不真面目なボディーガード訓練生が幻想入り   作:橘恵一

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気がつけば4月もそろそろ終わり。

こんなことを言うと早すぎと言われるかも知れませんが僕の頭は8月のことでいっぱいです。

やっぱり人間というのは好きな事もそうだが極端に嫌いな事も覚えてしまうし、気にしてしまうようですね。

それではお楽しみください。


第31話 「ほんとよく読むわ。」

 オレの前に立ち止まっている女は赤い長髪で白いシャツに黒いロングスカート。服装だけで言えば控えめなんだろうがそれも羽が生えていることでガラリと変わった。その羽は頭と背中から生えていて射命丸のような動物的なものではなく、レミリアに似たような悪魔を思わせる形をしている。

 

「読める文字か。」

 

 悪魔のような羽もレミリアと言う前提があったことからそこまで驚くことでは無いので聞かれたことについて考えるようにしよう。今までジャンルを問わず本を読んではいるものの、未だに英語や中国語など海外の物には足を踏み入れていない。いつかは読めるように学ぶつもりではいるが、わざわざここですることじゃないだろう。

 

「どんな文字をお読みになられるか仰っていただければその本がある場所へお連れいたします。」

 

 すぐに答えれば良いのだが、この女の口調や仕草から見て揶揄ってくるだろうと予想できる。ともなれば日本語や漢字と大雑把に言うことで古い中国語や古代文字と判断されるかも知れない。

 

「ひらがなだ。それも人里にいるガキが読める程度な。」

 

 前に一度人里で立ち読みしたがそこにある大抵の本は読める物だった。加えてオレ以外にも読んでいる子供や大人がいたことを踏まえると憐桜学園の奴らと変わらない語学力のはず。

 

 勝負に勝ち誇ったような気分で女に伝える。

 

「ひらがなですか、であればこちらです。」

 

 女はリアクションを何一つ取らず、前を歩いて案内し始める。そして少し進みと立ち止まり、振り返った。

 

「この周辺にある本棚であれば読めるかと思います。」

「ここの本は棚に入ってるのだけで全部なのか?」

 

 棚に並べられている本を眺めながら女に尋ねる。どう見てもデパートの本屋より数があるのは明白だ。

 

「いいえ、あくまで整理出来ている分ですので他にありますよ。」

「お前一人でやってるのか。」

「たまにですがパチュリー様も手伝ってくださいますよ。」

 

 ここに居たのは二人だけで、その内の片方がたまに手伝うだけってことはほとんど一人でやったということだろうか。そんなことが出来るのは寿命が長い奴の特権だな。雑談している最中に何冊か本をめくり、あることに気づく。

 

「もう一ついいか?」

「なんでしょう。」

「確認なんだが人里のガキでも読めるのって言ったよな。」

「そうですね、仰られたとおりの場所に案内いたしました。」

 

 そう言う女は表情を崩さないまま簡潔に答える。

 

「びっしりと英語なんだが。」

 

 一冊を手に取り、女にも文面が見えるように開く。

 

「最近の子供はお好きなようで英文もお読みになられるそうで。」

「マジで!?」

「はい、マジみたいです。」

「……百歩譲って英語は認めてやる、だがこの文字はなんだ。」

 

 先ほどの本を戻し、明らかに英語では無い本を取りだして再び文面を見せつける。

 

「最近、人里の教師が子供にも語学力を。というので勉強しているそうです。」

「マジかよ、うちの主席でも読めねぇぞ。」

 

 人里の様子から語学力が低いと思っていたが考えを改めなければいけないようだ。

 

「そうだろうと思います、冗談ですから。」

「……。」

「お客様の緊張を解すためのジョークってやつですよ。」

「じゃあそれも嘘か。」

「はい。」

「そこは違いますぅ、っだろ。」

「それじゃあ次に機会があればやってみましょう。」

「そうしろ、そうしろ。」

 

 話しながら物色をしていると日本語で書かれた本を発見したので読む体制を取る。

 

「なにか御用があればなんなりと言ってくださいね。」

「ああ。」

 

 本の虫と呼ばれている女に仕えているだけあって、さすがに読書の邪魔はしないようだ。オレが本を開くのを見届けてから静かに離れていく。

 

「小悪魔、朝霧は?」

 

 案内を終えて小悪魔が戻ると、レミリアは気になって仕方ないのかすぐに訪ねる。

 

「読書くらい静かにしてほしいとのことでした。」

「レミィにしては珍しくインドアな子に目をつけたわね。」

 

 意外そうな表情をしながらパチュリーは答える。

 

「どうせ上っ面だけの薄い皮でも被ってるのよ。」

「本を見てた時の目はパチュリー様に親しい感じでしたけど。」

「2時間もすれば奇声を上げて飛び出すに違いないわ。」

 

………。

 

……。

 

「で、朝霧はどう?」

 

 レミリアは喉を潤すために出されている紅茶を飲む。普段はあまり多く会話する性格ではないものの、外来人という格好のネタがあれば数時間話し込むのには充分だった。

 

「変わらず本を読み続けていますよ。」

 

 聞かれた小悪魔は宙に浮かんで朝霧を見ながら答える。

 

「彼の事どうするの?」

 

 会話している最中も終始読書をしていたパチュリーも少しは気にかかるようで尋ねる。

 

「とりあえず治療中だし、数日は好きにしてもらう予定。治り次第なにかしらさせるかもしれないけど。」

 

 そう言うとレミリアは席を立ち、朝霧の方へ歩いていく。

 

「数日ねぇ。」

 

 パチュリーも紅茶を一口飲み、続いて浮かびながら朝霧のもとへ向かう。

 

「朝霧。」

 

 レミリアは両手を腰に当てながらオレを呼ぶ。

 

「…………。」

 

 人が静かに本を読んでいるのにも関わらずズケズケと来る奴にわざわざ反応する必要は無い。

 

「朝霧っ。」

「………………。」

 

 どうやら2回無視したことでお怒りになられているようで、足を動かしこちらに近寄ってきた。

 

「朝霧っ!」

 

 隣で立ち止まると耳元で大きく叫ぶ。

 

「うっせえな、図書館では静かにしろって言われてねぇのかよ。」

「言われて無いわ。」

「あっそう。」

 

 適当に返事を返して再び本へと視線を戻す。

 

「っじゃなくて、今日はどうする? まさかこのままここにいるの?」

 

 どうすると言われても特にやることもないし、答えは決まってるんだけどな。

 

「どうせ他に案内するような場所も無いだろうし、ここにいるさ。」

「パチェの許可が無いとそれはできないわ。」

 

 そんなことを言われたところにその本人がぷかぷかと浮かびながら現れる。その容姿はレミリア同様に幼い。淡い紫色の寝衣のような服で変な被り物をかぶっている。

 

「……ってことらしいから許可をくれ。」

「ふふふ、そんなタメ口聞いてパチェが許可するとで――」

「騒がしくしないのと本を汚さないのであれば構わないわ。」

「読書家であればそんなことは暗黙の了解だな。」

 

 言われたとおりに許可も取ったことだし、引き続き読書させてもらうとしよう。

 

「パチェの本を初対面の奴なんかに読ませていいの?」

 

 その返答が意外だったようでレミリアは優越感に浸っていた表情から一変し、驚きの表情へと変わっていた。

 

「本ってのは誰かに読まれることに意味がある、知ってほしくないのであれば書き留める必要なんてないからだ。」

「そうね。乱暴に扱わず、ただ読むだけであれば本にとっては喜ばしいこと。荒事を起こさないなら構わないわ。」

「そう、わかったわ。夜には咲夜に夕食を用意させるから上に来なさいよね。」

 

 レミリアも納得したようで、一言言い残してから図書館から出て行く。

 

「これで騒がしい奴が消えて集中出来るってもんだ。」

 

 気を取り直して本を読みなおそうと思ったところで司書が近くへ寄ってきた。

 

「海斗さん、紅茶飲みますか?」

「……そうだな貰おう。」

 

 読みかけの本を棚に戻し、さっきまでレミリアが座っていたであろう席に座り紅茶が出てくるのを待つ。それを聞いてか、浮いていた図書館の主は目の前にある席に座る。

 

「そういえば紹介がまだだったわね、私はパチュリー・ノーレッジでこっちが小悪魔よ。」

 

 自分の名前を言いながら、紅茶を用意している女を指差す。

 

「だからパチェにレミィか。お前はここにあるすべての本を読破してるのか?」

「いいえ、していないわ。」

「いくら長寿でも時間が足りないってか。」

「海斗さんどうぞ。お口に合わなかったらご遠慮なく申し付けくださいね。」

 

 パチュリーと話をしていると小悪魔は紅茶をテーブルの上へ置いていく。

 

「急に名前で読んでんのな。」

「さっきレミィに殴ろうとして返り討ちにあったって言う外来人、朝霧のことを聞いてたから。」

「ったく、口の軽い奴だ。」

「それはそうとここに来てから新しく興味のある本に出会えた?」

「もちろんだ、魔理沙の家で読んだ魔術関連の本は初めてで衝撃的だったぜ。応用編でなければ尚良かった。」

「盗人でも本は捨てたりはしてないみたいね、一度読んである物ばかりだから多少は多めに見てるんだけど。」

 

 今の会話を聞く限り、どうやら魔理沙の奴が本を盗んでいくらしい。もしオレがまだ読んでいない小説を盗っていくのであれば全力で阻止するとしよう。

 

「内容を覚えていてもまた読みたくなる時なんてよくあることだろう。」

 

 ここまで本を集めていても一度読んだからといって飽きるとは思えない。いや、寧ろ逆だ。本が好きなら尚更読み返したくなるはず。

 

「小説の類ならそうだけど、大体読むのは魔術関連だから気にしないわ。」

「私は時間を見つけて小説をよく読んでたりしますので困りますけどあんまり盗られないのが救いですね。」

「泥棒がいるならこれからは小説を優先的に読破していくとするか。」

 

 魔理沙の家を見た限りでは小説のようなものは少なかったはずだが、盗っていく可能性が無いわけではないだろう。

 

「一応聞くが魔理沙が来るのは定期的か?」

「残念ながら来る日も盗っていく本も気分次第ね。」

「ならこの数日の間に来るってことも――。」

「大いに有り得るわ。」

 

………。

 

……。

 

「パチュリー様、朝霧くんの夕食をお持ちいたしました。」

 

 ドアがノックされたあと、伺いを立てる咲夜の声が聞こえた。

 

「入って構わないわ。」

 

 そう答えられると咲夜は夕食を持って図書館に入ってくる。

 

「あの、朝霧くんはどこでしょうか?」

「小悪魔呼んであげて。」

 

 パチュリーは先ほどまでと変わらず本から視線を逸らさずに小悪魔へと要件を伝える。

 

「海斗さーん、夜ごはんだそうですよ。」

 

 そう言いながら小悪魔は顔をオレの顔に近づける。

 

「勝手にオレと本の間に入るな。つか、飯ならお前がここまで持ってこいよ。」

「ごはんだけならいいんですが、なにやら咲夜さんからお話があるみたいです。」

 

 確か上に来いって言ってた気がしなくも無い。話があるってことはレミリア関係の話だろう、それぐらいしか咲夜が来るとは思えないし。

 

「……わかった、わかった。行くからこれ預かってろ。」

 

 渋っても仕方ないので、読みかけの本を小悪魔に預けて咲夜の元へ向かう。

 

「お嬢様が上に来ないから心配してたわよ。」

 

 ほら、正解だろう。

 

「苛ついてたの間違いだろ。」

 

 少し腹が減ってたので咲夜が持ってきた夕食のサンドイッチを頬張る。図書館ということもあり、手軽なサンドイッチを選ぶあたり出来たメイドなんだろう、もっとも夕食にしては軽すぎるんだが。

 

「まだ出会って日が浅いのによく分かるわね、朝霧。」

 

 視線を動かさずにパチュリーが横から言ってくる。

 

「ああいう高飛車が多かったからな、なんとなくだ。」

「朝霧も苦労してるのね。」

「どの口が言うんだか。」

 

 同情するかのような言い方をするパチュリーとは対照的に咲夜はため息をついてポツリと呟いた。

 

「そういえば今思い出したんだが、オレの記事ってここにあるのか?」

 

 2つ目のサンドイッチを手に取りながら尋ねる。

 

「今はレミィが持ってるんじゃないかしら。」

 

 新聞ならここにあると思ったがよりにもよってレミリアが持っているとは意外だな。

 

「それ以外には無いのかよ。」

「紅魔館にはそれだけね。」

「どんな嘘が書いてあるか気になったんだが、仕方ないか。」

「気になるのならお嬢様にお伺いしてみたら良いんじゃないかしら?」

「すげー面倒になりそうだし却下だ。そんなことするより今は読書のほうが大事だな。」

 

 限られた時間を有効に使うなら、今は気にしないでいいだろう。それにどうせ射命丸のことだ、噂を聞きつけたら取材に来るだろうしその時にでも改めて問いただせばいい。

 

「お嬢様にはそう伝えておくわ。」

「そういやお前らは飯食わなくてもいいのか?」

 

 オレが朝来てからというものコイツらは飯を食った形跡が無い、少しは腹も減っているとは思うんだが。

 

「魔法使いは食事を摂らなくても良いようにできているの。」

「魔法使いだったのかよ……まてよ、魔理沙も魔法使いって言ってたが飯食ってたぜ。」

「あくまで食べなくてもいいだけであって、味は感じるから不思議じゃないわ。」

「便利なようで、便利じゃないんだな。」

 

 味を感じるってことは美味い物は美味いわけだし、ある意味空腹感が無い分不便な気がする。

 

「それじゃあ私は戻るわね。小悪魔、食べ終わったら朝霧くんに食器を持ってこさせるように。」

「わかりました。」

 

 オレではなく小悪魔にそう伝えると咲夜は図書館を後にする。

 

「ま、風呂入るついでに持ってってやるか。」

「ならこれを持っておきなさい。」

 

 パチュリーはポケットから小物を出して、オレに手渡ししてくる。

 

 地下に来るとき必要な鍵なんだろうが形を見る限りそこまで複雑じゃない。オレの愛用するピッキングツールを使わなくてもクリップなんかで開けられる程度だろう。

 

「ありがたく頂いておく。」

 

 それでも鍵があるならそれを使ったほうが楽だし、貰っておくとしよう。

 

「なぁ、もしかして他に居候が居たりするのか?」

「どうしてそんなことを?」

「魔理沙が盗みに来るって理由で鍵を掛けてるにしては厳重にしてないなと思っただけだ。」

「見た目が厳重じゃないのは一般人に対しての防犯をしていないから、してあるのは魔法や弾幕に対するものだけなのよ。」

「そういやここじゃそれが日常なんだったな。」

 

 多分ここにはピッキングをするような人間がいないんだろうな。

 

「その様子を見るとレミィや咲夜からは何も言われてないみたいね。」

 

 主語が抜けているがおそらく防犯に対してのことだろう。魔法や弾幕を使えない以上、施されているであろう罠にかかることは無いし言わなくても構わないと判断されたんだろうな。

 

「オレがあんまり気にしてなかったからだろ。さて、今日中にあと1冊は読破させてもらうさ。」

「ほんとよく読むわ。」

「ですよねぇ。」

「お前らには言われたくねぇよ。」

 

 小悪魔に預けてあった本を受け取り、オレは再び本棚の方へ戻る。

 

………。

 

……。

 

 ベッドの上に女の子が腰を下ろして、床に届かない足をブラブラさせている。その部屋は薄暗く、周りには腕の千切れた人形や壊れたおもちゃのようなものがいくつも転がっていた。

 

「やっぱりまたお外に出たいなぁ。でも、あいつが許可出すわけないし。長く続くようなら力づくでも……。」

 

 少女は手に持っていた無傷の人形を握っていると言葉を発していくにつれてその手に力を込めていく。込められた力は異常なほどで、見る見るうちに人形の両腕が胴体と離れていく。手に力を込めること集中していると先ほどブラブラさせていた足もいつしか動きを止めていた。

 

「ダメダメ、そんなこと考えたら! いつか外で遊べるためにも我慢しなくちゃ。」

 

 人形の腕が千切れる寸前のところで我に帰ったかのように、少女は力むのをやめる。

 

「誰かが来た時のためになにして遊ぶか考えておこっと。」

 

 考える内容を変えたためか、動きが止んでいた足が徐々にブラブラと揺れ始めると同時に持っていた人形を落としてしまう。

 

「なにがいいかなぁ? 魔理沙と同じで弾幕ごっこかな、それとも鬼ごっことかかな。」

 

 さっきまでは大切そうに抱えていた人形だが腕が千切れたことで興味をなくしたのか、足元に落ちても気にせずに少女は天井を眺めるように想像を膨らましていた。




いかがでしたでしょうか?

さて今回は図書館イベントということで本文が少なめとなってしまいました。だって、本読むときって無口になりません?
ですので小悪魔積極的!って思ってもらえればいいです。それに最後の方は名前はまだ出してませんが皆さんご存知のあの子で御座います。

そんなわけで次回は妹様回の予定ですが変わる可能性が大いにありますので読者の方々も妄想を膨らませながら御待ちくださいませ。

読者の方々、ご観覧ありがとうございました。
ご意見、ご感想、ご指摘がありましたらお気軽にメッセージ等にお願いします。
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