間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。 作:@ぽちタマ@
「はぁ……」
大洗との試合のあと、ドゥーチェの元気がないように見える。最初は目標だった二回戦突破ができなかったからかと思っていたんだけど、どうやらそれも違うように思えてきた。
伊達に二年間、彼女のもとで一緒に戦車道をやってきてはいないのだ。いつもの彼女なら負けても引きずりはするこそ、次の目標を定め、それに向かってすぐに動き出すのだが、今回はその停滞している時間が長い。
それにさきほどのように、ため息をつくことが多くなったように感じられる。
「なにかあったんですか?」
ドゥーチェが明確に元気がなくなったのは試合後、もっと厳密に言えばそのあとの食事の時からだ。
「ん?あぁ、カルパッチョか」
「私でよかったら相談に乗りますよ?」
アンツィオ高校のエンジンと言っても過言ではないこの人が元気がないと、アンツィオ高校全体が沈んでるように感じられる。これは比喩でもなんでもなんでもなく、いつも元気な一年生のあの子たちも今回はなにかを感じ取ったのだろう。いつもより食べているご飯の量が少ない。まぁ少ないと言っても、おかわりが一回減っただけなのだけど。
「いや、私になにかがあったというより、あいつになにかがあったというか……」
「比企谷くんとなにかあったんですか?」
「え!?いや、あの、その……」
目に見えて動揺している。やっぱり比企谷くんとなにかあったみたい。
「……誰にも言うなよ」
「わかってますよ」
「本当だな?本当にだぞ?」
「ドゥーチェ、それはいわゆる……」
「振りじゃない!振りじゃないぞ!!」
冗談はここまででにしておこうかな。話がすすまなくなっちゃうし。
「それでなにがあったんですか?」
「その…試合のあとにだな、私はあいつに告白しようと思って呼び出したんだよ」
「え!?告白!?」
「わっ、馬鹿馬鹿!声がデカい!」
「す、すいません、つい」
まさかあの時にそんなことがあっただなんて、それでドゥーチェが元気がないとなると。
「元気をだしてください、ドゥーチェ。次の出会いがありますよ」
「なんで私がフラれたみたいな話にしてるんだ、カルパッチョ!違うから、私はフラれてないから!!」
「ドゥーチェ、声が大きいですよ?」
「誰のせいだと思ってるんだ……」
この時、ドゥーチェが叫んだことによって、アンツィオ高校であることが起きるんだけど、それはまた違う機会にでも話そうかな。
「フラれていないなら、なんでそんなに元気がないんですか?」
「あいつがつらそうな顔をしたんだ…」
「比企谷くんがですか?」
「あぁ、理由はわからないけど、私が告白しようとしたらな」
告白をしようとしたら。それは比企谷くんが過去になにかあってそれを引きずっているということになるのかな?
「ということは、告白は結局やってないんですね」
「う…だって、あいつのあんな顔をみたらそれどころじゃなくなって…」
「比企谷くんに理由は聞いたりとかは……」
「聞けてたらこんなに悩んでいると思うか?」
それもそうか。
「連絡先は知ってるんですか?」
「それはなんとか交換した」
「じゃあ今から連絡をしましょうよ!」
「今!?なんでそんな急に!?」
「善は急げって言うじゃないですか」
「急ぎ過ぎだろ!」
「でも、うかうかしてたら、誰かが傷心の比企谷くんの心を癒してとっていくかもですよ?」
「ないない。だってあいつだぞ?」
ドゥーチェのその根拠はどこからくるんだろうか?確かに普通の人と比べたらちょっと…ううん、すごく変だけど。男の人で戦車道をやってる人なんてそうそういないから、普通の人ならちょっと一線を引いちゃうのかもだけど、同じ戦車道をやっている女子からしたら違う印象を持つんじゃないのかな?
「第一、あいつは性格が捻くれているんだから好きになる奴なんていないだろ」
「でも、結構優しいですよ?比企谷くん」
「は?」
「この前うちの学校に来た時のこと覚えてます?」
「あの時がどうしたんだ?」
「うちの一年生たちの頼みごととか結構聞いてたみたいですよ、主に力仕事とか」
「それで?」
「それでって……比企谷くん、見た目のわりには面倒見がよくて優しいですから、いわゆるギャップでコロッと落とされる女子もいると思いますよ?現にうちの一年生の大半は比企谷くんに懐いてますし」
まぁ、懐いている理由が、「あの目のやばさなら天下を獲れる!」とか、「あの人がいたら相手の高校に絶対舐められなくなりますよ!」とか、「カチコミに行ったら圧倒的!」なんてのもあって。女子という個体からでてくる単語ではなかったけれど。
「小町がいるから年下の扱いがうまいんだろ」
「比企谷くん、妹がいるんですね」
どんな子なんだろうか?比企谷くんをベースに考えたらいいのかな?うーん、ちょっと想像がつかないなぁ。
「どんな子なんですか?」
「え?そうだな、一言で言えば…」
「言えば?」
「比企谷と正反対の性格だな。あいつと違ってすごくコミュ力が高い。基本的に誰とでもすぐに仲良くなるしな」
「へぇー、そうなんですね」
「あと戦車道が無茶苦茶強い。比企谷 小町って知らないか?結構有名だったりするんだけど」
それなら知っている。戦車道の雑誌とかによく取り上げられている子だ。となると、あの子が比企谷くんの妹になるのか。
「それでドゥーチェ、どうするんですか?」
「どうするって、なにがだ?」
「連絡ですよ、しないんですか?」
「……でも」
「別にあの時のことじゃなくても世間話でもいいじゃないですか、とにかく一人で考えて塞ぎこんだらダメですよ」
「な、なら、せめてメールでさせてくれ、電話だとテンパってしまいそうだ」
今はそれでしょうがないのかな。
「それとありがとな、カルパッチョ。話を聞いてくれて」
「みんなも心配してますから、早く元気になってくださいね?」
「そうだな、落ち込んでばかりもいられない。次こそは悲願の2回戦突破…じゃなかった、優勝を目指して頑張らないと!」
どうやらドゥーチェはもう大丈夫なようだ。
しかしそんなカルパッチョの思いとは裏腹に、彼女は今度は安斎から相談されるのであった。
大洗の準決勝のあと。
「ど、どうしよう、カルパッチョ、比企谷から返信が返ってこないんだが!私嫌われたのかな!?」
涙目になってカルパッチョに相談する安斎がいたとかいなかったとか。
その相談を受けた結果、八幡の連絡先が勝手に増えたとかどうとか。