間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。   作:@ぽちタマ@

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そして、試合は最終局面へと

 現在俺たちは西住たちを追いかけている状況にある。その途中に西住から無線が入った。

 とりあえずあちらも無事に作戦が成功したようだ。

 これでなんとか相手を勝負という土俵へ引きずり込めたと言える。

 ここまでしてやっとこさ土俵に引きずり込めただけ、むしろ本番はここから先だ。

 

 

 ===

 

 

 西住流現当主、西住 しほは複雑な表情で試合を見ていた。

 自身の娘二人がこの戦車道全国大会で戦っている、そのことに関してはなんら不安は抱いていない。しほが気になっているのは娘たちではなくむしろ――、

 

「また眉間にシワがよっているわよ。そんなんじゃ常夫さんから怖がられると思うのだけど」

 

 しほが座っている観覧席にはまわりに人がほとんどいない。

 彼女から発せられているオーラのせいか、本人の険しい顔のせいかは定かではないが。

 そんな近寄りがたいしほに話しかける人物が現れる。島田流現当主の島田 千代だ。

 

「……なにしにきたの? あなたが高校の大会に顔を出すだなんて珍しいこともあるものね」

 

「理由ならわかってるんじゃない?」

 

「なんの―――」

 

「八幡くん」

 

「……ああ、そういうことね」

 

 納得したしほはそれだけを言ってまた試合が映し出されているディスプレイへと視線を移す。

 話題を振った千代は、勝手に納得して話題をぶつ切りに終わらせた親友を睨む。

 

「……なにか?」

 

「なにか? じゃないわよ。ホントに昔から変わらないわね。その仏頂面いい加減にどうにかしたら?」

 

「どうでもいい話をしに来たのなら帰りなさい。今日は大事な試合なのよ」

 

 そう、大事な試合だ。できれば最後まできちんと見届けないといけない。

 

「それはどっちにとってのかしら? まほちゃん? それとも……」

 

 千代が最後まで言い切る前にしほは言う。

 

「愚問だわ……、西住流にとってよ」

 

「……ホントにそういうところは変わらないわね。愚問ついでに聞くのだけど、なぜ婿養子にしようと思ったの?」

 

「…………答える義理はないわ」

 

「……そう、あなたならそう答えるわね」

 

 千代はその返答には特に気にせず会話を続ける。

 

「今回の試合に限っては私はまほちゃんを応援させてもらうわ」

 

 だって、と千代は続ける。

 

「八幡くん、負けたらうちの大学に来るようになってるから。まぁ、言いたいことはそれだけよ」

 

 彼女なりの宣戦布告なのだろう。そういって千代は去っていった。

 そんな千代を一瞥もせず、しほは考え込む。先程言っていた千代の言葉を聞いて少しばかり驚くべき内容が含まれていたからだ。

 驚いたのは千代の言葉にではない、八幡自身の行動にである。

 

「―――自ら退路を断ったと、そういうわけ」

 

 そしてしほは再び視線を戻し、ディスプレイを見つめる。

 しほにはこの試合で何かが起きるという確信があった。

 

「……あなたの戦車道、確かめさせてもらうわ」

 

 ただ静かに、しほはそう呟いた。

 

 

 ====

 

 

「みぽりん。ハチ、どうだったって?」

 

「うん、大丈夫みたい。作戦成功して今こっちに向かってるって」

 

 私がそういうとみんな安堵したのがわかる。作戦の内容もわかってなかったし、当然と言えば当然なのかな。

 

「おお! さすが八幡殿! ……けど、結局作戦てなんだったんですか?」

 

「落とし穴、らしいよ」

 

「……へ? 落とし穴ですか?」

 

「うん、落とし穴」

 

 八幡くんの作戦は落とし穴だった。これは私も聞いたときはビックリしちゃった。

 

「なんと言ったらいいのでしょうか……実に八幡さんらしい、というか。そもそも、いつの間にそんなものを? わたくしたちは今日この場所に来たはずですよね?」

 

 華さんの言うとおり、八幡くんは私たちと一緒にここの会場にきているから落とし穴なんて用意している暇はなかったはずなんだけど……。

 

「そこは答えてくれなかったの」

 

「そうなんですか」

 

「むむっ! そこはかとなく怪しい感じがするっ!!」

 

「それはただの言いがかりでは?」

 

「しかし、落とし穴、落とし穴ですか……これっていうほど簡単じゃないですよね?」

 

「え? そうなの? だって落とすだけでしょ?」

 

「その落とすだけが難しいんですよ。しかも相手は黒森峰、どんな手段を使ったんでしょう? 気になります」

 

「そこは試合が終わってから八幡くんに聞くしかないんじゃないかな?」

 

「それもそうですね。して西住殿、このあとはどのように?」

 

「八幡くんたちが合流次第、この川を渡って市街地に向かうことになるかな」

 

 

 ーーー

 

 ーー

 

 ー

 

 ほどなくして八幡くんたちのボコ&レオポン小隊が合流。

 川を渡るために上流にポルシェティーガーから重い順に並んでいって最後に一番軽いアヒルさんが並んで配置完了が完了する。そして私たちは川を渡りだした。

 お姉ちゃんたちとはだいぶ引き離せていると思う。ここにいない会長さんたちが出来る限りギリギリまで妨害するって言ってたけど大丈夫かな? あまり無茶はしなければいいけど。

 今のところここまでは順調。このまま上手く市街地に行ければ……そう思っていた矢先に沙織さんの慌てた声が聞こえてくる。

 

『みぽりん! ウサギさんチームが!』

 

 沙織さんに言われて慌ててウサギさんチームを見ると、戦車がグラグラと明らかに危ない感じに揺れていた。もしかしてエンスト!?

 

『隊長たちは早くいってください!』

 

『後から追いかけます!』

 

 たぶん、黒森峰に追いつかれちゃうから、そう考えての発言なんだろうけど、このままウサギさんチームを置いて先に行っていいの? たぶん、勝つという意味でならウサギさんチームは置いていくのが正しいのかもしれない。早めに市街地に向かって出来るだけ撃退するための態勢を整える。……けど―――、

 

「あぶない!」

 

「このままじゃ横転しちゃう!」

 

「もたもたしていると黒森峰が来るぞ」

 

「でも、ウサギさんチームが流されでもしたら……」

 

 みんなの声に不安が混じりだす。考えてる時間はない。判断が遅くなればなるほど状況は悪化する。

 私がやるべきこと……勝つためにやるべきこと……そして、私がやりたいこと……。私の……戦車道。

 

 あの日の試合から今日までいろいろなことがあった。とくに大洗での出来事は色濃いものがたくさんだ。

 いろいろ考えた結果、私の中で答えが明確になる。なら、あとは行動するだけだよね。

 

『八幡くん』

 

『なんだ?』

 

『ごめん。ちょっと寄り道しちゃうかも』

 

『……そうか。ま、別にいいんじゃないか?』

 

『え? いいの?』

 

 正直に言えば少しは反対されるかもと思ってた。だって、今日の試合で一番勝ちに拘っているのは八幡くんだと思うし。

 そう思ってたら、八幡くんから予想外の言葉が飛んできた。

 

『ワイヤーで戦車固定して引っ張るんだろ? もうこっちは準備できてるから』

 

 私がどうするか悩んでいる間に八幡くんは準備を終えたみたい。……もしかして私がそういう風に行動するってわかってて先回りしててくれたのかな? そんなに私ってわかりやすいかな……なんかちょっと恥ずかしくなってくる。

 

「みぽりん?」

 

「あ、ごめん。なんでもないよ」

 

 改めて思う、私の戦車道。

 

『今からウサギさんチームをワイヤーで固定するのですこし待っててください。固定が終わり次第戦車を発進させますのでそれまで待機を』

 

 黒森峰にいるときは考えたこともなかった。ううん、考えることもしなかったのかな? 西住流としての戦車道をやることが私の戦車道だと思っていたから。

 でも、黒森峰から離れて、大洗に来て、みんなと出会って、戦車道が楽しいって初めて思えて、いろいろなことが本当にあって。

 ここまでこれたのだってみんながいてくれたから、私だけじゃ絶対にこれなかった。

 だから―――、

 

 ―――最後まであきらめないで、みんなと一緒に戦って、みんなで勝つ……それが私の戦車道だ。

 

 

 ====

 

 

「せんぱい、まだですか?」

 

「はやくはやく!」

 

「黒森峰に追いつかれちゃいますよ!」

 

「お前らな……さっきまでぴぃぴぃ泣いてたくせに……」

 

 いやまぁ、丸山のやつだけは平常運転だったけども。あいつ、メンタルが一人だけ逞しすぎる。

 

「な、泣いてませんよ!」

 

「せんぱい、デリカシーなさすぎです! セクハラです!」

 

 ちょっ、百歩譲ってデリカシーないのは認めるとしてもセクハラは絶対に違うだろ。助けに来た先輩にその仕打ちは酷すぎない?

 

 

 ====

 

 

 ウサギチームのエンジントラブルが何とか直り、川を越えることに成功。俺たちはそのまま市街地へと向かっていた。その途中で会長さんたちも合流、大洗の全勢力が終結した形となった。

 もちろんのごとく、市街地へ向かう際にも相手への嫌がらせ……もとい妨害工作は怠らない。まぁ、なにしたかって言うと橋を壊した。うん、壊した。木端微塵のミジンコちゃんである。

 橋は市街地へと向かう際の最短ルートなので、これで黒森峰は遠回りしないといけなくなるはずだ。

 ちなみにどうやって壊したかというと、ポルシェティーガーのエンジンを吹かすことにより橋に負荷を掛けたのだ。いい感じにボロそうだったのもあり、綺麗に橋はこわれましたとさ。

 そんなこんなで俺たちは黒森峰より先に市街地へと着くことができた。

 けど、さすがというべきかなんというか、まほさんはこうなることを想定していたのだろう。市街地に最強の戦士が……いや、戦車がいたのである。

 その戦車の名前は「マウス」、弱そうな名前とは裏腹にその戦車は相当に厳つい。

 まず分類が重戦車の更に上、超重戦車のカテゴリーに分類される。重戦車でもあれなのに超がついているのである。もはやそれだけでどれだけやばいかわかる。重戦車よりカッチカチの防御力、重戦車よりも高い火力、もはやそこにいるだけで圧倒的な威圧感を放つそいつに俺たちは出会ってしまったのだ。

 一両だけちょろちょろしていたⅢ号を追いかけたのたが運の尽き、そこにはでっかい親玉がいましたとさ。

 マウスに遭遇した直後にこちらの戦車がやられた。白旗があがったのがカモチームとカバチーム、もはや瞬殺だった。

 ……まじ勘弁してくれない? あまりにもえげつなさすぎて引きつった笑いしかでないんだが。

 そいつ単体であればまだ現状マシだったのかもしれない。マウス自体に弱点がないわけではないのだ。装甲は相当にぶ厚いが、俺たちの戦車でも側面や背面をきちんと撃ち抜けば撃破できるし、なによりスピードは遅い。普通だったら数で勝っているこちらが有利なんだが、ネックなのがⅢ号である。あいつの機動力と火力でマウスを死守されているせいで上手く攻め込むことができないでいた。

 ……いや、訂正しよう。Ⅲ号は死んだ。マウスの後ろで余裕ぶっこきながら蛇行運転していたのがいけなかったのだろう。俺たちがマウスに向かって攻撃したながれ弾に直撃、そのまま大破した。馬鹿で良かった。これなら勝機があるぞ。

 

『西住!』

 

『八幡くん!』

 

 俺と西住の無線が同時に鳴る。西住の判断が早いようで助かるぜ。

 

『早いとこ片づけるぞ』

 

『うん、あんまりもたもたもたできない。お姉ちゃんが来ちゃう』

 

 本当にそれだ。マウスを残したまま黒森峰のやつらが来てしまえば蹂躙が始まってしまう。選択肢を選んでる余裕はないな。多少なり無茶はしないといけない。

 俺は西住に作戦の概要を教え、そしてカメチームへと無線を繋げる。

 

『会長』

 

『なに? 比企谷ちゃん』

 

『死ぬ覚悟、できますか?』

 

『なっ!? どういうことだ比企谷!!』

 

『それってあのマウスを倒すことに必要なのかな?』

 

『必要です』

 

『死ぬ覚悟ってのは、文字通りの意味?』

 

『死ぬってのは言い過ぎかもですけど、軽くちょっとしたトラウマレベルにはなるかもです』

 

『わーお、それはまたスリル満タンだねぇ~。……うん、いいよ。比企谷ちゃんを信じてやってあげる』

 

『……うっす』

 

『それで? 私たちはなにをすればいいの?』

 

『実は―――』

 

 簡略に作戦の内容を伝える。

 

『それは本当に必要なのか!? 日頃の恨みをぶつけようとしてないよな!?』

 

『河嶋~、比企谷ちゃんが必要っていうんなら必要なんだよ。覚悟決めな~』

 

『うっ……わ、わかりました……。いいか、比企谷!私たちがここまでするんだから絶対に倒せよ! いいな!?』

 

『骨は拾うんで安心してください』

 

『そんな心配はしとらんわ!』

 

 俺なりに緊張をほぐそうとしての発言だったのだが、河嶋さんにはお気に召さなかったようだ。大丈夫ですよ。言われなくても倒しますよ、絶対に。

 

 

 ====

 

 

「なんて無謀な作戦なんだ……」

 

「やるしかなよ、桃ちゃん!」

 

「燃えるね~!」

 

 もはや特攻とでも言わんばかりにヘッツァーがマウスへと突撃する。そしてそのままメキメキバリバリと嫌な音を立てながらその車体をマウスの下へと滑り込ませていった。

 その結果、マウスの履帯は宙に浮き、超重戦車はその場で動きを止まる。

 そしてすかさずM3リーとポルシェティーガーが脇からマウスを攻撃、マウスの砲塔がそちらを向いた瞬間に八九式が加速する。

 

「さあ、行くよ!」

 

「「「はいっ!!」」」

 

 ヘッツァーを踏み台に八九式がそのままマウスへと乗り、そして器用にその上で旋回を行いマウスの砲塔を固定する。これで事実上マウスは動けず砲塔も動かせないただの木偶の坊と化した。

 

『よしっブロック完了しました!』

 

『了解しました。頑張って何とか踏みとどまってください』

 

 マウスの装甲は厚い。だからその装甲を貫通させるにはただ撃つだけでは砲弾は意図もたやすく跳ね返されてしまう。装甲の弱い部分をある一定の角度の一直線の攻撃でしかその装甲を貫けない。だからこそ、マウスの足を無理やりとめ、抵抗できないよう砲台を固定した。

 

「おい軽戦車! そこをどけっ!」

 

「嫌です。それに八九式は軽戦車じゃないですし」

 

「中戦車だし」

 

「このっ! 振り落としてやるっ!!」

 

 上ではマウスの砲塔VS八九式、下ではマウスの履帯VSヘッツァーというなんとも言えない絵面となっている。

 しかも上が頑張れば頑張るほどに下にお鉢が終わってくる。ヘッツァーの車内がメキメキバリバリとさっさよりもさらに大きい音が響き渡る。

 

「なにをやってるんだーー!?」

 

「車内ってコーティング守られてるんじゃ……」

 

「マウスは例外なのかも」

 

 例外もなにも、特殊コーティングは戦車の砲弾に対してであってこんなことを想定して作られているわけではないので、必然的に今の会長たちはミンチ製造機にミンチされる直前のお肉状態である。八幡が言うように、下手するとトラウマレベルの物である。

 いろんな意味で時間はかけられない。

 

『西住!』

 

『うん!』

 

 Ⅳ号とポルシェティーガーがマウスを捉える。狙うは……。

 

「もう駄目だあぁーー!! もう持ちこたえられない!!」

 

「根性で押せ!」

 

「はい!」

 

「気持ちはわかるけど意味ないですから!」

 

 上と下で大騒ぎである。けどそれもすぐに収まるだろう。

 その直後、エンジン部のスリットに二つの砲弾があたり白旗があがる。こうして超重戦車マウスは沈んだのだった。

 

 

 ====

 

 

 さすがにというか、あれだけ無茶をしたヘッツァーはほどなくして走行不能となり白旗があがった。

 ヘッツァーから出てきた会長さんたちはなんともやりきった顔をしていたが、まだ終わってないんですがそれは……。まぁ、なにかしら小言を言われるかと思ったが、そういうことはなく代わりに託されてしまった。

 今更言われなくてもわかってはいたが、あとはもうやるだけしかない。ここまでこれたが、これからが本当の本番だ。

 

『こちらは六両、相手はまだ十二両ですが、フラッグ車は一両です。向こうの狙いはフラッグ車である私たちアンコウチームです。みなさんは相手の戦力をできるだけ分散してください!アンコウは敵フラッグ車と一対一の機会を伺います。レオポン・ボコチームの協力が不可欠です』

 

『あいよ』

 

『前方はもちろんですが、後続のヤークトティーガーや特にエレファントの火力にも十分に注意してください』

 

 西住が次々に他のやつらに役割を与えていく。

 

『比企谷くん、私たちはどうすればいいのかしら?』

 

『し、指示をお願いします』

 

 雪ノ下と猫田が俺に指示を仰いでくる。

 

『さっき西住が言ったことが全てだ。アンコウがフラッグ車との一対一にするために俺たちができるだけ相手の戦力を引き付ける、もしくは撃破しないといけない』

 

『それができないからあなたに聞いているのよ。現状、私たちの技量じゃただ単にやられるのが関の山よ』

 

 たしかに、経験の浅いネコとアリクイじゃどうやっても黒森峰に太刀打ちできないか。

 俺は改めて現状を振り返る。まほさんはフラッグ車である西住たちのⅣ号を追いかけるだろう。そっちにつきっきりになり、全体の指揮はできなくなるはずだ。副隊長であるイッミーは今は穴のなか。なら……。

 

『西住』

 

『どうしたの?』

 

『作戦変更だ。倒せる敵は倒せるうちに倒す。今から全体の指揮は俺にまかせてくれ。そっちはフラッグ車だけに集中してくれればいい』

 

『……、できるだけお姉ちゃんを引き付けたらいいの?』

 

 西住は俺がなにをするか理解したらしい。

 

『ああ、頼めるか』

 

『わかった。けど、あまり無茶はしないでね?』

 

『それは相手次第だな』

 

 西住の無線を切り、今度は全体に無線を繋げる。そして俺たちが今からどう動くかの指示を出す。

 俺が指示したのは、西住の与えた役割に少しだけやることを増やすだけの簡単な作業だ。俺の負担がシャレにならないぐらいにやばくなるけど、そこはまぁ、必要経費だと思おう。

 

「ナカジマさん、あとはこの戦車任せますね」

 

「オッケー、まかせといて」

 

「じゃあ、このチームも解散ですね」

 

 なぜだか俺がレオポンチームに加わったらボコまでついてきてボコ&レオポンチームになったのだ。西住よ、どんだけボコ好きなんだよ……。いや、わかってはいるんだけどもさ。

 

「解散理由はなんにする?」

 

 なんかよくわからないことをナカジマさんは言ってくる。なので俺も深くは考えずによくわからない答えを返す。

 

「方向性の違いってことにしときましょうか」

 

 言って思ったが、バンドかな?

 

「そっか、方向性の違いかぁ。それなら仕方ないね。あ、あと比企谷、私たちの戦車に乗ってくれてありがとね。お陰で修理の方に専念できたよ」

 

 なんかクスクスとわらわれながら俺はポルシェティーガーを降りた。そしてそのまま俺が乗るべき戦車と向かう。

 

「雪ノ下、由比ヶ浜、選手交代だ。いい感じに今の役職に慣れたところ悪いが、雪ノ下は砲手、由比ヶ浜は通信手に変わってくれ」

 

「あっちはもういいの、ヒッキー」

 

「まぁ、大丈夫だろ」

 

「それで? さっきの無線はどういう意味なのかしら? あなたに全員の位置情報と敵情報を逐一連絡させるのにはなにか意味があるの?」

 

「黒森峰の戦車を全滅させる」

 

 俺の一言でセンチュリオン内の空気が変わる。俺がどれだけ無茶を言っているのかがわかってるからだろう。

 

「すまん、全滅ってのは言い過ぎた。なるべく相手の戦力を減らす。できれば半数以上。不安要素は排除しておきたい」

 

 なるべくあの二人の勝負に水をさされないようにしないと。

 

「……それでも、なかなかの無茶をあなたは言うわね」

 

「そこまで無茶って話でもないぞ」

 

 俺は雪ノ下たちに自分の考えを教える。

 

「ふむ。たしかに、今までの動きが指揮官による統率されたものだったとして、この市街地においてはそれは発揮されないと。いや、でも……」

 

 雪ノ下は顎に手をあて、なにやらぶつぶつ言っている。自分のなかでちゃんとした答えにしようとしているようだ。すこし時間がかかりそうだし、確認作業を先にやっておこう。

 

「由比ヶ浜、砲弾は?」

 

「え、うん。ヒッキーの言うとおりに決められた数しか使ってないよ」

 

「そうか。戸塚、疲れてないか?」

 

「大丈夫だよ、八幡!」

 

 戸塚が俺に元気アピールするように控えめにガッツポーズをしてくる。その姿に逆に俺が元気をもらってしまった。……とつかわいい。うむ、現状大丈夫そうだな。

 

「わざと、わざとなんですか? そうなんですよね? ね? ね?」

 

「うるさいぞ、一色」

 

「なんで私だけそんなにぞんざいな扱いなんですか!? おかしいです! そしょうも辞さないです!」

 

「そんなに元気ならなにも問題ないだろ。大人しくしてろ」

 

 そもそもお前は経験者なんだからわざわざ聞く必要とかナッシングだろうに。

 

「二つ、質問があるわ」

 

「なんだ?」

 

 思考の海から帰ってきた雪ノ下が俺に質問をしてくる。

 

「ひとつめは位置の把握の仕方について、もうひとつはすべての情報をあなたが処理するつもりかどうか」

 

 ふむ、なかなかにいい質問だ。

 

「ひとつめの質問は、さっき各チームにこの市街地を大雑把に分類した地図を渡してきた」

 

 俺は横線をアルファベット表示、縦線を数字で表している地図を雪ノ下に渡す。

 

「これなら場所もわかりやすいし、短い単語で伝えられる」

 

「なるほど」

 

「あと、もう一個の質問の答えならイエスだ」

 

「本気? 西住さんたちの戦車を含めれば全部で六両よ? それを全て同時にだなんて……」

 

「雪ノ下、考え方を変えろ。チェスや将棋で考えればそこまでおかしくはないはずだ」

 

「市街地を盤上に置き換えて戦車を駒に、たしかにそう言われれば簡単そうに聞こえるわね。逆に言うと聞こえるだけなのだけど」

 

 バレたか。

 

「比企谷くん、なにもそこまでする必要はないでしょ? 当初の作戦通り、相手を撹乱して西住さんたちの一対一に持ち込めばいいのだから、無茶をする必要はないわ」

 

「俺がやりたいんだよ」

 

「どうしてそこまで……いえ、私からはこれ以上はなにも言わないわ。隊長である西住さんがいいと言っている時点でこの話は終わっているもの」

 

 雪ノ下は渋々といった感じで了承する。雪ノ下の言う通り、ここまでする必要はない。西住とまほさんが目的地についてしまえばあとは俺たちは時間を稼ぐだけ、倒す必要はない。

 だけどこれは俺のラストチャンスだ。自分の現在の実力でどこまでできるのかが知りるための、自分の今までの努力した結果がわかるための。

 その相手がまほさんの指揮下を離れた黒森峰の生徒だとしても実力はかなりのものだ。相手に不足はない。むしろ十分すぎるぐらいにある。

 

「……この試合が最後だからな」

 

「え? ヒッキー何か言った?」

 

 やばっ、いつの間にか口を滑らせていた。幸いに近くにいた由比ヶ浜に聞かれることはなかったようだが、危ない危ない。なに口走ってんだか。

 

「や、なにもいってないぞ」

 

 そんなやり取りのあと、どうやら相手がお出ましになったようだ。澤からの無線が入る。

 

『黒森峰、あと三分で到着します!』

 

 それが俺たちの最終決戦の始まりを告げる合図だった。

 


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