例年より体感ではかなり早く9月になりました。
これも小説のお陰かもしれません。
ですが、9月になったからと言って油断は大敵です。
アイツはまだ近くにいるのですから。
それではお楽しみください。
7月25日
窓から見える景色は最近見続けたことで、いつもの景色と言えるほどになっていた。オレにしては珍しく、気に入っている。
「なぁ、男は時に自由を追い求める傾向があるんだ。」
「そりゃあ女のお前には分からないかもしれないんだがな。」
「女性じゃなくても理解出来る人は少ないと思う。」
屋敷の廊下で掃除していたツキがつまらなそうな顔で答える。
「そうか。でも、実際目の前の男が今、この瞬間にそう感じているってことを分かって欲しい。」
「で、そんなくだらない事を言うために私が掃除してるのを止めさせたのか?」
掃除していたツキの手はいつのまにか止まっていた。そりゃ、オレが止めたんだから当然だろう。
「くだらない事なんかじゃないぞ。少なくともオレにとっては重大だ!」
「仮に海斗が普段からちゃんと護衛をしていれば、ほんの少しだけ同情していたかもしれない……かも。」
「真面目にやってもその程度かよ。」
どうやら亮がこの屋敷に来た事でオレの評価がかなり下がってきているようだ。いや、ツキや麗華からは元々低かった……かもしれない。
「まだ正式なボディーガードでは無いですからね。」
「だな。じゃ、そろそろ散歩に行って来る。」
今は掃除をしたいようで、いつものようなノリではない。オレは会話を止めて、外へ向かおうとする。
「そこのボーイ、ちょっと待ちなさい。」
すると、呼び止められた。今日はツボとか割ってないし、呼び止められる覚えはない。
「急になんだよ、あっちのボーイ。」
「なんでボーイなんですか……私はウーマンですぞ。」
「だったらオレの事はナイスガイと呼べ。」
「ってかせめてガール止まりだろ、ウーマンってほどの体型してねぇしな。」
「そこは未来の私に期待して。」
ツキは自慢げに言ってくる。
「未来より今この瞬間が大切なんだって言ってんだろ。」
「外出の許可はあるのでしょうか?」
「急に真面目モードになりやがったな、このやろう。そんなもん麗華がいないから取ってない。」
なにを隠そう、麗華は珍しく用事があるようで外出しているのだ。かと言って、許可を取るために電話するのも面倒なのでしていない。
「いけません、いけませんね。麗華お嬢様がいないのであれば旦那様に許可を貰ってくるのが原則です。」
「生憎とこれまでオッサンに許可は貰ったことがない。よって、お前の発言は虚言と見た! そうだろ?」
「なにを言ってるんですか? 本来であれば旦那様にお伺いするのが常識です。海斗の場合は心優しい麗華お嬢様がお情けで仮の許可を与えていたに過ぎません。」
ボディーガードでなく、一介のメイドや執事だったらオッサンに聞くんだろうな。あまり接点の無い彩なんかに許可を取りに行くとは思えないし、当然か。でも、ようは役職が高ければ何とかなるはずだよな。
「じゃあメイド長のお前が仮の許可を出してくれ。役職的には相当高いはずだろ。」
「私にそのような権限はありません。ですが、麗華お嬢様から伝言があります。」
「外出するのであれば、帰る時間はなるべく早めにする事、だそうです。」
「なんだかんだで最近は外出ばかりで、帰りも遅いからな。」
ましてや麗華が居ないのであれば、オレとオッサンの間を取り持つ人間なんていない。
「わかった、気をつけるさ。」
「本当に分かったようには思えないけど。」
「なんもトラブルがなきゃ、すぐ帰ってくるって。じゃあ、張り切って掃除しろよな。」
オレは軽く手を上げてから、屋敷の廊下を後にした。そのまま、屋敷の人間に会うことも無く中庭まで到着できた……が、目の前には最近暁東市に来た龍の姿がある。
「よぉ、朝霧。暇そうだな。」
「エンカウント率高けぇな。んで、今度はなんのようだ?」
「街案内の続きを頼もうと思ってよ。公園とか、その他もろもろ。」
この前の案内は主に必要な道具を買い揃える場所だったから、細かい案内がほとんど出来ていなかった。
「しゃあねぇな。いいぜ、付き合ってやるよ。」
オレは屋敷の玄関へと歩く。
「って、許可を取りに行かなくていいのかよ?」
「今はフリーなんだ。」
「ナイスなタイミングだったな、俺。」
そう言いながら龍がついてくる。
「……付き合うって、やっぱり海斗さんにはそっちの気が。」
「ねぇよ。つか、勝手に入ってくんな。」
門の辺りから第二の刺客、射命丸が現れた。
「スクープのチャンスかと思いまして。それにしてもこの方はどなたですか?」
「朝霧の友人で龍ってんだ、よろしくなお譲ちゃん。」
「はい、よろしくお願いします、私は射命丸文と申します。」
龍が軽く挨拶をすると、射命丸も軽く挨拶をする。
「文ちゃんか……それにしても気配が濃いな、まるで妖怪みたいだぜ。」
「なるほど、分かるお方なのですね。」
自分の正体を勘付かれても、動じない。
「コイツは紫も知ってるから、その辺は平気だ。」
「なんだ、紫さんの知り合いか。となると、文ちゃんとも是非お手合わせしてみたいもんだ。」
龍の顔は嬉しそうな表情に変わった。
「お前はそればっかだな。」
「ところでお二人はどこに行かれるのですか?」
「街案内を朝霧に頼んだんだ、よかったら文ちゃんも一緒に行かないか?」
「はい、お供させていただきます。」
当然、街を見学したがってる射命丸は断らない。オレを含めた三人は二階堂を出て、公園に向かう。
「そういえば、昨日は詩音が面倒かけたな。」
公園近くに来ると龍が喋る。
「帰ってもグチグチ言ってんのか?」
「いいや、一言もお前の事は喋ってない。」
「なら心配すぎで、気になったか?」
血の繋がった兄妹であれば気になっても仕方が無い。
「そりゃ心配だ。それと南条の屋敷で気付いたことなんだが、お前と言葉を交わした日はすこぶる機嫌が悪い。」
「あっそう。」
「昨日は機嫌が悪かったからな、もしかしてと思ったんだ。気にかけてもらったのにすまないな。」
「気にすんじゃねぇよ、たまたま見かけただけだっての。」
「それではあの女性は龍さんの妹さんでしたか。そう考えればあの服装も不思議じゃありませんし。」
そういや、デパート入りながら見てたんだよな。
「文ちゃんも一緒にいたのか?」
「はい、今日と同じく街案内をしてもらってました。私もこの街に来たばかりなので。」
「でも、紫さんのスキマだっけ? あれを使えばすぐに済むんじゃないのか?」
だな。紫だったら、スキマで終わらしてるんだろうが……。
「それだと海斗さんの取材が出来ませんので。」
そんな事だろうと思ったぜ。
「なるほど、妖怪にまで注目されるとは。謎多き男、朝霧ってとこだな。」
「いいですね、それ。見出し候補として戴きます。」
メモ帳に書き込むと射命丸は辺りを軽く見回す。
「それにしても想像より自然が多いですね。」
そう言うと勝手に動き回り、射命丸は撮影を始める。
「街にある公園にしては十分すぎるだろ。」
あまり人には見せないようにしているが、オレ自身多少のトレーニングは欠かさない。さすがに繁華街で走ったら目立つが、ここならその心配もない。こういった場所ではジョギングや散歩をしている人間が多いからだ。会話になる事もあるが走りながら会話をする奴は滅多にいない。あっても会釈くらいだしな。
「そういや、ここから少し遠いが山があったよな。あそこはどうなんだ?」
龍は町外れにある山の事を訪ねてきた。
「体力作りには良いかもしれないが、どっちかと言うと近いから公園を利用するって感じだな。」
「海斗さん、この公園では猫の行列が出来るのですか?」
勝手に歩き回っていた射命丸が唐突に訪ねてくる。
「なに言ってんだ、んなわけねぇだろうが。」
「なら、あれはなんでしょうか。」
射命丸が見ている場所に龍とオレは視線を移す。
「……少なくとも俺には猫の行列に見えるぞ。」
「……奇遇だな、オレもだ。」
その先には大量の野良猫がある場所を目指し、進んでいる。もちろん、周りで散歩をしている人も歩くのをやめて見つめていたり、写メる奴もいる。
「どうやら、みんなベンチに座っている子供目掛けてますね。」
「日本には変なお譲ちゃんが多いな、ってどこ行くんだ朝霧?」
二人を置いてオレはそのまま、ベンチに向かう。
「あうー、猫さんたちダメですよぉ……っわ!?」
座っている子供を後ろから持ち上げ肩車のように乗せ、そのまま二人のいる場所へ向かう。
「野良猫にエサをやるのはダメだって、両親に言われなかったのか。」
「言われたことはありませんが、エサなんて……もしかして私がエサだったんでしょうか?」
「子供は美味いってどっかの妖怪も言ってたし、可能性はあるかもしれん。」
いまどきのガキは自分がエサって平気で言うのか。
「それは怖いです。そうするとお兄さんは命の恩人ってところでしょうか?」
「そうとも、言えるな。言っておくがオレは凄腕だから報酬は激高だぜ。」
「だったら、私の身体でお支払いします。まだ若いですのでそれなりに使えますよ。」
「ガキの言う台詞じゃねぇって。」
馬鹿な事を喋っているうちに龍と射命丸がいる場所にたどり着く。
「おいおい、まだ年端も行かない子を狙うなんてさすがだな朝霧。さっさと警察に言った方がいいぞ。」
「まさかここまで重症だとは思いませんでした。知り合いに閻魔がいるので今すぐ裁判に行きましょう。」
「いやいや、話しが飛躍しすぎてるだろうが! お前からもなんか言え。」
頼りないがガキとは思えない精神のガキに手助けを求めながら降ろす。
「よいしょっと。さっそく自首しに行きましょう、そうすれば罪も少しは軽くなります。」
「おい!」
降りてそうそう、言いやがるな。今のうちから躾けたほうが良いかもしれん。
「残念ですが、知り合いの閻魔ですと白か黒でしか判断されません。」
「短い付き合いだったな朝霧、お前の資産は全て俺が受け継いでやる。」
「龍さん。多分、負債しかないと思いますよ。」
「ちっ、なら財産放棄だな。」
他人と溶け込むことが上手い龍と射命丸は会って間もないが、軽快に会話している。
「勝手に犯罪者にすんじゃねぇよ! つか、お前が余計な事言うからじゃねぇか。」
いたいけな子猫のような眼差しでガキを見つめる。
「睨んでると、まるで人殺しの顔ですね。カッコイイですよ。」
「子供とは思えない受け答えですね、そういえばお名前はなんて言うんですか?」
「そうでした、桜坂絆って言います。」
「絆ちゃんですね。私は射命丸文で、こちらの方が龍さん。この怖い顔のお方が海斗さんです。」
お節介な新聞記者は勝手にオレたちの紹介をする。
「えっと、やーちゃんにりゅーくんにかーくんですね。」
名前を聞いてすぐにあだ名を付けられた。
「海斗だからかーくんか……ふっ。」
「なんだよ、てめぇなんかそのままじゃねぇか。」
「海斗さんはどうでもいいですよ。それにしてもなんで私だけやーちゃんなんですか?」
確かに海斗でかーくん。となれば文の場合、あーちゃんじゃないのか?
「すみません、あーちゃんには先約がいるので。やーちゃんにしました。それともしゃーちゃんのほうが良かったですか?」
「しゃーちゃんって……くっくっくっ。似合ってんじゃん?」
どっちかって言うとしゃーちゃんの方がしっくりくるな。
「私のことはやーちゃんでいいです。それにしてもどうして猫が集まってきたのでしょう?」
「理由はわからないんですけど、お外に出ると動物さんたちが勝手に寄って来るんです。」
「見たかぎり外見が理由ってことは無さそうだな。」
龍は軽く、絆の外見を見て答える。
「よくみんなには動物を惹きつける特異体質みたいに言われますね。」
「動物を惹きつけることに関しては分かりますよ~。近くにいて不快感がまったくありませんので。」
確か鴉天狗だったけ? どうやら人外まで惹きつけるみたいだな。
「そうなると対処のしようが無い、絆ちゃんも大変だな。」
「ですから、あまり公園には来させてもらえないんです。皆さんに迷惑をかけてしまうので。」
「じゃあ今日はなんで来てるんだ? 見たところ一人みたいだが。」
この年で尚且つ、変な特異体質があるなら保護者がいても可笑しくはない。
「あーちゃんを送りにいったので、そろそろ帰ってくると―」
すると絆はある人物を見つけたようだ。
「あっ、ろーるくんです! 私の保護者さんその3です。」
「その2までならわかるが、その3って……お前の家庭は複雑なんだな。」
「海斗さんってデリカシーが無いんですね。」
目を細くして射命丸はオレを睨む。
「まさかデリカシーなんて言葉がお前から出るとは思わなかったぜ。」
「それでも楽しいので、平気です。みなさん、助けていただいてありがとうございました。」
絆はオレたちに頭を下げて礼を言う。
「それでは、また会えるのを楽しみにしてます。」
「じゃあな、絆ちゃん。」
「そうですね、私も楽しみにしておきます。」
「ま、暁東市にいるならいつかは会えるんじゃねぇか。」
駆け足でろーるくんと呼ばれた男の場所へと向かう。
「ろーるくんってなにが理由でそんなあだ名になったんだと思う?」
「単純だが、ロール状の物に目が無い。」
「大雑把過ぎだ。」
龍はすぐさま答えるが流石に大まかすぎる。
「ならロールパンが大好きだとかでしょうか。」
「実に一般的な回答だな。」
「じゃあ海斗さんはなんだと思いますか?」
「もしかしたらオレたちは大きな勘違いをしているのかもしれない。」
少なくともオレたち三人のあだ名は名前の頭文字を使ったものだった。だからと言って、全てのあだ名が頭文字を使うとは限らない。
「以外にロウルって名前なんじゃないか。」
「外人とは思えなかったが?」
「ハーフならセーフだと思います。」
「あくまで想像論に過ぎないから、そこまで考える必要も無いだろ。」
「おまえから言い出したんだろうが!」
「そうだっけか?」
龍と射命丸は呆れた表情に変わる。
「たまに聞いたりするが特異体質って実在するんだな。」
絆と別れ公園を出るため歩いていると龍が呟く。
「存在感が薄かったり、行く先々で災難が起こるとかか?」
「そう言うのは見た事ありませんが、人を惹きつけるお方なら心当たりがありますよ。」
「さすが、文ちゃん。で、どんな奴なんだ?」
幻想郷と言う特殊な場所だからこそ、存在しているんだろうな。
「紅白の巫女と言われている霊夢さんは良くそう言われています。」
「おいおい、冗談だろ?」
「本当です。」
よりにもよって、あいつかよ……わからなくはないけどな。
「朝霧も知ってるのか? だったら今度紹介してくれよ。」
「それはさすがに難しいです、複雑な事情がありますので。」
本来であれば射命丸や紫が来ていることさえ、可笑しい事だ。ましてや霊夢が来れば、目立つ事間違いなしだ。
「ですが、もう一人いるではありませんか!」
「ならその子を紹介してくれ!」
龍は女に餓えているのか見境が無い。
「海斗さんですよ。」
「は?」
思いがけない言葉が聞こえる。てっきり白黒の魔法使いって言ってくると思ってたんだが。
「……言われてみればその可能性もあるかもしれないな。」
「通常であれば妖怪は人間を襲う場合もあります、が海斗さんは襲われていません。」
それほど妖怪にあったわけじゃないからだと思うが。
「詩音も普通なら日本人と会話をしないが朝霧とは会話をしている。」
「てめぇの妹とは会話になってねぇわ。」
「それに、紫さんはあまり人間とは関わらないのですが海斗さんに対しては関わろうとしていますからね。」
「アイツは別だ。」
すくなくとも親父が関係している以上、オレがどうのって事じゃないだろう。
「おいおい、只の友人じゃなかったのか? 怪しい関係ってやつなのか!?」
「それは無いから安心しろ。」
「いや、絶対って言葉ほど不安な言葉は無いぜ。」
そりゃ、ごもっともだ。
「じゃあ今日はここまでだな。」
いつのまにか公園の出口まで来ていた。
「何か用事でもあるんですか?」
「最近外出が多いから、お嬢様が煩いんだよ。」
「……そりゃ悪かったな。ま、近い内にまた訪ねるだろうけどな。」
龍は変わらず、来るようだな。
「ああ、オレとしては構わない。」
「では、私も帰るとしましょう。」
「そうしてくれ。ただし射命丸はめんどくせぇからスキマで見とけよ。」
少なくともスキマで街の様子は見れるんだから、それで十分だろう。
「えぇ!? どうして私だけダメなんですか。」
「声のトーンが高いから。」
「むぅ、なら取材はどうすれば―」
「取材だったら取材だけにしてくれ。」
「……そう言うことであれば、早く言ってくださいよっ!」
なにが嬉しいのか、いつもより表情が明るくなる。オレはそのまま二人と別れ二階堂に向かう。
「あの朝霧がデレたのか?」
「デレてねぇよ!」
実を言うとまだ時間は平気だが、明日は用事があるから早めに寝る予定だった。
なんせ直人との食事だ、余計な事を言われないようにしないといけない……言っておくが、射命丸に買ってもらった本を読みすぎて寝不足になってるわけじゃないからな。
いかがでしたでしょうか?
今回の話は挑戦的に書いたのでご指摘がありましたらバシバシメッセージください!!
一応文字数は約6800文字となりました。
2000文字で書いてたときは何もかもが全然違う。
内容に関してはまさかの絆登場回にしました。
次回は宮川回になりそうです。
ご観覧ありがとうございました。
ご意見、ご感想がありましたら課金、ダメ、ゼッタイとお願いします!