間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。 作:@ぽちタマ@
昼休みが終わり、午後の授業が終わり、そして放課後。
やべー、まったく覚悟が決まらなかった。どうしよ、このまま帰ってしまおうかしら? いや、それはさすがにダメだろ俺。
そうやって俺が一人で悩んでいるうちに、どうやら西住たちは先に生徒会室に向かったようだ。いつの間にか気づけば俺は一人だけ教室に残っていた。
気づけばぼっちだった。あっ、それは元々でしたね。……馬鹿なこと言ってないで、俺もさっさと生徒会室に行こう。
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そして生徒会室の扉前。
「………」
俺はかれこれ5分ぐらいこの扉前に陣取っている。陣取っているというか、なんというか、ここまで来といて足が止まってしまった。
そろそろ早くどうにかしないと生徒会の役員の皆さま方の、こいつなにやってるだろう? という冷ややかな目線が突き刺さってしょうがない。
逃げちゃダメだ…、逃げちゃダメだ……、逃げちゃダメだ……!
そして俺はようやく生徒会室の扉を開けるのだった。
え? 茶番が長い ?勘弁してくれ、これでもそれなりに緊張しているのだ。
生徒会室には西住、武部、五十鈴、秋山、冷泉の五人がいた。
「お前らだけか?」
「うん。あまり人がいても八幡が話しにくいだろうし、あと、私たちが一番八幡くんと話してたから」
なるほどね。たしかに言われればこいつらとよく一緒に行動していたな。いや、無理矢理に連行されていたと言っていいのかもしれんが。主に武部に。
「とりあえず、だ」
西住たちが奉仕部に依頼に来たというのなら俺に話があるのだろうが、先に俺から話をさせてもらう。
「お前らに言っときたいことがある」
「え? 八幡くんが?」
俺が奉仕部に西住たちとの話し合う機会の場を作ってくもらえるよう依頼したのは二つの理由からだ。
一つは言わずもがな、戦車道に戻らせてもらうこと。
そして二つ目はこいつらとあの時のことについてきちんと話すことだ。
「武部」
「な、なに?」
「お前は言ったよな、“もっと人の気持ちを考えてよ!
いろんなことがわかるのになんでそのことがわからないの!”って」
「う、うん……」
「先に謝っておく。すまん、たぶんわかっていても俺は同じことをしたと思う」
「な、なんで?」
「その答えは少し待ってくれ」
まだ話さないといけないやつがいる。
「五十鈴」
「……比企谷さん」
「お前は“あなたにとってわたくしたちはどうでもいい存在なんですか?”って聞いたよな?」
「っ! あ、あれは……」
あの時は答えられなかったが、今なら答えられる。
「どうでもいい存在なんかじゃない」
「……え?」
「俺にとってお前らはどうでもいい存在なんかじゃない、それだけはわかってくれ」
最初は自分の答えを見つけてもなにも変わらないと思っていた。でも違った。こいつらのことを気に入っていると自覚したと同時にやりたいことができてしまった。
「その上で言わせてもらうんだが、やっぱり俺はああしてたと思う」
「それはなんのために?」
武部は俺に質問をしてくる。あの時はこの学校を廃校にさせない為と言ったが、俺が学校の為にとか今思うと何言ってるんだか。もっとマシな言い訳もあっただろうに。
「自分のためだよ」
「自分のためって……。じゃあなんであんな自分が傷つくようなやり方をしたのよ! 矛盾してるじゃない!」
「矛盾してねぇよ」
「してるよ!」
「俺はあのやり方しか知らない、それに大切な場所を守るために手段なんて選んでられるか」
たとえそれでこいつらが傷ついたとしてもだ。
あの時はこのまま俺が戦車道をやめれば解決するんだと思っていた。でも違うのだ。そうじゃない。俺があのことを夢にまで見ていた理由が答えだった。プラウダに勝ちはしたものの、廃校にならないのは確定していない。黒森峰に勝たないといけない。
だから夢にまで見た。終わってないのに終わろうとしていた自分を責めるように。
「……八幡くん」
西住。
「……比企谷」
武部。
「……比企谷さん」
五十鈴。
「……比企谷殿」
秋山。
「……比企谷」
冷泉。
俺は間違っているのだろう。けど、それでも構わない。
「俺はどうしようもなく間違っているんだと思う。また俺の行動でお前らを傷つけるとしても、それでも戦車道に戻って、この学校を……いや、お前らの居場所を守りたいと思ってるんだから」
それが俺の答え。
「だから武部、五十鈴、俺は変われない。お前らの言うように間違ったままだ」
変わらないではなく、変われない。
間違っていると言われて、理解は出来る。けど納得が出来ないのら一緒だ。結局はその局面、俺はまた同じことをするのだと思う。
もうこれは癖みたいなものだ。今更誰かに言われたぐらいで直るなら苦労はしない。
このどうしようもなく間違っているのが俺なのだ。比企谷 八幡なのである。
一時は戦車道をやめた。けど、自分の気持ちに気づいたらそれどころじゃなかった。俺が間違っていたとしても、こいつらの居場所を守りたい。見ているだけは耐えられそうになかった。
だから俺は…………。
――――間違いながら、それでも戦車に乗るのだろう。
「「「「「………」」」」」
西住たちからの反応がない。
そりゃそうだ。俺は間違っているのがわかっていて尚、変わらずに戦車道に戻ると言っているのだ。
だから、俺は否定されるのだと思っていた。いや、そのはずだったのだ、この時までは。
「八幡くん」
沈黙のなか、口を開いたのは西住だった。
「なんだ?」
「変わる必要なんかないよ」
「え!?」
「みほさん!?」
「西住殿!?」
西住は……、西住のやつはなにを言ってるんだ?
西住の発言に俺だけでなく、武部たちも驚いている。そんな様子を見てもそれでも西住は言葉を続ける。
「八幡くんは強いよね」
「そんなことねぇよ」
「ううん、そんなことあるよ。だって私ずっと見てきたからわかる、八幡くんはいつもそうだったよ。私の時も、華さんの時も、そしてプラウダ高校の戦いの時も、八幡くんが動いて傷ついているのはいつも誰かのためだった」
「………」
「普通だったら無理だと思う。だって嫌われるのは怖いよ。だから強いんだと思ってた、でもそれだけじゃなかったんだよね。あの時、アンツィオ高校の試合のあとアンチョビさんと会ってたでしょ?」
「……見てたのか」
「うん。そこはごめん。でもあの時の八幡くんを見て思ったの、この人は強いけど脆いんだなって……」
あの時、安斎がなにか俺に言おうとした時、俺はどんな顔をしていたんだろうか?自分じゃわからない。けど、西住が言うことが本当なら俺は中学の時のあの事を引きずっていたのだろう。
たぶんそれが顔に出ていたのだ。
「それなのに、私たちは八幡くんに頼り過ぎていたんだよね。だからあそこまで無茶をさせちゃった」
関係ない。なんであれ、俺はああしてた。
「……えっと、それでなにが言いたいかと言うとね。八幡くんはそのままでいいと思う」
「俺はまた同じことをやるぞ、西住」
「大丈夫だよ」
大きな瞳は真っすぐに俺の方を見てくる。
「今度もし八幡くんがまた間違いそうになっても私が、ううん、戦車道のみんなが絶対に止めて見せるから」
西住は力強く、そう俺に言うのだった。
「………」
俺は言葉が出なかった。
「あ、あれ? みんなどうしたの?」
どうやら西住は自分がなにを言ったか気づいてないらしい。俺だけではなく武部たちも黙ってしまっているのは……西住、お前がイケメン過ぎるからだよ。
なんなのこの子? イケメン過ぎるだろ。勘弁してくれよ。危うく惚れてしまうところだった。
……いや、本当に勘弁してほしい。俺は拒絶されると思っていたのだ、それなのに……。
「は、八幡くん! 私なにかおかしいこと言ったのかな!?」
なんか突然、西住が慌てだしたんだが、どうしたんだ?
「比企谷殿、大丈夫ですか?」
「え?」
秋山が俺に近づいてそう言ってきた。ほかのやつらも意外なものを見るような目で俺を見ている。
大丈夫って、なにが…………。
―――――気づけば俺は泣いていた。
ちょっ! うそ! まじでか!?
「す、すまん! みっともないところを見せた!」
おいおい勘弁してくれよ。俺は話し合いに来たのであって、黒歴史を増やしに来たんじゃないぞ。
俺が制服で顔をゴシゴシしていると不意にその腕が掴まれた。
「……みっともなくなんかないです」
俺の腕を掴んだ主は秋山だった。……秋山?
「みっともなくなんかないです。比企谷殿……いえ、八幡殿!」
なして名前呼び? ちょ、ちょっと待ってくれ、状況がわからなくなってきたんだが。
「私は先程の西住殿の言葉にとても感動しました! ……たぶん、八幡殿は私とは理由は違うのでしょうが、西住殿の言葉になにかを感じたのでしょう?」
たぶん、そうなのだろう。いや、ちょっとまって秋山さん。今はそれどころじゃなくてですね。
「……すいません、八幡殿」
今度はいきなり落ち込みだしたぞ、秋山のやつ。
「なにがだ? 俺はお前に謝ってもらう理由がわからないんだが……」
「不肖ながら八幡殿のことを誤解していたようです。私は八幡殿はなんでもできる人なのだと思ってました」
なんでもって、コイツの中で俺はどんだけ過大評価されてるんだ?
「でも先程の八幡殿の涙を見て考えが改まりました! いえ、自分の不甲斐なさに気づかされました!」
やめてくれ! もう八幡のライフはゼロよ!
秋山的には俺のことを励ましているんだろうが、俺にしたら黒歴史を語られているわけで。
「西住殿の言う通り、私たちは八幡殿に頼りきっていたと思います。だから……」
「だから?」
「まずは名前呼びかなと」
おかしいね、途中まではおかしくなかったのに最後がおかしいね。どういう理屈でそうなったの?
いや、それよりもだ。
「秋山」
「はい! なんでしょう、八幡殿!」
「そろそろ手を離してもらっても大丈夫でしょうか?」
「へ?」
俺に言われて気づいたのか現状を確認する秋山。
俺の手を見て自分の手を見る。これを繰り返すこと三回。あーら不思議、秋山の顔が真っ赤に染まっていく。ついでにいうと俺の顔も赤いと思われる。
いや、まじこれなんの公開処刑なんだろうか。ぼっちにはハードルが高すぎるよ秋山。
「す、すいみません! 八幡殿! …あの……本当に……悪気があったわけじゃないんです……」
そう言いながら秋山は部屋の端っこに行ってしまった。
そして不意に制服の袖が引っ張られる。
「……八幡、頭撫でろ」
ちょっと待て、ツッコミどころが多すぎるだろ。次から次へと問題を発生させるんじゃない。
「なんでお前まで呼び方変わってるんだよ……」
「そこは気にするな。それよりも頭を撫でろ」
「いや、なんでだよ」
「心配かけたんだから当然だろ?」
なにが当然なの? 報酬になでなでを要求するとか、お前は小町かなんかなの?
「心配ってプラウダ戦のことか?」
「それもだが、その後もだ」
俺的には冷泉に心配されていたこと自体がわりと不思議なんだけど。
しかし心配か、そう言われるとなんとも断りづらいものがあるな。
というか、いつもならくるであろう人物からのツッコミがこないんだが、どうなってんだ?
「よし! 私も決めた!」
ちょっと待とうか、武部さん。たしかに噂はしたけど今の流れで言うのはよろしくない。すこぶる嫌な予感がするんだけど……。
「私は比企谷のことハチって呼ぶことにする!」
「いや、呼ばなくていいから」
「なんでよ!?」
なんでもくそもないだろ。こっちがなんでとキレたいぐらいだわ。なぜに名前呼びすらも通り越して愛称呼びなんだよ。進化しすぎだろ。
例えるなら、スライムが魔王になっちゃったみたいな。……やだこれ、ワープ進化どころの話じゃない。もはや別物である。
つまりは武部はそれぐらいおかしいことを言っているということだ。わかっていただけただろうか。
「麻子とゆかりんは呼ぶのはいいんだ……」
いや、別にあいつらに呼んでいいと言った覚えはないぞ。
「ねえ、八幡くん。私も呼び方変えた方がいいのかな?」
西住、これ以上状況をややこしくするのはやめてくれ。
別にこの流れに乗らなくていいのよ? むしろ乗らないでくれマジで。西住が俺を愛称呼びなんかしたらまほさんに殺されそうである。
「そういえば華はどうするの?」
「わたくしですか?」
「そうそう、呼び方」
「で、でも……わたくし……」
「まだあのこと気にしてるの?」
なんだ? 五十鈴のやつなにを気にしてるんだ? ……そういや、五十鈴のやつは呼び方が昔の方に戻っていたな。
「別に無理に変えなくていいだろう、そのまんまでよくないか?」
本人の気が進まないのに無理にさせる必要がないだろ。
「………」
「あれ?」
五十鈴さんの様子がおかしい。なんか無言でこっちを睨んできてるんだけど……。え? 俺なんか変なこと言ったか?
「わたくしには呼んで欲しくないんですか……?」
「……好きにしたらいいだろ、 どう呼ぼうがお前の自由だろ」
「……はいっ!」
五十鈴のやつはなにがそんなに嬉しいのだろうか? 見たこともないぐらいのいい笑顔をしてらっしゃる。
「じゃあ私も別に問題ないよね♪」
ちょっ、汚いぞ、武部! こいつ、これが目的で五十鈴のやつに話を振りやがったな。
「ねぇ、八幡くん」
「なんだ、西住?」
「八幡くんに頼ってもらえるよう頑張るからね」
イケメンすぎますわ西住さん。
あまり女子にイケメンイケメン言うのもよろしくないな。西住はイケメンの魂を持ってるからイケ魂やな。
なんてアホなことを考えていたら電話の着信音が鳴り響く。
「誰だろう? ……え!?」
どうやら西住に電話がかかってきたようだが、どうやら相手は意外な人らしい。西住が驚いている。
「は、八幡くん、どうしよう?」
先程までのイケ魂ぶりはどこにいってしまったのか。打って変わってあわあわとしだしたぞ。
「どうしようって、相手は誰なんだ?」
「……お姉ちゃん」
「まほさん?」
「え?」
「え?」
なんで西住は意外そうな顔でこちらを見てくるのかしら?
「とりあえず電話にでたらどうだ?」
「う、うん、そうする……。も、もしもし? お姉ちゃん?」
そうか、まほさんもとうとう動く気になったのか。ちょっと感慨深いもんがあるな。
あの喫茶店で会ってからだからだいぶ時間が経ってるのはこの際ツッコまないとして、これで仲直りができれば一番いいんだけどな。
この時の俺は呑気だった。いやマジで。でもさすがにこればかりは誰が予想できただろうか?予想できたやつがいたなら是非名乗り出てほしい。
今ならマッカンをプレゼント! え? いらない?
「え!? どういうことお姉ちゃん!? ……うん、うん、もうこっちに向かってるの? わかったよ」
なんか西住の様子がおかしいな。なんで俺の方をチラチラと見てきて……。本日二度目の嫌な予感がするんだが。いや、まさかそんな…ねえ?
どうやら西住はまほさんと話が終わったらしい。
「なんだって?」
「……うん。話があるから家に戻って来いって言われちゃった……」
「は? 本家に? 移動手段は? 今は定期便ないぞ」
「それは今、お姉ちゃんがヘリでこっちに向かってるって」
それまでならよかった。いや、西住からしたらよくないのかもしれないが、それでもここまでなら普通のことだった。
そう、だった。西住の次の言葉を聞くまでは。
「それでね、八幡くん」
なんで西住は申し訳なさそうな顔でこちらを見てくるのだろうか?
「お姉ちゃんが八幡君も一緒に来るようにって」
「へ?」
いやいや、なんで? 俺が? 西住の家に? 呼ばれる?
そして俺はなぜか西住流の本家へと行くことになったのだった。
正解した人はいるだろうか? いたらスーパーヒッキーくんを進呈しよう。え? いらない?
どうやら決勝戦の前にイベントが目白押しのようだ。
まじで俺どうなるの?