不真面目なボディーガード訓練生が幻想入り   作:橘恵一

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物語の山場は気合が入る。

まんがでもアニメでも小説でもゲームでも。

山場と言える部分に突入すれば夜更かしするのも当然だろう。

この作品の山場もそんな風に表現できるよう頑張りたいです。

それではお楽しみください。


第22話 「親父とは同級生なんだろ?」

8月2日

 

「やっぱり屋根の上は見晴らしが良くて最高だとは思うがこのまま1日を終えるとなんだか勿体無いと感じなくもない。」

 

 が、慣れないことをすると昨日みたいに殴られるだけで終わりそうだ。

 

「しゃーない、最早定番になりつつあるが立ち読みにでも行くとするか……おっ?」

 

 部屋に戻ろうとした時に屋敷の玄関から亮が出てくるのが見える。どうやら誰かと電話をしながらどこかに出掛けるようだ。

 

「屋敷のメイドだけじゃなく一般人の女にも手を出してるのか。もしかしたら思いがけない人物と会うかもしれないし、後を付けるのも面白いかもしれないな。」

 

 一度部屋に戻ってから亮を追いかけるタイミングを見計らおうとすると、誰かが扉を開けてくる。

 

「ちょっと……ってまた屋根に居たのね。」

「ノックぐらいしろっての、用事なら後にしてくれ。」

 

 麗華を無視して部屋を出ようとする。

 

「さっき書斎で海斗に似た男が映ってる写真があったんだけど、知ってる?」

「……は?」

 

 書斎と言うと源蔵のオッサンが居る場所だ。

 

「これなんだけど。」

 

 麗華は書斎から盗んできたであろう写真を見せてくる。

 

「良く持ってこれたな、オッサンが黙ってないだろうに。」

「丁度出かけてたからね、ちゃんと戻しておけば平気よ。」

 

 持ってきたのなら仕方ないし、見せてもらうとするか。

 

「確かに……オレに似ているようだな。」

 

 そこには若い頃の源蔵と佐竹、それに若い男女が映っている。男の方は見間違うはずもない、親父そのものだった。正直、亮を追いかける事よりこの写真の方が気になってしまう。なぜ、親父が源蔵のオッサンと写真に写っているのか? 知り合いだとは思っていたがここまで近いとは思わなかったからだ。

 

「もしかしてアンタのお父さんだったりするの?」

「残念だが違うな、親父はこんな顔じゃねぇ。」

「違うにしては似すぎじゃない?」

「世界に似ている人間ってのは2、3人居るって話があるだろ。」

「そうだけど……。」

「それにしても髪のある佐竹には違和感しかないな。ま、ちゃんと写真を戻しておけよ。」

 

 戻しておくよう麗華に伝えて部屋を出ようとする。

 

「ええ。ってちょっと、どこか出かけるの?」

「立ち読みしに行って来る。」

 

 ああいう写真が見つかってしまった以上、何かしらの行動はしといたほうがいいだろう。かと言って外出している源蔵のオッサンが帰ってくるまでは話しが出来ない。となると関係者に少しでも情報を貰っておいたほうが良さそうだ、それに薫の件についても何にも話してなかったし丁度良い。早速オレは神崎のじいさんに話しを聞くため、道場に向かう。

 

「よう。まだピンピンしてるみたいだな、じいさん。」

「ほう、海斗から来るということは遂に萌をワシの手から奪いに来た……と言ったところかのぅ。」

 

 いつもどおりの勘違いをしているじいさんは老人にも関わらずピリピリするほどの迫力を放つ。

 

「全然ちげぇから。」

「そこは、応っ! じゃろ? ノリ悪うぅ。」

「生憎と今は漫才をする気はねぇんだ、少し聞きたいことがある。」

「……雅樹についてか?」

 

 こちらの意図を理解したためか、急に真剣な顔つきに変わる。

 

「正解だ、伊達に長く生きてないな。偶然ではあったが今日二階堂の書斎から親父が映った写真が出てきた。」

「うむ、あやつが大事に持っていても不思議じゃないのぅ。」

 

 大事にしている理由は恐らく親父では無く、女の方だろう。

 

「親父、佐竹、源蔵の三人は思った以上に深い関わりがあったってことか。」

「……そうじゃ。」

 

 学友である親父を探しに来た佐竹。そして、佐竹が前から仕えていた源蔵。佐竹が言うには親父はボディーガードだったらしいが一体誰を護衛していたのだろう。源蔵を佐竹と二人で護衛してた可能性もあるかも知れないが考えにくい。

 

「真相は源蔵本人から聞くつもりか?」

「ああ、この件に関してはその方が良い気がしてる。」

「そうじゃの……その方が良いかもしれん。海斗にとっても、源蔵にとってもな。」

「……んじゃ、帰るとするわ。」

「うむ、何か詳しく聞きたいことがあればまた訪ねてきなさい。」

「ああ、それと薫の件だが助かったぜ。用意してもらった偽造の証明書は色々あって使わず仕舞いだったが。」

「なんと!? 数千万と掛かったというのに使わず仕舞いとは何たる無礼かっ!」

 

 年不相応な程、大きな声を発するじいさん。入れ歯だったら間違いなく吹っ飛んでくるだろうな。

 

「いやいや、使わなかったんだから良いだろ。」

「あ……海斗だ。」

 

 じいさんに気を取られていると握り飯を頬張りながら萌が道場に入って声を掛けてくる。

 

「よお、相変らず食ってばっかりだな萌。」

「これは動く前の腹ごしらえ。」

「普通は動いた後じゃないのか?」

「大丈夫、それもちゃんと摂取するから。」

「なにが大丈夫なのか、さっぱりわからん。」

 

 発言から察するに変わり無いようだ。つか、その分運動しているとは言え、よく太らないな。是非、憐桜学園の七不思議に認定したい程だ、七つも見つかるかわからないが。

 

「漸く、私と試合してくれる気になったの?」

「それは無いから安心して、食い続けてくれ。」

「むー、試合くらいしてもいいと思う。」

 

 色々とあって萌には少し実力を見せてから試合、試合と言ってくるようになった。

 

「ダメじゃぞ! 萌! 海斗はワシと試合するんじゃ!」

 

 それに加え、じじいも試合、試合と言ってくる割合も高い。

 

「しねぇよ!」

 

 こういう発言を聞いてるとつくづく同じ血なんだと感じる。

 

「なるほどのぅ、焦らしてワシのこんでぃしょんを悪くする狙いかの。実に汚い男よ、海斗ぉ!」

「じじい如きにそんな事しねぇって、するなら衰弱までさせるぜ。」

「あんまり変わらない、よ。」

「と、まぁ冗談はここまでだ。マジで帰るわ。」

 

 このまま延々とじいさんの相手をしてたら帰りが遅くなるのは経験済みだ。ここはオレから切り上げそそくさと退散させてもらうとしよう。

 

「うん、またね。」

「道場に寄ったというのに私には一言も無いんだな……。」

「うおっ、居たなら声掛ければいいじゃねぇか。」

 

 玄関から出ようとするとまるで自縛霊と間違えるほどの薄い気配で薫が出てくる。

 

「それはっ……出来れば二人で話がしたかったんだ。」

「……。」

 

 萌のボディーガードに復帰したと思ったがまだ形だけみたいだな。

 

「それで、もう帰るのか?」

「……じいさんに礼を言いに来ただけだからな、それに帰りが遅くなるとまた麗華に殴れちまうし。」

「そ、そうか……。」

 

 落ち込んでる今の薫を見たら恐らく誰もが女だという疑いを持ってしまうだろう。

 

「あ~、なんだ、今度お前の都合が空いたらどっか出かけようぜ。」

「いいのか? 私なんかで……。」

「お前じゃなきゃ誘わねぇって。」

「そうか! 時間が空けられたらすぐに連絡するからちゃんと出るんだぞ。」

「ああ、それじゃあな。」

 

 巧みな交渉術でなんとか神崎家からの脱出に成功した。

 

「もしかすると外交官とかに向いてるのかもしれないな。」

「ネゴシエーター海斗ってところかしら?」

 

 道場を出て、二階堂に戻ろうとすると紫が現れる。

 

「想像してたのより語呂が微妙だな。」

「それにしても随分と騒がしいおじいさんだったわね。」

「あれでも若い連中に遅れを取って無いんだ、すげぇじじいだぜ。」

「今の人間より、昔の人間の方が色々な意味で強いし当然かもしれないわね。」

「現代に生きる者としては返す言葉が無いな。」

「それで薫ちゃんの事はどうするの?」

「今は夏休みで浮かれてるだけだろうよ、学校が始まれば元通りになっていくさ。っつかなってもらわないと色々と困る。」

「海斗は冷たいわね。」

「オレからしてみれば全然温かいほうだと思うけどな。」

 

 もちろん、昔のオレと比べての話しだが。

 

「こんにちは、朝霧くん。」

 

 住宅街を歩いていると最近会うようになった尊姉に声を掛けられた。

 

「おう、今日もパトロールってやつか。」

「いえ、ちょっとアポイントを取りにね。それよりそちらの方は?」

「はじめまして、八雲紫と申します。」

 

 紫は普段どおりのまま、自己紹介をする。

 

「あ、はじめまして宮川清美です。」

「海斗には暁東市を案内してもらっているの、何分土地勘がないもので。」

「方向オンチなんだよな。」

「そ、そうなの。」

 

 笑うわけにもいかないからか、リアクションに困っているようだ。ま、見るからにお堅い性格だろうし無理もない。

 

「なぁ、アポイントを取る必要があるほど偉い奴って倉屋敷か。」

「ええ、そうよ。」

「なんなら、手伝ってやろうか?」

「あなたにそこまでの関係があるの?」

 

 オレからこんな提案が出るとは思わなかったんだろう、疑った目で聞いてくる。

 

「失礼な。だがもちろん、交渉するのは麗華か侑祈だ。」

「そんなことだろうと思った。大丈夫、そのお心遣いだけ受け取っておくわ。それじゃあ私はこれで。」

 

 そう言うと尊姉はスタスタと繁華街の方へ向かう。

 

「丁度良いし、私も今日は帰るわね。」

「なにが丁度良いんだかさっぱりなんだが。」

「良いの。気にしない、気にしない。」

 

 雰囲気から感じるに何かしらの情報が手に入ったのだろう。紫がスキマを通り、気配が無くなったのを確認して屋敷へ戻る。

 

「あっ、おかえりなさいませ。朝霧さま。」

「なんだ今日はえっちゃんだけなのか?」

「みっちゃんは屋敷の掃除をしてますよ。」

「源蔵のオッサンは帰って来てるか?」

「源蔵さまですか? なにやら最近忙しいようで、確か明日の朝に一度お戻りになられるようですよ。」

「今日は帰って来ないのかよ……それじゃあ明日にでも話しに行くか。あんがとな、えっちゃん。」

「いえいえ。」

「そうそう、最近は熱くなってきたし、ちゃんと水分取れよ。」

「はい、お気遣いありがとうございますっ。」

 

 屋敷の中に入ろうとすると2階で掃除してるみっちゃんがえっちゃんに向かって親指を立てているのが見える。それに気付いたえっちゃんもまた親指を立てて合図を送りあう。

 

「なにしてんだあいつら?」

 

8月3日

 

コンコンッ。

 

「開いているから入りなさい。」

「少し話しがしたいんだが、良いか?」

「貴様と話しをしている無駄な時間は無い。」

 

 早朝でしかも仕事が忙しいとなればいつも以上に当たってくるのは想像通りだ。だからと言って後回しにする訳にも行かない。うかうかしていたら、麗華が直接聞いてくるかも知れないしな。

 

「話したいことがオレの両親について、だとしてもか?」

「……時間はあまり無い、手短にしろ。」

 

 この前自分から親父の話を切り出した手前、断りきれなかったのだろう。源蔵のオッサンは手を動かしながらも話しを聞いてくれるようだ。

 

「まずは貸してもらってた本を返しておく。」

 

 持っていた本を机に置く。

 

「両親についてこの前言ったことは全部嘘だ。一年前に親父は死んだ。」

「……。」

「もちろん、母親はそれ以前。オレが赤ん坊の頃には死んでる。」

 

 表情を見ても変わった様子は無い。と、言いたいが凄まじいほどの想いがあるためか。憎しみや怒り、それに悲しみ……様々な感情が伺える。

 

「親父とは同級生なんだろ?」

「雅樹に聞いたのか。」

「いいや、親父は何も言ってない。どんな場所にいて、何をしていたのか、オレが聞いても答えなかった。」

「と、なると佃吾郎さん、それに佐竹か。」

 

 一度ため息を吐いて、動かしていた手を止める。

 

「なぜ今になって聞いてきた、私が朝霧を嫌っている事を分かっているだろう。」

「神崎のじいさんよりもアンタの方がこの件には近い気がした。」

「それなら佐竹にでも問いただせばいい。」

「知ってるとは思うがアイツは口が堅い、親父に関してのことは必要最低減の事しか言わなかった。」

「貴様に聞かれて私が話すとでも?」

「むしろここまで来た苦労と時間を考えれば、逆に話して貰わないと割に合わない。」

「……ボディーガードの端くれなら知っているだろうプリンシパルと恋に落ちてはならない。」

 

 1年の頃しつこく言われたことだ。それはもう夢にまで見るほどに。

 

「なぜ言われるようになったのか……その原因が雅樹だ。」

 

 言い終わると席を立ち、窓を眺めながら話しを進める。

 

「雅樹と百合はあろう事か主従関係でありながら、その線を越えていたのだ。それも百合には結婚する相手が決まっていながらも、だ。」

「その相手ってのがアンタって事か。」

 

 オッサンの愛する人を奪ったのなら、親父を恨んでも仕方のないことだ。たとえそれが同意の上であろうと無かろうと関係は無いだろう。

 

「それだけでも朝霧を憎むには十分すぎるだろう、だがそれだけじゃない。百合は身体が弱かった……。」

 

 声から察するに凄く、病弱だったのだろう。

 

「資産も家柄も無い男が病弱な百合と生きていく事は百合にとって過酷だっただろう。その結果、お前が言ったとおりの事になった。」

「そうか。でも、朝霧の嫌いな理由はわかったんだが、どうしてそこにオレも入るんだ?」

 

 親父が憎まれるのはわかるが、オレに対して怒りや恨みを向ける理由がわからない。子供や精神年齢の低い奴ならなんとなく分かるが、どう考えてもオッサンはそこまで私怨に囚われるとは思えない。

 

「雅樹を知っている人間がお前を見れば同一人物かと錯覚してしまうほど外見は似ているんだ。」

 

 窓から視線をオレのほうへ移して、目を合わせる。

 

「外見だけっつうと他は正反対ってことか?」

「学業は文句の付けようも無いほど優秀だった。」

「知ってるじゃねぇか、オレは親父じゃない。つーか親父みたいな人間にはならないようにしてきたつもりだ。」

「それに、その態度や素行は気に入らん。」

「オレだけの持ち味ってことで大目に見てくれると助かるんだが。」

 

 オレと目を合わせていたのは一瞬で、視線はオレの後ろへと移動する。

 

「百合は……どんな顔をしていたんだ?」

「母親が笑っていたか泣いていたかなんて覚えてねぇよ。気がついたときにはもう死んでたんだからな。」

「そうか、なら話しはこれで終わりだ。」

「悪いな、時間を使わせて。それじゃあ部屋に戻るぜ。」

 

 オレは源蔵のオッサンに背を向けて、扉の前に立ち止まる。

 

「そうだ、できれば母親の事……百合だっけか? 忘れるなよな。」

「貴様に言われずとも忘れる事はない。」

「そうだよな。」

 

 書斎を出て、すぐに自室へ向かい屋根に上り寝転がる。

 

「これで漸く色んな事が分かったな。」

 

 親父がここでどんな事をしていたのか、なぜ禁止区域に住むことになったのか。

 

「大体、愛し合えばお互いに忘れる事は無いだろう。」

 

 先程のオッサンですら百合の事を今でも想ってくれていると分かる。

 

「でも親父はどうだ。昔の話はしないし、母親の事も言わなかった。」

 

 想い方も人それぞれって事かもしれないな。

 

………。

 

……。

 

「聞きたいことが出来たんだけど言いかしら?」

 

 清美は普段とは違い、地下の独房に面会をしに来ていた。

 

「なんだよ? もっと情報を引き出そうってのかぁ、ったく、近頃の警官は頭が悪いなぁ。」

 

 牢の中から一人の男が顔を覗かせる。独房に入ってるから当然ではあるが、その姿から清潔感は感じられない。

 

「いいから、私が訪ねることに答えなさい。」

「聞いてやるだけ聞いてやるよ。」

「八雲紫と言う名前に聞き覚えは無い?」

「やくもゆかり……ねぇ、悪いが聞き覚えはねぇな。」

 

 こちらが訪ねるといつも余裕を持ちながら受け答えをするのだが、今回の件は思い当たらないようだ。

 

「本当?」

「本当だ……だが、禁止区域には情報屋が多い、それこそ身元不明や、偽名の奴なんかな。俺だって須藤が本名だって確かめようがないだろう?」

「そう、なら彼女が関わってる可能性も否定できないわね。」

 

 清美は須藤から話しを聞き終えると再び情報収集へと向かう。

 

「ったく、協力してるってのに相変らず冷てぇな。だが清美は俺に頼らざるを得なくなるはずだ、来るべき日までにな……。」




いかがでしたでしょうか?

今回はしんみり回でした。うん、源蔵さん可哀想です……。

漸く雅樹の過去を知る海斗、まさか雷太より早く登場させる気が無かったのに出てきた須藤。

次回は小春と絆回の予定です、が変わる可能性が大いにありますので読者の方々も妄想を膨らませながら御待ちくださいませ。

読者の方々、ご観覧ありがとうございました。
ご意見、ご感想、ご指摘がありましたらお気軽にメッセージ等にお願いします。
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