不真面目なボディーガード訓練生が幻想入り   作:橘恵一

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長く続いた習慣を治すには時間がかかる。そして治った習慣を元に戻すにも時間がかかる。

それが意図していない習慣であったなら尚更。

それではお楽しみください。


第35話 「なんつー人でなしだ、下手に動けば死ねるぞ。」

「おー、想像よりも豪華な食いモンだな。」

 

 持ってきた箒は屋敷の中に置いて魔理沙はずらりと並べられた料理を見渡す。場所は外。咲夜に夕食を食べると伝え終え、パチュリーたちと共に紅魔館の庭へと移動していた。

 

「お嬢様もお呼びになったと言われればこれくらいは当然でしょう。」

 

 作った料理をテーブルにひと通り置き、手が空いた咲夜は皆が集まっている所へと近づく。

 

「ダメ元だったけどまさか部屋から出るなんて、一体どういう風の吹き回しかしら?」

 

 全員揃ったことを見計らってパチュリーは疑問に思うことを尋ねる。

 

「確かに。夜だからといって外出してるって噂も流れてないし、私も気になるところだな。」

 

 それを聞いた魔理沙も気になるようでニヤつきながら答えを待つ。

 

「たまに軽く騒いでも問題無いと思っただけ。」

 

 レミリアは特に表情を変えることなく淡々と答える。

 

「そんな遠くない日に博麗神社の宴会に紛れ込んでそうだ。」

「紛れ込むとしてもその時は一言声を掛けてからにしてくださいね、お嬢様。」

「ええ、もちろんよ。」

 

 その言葉を聞いてから各々が出されている料理に手をつけ始める。

 

「ところで海斗さんはどこに行ったんでしょうか?」

「さぁ? 気が向いたら来るんだろうしほっといていいんじゃない。」

 

 小悪魔が尋ねると魔理沙がしれっと一言。

 

「心配で様子を見に来た奴が言うセリフじゃないわね。」

「ごほっ、ごほっ……ば、馬鹿なこと言うなよ!! 最初に言ったとおり本を借りに来ただけだって。」

 

 パチュリーにそう言われ、怒鳴りながら否定する魔理沙だが慌てたせいで咽る。

 

「あからさまですね~。」

「あ、あれだよ……そうそう、霊夢に様子を見てこいって言われたから仕方なくだ。」

 

 これ以上詳細を聞かれないためにも話をすり替えようとするが今思いついたように答えてしまう。

 

「へぇ、あの巫女がそういう事言うなんて意外ね。詳しく話してもらおうかしら?」

「え? 詳しくって言われてもそのままだし……別にいいじゃんか。」

 

 意外にもレミリアが話を広げるとは想像もしてなかったようで、魔理沙は再び動揺する。腹も減ってるし、少し摘みに行こうとオレは屋敷から魔理沙たちの元へと歩み寄った。

 

「そんなことだろうと思ってはいたが実際にそう言われると悲しくなるな。」

「いっ!? いつの間にいたんだよ?」

「ついさっきだ。それよりもオレの分もちゃんと残しておけよな。」

 

 そう言いながら美鈴を見つめる。

 

「どうして私を見て言うんですか?」

「このメンツの中じゃお前が一番食いそうだから。」

「……否定できないじゃないですか。分かりました、責任を持って残しておきます。」

「助かるぜ。」

 

 そして美鈴に小声が聞こえるくらいの距離まで近づく。

 

「どっかの従者に頼んだらどんな嫌がらせをされるか怖くて、怖くて。」

「小声で言っても気づかれてると思いますよ。」

「マジか? 声が聞こえなくてもニュアンスでわかるっていうあれか。」

「そう、あれです。」

「あれってここで働いてる妖精メイドじゃないか?」

 

 小声で話していると魔理沙が指を指しながら咲夜に尋ねると美鈴もその方向を眺める。出来る限りバレないようにと言ったんだがまさか物を運ぶことすら満足に出来ないとは。

 

「おかしいわね、もう寝ているはずなんだけど。」

「良く見ると何かを運んでいませんか?」

「板、みたいなものでしょうかね? 海斗さんはなにか知って――」

 

 話をほじくり返される前にまずはあいつを何とかしたほうが良さそうだと判断したオレは美鈴の言葉を無視して、妖精メイドの元へ駆け寄る。

 

「そういえば妖精メイドに何かをしたって言ってたわね、朝霧くん。」

「じゃあお詫びを兼ねて食事に呼んだってことか?」

「なるほど。さすがの海斗さんでもアフターケアくらいは――」

「あ、ぶった。」

「何を言ってるか全然聞こえないけど、どう見ても叱ってるよな?」

「多分。それよりも止めなくていいんですか、咲夜さん。」

「大丈夫でしょ、手加減もしているようだし。」

「手加減って言っても女性にする笑いの強さじゃないですよ。」

「いいや、違うな。笑いだからこそ本気なんだよ。」

「それでこれから何をするのかしら?」

 

 オレが戻るやいなや、咲夜に問われる。魔理沙やパチュリーたちが一緒に夕食を食べるって時点で何か仕出かすと怪しまれてはいただろうが黙っておくことも無いか。

 

「見世物だ、それも文字通りのな。」

「海斗さん、また妖精メイドが出てきましたよ。」

「おう。なんとか準備出来たみたいだしちょいと行ってくる。」

 

 そう言い残しオレは再び妖精メイドの元へ行き、めくり台を受け取り庭の中央へと向かう。

 

「あ~、さっきのはめくり台だったんですね。」

 

 室内で出し物をするなら声を張らなくても良かったのだが、理由は定かではないにしろ庭にいるんだしそれなりの声量が必要だろう。

 

「おほん! 皆さんお待たせしました、これより発表会を始めたいと思いますので皆さん盛大な拍手を~。」

 

 拍手を誘導するために自らも手を叩きながら言うが反応は無く、辺りは静寂に包まれた。それだけならまだしもあろうことか、数人はオレを無視して食い始める始末。

 

「てめぇら発表会だって言ってんだろうが! 拍手の一つや二つしろよっ。」

 

 すると漸く小悪魔とパチュリーだけが仕方ないなと言った表情を浮かべながらパチパチパチと手を叩く。とりあえず今拍手しなかった奴にはオレの特技を持って気分を悪くしてもらうとしよう。

 

「よし。それではまず最初の出し物、声帯模写です。リクエストして頂けたら誰の声でも真似してみせましょう。」

「なんか拍子抜けだな、ショボイ気がするぞ。」

 

 魔理沙は食うのをやめ、野次を飛ばす。

 

「てめぇは黙ってろ盗人キノコマニアン。」

「っ!?」

 

 美鈴の声を真似た為、魔理沙は美鈴の方へ睨みながら振り返る。

 

「わ、わ、私じゃあありませんからっ。海斗さんですよ!」

 

 目の前で真似られたにもかかわらず睨まれると思っていなかった美鈴は慌てながらオレを指さす。

 

「……だよな。」

「いくら声が似てるからってそうはならないでしょうに。」

 

 レミリアは小馬鹿にしたようにうっすらと笑う。その姿からは自分が笑いの標的にならないのだという自信が滲み出ているのがわかる。確かに権力云々を言うやつからすればそうだろうが生憎とオレは気にしないし、何より許可はとってある。更には拍手もしなかったんだ二人目の標的には持ってこいだろ。

 

「さすがお嬢様、見た目とは違って心の器だけは大きいみたいですね。器だけですけど!」

「…………。」

 

 魔理沙と同様にレミリアも美鈴を睨む。

 

「わかっているとは思いますが、私はそんな事言いませんからね?」

「なるほど、精神的にも勘違いさせるほど似ているということなのかしら。」

 

 困っている美鈴をよそにパチュリーは独自の分析を始める。

 

「朝霧くん、リクエストしたいんだけど良い?」

 

 二回もやったことで咲夜は気づいた様子を見せる。ご丁寧にリクエストしてくれるみたいだがどうせパチュリーの声を出せるか聞かれるんだろうし言われるまでもない。

 

「キョトンとした顔は印象深かったわ、いつもクールなあなたなら尚更ね。」

「あの時許可を出したのは朝霧くんだったわけね……。」

 

 三人の憎悪が見てわかるほどの雰囲気だが、逃げ場を用意していないオレでは無い。

 

「まぁオレの出番はこの辺でいいだろう、お次は最後の出し物だ。」

「次ってまだ二つ目じゃないの。」

 

 怒りをぶつけるかのようなツッコミを意外にもレミリアが入れる。そう、一つ目の出し物として紹介した以上誰か一人でも続きが気になれば中断したりしないのだ。

 

「今日急に決めたんだろうし、二つあるだけマシなほうだと思うわよレミィ。」

「最後はオレとサプライズゲストの二人が送るコントだ、また盛大な拍手でお迎えくださーい。」

 

 パチパチパチと音の大きさはそれほど変わらないが今度は全員が拍手する。二度目の拍手で相方が出てくる予定だったのだが一向に屋敷から出てくる気配が無いのでオレは屋敷に向かう。

 

「……エアコントでもするつもりなんでしょうか?」

「海斗ならやりそうだけどね。」

 

 屋敷では案の定、縮こまっているフランがいた。

 

「おい、ちゃんと出てこいってのオレだけだと意味ねえだろうが。」

「だって恥ずかしいし。」

「んなもん知らんがな。」

「わっ!?」

 

 このままだとグダグダすると感じたオレは無理やり片手を掴み、庭へと引っ張る。さっきまで雑談をしていたようだがフランが出てきたことにより周りは静けさを取り戻す。さしずめ驚いてるってところだろうがこちらも予定通りになってない以上少しばかり強引に行動するしかない。

 

「んじゃ始めるぞ……コイツが恥ずかしがっちゃってすみませんね、皆さんこの日差しの下で暑かったでしょう?」

「だってやった事ないし恥ずかしかったんだもん。」

 

 と、フランは少し顔を赤くして俯く。

 

「……ねぇツッコミは!?」

「え?」

「お前台本読んだんだよな?」

 

 台本と言ってもメモ用紙に殴り書きをした程度だが妖精メイドは渡したと言っていたはず。

 

「ううん、読んでない。」

「なんでだよっ。」

「いたっ!? 急にぶたないでよ。」

 

 少しイライラしたせいでボケ役のオレがツッコミしてしまうとは。今更かも知れないが当初の予定に沿うようまず修正だな。

 

「とりあえずあとで妖精メイドには拷問するとしてこの際仕方ない、オレが的はずれな事言ったらなんでやねんって言いながら、かな~り手加減して手の甲をオレの胸に当てろ。」

「なんでやねん!」

「まだ的はずれな事言ってねぇだろっ、しかも手加減してねぇし!」

 

 何とか紙一重で避ける。本気では無いだろうが当たったら致命傷は免れないレベルだろう。危うく芸人モードに完全移行していたら死んでたところだぜ。

 

「ごめん、ごめん。次は大丈夫。」

 

 フランは自分が放ったツッコミの威力を理解していないためか、謝り方が非常に軽い。だとしても今はそうする気があるだけマシなんだろうな。もし死にそうな威力ならオレが避ければ良いし、避けれなくても軽減させて凌ぐとしよう。

 

「それはそうと今日は大事な頼みがあるんだが聞いてくれるか……レミリア。」

「なんでやねん。」

 

 先ほどの威力で来ると思っていたせいで体が勝手に位置を変え避ける。

 

「ねぇ、ちゃんと手加減したのになんで避けちゃったの?」

「悪い。てっきり殺しに来るくらいの力を込めてるかと思って超反応しただけだ。」

「なんでやねんっ。」

 

 せっかく力を緩めたツッコミを避けてしまったので今回はおとなしく食い、ドンッと強い衝撃が胸に響く。

 

「つぅ、てめぇさっきより力こめてんじゃねぇよ。」

 

 怒気を込めて言う。もちろん笑いなんてものは無く真面目に。

 

「ご、ごめん。」

「やめだ、やめだ。お前となんかじゃあコントも出来ん、オレは新しい相方を連れてくるからそこでダベってろ。」

「でもお姉様がいるし。」

 

 少なくとも仲が良いとは思っていなかったが会話も嫌なのか。だとしたらここはオレが用意した切り札を使うタイミングだな。

 

「なら強制的にだ。魔理沙! フランを連れて行ってくれ。」

 

 見るからに機嫌が悪いくせに近寄ってくる。

 

「さっきあんなこと言った奴の言うことなんて聞けないな。」

「つれない事言うなよ、一度は同じ屋根の下で寝た仲じゃないか?」

「一々紛らわしい言い方すんな!」

 

 怒りながらもフランを連れて行こうと手を掴む。

 

「丁度いい機会だ、ちゃんと外に出たいってレミリアと話をしてみろ。」

「話したって無駄だよ、どうせ出さないって言われるだけだもん。」

「決めつけるのはお前の勝手だが諦めるのは行動してからにしろ、じゃなきゃ損するだけだぜ。」

 

 オレが言い終わると黙ったまま俯きながらレミリアたちの元へと連れて行かれる。今までフランにはああいうお節介な奴はいなかったんだろう。ここの住人のように近すぎる存在ではなく、かと言って知り合って間もない他人でもない。友と呼べるような奴が。

 

 オレはフランたちを見届けてから屋敷の中へと戻り、椅子に腰を下ろす。

 

「ふぅ、はしゃがせれば手加減出来ないだろうとは思っていたが予定してたダメージよりはマシか。」

 

 最初に来た威力は冷や汗ものだったがあいつもそれなりに考えてるようで一応手加減っつうのを覚えつつはあるようだ。もっとも力を単純に弱めるだけでそれが人間に対しても弱いのかと言うとそうじゃない。やはり人間との関わりを増やしながら体で覚えたほうがいいんだろうな。

 

「何をするかと思ったらこれが目的だったのね。」

 

 考え事をしているといつの間にか咲夜が目の前に現れる。そして手には救急箱。わざわざ能力を使って取りに行ったのだろう。

 

「んで、こっち来てんだよ。お前もダベってろっての。」

「その辺はお嬢様たちが上手くやってるから気にしないで。それで妹様に叩かれたところの具合は?」

 

 まだ自分でも確認していないが痛みから察するにギリギリヒビが入った程度か。

 

「ま、折れてないくらいだ。」

「嘘を言ってるかもしれないからちゃんと見せて。」

 

 正直に話してやってんのに疑うとは。言葉で信用されない以上、実際に見せたほうが早い。

 

「……どうしてこんな事したの?」

 

 フランに叩かれたオレの胸を触りながら聞いてきた。それも探るような目で。

 

「単純に面白いと思ったから。」

「他には?」

「ねぇよ。」

 

 こういう時は間もおかず言うに限る。相手が探ってくるならこちらから出す情報は最低限に抑える、もちろん仕草や身体的なことでさえも。

 

「朝霧くんってこういう時の嘘は下手なのね、意外だわ。」

 

 ふっ、と表情を緩めて少し見下したように言う。

 

「おい、それじゃあオレがいつも嘘ついてるみたいじゃねぇか。」

「発言の9割は虚言だと思っているのだけど。」

「ほとんどじゃん。」

 

 オレは両手を頭の裏で組んで椅子の背もたれに寄りかかり楽な姿勢をとる。

 

「それでこの後の予定は?」

 

 すると咲夜は救急箱を机の上に置いて隣の椅子に腰掛ける。

 

「……コントの第二幕と行きたいところだがドクターストップがかかっちゃあ出来ねぇしな。」

 

 口では言われてないもののやろうとしたら止められるのは明白だろう。だとしても元々予定にも無いし別に良いか。

 

「誰に止められたのかしら。」

「え? 普通こういう時は止めるんじゃないのか。これ以上は危険です……みたいな。」

 

 よくあるスポーツ系なんかじゃあ鉄板なはずだ。それに一度は言われてみたい言葉ベスト20には入るレベルだぞ? それを言わないのかこのメイドは。

 

「私は医者じゃないし、そんな怪我じゃあ止める気もしないわ。」

「なんつー人でなしだ、下手に動けば死ねるぞ。」

 

 無論、死ぬほど下手に動くつもりは無いが。

 

「それでコントの続きをやる予定だったの?」

 

 咲夜は一度ため息を吐いてから改めて聞いてくる。コイツと喋ってると思いの外、冗談が弾んで時間が過ぎるのが早い。日が昇らないうちにやるためには少し真面目に話すとしよう。

 

「いいや、次は罰ゲーム執行さ。聞いて驚くなよ、その名も肝試しだ。」

「それだけ?」

 

 どうやら真面目に話そうとしたオレの気持ちを察したようで咲夜は冗談を冗談で返さなかった。

 

「……はい。」

「じゃあ朝霧くんは休んでていいわよ、どうせ妹様を連れて魔理沙を送るってところでしょう。」

 

 そう言いながらオレより先に椅子から立ち上がり庭へと歩き始める。

 

「あ? フランを外に出すの嫌なんじゃないのかよ?」

 

 オレが尋ねると咲夜は立ち止まり、振り向く。

 

「朝霧くんが妹様を外に連れ出すのが嫌なのよ、妹様自身が出たがっているのなら話は別なんだから。」

「あっそう。」

 

 多分ここにいる奴らは互いが互いのことを尊重しすぎてまだ上手く機能していないだけだったんだ。ならあとは時間が解決してくれることだろう。そう感じながら空腹に耐えかねたオレは咲夜の好意に甘えて飯を食うのであった。




いかがでしたでしょうか?

発表会編と予定していましたが笑いよりもニヤニヤのほうが強くなっちゃったかな? とりあえず次の日は海斗が休める日にしたいなぁ。

そんなわけで次回は……と言いたいところですがデータ紛失のため再びノープランに戻っちゃいますので読者の方々も妄想を膨らませながら御待ちくださいませ。

読者の方々、ご観覧ありがとうございました。
ご意見、ご感想、ご指摘がありましたらお気軽にメッセージ等にお願いします。
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