不真面目なボディーガード訓練生が幻想入り   作:橘恵一

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最近は漸く気温が低くなったと思ったら凄く寒くなってしまった。

もうちょっと気温の変化はゆっくりやってほしいのだがこれも地球温暖化の影響なのだろうか?

なんにせよ、ここまで寒くなったのなら早く雪が降って欲しいと思います。

理由は只単に僕が雪を好んでいるので。


第23話 「……深い、実に深い言葉だな、ツキよぉ。」

8月4日

 

 時間は深夜の4時頃。周りが暗いため、街灯には明かりが点いている。普段は人が多い繁華街でもこの時間になれば当然少なくなる。終電を逃して駅で寝ていたり、飲みすぎて頭が回らずに道端で寝る奴が居たりする中でオレは二階堂へと向かっている。

 

「早起きは三文の徳って言う言葉があるがまさか実体験することになるなんてな。」

 

 とは言ったものの実のところ早起きなんてしていない。答えは単純で、ただ寝ていないだけ。

 

「これからはたまにあの古本屋に行くことにしよう。」

 

 3日の夕方に立ち読み目的で外に出たところ、今まで気付かなかった古本屋に遭遇した。そこで店の店主と意気投合し、販売前のなにわ探偵シリーズ最新刊を戴いたのだ。

 

「どう考えても法に引っ掛かりそうだが、バレなきゃ良いってじいさんが言ってたし平気だろう。」

 

………。

 

……。

 

 中に入ると普段はお目にかかれないような本がズラリと並べられて、すぐさま読むための本を物色し始めた。それに本屋というとたまに立ち読み禁止の張り紙がしてあるが幸いにも、この古本屋には無いようだ。

 

「つい最近源蔵のオッサンに借りた本まで置いてあるじゃねぇか。こりゃあ当たりだな。」

 

 まずは読みたい本を探しながら店内を歩く。店にはじいさんが一人、他に人の姿は見当たらない。

 

「幻想郷の本を読んでから昔の本への興味が強くなっていたからな、うんと古そうなやつを探すとしよう。」

 

 数十分で店内を見終わり、本を一冊読み始める。

 

「……実に考えさせられる描写だ、奥が深いぜ。」

 

 それから読み終わっては次の本を探すのを繰り返していると、外が暗いことに漸く気付く。

 

「…………やっちまったか?」

 

 恐る恐る、ポケットにある携帯を開くとおぞましい数の着信履歴とメールが届いているのが分かる。

 

「見なかったことにしよう、どうせバレやしないが気付いたんだし、帰るか。」

 

 その前に聞きたいことがあったのでレジの前へ。

 

「じいさん、この店はいつも何時からやってんだ?」

「朝10時くらいからかの?」

 

 読んでいた本を閉じてじいさんは答える。

 

「いや、疑問系で返されてもな……というか、古本を取り扱ってる割りに最近の本も読んでるんだな。」

 

 レジの内側は長年やっているためか、読むための本に飲み物と茶菓子などが置いてあり快適に過ごせるような作りになっている。

 

「新しのも、古いのも、良い本は変わらない。」

「だな。おお、なにわ探偵シリーズじゃねぇか。」

「流石に知っているようじゃな、最近のにしては読ませる話を書ききれておる。」

「なるほど、じいさんほどの奴も読んでいるとなるとオレの目は確かなようだ。」

「余程の自信家じゃの。だが、その通りかもしれん。さっきアンタが読んでいた本は、この世に一冊しか存在しないものじゃ。」

「どんなに売れない本でも販売する以上、それなりの数は作られるはずだぜ?」

 

 一冊しか存在しないとなればその本は販売されていないものとなる。例えば自分が書いた本とかなら一冊しか存在しない本と言えるだろう。

 

「無理も無い、なんせわしの弟が書いた本じゃからの。」

 

 じいさんはそう言うと、飾ってある一枚の写真を見つめる。その写真に写っているのは恐らく弟なんだろうが見た目は学生くらいだ。

 

「その弟は本を書くことをやめたのか?」

「確かめる事は出来ないが恐らくまだ書き続けてあるはずじゃ、空の上でな。」

 

 笑いながら人差し指を上に向ける。

 

「はぁん、でもあんなに良い本だし販売するとか考えなかったのか?」

 

 売り上げを考えれば厳しいかも知れないがそれなりに売れると思わせる本だった印象がある。

 

「若い頃は考えた事もあったが、弟はそんな事を望んでいるとは思えなかった。弟は小さい時から本屋を営むのを夢にしていたくせに自分で本を書いていたんだ。」

「普通なら自分で本を執筆する必要は無いな、となるとその部分がずっと引っ掛かっていたと?」

「そのとおり。その答えを知るにはまず本屋を始めようと思い初めて数十年、恐らく本当の意味で本が好きな人と話がしたかったんだろうと思う。」

「漸く、弟の願いがじいさんにも分かったって事だな。」

「アンタのお陰じゃよ、今までその本を手に取った人は誰も居なかったが今日アンタが読んでいたことでこの考えが確信に変わった。」

「そりゃあ店が汚いから人もあんまり来ないだろうし、仕方ないんじゃないか?」

 

 店内を見てもそこらじゅう埃まみれで汚らしい、こんな店に入ってくる物好きはそう居ないだろう。

 

「失礼な! これでも常連は数十人いるわい。」

「ほう、オレが来てから誰も店に入ってきてないんだが?」

「……数人くらいじゃったかもしれんな。」

「ま、それくらいなら妥当だな。それじゃあまた来るぜ。」

 

 開店時間を聞くだけのはずがうっかりと話し込んでしまったがまた来たときにでも話の続きをすれば良いだろう。

 

「たしか、なにわ探偵シリーズを読んでいると言ったな。」

 

 話を切り上げ、店を出ようとするとじいさんがオレに確認してくる。

 

「今出版されているのは全部立ち読みした。」

「なら、近々発売される新刊も読みたいじゃろう?」

「……もちろんだ。」

「深夜にその新刊が届くんじゃがいるか?」

 

 新刊がそろそろ出るとは思っていたがまさか深夜に届くとは思ってなかったな。

 

「いいのか? 色々な意味でなんだが。」

「バレなきゃ良いんじゃよ。」

「そうか、なら喜んで戴こう。」

 

………。

 

……。

 

 こうしてじいさんと講釈を終え、最新刊を手に持ちながら現在に至るわけだ。

 

「帰ってから殴れたところで最新刊をいち早く読める喜びがあればそんな困難など乗り切ってやろうじゃないか。」

 

 そんな事を考えているとなにやら路地に話しかけている男を見かける。

 

「あぶない薬でもやってんのか?」

 

 恐らく、路地に誰か倒れているんだろう。男が話しかけるところを見ると女だと推測できる。そのまま二階堂に向かおうとすると男は路地から白いバッグを持って駆け出す。そして男からバッグを取り返そうとした女が手を伸ばすがその手は掠りもしないで倒れこむ。

 

「ま、待ちなさい……。」

 

 倒れこみながらも、男に対して何か喋っているようだが力が篭められていない声では誰にも届かない。

 

「へへ……っぶぇ!」

 

 持ち主の女が追って来れないのを確認して笑う男はいつの間にか腹を押さえて倒れこむ。

 

「馬鹿だな、こっちに来なきゃ逃げ切れただろうに。」

 

 殴り倒した男からバッグを奪い、持ち主である女のところへ。

 

「おい、お前のだろ? とっととタクシーに乗って帰ったほうが身のためだ。」

「歩いて帰れるから……。」

「いやいや、言ってるそばから寝るなよ。ったく、三文特したはずがどんどん減ってくような気がするな。」

 

 勝手にバッグをあさり、自宅の住所が書いてありそうな物を探す。

 

「なんもねぇな……名刺くらいか。」

 

 名刺に書いてある店の住所は暁東市、おそらく記載されている場所が家なんだろう。オレは女とバッグを担ぎ、その住所まで送る。

 

「って快楽街じゃねぇか。」

 

 それも最近来た場所に近い。もしかしたらこの女も禁止区域の人間だって事もありうるが今は気にしないで良いだろう。

 

「ニューライズ……ここか。」

 

 住所を頼りに探していると名刺に書かれた名前と同じ店を見つけた。

 

「ここに住んでるわけじゃねぇだろうけど、入るか。」

 

 店なので当然鍵が掛かっていて、入ることが出来ないので適当にバッグの中身をあさる。

 

「オレの相棒で開けるのも良いが、鍵を持ってるなら使わないに越した事はない。」

 

 それらしき鍵を見つけたので勝手に取り出し扉を開ける。建物の中は電気が点いておらず真っ暗で何も見えない。

 

「とりあえず、コイツが起きるまでオレも一眠りさせてもらうか。」

 

 目が慣れるまで少しまってから女をソファーに寝かせて、近くのイスに座りオレ自身も軽く目を閉じる。少しばかり休んでいるとどこからか扉が開く音が聞こえる。

 

「……ふーちゃん?」

 

 部屋から出てきたのは子供、それにどこかで見覚えのある顔だ。オレとガキは目を合わせたまま、何も喋らないで居るとガキが訪ねて来る。

 

「かーくん?」

「よう、まさかこんなところで再会するとはな。出来れば公園とか繁華街がよかったぜ。」

「そうですか、でも私はかーくんに会えるならどこでもいいです。」

「まさかとは思うがここで住んでるわけないよな?」

「そのまさかです、ここで寝たりご飯食べたりしています。」

 

 こんなところで生活してればボケ方もあんなになっちまうのは無理もないな。

 

「かーくんもお姉さんたちとお話しに来たんですか?」

 

 どうやらこの店の仕組みまでは理解していないらしい、理解されていたらそれはそれで困るんだが。

 

「どう考えても営業時間外だろ、道端でふーちゃんが寝てたから連れてきたんだ。」

「そうでしたか! 見かけによらず優しいかーくんですね。」

「見た目と違くて悪かったな。お前が居るならもう大丈夫だろうし、帰るわ。」

 

 身内が起きているなら好都合だ、昼前だし二階堂に戻るには丁度いいかもしれない。店を出ようとすると携帯に着信が、恐らく麗華かツキだろうとは思うがさすがに出たほうが良いかもしれない。が、ディスプレイを見ると登録していない番号だった。

 

「誰だ?」

「あっ、小春です、紗代の友達の。」

「思ったより元気そうな声だな。」

「そ、その、今日会ってお話がしたいんですけどお時間空いてますか?」

「昼過ぎだったらいつでもいいぞ。」

「わかりました、それじゃあ駅に着いたらまた連絡します。」

「わかった、それじゃあな。」

 

 電話を切り、再び店を出ようとする。

 

「ちょっと待ちなさい。」

 

 どうやら女が着信音で起きてしまったようだ。

 

「あなた……朝霧海斗って言うのね。」

「何勝手に人の情報売ってるんだ、金取るぞ。」

 

 女の隣にいた絆の頭をわしゃわしゃと片手で揺さぶる。

 

「だってかーくんはふーちゃんの恩人さんですから、名前をくらい教えても良いじゃないですか。」

「それで悪用されたらどうすんだよ、もしかしたら悪の組織でオレを狙って動いてるかも知れないだろうが。」

「ふーちゃんはそんなことしません! 多分!」

「親くらいもう少しは信用してやれよ。」

「どうやら本当に絆と知り合いみたいね、一体どこで出会ってたの?」

 

 絆から聞いたことを半信半疑だったようだが、オレたちのやり取りをみて納得したようだ。

 

「この前公園でな。」

「ネコさんの大群から救ってもらいました。」

「そう、偶然の一言では片付きそうに無いわね、まさかこんな形で出逢うことになるなんて。なにかお礼をさせてもらえないかしら?」

「だったら帰らせてくれ。」

「なら引き留めたら悪いわね。はい、この店の名刺。客としてきたら少しサービスしとくわ。」

 

 バッグの名刺入れから一枚取り出し、こちらに差し出す。

 

「一文なしだから、客として来る事があればタダにしてくれ。」

「考えておくわ。」

「それじゃあな。」

 

 差し出された名刺を受け取り、そのままドアノブに手を掛けて店を後にした。

 

………。

 

……。

 

「麗華の暴力だけで済むとはまさに幸運だぜ、さぞかし今日の運勢は最高に違いない。」

 

 屋敷に戻るとすぐツキに呼ばれ麗華の部屋で注意と言う名の暴力を受け、数時間が過ぎた。そろそろ晩飯の時間と言う事もあり、掃除を終えたツキはオレの部屋でイスに座っている。

 

「そのこうふんもいつまで続くのか。」

「今シレっと言葉を変えたよな?」

「そのこううんもいつまで続くのかって言ったんだけどなにか?」

「24時間以上寝てないうえにチーター共に耳を噛まれて聴覚が著しく低下しているらしい、麗華に慰謝料でも請求しようかしら。」

「どっちも自業自得だから無理。因みに聞くけど何占いをしたの?」

「自分占いだ、カッコイイだろう。」

「自分に酔う男は典型的なダメ男です、というより麗華お嬢様のお陰でお咎め無しにしてもらったのに反省してない。」

「言うなよな、折角現実逃避しようとして妄想を膨らましてたのに。」

「そんなんで現実逃避できたら苦労しない。」

「なんか重い言葉だな、そう言うってことは二階堂のメイドとして苦労していると受け取るぜ。」

「その言葉だれの言葉? 私は海斗の事を言ったつもりなんだけど。」

「……泣かせてくれるなよ。」

 

 昼前に小春から電話があったきり、未だに連絡が無い。あんな体験をしたし、近くに来る事すら難しいのかもしれないな。

 

「ところでさっきから携帯を見てるけど……まさか、海斗なんかに思い人が!?」

「女であることは当たってるな。」

「……ッグス。」

「お前なんで泣いて……ってまさかオレの事を?」

「いいんです、私は片想いのままで。」

「男ってのは浮気する生き物らしいからな、どっかのマイコゥみたいに10人くらいまでなら大歓迎だ。」

「間に合ってるんでお断りします。」

「そうだったな、仮に間に合っていなくてもお前はこっちから願い下げだ。」

「ふふふ、漸く本性を表したようですね。」

「結構前から言ってるような気がするが。」

「これでフラグ37564が立ちました。」

「フラグ数が凄まじいな、それより数字の羅列をなんとかしてくれないか?」

「リセット出来ればなんとかなるかと。」

「おい、人生をリセットしろって言いたいのか?」

「人生をリセットなんて出来るわけ無いじゃないですか。」

「深い言葉だな。」

「海斗の人生にピリオドを打つのは寧ろ大歓迎。」

「……深い、実に深い言葉だな、ツキよぉ。」

 

 頭を掴もうとする手をスルスルっとすり抜け扉の前で立ち止まる。

 

「それじゃあ掃除があるから、それとそろそろ電話が来ると思う。」

「ただのメイドにわかるもんかよ。」

 

 ツキが部屋から出て扉を閉めると同時くらいに電話から音が鳴り響く。

 

「アイツの運勢も最高だったのか。あ~、小春か?」

「はい、遅くなってすみません。」

「出来ればそのまま二階堂に来てもらいたいんだが場所はわかるか?」

「はい、紗代も居るんで大丈夫です。」

「そうか、なら屋敷についたらまた連絡してくれ。」

「はい、わかりました。」

 

 それにしても随分と時間が掛かったな、紗代が一緒に居ないと心細いのかも知れない。

 

「さて、あいつらが来る前に準備しとくか。」

 

 部屋を出て、ツキに頼みごとをしてると小春から連絡を貰い玄関へ。

 

「よう、来てもらって悪いな。」

「いいえ、気にしないでください。」

 

 小春は畏まった様子で紗代に連れられて来ているようだ。

 

「ほら、小春。」

「ええと。朝霧さん、あの時助けてくれてありがとうございました。」

「小春を助けてくれて本当にありがとうございました。」

 

 そう言うと小春と紗代は頭を下げる。

 

「過ぎたことだし別に気にすんな、頭なんて下げなくていいぞ。」

 

 二人は顔上げる。

 

「それと朝霧さんには色々酷い事言って……すみませんでした。」

「特に気にしてねぇよ、どれも本当のことだったしな。つかよ、おまえら飯食った?」

「い、いえ、まだ食べてないですけど。」

「そうか、じゃあ二階堂で晩飯食ってけよ。」

「えっと、悪いですよ……私たちはお礼を言いに来ただけですから。」

「礼を言いにわざわざ来てもらったんだし、悪くねぇよ。それに実を言うともうコックには頼んであるから食ってもらわないとな。」

 

 小春と紗代はお互いに顔見合わせて、逃げられない事を悟ったような表情になる。多分二人は豪勢な料理が出てくると思っているようだが今日はいつもと一味違う品がある。何を隠そう、スズメの姿焼きが出てくるのだ。これでまた二人、スズメの虜にしてやるぜ。




いかがでしたでしょうか?

今回はほっこり感を感じていただけるように考えました、前半部分だけですが。

次回は2日分で雷太回と幻想のみなさん回の予定です、が変わる可能性が大いにありますので読者の方々も妄想を膨らませながら御待ちくださいませ。

読者の方々、ご観覧ありがとうございました。
ご意見、ご感想、ご指摘がありましたらお気軽にメッセージ等にお願いします。
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