間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。   作:@ぽちタマ@

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なんだかんだ、比企谷 八幡は世話を焼く

 一色 いろはが現れた。比企谷 八幡はどうする?

 コマンド

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 さすが俺、捻くれている。

 

「あの、会長」

 

「ん? どしたの?」

 

「授業に戻っていいですかね?」

 

 あれだよね。学生の本分はやっぱり学業だと思うんですよ。うん。

 

「なっ!? こんなかわいい後輩を差し置いて授業の方が大切なんですか!?」

 

 一色は自分がそんなことを言われるとは思わなかったのだろう。俺に抗議してくる。

 もうね。自分でかわいいとか言っちゃってるあたり、こいつのあざとさは計り知れない。

 

「は? 授業に決まってるだろ。バカなの?」

 

 途中までは授業サボれてラッキー感覚だったが、こいつを見た瞬間、あぁ、俺なんでここにいるんだろうって、本気で思っちゃったほど。

 

「……なんだろう。比企谷ちゃんがまともなことをいってるはずなのに、まともに聞こえない……」

 

 おいこら、それはどういう意味だ! なんで河嶋さんも小山さんもうんうん頷いてるの? 俺に対しての反応が酷すぎる……。

 

「でもせんぱいはー、ケイ先輩から私の面倒を見るように言われてるはずですよね?」

 

 小首傾げながら威圧してくるのやめてもらっていいですかね? 早くも化けの皮が剥がれてませんか一色さん。えぇ~? そんなのしらないですぅ~、とか言ってしまえば解決するのかしら? いや、しないな。俺がやってもあざとくないし、気持ち悪いだけである。

 

「はぁ、わかったよ。やればいいんだろ……」

 

 くそ、恨みますよ、ケイさん。

 

「……なんでそんなにテンション低いんですか……、まじありえないです……」

 

 まじありえないのはこっちだわ……。

 

「一色、いやいやだが学校を案内してやるよ。感謝しろよ?」

 

「なんでそんなに上から目線なんですか……。先輩こそ、私を案内できるんですから感謝してくださいよ」

 

「……会長。案内役別の人に変えてもらってもいいですか?」

 

「わわ、冗談、冗談ですよ!」

 

 え? なんでこいつこんなに必死になってんの?

 

「え? なに? お前、俺のこと好きなの?」

 

「……は?」

 

 ひぃ…っ! やだ、なに今の低い声。一瞬、あまりの冷たさに少しびびってしまった。俺なりのジョークだったのに。というか、さっきまであざとさ全開だったのにこれかよ。落差激しいわ。

 

「さっそく仲よさそうでよかったよかった。じゃ、比企谷ちゃん、よろしく~」

 

 会長は呑気に手を振って俺たちを見送っているが、今のをどうみたら仲良く見えるんですか? 眼科いくことをおすすめしますよ?

 

 

 ===

 

 

「せんぱい。ねぇ、せんぱい?」

 

 とりあえず、移動教室の場所とか、この学校の主要部を案内していたら途中、一色に話しかけられた。

 

「……なんだ?」

 

「せんぱいに聞きたいことがありまして……」

 

「銀行の暗証番号なら教えんぞ」

 

「いや、暗証番号て……私をなんだと思ってるんですか」

 

「魔性の女」

 

 気がつけば自分の全財産を尻の毛一本までむしりとられそうである。

 

「なんですか、その評価は……」

 

「お前のことは、ケイさんからある程度聞いた」

 

「え? まじですか? ……せんぱいってそこまでケイ先輩に信用されてるんだ……」

 

 一色は、まさか自分のことを話されていると思ってなかったらしく、なにやらぶつぶつ言っている。

 

「それで? 聞きたいことってなんだ?」

 

 とりあえず、話を進めるために一色に話しかける。

 

「…え? あ、はい。せんぱいって、なんで戦車道をやってるんですか?」

 

「あぁ、生徒会に脅されてな……」

 

「いや、そういう冗談はいいんで」

 

 いや、別に冗談じゃないんだけどな。まじな話なんだけど。一色が聞きたいのはそういうことじゃないってことなんだろう……。

 

「……憧れだよ」

 

「え?」

 

「だから、憧れ。俺の家って戦車道の家系なんだよ。だから、小さいころによく母親が戦車に乗ってるのを見て自分も戦車に乗ってみたかった」

 

 ただそれだけ。本当に乗ろうと思った理由なんてそれだけだ。

 

「え……でも、せんぱいって男の人です…よね?」

 

「まぁ……そうだな」

 

「その……つらくなかったんですか?」

 

 なんか前にもこんなこと聞かれたな。

 

「俺が今、ここで戦車乗ってるのが全てだろ?」

 

「………」

 

 俺の答えを聞くと、一色は黙ってしまった。

 やべ、なんか変な空気になったな。というか、こいつなんで俺が乗ってる理由なんて聞いたんだ?

 

「俺なんかのことより一色、お前はどうなんだ?」

 

「え、はい? 私ですか?」

 

「サンダースであったことだよ」

 

 その言葉で、一色は一瞬ビクッとなる。

 

「あ、あれは、もうこっちじゃ関係ないじゃないですかー」

 

 ……どういうことだ? ケイさんの話じゃ、事が変な方向に向かう前に一色を転校させたって言っていたのに、この反応は……。

 

 

 ====

 

 

「――ぱいっ! せんぱいってば!」

 

「ん? なんだ?」

 

「なんだ? じゃないですよ! なんで案内する私をほったらかしにして一人でずんずん進んでるんですか!」

 

 どうやら、いつの間にか考え込んでいたらしい。一色を置き去りにしてひとりで勝手に進んでいたようだ。

 

「あぁ、すまん。ちよっと考えことをしてた」

 

 とりあえず、さっきのことは一旦頭の隅に置いておくか。

 

「は? いきなり会って告白のシチュエーション考えるとか軽薄というかなんというかありえないんで付き合うとかそういうのはできませんごめんなさい」

 

 そして一色はなにを思ったのか、いきなり捲し立てながらそう言ってくる。

 なんで告白してもないのに俺はフラれてんの?ちょっと理不尽すぎるだろ。

 

「まず俺がお前に好意を持ってる前提で話を進めるな」

 

「え? 違うんですか?」

 

 むしろ株価がどんどん下落してるんですけどね、頼まれてなかったら関わりたくないまである。

 

「その自信はどこからくるんだよ……」

 

「だって私って、かわいいじゃないですかー」

 

 自分で言うな自分で。

 

「あーそうね。かわいいかわいい」

 

「むぅー、もしかしてバカにしてます?」

 

 一色は怒るたびに頬を膨らませている。あざとい。まじあざとい。

 この一色の反応を見る限り、さっきの反応が見間違いのようにも思えるが……。

 

「一色」

 

「なんですか?」

 

「案内している間は俺の数歩後ろを歩いてくれ」

 

「なんですか? 亭主関白のつもりですか? ごめんなさい――― 」

 

「いや、そのネタはもういいから」

 

「……じゃあ、なんでですか?」

 

「お前と一緒にいて変な噂が流れないようにだよ」

 

「私との噂が流れるとか光栄じゃないですかっ」

 

 このアマ……。冗談ではなく本気で言っているあたりたちが悪い。

 

「普通にお断りだから」

 

「もしかして、せんぱいって"そっち"なんですか?」

 

 こいつちょっと失礼じゃない? なぜに一色に好意を持ってないからといってホモ扱いをされないといけないのか。ちょっとあの時の武部の気持ちがわかってしまった。今度お詫びになんか奢ろう。そうしよう。

 

「俺は女子が好きだから」

 

 俺は普通にノンケである。ときどき、戸塚にドキドキすることはあるけど。あれ? アウトか?

 

「……なんか、たらしみたいですね。今のセリフ」

 

「お前が言わせといてそれは酷くない?」

 

「ま、まぁ、気を取り直していきましょう!」

 

 

 ====

 

 

「……普通ですね」

 

「特段特筆なにかがあるわけじゃないしな。それこそ、サンダースと比べられても困るんだが」

 

 サンダースの金に言わせた設備とか羨ましいかぎりである。夏とかクーラーあるらしいし。これが格差社会か……。

 俺と一色は今、ある程度学校の案内が終わったので休憩をしている。主要な場所を案内しても普通に時間が余るあたりなにもないのがよくわかる。

 

「そういや一色、お前授業は?」

 

「私、今日は挨拶だけなのでないですよ?」

 

「なるほど。暇なのか」

 

「なんですか? もしかしてデートに誘ってます? すみませんせんぱいは顔はいいと思いますけどいかんせんその目がちょっとないかなぁと思うので無理ですごめんなさい」

 

「……誘ってねぇよ。それと、さらっとフるのと同時に俺をディスるのやめてくれない?」

 

 なんなのこいつ? もはや俺に対しての遠慮がないんだけど……。

 

「あれ? ヒッキー、こんなところでなにしてるの?」

 

「休憩」

 

「いや、そういうことじゃないし……」

 

 なんで聞いたこと答えたのにあきれられてるの?

 

「せんぱい?」

 

「なんだ、一色」

 

「その人はせんぱいの知り合いですか?」

 

 やだ一色さん、顔が怖いわ。

 

「ヒッキーが知らない女の子と一緒にいる……」

 

 そして、なぜかじと目の由比ヶ浜。

 やだ、なにこれ。端から見るとまるで浮気現場を発見されたやつの修羅場みたいだな。まぁ、俺だから全然違うわけだが。

 

「こっちは由比ヶ浜、知り合い? になるのか?」

 

「同じ部活なんだから知り合いでしょ!?」

 

「いや、だって俺そんなに頻繁にいってるわけじゃねぇし」

 

 そこらへんの線引きは難しいものだ。

 自分が友達と思っていた相手から『え?比企谷くんとは友達じゃないよ?』と聞いてしまった時の気まずさは何とも言えない。

 しかもそれを直接ではなく、偶々聞いてしまったというのがなんとも……。

 それ以降、その子とは話さなくなったなー。

 

「そ、それで、そっちの子は?」

 

「ん? あぁ、こいつは一色。転校生だ」

 

「せんぱい、雑すぎます……」

 

「だってお前のこと知らんし」

 

 なんなの君たち? 文句があるなら自分で自己紹介しろよ。

 

「あ、今噂の転校生って……」

 

「どんな噂か気になりますが、一色 いろはです」

 

「あ、私は由比ヶ浜 結衣だよ」

 

「じゃあ、結衣先輩ですね」

 

「私は、いろはちゃんて呼んでいい?」

 

 こいつらコミュ(りょく)たけーな。もう名前呼びかよ。俺だったら絶対に無理。

 

「いいですよ。それで噂ってのは……?」

 

「かわいい転校生が来るとかそんな感じかな? 別に悪い噂とかそういうのじゃないから気にしなくていいよ?」

 

「そ、そうですか」

 

「………」

 

「どしたの? ヒッキー」

 

「なにがだ?」

 

「えっと……、なんか変な顔してたから」

 

「すいませんね。この顔がデフォルトなんですよ」

 

 由比ヶ浜、お前はちょっと鋭すぎな。

 誤魔化しはしたが、俺の表情は変わっていたのだろう。

 

「せんぱいの顔が変っていうか、目が怖いのはいつものことじゃないんですか?」

 

「あ、いや、そういうことじゃないんだけど……。まぁ、目は怖いよね、ヒッキー」

 

 お前ら、目の前に俺がいることわかってる? 君たちが今言っているのはただの悪口だからね?

 

「……由比ヶ浜、次の授業があるんじゃないのか?」

 

「そ、そうなんだけど……」

 

 なぜか俺と一色をチラチラと見てくる由比ヶ浜。

 俺が一色になにかいたらんことでもすると思われているんだろうか?

 

「じゃあまたね、いろはちゃん」

 

「はい、結衣先輩」

 

「ヒッキーは戦車道の授業のときはよろしくね?」

 

「まぁ、俺が誘ったわけだしな」

 

 そして由比ヶ浜は次の授業へと向かっていった。

 

「なんかちょっと凹みます……」

 

 さっきまで笑顔で由比ヶ浜に手を振っていたくせにいきなりどした?

 

「なにがだ?」

 

「結衣先輩、かわいすぎですよ……。自信なくしそうです」

 

「……一色」

 

「せんぱい?」

 

「さっきからチラチラ俺の方を見ながら言ってても説得力皆無だから」

 

 一色の場合、凹んでる自分はどうですかアピールがあざとすぎる。

 普通の男子だったら『だ、大丈夫?』とか言って引っかかるんだろうが、残念ながら俺には効かん。

 

「……なんか、せんぱいって本当にせんぱいですよね……」

 

「どういう意味だこら」

 

「べっつにー、なんでもないですけどぉ?」

 

「さいですか……」

 

 まぁ、いいや。

 

「一色、職員室に行くぞ」

 

「え? 私、行く必要ないんですけど」

 

「戦車道に関係してるから関係なくはないぞ」

 

 さっきの由比ヶ浜の言葉で思い出した俺だった。

 

 

 ====

 

 

「失礼します」

 

 俺はノックをして職員室の扉を開ける。

 

「はぁ~、結婚したい……」

 

 そこには某結婚雑誌を見ながら職員室で一人愚痴っている女性の姿がそこにはあった。というか、平塚先生だった。

 

「………」

 

「………」

 

 無言で見つめあう俺と平塚先生。

 目と目があう~、とかいうイントロが流れてきそうだな。うん。

 

「失礼しましたー」

 

 俺はあまりにもいたたまれなかったので思わず開けたはずの扉を閉めてしまった。

 

「え?せんぱい?今のは?」

 

「一色」

 

「え?はい?」

 

「世の中、知らないでいいことがあるんだよ……」

 

「今のってそんなレベルなんですか!?」

 

 そんなレベルなんだよなぁ、これが。

 誰か早くもらってやれよ!職員室で一人呟いてるところなんて見てみろ!かわいそすぎて思わず俺が貰ってしまいそうになったわ!

 

「帰ろう……」

 

「あれ?職員室での用事は?」

 

「死体蹴りをする趣味は俺にはない……」

 

 やめて!平塚先生のライフはもうゼロよ!ということで帰ろうとしたのだが……。

 

「待ってもらおうか」

 

 不意に開いた職員室の扉の先には、我が生涯に一辺の悔いなしと言わんばかりに片手を天高く突き上げている女性の姿があった。というか、平塚先生だった。

 いや、めっちゃ悔いがあるよね!?今すごくやってしまったーって思ってる顔だよね!?

 わかりますよ、その気持ち。ついノリと勢いでやったんですよね?そしてあとでそのことを思い出して涙で枕を濡らすまでがワンセット。

 

「私のドリルは天を衝くドリルだ!」

 

「あ、そっちですか」

 

 あなたが天元突破しいているのは天ではなく羞恥心だと思うんですが……。

 一色の、え? これなんなんですか? 私、この人に関わらないといけないんですか? という目線を俺に投げ掛けてくる。

 いや、わかるよ。俺も知り合いじゃなかったら全力で逃げてるから。でもね、この人先生だからね? だからそんな目で平塚先生を見ないでやってくれ一色。

 

「……ごほん」

 

 ひとつ咳払いをする、平塚先生。たぶん俺しかいないと思ったんだろうな。だから、ついやってしまったと。

 身内ネタは身内にしかやってはいけない。他所でやってしまうと高確率で失敗する。

 あれ?そうなると俺は平塚先生に身内と思われてるのか?

 

「それで? 比企谷? わざわざ授業中に女子を連れて私のところにくるとはあれか? 喧嘩を売ってるのか? 一人寂しく職員室で働いてる私への当て付けなのか?」

 

 怖い怖い怖い。今にもなんとか流星拳とか放ちそうなポーズをやめてください!

 

「昨日言っていた戦車道の件ですよ」

 

「戦車道、ということは、雪ノ下たちはオーケーを出したんだな」

 

「えぇ。ちょっと意外でしたけど……。特に雪ノ下が」

 

「なんだ、君は断られると思っていたのか」

 

「まぁ、そうなりますね」

 

 少なくとも、あんなに簡単に頷かれるとは思っていなかったのは確かだな。

 

「雪ノ下たちがオーケーを出したのなら約束通り、私も戦車道を教えないといけないな」

 

 俺が昨日の戦車道の授業の前に行ったのは、平塚先生のところ。雪ノ下と由比ヶ浜を戦車道に勧誘していいかと、平塚先生に戦車道のコーチをしてもらえないかを相談に行ったのだ。

 

『彼女たちがオーケーを出せば、私もやるとしよう』

 

 という、平塚先生の言葉をいただいたので、俺は雪ノ下たちを放課後、サイゼにまで呼び出し、そして今に至る。

 

「平塚先生は、蝶野さんが後輩だったんですよね?」

 

「ん? あぁ、そうだが」

 

「……ちゃんと教えてくださいね。大雑把にじゃなく」

 

「……あいつ、まだ感覚でやってたのか」

 

 効果音で説明されるこっちの身にもなってほしいもんだ。

 

「やるぶんには構わないんでしょうけど、教えられる身にもなるとちょっとアレですよ……」

 

「あいつは昔からああだったからな、変わらんのかもしれん」

 

 平塚先生はうん、と言いながら顎に手を当て自然な手つきでポケットのタバコに手をいれる。

 

「先生、ここ学校ですよ?」

 

「おっと、すまんすまん」

 

 今の行動、ほとんど無意識だな。

 

「俺が言うのもなんなんですが……、本当に結婚したいならタバコはやめたほうがいいんじゃないですか?」

 

「うぐっ……、わかってる、わかってはいるんだが……。聞いてくれるか、比企谷?」

 

「短めでお願いします」

 

「比企谷、私はこの学校の中では一番の若手なんだよ」

 

「は、はぁ、それで?」

 

 若干味、若手の部分が強調されていたのはこの際スルーしよう。というかツッコめない。怖くて。

 

「だからな、そのせいでなにかと面倒ごとが私に押し付けられてしまうんだよ……」

 

「それは……その……すいません」

 

 たぶんその面倒ごとには俺も含まれているんだろうと思い謝ったのだが。

 

「ん? あぁ、君は違うぞ? 傍目から問題ありありだったからな、つい手を出してしまっただけだ」

 

 それはそれでどうなんだろうか?

 

「まぁ、結局、なにが言いたいかというと、ぶっちゃけ、私に仕事を押し付けすぎだ」

 

「ぶっちゃけすぎでしょ……」

 

 いや、別にこの職員室に平塚先生以外はいないからいいんだけどさ。俺の隣に一色がいるのはわかってるんだろうか?たぶん今、好感度メーターなるものがあったとしたならば、物凄い音をたてながら好感度が下がってるような気がする。

 

「だから、タバコでも吸わないとやってられん」

 

 問題の根っこが深すぎるな。つまりだ、平塚先生はストレス発散のためにタバコを吸っていると、そういうことなのだろう。

 あれ?ちょっと待て、いつのまに、平塚先生の生活改善を考えてるんだ?

 

「……せんぱい。結局、私はなんのためにここにいるんですか?」

 

 完全に蚊帳の外においてけぼりにされていた一色が、そうぼそっと呟く。

 やばっ、完全に忘れてた。

 

「お、おう…、すまんすまん。一色に、平塚先生を紹介しとこうと思ってな」

 

「なんだ、私を茶化しに来たわけじゃなかったのか」

 

「平塚先生にそんなことするわけないじゃないですか……」

 

 普通に考えて後が怖すぎる。

 

「えっと……、なんで平塚先生を私に?」

 

「この人には戦車道の練習を見てもらうからな。それなら早めに知っといた方が後々いろいろめんどくさくない。それに……」

 

「それに?」

 

「もしなんかあったら平塚先生を頼れ。さっきなんだかんだあって信用できんと思うが、たぶんこの人がこの学校で一番頼りになるはずだ」

 

「……まるで、私になにかある前提で話をするんです」

 

「いや、別にそういうつもりでいったんじゃないんだがな。お前はこっちに来たばっかだし、頼れる人が一人か二人ぐらいはいた方がいいだろ」

 

「……まぁ、確かに、平塚先生はいい人っぽそうですけど」

 

「いい人かぁ、そうなんだよなぁ。友達からも"静ちゃんって、なんかいい人止まりだよねぇ"って言われたんだよなー」

 

 一色の一言で、入ってはいけないスイッチが入ってしまったのか、平塚先生は遠い目をしながらそんなことを呟く。

 

「本当に大丈夫なんでしょうか……?不安なんですけど……」

 

 言うな、一色。俺もなんか不安になってきたから……。

 


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