相手を煽るように蛇行運転を始め機銃で攻撃を始める。それに煽られて38⒯が隊列から飛び出す。

 八九式がそのまま煽りながらⅣ号とは違う方へと走り出し38⒯がそれを追いかける。たぶん河嶋さんが煽られてそのまま追いかけた感じか。

 残ったⅢ突とM3が西住たちのⅣ号を追いかけていてたが、途中でM3の運転が覚束ないせいでそのままはぐれたな。急こう配が激しい坂などはクラッチを上手く操作できないと戦車が進まないから、たぶんそのせいだろ。

 そして八九式と38⒯が同じところをグルグル回りながら牽制しあってる。

 一方の西住たちはなにやらカエサルたちと話し合っているな。Ⅳ号がⅢ突から離れていったから有効射程距離をおしえているんだろうと思う。

 聞く数字と実際で見る距離はだいぶ違うからな。ある程度、目視でだいたいの距離がわかるといろいろ便利だったりするので実戦では意外と重要になったりする。

 

『ま~て~!』

 

『いやです!』

 

『止めたければ力づくで止めればいいじゃないですか! ……なんちゃって』

 

『言ったな! こいつ!』

 

『なにやってんですか? 先輩?』

 

『バターになっちゃいますよぉ~♪』

 

 もうあっちは練習でもなんでもなくただの追いかけっこになってるな。

 八九式と38⒯がM3の周りをグルグル回りながら攻撃しあっているんだが……あと宇津木、お前はなんでそんなマニアックなネタを知ってるんだ?ちびくろサンボとかいまどきの若いやつらが知ってるわけがないんだがな。世代的に。

 んでもって俺が何をしているかというと、練習の時は初めの十分を毎回こうやって練習風景を観察するのが俺の日課だ。

 俺は基本的に一人で練習してるからな、こうやって観察することであいつらの今の実力を確認している訳だ。

 時々蝶野さんもいたりするので話したりするのだが、あの人なんと平塚先生の後輩だそうで、しかも戦車道を始めたきっかけが平塚先生の戦ってる姿に憧れてなんだと。

 平塚先生は戦車道で相当ブイブイ言わせてたみたいで、なんか戦車乙女として女子から熱烈な支持を得ていたらしい。

 その話を聞いて俺が思ったことは……違和感ねぇな、おい。だった。

 だって普通にあの人が戦車道やってる姿を想像できる当たり、教師なんかよりよっぽどそっちに向いていると思う。

 蝶野さんの話では突然戦車道をやめてしまったとのこと。

 あの人、辞める理由を言ってなかったんだな。たぶん男にモテないからやめるなんて言えなかったんだろう。

 そして突然やめてしまったことも加味して、なんか伝説になってるらしい。

 そうそう、蝶野さんなんだが、あの人は別に本当の教官でもなんでもないらしく、専門は戦車を整備管理することらしい。

 なんか言われて納得した。あんな擬音だらけの説明で教官なんておかしいと思ったんだよな。

 ちなみに戦車の乗り方を教えてくれるのは機甲科部隊の教官らしく、蝶野さんの所属する戦車教導隊は畑違いだそうだ。

 そんなことを考えていたらちょうど目的の場所に着いたな。

 さきほどの高台から移動して俺は今自動車部のガレージに来ている。

 

「すいません、比企谷ですけど。今大丈夫ですか?」

 

 奥からナカジマさんを含む四人の部員が出てきた。

 まずはこの自動車部のリーダーのナカジマさん。雨天の外出が好きらしいく「雨はナカジマ」とか呼ばれているそうな。

 次はスズキさん。クセ毛と褐色肌が特徴で、夢はプロ戦車道チームのオーナーになることらしい。

 そして三人目、ホシノさん。薄めの褐色肌と自動車部ツナギの上着を腰に巻いたタンクトップ姿が特徴。 運転が得意でコーナリングに自信があり「大洗一速い女」と呼ばれている。

 そして最後にしてこの中で唯一の二年生、ツチヤ。そばかすが特徴。金曜日のドリンクバーが好きなことから「ドリンクバー・キンヨウビ(略してドリキン)」のニックネームで呼ばれ、ドリフトも好き。

 俺がなんでこんなにこの人たちのことを知っているかというと。

 最初に俺の戦車を整備してもらって以来、俺はちょくちょくこの自動車部に顔を出している。その際には差し入れのマッカンは絶対に忘れない。差し入れに持って行ったときえらく気に入ってもらえたのでそれ以降かかさず持ってきている。

 戦車の相談とかしているうちにいつの間に気に入られたようで、マッカンを飲みながら話すことが多く、それでこんなにも(俺にしては)詳しくなった。

 

「どうしたの比企谷? 今日はどんな要件だい?」

 

「えっと、今日は……砲弾の装填時間短縮と、砲弾を積み込み数をどうにかして増やしたいんですけど」

 

「そうだねぇ、砲弾は今の状態じゃどうやっても無理かもだけど、装填時間短縮ならなんとかなるかもね」

 

 やっぱり砲弾のほうは無理か。

 

「装填時間短縮のほうはどうにかなるんですか?」

 

「ほら基本的に戦車は二人乗り以上が基本だから、こういう補助機具を使わないんだけど……」

 

 そしてナカジマさんがガレージの奥からなにやら出してきたな。

 

「これがそうなんですか?」

 

「うん、そう。あくまで使用用途は小学生とかの装填補助機具かな」

 

 へぇ、そういうのがあるのか。

 砲弾は重いからな。小学生が装填しようとなるとなかなかにきついだろう。

 

「たぶん比企谷だったら片手で装填できるようになるんじゃないかな?」

 

 それなら狙いながら装填できるようになるから、たしかに装填時間短縮になるな。

 これで俺ももうすこし動けるようになればいいんだが。

 

「ありがとうございます」

 

「気にしなくていいよ、たいしたことじゃないし。それに比企谷にはMAXコーヒーの差し入れとか時々手伝いとかしてもらってるしね」

 

 なんてナカジマさんは言うが。正味俺たちが戦車の破損なんて気にせずに戦車を使えているのはこの人たちのお陰なのだからそれぐらいはやらんとな。

 縁の下の力持ちどころの話じゃないしな。

 この人たちの実力はチートじみており、母港に寄港した際には陸の整備工場で手伝いもしているそうで。その時は店の主人曰く通常の5倍くらい仕事がさばけるとのこと。ちなみに報酬としてオイルやグリスなどの整備道具を現物支給でもらっていて(相当数貯まっているらしく、寄港の都度必要分持って行っている)。なお、戦車の部品は旋盤で自作しているらしい。マジパネェ。

 そしてこの人たちはいつ休んでるんだ?学校行って自動車や戦車の整備とかやってたら時間がなくなると思うんだけど。不思議だ。

 そういや戦車といえば。

 

「回収してもらった戦車どんな感じなんですか?」

 

「あぁ、あれね、たぶん相当にピーキーな戦車にはまちがいないだろうね」

 

「そんなにですか?」

 

「たぶん修理しても、すぐにまた故障しちゃうんじゃないかな?」

 

 それはもはやピーキーとかじゃじゃ馬のレベルを越しているんじゃ……。

 

「え、それって使えないんじゃないですか?」

 

「まぁ、普通ならね」

 

 ナカジマさんはなんとも得意げな顔でこちらを見てくる。

 

「会長さんにはもう言ってるんだけど、この戦車、私たちが乗ろうと思ってるんだ」

 

 待てよ、ということはまさか。

 

「もしかして壊れたらすぐに修理するつもりですか?」

 

「そうそう、よくわかったね」

 

 簡単そうにナカジマさんは言ってるが普通はそんなことはできない。この人たちだからできる芸当だな。

 

「でも当分は修理かな、すぐには戦力としては動けないからごめんね?」

 

「そんなことないですよ、十分ですって」

 

「そう?」

 

「戦車修理してもらってるのにそれ以上は求めたら、それこそ罰が当たりそうです」

 

 いやしかし、ホントにすごいなこの自動車部。

 サンダースや下手すると黒森峰のメカニックなんて比にならない気がしてきたな。いやまぁ、あちらさんの腕がどれほどかは知らんけど、ナカジマさんたちのレベルがそうひょいひょいとはいないだろ。

 

「じゃあ俺はそろそろ戦車道の練習に戻ります」

 

 俺はナカジマさんたちに挨拶をして練習へと向かう。

 

 

 ====

 

 

「よし! 練習終わり! 解散!」

 

「「「お疲れさまでした!」」」

 

 そして今日の練習が終わった。

 

「お腹空いた……」

 

「どこかで食べていきましょうか?」

 

「食べる……」

 

「あ、せっかくならイタリア料理のお店に行きませんか?」

 

「相手がアンツィオだから?」

 

「だったらたまにはうちに来る? パスタを買ってみんなで作ろうよ!」

 

 どうやら西住たちは前みたいに料理を作るみたいだな。

 晩飯か、俺もさっさと帰って飯でも食うかな。

 そして俺が帰ろうとしたらいきなり武部のやつに呼び止められた。

 

「比企谷? どこ行こうとしてるの?」

 

 いや、どこって。

 

「自分の家に帰るに決まってるだろ」

 

「比企谷も私たちと一緒に料理を作ろうか?」

 

「は? いや、めんどくさいから却下で」

 

 いきなりどうしたんだ? 武部のやつ。

 

「この前の時に話ができなかったからいいでしょ?」

 

 この前と言うと、戦車探索しにいって遭難したやつか。たしかにあの時なんか話があるって言ってたな。一年生たちがパニくってたからそれどころじゃなかったけど。

 それでも俺は家に帰らせてもらうとしようか。なんか嫌な予感がする。俺のこういう時の悪い予感はだいたい的中するのでそれに従うことにしよう。

 

「いや、小町がもう飯作ってるから今日は無理だ」

 

 我ながら完璧な言い訳だ。これなら武部もおとなしく引き下がるだろう。

 

「あ、そう言うと思って、小町ちゃんに確認は取ってるから」

 

 すでに退路はなかった。完璧とはなんだったのか、ガバガバじゃねーか。というか小町ちゃん? なんであなたGOサイン出したの? お兄ちゃん的にはポイント低いよ?

 もうこれ以上は俺の言い訳など通じなさそうだな。というか小町を言い訳に使って失敗している時点で俺にはそれ以上がないから武部の言うことに従うしかないか。

 

「……はぁ、わかった」

 

「なんでそんな嫌そうなのよ! ……それにこの前のお礼の意味もあるから」

 

「お礼ってあのヘリのことか?」

 

「うん」

 

「気にしなくていいだろ、あんなの」

 

「私がしたいだけだから、それに麻子だって感謝してるんだよ?」

 

 冷泉がねぇ。まぁいいか、ちゃっちゃと済ませて家に帰れるようにするか。

 

 

 ーーー

 

 ーー

 

 ー

 

 そして武部宅へと俺たちは来たのだが。

 

「あの、沙織さん? 私たちなんで正座させられてるの?」

 

 俺たちは今、武部と冷泉を抜かした全員が何故か正座で座らせられている。

 

「わたくしたちなにかしたんでしょうか?」

 

 というかさっきお礼とか言ってなかった? それが来た途端正座とか……。別に俺はそんな趣味があるわけじゃないからご褒美でもなんでもないんですが。

 

「た、武部殿?」

 

「どうしたの? ゆかりん?」

 

「いえ、あの、料理は作らなくていいんですか?」

 

「それはこの話が終わってからね」

 

 話ということは今、正座させられている四人に共通点があるわけか。なんかあったか? 正味俺だけならいつのまにかやらかしてたりするからわからんくもないんだが、西住たちもいるからな。

 

「で、話ってなんだよ」

 

「……この前」

 

「この前?」

 

「みぽりんたち、比企谷の家に泊まったんでしょ……?」

 

 あぁ、そういうことか。たしかにそれならこの面子に納得がいくな。問題はなんで正座させられているかなんだがな。

 

「でも沙織さん? そうだとしてもこの正座の意味がよくわからないんですけど……」

 

「華たちはもうちょっと考えて行動しようよ! いくら小町ちゃんがいるからって男の人の家に泊まるのはダメでしょ!」

 

「え? でも八幡くんだし……」

 

「みぽりん甘いよ! 男の人はみんなオオカミなんだから!」

 

「おおかみ? それってどういうことなの?」

 

 西住よ、その返しはいかんだろ。たぶん西住は本当にわからなくて武部に質問したんだろうが。その質問をされた本人は顔を真っ赤にしている。

 

「え、えぇっと、その……と、とにかく! ダメなものはダメなの!」

 

 武部のやつ誤魔化したな。

 

「でもパジャマパーティー楽しかったですよ?」

 

 五十鈴のやつは会話がすでにずれている。今はそんな話はしてないぞ。

 

「あと比企谷殿の料理もおいしかったですし」

 

「え? 料理?」

 

「うん、八幡くんが作ってくれたんだよ?」

 

「そ、そうなの?」

 

「あと小町殿に比企谷殿のこととかいろいろ聞けました!」

 

 もう聞いててわかると思うが、話が違う方へと完全に脱線している。武部のやつ、西住たちの話を聞くのはいいが自分がなにをしようとしているのか忘れてるな、確実に。

 すると不意に俺の服が引っ張れた。ん?なんだ?

 

「比企谷……」

 

「どうした?冷泉」

 

「……その、なんだ、この前は世話になった。……ありがとう」

 

「………」

 

「なんだ、その反応は?」

 

「いや、ちょっとな」

 

 まさか冷泉のやつにお礼を言われるとは思わんかった。てっきり俺のことを嫌ってると思ってたんだが、違うのか?

 

「それよりばあちゃんは大丈夫だったか?」

 

「うん、病院に行ったときは寝てたけど、起きたらすごく元気だった」

 

「……そうか」

 

「それよりお腹空いた……」

 

 たしかにな。

 

「おい、武部!」

 

「え? なに? 比企谷?」

 

「え? なに? じゃないんだが、いい加減飯作ろうぜ」

 

 俺の一言でやっと料理が開始された。

 というか武部のやつ前にも思ったが料理出来るんだよな。しかも今回はイタリア料理だし、どんだけレパートリー持ってるのだろうか?

 武部は前回のことを踏まえ各自の役割分担を決めながら料理をしているな。前は酷かったからな。

 俺はというと今回は手伝いをしていない。今回は完全にお客様だそうで、こうやって武部たちの料理風景を眺めているだけだな。

 しかしそれはそれで暇だな。といってぶしつけに部屋を眺めるのもな。

 そう思っていたら気になるタイトルの本があったので手に取る。タイトルは「ハムになる張‐改訂版‐」?

 

「ハムになるのか……」

 

 どういうことだ?中身を見ようと思ったらちょうど料理ができたようで。

 

「できたー!」

 

 テーブルにイタリア料理が所狭しと並べられる。

 

「おいしそうですね」

 

「カルパッチョなんて初めて作りました!」

 

「カプレーゼなんて初めてしったよ」

 

「お腹空いた……」

 

「じゃあ、食べちゃおっか!」

 

「「「「「いただきまーす」」」」」

 

「……いただきます」

 

 俺は料理を食べながら前から思っていたことを武部に聞く。

 

「なぁ、武部」

 

「ん?なに?」

 

「なんで料理をするときは眼鏡なんだ?」

 

「あ、それ、私も気になってました」

 

「どうしてなの、沙織さん?」

 

「男の人ってこういうギャップ? みたいのに弱いって書いてあったから、料理の時にするようにしてるんだぁ~」

 

 またあの結婚情報誌か? あれ読まない方がいいんじゃないか? むしろ近づくどころか遠ざかってるだろ、あれ。

 

「披露する相手はいるんですか?」

 

 やめてあげなさい五十鈴さん、残酷なことを聞くもんじゃない。

 

「……まだいない」

 

 ほら、武部のやつが目に見えて落ち込んでいる。

 

「でも実際そういうギャップってどうなんですか? 比企谷殿」

 

「なんで俺に振るんだよ、秋山……」

 

「まぁまぁ、いいじゃないですか別に」

 

「ギャップ云々は知らんが、普段から眼鏡かけたらいいんじゃないか? 似合ってるし、モテると思うぞ?」

 

「え?」

 

「比企谷殿にしては素直な意見ですね」

 

 俺にしてってはなんだ、俺にしてっては。

 

「俺はただ客観的な意見を言ったまでだ」

 

「よかったですね武部殿! 眼鏡似合ってるって……武部殿?」

 

 なんだ? 武部のやつ、急にボーッとして。

 

「え? なに? ゆかりん」

 

「い、いえ、どうかしたんですか?」

 

「う、ううん、なんでもないよ! それよりほら、どんどん食べて食べて!」

 

「そ、そうですか?」

 

 そのあと俺たちは食事を終えてそのまま解散となった。

 結局、武部のやつはなんだったのだろうか?時々俺の方を見てるかと思えば顔を反らすし。

 もしかして俺の顔になんかついてたのか?いや、それだと西住たちが教えてくれるか。よくわからんな。

 

 

 ====

 

 

 そして次の日。

 俺は昼休みになったからいつものボッチプレイスへ向かおうと廊下に出たら、一人の女子生徒がなんか西住たちに声をかけようとして失敗してるのが見えた。なんだあれ?

 

「また声かけれなかった……。もうダメだ、チキンハートなボク……。ま、次はきっと頑張るんだ、ねこにゃー!」

 

「そう言ってるうちはたぶん無理だろ」

 

 そしてたぶんただのコミュ障。

 

「え!?」

 

「西住たちになんかようか?」

 

 とりあえず西住に用があるってことは戦車道に関係してるかもしれないし、話を聞くだけ聞こうと思って声をかけたんだが。なんでこいつ猫耳なんかつけてるんだ?

 

「え、えっと、そのぉ……」

 

「別にゆっくりでいいから、答えるの」

 

 たぶん急に話しかけられてなに言ったらいいか分かんないんだろう。俺もその気持ちはよくわかるので下手に急かしたりはしない。

 

「あ、ありがとう、えっとボク、戦車道に入りたくて」

 

「それで西住に話しかけようとしてたのか?」

 

「う、うん」

 

「ちなみに経験は?」

 

「り、リアルでの操縦はしたことないけど、ネットなら何度もやってるから動かし方はわかるよ」

 

 ふむ、なるほど。

 

「とりあえずだ」

 

「う、うん」

 

「体力をつけろ」

 

「え?」

 

「ゲームばっかで引きこもってんだろ? リアルの戦車はそうとう体力使うから今のうちから鍛えとけ」

 

「ボ、ボクが戦車道に入ってもいいの?」

 

 あの会長だし二つ返事でOKするだろ。

 

「たぶん大丈夫だ。それとできるならほかにメンバーを集めてくれると助かる」

 

 一人じゃ結局戦車が動かせないしな、なるべく二人以上入ってくれるとありがたい。

 

「ボクと同じような人がいないかネット仲間に聞いてみるね」

 

「そうか、あと今は戦車がないから入ってもすぐには乗れないと思う」

 

「わ、わかった」

 

 とりあえずこれで多いにしろ少ないにしろ人は増えるな。となると問題は戦車か。たしか西住たちが見つけたルノーは会長がもう乗るやつを頼んでるって言ってたし。俺たちが見つけた戦車は自動車部の人たちだしな。

 

「メンバーが集まったらとりあえず来てくれ」

 

「りょ、了解!」

 

 とりあえず話はこんなもんか。さてと昼飯に行くか。

 

「あ、あの! 名前を……!」

 

 そういや言ってなかったな。

 

「比企谷だ」

 

「比企谷くん……。ボクは、ねこにゃーです」

 

「いや、本名の方で頼む」

 

「ね、猫田です」

 

 猫田ね。

 

「じゃあな、猫田」

 

「う、うん、明日の試合頑張ってね、比企谷君」

 

「おう」


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