間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。 作:@ぽちタマ@
さて、ここ大洗学園の戦車道が始まりだしたのだが、そもそも俺たちには足りていないものがある。技術や知識も確かに大切だが、それ以前の問題だ。答えはいたってシンプル。足りないもの……そう、戦車だ。
当たり前の話だが、戦車道をやるのに戦車がないのは致命的すぎる。今現在ここにあるのは錆びた戦車が一両だけ。マジどうすんだこれ?
「こんなボロボロでなんとかなるの?」
「……たぶん」
「男と戦車は新しい方がいいと思うよ?」
いや、その考えは極論すぎるだろ、武部……。
「それを言うなら女房と畳では?」
「同じようなもんじゃない? それにさ……一両しかないじゃん、戦車」
前者はともかく後者はあいつにしてはまともな意見だ。現状として戦車が足りていない。いや本当に。
「えっと、この人数なら……」
「全部で五両必要です」
「んじゃあ、みんなで戦車探そっか」
げっ、ここから四両も探さないといけないのかよ……。
「探すって……」
「どういうことですか?」
「我が校においては何年も前に戦車道が廃止になっている。だが当時使われていた戦車があるはずだ。いや必ずある。明後日、戦車道の教官がお見えになるそれまでに四両見つけておくこと」
しかも時間制限までついてる。これはいよいよ面倒だ。おうちに帰っていいですか?
「して、いったいどこに?」
「いやー、それがわかんないから探すの」
「なんにも手がかりないんですか?」
「ない!」
なんで自信満々なんだよ……。てか手掛かりなしとかコレなんて無理ゲー?
「では捜索開始!」
会長の掛け声と共に、全員ぱらぱらと動き始める。
「聞いてたのとなんか話が違う……、戦車道やってればモテるんじゃ……」
そんな中、武部の恨めしそうな声が聞こえてくる。
この現状を見てまだあきらめてなかったのかコイツ。ある意味メンタルが強いのかもしれん。いや、現実を見ていないだけか……。
そんな武部を見て会長が声をかける。
「明日、カッコいい教官が来るよ?」
「ホントですか!?」
「ホントホント、紹介するから~」
「~っ!いってきまーす!」
先程までの落ち込み具合もどこ吹く風、武部のやつは勢いよく走っていった。
おいおい、いくらなんでも単純すぎるだろ。会長は一言も男がくるとは言ってはいないのだから教官が男じゃない可能性は考えないのか。
「……詐欺じゃないんですか?」
「なんのことを言ってるのかな、比企谷ちゃん?」
「わかってるでしょうに……」
「そんなことより比企谷ちゃんもそろそろ戦車探しに行かないとねー。それで、誰と一緒に行くの?」
「いや、誰とも探しにはいきませんよ。てか誰も俺とは行きたがらないでしょ」
「それはどうかな~」
なんでこの人こんなにニヤニヤしてんの? もしかして顔になにかついんてんのか?
そう思い顔を触っていたら……。
「ひ、比企谷くん、ちょっといいかな?」
「ん?どうした西住。お前たちもさっさと戦車探しに行かないと会長に何言われるかわからんぞ」
「う、うん、そのことなんだけど、良かったら私たちと一緒に戦車を探しに行かないかな?」
これはあれかな? 昨日のことで文句があるから大人しくついてこいや的な。
「……俺がいたら邪魔になるだろ」
さっきめっちゃあの二人に睨まれた身としてはできるなら近づくのは嫌なんだが。
「ううん、二人にはもう話してるから大丈夫だよ」
まじか。そこまでして俺を誘うということは本気なんだな、西住のやつ。
「……わかった。ついていく」
====
そして俺たちは学校裏の山林にいる。別にここで俺が埋められるというかそういう話ではなく。
武部の、「裏の山林に行ってみようよ、なんとかを隠すには林の中って言うしね♪」という発言のもと、俺たちはここにいる。
その途中で仲間が増えた。
名前は秋山 優花里といって、倉庫を出発してすぐ某RPGのように、秋山は仲間になりたがっているどうしますか? というコマンドが見えそうなほどこちらを見ており、見かねた西住が秋山を仲間にした。
そして山林を歩いている途中、五十鈴が「花の匂いに混じって、ほんのりと鉄と油の匂いが…」と言い出し、そちらのほうへ向かっている。
「華道やってるとそんなに敏感になるの!?」
「いえ、わたくしだけかもしれませんけど……」
西住に誘われたあと、俺は西住たちの後ろを少し離れて付いていっている。
途中西住が何かを言いたそうにこちらを見てくるのだが、それ以上なにもしてこないので俺も待ちの姿勢でいるしかない。だって女子に、ねえ俺になんか話あるんだろ? 的なこと言うとか無理だから、自意識過剰なやつと思われるわ。
「それではパンツァー、フォー!」
「パンツのアホっ!?」
秋山の掛け声に食い気味に食らいつく武部。アホはお前だ。
さきほど秋山が言ったパンツァーフォーとは戦車前進という意味。西住が武部にそのことを教えている。
そんなやりとりがあり先に進んでいくと本当に戦車があった。ちなみに車種は38⒯。
……まじか、五十鈴のやつ凄すぎるだろ。
「なんかさっきのより小っちゃい……傷だらけでポツポツしてるし」
「そ、そんなことないです!」
その言葉で秋山のなにかに火が付いたのか、38⒯のことをこれでもかというくらいに説明する。
そして自分の暴走に気づいたのか、力説した後固まってしまった。
「今、生き生きしてたよ」
「……すいません……」
申し訳なさそうに謝る秋山。
秋山の戦車好きがここまでだとはな。好きならもっと堂々とすればいいと思う。男の俺と違って秋山は女子なのだから。
「別に謝る必要はないだろ」
「え?」
その言葉が意外だったのだろう、秋山がこちらを見ている。
「戦車が好きなんだろ秋山。人と少し好きなものが違うからって気にする必要ないだろ、別に迷惑かけてるわけじゃないんだし」
そう、だから俺は言わせていただきたい。
「だから俺がプリキュアが好きなのもおかしいことではないのである。誰にも迷惑をかけていないのだから!」
「いや、その発言がおかしいから比企谷。それとなんでプリキュア……」
プリキュアを馬鹿にするんじゃない、あれは子供向けに見えてなかなかに奥が深いんだぞ。
そして気づけばいつの間にか全員に引かれていた。
おかしい、なんでこんなことになったのか。あ、俺のせいですね。
「あ、あのぅ…」
どこかに俺と一緒にプリキュアを熱く語ってくれる女子はいないものか。もしくはライダーでも可。
「あ、あのっ!」
ふと気づくと秋山の顔が目の前にあり、さっきからの呼びかけが俺に対してだったのだと気づく。
普段から話しかけられないもんだから、自分に話しかけられてると思ってなかったわ。
「……なんだ?」
「お名前を教えてもらってもいいですか?」
名前? そういや俺は西住達から離れていたから自己紹介してなかったな。俺の方は聞き耳を立ててたから秋山の名前は知ってたけど。
「比企谷 八幡だ」
「では、比企谷殿とお呼びしますね」
「お、おう……」
呼ばれ慣れない呼び方だったのでついキョドってしまった。
そしてちょうど西住も覚悟が決まったのか
「比企谷くん、ちょっといいかな?」
「……いいぞ」
さて、とうとうこの時が来たか。
「……ミホ、私たち少しそこらへん探索してくるね」
「え? う、うん」
「あと比企谷、私たちがいないからってミホに変なことしないでよね?」
「大丈夫だ安心しろ、そんな気はない」
武部が五十鈴と秋山を一緒に連れていったので、俺と西住が必然的に残る。
たぶん気を使ってくれたのだろう。と思ったのだが視線を感じるな。まあいいか、聞かれて困る話じゃないし。
「比企谷くん、昨日のことなんだけど…」
「……ああ」
「その……ありがとう、嬉しかった」
「へ?」
まさかの一言が飛んできた。たぶんこの時の俺は相当マヌケな顔をしていたと思う。
「なんで礼を言われてるんだ俺? 文句を言われて仕方ないと思うんだが」
「だって昨日、私を励ましてくれたんだよね?」
「………」
励ましたというのは西住の誤解だ。俺はただ、西住がどういう行動にでるか試したと言った方が近い。ボコ好きの西住が、あの言葉でどう動くかを知りたかっただけだ。
そして俺の沈黙を肯定と捉えたのか、西住は話を続ける。
「比企谷くんが言ってくれた言葉、あれを聞いたら少しだけ前に進んでみようって思えたの」
「だから、戦車道に入ったのか?」
「うん」
「それでも俺に礼を言うのはおかしいだろ。文句を言うのが普通じゃないか?」
「え、そうかな?比企谷くん、そういうこと考えなしで言う人に見えないし」
西住には俺がどう見えてるんだろうか?少し気になるな。そんなに話をしてないと思うんだが。
「それに……」
「それに?」
「ボコが好きな人に悪い人はいないから」
西住は力強くそう言ってきた。
……まさかそうきたか。その答えは卑怯だわ西住。それを言われたら俺は何も言い返せない。
「……そうか。理由がボコなら仕方ないな」
「うん、仕方ないよね」
そんなことを言い俺たちは二人で笑いあう。
「ところで武部たちはいつまでそうしているつもりなんだ?」
「ゔぇっ!?」
「あらあら、気づかれてしまいましたね」
「あわわわっ!」
すると木の陰から三人が出てきた。やっぱりいたか。
それとその悲鳴は女子としてどうなんだ武部よ。いろいろ致命的すぎるだろ……。
「い、いつから気づいてたの、比企谷!」
「最初から」
探索に行ったかと思ったらすぐに気配がしたからな。
「そうなんだ……って、今はそんなことはどうでもいいの!」
どうでもいいって、聞いてきたのはそっちなんだが……。
「比企谷、ほら!」
武部が俺に手を差し伸べてくる。
なに? 慰謝料でも払えとでもいっているのだろうか? 生憎だが今は持ち合わせがない、あきらめてもらおう。
「すまん。今、金持ってないです」
「カツアゲじゃないから!」
あれ、違うの? じゃあなんだろうか、さっぱりわからん。
「仲直りの握手に決まってるでしょ、普通に考えてっ!」
ああ、なるほど。てか今時仲直りの握手て。
「友達がいなかったんでな。喧嘩したことないし、必然的に仲直りもしたことがないんだよ」
小町とはしょっちゅう喧嘩するが、たいてい次の日には忘れるしな俺たち。
「理由が悲しすぎるよ、比企谷……」
「ほっとけ、俺は別に友達がいなくても平気だからいいんだよ」
「じゃあ改めて仲直りの握手を」
「普通に嫌なんだが、恥ずかしいし」
女子と触れ合うとかここ何年もしてないから普通に無理だから。もちろん小町は妹だから女子とはカウントしない。
「てかなんで仲直りなんだよ、元から仲良くなかっただろ俺ら」
「だってミホが全然気にしてないのに、ずっと気にしてる私が馬鹿みたいじゃん」
「いやそれは……」
違うだろと言いたかったのだが、武部はこれ以上は聞く耳を持たないようで。
「じゃあ、同じ戦車道仲間として連絡先交換しようよ。これから必要になると思うしそれならいいでしょ、比企谷」
まあそれくらいならいいか。
微妙にハードルが上がってる気もしなくはないがこれ以上は気にしないようにしよう、武部がうるさいし。
「じゃあ、ほれ、俺そういうことやったことないから頼むわ」
「……簡単に携帯渡しすぎじゃない?」
「別にみられて困るものもないしな」
俺の携帯には家族と親戚ぐらいしか連絡先入ってない。そう考えると初めてになるのか、学校のやつの連絡先が入るのは。
「では、わたくしとも交換しましょうか」
「比企谷殿、わたしも大丈夫ですか?」
「えっと、それじゃ私も……」
「もうみんなの入れようよ。ミホと華のは私が入れておくから秋山さんの教えてくれる?」
「わかりました!」
気づけばあれよあれよ言う間に俺の携帯に連絡先が一気に増える。
これあれだな、小町のやつに連絡先絶対に見られないようにしよう。絶対に面倒くさいことにしかならん気がする。
====
こうして俺たちの戦車探しは終わり次の日。
なんと戦車が揃ってた。しかもちゃんと五両。これには少し驚いてしまった。
俺たち以外のやつらもちゃんと戦車を見つけていたらしく、自動車部がここまで運んでくれたらしい。
しかも話を聞いたところ、戦車があった場所が崖下や池の中などにもあったようで。そんなもんどうやってみつけたんだよ、凄すぎるだろ。戦車道に集まったやつらハイスペックすぎないか?来るところ絶対に間違えてると思うんだが……。
「今から戦車とチーム分けを行う。Ⅳ号戦車が西住たちAチーム、八九式がバレーボール部のBチーム、Ⅲ突がカエサル率いるCチーム、M3が一年生メンバーのDチーム、そして38⒯が我々生徒会のEチームだ」
河嶋さんによる戦車の割り振りが発表された。
「明日はいよいよ教官がお見えになる。粗相がないようきれいにするんだぞ」
「どんな人かな~」
武部のやつまだあきらめてないのかよ、隣にいる秋山が若干引いちゃってるよ。
しかしこれは清掃が大変そうだ。なんたって二十年分の錆と汚れだしな。
チーム分けされたやつらは自分たちが乗る戦車に集まっていた。そこでふと疑問が生まれる。
「会長、俺はどうしたらいいんですか?」
どこの戦車にも配属されていないんだが……。
「比企谷ちゃんは全体のサポートをよろしく。必要なものだったりの補充や力仕事を手伝ってあげてね」
なるほどそういう仕事ね。……ぶっちゃけ一番きつくないかこれ?
「うわっ!ベタベタする~」
「これはやりがいがありそうですね」
「これじゃあ中も……」
そう言いながら西住はスムーズな動作でⅣ号に登っていく。
なんとなくそれを目で追ってたのがいけなかった。
その、見えてしまったのだ。なにがどうとかこの際言わなくてもわかるだろ?
ここは西住に注意しとこう。今後同じことが起きられても正直困る。
「西住、戦車に登るときは注意してほしいんだが……」
「え、大丈夫だよ? 私慣れてるから」
ダメだ、西住のやつわかってない。
どう西住に説明しようかと悩んでいたら。
「比企谷! ミホのスカートの中見たでしょ!」
武部のやつが爆弾を投げやがった。
ダメだったよパトラッシュ、人がせっかく遠まわしで言っていたのに台無しだ。
そしてとうの西住は顔が真っ赤である。そんな目で見ないでくれ西住、こっちもいっぱいいっぱいなんだよ。
「比企谷殿!」
「比企谷さん?」
怖い怖い怖い、女性陣の見下すような視線が飛んでくる。
生憎俺はそういう性癖を持ち合わせていないので決してこれはご褒美ではない。あと五十鈴さん顔がめっちゃ怖いですまじ勘弁してください。
というかこのままだと変態のレッテルを貼られかねない。そうしたら学校生活なんて送れなくなってしまう。なんとかしないと。
「ち、違う、断じて見てない。危なそうだったから西住に注意しただけだ」
「……比企谷くん、ホント?」
もちろん嘘なのだが、ここで本当のことを言ってもマジで誰も得しないまである。特に俺が。
「本当だ。だから俺が下にいるときはなるべく気を付けてくれると助かる」
「う、うん、そうだよね。女子だけじゃないんだから気を付けないと……」
ふう、なんとか切り抜けたな。てか武部のやつまだこっちのこと睨んでるよ。そんなに信用ないのか俺は。
いやまあ実際には見てしまったんだが、俺は悪くなかったと思いたい。
そして西住が再び車内を確認している。
「う、匂いが酷い……。これ車内の水抜きをして錆びとりもしないと、古い塗装も剥がしてグリスアップもしなきゃ」
どうやらある程度やることが決まったらしい。
「それでは全員汚れても大丈夫なよう、各自着替えるように」
そうして戦車の洗車が始まった。いや別に今のはそういう意図はなかったのでスルーしてくれ。
ひとつ気になったのが副会長の小山さんだ。なんで水着なんだ? いや確かに合理的ではあるんだろうけど、正直に言って目のやり場に困る。あの人自分がしている格好に自覚はあるのだろうか? ボッチにあれは破壊力が高すぎるよ。
そんなことを考えてたのがいけなかったのか。
「比企谷?」
「な、なんでしょうか?」
思わず敬語になってしまう。だってなんか怖いんだもん武部のやつ。
「わかってるとは思うけど、さっきの今で変なこと考えてないよね?」
すんごいジト目である。
そしてさっきのことは武部の中でまだ終わっていなかったらしい。
「全力でお前らのサポートするだけなのにそんなこと考えるわけないだろ」
「ふーん、それならいいんだけど……」
っべー、まじやっべーわ。完全にロックオンされてるわこれ。もう下手なことをすると消されるかもしれん俺。社会的に。
その後の俺は時々聞こえる女子たちの声をシャットアウトして全力で清掃のサポートを行った。
途中、女子のノリで水の掛け合いをはじめ。そのたびに透けるだのなんだの言うのだからたちが悪い。そのたびに武部から視線が飛んできた。
だが、俺はなんとか無事に乗り越えこの日の戦車の洗車が終わった。もう自分でツッコむ気力もない。
「よし、いいだろう。後の整備は自動車部の部員に今晩中にやらせる」
え、もうかなりいい時間なんだが……。ブラック以上にブラックだよ。あまりにも黒すぎてブラックホールかと思ったわ。いやまじで。自動車部のやつらに黙とうを捧げよう。
そしてそのまま俺は帰ろうとすると、西住たちに呼び止められる。
「なんで一人で帰ろうとしてんの比企谷!」
「……いや俺、帰りはいつも一人なんだが」
「もう、そういうことじゃないでしょ!」
どういうことだよ……。
「比企谷くんもこれから一緒ににどう?」
どうやら西住達はこれからどこかにでかけるらしい。
「すまん。用事があるんだよ、俺」
いつもは暇なのだが、今日は小町と買い物にいく約束をしているので早く帰らねば。まぁ、暇でも適当に理由をつけてことわるけど。
「うそ、比企谷に用事……」
武部よ、その反応はなんだ。
「ということですまんが帰るわ」
「うん。じゃあまた明日ね、比企谷くん」
「……おう」
そして俺は家に帰宅し、小町と一緒に買い物に出かける。その出かけ先で西住たちと遭遇するとは思ってもいなかったけど。
ちなみに今どこにいるかというと、せんしゃ倶楽部という戦車の専門店である。
俺は小町が新しいパンツァージャケットが入荷したから見に行きたいといっていたので見に来たのだ。十中八九俺に買わせる気だよ、この妹。
そしてその小町はとはいうと、武部たちと仲良くしゃべっている。
あれだよね、ホント小町は俺と違ってコミュニケーション能力が高い。基本誰とでもすぐに仲良くなるし。それでいて一人でも大丈夫というハイブリット型ボッチなのだ、小町は。
そして店内をぐるりと武部たちが見まわし、
「なんか戦車ってみんな同じに見える」
「それ小町もわかります!」
なんてことを宣う。
いや、武部ともかく、あなたはわかっちゃダメでしょ。戦車道何年やってるんだよ小町、お兄ちゃんは悲しいよ。
「ち、違います! 全然ちがうんです! どの子もみんな個性というか特徴があって……動かす人によっても変わりますし!」
秋山がものすごく熱弁してるな。
「華道と同じなんですね」
「うんうん! 女の子だってみんなそれぞれのよさがあるしねー。目指せ、モテ道!」
おい、あそこに突っ込み役はいないのか? あまりにもカオス過ぎるだろ。隣にいる西住も苦笑いしちゃってるし。
そんなやり取りのあと、武部たちはここの店に置いてある戦車のシミュレーションに興じている。
「アクティブで楽しそうです」
「でも顔は怪我したくないなー」
「大丈夫です。試合では実弾も使いますけど、十分に安全に配慮されてますから」
まあ実際には実弾が人間に当たるとやばいので変な過信はしないほうがいい。あくまで戦車に対しての安全性だからな。
「それにしても意外だね。比企谷くんがこんなところに来るなんて」
「小町が戦車道やってるからな。それでちょくちょくここには来てるんだよ」
「……そうなんだ、仲いいんだね」
「そうか? 普通だと思うが」
「ううん、そんなことないよ。だって……」
西住がなにか言いかけた時にニュースが流れてきた。
『次は戦車道の話題です。高校生の大会で昨年MVPに選ばれて国際強化選手になった西住 まほ選手にインタビューしてみました』
そのニュースをみて、西住の顔が曇りだす。
それで先程西住が言おうとしたことがわかった。
『戦車道の勝利の秘訣とはなんですか?』
『あきらめないこと、そしてどんな状況でも逃げ出さないことです』
それでそのニュースは終わった。
逃げ出さない、ねぇ。俺から言わせてもらえれば逃げることが悪いという考えがそもそも間違っている。誰もかれも前に進んでいけるわけじゃないのだ。逃げたっていいだろ。大事なのはその後どうするかだ。
「そうだ! これからミホの家に遊びに行ってもいい?」
急にそんなことを武部が言いだす。
たぶん西住の微妙な感情の変化に気づいたんだろう。そういうことはできるのになんで彼氏いないんだろうな、コイツ。不思議。
「わたくしもお邪魔したいです」
「あ、うん!」
「あのー……」
「秋山さんもどうですか?」
「あ、ありがとうございます!」
「それじゃあみんなでご飯作ろうよ!」
あっちはあっちで話がまとまったようだ。
「おい小町、俺たちも帰って飯食おうぜ」
「え?」
おいおい小町さん、その反応はなに?
「今日家に帰ってもご飯ないよ、お兄ちゃん」
「は? まてまてどういうこと?」
「あれ? メール見てなかったの? 小町、今から戦車道の練習に行くから家には帰らないよ」
まじで? メールなんて来ていないと思うんだが……そう思って確認したら携帯の充電が切れていた。
あれだろうか、久しぶりに携帯としての機能を使ったからいつも以上に電池の消費が早かったのだろう。
「ごみいちゃん……」
小町から蔑みのまなざしが飛んできているよ。
あといくらなんでもごみいちゃんは酷いと思うんだが小町さんよ。
「……あれ? これはお兄ちゃんのお嫁さん候補を増やすチャンスなんじゃ……」
なんか小町が小声でブツブツつぶやいている。そしてとてもいい顔でこちらを見てから西住のほうに振り向き。
「あのーみほさん、ちょっといいですか?」
「どうしたの小町ちゃん?」
「実はですね、うちの兄が家に帰ってもご飯がないんですよ。なので兄も西住さんの家に連れていってもらえませんか?」
なんてことを言いだした。
小町さんよ、それはいくら西住でも了承しないだろ。と思っていたのだが。
「そういうことなら私は別にいいよ、小町ちゃん」
「えっ! ミホいいの!? だって男子だよ?」
「そうだけど、比企谷くんも困ってるみたいだし」
「そ、それはそうだけど……」
「まあ西住さんがそれでいいならいいんじゃないでしょうか」
まじかこの展開はまさか過ぎる。なに? 俺、女子の部屋にお呼ばれしちゃうの?
さすがにこれにはビックリしていたのだが、次の西住の発言で更に驚くことになる。
「比企谷くんに私の大事なもの見せたかったから、ちょうどよかったのかも」
西住がいい笑顔でほにゃっと笑う。
その笑顔でなにを勘違いしたのか、武部たちが騒ぎ出す。
「ミホと比企谷ってそういう関係だったの!?」
「わたくしたち、今日は帰ったほうがいいのでしょうか……?」
「お、お邪魔虫ですかね、私たち!?」
大事なもので各々なにを想像したかは知らんが、少し落ち着けお前ら。
「お兄ちゃん! 小町はワクワクが止まらないよ!」
「あ、あれ? みんなどうしたの、いきなり?」
そして当の本人はそのことにまったく気づいていない。あと小町さん、なんでワクワクしてるんですかねぇ。
「西住、ちゃんと主語を入れろ」
「え?」
しかしその発言を違う意味で正しく理解した武部が。
「比企谷、それセクハラだから! ミホに何言わせようとしてんの!」
「お前らが誤解してるんだよ! それと人を変態でも見るような目でみるんじゃない!」
そして説明を始めて数分後。
「ええー!クマのぬいぐるみー!?」
「う、うんそうだけど……なにかおかしかったかな?」
おかしいことだらけだったな。見事に勘違いのオンパレードである。今日はいかに主語が大切なのか思い知らされたわ。
「そうなんだ、私はてっきり……」
「てっきり?」
「ううん、なんでもない! それじゃあミホの家に行くとしよっか!」
そう言ってごまかす武部にツッコむのはやめといてやろう。だって藪蛇になるしな。
それと小町なんだがとても残念そうにしていた「お姉ちゃん候補が……」なんとかつぶやいていたが。おいおいどんだけ期待してたんだ妹よ。