不真面目なボディーガード訓練生が幻想入り   作:橘恵一

28 / 43
皆さん改めまして、明けましておめでとうございます。

最近急に一段と寒くなってきましたので風邪にはお気をつけくださいね。

それではお楽しみください。


第28話 「とか言って遭難しましたってのは無しだぜ?」

「専門職ではないので詳しく分かりませんがどうやら複雑な骨折ではないようです。」

 

 オレの腕を調べ終え、咲夜は分かった事を喋りだす。一介のメイド長にしては上出来だろう、なんせどのくらいの怪我かを判断する事が出来るのだから。

 

「よし、そうと決まれば早速屋敷のあんな――」

「今の話を聞いてましたか、お嬢様? 朝霧くんは顔に出してませんが相当な痛みの筈、なので案内どころではありません。まずは医者のところへ連れて行きます。」

 

 怪我の具合をどう解釈したのか理解に苦しむが咲夜がレミリアにも分かるように説明する。二人はお嬢様とメイド長という主従関係があるにも関わらず、今の会話からは重苦しい雰囲気は感じられない。

 

「そうか……じゃあ――」

「言っておきますが太陽が出ているのでお嬢様はお留守番です。」

 

 付き合いが長ければ何を考えているか分かって当然なんだろう、レミリアが言い切る前に断りを即座に伝える。どうやら同行するつもりだったらしい。

 

「ええ!? そんなの傘を差せばいいでしょ。」

「普通なら許可しますけど、朝霧くんが何かしたら大変ですからね。」

 

 そう言われたレミリアは何かを考えながらオレをジロジロと観察する。

 

「言われてみればその可能性がまったく無いわけじゃないし、仕方ないか。」

 

 会って間もないのにも関わらず、既に何かをやらかすと思われてしまったようだ。

 

「なぁ、そろそろ会話に入ってもいいかな?」

 

 話題に上がっている当の本人をほったらかしにしていたのでとりあえずオドオドと訪ねてみる。

 

「あら? 普通に会話できるの? てっきり痛くて喋れないかと思ったのに。」

 

 わざと言っていると誰にでも分かるように返すメイド長。

 

「痛くて喋れないと思ってんなら少しくらい急ぐ素振りを見たいもんだ。」

「そう言えるなら歩いて医者に向かっても平気そうね。それでも一応、腕の固定くらいするからここで待ってて。」

 

 意外と怪我人に対する対応をちゃんとしてくれるようで、道具を取りに部屋を出て行く。

 

「妖怪なら骨が折れても一晩寝ただけで治りそうなもんだが。」

「大体の妖怪はそうでしょうけど咲夜はあれでも人間だから色々準備してるんじゃないかしら。」

 

 咲夜が居ないので部屋に二人きり、そうなれば必然とレミリアが言葉を返してくる。

 

「……人間なのか?」

「能力はあるけどね。」

「人間離れしてるわけか。」

「一般人と違い能力を持っているだけで身体の構造は朝霧と同じよ。」

 

 言われてみればそうかも知れない。人外から発せられるような雰囲気はあまり強く感じられなかった。

 

「と言うとオレに能力があっても可笑しくないわけだよな。」

 

 勝手な想像で能力を持つには何かしらの条件が必要、んでその一つが人外であると推測していたが違っていたようだ。だからといって能力を手に入れようなんて事はまったく思わないけどな。

 

「一説には幻想郷に長い間居ると能力に目覚めるってことがあるらしいわ……信じるか信じないかは朝霧次第だけど。」

「ほにゃらら伝説のつもりか? 元おはようさよならの片割れが言いそうだ。」

「元おはようさよならってなによ。」

「……知らないなら気にするな。」

 

 最近お茶の間で聞かないからてっきり忘れ去られているかと思ったがそうでもなかったようだ。世間への露出度が減っても有名人であることには変わらないか。

 

「お待たせ。」

 

 気付くといつの間にか道具を持ってきた咲夜が現れる。

 

「意外と準備に時間が掛かるんだな。」

「瀟洒な従者であれば当然です。」

 

 スタスタとオレの傍に寄り、腕を固定し始める。

 

「瀟洒って自分で言うもんじゃないだろ……因みに聞くが歩いてどのくらいなんだ。」

 

 少なくともこの付近には医者が居そうなところは見当たらなかったので、気になって訪ねた。

 

「一日あれば着くかと。」

「遠いだろうよ、致命傷だったらまず間に合わない程だ。」

 

 急を要する症状であったなら間違いなく手遅れになるな。

 

「でもその代わり腕は良いからスグに治るわ。」

「技術力の無い幻想郷で言われても説得力ないな。」

 

 もしかしたら摩訶不思議呪文のような事をして死んでも蘇ったりするかもしれないが。

 

「はい、これで応急処置はなんとか出来ました。では、行きましょうか朝霧くん。」

 

 オレの質問に答えながらも慣れたような手つきで固定を終わらせ、医者へ向かう為に部屋から出ようとする。

 

「なるべく急いで帰ってきなさい、咲夜。」

「はい。それでは行って来ます、お嬢様。」

 

 咲夜の後についていくような形で部屋を後にする。

 

「それにしても運命を操ろうとは思ってたんだけどな。本気じゃなかったと言われればそれまでだけど、その気が無いわけじゃなかったのに……。」

 

 オレたちが扉を閉めるとなにやらレミリアがぶつぶつ言っている気がするが気にせずに門へ向かう。

 

「あっ、おはようございます海斗さん……その腕どうしたんですか?」

 

 門に近付くと美鈴が挨拶をしてくるが見慣れているようであまり驚いていない様子だ。

 

「この屋敷のお嬢様とやらに折られたんだよ。」

 

 顎を使って屋敷の方向に一振りする。

 

「そ、それは災難でしたね。と言うより、生きてて良かったです。」

「やっぱり着目するのはそこなんだな。」

 

 禁止区域の頃じゃ誰かに心配されることなんて無かったから、変な感じだぜ。

 

「だって海斗さんは普通の人間ですからね。」

 

 ……すげー、惨めな感じだ。

 

「もしかしたら気を自在に操り、弾幕とやらを打ち出すかも知れないだろう。」

「気の質から見ても、それは無いですね。少なくとも現段階では出来そうにないです!」

 

 急に背筋を伸ばしてドヤ顔しながら美鈴は言い放つ。

 

「ただの門番に何が分かるってんだよ。」

「これでも気を操る程度の能力があるので気に関しては自信があるんですっ!!」

「なんだか急に眩しく見えるぜ。」

「気に自信があっても良いけど、門番に対しても同じくらいあるのよね?」

 

 今日は既に挨拶を交わしていたのだろうか? 先程から喋っていない咲夜だが気に掛かったようで問いただす。その表情に変化は見られないが気持ちは怒っているように感じられる。

 

「も、もちろんですとも……ちょっと言い忘れただけです。それはともかく、軽い骨折なら私が治しますよ。」

 

 咲夜の視線が痛いようで、無理にでも話を変えて来た。

 

「生憎とその程度で済んでたら自分で出来る。つか、人外相手に軽くで済むわけないだろうが。」

「言われてみればそうですね。ならこれから治療のために永遠亭に行かれるわけですか。」

「ええ。美鈴、一応無いとは思うけどお嬢様が着いてこないように見ておいて。」

 

 ここまで念を押して注意するって事は余程、外に出られたら困るのだろう……太陽がどうのって言ってたし、光を浴びると致命傷を負ってしまうのかも知れないな。

 

「はい、わかりました。あの海斗さん、腕が治ったらお手合わせをお願いしてもいいですか?」

「腕の次は足を折るつもりかっ!」

「大丈夫ですって、お嬢様より手加減するのには慣れていますから。威力は人間相手に合わせます。」

「地味に嫌味を言うな、言ってるつもりはないんだろうけど。」

「で、どうですか?」

 

 はっきり言って妖怪がわざわざ人間相手に手合わせを申し出る事に違和感しか感じられない。仮にオレがどこかの武術家であるなら分からなくもない。が、生憎と武術は愚か、柔道や合気道でさえ知っている程度だ。

 

「……オレは気分屋だから断る。」

「さすが海斗さんですね……って断るんですか!? 身体を鍛えていらっしゃるのに?」

 

 南条のときに経験したがそれなりの実力者の目はあまり誤魔化せないらしい。

 

「関係ねぇだろ、なんと言われようとこの答えが覆ることは無い。ただ腕が治ったあとならさぞ気分が良いだろうな。」

「なるほど。海斗さんは気分屋なんですね、なら改めて申し込みます。」

「すべてにおいてタイミングってのは重要な要素だからな。んじゃ、行って来る。」

「はい、お二人ともお気をつけていってらっしゃいませ。」

 

 美鈴との会話を終えるとオレたちは門を出て、医者の場所へ向かうため足を動かし始めた。

 

「で、この後はどうするんだ?」

 

 湖を越えて森に入ったところで案内人に尋ねる。

 

「確か朝霧くんは人里に言った事があるのよね。」

 

 恐らく、射命丸の新聞にでもその情報が載っていたのだろう。

 

「もちろんだ。」

「外来人の癖に自信ありげに言えるわね……人里からなら博麗神社への帰り道は分かるの?」

「地味に辛辣だな……他には魔理沙やアリスの家までわかるぜ。」

「だったら人里を通って迷いの竹林へ行きましょう。」

 

 竹林と聞いて最初に来た場所を思い出す。

 

「この辺で竹林はどこにでもあるのか?」

「いえ、迷いの竹林一箇所くらいね。」

「なら、オレが始めて来たときに見たのがその竹林ってことか。」

「その時は森を彷徨ったって事かしら。」

「ああ。元居た場所に竹は無かったし、当然の行動だったぜ。」

「もしかしたら朝霧くんは強運の持ち主かもしれないわ。」

 

 咲夜は少し意外そうな顔を見せる。

 

「たかだか竹林を選ばなかっただけで大袈裟な。」

「迷いの竹林って言うのはその名のとおり入ることは出来ても抜け出す事は容易じゃないの。少なくともその周辺の住人じゃないと出られないの。」

「危うく樹海で生涯を終えるところだったってわけか。」

「そうなっていても不思議じゃなかったって事だけど。」

「ま、今更どうでもいいことだぜ。つうとあれか? お前も医者が居る場所まで行けないのか。」

 

 紅魔館は周辺じゃないし、能力があるだけでただの人間である咲夜が辿りつくのも難しいだろう。持っている能力にもよるが。

 

「察しが良いわね。そのとおり、居る場所は分かるけど行き方までは把握してないわ。」

「おいおい、じゃあどうすんだ? まさか、竹林の近くで妖怪をヒッチハイクでもすんのか?」

「あながち間違ってないわ、専門の案内人に依頼するのよ。」

「目的地が医者なんだし、ソイツはさぞ儲かってるに違いないな。」

 

 その後、会話もしないまま一先ず人里へ到着した。すると前方に見知った服装の魔法使いらしき女を見つける。

 

「……あれって魔理沙か?」

「あんな服装をしているのは他に居ないわよ。」

 

 どうやら幻想郷でもあんな格好をしているのは他に居ないらしい。そのままオレたちは歩き続けると向こうも近付く、そうなれば当然気付かれるわけで。

 

「よう、魔理沙。」

「うげっ!? なんで海斗が居るんだよ、しかも紅魔館のメイドといっしょに。」

「もっとマシなリアクションしろよ。ま、かくかくしかじかあってだな。」

「全然伝わらないぞ。」

 

 魔法使いだからって通じると思ったが当てが外れた。

 

「ならお前の称号はポンコツ魔法使いに変更だ。」

「そんなんじゃ分からないのも当然じゃない……昨日から幻想入りして森を彷徨っていたら紅魔館に辿り着いて居候になったのよ。」

 

 オレの代わりに咲夜は簡単にまとめて説明する。

 

「なるほどな。それよりも外来人が二度来るって初めてじゃないか?」

「そうなの? あなたが初めてって言うなら初めてなんじゃない。」

「海斗は運が良いのか、悪いのか。」

「明らかに悪いほうだろう。」

 

 一回ならまだ良かったが二回目ともなると二度あることは三度あると言う言葉が適用されてしまう恐れがあるからな。

 

「幻想郷の住人としては耳が痛いぜ。」

「なんならもっと痛い目に合わせてやってもいいんだぜ?」

 

 ここに来た頃コイツには馬鹿にされてたし、理由はいくらでもある。

 

「遠慮しとくよ……ってその腕どうしたんだよ!?」

「気付くの遅っ!」

 

 身長的にもまず腕に目が行くと思ったんだが。

 

「妖怪にやられたってんなら、代わりにやり返してきても良いぜ。」

「よし、だったら早速ぶちのめして来い。相手は紅魔館の吸血鬼だ、今なら注意を逸らすぐらいは協力してやる。」

「……生きてるってことはレミリアか。」

 

 実に意味深な発言だ。

 

「ほう、知ってんのか。」

「そりゃあ異変解決に私も関わってるからな、どうせお前がなにかしたんだろう?」

 

 そういや異変ってのを解決してるんだっけか。

 

「何もしてねぇよ。ただ容姿を馬鹿にしたり、タメ口聞いたり、売ってきたケンカを買っただけだが。」

「どう考えても色々しすぎじゃないか。」

 

 魔理沙は帽子の鍔を掴み、ため息混じりに言う。

 

「これでもまだ何もしてないほうだ。」

 

 と言うより、何も出来ていないと言ったほうが正しいだろうな。

 

「メイドとしてその発言は聞き捨てならないわ、居候とはいえ監視しておく必要があるみたいね。」

 

 隣に居る案内人がイタズラっぽく微笑みながら、呟く。表情が変わらないメイドからは本気なのか、冗談なのかを判別しにくい。

 

「監視の目を掻い潜るのには定評がある、望むところだ。」

「いやいや、そこはやらないようにしろよっ。」

「退くことは簡単だが進んだ先に聳え立つ壁が高いほど燃えるってもんだろう。」

「言葉だけ見れば中々良いこと言ってるみたいだけど、内容を考えると子供だよな。」

「今しか出来ない事を今やっていくのがオレのポリシーなんだ。」

「じゃあ今は医者に向かう事を優先しましょうか。」

「と、言うわけでおしゃべりはここまでだ。こんな奴ほっといて行こうぜ咲夜。」

 

 道も分からないが咲夜の前を歩き始める。

 

「話しかけてきたのは海斗からじゃないかっ。」

 

 魔理沙が捨て台詞を言っているようだが無視して進み続ける。このまま一日が過ぎても構わないがわざわざ治療しに行く以上、今日中には着いておきたい。

 

「それにしてもなにがものめずらしくて人里のやつらはこっちを見てたんだ?」

 

 人里から出て、見覚えのある森に入ってから気になった事を聞いてみた。確か霊夢と買出しに来た時はここまで注目されなかったはずなんだが、これも新聞のせいなのだろうか。

 

「朝霧くんの腕と声が大きいからじゃないかしら?」

「確証は無いがお前が誰かと一緒に人里に居る事のほうが珍しいと見た。」

「そういえばどうしてお嬢様を殴ろうとしたとき避けられたのに止めなかったの?」

 

 お互いに事実を言いあうと咲夜は一瞬だけ間を置いてから聞いてきた。聞き方からして、かなり気になっていたのだと判断できる。

 

「……オレは避けられたと思ってないぜ? あの時レミリアはお前の方を見てたからな。」

「それで私が何かしたと。」

 

 その何かを聞かれたら答えに困るが今はその話じゃないし、構わないだろう。

 

「ああ。だからそのまま攻撃に移ったわけだ、正真正銘避けられちまったけど。」

「人外相手で怖くなかったの?」

「怖いねぇ、寧ろ楽しかったくらいだ。最近はぬるま湯に浸かってるような感じだったからな。」

 

 龍には色々思うところがあったがオレ自身、なんだかんだで強い奴とやり合うってのは嫌いじゃない。

 

「どんなとこにいたのか少し興味が出たわ。」

「興味を持つのは勝手だ。それよりも専門の案内人ってのはどこに居るんだ?」

 

 時間が経ち空が暗いのか、森の木々が生い茂っていて暗いのか分からない。いつのまにか周りは暗くなっていて、目の前には竹林が見える。勝手に辺りを見渡すが人が住んでそうな場所は確認するこが出来ない。

 

「ここを少し進めば見えてくるはずよ。」

「とか言って遭難しましたってのは無しだぜ?」

「大丈夫よ、最悪遭難しても私がなんとかするから。」

「そいつは頼もしいっすわ。」

 

 竹林に入り少し歩くとまるで迷路のように行き先が分からなくなっていく。来た方向さえ覚えていればいいと思っていたのだがどうやら方向感覚が可笑しくなりそうなほどだ。そんな事を考えながら咲夜の後をついていくと小屋が見えてきた。小屋は辛うじて人が住めそうではあるが、あくまで寝るための設備だけがあるように見える。……見るからに高身長でヒゲがモジャモジャのオッサンが出て来そうだぜ。そんな妄想を抱きながらオレたちは小屋に近付いていく。




いかがでしたでしょうか?

前回から色々時期が重なってかなり間が空いてしましました。
体感では2週間くらいかなと思ってたんですが。

さて今回は美鈴だけではなく、魔理沙も登場させました。
構想段階ではなぜかはたてを登場させようかと考えたりしましたが、そこは別ルートかなっと思い未実装で。

次回は永遠亭での治療回の予定ですが変わる可能性が大いにありますので読者の方々も妄想を膨らませながら御待ちくださいませ。

読者の方々、ご観覧ありがとうございました。
ご意見、ご感想、ご指摘がありましたらお気軽にメッセージ等にお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。