間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。   作:@ぽちタマ@

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戦車に乗ろうと、彼はボッチである

 さて、俺は戦車道の全国大会に出ることになったのだが、そうなると足りないのが戦車だ。

 現在この学校にあるのが全部で五両。俺が戦車に乗るとなると必然的にその五両のうちのどれかに乗らないといけなくなる。そんなものボッチである俺には耐えられない。というか無理。だからやることはひとつ。

 

「あの、自動車部の人たちを使わせてもらっても大丈夫ですか?」

 

「なにをするの、比企谷ちゃん?」

 

「また新しく戦車を整備してもらおうと思ってですね」

 

 その発言に三人は怪訝そうな顔をする。

 

「でも比企谷くん、現状新しく整備するような戦車はここにはないよ?」

 

 小山さんの言うことももっともである。そう、ここにはないのだ。

 

「それなら大丈夫ですよ。家に使われていない戦車があるんで、それを使わせてもらおうかと」

 

「その戦車は使っても大丈夫なの比企谷ちゃん?」

 

「問題はないです。なんせ親父が趣味で買って何年も放置されているやつですから」

 

 本当のことを言うと、親父が小町のために買ってきた戦車なのだが、小町は別段戦車が好きなわけではなかったのでそのまま使われずに家の倉庫に放置されている。哀れ親父。

 

「そういうことなら自動車部には話を通しておくから、直接依頼に行ったらどう?」

 

 実は前々から自動車部の人たちが気になってたし、ちょうどいいな。ついでに差し入れでも持っていくか。

 

「そうします」

 

「じゃあ頑張ってね~、比企谷ちゃん」

 

「比企谷、自動車部は三年ばかりだからくれぐれも失礼のないようにな」

 

「頑張ってね、比企谷くん」

 

 なんか必要以上に心配されている気がするな。俺ってそんな危なそうに見えるのだろうか?

 

 

 ====

 

 

 そして自動車部への依頼を終えた俺は、そのまま家には帰らずデパートに来ている。

 今日自動車部へ行ったときに持っていった差し入れがMAXコーヒーだったのだが、その分で家に貯蓄していたMAXコーヒーが切れてしまった。だからこの学園艦に唯一MAXコーヒーが売ってあるこのデパートに来ているのだ。

 最初この学園艦に来たときはやばかった。自動販売機にはMAXコーヒーが置いておらず、店という店を捜し歩きやっとの思いで見つけたのがここだった。

 見つけたときはあまりの嬉しさに涙を流したほど。そしてその時にいた店員に不審な目で見られていたのがいい思い出だ。いや、黒歴史か。あまりにも不審だったから警備員を呼ばれたりもした。

 そこまでやばかったのだろうか? 俺はただMAXコーヒーに再び巡り合えたことに感動していただけなんだが……。

 いや、よく考えると目の前でMAXコーヒー傍らに目の腐った男が泣いていたらそれはもう異常事態だな。うん。

 なんて昔のことのように思い返していたら、見知った声が聞こえてくる。

 

「てっきり戦車道ショップに行くのかと……」

 

「だってもうちょっと乗り心地よくしたいじゃん。乗ってるとお尻が痛くなっちゃうんだもん」

 

「えっ、クッションひくの!?」

 

「ダメなの?」

 

「ダメ、じゃないけど……戦車にクッション持ち込んだ選手見たことないから」

 

 なんだろうか、武部は戦車を車かなんかと勘違いしているんじゃないか? いや、たしかに車ではあるのだが。戦車は戦うために作られているのだから居住性を求めること自体間違っているだろ。

 

「あっ、比企谷じゃん」

 

 そんなことを考えていたら見つかってしまった。

 しまったな、聞こえなかったことにしてそのまま立ち去ろう。

 

「比企谷! なんで帰ろうとしてるの!」

 

「人違いです」

 

「比企谷を見間違えるなんてありえないから!」

 

 なんだろな、普通だったらこのセリフに嬉しいのかもしれないが、俺の場合あれだからね、こんな目が腐っているやつなんてほかにいないと言われてるんだけなんだよなぁ。

 

「はあ……。なんだ、武部?」

 

「うわっ、露骨に嫌そうな顔……。同じ戦車道の仲間なんだから声かけたっていいでしょ!」

 

「なら用事はすんだな、じゃあ」

 

「だからなんで帰ろうとしてんの比企谷!」

 

「……別にいいだろ」

 

「よくないから。よし決めた! 比企谷も私たちの買い物に付き合ってよ」

 

「比企谷くん、良かったら一緒にどう?」

 

「一緒にいきましょう、比企谷殿!」

 

「大勢の方が楽しいですよ?」

 

 俺は武部たちの買い物に付き合わされることになった。

 俺はいいともなんともいっていないのだが、どうやらこの世界に俺の意見は存在しないらしい。

 

「というか、なんかメンバーが増えてないか?」

 

「あっ、そういえば比企谷に紹介してなかったね。こっちが私の幼なじみの……」

 

「今朝ぶりだな」

 

 そうか、どこかで見たと思ったら朝のあいつか。

 

「え、麻子と比企谷って知り合いだったの!?」

 

「ああ、朝にちょっとな」

 

「比企谷くんが朝遅れたのってそのせいだったの?」

 

「私が登校していたら声を掛けられて、そのまま自転車で二人乗りして学校まで来た……」

 

 その発言だと俺がナンパしたみたいに聴こえるからやめようか。俺は小町に頼まれたから仕方なくやっただけだぞ。

 

「ずるい! 麻子!」

 

 ほら、武部のやつがさっそく食いついてきた。

 

「私より先にそんな恋人同士がするようなことして!」

 

 ああ、武部は武部だな。というか二人乗りは別に恋人同士がやるもんでもないだろ。

 

「いや別にそういうのじゃないから、いちいち気にするなよ武部」

 

「落ち着いてくださいな沙織さん」

 

「う~、なんか悔しい!」

 

 なんでこいつはこんなに怒ってんの?

 そんなに先を越されたのが嫌なのか、意外と負けず嫌いなんだろうか武部のやつ。

 

「とりあえず二人とも、自己紹介でもしましょうか」

 

 そういえばそうだったな。

 

「冷泉 麻子だ……」

 

「比企谷 八幡だ」

 

 そして自己紹介が終わる。

 

「短すぎるよ!」

 

「いや、別にこんなもんだろ普通に」

 

「もっとなんか話そうよ! こう、趣味とかさ!」

 

「お見合いでもしてるわけでもないんだから別にいいだろ」

 

「えー、そんなんじゃモテないよ比企谷」

 

「俺は別にモテたいとは思ってない」

 

「でも専業主夫目指してるならそれこそモテないとダメじゃん」

 

 ぐっ、武部のくせに正論……だと!?

 

「い、いいんだよ、俺には最終手段があるから」

 

「最終手段?」

 

「小町に養ってもらう」

 

「比企谷、さすがにそれは……」

 

「比企谷さん……」

 

「比企谷殿……」

 

 あ、あれ? 俺そんなおかしなこと言ったか? 小町が働いて俺が家で家事をやる。我ながら完璧な計画だと思うのだが。

 

「その場合は小町ちゃんは結婚できるの?」

 

「は? 小町が結婚とか早すぎるから、俺が認めない限り小町をほかの男になんてやらんぞ!」

 

「ただのシスコンじゃん比企谷……」

 

 シスコンで何が悪い。小町はそこらへんの男どもにやるほど安くはない。

 

「……もういいや、買い物続けようか」

 

 もはや俺がいる意味なんてないんじゃね? 武部たちはいろいろな雑貨を見て、あーだとこうだと言っている。

 

「あっ、これ可愛くない?」

 

「これも可愛いです」

 

 武部と五十鈴がクッションをかごに入れていく。可愛い可愛い言ってるけどそれ尻にひくんだよね? それってどうなん?

 

「あとさー、土足禁止にしない? 汚れちゃうじゃない」

 

「アホか、お前は」

 

「土禁はやりすぎだ」

 

 ふむ、冷泉のやつはなかなか見どころがある。その調子で武部をどうにかしてくれ。

 

「えー、じゃあ色とか塗り替えちゃダメ?」

 

「ダメです! 戦車はあの迷彩色がいいんですから!」

 

「でしたら芳香剤とか置きません?」

 

「鏡とか欲しいよね、携帯の充電とか出来ないのかな?」

 

 きっと戦車道の家元とかが見たらそっとうするだろうな、これ。西住は割りと平気そうだけど。

 

「そういえば、比企谷くんは何を買いに来たの?」

 

「うん? ああ、これだよ」

 

 そう言って俺はMAXコーヒーを西住に見せる。

 

「それってコーヒーなの?」

 

「どっちかというと甘いから西住でも飲めると思うぞ」

 

 なんとなくだが西住はブラックとか飲めなそうな感じがする。勝手なイメージだが。

 

「そうなんだ。私コーヒーとか苦手で」

 

「一本やるから試しに飲んでみたらいい」

 

 このMAXコーヒー、なかなか気に入るやつがおらず、小町にも勧めたが甘すぎてダメらしい。意外と自動車部の人たちには好評で、今後お世話になるだろうしちょくちょく差し入れでもするか。

 

「本当? ありがとう比企谷くん」

 

 そういって西住は自分の財布から小銭を出そうとしている。

 

「お金はいらないぞ西住」

 

「え、でも……」

 

「西住も人にボコを勧めるとしたら金は取らないだろ?」

 

「……そういうことになるのかな?」

 

「まあ、どうしても俺から受け取りたくないなら諦めるけどな」

 

「むぅ、その言い方はずるいよ比企谷くん」

 

 そう言いつつ西住はMAXコーヒーを受け取ってくれた。怒ってるつもりなんだろうが、ちょっとふくれっ面が可愛かったのは言わないどこう。

 

「なんか比企谷、ミホには甘くない?」

 

「そうか?」

 

「そうだよ! だってミホだけにそれ渡してるじゃん!」

 

「いや、別にこれは西住に聞かれたからついでに勧めただけなんだが」

 

「じゃあ私にも頂戴!」

 

「ほれっ」

 

 MAXコーヒーを武部に渡す。ついでだから他のやつらにも渡しとくか。

 

「秋山たちもいるか、MAXコーヒー」

 

「我々もいいんですか、比企谷殿?」

 

「ありがたく受け取らせてもらいます」

 

「……貰えるなら貰う」

 

 全員にMAXコーヒーを配る。さて、何人生き残るだろうか?

 そして武部はさっそくMAXコーヒーを飲みだした。

 

「なにこれ、甘すぎない?」

 

「それがMAXコーヒーたる所以だからな、しょうがない」

 

「……ちょっと私には無理かも」

 

「別に無理して飲む必要はないぞ」

 

 そう言って俺は右手を武部に差し出す。

 

「なに比企谷、その手は」

 

「いや、飲まないなら貰おうかと思って」

 

 その途端、武部の顔が真っ赤になる。

 

「比企谷はそんなに私と間接キスがしたいの!?」

 

 そう言われて気づいた。いかんな、つい小町の時と同じ対応をしてしまった。さすがにこれは俺が悪い。

 

「すまん、そんなつもりで言ったつもりはなかったんだが、不快にしてしまったんなら謝るわ」

 

「べ、別に気にしてないから、そこまでしなくていいから!」

 

「青春ですねー」

 

「華! 変なこと言わないでよ!」

 

 五十鈴のやつが言ったが、今のやり取りにそんなものあったか? 俺が変なこと言って武部が怒ってるだけだろ。顔赤いし。

 

「なあ、西住、今のどこら辺が青春なんだ?」

 

「私も分からないかな……それに華さん、ちょっと感性が独特だから」

 

 そう言われるとなんとも言えなくなるな。というか西住よ、感性に関してはお前も人のことは言えないだろ。ボコを可愛いとか言ってるし。

 まあいいか、買うもの買ったし早く帰らんと。小町が帰ってくる前に飯作らないかんしな。

 

 

 ====

 

 

 そして次の日、俺は開いた口が塞がらなかった。なぜかって? 今から秋山が俺の心の叫びを代弁してくれているからそれを聞いてくれ。

 

「ああ、38tが! Ⅲ突が! M3や八九式がなにか別の物に~!! あんまりですよね、比企谷殿!!」

 

 俺に同意を求めてくる秋山。

 八九式はまだましな方だ。復活バレー部! と書かれているだけで、残りの三両がやばい。

 Ⅲ突が炎のように真っ赤に塗りたくられ旗までたっていて、M3がピンク、38tは金ぴかときている。もう迷彩色なんて知らないよばりに異色の戦車がそこには並んでいた。カラフルだなぁー。

 

「ふふっ、ふふふっ」

 

 すると西住は突然笑いだした。怒りがある一定を超えると人は笑い出すというらしいがまさか西住が? と思ったが、どうやら違うらしい。

 

「に、西住殿?」

 

 秋山が話しかけてもまだ西住は笑い続けている。なにがそんなにつぼったのだろうか?

 

「戦車をこんな風に使うなんて考えられないけど……なんか楽しいね。戦車で楽しいと思ったの初めて!」

 

 西住は西住流なんて気にせずにのびのび戦車を動かしたらいいのかもしれん。こんな状態の戦車の見て楽しいと感じるなら西住は型に嵌らずに物事を考えられるのだろう。それを戦車道に活かしたらどうなるのだろうか?

  少し気になるな。

 そして武部たちは、そんな西住を見て嬉しそうにしてる。戦車の話しが出るたびに苦しそうにしてたからな西住のやつ。だいぶいい方向に向かっているんだろう。

 

「比企谷はいる? 戦車持って来たんだけど」

 

「ん? ああ、はい。いますよ」

 

 そして自動車部の人が来た。

 一日というか、半日足らずで整備終わったのか。ホント腕が良すぎるだろ。

 

「ほら、約束のぶつだよ、比企谷」

 

 ホシノさんはそう言って戦車を俺の目の前で止める。

 

「わざわざこっち来なくても、呼んでくれたらそっちにいきましたよ?」

 

「いやまあ、こいつの走り具合も知りたかったし、気にしない気にしない」

 

「どんな感じですか?」

 

「そこはこっちの腕を信じて欲しいな、要望通り出来てるよ」

 

「今更あなたたちの腕を疑う奴なんていないでしょ」

 

 今までの実績でこいつらの腕を疑うようならいろんな意味で終わってる。

 

「嬉しいこと言ってくれるねー。まあ、戦車渡したし私は戻るよ」

 

 ホシノさんと入れ変わりに西住たちがこちらに来た。

 

「比企谷くん、この戦車は?」

 

「なんか今までの戦車よりすごく小さくない?」

 

「ああ、これはな……」

 

 俺が説明しようとしたら秋山のやつが。

 

「ひ、比企谷殿! こ、これはま、まさかあの戦車なのですか!?」

 

 おいおいどんだけ興奮しているんだこいつ、少しは落ち着け。

 

「ああ、その戦車だ」

 

「なんてことでしょうか! まさかこの戦車を見ることが出来ようとは、私は今猛烈に感激しています!」

 

「そんなにこの戦車は珍しいの? なんか小さくて弱そうだよ?」

 

「こいつは元々偵察用のやつを改良したやつだからな」

 

「比企谷殿の言う通りなんです! この戦車はモーリス・ファイアフライと言ってモーリス軽偵察車にモリンズ自動砲を装備した戦車なんですよ!」

 

 ホント秋山のやつは戦車に詳しい。俺は戦車よりも戦術の方ばかり勉強してたからな。

 

「そしてこの戦車の最大の特徴が何と言っても操縦手一人で運用可能なんですよ!」

 

「えっ! 一人で戦車を運転出来るの!?」

 

「それはすごいですね」

 

「そんな戦車があったんだ」

 

「私も見るのは初めてなんです!」

 

 武部たちの驚きもわかるこの戦車の存在を知った時俺も驚いた。なんて俺にピッタリの戦車があるのだろうかと。まさにボッチの為の戦車と言っても過言ではない。

 というか、親父はなんでこんな戦車を小町にプレゼントしようとしたのかがいまだに謎である。

 

「でもなんでこんな戦車を比企谷は用意したの?」

 

「ん? ああ、それは俺も戦車に乗ってお前らと一緒に戦うからだよ」

 

 武部の質問にそう答えると、五人ともこちらに詰め寄ってきた。

 

「比企谷くんも戦車道をやるってことなの?」

 

「比企谷殿が!?」

 

「でも比企谷男じゃん、大丈夫なの?」

 

「そこはどうなんでしょうか?」

 

「本人に直接聞けばいいだろ」

 

 冷泉のやつがそう言ったので答えるか。

 

「会長が言うには申請を出しとけば大丈夫らしい」

 

「そんなにあっさりしてるんだ」

 

 そこには俺も同意せざるを得ないな。まじで戦車道連盟のやつら細部まできちんと決めとけよ、おかげでこういうことになってしまったじゃないか。

 後ついでに言うと、会長の話じゃ戦車道連盟に男の参加を連絡したとき酷く驚かれたらしい。そりゃそうだろ、今の今になって戦車道に男が参加するなど夢にも思ってなかったんだろうな。

 

 

 ====

 

 

「一列縦隊ー!」

 

 河島さんの指示する声が聞こえてくる。

 

「一列横隊ー!」

 

 現在西住たちは走行訓練を行っている。足並みはまだバラバラで、編成を組むのに手間取っているな。これを出来るか出来ないかで戦況がガラッと変わってしまうので走行訓練は練習あるのみである。

 俺はというと現在自動車部が整備してくれた戦車に乗っている。この戦車は基本的な動きが偵察となることが多いので編成などの走行訓練を行う意味があまりなく、俺は一人寂しく練習しているのである。

 役割を全部一人で担うので、通信手、装填手、車長、操縦手、砲手を全て一人で行わないといけない。これが思った以上に難しい。特に操縦、装填、砲撃これらを同時にやるのに時間がかかり過ぎてしまっている。こんなに時間をかけていたら敵のいい的でしかない。

 だから俺は操縦、装填、砲撃の三つを重点に練習をしている。基本偵察と言っても撃てるときに撃てないと話にならないからな。

 そしてドン!ドン!と音がしているので、現在は射撃訓練をしているみたいだ。こちらも走行訓練同様練習あるのみなので西住たちも頑張っているのだろう。

 しかしあれだ、いつ戦車に乗っても大丈夫なよう体を鍛えたりしていたのだが無駄にならなくてよかったわ。俺はボッチで引きこもる性格だが運動神経は意外とそこまで悪くなく、乗れないと分かっていても戦車に乗るための体力作りはしていた。

 だがそれでも、一人兼任は予想以上に体力を使う、動作をもっとスムーズに行えないと実戦で話にならない。いつもの走り込みの距離を伸ばすか、体力はあったことに越したことはないし、重要な場面でへたってやられたくないしな。

 そして西住たちの訓練も終わり、現在倉庫前に集まっている。

 

「今日の訓練ご苦労であった!」

 

「「「お疲れ様でしたー」」」

 

 西住以外はみんな疲れている顔をしている。西住に至ってはほとんど疲れてないように見えるな、黒森峰のがよっぽどきついのだろう。家元だし家とかでもやっていたんだろう、小町もそうだし。

 

「えー、急ではあるが、今度の日曜日練習試合をやることになった」

 

 おおー、と女子たちからの喜びの声が上がってる。そんなに戦えるのが嬉しいのだろうか? 俺的には貴重な日曜日が潰される上に日曜日までずっと戦車の訓練なんだと思うと気が滅入る。

 

「相手は聖グロリアーナ女学院」

 

 河嶋さんの言葉に秋山はなにやら難しい顔をしている。

 そんな秋山に武部が話しかける。

 

「どうしたの?」

 

「聖グロリアーナ女学院は全国大会で準優勝したことがある強豪です……」

 

「準優勝!?」

 

 おいおいまじかよ、俺たちいきなりそんなところと練習試合やるのか。というかどうやってこの話をこぎ着けたのだろうか? そんな強豪がうちみたいな弱小とやったってメリットなんてないだろうに。

 

「日曜日に朝六時に学校に集合!」

 

 そんな死刑宣 告ともとれる言葉を河島さんは放った。

 なん…だと!?日曜のしかも朝六時とかプリキュアが見れないじゃないか! え? 録画できるだろうって? 俺は出来るだけリアルタイムで見たい派なんだよ、もちろん録画もするけどな。

 そしてもう一人、俺と一緒で絶望している奴がいた。

 

「……やめる」

 

「はい?」

 

「やっぱり戦車道やめる」

 

 冷泉のやつが突然そんなことを言いだした。武部は武部でやっぱりか、みたいな顔をしている。

 

「もうですか!?」

 

「麻子は朝が弱いんだよ……」

 

 どんだけ朝早くに起きたくないのだろうか? 俺も日曜日は早く起きるがそれ以外は小町に起こされるまで起きないけど、あそこまで酷くはないと思いたい。

 そして帰ろうとしている冷泉を西住たちが追いかける。

 

「ま、待ってください!」

 

「六時は無理だ!」

 

「モーニングコールさせていただきます!」

 

「家までお迎えに行かせてもらいますから」

 

「朝だぞ? 朝六時に……人間が起きれるか!?」

 

 いや起きられるから、こいつどんだけ筋金入りなんだよ。

 そしてそんな冷泉に秋山が非常な現実を突きつける。

 

「いえ、六時集合ですから起きるのは五時ぐらいじゃないと……」

 

 その言葉に冷泉のやつが倒れかけた、これはもう重症だな。

 

「人間には出来ることと出来ないことがある! 短い間だったが世話になった!」

 

 力強く冷泉はそう言い放った。言いたいことはわかるんだが、内容が内容だけになんともいえんなこれ。

 

「麻子がいなくなったら誰が運転するのよ! それにいいの?単位!!」

 

 その言葉にピタッと冷泉は立ち止まる。

 

「このままじゃ進級できないよ!? 私たちのこと先輩って呼ぶようになっちゃうから! 私のこと沙織先輩って言ってみ!!」

 

 ぷるぷる震えながら沙織先輩と言おうとしている。そんな冷泉を見て武部のやつがため息をつきこう言った。

 

「それにさ、ちゃんと卒業しないとおばあちゃん物凄く怒ると思うよ?」

 

「お、おばぁ!?」

 

 ふむ、あともうひと押しだな。しょうがない、あれを使うか。

 

「おい、冷泉」

 

「……なんだ比企谷?」

 

「お前確か俺に借りがあったよな?それ今支払ってくれ」

 

「どういうことだ?」

 

「まあ簡単な話、戦車道を続けろ」

 

「……わかった。だがひとつ条件がある」

 

「なんだ?」

 

「日曜日、お前が私の家まで迎えに来い」

 

「いや、面倒くさ―――」

 

「比企谷!」

 

「はあ、わかった。迎えに行けばいいんだろ?」

 

 これにて何とか決着は着いた。てかなんでわざわざ冷泉のやつ迎えを俺に指名したのだろうか?あれなの?まさかまた自転車の後ろに乗りたかったとかそういうわけじゃないだろうしな、わからんな。

 

 

 ====

 

 

「いいか、相手の聖グロリアーナ女学院は強固な装甲と連携力を活かした浸透強襲戦術を得意としている」

 

 今俺たちは生徒会室で河嶋さんの話を聞いている。

 俺たちと言ったが別に全員いるわけではなく、各戦車の代表と生徒会メンバーが集まっている。

 ちなみに生徒会と西住しか名前を知らない。だから今誰がいるのかさっぱりわかっていない。

 だってしょうがない、基本的にしゃべらないからな俺。

 

「とにかく相手の戦車は堅い、主力のマチルダⅡに対して我々の方は100メートル以内でないと通用しないと思え」

 

 100メートルか、長いようであって戦車にしたらそんな距離など一瞬だ。砲撃するからな。だが、至近距離で当てるとなるとデメリットの方がでかいな。こっちは近づかないといけないが、あっちがそうではないのだ。下手すると一発当てられるだけでもやばい、こちらの戦車の装甲はそれほど堅くないからな。

 

「そこで一両が囮になってこちらの有利となるキルゾーンに敵を引きずり込み、高低差を利用して残りがこれを叩く!」

 

 その説明にほとんどのやつらは頷いている。

 確かによくできた作戦だと思う。それは素人としては、と付け加えないといけないが。この作戦には穴がある。

 仕方ない、水を差すようになるが言うしかないな。このままだと俺たちは聖グロリアーナに勝てない。

 

「ちょっといいですか?」

 

「なんだ比企谷、私の作戦に文句があるのか?」

 

「文句というか、問題点があるんですよその作戦」

 

「なんだと!?」

 

「まあまあ河嶋落ち着いて。で、比企谷ちゃん、問題点って?」

 

「簡単な話ですよ、この作戦を聖グロリアーナに看破された場合キルゾーンでやられるのは俺たちのほうですよ?」

 

「そんなのやってみないとわからんだろうが!」

 

 やっぱり俺の言葉じゃ納得できないか。なら経験者に意見を聞くとしますか。

 

「なあ、西住お前はどう思う?」

 

「え、わ、私?」

 

「西住、お前も比企谷にガツンと言ってやれ!」

 

 河嶋さんには悪いがそれは起きませんよ。たぶんだが、西住も俺と同じ考えのはずだからな。

 

「えっと、聖グロリアーナ当然こちらが囮を仕掛けてくることは想定すると思います。裏をかかれ逆包囲される可能性があるので……」

 

「それは確かにねー」

 

 小山さんも納得したのかうんうん頷ている。

 つまりはそういうことだ。相手は仮にも全国大会で準優勝した実績があるのだ、こちらの考えなど読まれていて当然であり相手はそれを踏まえたうえで作戦を立てているはずだ。

 だが、河嶋さんは反論されたことが気に食わなかったのか。

 

「黙れ! 私の作戦に口を挿むな! そんなこと言うのならお前が隊長をやれ!!」

 

「え!? す、すみません……」 

 

「まあまあ。……でもまあ、隊長は西住ちゃんがいいかもね」

 

 西住が隊長か、それはありだな。というか実質的に隊長をやるなら西住以外に適任者がいない。黒森峰でも副隊長をやっていたのだ問題はないはずだ。黒森峰も西住流だけで実力の無いものを副隊長にはしないだろうし。

 

「ひ、比企谷くん」

 

「すまんな西住、俺も隊長はお前が適任だと思っている。まあ、その、なんだ…頑張れ」

 

「ということで隊長は西住ちゃんに決定ね」

 

 会長が拍手を始めて他のやつらも賛同するように拍手をしている。俺もそれにならって拍手をする。

 

「頑張ってよー、勝ったら素晴らしい商品をあげるから」

 

 なんか会長が素直に普通のものを配る気がしないんだが。

 小山さんも疑問に思ったのか。

 

「え、なんですか?」

 

 そして会長はとてもいい笑顔でこう言った。しかもアクション付きで。

 

「干し芋三日ぶ~ん!」

 

 それは単純にあなたが貰って嬉しいやつじゃないですか会長さん。

 

「はあ……」

 

 小山さんもため息ついちゃってるよ。

 

「あ、あの、もし負けたら?」

 

 それ聞いちゃうのね。俺はなんだか嫌な予感しかしなかったので怖くて聞けなかった。

 

「大納涼祭りであんこう踊りを踊って貰おうかな~」

 

 まじであのあんこう踊り? 冗談だろ?

 

 

 ====

 

 

「あんこう踊り!? あんなの踊っちゃったらお嫁に行けなくなるよ!」

 

 武部はこの世の終わりでも来たかのように絶望しその場に屈み込む。パンツ見えるから武部、俺がいること忘れてない?

 なんで武部がいるかというと、西住が会議の内容を話すために武部たちと集合したのだ。

 ついでになんで俺がいるかというと、会長のあの発言でみんながこの世の終わりみたいな顔をしていたので西住が一人で報告するのが怖かったらしい。

 

「絶対ネットにアップされて、全国の晒し者になってしまいます…」

 

 秋山、さすがにいくらなんでもそこまではしないだろう。しないよな?

 

「一生言われますよね……」

 

 五十鈴、一生というか下手すると末代までかもしれんぞお前の場合。

 

「そんなにあんまりな踊りなんだ……」

 

 西住よ、お前はまだここに来て日が浅いんだったな。

 というか俺があんこう踊りを踊った場合テロ行為とみなされて逮捕とかされないよな?大丈夫だよね?

 

「つか、勝とうよ!勝てばいいんでしょ!?」

 

 武部、それはとてつもなく負けフラグ臭がするからそれ以上言うんじゃない。取り返しのつかないことになるぞ。

 

「わかりました!私も負けたらあんこう踊りをやります!西住殿一人に辱めを受けさせません!!」

 

「わたくしもやります!」

 

「私も!ていうかみんなでやれば恥ずかしくないよ!」

 

「いや、恥ずかしいもんはみんなでやっても恥ずかしいだろ……」

 

「そこ口を挟まない! なんとか忘れようとしてるんだから!」

 

「へいへい」

 

「というか私は麻子が朝起きるかが心配だよ……」

 

「冷泉さんはなんで比企谷さんを指名したのでしょうか?」

 

「それは私も思ってた。比企谷、麻子になんか変なことしてないでしょうね?」

 

「なんでもかんでも俺の所為にするのはやめてくれない?」

 

「とりあえず日曜日は頼んだよ比企谷!」

 

 返事が聞こえなかったのかな? 少しは俺の話を聞いてくれよ……。

 

「まあ、遅れないようにはする」

 

「これでホントに大丈夫なのかなー?」

 

 日曜日までに時間はないがやれることをやるしかないか。

 

 


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