間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。   作:@ぽちタマ@

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試合は勝ち進み、しかし彼はいまだに進めない

 昔のことを思い出す。

 あの頃は私は戦車道がてんでダメで、なかなか試合で勝てずにいた。

 どうやっても勝てなかった私がとった手段が、自分の学校にいるやつに教えてもらおういう単純なものだった。

 けど、私の学校にはまともに戦車道をやってるやつがおらず、唯一戦車道が上手かったのが当時小学一年生だった小町がいたのだけど、上級生としてのプライドが邪魔して小町に教えをこうことはできなかった。

 どうしても戦車道を上手くなるのをあきらめることができなかった私は、最終手段に出る。

 学校で噂になっていた「男子で戦車道をやっているやつがいる」という噂を頼りに、私は藁にもすがる気持ちでそいつのクラスに行ったのだ。

 その噂になっていたあいつの第一印象はなんか暗いやつだな、と私は思った。正直あまり話したいとも思えなかったけど、背にはらは変えられなかったし。

 しかしあいつはむかつくことに「めんどくさい」の一言で私のお願いを断った。

 そこからは私とあいつの鬼ごっこだ。私はひたすらにあいつに戦車のことを教えろと追いかけ回していた。 今思うと我ながら何やってたんだろうか? 授業中以外はひたすらに男子を追いかけまわすとか、あの時の自分はなにを考えていたのか……いや、なにも考えてなかったな。

 数日経ったある日、あいつはいつも以上に目を腐らせてこう言ったのだ「戦車のことを教えるからもう追いかけるな」と。

 小町にあとで聞いたんだけど、夢に出るほどにうなされていたらしい。ツインテールのお化けと言っていたとか。さすがにあの時はやりすぎたのかもしれない。

 そしていざ教えてもらいだすとそれはそれで問題が発生した。それはあいつと私の知識の差があまりにもあったのだ。

 今ならわかるけど、あの時のあいつの考え方は小学生に理解しろと言うのが土台無理なぐらいのレベルだ。

 だから何度も作戦を考えて持っていっても、あいつにはダメ出しされるばかりで、小学生心に楽しくはなかった。

 でもあいつは、いくら私がへんてこりんな作戦を考え付き持っていも見ないということはせず、きちんとダメ出しをしてくれた。

 私が言うのもなんだけど、普通ここまで言われてできなかったら教えてるがわはやる気がなくなると思う。

 けど、あいつはそんな私を見捨てることなく、私が行く限りちゃんと教えてくれた。

 

 最初は教えてもらうのが嫌で嫌でしょうがなかった。

 馬鹿にされるのが嫌で、あいつをギャフンと言わせるために頑張っていた。

 でもいつかだったか、ふと見たあいつの横顔はいつもの気だるそうでやる気のない顔じゃなくて、すごく真剣な顔で。その顔は……えっと、すごく……かっこ良かった……と思う。

 私がボーッとしていると勘違いしたあいつにチョップを食らったけど……。

 

 

「――ドゥーチェ、どうかしました?」

 

 いきなりしゃべらなくなった私を心配してか、カルパッチョが声をかけてきた。

 

「いや、大丈夫だ。少し考え事をな」

 

「……もしかして、比企谷くんのことですか?」

 

 カルパッチョは少しからかうような調子でそう言ってくる。

 

「な!? 違うぞ! 違うからな!?」

 

 あ、あいつのことなんて考えてない!

 

「アンチョビ姉さん、もう少し素直にならないと」

 

 ペパロニのやつがすごいニヤニヤ顔になっている。チョップするぞ、お前。

 

「……なにがだ?」

 

「もうわかってるくせに。あんまりもたもたしてると誰かに盗られちゃますよ?」

 

 あいつが? それはない。だってあんなめんどくさい性格を好きになるやつなんてそうそういないはずだ。

 

「今はそんな話より戦車道のほうが大事だろ。ペパロニ、ちゃんと作戦わかってるんだろうな?」

 

 今まで何回も言ってきたけど、念には念を押しとかないと。

 

「……えっと、なんでしたっけ?」

 

「このお馬鹿! マカロニ作戦のデコイは絶対全部使うなよ? 二枚は予備だからな!」

 

「あ、そうでしたそうでした。大丈夫! 任せてくださいよアンチョビ姉さん!」

 

 本当に大丈夫なのか? ……不安だ。

 

 

 ====

 

 

『これより、二回戦、第四試合、アンツィオ高校対大洗学園の試合を開催致します』

 

 試合開始前のアナウンスが流れたな、そろそろか。

 しかし今回はやたらと出店が多いな。ところせましにアンツィオ高校のやつらが出店を出してる。

 あいつらの食事への情熱はやばいからな、料理の味はたぶん店で出しても大丈夫なレベルだと思う。

 

「八幡くん、ちょっといいかな?」

 

 俺は西住に呼ばれ、最後の作戦の確認を行う。

 

「あぁ、この作戦のままでいいだろ」

 

 とりあえず俺たちは相手の動きにあわせて臨機応変に対応していくしかない。アンツィオ高校はノリと勢いでくるからな、正直どういうふうに攻めて来るかわからんし。

 安斎のことだから奇抜な作戦とかやってきそうだが、こればっかりは読めんな。

 

「たのも~!」

 

 高らかな掛け声と共に、安斎とカルパッチョがやってきた。

 

「おー、チョビ子」

 

 会長さんが手を振りながら安斎に近づいていく。あの二人知り合いだったのか。

 

「チョビ子と呼ぶな! アンチョビ!」

 

「で、何しに来た? 安斎」

 

 河嶋さんも知ってるのか。もしかして生徒会チームは全員知り合いなのか?

 

「ア・ン・チョ・ビ! 試合前のあいさつに決まってるだろ」

 

 そういやこういうところはきっちりしてるんだよなこいつ。

 

「私はドゥーチェ、アンチョビ! そっちの隊長は?」

 

 どうやら目的はうちの隊長か。

 

「西住!」

 

「は、はい!」

 

 河嶋さんに呼ばれ西住が安斎の前にやってくる。

 

「ほう、あんたがあの西住流か」

 

「西住 みほです」

 

「ふん! 相手が西住流だろうが島田流だろうが私たちは負けない……じゃなかった、勝つ!」

 

 またえらく随分と強気だなこいつ。

 

「今日は正々堂々勝負だ!」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします!」

 

 西住と安斎はの二人は熱い握手を交わしている。

 そうこうしていると、カルパッチョがなにかを探しているのかキョロキョロと周りを見ている。

 

「どうした?」

 

「あ、比企谷くん。えっと、たかちゃんはどこかな?」

 

 そういうことか。

 

「ついてこい、連れってやるよ」

 

 ということで歴女チームの場所へとカルパッチョを連れてきた。

 

「ひなちゃん!?」

 

「たかちゃん! 久しぶり~!」

 

「ひなちゃん、久しぶり!」

 

 二人は近づき両手をつなぎ握りあう。

 

「たかちゃん本当に戦車道始めたんだねぇ、ビックリ!

  ね? どの戦車に乗ってるの?」

 

「ひみつ~♪」

 

「え~、まぁそうだよねぇ、敵同士だもんねー♪」

 

 うん、百合百合してるな。いいぞもっとやれ。

 というかカエサルのやつだいぶ性格が変わってないか?

  あっちの方が素でいつものやつが演じているんだろうか?

 それを見ていた他の歴女チームは。

 

「たかちゃんて誰ぜよ……」

 

「カエサルのことだろ?」

 

「いつもとキャラが違う……」

 

 もうキャラって言っちゃってるよエルヴィンのやつ。

 

「でも今日は敵でも私たちの友情は不滅だからね?」

 

「うん! 今日は正々堂々と戦おうね!」

 

「試合の前に会えてよかった、じゃあもう行くね? バイバイ」

 

「ばいばい!」

 

 二人は手を振りながら名残惜しそうに別れた。

 そしてカエサルはここに自分以外がいるのを思い出したんだろう、ハッとした顔になってこっちを振り向いた。

 

「た~かちゃん」

 

「カエサルの知られざる一面発見だな」

 

「ひゅうひゅう~」

 

「………」

 

「なんだ……! なにがおかしい! あと八幡、なんだその顔は! なにか言いたそうだな!」

 

 ちょっ、なんで俺だけに言うんですかね。他のやつらも同じような顔してただろ。

 

「言ってもいいのか?」

 

 言っていいんなら言いますよ?

 

「い、いや、聞かないどく……」

 

 賢明な判断だな。

 

「八幡くん」

 

 なにやら俺に用があるのか、西住がこっちに来たな。

 

「どうした?」

 

「うん、なんかアンチョビさんが話があるって」

 

「俺にか?」

 

「そうみたい」

 

 なんだ? 俺に話とか。まぁ行くか。

 

 

 ====

 

 

「なんだ安斎、俺になんか用か?」

 

「やっと来たか、比企谷」

 

 さっきいたにはいたんだがな。

 

「あれ? 比企谷ちゃん、チョビ子と知り合いだったの?」

 

「一応ですけど」

 

「へぇ~」

 

 会長は俺と安斎を交互に見たあと意味深な目線を送ってきた。

 なんですかその目は、言っときますけど会長が考えてるような関係じゃないんで俺たちは。

 とりあえず安斎の話を聞くか。

 

「で?」

 

「え、えっと、その、あのだな……」

 

 なんだこいつ? もじもじしだして。

 

「安斎、トイレなら試合前にいっとけよ?」

 

 洩らしたら大変だからな。

 何か周りのやつらの視線が一気に冷たくなったような……。あ、俺のせいですね。

 

「ち、違う! と、とにかく比企谷、試合が終わったら私のところに来い!」

 

「は? 今じゃダメなのか?」

 

「い、今はダメだ! ……恥ずかしいし……」

 

 なんで終わった後に行かないといけないんだ……めんどくさすぎる。

 

「絶対来いよ! 絶対だからな!」

 

 安斎よ、それは逆に来るなと言ってるのか?

 そして安斎たちはそのまま自分たちの陣営に戻っていった。

 というか俺は行くともなんとも言ってないんだがな。これって行かないといけないの?

 

「いや~、いろんな意味で面白くなってるね~」

 

「なんであなたがわくわくしてるんですかね……」

 

「とりあえず比企谷ちゃん、呼ばれたんだからちゃんと行くようにね~」

 

 会長さんに念を押されてしまった。うむ、じつにめんどくさい。めんどくさすぎて帰りたくなってきたな。いや帰らないけどさ。

 

 

 ====

 

 

 大洗学園、アンツィオ高校共にスタート位置に着きそしてスタートの合図が鳴る。

 

『試合開始!』

 

『パンツァー、フォー!』

 

『Avanti!』

 

 互いの戦車が一気に動き出し、戦車道二回戦第四試合が始まるのだった。

 

 

 ====

 

 

『いけいけー! どこまでも進めー! 勝利を持ち得るものこそがパスタを持ち帰る!』

 

『最高っすよアンチョビ姉さん! てめーら、もたもたすんじゃねーぞ!』

 

『『『おおぉーーー!!』』』

 

『このペパロニに続けー! 地獄の果てまで進めー!!』

 

『『『いえぇーーーい!!』』』

 

『よし、このままマカロニ作戦開始!』

 

『カルロベローチェ各車は、マカロニ、展開してください』

 

『オーケー! マカロニ特盛でいくぜぇ!』

 

 

 ====

 

 

『先行するアヒルさんとボコは状況を教えてください』

 

『十字路まであと一キロほどです』

 

『今のところは問題はないぞ』

 

『十分に注意しながら街道の様子を報告してください、開けた場所に出ないよう気を付けて!』

 

『了解!』

 

『そっちも気を付けろよ』

 

 先程の通信を聞いた通り、現在磯辺たちと俺が先行して十字路に向かっている。目的は偵察と進路の確保だな。

 相手がどう出てくるかわからない以上、現場の状況で相手の作戦を考えるしかない。

 そう思うとアンツィオ高校と俺たちの戦い方は似たような感じがする。

 

 そして山道を走り続けて俺たちは街道が見渡せる場所へと着いた。

 

『街道手前に到達しました! 偵察を続けます!』

 

 とりあえず双眼鏡であたりを確認するか。

 

「あっ!」

 

 どうやら磯辺がなにかを見つけたようだ。

 

「なんかあったか?」

 

「比企谷、あっちを見てみて!」

 

 俺は磯辺が指さす方を見る。そこには……CV33一両とカルロベローチェ三両がすでに十字路に陣取っていた。

 ……早いな。

 

『CV33一両とカルロベローチェ三両がもう十字路を陣取ってる』

 

『場所は?』

 

『十字路の北側だ』

 

『十字路の北側ね』

 

『それなら南側から突撃だ!』

 

 河嶋さん、話はそう簡単じゃないんですよ。

 

『でも全集形態の可能性がありますよ? 河嶋さん』

 

『アンツィオだぞ!? ありえん! ここは速攻だ!!』

 

『突撃いいね~』

 

 ありえない、か。まぁたしかにそうなんだが、かといって決めつけるのは時期尚早だろう。まだ相手の動きもわからないうちから下手に動くのは得策なじゃい。

 

『わかりました、十字路へ向かいましょう。ただし、進出ルートは今のままで行きます』

 

『いいのか? 西住?』

 

 俺は西住だけに無線を繋げる。

 

『うん。とりあえずはウサギさんチームのみ先行でショートカットしてもらって、それにまだP40の所在もわかってないし、私たちはフィールドを抑えながら十字路に向かうよ』

 

『わかった』

 

 動き出すのは一年生チームが何かを発見次第か。

 

「磯部! 相手に動きはあるか?」

 

「ううん、それが全然」

 

 なんかおかしくないか? あのアンツィオのやつらがじっとしていられるんだろうか? それになんか変な違和感があるんだが、なんだ?

 

「うーん、動きがないな……」

 

「エンジンも切ってますね……」

 

 佐々木がなにか重要なことを言った気がするな。

 動いてないエンジン、先程から動きがない相手……安斎。ん? なんで今安斎が出てきたんだ? そんなの今全然関係が……。いや、ちょっと待て、安斎、安斎か。

 あと少しでなにかわかりそうなになった時。

 

『街道南側、敵発見! すみません、見られちゃったかも』

 

『発砲は?』

 

『まだありません』

 

『戦闘は避けて下さい』

 

『わかりました』

 

 なんというか、らしくない。先程からこのフィールドの一番の要所が抑えられている。いや、それはいいんだが、その場合だと持久戦か、わざと中央突破をさせ俺たちを包囲するつもりなのか、いずれにせよノリと勢いからかけ離れている。

 あいつがそんなに大人しく待つやつか? 小学生の頃の作戦とかそれこそ……作戦……? ……いや、まさか。

 俺にある一つの考えが生まれた。

 もしこの考えが当たってるとなるとこのままだとダメだな。

 そしてもし当たってたら当たってたらでそれはちょっとどうなんだ? とりあえず言えることは、やはり安斎は馬鹿である。この一言に尽きる。

 

『ウサギさん、相手の正確な情報を教えてください』

 

『カルロベローチェ三両、セモヴェンテ一両が陣取っています』

 

 数に特段おかしいところはない、となると。

 たぶんこのままだと西住たちは動くに動けないはずだ。そのまえにこっちでどうにかするか。

 

「おい、磯辺!」

 

「なに?」

 

「バレーボール、今あるか?」

 

「え? あるにはあるけど……なにをするんだ?」

 

「とりあえず確認したいことがあるから手伝ってくれ、それとサーブが上手い奴を一人」

 

「なにをするんだ? 一体」

 

「まぁ、とりあえずついてきてくれ」

 

 ちなみに戦車の搭乗員が全員降りてしまうとその戦車は失格となってしまうので俺の戦車には佐々木に乗ってもらっている。

 

 そして俺たちは戦車を止めている場所とは少し離れた所へと来た。もし間違っていたらの保険だな、一応。

 

「近藤が一番私たちの中でサーブが上手いよ!」

 

「えっと……。それで比企谷先輩、私たちはなにをすれば?」

 

 近藤に今からやってもらうのは簡単なことだ。

 

「あそこに相手の戦車がいるだろ?」

 

「え? あ、はい」

 

「あれをバレーボールで攻撃してくれ」

 

「あ、なるほど、そういう……って、え!?」

 

「もしかしてできそうにないか?」

 

 ここから結構距離があるからな。無理そうなら違う手段を考えないといかんな。

 

「え、えっと、できるとかできないとかそういう話じゃなくて……」

 

「じゃあできるんだな、よろしく頼む」

 

「は、話が勝手に進んでる!? せ、説明をお願いします!」

 

「あれ? 俺言ってなかったっけ?」

 

「言ってませんよ!」

 

「お、おう、それはすまんかった、いいか?」

 

 そして俺は磯辺と近藤に俺が何をしようとしているのか説明した。

 

「え? ホントですか? それ?」

 

「あぁ、たぶんな」

 

「よし、近藤! 日頃の特訓の成果を見せるときだ!」

 

「きゃ、キャプテン!? なんでそんなにやる気なんですか!?」

 

「あんまり時間がないかもしれん、急ぐぞ」

 

「も、もう、どうなっても知りませんからね私!」

 

「そん時は俺が責任とるから気にすんな」

 

「じゃあ、もし近藤が失敗したら比企谷はバレー部に入ってもらおうか」

 

「いやいや、女子の中に男が入ってどうするんだよ……」

 

「じゃあコーチってことならどう?」

 

「ふむ、それなら」

 

「なんで二人して私が失敗する前提で話してるんですか!」

 

「冗談だ、気にするな」

 

「もう絶対に当てて見せますからね私!」

 

 そして近藤は有言実行どおり戦車目がけてスパイクを打ち見事目標に着弾、そしてその戦車は文字通り倒れた。後ろに。

 やっぱりか。

 

「ほ、ホントに偽物だったんですね」

 

 そう、先程から俺たちが見ていた戦車はデコイ、つまるところ囮だ。

 そして十字路に囮を置くということは俺たちをここに引き付けて包囲するつもりなのだろう。

 北側がこうなっているならたぶん南側も一緒だろうな。

 相手の作戦がわかったんならやることは一つ、反撃だ。

 

「でも比企谷先輩はなんでわかったんですか?」

 

「ん? あぁ、それはだな」

 

「それは?」

 

「俺が知ってたからだよ」

 

 俺の答えに近藤は頭に?マークを浮かべている。

 そう俺はこのやり方を知っていたのだ。え? いつからって? もちろん、小学生の頃からだ。

 このやり方はあいつが俺に持ってきていた作戦の中にあったのだ。その当時の俺はこんなの引っかかるかと突っぱねていたが、やられると意外とわからんもんだな。

 とりあえず西住に連絡だな。

 

『西住』

 

『どうかしたの?』

 

『実はな―――』

 

 西住に今の状況を説明する。

 

『もしかすると南側もデコイかもしれん』

 

『わかった。ありがとう八幡くん』

 

『あいよ』

 

 さて俺たちも戦車に戻るか。

 

「磯部、そろそろ戻るぞ」

 

「わかった、近藤!」

 

「は、はい!」

 

 俺と佐々木の入れ替わりは割愛させていただく。

 そして西住から無線が入る。

 

『八幡くん、南側もデコイだったよ』

 

 よし、ならあとは……。

 

 

 ====

 

 

「あっはははは! 今頃あいつら十字路でビビッて立ち往生してるぜ? 戦いは火力じゃない、オツムの使いようだ」

 

『ペパロニ姉さん!』

 

『なんだ?』

 

『大変です! モーリスと八九式が!』

 

『なんでバレてんだ? まぁいいや、ビビってんじゃねー! アンツィオの機動力についてこられるかっつーの! シカトしとけ!!』

 

 

 ーーー

 

 ーー

 

 ー

 

 

 遅い……。いつまで待ってもペパロニたちから連絡が来ない。どうなってるんだ?

 

『おい! マカロニ作戦はどうなっている?』

 

『すみませーん! それどころじゃないんで後にしてもらっていいですか?』

 

 ん? どういうことだ?

 

『なんで?』

 

『八九式、モーリスと交戦中です! どうしてバレちゃったのかな~?』

 

『十字路にちゃんとデコイ置いたんだろうな!?』

 

『ちゃんと置きましたよ! あ、予備二枚はちゃんと使ってないですよ? 姉さんにあんだけ言われたんで』

 

 ならなんで相手にバレてるんだ? 相手にバレる要素なんてそれこそ作戦を知ってないと、あっ……し、しまったぁーーー!!? い、いかん、忘れてた! この作戦、前に比企谷に話したことがあったんだった! やばいやばいやばい!!

 

「か、カルパッチョ!」

 

「どうしました? ドゥーチェ?」

 

「敵がすぐそこまで来ているかもしれん!」

 

「え!?」

 

「と、とにかく、急いで移動だ!」

 

「は、はい!」

 

 そして私たちは今の地点から移動を始める。

 しばらく道沿いを進んでいくと敵の隊長車とフラッグ車がすれ違った。

 

『全車停止! 敵フラッグと隊長車発見!』

 

 だがここで戦っては不利だな。

 

『75mm長砲身は私に任せてください!』

 

 ここはカルパッチョにまかせよう。今は逃げる! そこカッコ悪いとかいうな!

 

『任せたぞ!』

 

 私たちは山道の斜面へと走り出すのだった。

 

 

 ====

 

 

 俺たちは西住に連絡したあとすぐにカルロベローチェ5両と遭遇して追いかけている。今回は相手が機銃しか積んでないから俺の戦車でも撃破される心配はないんだが、とにかく相手がちょこまかと動いて鬱陶しいことこのうえない。それに倒しても倒しても何度もゾンビのように立ち上がってくる。これは軽くちょっとしたホラーだな。

 

『やっぱりまた来てる!』

 

『比企谷先輩! キリがないです!!』

 

『豆タンクが不死身です!』

 

『お前ら落ち着け。いいか? 相手は別に不死身なわけじゃない。戦車の軽さを利用して白旗判定があがってないやつを即座に立て直して来ているだけだ』

 

『じゃ、じゃあ、どうすれば?』

 

『ウィークポイントを狙え、そうすれば一撃で白旗があがるはずだ』

 

『ウィークポイントですね、わかりました!』

 

『……ねぇ比企谷、ホントに私たちのコーチになる気はない?』

 

 こんな時に何言ってんだ磯辺のやつは。

 

『あの話は冗談だったろ。それより狙いは相手のエンジン部だ、いいな?』

 

『『『はい! コーチ!』』』

 

 いやだから違うから。俺はお前らのコーチになった覚えはないぞ。

 

『気合い入れていくよバレー部!!』

 

『『『はい!』』』

 

 そしてそこからの磯辺達は凄まじかった。一両倒して、また一両と次に次にカルロベローチェを撃破していき一気に四両も撃破をしたのである。

 そして俺はなにもしていない。しょうがないんだよ、俺の戦車は固定砲台だからカルロベローチェの動きについていけない。いやホントにこの戦車、戦闘向きじゃねーな。

 

『P40が単独になりました、援軍が来る前に決着を着けます』

 

『で、どうするの?』

 

 どうやら西住たちのほうもうまくやったようでP40を丸裸にできたみたいだな。

 あとはあっちにまかせるか。

 

『磯辺! 残りの車両を追いかけるぞ!』

 

『了解!』

 

 

 ====

 

 

『カルロベローチェ四両、走行不能』

 

 相手のフラッグ車、隊長車と応戦しているときにそんなアナウンスが流れてきた。いかん、このまま包囲戦をやっていても勝ち目がない。

 

『おい! 包囲戦は中止……! っていってるそばからCV33がやられた! 丸裸だ!!』

 

 こ、これはいかん、いかんぞ!

 

『一同、フラッグの元に集まれー! 戦力の立て直しを図るぞ。分度器作戦発動だ!!』

 

『了解!』

 

 そしてその途中逃げていたのだが、相手が私たちを追ってこなくなった。どういうことだ?

 そう思っていたら相手のフラッグ車が単独でいたのを発見。私たちは相手のフラッグ車を追いかけてここまできたのだが……。

 

「待ち伏せらしきⅣ号は見当たりません」

 

「囮かと思ったが、考えすぎか……」

 

 なら撃破するかしか私たちに勝ち目は残ってない!

 

「いいか見せつけてやれ、アンツィオは弱くない……じゃなかった! 強いということを!! 目指せ悲願のベスト4……じゃなかった! 優勝だぁーー!!」

 

 そのままフラッグ車を追いかけ袋小路に追い込んだ。

 

「よーし! 追い詰めたぞ!!」

 

 あ、あとは、あのフラッグ車を撃破すれば。

 

「あ、くそっ! 装填急げ!」

 

 しかし砲撃が外れてしまった。この、ちょこまかと動いて!

 

「え? えぇーと……」

 

 気づくと崖の上に相手の隊長車がいた。あれ? これやばくないか?

 

『ドゥーチェ、遅れてすいません! って、いたっ!』

 

 そうこうしているとセモヴェンテがやってきたのだが、慌ててやってきたせいか崖から転げ落ちてしまった。

 

『こら、無茶するな! 怪我したらどうする!?』

 

 セモヴェンテはそのまま砲撃をくらい白旗があがる。

 すかさず相手はセモヴェンテを撃破してきたな。そしてそこには隊長車ではなくM3がいた。

 

『姉さーん! アンチョビ姉さーん!』

 

 どこからともなくペパロニの声が聞こえたてきた。

 しかしその後ろには相手の戦車が……そしてそのまま撃破されてしまう。

 あ……詰んでないかこれ? くそっ、なんでもいい! 最後に相手の隊長車に攻撃だ! 一矢報いてやる!

 そんな願いもむなしく砲撃は外れ、相手の無慈悲な砲弾が私のP40に目がけて飛んて来るのであった。

 

『フラッグ車、P40走行不能! ……大洗学園の勝利!』

 

 

 ーーー

 

 ーー

 

 ー

 

「いや~、今年こそは勝てると思ったのにな~、でもいい勝負だった」

 

 私がへましたことを抜かせばだが。このあと比企谷を呼んでいるが正直会いたくない。絶対にボロクソに言われること間違いなしだ。

 

「はい、勉強させていただきました」

 

「決勝まで行けよ? 我々も全力で応援するから! だよなぁ!」

 

「「「おおぉーーー!!」」」

 

 大洗はどこか私たちと似ている気がする。そんなこいつらがどこまでいけるのか楽しみだ。

 

「ほら笑って! 手を振って!」

 

 観客に答えるのも勝者の務めだろ。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 そしてうちの子たちが次々と準備を始める。

 

「なにが始まるんですか?」

 

 よくぞ聞いてくれた。

 

「諸君! 試合だけが戦車道じゃないぞ! 勝負を終えたら試合に関わった選手、スタッフを労う! これがアンツィオの流儀だぁーー!!」

 

 そして一気に宴の準備が始まる。

 

「すごい物量と機動力……」

 

 そうだろそうだろ。

 

「我が校は食事のためならどんな労力をも惜しまない! ……この、この子たちのやる気が少しでも試合に活かせるといいんだけどなぁ……。まぁ、それはおいおいやるとして! せーのっ!」

 

「「「いたただきまーす!!」」」

 

 さて、私は比企谷を呼び出すとするか。

 

 

 ====

 

 

「西住ちゃーん、楽しんでるー?」

 

「あ、会長さん。はいとても」

 

「そう、それは良かった」

 

「ところで八幡くん知りませんか? 先程から見かけないんですけど」

 

「そういえば比企谷、どこいったんだろ?」

 

「トイレでは?」

 

「あれ? アンツィオの隊長さんも見かけませんね」

 

「あー比企谷ちゃん? 今頃告白でもされてるんじゃない?」

 

「あ、なるほど、そうでしたか……って、え?」

 

「ん?」

 

「「「「えぇーーー!?」」」」

 

 

 ーーー

 

 ーー

 

 ー

 

 

「わざわざ俺を呼びだしたのなんでだ? 安斎」

 

「そ、その、お、お前にいっときたいことがあってな……」

 

「俺に?」

 

「あぁ……」

 

 どうやら私たちは間に合ったようです。よかったまだみたい……あれ?

 

「なにしてるんですか?」

 

 そこにはペパロニさんとカルパッチョさんが近くの茂みから八幡くんとアンチョビさんを見ていた。

 

「なにって決まってるだろ? 姉さんの告白を見るために決まってるじゃねーか!」

 

「こ、告白ってホントなの?」

 

 とりあえず真相を聞かないと。

 

「たぶん間違ってないはずだぜ? 姉さん、兄さんがうちに来て以来ずっとそわそわしてたし」

 

「兄さん? それってどういう……」

 

「しっ! 始まるみたいだ」

 

 と、とりあえず、どうなるんだろう?

 

「その、だな……」

 

 アンチョビさんの顔がすごく真っ赤になっている。ほ、ホントに告白なのかな?

 

「れ、連絡先を私に教えてくれないか?」

 

「は?」

 

「ほ、ほら、だって私、お前の連絡先知らないし! いいだろ?」

 

「ならあんときでもよかっただろうに」

 

「い、いいだろ! 別に!」

 

 そして二人は連絡先を交換している。

 

「なんだ、違ったのか残念だなー」

 

 どうやらペパロニさんは気づいてないのかな。

 

「ね、ねぇ、みぽりん……」

 

 沙織さんも八幡くんの変化に気づいたみたい。

 

「う、うん……なにかあったのかな?」

 

 こうして私たちの二回戦は終わった。

 


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