なぜなら冷房が壊れていて、18度にしても全然涼しくない。
強風にしてもぜ、全然風が出てこない。
そうなると部屋を涼しくするのは扇風機くらいなんですが、回し続けるとモーターが熱を持って温風が送られてくる。
毎年夏場はこんな感じで疲れます。
それではお楽しみください。
7月23日
オレは暗闇で眠れない。かといって周りが明るくても深い眠りにつくことはない。常に自分のテリトリーを警戒し、誰かが侵入した際には排除する。そうしなければ生きることさえ難しいところだったからだ。だから周りの気配を察知できるように神経を使ってきた。聞きなれた足跡なら誰の音か推測できるし、仮眠を取っていても殺気を持つ者の侵入は分かる。もちろん周りに多くの人間が居るとすればそれは難しい。だけど、オレが居る場所は二階堂の自室。屋敷の中で騒がしくする奴なんて居ない。
「……さすがにこれ以上の侵入を黙って見過ごすわけには行かないぜ?」
瞼へ触れようとするツキの手を掴む。普段であれば簡単に侵入され、イタズラされていたが。そろそろ、はっきりと主従関係を教えとく必要があるよな。
「むっ……まさか私が部屋に来るのを感づいているとは。」
手を掴まれているだけあってさすがに驚いているようだ。
「お前だけに狙いを絞れば難しくない。」
実を言うと狙っていても結構ギリギリだった。
「絞るって、私をそんな目で見ていたとは――」
掴んでいたツキの手を離す。
「言っておくがストーカーなんかと一緒にするなよ?」
「じゃあ自分の無実を証明するためにコレを瞼に塗ってください。」
ツキの手には緑色のチューブが握られていた。そのチューブにはわさびと書かれている。
「無実の証明ってなんだよ? どこからどう見ても逆ナンの伝道師にしか見えないだろ。」
「つか、そんなん塗ったら痛てぇだろうが。」
「そう? きっと鼻がツーンとするから肌の張りが良くなる、はず。」
そう言いながらわさびの封印を解除していく。
「だったらてめぇが塗れよ。」
肌の張りだったら女の方が気にかけるはずだ。
「私はまだ若いから年上の海斗に譲ります。」
「年上って言ってもまだ2歳くらいだぜ?」
そこでベストアンサーを思いついた。オレにしては出来すぎた案かもしれない。
「だったら麗華の胸に塗ろうぜ! 張りが良くなるなら、大きくなるかも知れないじゃないか。」
実際に胸がでかくなったサイズをジェスチャーする。
「だったら今すぐこの場で私が塗りましょう!」
躊躇いもなく自分の服に手をかける。
「悪かった、それだけは勘弁してくれっ!」
確かにツキも大きくは無いがまさか、気にしていたとは……。
「どうやら私の凄さを改めて認識できたようですな。」
「ああ、再認識してやるよ。んで、用もないのに来たのか? このヒマメイド。」
「いいえ、私はグータラニートと違って仕事の最中です。」
「ニートじゃないから。どうせオレを弄るのも仕事って言うんだろう?」
「日頃溜まったストレスを吐き出してるんです。仕事なんかじゃない。」
「……そんなことだろうと思ったさ。」
わさびを仕舞っているところを見るとちゃんとした用事があるみたいだ。
「それより海斗にお客様が来てます。」
「そう言うことは早く言えよ。で、誰だ?」
自慢じゃないがオレを訪ねて来る物好きはそんなに居ないはずだ。可能性が高いのはここに住み始めた龍あたりだろうな。
「新聞記者の射命丸文様と言う方です。」
「あ? どこにいんだよ。」
まさか、ツキからアイツの名前を聞くことになるなんてな。
「屋敷の玄関で御待ちして頂いてます。」
「亮はどうしてる?」
「中里様は特別に自室で食事する許可が出ているので恐らく部屋にいるかと。」
自室で食事か……なら、セーフってとこか。
「じゃあ射命丸の分も朝食を用意してくれ。」
「わかった。」
ツキは客人の食事を用意してもらいにオレの部屋を出ようとする。
「おい、もちろんオレのはある前提だよな?」
「さぁ。少なくとも時間に間に合わないと食べられない。」
ニヤリとした表情のまま食堂に向かう。
「まだその縛りは続くのかよ。」
ツキに続き部屋を出てオレは玄関へ向かう。
「にしても、紫と違って普通に来て平気なのか?」
スキマという力のお陰で融通を利かせているが見たところ射命丸にはそういった力は無さそうだ。オレが気付いていないだけかもしれないけど。
「でも見た目だけなら違和感は無いか……服装が個性的ってこと以外は。もちろん、羽根を出せばスゲー目立つけどな。」
玄関にいる射命丸を見ながら呟く。
「あ、お久しぶりです。海斗――」
ズビシ!
「って痛いじゃないですかっ。」
射命丸は殴られた頭を抑える。
「理由はあとだ。朝飯食ったか?」
「いいえ、食べてませんけど。」
ま、妖怪ならそこまで頻繁に食わなくてもいいのかもしれないけどな。
「なら丁度いい。これから朝食だからお前も食えよ。」
「それじゃあ是非!」
そのまま、歩いて食堂へと案内する。
「でも、なんで私を誘うんですか? 取材できればそれでいいんですけど。」
自分勝手な鴉天狗だ。
「決められた時間の食事を取らないと権力を持った悪魔にオレだけ飯を抜かれるんだよ。つか、まだ取材言ってるのか? もうやらないでいいだろ。」
取材がまだ続くほどネタがあるとは思えないんだが。
「いえいえ、海斗さんのすべてを暴くまで私は追いかけますよ。」
「お前、他人のプライベートな部分まで入ってくんなよ。」
「えっと、本を愛する方は寛大な方ばかりと聞いたことがあるんですが?」
「……ま、本を愛する奴はすべてにおいて寛大だから当たり前だ。」
そんな他愛も無い会話をしていると食堂につく。この屋敷の食事は使用人と雇い主が別々のところで飯を食べる。麗華がこの場にいたら厄介だったし、助かったな。
「うっす、尊。」
いつもどおりに軽く挨拶を交わす。
「ああ、おはよ……うっ! ……海斗、この女性は誰だ?」
珍しく普段は聞いてこない尊が訪ねてくる。
「妹だ。」
「それにしては全然似てないが。」
尊は射命丸とオレを交互に見る。
「親が違うんだよ。」
「そ、そうか。それはすまない。」
「父親も母親も私たちは違うので謝らなくていいですよ。」
「お気遣いすみませ……って他人ってことじゃないか!」
なぜかオレにツッコミを入れる。
「オレに妹なんか居るわけないだろ?」
「なら結局どういう関係なんだ?」
「お前が想像しているのと同じだ。」
「なっ、なんだって……まさか海斗に先を越されるなんて。宮川尊徳、一生の不覚だ。」
手に持っていたナイフとフォークをテーブルに落とす。
「朝っぱらからどんな想像してんだか。漫才はこの辺でやめて、食べるとするか。」
………。
……。
「ま、適当に座れよ。」
食事を終え、オレの部屋へ。
「はい。それにしてもこの屋敷の料理は絶品ですね!」
「そりゃ、金が余ってるからな。良いコックに食材や機材もある。美味いのが出来て当然って程にな。」
「なるほど、それほど有名な資産家のボディーガードをしてるんですね。」
射命丸はいつもとかわらずメモ帳に書き込んでいる。
「マジで取材が理由で来たのか?」
「はい、紫さんに頼んできました。見た目は人間とあまり変わらないので大丈夫だろうと。」
確か紫には亮に関して注意しといたはずなんだが。
「それに怪我の具合も確認しときたかったので。」
「別にそんな事、確認しなくてもいいだろ?」
「いえいえ、永琳さんに頼まれたことですから。」
永琳って確か、物分りの良い医者か。
「お前じゃわかんねぇだろうが。」
「そうですね、生活に支障は無かったと伝えておきます。」
それなら問題は無さそうだ。
「じゃ、用が終わったなら帰れ。」
右手で虫を払うように振るう。
「いえいえ、紫さんに街を案内したんですから私にも案内をしてください!」
「別に紫を案内したわけじゃない、別の用事があったんだ。」
「そんな事実は些細な事です。さぁ、案内してください。」
片手を目の前に差し出す。
「ここじゃ、勝手に行動するのは許可が必要で面倒なんだよ。」
「この世界の現金をもらったので数冊ほど本を提供します。」
オレは差し出されている手を掴む。
「契約はこれで完了した、確認を取ってくるからじっとしてろよ?」
「わ、わかりました。」
すぐさま麗華に確認を取ってこよう。それにこの屋敷にいるより外にいたほうが亮に見られずに済むしな。
「麗華、今いいか?」
ドアをノックしてから、ほんの数秒で扉が開いた。
「なに……? もしかしてまた外出したいの?」
「外出したい訳じゃねぇよ。ただ、友人に街の案内を頼まれてだ。だから今日も外出の許可をくれ。」
「却下。」
麗華はすぐに扉を閉める。
「おい! 閉めるなって。」
扉が閉まる直前に足を間に挟む。
「まったく、そんな嘘が二回も通じると思ってるの?」
「昨日は男が居たし、嘘じゃなかっただろ。」
「じゃあ今日は女性かしら?」
「お前はエスパーか。」
まったくどうして女ってのは変なときに限って勘が働くのかね。
「今はオレの部屋にいる。実物を見ないと信用できないってか?」
「……本来なら信用はできないわね。」
どうやらオレに友人がいることを信じてもらえないらしい。
「でも、今日は出掛ける予定もないしいいわ。」
「サンキューな。」
「ただし、ペットショップに行って商品を受け取ってきなさい。」
ペットショップっていうとチーターたちのエサを買った店だ。
「また肉を受け取ってくればいいのか?」
「ええ、そのとおりよ。」
昨日より遅くならないだろうし、別にいいだろう。
「はい、カード。前みたいに勝手に使うんじゃないわよ?」
扉を開けなおして、カードを手渡される。
「使うわけないだろうが。そんなにオレは自分勝手じゃねぇよ。」
「言うだけってのも勝手よね?」
「かもな、じゃあ行ってくるわ。」
許可を取ったオレは射命丸が待っている自室へ戻る。
「まさか明日も誰かを案内するってことにならねぇよな?」
二度あることは三度ある、なんて言葉があるしな。
「……想像するのはやめておこう。」
そんな事を考えながら自室の扉を開ける。
「どうでしたか?」
「ああ、許可をもらってきた。それでちゃんと本を買ってくれるんだろうな。」
「この射命丸文。取材に関してのことだけはあまり嘘は吐きませんよ。」
「信憑性に不安が残る回答だな。」
そういいながらオレは外出の準備を始める。
「少し着替えるけどいいか?」
「これはサービスショットのチャンスですね!」
カメラを構えてアングル調整している。
「セクハラで訴えるぞ。」
「そういいながらもポージングする海斗さんは流石ですね。」
どこかの写真集に載ってても可笑しくないポージングをしてみる。
「そのままでもイケメンだが、オレは向上心の塊だから当然だ。」
「……それにしても微妙なポージングばかりですね。」
「感性の違いだな。」
そのまま数分の間、写真を取り終えて部屋を出る。
「じゃあ行くか。」
ガチャ。
「……おはよう、海斗くん。」
「……よぉ。」
部屋を出るオレたちと反対に部屋に入ろうとする亮に出会う。ひょっとしてタイミングを合わせてきたか?
「おや、そちらの女性は?」
亮は当然のように声をかけてくる。
「ド田舎の村で記者ごっこをやっている、射命丸だ。」
嘘を吐けばボロが出るからな、ここは適当に本当のことを言っといたほうがいいだろう。
「はじめまして、射命丸文と申します。」
「……はじめまして、僕は中里亮。ボディーガードをしております。」
射命丸と亮は互いに簡単な挨拶を交わす。さきほどの様子とは違い、射命丸はベラベラしゃべらずに黙っている。
「じゃあ、オレたちは用があるから行くぜ。」
「用ね……うん、それじゃまた後で。」
亮と別れてから何も言葉を交わさず二階堂の屋敷を出る。そして少し歩いて繁華街まで来た。
「お前、紫から亮のこと聞いたな? そんで、確認しに来たってとこだろ。」
明らかに亮との挨拶は違和感があった。普段の射命丸にしては大人しすぎるし、相手に探りも入れない。相手がどんな行動をするのか、どんな人物像なのか。
そう、観察するような対応だった。
「そのとおりです。もちろん取材も本当ですけど。」
「それでどうだった?」
亮に関して感づいてる人間は少ない。そうなれば妖怪の意見でも多少アイツの狙いが分かるかもしれない。
「注意する人物とまではまだ言えませんが、少々不気味さはありました。」
「だろうな、アイツもお前が観察してる事に気付いていただろうし。ヘマはしないだろう。」
「それと普通の方ではなく、海斗さん寄りな雰囲気でしたね。」
さすがに隠し通せるとは思ってなかったが、伊達に妖怪じゃないようだ。
「どこか行きたい場所はあるのか?」
「そうですね、デパートとか近代的な建物を見てみたいです。」
「ま、当然か。」
幻想郷の道具は古いものが多かった。オレが知ってる場所以外にはそれなりの物があるかもしれないが、人里はそうじゃない。記者ともなれば最新技術なんかに興味を持つのも当たり前か。
「じゃあ、デパートに――」
その時、ある人物を見かけてしまった……本当なら関わる必要なんてないが、昨日あんな話をされたら気になるよな。
「悪い、先に行っててくれ。そこのデカイ建物だからよ。」
デパートを指差し、オレは駅前に居る人物の元へ近寄る。
………。
……。
「まったく、案内してくれるんじゃないんですか。」
海斗さんが離れていったので、私は周りを観察する。
「殆どの人間は人里に居る方と何ら変わりありませんね。」
弾幕勝負や妖怪が存在していない以上当たり前なんでしょうが。
「それでも、ところどころに場違いな人間が居るようです。」
警戒心が強い方、不自然な行動をしている方。漂う雰囲気からこの世界では異質なんだと感じることが出来る。
「……どちらかと言うと海斗さんに似ている雰囲気ですね。」
その方たちと海斗さんを比べると次元が違いますが、大本の雰囲気は似ている。そう考えながら私はデパートの入り口へ向かう。
………。
……。
「だめだ、ありゃ。日本人嫌いなんて治りそうもねぇ……嫌よ嫌よも好きのうちって言葉があるけど、アイツの嫌はそれに当てはまりそうも無いな。」
デパートの入り口で射命丸を探す。
「彼女さんでしたか?」
横から射命丸が声をかけてきた。
「ちげぇよ、あんな奴が彼女だったら命がいくつあっても足りん。そうだな、まずはカメラから見るとするか。」
さっきも使ってたし、妥当だろう。
「カメラを買ってくれるなんて、さすがですね!」
「買うなんて言ってねぇ、欲しいなら自分で買え。それに自慢じゃないが金は持ってない。ま、盗んだ品物でいいならやってやらん事も無いぞ。」
カードを使えば買えないこともないが、本を数冊買っただけで怒られたしな。購入履歴が残るならどうしようもない。
「盗みはダメですよ。出世したら買ってください。」
「残念だが、出世なんてする予定は無い。」
「予定が無いんじゃなくて、出来ないんですよね?」
……どいつもこいつもオレの事を馬鹿にしやがる。
「てめぇ、覚えとけよ。出世したらギャフンと言わせてやるからな。」
「はい、覚えておきます。出世したらカメラを買ってもらうと!」
射命丸は満面の笑みでメモ帳に書き込む。
「出世しても、しなくても買わんぞ。」
「なら手作りなんかどうよ?」
後ろから聞きなれた男の声が聞こえた。
「さすがのオレでもカメラを作るのは難しいな……ってか、勝手についてくんなよ。」
髪は全体的にかき上げられていて、見慣れている姿。ソイツはいつも明るく振舞い、友達を大切にしている。オレに影響を与えた数少ない人物の一人だ。
「うわ、やっぱり気付いてたのか。」
「あやや、まさか海斗さんのお友達にストーカーがいらっしゃったとは。」
「ストーカーじゃないし!」
「じゃあ、なんで付いてきたんだ? まさかオレが目当てなわけでもないだろう。」
「可愛い子を探して見つけたと思ったら海斗がいたんだ。そりゃあ尾行するっきゃないでしょ!」
射命丸と共に侑祈から数歩離れる。
「狙われていたのは海斗さんだったんですね。」
「……モテないからって男を求める奴だとは思ってなかったんだ。」
「違うって! 俺はあなたとお近づきになりたくてついてきたんです。」
侑祈は自分の手を射命丸に差し出す。その理由もどうかと思うけどな。
「俺は錦織侑祈ってんだ、よかったらお茶でもしない?」
何度かナンパしているとこを見たが、大体同じ台詞の使いまわしだな。
「私は射命丸文と申します、よろしくお願いしますね。」
「うん、文ちゃんだね。よろしく。」
「それと、お茶でしたら喜んで御一緒しますよ。」
「うっし!」
侑祈は他人の目を気にせず、おもいっきりガッツポーズをする。
「ならカフェにでも行くか。」
「そうですね、少し人目を集めてしまいましたし。」
尾行の話と今のガッツポーズで注目されているのは間違いない。
「ええ!? 俺と文ちゃんの二人きりじゃないの?」
「二人きりがいいなら、オレがいないときにまたチャレンジするんだな。」
ガッツポーズから我に帰る侑祈を放っておきながらオレたちはカフェに向かう。
いかがでしたでしょうか?
文さんが護衛世界にinしたようですね。
見た目だけなら違和感無いよね……多分。
さぁ、次回は誰とばったり会うのでしょうか?
もちろん、誰とも会わない可能性はありますのであしからず。
ご観覧ありがとうございました。
ご意見、ご感想がありましたらオレは戦闘のプロだぜ!?とお願いします!