雪は積もるだけなら良いけど霙だったら外を歩くのも一苦労だ。
やっぱり景色を見るだけじゃなくてカメラに残せるようにしたいな。
いざ財布と相談ですね。
それではお楽しみください。
8月11日
紅魔館と言われているこの屋敷の部屋に案内されてから数時間が経ち、外はすでに明るくなっている。オレはと言うとベッドに横になり、ずっと天井を見上げていた。シャワーを浴びた後、特にやることも無く仮眠を取ろうとしたのだが時々変な違和感を感じるので気になって起きていたのだ。その気になる理由はまだ分からないが部屋の中や外に変化は見られない。なんて言えばいいんだろうな? 意識を保っているにも関わらず一瞬だけ意識が飛んでいるような感じだ。
「ここまでおかしな環境だと数日は熟睡できそうに無いな。」
これから先のことを考えて少しばかり微笑むと一人の気配を扉の前から感じる。コンッ、コンッ。
「おはようございます、朝食をお持ちしましたが開けても宜しいでしょうか?」
ノックしてからメイド長が訪ねて来る、どうやら昨日の話どおり朝食を持ってきたようだ。それよりも門で急に出てきた時とは違って今は気配を感じることが出来てるし、あの時は何かしらの行動を取ったと考えて良いだろう。
「いいぞ。」
そう答えると扉を開けて流れるように料理をテーブルに置いて行く。朝食は洋風の館だけあってトースト、ハムエッグ、スープと洋食で統一されている。
「さすがに飯くらいは一般的だな、てっきりゲテ物で統一してくるかと思ったぜ。」
もちろん、ゲテ物が出てきたら望むところだ。たとえエイリアンが出てきたとしても食える自信があるしな。
「一応、人間のお口に合うものをと考えましたので。でしたら昼食は生き血でもお持ちしましょうか?」
「ちょっと、それは……なんて言うとでも思ったか。構わない、それも持って来い。」
どうせ驚かすために言ったのだろう。さすがに生き血と言っても何かの動物や魚のものに違いない。
「それが人間の生き血だとしてもでしょうか?」
オレが考えている事をさぞ見透かしているように、メイドはもう一度確認を取ってくる。
「人間かよ、だったら鉄臭いだろうな。加工するのなら匂いはしないだろうが。」
「お嬢様がお飲みになる物なので天然物ですよ。」
メイド長の言葉を聞いてある事を思い出す。それは霊夢が解決した異変に吸血鬼関連があったことだ。
「もしかしてそのお嬢様って吸血鬼か?」
「ご存知でしたか。仰る通りお嬢様は正真正銘の吸血鬼です。」
「うしっ、漸くメジャーな妖怪に会えるってことか。吸血鬼ともなれば睨むだけで人間を殺せそうなほど恐ろしいに違いない。」
少しガッツポーズをしながら想像を膨らませる。
「それではまた後ほど、食器を片付けに参ります。」
「ああ。」
そう言い終えるとメイド長は静かに部屋を出る。そして昨日から水しか口にしていなかった空っぽの胃にエネルギーを蓄えた。
………。
……。
コンッ、コンッ。
「食器をお下げしたいのですが宜しいでしょうか?」
飯を食い終えてから1時間ほど経ったころだろうか、メイド長が食器を片付けに訪ねて来る。
「おう、待ちくたびれたぜ。」
「それじゃあ私はお嬢様のところへ案内するから、食器をお願いね。」
部屋に入ると慣れた手つきで空いた食器を台車に乗せ、後ろに居るメイドに預ける。どういうわけかそのメイドには羽根が生えてるように見える。
「あれはなにメイドだ?」
「妖精メイドです。メイドは私以外みんな妖精です。」
妖精メイドはメイド長から台車を受け取るとノロノロと動かしながら離れていく。その動きからはまったく機敏さを感じることが出来ない、もしかしたら邪魔になるほどにも思える。
「それではお嬢様のお部屋にご案内します。」
そんな事を思いながらも言われたとおり、メイド長に続いて屋敷を歩く。
「そういえば朝食はお前が作ったのか?」
「はい、その通りですがお気に召しませんでしたか。」
確か人間用にって言ってたはずだ、馬鹿にでもしてるのだろうか?
「いやてっきりコックが作ってるのかと思ってな、オレのとこじゃそうだったし。」
「この屋敷の事は殆ど私が担当しております、それにしても朝霧様のお住まいもそうでしたか。」
予想通り、あの妖精メイドは使えないようだ。
「まぁな……って、全然治ってねぇじゃねぇか。」
「すみません、善処しているのですがもう少しお時間が掛かりそうですわ。」
その声色からは必死さが微塵にも感じられないのは言うまでもない。
「まぁいい、それよりもこんな広い屋敷を一人でだなんて時間がいくらあっても足りないだろう……何かしてるのか?」
「そこはメイド長の為せる技です。」
「どこのメイド長もその役職を逃げ道に使うんだよな。」
「否定はしませんが答える義務も無いのでお応えできかねます。」
「とことん食えねぇな。ま、何にもしないなら気にしねぇよ。」
会話がひと段落すると先を歩くメイド長の足が部屋の前で止まる。
「お嬢様、朝霧様をお連れ致しました。」
どうやらお嬢様とやらが居る部屋に到着したようだ。
「入れて良いわよ、咲夜。」
声はどうやら女だ、この時点でオレの想像は外れてしまう。もしかしたら声が高いだけという可能性も捨てきれないが、声から察するに少しばかり幼い気がする。
「朝霧様、くれぐれも粗相の無いようお願いいたします。」
「善処しよう。」
その受け答えに納得していないながらも渋々とメイド長は扉を開ける。
「へぇ、コイツが例の外来人か。私の能力でも随分時間が掛かったわ。」
部屋の作りはオレが案内されたとこと変わらないが家具は豪勢で、赤いカーテンを閉めきっている。能力と言う言葉が少し引っ掛かるが今は気にしないでもいいだろう。髪は青っぽくて肩より少し上くらいでドアノブカバーみたいな物を被っていて、服は白に淡いピンクで腰に大きなリボンが一つと他の場所にもちらほらとリボンが見受けられる。身長は低く、見るからに子供っぽさが滲み出ているが背中から生えている羽根で多少は幼さが軽減されているように思える。
「お前がこの屋敷の主か?」
粗相の無いようにと注意をされたが気にせず、タメ口で訪ねる。相手がどんな奴で、どんな身分でもオレには関係ないからな。
「ええ、レミリア・スカーレットよ。」
「えぇ~、言ってた姿と違うじゃん。全然怖くねぇよ。」
意外にもタメ口を使ったところで怒る様子は無いので、さもメイドとそんな会話をしていたかの様に少しふざけてみる。
「な、なにを仰っているのでしょうか、朝霧様?」
「なにってお前がさっき言ってただろ生き血を主食にしてる吸血鬼で恐ろしい姿だって。明らかに子供じゃん。」
「そのような事を言った覚えはないのですが……。」
まだ会って間もないが表情を変えないメイドも流石に上司の前だからか、少し動揺する。上司の目の前で言ってもいないはずの悪口を言ったなんてことになれば誰だって動揺くらいするか。
「そうだっけ?」
「人間風情がこの私を子供だと?」
女はイスに座ったまま上から目線でオレを睨む。その口調からどうもオレを見下しているのが分かる、実にいけ好かないタイプだ。
「あぁん? 少なくとも容姿だけ見ればガキだろーが。」
「レミリアお嬢様の見た目は幼いですが、500年以上も生きておられるのですよ。」
完全なフォローとは思えない事をメイド長が補足する。
「500年かよ。やっぱり妖怪はスケールが違うな、人間なんかとは比較にならん時間だ。それで何か用でもあるのか?」
確か新聞を読んで会いたいと言っていたそうだが何も無いのに見下している人間を呼ぶとは思えない。
「まずは人間であるなら言葉遣いを正せ。私は誇り高き貴族なのよ。」
どうやら名乗りだけが普通だったようで、典型的なお嬢様なようだ。妖怪で500年生きてるだけあって資産家の娘より性質が悪い。だとしてもオレ自身喋り方を改めるつもりは無い。
「そんな事知ったことじゃないな、貴族がどうのとかそんな事オレには関係ねぇ。寧ろテメェの方こそ敬語を使えよ、オレは客だぜ?」
挑発するように右手の人差し指でレミリアを指差し、上から目線で言う。
「ふん、客だと? 笑わせるな。お前は私の能力で導かれたのよ。」
「能力だぁ?」
「そう、運命を操る程度の能力よ。」
前に霊夢が何かしらの能力を持っている奴が居るとは聞いていたがこの事だろうか。
「そうかよ、でも言うだけなら簡単だ。実際にその能力を使って呼んだとどう証明する?」
実際に能力とやらを見た事が無いためにオレの好奇心が強く出る。
「ならこの場で使ってやる。そうだな、この場で私に殺されるというのはどうだろう。」
「お、お嬢様いくらなんでも――」
さすがのメイド長も慌てて止めに入るが、少し遅かった。
「寝言は寝て言え、今この場でオレが殺される? どこであろうと殺される事にはならないさ。」
レミリアの発言はいちいち癇に障る。それに半笑いしながらまるでオレを生かしているのは自分だと言わんばかりの口調には腹が立つ。
「その自信は一体どこから出るんだか、仕方ないし試してやるよ。」
呆れながらもレミリアはイスから降りる。
「そっちがその気なら女だからって容赦はしないぜ。」
そう言いながらいつ攻撃されても対応できるように意識を張り巡らせる。実際に妖怪なんかと戦った事は無いが、真面目にやらなければ致命傷を負っても不思議ではないだろう。
「それはこっちの台詞だっ。」
レミリアは喋りながら右手の拳を握り締めてオレの顔を狙い、飛躍する。人外だけあってその速さは尋常では無く、自分の腕を犠牲に軌道を変えるので精一杯だと思えてしまうほどだ。オレはすぐに右腕を出し受け止める事でかろうじて速度を下げてから、力を入れて払うように軌道を顔から右側へ逸らす。もちろん、受けるだけじゃあ腹の虫が治まらない。相手がこの一撃で終わると思っているためかレミリアは反撃に対する構えをしていない。たとえ速度が速くても避ける気が無いのであれば当てる事は出来る。恐らく人間程度が殴ったところでダメージは無いだろう、それでも狙う場所によってはある程度の効果があるかもしれない。
「おらっ!」
オレは容赦なく、レミリアの顔を空いている左手で勢いを利用して殴りかかる。が、確実に当たると思われたオレの拳はあと数センチのところでなぜだか空を切る。
「くっ!?」
なぜかレミリアの表情が少し曇り、視線が一瞬メイド長へ。どうやら顔に当たる直前にメイド長が何かしらの行動をしたようだ。そんな事が分かってもここで引き下がるわけには行かない。寧ろ、油断している今しか好機は無いのだから。
「……っは!」
オレは距離を放さずにそのまま空を切った左腕の勢いを使って身体を回転させ、右足の踵から回し蹴りの要領で再度、顔を狙う。
「男の癖に女性の顔を狙う? それも思いっきり。」
ギリギリのところで後退されて躱される。その動作をしたということはメイド長の介入は無かったものの、驚異的な反応速度で避けられたと考えられる。距離をとられたことで追撃が出来ず、次の攻撃に対応できるよう体勢を整える。
「……やめだ。」
すると先程までの態度がまるで興が冷めたように変わる。
「なぜ手を出したの? 咲夜。」
「すみませんお嬢様。ですがお顔に傷を負わせるわけにはいきませんでした。」
この会話からあの一瞬、メイド長の行動により回避できた事が明確になった。
「人間如きの攻撃が効くわけが無いでしょう。」
「そう言うわりに蹴りをてめぇで避けたよな? ってことは少なからずダメージを受けると思ったんだろうが。」
「つくづく人間の癖に態度を改めないわね……まぁいい、決めたわ。」
レミリアはそう言うと笑いながら歩み寄ってくる。なぜかその表情は麗華がオレをボディーガードにすると決めたときに似ている気がした。
「人間のわりには骨のある男だし……私が退屈しないためにお前には当分、ここに居てもらう。」
「やわな鍛え方してないからな、オレの骨が硬いのは当然だ。」
「その右腕で言われても説得力はありませんね、それに会話が微妙にかみ合ってませんし。」
ぷらぷらと揺れているオレの右腕をみて、メイド長が呆れながら呟く。
「そんな事はどうでもいいか、とりあえず断る。」
「生かされた分際で良く言えるわね。」
「単純に手を抜いたお前が悪い。」
それでも十分に人間を殺せる力だったはずだ、出なければ右腕が骨折することは無かっただろう。そう言うとレミリアは何事も無かったかのように再びイスに座る。
「なんだ、もう終わりか?」
もっとも、次の一撃がさっき以上であれば受けきることに全力を尽くさなければならないだろう。そのため、警戒を解かないまま訪ねる。
「執事として役に立つのならいいが、その怪我じゃすぐには出来無さそうだしとりあえず居候という形にしておく。」
メイド長の言うとおり、会話がかみ合わない。と言うよりレミリアが勝手に話を進めている。
「いやいや、人の話はちゃんと聞けって。」
仕方なく警戒を解き、ツッコミに回る。
「……不服なの? 質の良い衣食住は保障するわよ。」
「確かに衣食住の質は良いから問題は無いってそうじゃねぇよ! 殺そうとしてた態度はどこにいったんだ。」
「手を抜いたにも関わらず殺されるような人間じゃあ退屈凌ぎにならないからね、試したのよ。怪我の具合を見てあげなさい咲夜。」
「勝手に話を進めるんじゃねぇ。」
怪我をしていない左手でレミリアの頭を叩く。
「きゃっ。な、なにをする!」
先程までの高慢さがまるで幻だったかのように口調が幼くなっていく。
「誰がテメェの退屈凌ぎのためになるような事するかよ。」
「……帰っても暇なのにすぐ帰るの?」
どうやら元の世界に戻っても予定が無い事は筒抜けらしい。
「ったく、折角完治したと思ったらまたこれかよ。とりあえずこの腕が治るまでは居てやる。」
「だったら叩かなくてもいいじゃない!」
「こっちは腕折られてんのにお前が無傷なんて腹の虫が治まらないからな、本当なら鼻ぐらい折ってやるところだ。」
「折る気マンマンで蹴ってきたくせによく言うわ。」
やはりレミリアはオレが手を抜いていない事、それに女だろうと容赦しないと見抜いていたのだろう。だからこそ怪我を負う可能性を極力下げるために後退した……はずだ。
「まったく、人間の癖に強がるからよ。もっと穏便に出来たのに自業自得ね。」
メイド長は怪我の具合を調べるために近くに来て、腕を触る。
「人間だろうと無かろうと意地ってもんがあるだろ。お前にもあるんじゃないのか?」
「どうかしら、考えた事もないわ。」
「っつか、急に砕けた返しになってんのな。」
「さっきまでは客人だったけど居候なら変わるのは当然でしょ、朝霧くん。」
「それなら仕方無いな……っていやいや、客として扱ってた時に助けろよ。客は神様って言うだろ。」
「たとえ神様であろうとお嬢様に仇なすのであれば関係ないわ、それにあの口の利き方じゃ当然の報いよ。もっとも本当に殺されるのなら止めてたけど。」
ちゃんとメイド長……咲夜とレミリアの間には主従関係が築かれている事が分かる。それだけ長い時間、一緒に居たという事だろう。
「十分死ぬ状況だっただろうが。」
「でも、現に朝霧くんは生き残ってるじゃない。それにあれで死ぬようならその方が幸せだったわよ。」
「なんだそれ。」
実に含みのある言い方だ、まるでこの先これ以上の怪我を負ってしまうような口ぶりだな。
「どう咲夜、怪我の具合は。」
気付くとイスから降りたレミリアもオレに近寄ってくる。
「お嬢様にしては手加減したつもりでしょうが、朝霧くんが衝撃を受け流してなかったら間違いなく吹き飛んでいましたよ。」
「そうなの? これだから人間の相手は疲れるのよね。」
二人は冗談交じりに他愛も無い会話をしていると思っているだろうがオレからしたら冗談じゃない内容だ。最近になってまた、鍛えておいて良かったと思わせられることが増えてる気がするがここまで差があると一撃を貰うだけで直接生死に関わってしまう……今後こういった奴等とやるときは何かしらの条件を設けさせて貰おう、もっとも大人しく従ってくれるかは運に任せるしかないが。
いかがでしたでしょうか?
一応レミリア回でしたが内容を考えていたらなぜだか戦闘回になっていました。
それもまさかのレミリアと。
戦闘は美鈴とかなって考えていたんですが……なぜこうなってしまったんでしょうか。
次回は美鈴回の予定ですが変わる可能性が大いにありますので読者の方々も妄想を膨らませながら御待ちくださいませ。
読者の方々、ご観覧ありがとうございました。
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