不真面目なボディーガード訓練生が幻想入り   作:橘恵一

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僕はまだそれほど長い時間を生きたわけではない。

でも、今と小さい頃では何もかも変わっている。

番組の内容、人気の商品など。
変わるのは仕方ないけど、できれば良い方向に行ってほしいと思う。

それではお楽しみください。


第14話 「いいんだよ、オレは最低な男だからな……って見てたのかよ?」

 デパートにいるのは変わらないが、カメラ売り場からカフェへ移動している。あの場では注目を集めてしまったが、後をついてくるほど気にかけている奴はいないようだ。射命丸はカメラを見たがっていたが、アイツ自身が最先端技術の塊。十分興味の対象としての素質はあるし、平気だろう。オレたちがカフェに到着した頃にはいつものデパートの姿に戻っていた。

 

「ねぇ、文ちゃん。メルアド交換しない?」

「メルアドですか……。すみませんが私は携帯を持っていないのですよ。」

 

 幻想郷に電波があるとは思えないし、無いだろうな。仮に持っていたとしてもこの世界とは通信出来ないだろう。

 

「うそっ、持ってないの? じゃあ住所教えてよ。」

 

 侑祈は携帯のメモ機能を起動する。

 

「住所ですか? それはちょっと……。」

「お前初対面で住所聞くとか、マジでストーカーにでもなるつもりか?」

「確かに、今どき携帯を持ってないのは驚いたけどさ。メール以外にも連絡を取る方法はあるわけじゃん。」

 

 この、ご時勢で携帯を持っていないのは赤ん坊や戸籍の無い人間ぐらいだろう。もちろん、オレもこの前まで持っていなかったが二階堂に住むことで与えられている。

 

「それで、文通って手段を思いついたんだ。困ったときはアナログに行こうぜ。」

「お前にだけは言われたくない台詞だ。」

 

 だが、侑祈にしては珍しく良案か……相手が規格外でなきゃな。

 

「で、文ちゃんどうかな?」

「嫌ではないのですが、難しいですね。」

「どぉしてさぁ!」

 

 無い知恵を絞って考えた良案がいともたやすく断られて、侑祈は少し半泣きになっている。紫を使えば出来ないことも無いだろうが、コイツらとはあまり長い時間関わるのはやめた方がいい。なにより、普通で考えたらあり得ないことだ。妖怪が存在していたり、平気で空を飛んだり。ボディーガードならそんな事にわざわざ関わる必要は無い。

 

「……お前には黙っておこうと思ったんだが、言った方が良さそうだな。」

 

 射命丸と軽く目を合わせる。

 

「急になんだよ。ま、まさか、婚約者がいるなんてことじゃないよな?」

「なんだ、知ってたのか。なら諦めろ。」

 

 射命丸を彼女にしたいなら、誰かの女にしてしまえばいいことだ。侑祈は亮と違って他人のものを奪う性格じゃない。

 

「そっか、なら仕方ない……よな。でも、友達ならいいよね?」

「もちろんですとも! 友達でしたら大歓迎ですよ。」

「どうせ巨乳じゃないから、そこまで本気じゃなかっただろ?」

 

 わざと射命丸に聞こえるように言う。

 

「そりゃあ理想はデカイ方が良いに決まってるじゃん。」

「でも、第一に可愛くなきゃダメなんだよ。」

「ところで、お二人は仲が良いみたいですがどのようなご関係ですか?」

 

 リアクションするような話題を振ったにも関わらず、別のことを聞いてくる。恐らく、取材のネタなんだろう。

 

「海斗と俺はボディーガード訓練校の同級生なんだ。あと他に二人、付き合いが長い奴もいるんだけどね。」

「なるほど、同じボディーガードを志す仲間でしたか。」

 

 主にボディーガードを志してるのはここに居ない二人のほうだけどな。オレはやりたいわけじゃないし、コイツはその為に生まれたが自覚はしてないだろうからな。

 

「その二人の内、一人はお前も今朝会ってるぞ。」

「と、言いますと……宮川尊徳さんでしょうか?」

 

 まさか、名前をちゃんと覚えてるとは。いや、取材に関係するであろう事は意欲的に覚えてるってところか。

 

「なんだ、尊には会ったんだ。」

「偶然でしたけどね。学校での成績はどうなんですか?」

「その尊が主席だよ。」

「主席ですか、さぞかし優秀な方なんでしょうね。侑祈さんはどうなんですか?」

 

 待ってましたと言わんばかりに、表情が笑顔に変わる。

 

「俺はね、全力を出さないで体術2位なんだ。」

 

 同時に侑祈はピースサインをつくり、アピールする。

 

「それでも筆記はすげぇ低いよな。」

「ふむ、行動派ってわけですね。それにしてもなぜ全力じゃないんですか?」

 

 あんな言い方をしたら大体の奴は気にかけてしまうだろう。

 

「う~ん、理由を聞かれると分からないけど。俺が本気出したらトラックぐらい片手で投げれるし。」

「トラックを片手でですか!?」

「匂いが分かるお前なら、勘づいているとは思うが侑祈は人間じゃない。」

 

 どうやらこの話を待っていたようだ。

 

「コイツは最先端技術で出来たアンドロイドなんだ。」

 

 親指で隣にいる侑祈を指差す。

 

「……なに言ってんの、海斗?」

「このとおり、自分のことをアンドロイドと認識出来ないようになってる。」

 

 そこで予想がついたのか、射命丸が口を開く。

 

「体術に関してもリミッターのようなものがついている、ということでしょうか。」

「そうだろうな。ただし護衛対象に危険が及ぶときは容赦がない。」

「と言うか筆記が低いって、実技と筆記の両方が低い海斗には言われたくないんだけど。」

 

 侑祈に分からない話しをしたためか、ふてくされてオレの成績を言ってきた。

 

「え? 海斗さんの成績は低いんですか?」

 

 当然、幻想郷や南条邸のオレしか知らない為に食いついてくる。

 

「低いも何も、幸運がなきゃ実質ビリじゃん。」

「運だけならお前たちに劣っていないとはっきり言えるぜ。」

 

 もちろん良い、悪いは別としてだ。

 

「運も実力のうちって言いますもんね。」

 

 そういや直人もそんな事を言ってたっけ。ま、なにをするにしてもまったく関係無いとは言い切れないがな。

 

「体術は護衛をする際に必要なのはわかるんですが、筆記はどんな事をやるんですか?」

「これと言って特別な事は無い、はず。」

「だな、強いていえば食事やらのマナーとかは書いてあった。」

 

 護衛するに当たって比重が大きくなるのは体術だ。頭が良くても護衛対象を守れなければ意味が無い。かと言って、身分の高い奴らと近しくなるならマナーくらいは出来ないと評判が悪くなる。あくまで必要最低限の知識程度は必修科目だっただろう。

 

「なら特殊な用語などは無いのですか?」

「業界用語みたいなもんか、ザギンでシースーみたいな。」

「だとするとプリンシパルって言葉はあんまり知らないんじゃない?」

 

 珍しく真剣に考えたようで、侑祈からまともな意見が出る。

 

「警護対象者の事を俺たちはそう言ってるんだ。それとパーソナルスペースとか。」

「パーソナルスペース……ですか。聞きなれない言葉ですね。」

「でしょ、俺は意味全然分からないけど。」

 

 意味が分からないなら自分で言うなよ。当然のように侑祈が分からないのでオレに説明を求める視線を向けてくる。

 

「……はぁ、自分の周りに他者が近付き過ぎると不快感を抱くだろ?」

「はい、そう感じる場合もあります。」

 

 射命丸でも、そう感じることがあるようで、頷く。

 

「そういう、なわばり範囲みたいなことをパーソナルスペースって言う、らしい。」

「そんで、ボディーガードはプリンシパルのパーソナルスペースを的確に読み取り、その領域に入らないようにするのが理想、らしい。」

「ふむふむ。ところでどうして、らしいで締めるんですか?」

「他人が言ってたことを覚えてただけだからだ。無論オレ自身もそこまで知ってるわけじゃない。」

 

 それを聞くと呆れた顔に変わる。

 

「……独自の調査が必要なようですね。」

「だったら最初からそうしろ。」

「じゃ、そろそろカメラとか見てくるか。侑祈のおかげでゆっくり見れなかったし。」

「あれは俺だけの責任じゃないって。」

 

 当事者の言える言葉じゃねぇな。

 

「他に誰がいるんだよ、なぁ?」

 

 オレは射命丸に同意を求める。

 

「海斗さんの責任がまったく無いとは言い切れないかも知れませんね。」

 

 ニヤリと笑いながら答える。

 

「この女が……。」

 

………。

 

……。

 

 カフェからカメラ売り場に戻った後は適当にデパートを見学させて、解散した。見学中も射命丸からの質問は絶えず、別れるまで続いたのは言わなくてもわかるだろう。どんな事を聞かれたかについては各々勝手に想像してくれて構わない。特に深いとこまでは聞いてこなかったからな。もちろん、オレのほしい本もちゃんと買ってもらった。

 

「なんと5冊もだ!! こりゃあ当分寝不足が続くぜ。」

 

 独り言を呟いているうちに二階堂の中庭まで来た。

 

「どうやらこの2、3日は帰りが遅いようだな。」

 

 めずらしく源蔵のオッサンが中庭のベンチに座っている。

 

「この街に詳しくない友人が立て続けに案内して欲しいと訪ねてきたから仕方なく、だ。」

「ふん、警護対象者より一般人の方を優先してるとはな。」

 

 本来の業務をしていないと思われたのか、普段より強面になる。ま、真面目なボディーガードならそんな事はしないだろうから当然か。

 

「それもそうだな、今後は気をつけておこう。」

「……けど、最後の一線ってやつだけは守り通すつもりだ。」

 

 その言葉を聞いたオッサンの表情がまた変わる。恐らく普通の従業員だったら間違いなくクビにする勢いのある、顔だ。

 

「貴様如きが、守り通すだと? 態度も成績も悪い男が言える言葉ではないな。」

「ましてや朝霧のような愚かな血であれば尚更だ!」

 

 この屋敷に来てからどうも、オレに突っかかる理由がおかしい。確かに不真面目だと言ってしまえばそれだけだが、わざわざオレの苗字や血を対象にするほどじゃないと思うが。

 

「ま、お互い言うだけなら勝手だもんな。だけど、過信はしない方がいい。」

「確かにこの街のセキュリティは一流かもしれないし、海外やプロのボディーガードだって優秀だ。」

「でも、同じように犯罪者側にも一流はいる。むしろ見境が無い分、性質が悪い。」

「……なにが言いたい。」

 

 世界各国を渡り歩いただけあって、麗華たちよりかは考えているみたいだな。

 

「なぁに、オレはもちろん。他の従業員にも注意しといて損は無いってことだ。」

「じゃあ、部屋に帰る。」

「お前なんかに言われなくても分かっているつもりだ。」

 

 中庭から自室に向かおうとして気付いたように振り返る。

 

「そうそう、多分読んだこと無いだろうと思って買ってきた。」

 

 オレは買ってきた本のうち一冊をオッサンに手渡す。

 

「おもしろいから読んで見るといいぜ。」

 

 そしてそのまま、中庭を後にして自室に戻る。

 

7月24日

 

「どうも携帯ってのは厄介だ。」

 

 早朝、いつものようにツキと戯れていると新しい携帯を手渡された。もちろん、今まで電話帳にあった情報は無い。元々数件しか無かったからどうでもいいけどな。電源をつけると、タイミングを見計らったかのように電話が掛かってきた。

 

「後輩の面倒みるのなんてオレの役目じゃないだろうに。」

 

 相手は田宮紗代、ほんの少しふくよかな体系の女だ。オレの後輩にあたる林真己登の幼なじみ、ある日ちょっとしたことが切欠で最近相談される事が多くなった。

 

「もちろん後輩ってこともあり、最初のうちは尊と侑祈も同行してくれたが最近は断ってくるからな。」

 

 理由は素行や態度が悪く、敵を作りやすいようで暴力沙汰になりかけたりする事。それと、普通は地位を持っている訓練生ばかりだが真己登は一般家庭。周りにいるお坊ちゃまみたいな奴とは到底意見の食い違いがあるから、身分の低いオレに白羽の矢がたったのだろう。

 

「それにしても外出するなら、許可をもらってこないといけないってことになる。」

 

 昨日、源蔵のオッサンに言われた事もあり。あまり気乗りはしない。

 

「街案内じゃないだけマシか。」

 

 独り言をぶつぶつと呟いていると麗華の部屋に到着した。コンッ、コンッ。

 

「……麗華、いるか?」

 

 いつものようにドアをノックして反応を待つ。

 

「今日はどんな用で外出するのかしら?」

「まだ、何も言ってねぇだろ。つか、なんでそう思うんだよ?」

「二度あることは三度あるって言うじゃない。」

 

 ニヤリと笑いながら、麗華は答える。

 

「はん、勝手に決めつけんじゃねぇよ。」

「じゃあなに?」

「……実は今朝、後輩の幼なじみが相談に乗って欲しいと連絡があったんだ。」

「どうしてその幼なじみの相談相手がアンタなのよ、宮川の方が適任じゃない。」

 

 確かに尊のほうが適任だ、通常の訓練生だったらな。

 

「オレもそう思う。だけどな、今回はちょっと特殊でその後輩が一般家庭からの入学という点だ。」

「ふぅん、そこで同じ一般家庭からの入学であるはずの海斗が適任ってわけね。」

 

 あるはずって、コイツまだ疑ってんのかよ。

 

「そうだ、理解が早くて助かる。それに街の案内じゃないから出来るだけ早く終わらせるつもりだ。」

「そう、アンタも多少考えてるのね。だったら良いわ。」

「ただし、今日の帰りが遅いようなら今後一切新しい小説は買わないから覚悟しときなさいよ。」

 

 腕を組みながら、背が低いくせに上から目線で言ってくる。

 

「……マジで?」

「マジ。」

 

 麗華から無事に許可を貰い紗代との待ち合わせ場所に向かう。いや、無事にって訳じゃなかったな。

 

「今後の生活に支障がでかねない条件だった。」

 

 その待ち合わせ場所に行くと紗代の他に女が一人立っていた。名前は小春と言って、紗代と真己登を知っている友人だそうだ。とりあえずカフェで話しを聞くと、昔の悪いお友達とやらから手紙が来たらしい。真己登自身、すでに一度学園で暴力沙汰を起こしていることからもう一度やれば退学は免れないだろう。かといって自分で手を出さないとしても、相手が勝手に来たらそれでも多少の罰がある。が、具体的な解決策を出す前に小春が強引に紗代を連れて帰っていった。小春は気性が荒いようで、終始オレにイラつきを感じていた様子だ。さらには、その悪いお友達相手に一人でなんとかするそうで。

 

「……なんとかするって言っても素人が無理にやる事じゃないんだよ。」

 

 二階堂の屋敷に帰りながら独り言を呟く。

 

「なんだかんだ言って、心配ってことかしら?」

 

 紫は呟いたオレの独り言を勝手に受け取り会話を始める。

 

「心配じゃねぇ、ただ知り合った以上気には掛かるってだけだ。」

「それを心配してるって言うんじゃないの。」

 

 紫は小さい声で呟く。

 

「もし、一人で何かするようだったら監視しといてくれないか? もちろん事前に連絡はする。」

「事前に教えてくれるなら問題は無いわ。」

 

 連絡と言ってもこちらから出来る確実な方法が無い以上ほとんど紫任せだけどな。

 

「それにしても、暴力沙汰を起こしたら退学なのに良く進級できたわね。」

「てめぇにはオレが好き好んで暴力をする男に見えるのか?」

 

 視線を変えず、普通に歩いているように見せながら問い掛ける。

 

「それはもう、誰かを殺してるんじゃないかって思えるほどにね。」

 

 どうやらオレのイケメン力を持ってしても、溢れ出る荒々しさは隠し切れないようだ。

 

「否定はしねぇよ。恐らく本と薫が無きゃ、今頃退学になってただろうし。」

 

 それを聞くと紫は首を傾げる。

 

「本は好きだからって理由よね、薫ってのは……女の子かしら?」

「ま、はずれじゃないな。そいつは南条薫ってんだ。」

 

 南条と聞いて理由がわかったようだ。

 

「なるほど、だから海斗はあの山奥にいたのね。それなら薫って子は一番付き合いの長い子ってことかしら。」

「正解だ。今のオレはアイツが居たからこそ、こういう性格になったんだ。」

「その子の為に行動してたから幻想郷に住むことが出来なかったってわけね。」

 

 少し足りなかったピースが埋まっただけで、次々と疑問を消化していく。前から感じていたが、どうも妖怪ってやつは相当頭が切れるらしい。ごく一部の妖怪だけなのかもしれないけど。

 

「だとしても、一線を越えた癖に責任を取らないなんて最低な男よね。」

「いいんだよ、オレは最低な男だからな……って見てたのかよ?」

 

 どうやらある事に夢中で気付かなかったようだ。

 

「覗くのは悪いと思ったから、声だけよ。」

「盗聴も立派な犯罪だ。」

 

 所詮、妖怪には適用されないけどな。

 

「でも用事が片付いたなら今はチャンスって事でいいの?」

「チャンスってのは誰かに与えられるものじゃない、自分で勝ち取るもんだ。」

「確かにそうね。ならもう少し待たせてもらいましょう。」

 

 そう言い終えると紫は静かに気配を消す。どうやら、紫もまだあきらめていないようだ。




いかがでしたでしょうか?

遂に物語の鍵となる言葉「パーソナルスペース」が発言されました。
おそらく、この事が切欠で物語はまた進んでいく事でしょう。

考えてみると海斗ってやっぱり凄いなと思ってしまう。
大きい器とか言われたり、不快感を与えにくいとか、超人的な身体能力とか。
もちろん、笑いもですよね!!

ご観覧ありがとうございました。
ご意見、ご感想がありましたらホレてまうやろっ!!とお願いします!
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