不真面目なボディーガード訓練生が幻想入り   作:橘恵一

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なんだかんだで気付くと12月。
するとすぐさま1月。

時間の過ぎ方が早いということは自分が思っている以上に充実しているのかもしれない。
正月には親友とも呼べる三人とも遊ぶし。

うん、充実しているようです。

読んでくださってる方々、お待たせして申し訳ありませんでした。
それではお楽しみください。


第25話 「高いな。」

8月7日

 

 生物は生きている以上、何かしらのエネルギーが必要になる。ロボットでさえ電力が必要なように。そしてエネルギーを摂取するには飯を食うことが手っ取り早い。かと言って食いすぎで摂取しすぎても身体には悪い影響を及ぼすだろう。要するにオレが言いたいのは――。

 

「最近エサがすぐ無くなっている気がするんだ。」

 

 チーターのエサを受け取りに来たオレはいつものペットショップで呟く。特に店員とも会話したり、動物を見ることが無いために独り言を言っても誰も反応はしない。

 

「成長期なんじゃないの?」

 

 そんな言葉に返事をするのは隣で動物を眺めている紫だ。ペットショップに来る途中、いつものように暇つぶし目的で同行して来た。

 

「オレもそう思った。成長期であるならもっとエサを多く買って長い期間保存しときゃ良いんだよ。そうすればオレがいちいち動かなくても済む。」

 

 執事を使えばいいものを毎度毎度、麗華はオレを使う。こっちは静かに読書しようと屋根に上がっていたのにも関わらずだ。金なんて有り余ってるんだろうから専属の人間を雇うってのも手だろうに。

 

「そこまで考えているのにペットショップに居るってことは、麗華ちゃんに却下されたみたいね。」

「これ以上、エサを置くスペースは無いそうで。」

 

 無駄だとは分かっていても提案をしたのだが紫の言うとおりの結果になった。

 

「スキマで屋敷を調べたけど十分にスペースくらいあるわよね。」

 

 サラッと物騒な事を言っているが今更気にする事でもない。不法侵入を簡単にされている時点でこうなる事も予想出来たしな。

 

「金持ちってのはそれなりの余分が必要なんだそうだ、そういう奴に限って意味も無くデカイ壷を買ったりするだろう?」

 

 実際はスペースの問題よりも匂いがどうのと言うことだったが。冷凍されているままなら匂ったりしないが、溶け始めると途端に生臭さが漂ってくるからな。

 

「それはわからないけど、狭いくせにガラクタを扱う店ならあるわよ。」

 

 幻想郷のガラクタがどんなものか気になるがどうせろくでもない物に違いない。

 

「多分、似たようなもんだろ。」

 

 数人の従業員が持ってきた荷物を受け取る。

 

「それよりか弱い人間にこんな重いもん持たせんなって。」

「あら? 重そうには見えないわよ。女性に重い物を持たせようとするなんて日本男児の評価が下がっていくわね。」

 

 変わりに持つ様子が見られないまま、紫が先に店の外へ。

 

「日本男児なんてとっくの昔に絶滅してるぜ、因みに言うとガングロもだ。というか妖怪に性別なんてねぇだろ?」

 

 オレも続いて店の外へ出る。

 

「生憎と性別が無い類では無いの、見て分かるでしょう。」

 

 確かに紫の言うとおり外見を見る限り女らしい。少なくとも幻想郷でオレが出合ったやつは皆、女の体型だった。

 

「いや、外見だけならお前のスキマでいじれるもんかと。四次元ポケッツみたいな扱いだし。」

「詳しく説明してないのに良く分かったわね。」

「出来んのかよ!」

 

 世界を行き来したり、見られないように出来ることから推測しただけだが出来るとは思ってなかったな。

 

「やろうと思えば出来ないことも無いわ。」

「ホント、おまえらのせいで基準が変わったぜ。」

「私たちに会わなくても元から一般人と違って十分変わってるでしょうに。」

「言ってくれるじゃねぇか。」

「ぶぅ、さっきから無視しないでよぉ~。」

 

 二階堂への帰り道を二人で喋っているとしゃがれた声が介入してくる。聞くだけで加齢臭が匂うような声だ。

 

「意図して避けてたんだよ。つか、入ってくんな。」

 

 それにしても道着のまま外を出歩く話は本当だったみたいだ。これなら萌が一緒に出歩かないわけだな。

 

「渇っ!! 海斗如きがワシにそんな態度を取るなんて1億光年くらい早いわっ!!」

 

 相変らずいい年のはずなのにビリビリするほどの覇気だ。

 

「1億光年経ったらお互い死んでるな。」

「なにを言う、ワシの意志は継がれるはずじゃ。」

 

 言葉だけ見れば中々良い台詞なんだが、道着姿じゃ締りが無い。

 

「……萌が継ぐとは思えないんだが。」

 

 だれかれ構わず実力者と戦いたがるところくらいは継げるだろうが、他の部分は出来そうに無い。

 

「そこは、オレが継ぐぜっ! じゃろうが。」

 

 重いものを持っている袖を引っ張りながら言ってくる。

 

「願い下げだな、関係ないし。」

「むぅ、それは後日で良いとして今から道場に来んか?」

「そこは潔く引けよ。ま、たまには道場の見学も良いかもな。麗華にこの荷物を届けたら行くとしよう。」

「なら私も一緒に着いて行っていいかしら?」

 

 ずっと黙りこくってたと思ったら意外なところで会話に入ってくる。どう考えても武術に興味は無いだろうし、別のところに興味があるのかもしれない。

 

「海斗のお友達なら大歓迎じゃよ。」

 

 紫に対して不信感を抱いていないようで爺さんは二つ返事で返す。

 

「友達なんかじゃねぇっての。」

「なにぃ……萌ともあろうベッピンを狙っておきながら他の子に手を出すなんぞ、何たる無礼かっ!」

 

 いくらなんでもベッピンって古いだろう。

 

「屋台を一緒に作っただけだろうが。それにただの知り合いだっつの、道中で大声出すなよ。」

 

 只でさえデカイ荷物を持っているせいで通行人に見られているのに、加えて爺さんが叫べば注目されてしまうのは当然だろう。

 

「本当かのぉ?」

「じゃ、荷物を置きに行くわ。」

 

 メチャメチャ怪しむ爺さんを放って二階堂に戻ろうとする。エサの重さには慣れたが、立ち止まったまま持つのは流石に疲れる。それだったら動いていたほうが気分的に楽だからな。

 

「続きは道場で、じゃな。」

「続かせねぇよ。」

 

 オレたちは爺さんと別れてそのまま二階堂に向かう。とりあえず紫は外で待たせて、オレはエサを置くのと麗華に許可を貰いに行ったのは下手に紫が着いてきて話をややこしくされないためだ。

 

「それにしても意外だな、お前が道場なんかを見学したいだなんてよ。」

 

 麗華でも爺さんの頼みとあれば断ることが出来ないようで渋々だが許可を貰った。そして道場へ行く途中で気になった事を紫に尋ねる。

 

「道場と言うより、あのおじいさんが少し気になったの。」

「話すのは初めてだったな。あそこまでぶっ飛んだ爺さんなんて他に居ないし、無理も無いか。」

「そうね、あんなに元気なご老人は最近見ないわ。」

 

 別の目的だとはわかっていたが長生きしている妖怪でも爺さんは物珍しいようだ。

 

「もしかしたら爺さんは日本男児と言える貴重な存在かもしれないぞ。」

「日本男児はあんなにハジけて無いわよ、きっと。」

「言われてみれば。」

 

 そのまま特に会話をする事もなく二人で道を歩く。

 

「おお、待っておったぞ。」

 

 道場に着くと爺さんは門下生と対峙している。と言っても一対一ではなく、一対多数。爺さん一人に数人の男が一斉に挑んでいる。

 

「余所見してたら一撃もらっちまうんじゃねぇか?」

「ふん、まだまだそこいらの奴には圧勝じゃて。」

 

 オレの声が合図となり、門下生たちは一斉に爺さんを狙いに動く……が、言葉通り次々と男たちを軽く薙ぎ倒していく。

 

「お年を召されているのに年齢を感じさせないほどの動きだわ。」

 

 どうやら紫もこの爺さんの動きには関心しているようだ。稽古がひと段落すると、門下生たちを少し休ませて爺さんが寄ってくる。

 

「先程は自己紹介がまだじゃったの、ワシは神崎佃吾郎じゃ。」

「あなたが佃吾郎氏……お会いできて光栄です。私はスキマ妖怪の八雲紫と申します。」

「妖怪……か、どおりで緊張感が無くならんわけじゃ。」

 

 ある程度の実力者であれば感じ取れる事は龍で知ってるから別段驚くことじゃない、それよりも――。

 

「おいおい、爺さんのこと知ってたのか?」

「この暁東市に関しての情報を調べたら名前が出てきたのよ。」

 

 話をしてるとあまり感じないが確か、かなりの権力を持ってるんだったな。それなら名前が一人歩きしても可笑しくないか。

 

「綺麗なお嬢さんにも知ってもらえるとは光栄じゃの。それにしてもこの年になって夢が一つ叶うとは。」

「道場に女を連れ込むってことか?」

「それは既に叶えておるわい。」

 

 勝ち誇ったような笑みを浮かべて答える。

 

「それはそれでどうかと思うぞ、道場って神聖なもんじゃねぇのか。」

「価値観は人それぞれじゃからの。」

「あっそう。」

 

 奥にある棚とか調べたら如何わしい物が出そうな気がしなくも無いな。それほど神聖さをこの道場からは感じない。

 

「このワシでも小さい頃は作り話に心躍らせたもんで、信じていた時期もあった。」

「それで年を取るにつれ、見えることだけ信じる様になったのね。」

「そのとおりじゃ。」

「ま、アンドロイドが出来たりするこの世で妖怪を信じろってのも難しいだろうしな。」

「ばあさんに良い土産話が出来たわい。」

「死ぬのは勝手だがせめて人に迷惑かけないようにしろよ。」

「まだまだ、簡単には死ねんな。」

 

 普段のふざけた返しではなく、意外にも真面目な返答だ。

 

「それじゃ、そろそろ帰るぜ。」

 

 休憩していた門下生たちが戻ってきたのでオレたちは帰ろうとする。

 

「遠慮せずにたまには身体を動かしに来なさい。」

「ああ、疼いたときには相手をしてもらうかもな。」

「ほう……海斗がその気ならいつでも相手をしてやるぞい。」

「そう暑っ苦しいのが嫌なんだよ。」

 

 片手を上げて道場を後にする。

 

「じゃあ私はこの辺で。」

 

 紫も今日は大人しく帰るようで、道に出るとスキマを開く。

 

「おう、それじゃあな。」

 

 一言言うとスキマの中に紫が入り、閉じていく。

 

「あれが神崎佃吾郎……あの男が狙っている人物の一人か、早急に本命の居場所を調べないとね。」

 

8月8日

 

「よう、龍か。」

「おう、どうしたんだ朝霧。お前が電話なんてよ。」

「旅行の準備を9日にメンバー全員でするみたいだから連絡だ。」

「そうか、その時ついでに挨拶をさせてもらうとしよう。因みに待ち合わせはデパートか?」

「多分な、時間はまだ決まってねぇから夜にでもメールする。」

「おう、助かる。」

「最近忙しいのか?」

 

 どうやら外出しているようで、様々な音が聞こえるので訪ねる。

 

「まぁ、それなりにだな。日本にコネがあるわけでも無いから当然だろ。」

「そりゃそうか。」

 

 昔と比べれば人種がどうのって差別は少なくなったとはいえ、職を探すには難しい事に変わりは無い。

 

「ったく、憐桜学園のせいで有名どころの資産家は護衛できそうに無いしよ。」

 

 それに職業がボディーガードなら尚更だろう。

 

「おし、だったら校長にそう言っといてやるぜ。」

「お前、校長と知り合いなのか?」

「そりゃあ一応、生徒だからな。」

「なら臨時講師って事で俺を雇えるか聞いといてくれよ。臨時だったらいつでもおさらば出来るし、小金稼ぎには丁度良い。」

「と言っても最近会ってないからな。とりあえず会ったら話しだけはしといてやる。」

 

 確かに実力や経験もあるし、講師としては悪くない。ただ教え方が良いか悪いかによるだろうが。

 

「助かるぜ。」

「期待なんかしないで、てめぇでも探しとけよ。」

「そりゃもちろんだ。」

「じゃ切るぜ。」

「おう、またな。」

 

 通話が終わり携帯を机の上に置く。

 

「そういえば最近は佐竹を見ないな。最後に見たのは薫のところから帰って来たときだけ、夏休みだからと言って教師は休みじゃないし当然か。」

 

 本を読もうと手に取り、時計を見る。

 

「おっと丁度飯の時間だな、読むのは食ってからにするとしよう。」

 

 手に取った本を机に置いて部屋を出る。

 

「それにしても今日はやけに気温が高いな、夏も本番ってことか。」

 

 暑さに加え、多少の重さを感じるがスーツを着ているからだろう。そのまま気にせず食堂へ向かう。

 

「あれ? 尊が居ないな。」

 

 食堂に入るといつも先に居る尊の姿が見当たらない。

 

「宮川さまなら今日は外出しているようです。」

 

 オレの言葉を聞いてかみっちゃんが答える。

 

「そうか、ってか今日は食堂の係りなんだなみっちゃんは。」

「はい、変わりにエリが掃除をしています。お食事ですよね、ただいまお持ちします。」

「おう。」

 

 彩は屋敷に居るようだし、尊個人の用事なんだろう。恐らく家の両親に報告かなんかだろうけどな。からんっ。

 

「……オレとした事が、フォークを落とすなんてな。」

 

 どうも身体全体に重みを感じる。それこそ手先を使う些細な行動には支障が出そうなほどに。

 

「あ、朝霧さま。顔色が優れないようですけど大丈夫ですか?」

 

 食堂に居たみっちゃんが変えのフォークを持ってきた際に聞いてくる。

 

「サンキュ、どうもさっきから身体がだるいんだ。」

「風邪でしょうかね? 少し失礼します。」

 

 そう言うとみっちゃんは左手を自分の額に、そして右手をオレの額に当てる。

 

「熱っ、凄く熱いですよ朝霧さま。」

「そんなんで風邪引いてるとかわかんのかよ。」

「スグに体温計をお持ちしますので少しだけでも朝食を召し上がってください。」

 

 落ちたフォークをキッチンに置くと急ぎ足で食堂を出る。

 

「言われたとおりに少し食うか。」

 

 食えることなら全部食ってやろうと思ったが半分くらいのところで手が止まる。食欲がまったく無いわけではないが動くのが面倒くさい。

 

「お待たせしました、朝霧さま。朝食は後で片付けて起きますのでひとまずお部屋に行きましょう。」

 

 思ったより時間が経ってからみっちゃんが来て、自室で体温を計る。そして体温計からピピピと音が鳴り、取り出す。

 

「どうやら計り終わったみたいだ。」

 

 みっちゃんに手渡す。

 

「39.2度じゃないですかっ!」

「高いな。」

「ここまでとは思っていませんでしたが準備をしてきて良かったですよ。」

 

 荷物から錠剤とヒエッピタを取り出す。体温計だけじゃなくてこれらを準備した事が時間が掛かった要因だろう。

 

「とりあえず薬を飲んで今日は安静にしててください。」

「そうするわ、ありがとうな、みっちゃん。」

 

 ベッドで横になりながら答える。

 

「いえ……それじゃあ失礼しますね。」

 

 一通りの事をやってもらうとみっちゃんは仕事の為に食堂へ戻る。

 

「ふうっ、オレが風邪なんて何年ぶりだろうな。」

 

 部屋から人が居なくなり、瞳を閉じると一瞬だけアイツの顔を思い出す。

 

「どう、してるんだろうな……。」

 

 そんな事を呟きながら眠りに落ちた。

 

8月9日

 

「この体温じゃあ明日の旅行は行けませんね。」

 

 ツキはオレの体温を測り終えた体温計を持ちながら答える。今日は珍しくふざけた行動がまったく無い。

 

「そうなるな、風邪を移すわけにはいかないし。」

 

 自分だけなら別にどうでも良いが、さすがに旅行を楽しみにしている麗華たちに風邪を移すのは悪いだろう。

 

「今日も安静にしててください、私たちは旅行の準備をしにデパートに行きますけど。」

「そこは行けないオレのためにも黙っておくべきじゃないか?」

「こういうときだからこそ、ですね。」

「……鬼め。じゃあ龍たちのことは頼んだぜ。」

「仕方ないから気にだけは留めておく。」

「連絡はしてあるから大丈夫だろうけど、妹の方は癖があるからな。」

 

 龍に関しては麗華も面識が少しある分問題は無いだろうが、詩音は問題しかない。

 

「海斗以上の癖でなければ問題ない。」

「恐らくオレ以上だと思うぜ、分野は違うが。」

「ほう、それは楽しみですな。それじゃ行ってくるとします。」

 

 そのままヒエッピタを貼り直してツキは部屋を出て行く。

 

「さて、薬も飲んだし一眠りするか。」

 

 どうやら自分でも気付かないうちにはしゃいでいたんだろうな。表側に来て、麗華の護衛を始めて……さらには幻想郷なんてとこにも行って。ここ最近の出来事を少し思い出しながら昨日と同じように瞳を閉じるとスグに眠りに落ちた。




いかがでしたでしょうか?

今回で第3章が終わりました。
みっちゃんプッシュと紫が受けた依頼に少し触れて、遂に海斗が体調不良に。
どんなに身体が丈夫でもハメを外しすぎれば糸も簡単に不調になりますよね~。

次回は2回目の幻想入りです、が変わる可能性が大いにありますので読者の方々も妄想を膨らませながら御待ちくださいませ。

読者の方々、ご観覧ありがとうございました。
ご意見、ご感想、ご指摘がありましたらお気軽にメッセージ等にお願いします。
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